著者
熊沢 伊和生 土屋 十次 立花 進 川越 肇 名和 正人 浅野 雅嘉
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 = The journal of the Japan Surgical Association (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.1426-1431, 2007-06-25
参考文献数
22

症例は39歳, 男性. うつ病にて治療中. 平成16年11月乾電池を嚥下し腹痛を主訴とし3日後初診. 臍左側部に圧痛, 白血球増多・CRP陽性, 腹部単純撮影で胃内に乾電池の陰影を多数認めた. 乾電池胃内異物の診断で同日開腹術を施行. 電気メスで胃前壁の切開を進めると青白い炎を伴った小さな爆発音を認めた (臓器損傷なし). 粘膜所見は多発潰瘍を伴う腐食性胃炎を認めた. 単三乾電池29個, 単四乾電池2個を回収. 乾電池両極はほぼ融解していた. 術17日目に軽快退院. 本邦での単三乾電池の異食報告例は全て精神疾患患者だった. アルカリ乾電池は消化管内で化学熱傷による粘膜障害と, 化学反応による水素の発生を惹起する. 胃切開時の爆発は消化管閉塞例に多く, 本邦では全て胃内異物例で起きていた. 医療事故防止上結腸切開時と穿孔性腹膜炎での腹膜切開時, そして腸閉塞, 緊急手術, 特に異物摘出での消化管切開は電気メスを使用しないことが推奨される.
著者
東園 和哉 三宅 大 矢野 秀朗 橋本 政典
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.76, no.8, pp.2052-2056, 2015

症例は59歳,女性,腹部腫瘤を主訴に当院を受診した.造影CTでは,左腎臓を内包し,内部は脂肪を示唆する低吸収域を主体とし,一部に不均一な高吸収を示す充実性腫瘤を認めた.画像所見から,後腹膜脱分化型脂肪肉腫と診断した.術中所見にて膵・横行結腸に直接浸潤が疑われ,腫瘍切除とともに左腎摘出,膵体尾部脾合併切除,および横行結腸部分切除術を施行した.摘出標本は3,500g,病理診断で脱分化型脂肪肉腫と診断された.大動脈剥離面で断端陽性であったが,肉眼的に切除しえたと考え経過観察とした.術後1年目の造影CTで右肺野に結節影を認め,転移が疑われたため右上葉区域切除を施行した.術後病理で脱分化型脂肪肉腫の肺転移と診断された.その後,再発・遠隔転移など新出病変を認めていない.術後単発肺転移再発をきたしたが切除し,局所再発および肺転移再再発なく経過している脱分化型脂肪肉腫は稀であることから,文献的考察を加えて報告する.
著者
高橋 英幸 金田 邦彦 酒井 哲也 原田 直樹 堀井 進一 岡村 明治 土師 守
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.1423-1427, 2014

症例は68歳,男性.平成24年12月に骨盤内を占める大きな腫瘍(φ90mm×140mm×100mm)に対し,腫瘍摘出術を施行.病理組織学的にperivascular epithelioid cell tumor (以下PEComa)でS状結腸に癒着があったため,一部S状結腸も合併切除した.粘膜面は正常であり,病理学的にS状結腸間膜から発生したものと診断した.核分裂像は1/10HPF以下であったが,腫瘍径は5cm以上で,腫瘍の中心部は広汎な壊死に陥っていたことより,悪性のポテンシャルを持った腫瘍の可能性を否定できないと考え,定期的に当院外来にて経過観察を行っていた.平成25年10月に約1年ぶりのfollow upの腹部CTで,下腹部に約55mm大の腫瘤を認めた.また,骨盤腔内右前部の腫瘍に一致してFDGの集積を認めた.(SUVmax 5.828)以上より,PEComaの腹膜再発と考え,摘出術を施行した.病理学的にも基本的に前回と同様の所見を認めた.術後の経過は良好であり,第7病日に軽快退院した.再々発の危険性があるため,今後,3~4カ月ごとの腹部PET-CT検査を予定している.
著者
福岡 岳美 花岡 農夫 李 力行 大内 慎一郎 田中 雄一 瀬戸 泰士
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.1816-1819, 2000-07-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
10

81歳の女性で, 1年前から痴呆症状がみられていた. 10日前から腹痛があり,腹満感が増強してきたため当院を受診した.腹部の筋性防御が著明で,腹部単純X線写真,腹部CT検査で遊離ガス像を認めた.消化管穿孔の診断で緊急開腹術を行い,腹腔内には混濁した腹水を認め,下行結腸からS状結腸にかけて異物により多発穿孔を起こしていた.左結腸切除,洗浄ドレナージ,および横行結腸人工肛門造設を行った.切除した結腸にはビニール製の紐が充満しており,後に,患者がビニール製のゴザを蕎麦と思い食べたことがわかった.異食は痴呆の1症状であるが,痴呆患者は訴えが乏しく,重篤な状態になってから受診するため注意を要する.痴呆老人が腹痛を訴えて受診した場合は,異食の可能性も念頭に入れて,診察にあたる必要があると思われた.
著者
中右 雅之 橘 強 岡部 寛 光吉 明 柳橋 健
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.657-661, 2016 (Released:2016-09-30)
参考文献数
9

妊娠・出産による腹直筋離開は,欧米ではしばしば治療対象となるが本邦では着目されていない.今回われわれは,腹部膨隆を主訴とする2回の経膣分娩歴のある33歳,および双子を帝王切開で出産した36歳の女性の腹直筋離開に対し腹腔鏡下に修復を行った.両者とも離開部を鏡視下に非吸収糸で縫縮した後composite meshによる補強を行った.腹部CTによる術前・術後6カ月の腹直筋間距離(inter-recti distance:以下IRD)を,臍部頭側3cm・臍部中央・臍部尾側2cmで計測を行い評価した.1例目ではIRDは術前26mm・42mm・20mmから術後は10mm・15mm・10mmと,2例目では術前26mm・32mm・23mmから16mm・9mm・9mmと短縮した.両者とも術後合併症はなく修復に対する満足度は高かった.妊娠出産後の腹直筋離開に対する本邦での腹腔鏡下修復例の報告はなく,文献的考察を加え報告する.
著者
小室 龍太郎 池田 栄人 徳川 奉樹 大内 孝雄
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.253-258, 1998-01-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
26
被引用文献数
1

従来から無毒蛇と分類されているヤマカガシによる咬傷でDICをきたしたが,幸いにも対症療法のみで救命しえた1例を経験したので報告する. 症例は41歳女性で,ヤマカガシに両手背をかまれ, 2時間後に出血傾向が出現,数カ所の医療機関を経由して受傷34時間後に当院受診した.患者本人に蛇についての知識があり,抗血清の投与を拒否したため抗血清療法は施行せず, DICに対してヘパリン投与などの対症療法施行し幸いにも救命した. ヤマカガシ咬傷では上顎後部のDuvernoy腺から分泌される毒が注入されることにより出血傾向が引き起こされる.本邦では北村の症例以来自験例を含めて26例の報告があり,全例に出血傾向が認められる.治療においては出血傾向のある蛇咬傷では本症を疑い抗血清投与が必要である.
著者
榎本 浩士 金泉 年郁 八倉 一晃 岡野 永嗣
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, pp.2131-2133, 2004
被引用文献数
2

症例は, 61歳,男性.既往歴は未治療の糖尿病.現病歴は嘔気,嘔吐を主訴に当院を受診した.胃内視鏡にて巨大な胃石を認めたため砕石を試みたが硬くて不可能であった.第4病日に腸閉塞を呈したため当科紹介となった.イレウス管挿入後,イレウス管から小腸造影を行ったところイレウス管先端部肛門側に透亮像を認めた.胃石の存在が既に確認されていたこと並びに腹部CT,エコーにて含気を伴う腫瘤像を認めたことから腸石による腸閉塞と診断し,手術を施行した.術式は,結石が嵌頓して壁の一部が壊死に陥っていた回腸の部分切除と胃切開砕石術を行った.結石成分の結果は胃石がタンニン,腸石がタンニン,タンパク質であった.
著者
天願 俊穂 中須 昭雄 村上 隆啓 安元 浩 八幡 浩信 本竹 秀光
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.73, no.11, pp.2778-2781, 2012

症例は55歳,男性.道路横断中にはねられ受傷し当院救急センターに搬送された.受診時はショックバイタルで意識障害を伴っていた.精査にて頭蓋骨骨折,下顎骨骨折,胸椎横突起骨折,多発肋骨骨折,胸部大動脈損傷,両側肺挫傷,右気胸,肝損傷,腹腔内出血,骨盤骨折を認めた.造影CTにて恥骨後面に造影剤の漏出像認めたため経カテーテル動脈塞栓術を行った.同時に大動脈損傷に対するステントグラフト留置術も施行した.術後,脳の高次機能障害は残存したが歩行できるまで回復し,さらなるリハビリテーション行うために転院した.術後,約6カ月後の胸部造影CT検査にてステント留置部位の異常は認めておらず脳損傷や肺挫傷,骨盤骨折を合併した大動脈損傷の治療法として有用であることが示唆された.
著者
小林 慎一朗 南 恵樹 崎村 千香 山之内 孝彰 林田 直美 江口 晋
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 = The journal of the Japan Surgical Association (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.23-26, 2013-01-25
参考文献数
12

乳房切除後疼痛症候群(PMPS)とは乳癌術後の神経障害性疼痛である.今回われわれはPMPSに対してプレガバリン(PGB)を投与し著効した2症例を報告する.症例1は52歳女性,2008年6月に前医で両側乳癌に対して右腋窩郭清および左乳房部分切除,センチネルリンパ節生検施行した.術直後より左胸部痛を認め,下着など接触時に痛みを感じていた.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)投与も症状は持続した.その後当科に紹介受診となり,疼痛外来に紹介,PGB投与開始後,症状は著明に改善した.症例2は82歳女性,2011年3月に当科で左乳癌に対して左乳房切除術および腋窩郭清を施行.術後1カ月後から創部痛増悪し,疼痛で不眠の状態であった.NSAIDs投与も軽減傾向なく,疼痛外来に紹介,PGB投与開始後,症状は著明に改善した.PMPSに対し,PGB投与は症状緩和の効果がある可能性が示唆された.
著者
田中 俊行 小川 哲史 池谷 俊郎 竹吉 泉
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.68, no.8, pp.1891-1895, 2007

当院悪性腫瘍患者への告知率は78%である. 告知を受けていないがん患者と主治医の立場から当院の告知のあり方を検討した. 2005年4月から2年間にチームが介入した患者566例を依頼時のがん告知で「告知なし」「原疾患まで (以下, 原疾患) 」「転移まで (以下, 転移) 」「予後まで (以下, 予後) 」の4群に分けた結果, 「告知なし」11%, 「原疾患」28%, 「転移」52%, 「予後」9%であった. 「告知なし」の平均年齢 (77歳) はその他の群に比べ有意 (p<0.01) に高い値であった. 「告知なし」は, 男性19例, 女性41例と女性が多かった. 「告知なし」のチームの関与日数は16日で, 「原疾患」や「転移」に比べ有意 (それぞれp<0.01) に短かった. 死亡の割合は, 「告知なし」が明らかに高かった (67%). 主治医の医療従事年数は「告知なし」12年で, 「転移」や「予後」に比べ有意に (p<0.05) に短く, 一方10年以下の割合は一番高かった (42%). アンケートで, 全医師は告知が必要と考えているが, がん患者を受け持つ医師は「患者に聞いてから告知をする」を含めても患者主体の告知は41%であった. がんを受け持つ医師は経験年数が少ないほど家族にゆだねる傾向にあった. 高齢の患者に, 医師 (特に医療従事年数の比較的短い医師) と家族で告知を決めている傾向があるかもしれない. 今後医師への教育が必要になってくる.
著者
小川 達哉 田中 直行 小森 俊昭 柴野 成幸 椿 昌裕 砂川 正勝
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.216-220, 2001-01-25 (Released:2009-08-24)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

症例は, 29歳女性.下腹部痛を主訴として,近医受診し,鎮痛剤および点滴等の治療を受けたが症状の改善がみられず,当院産婦人科受診となった.婦人科にて骨盤内腹膜炎疑いで保存的加療を行ったが,症状は悪化し当科紹介となった.腹部CT検査により,子宮筋腫および膀胱子宮間に存在する索状物による絞扼性イレウスを疑い緊急手術を施行した.術中所見では子宮筋腫と膀胱との間に索状物が存在し,回盲部の高度炎症および回腸末端から口側約110cmにわたる小腸壊死を認めた.子宮筋腫と膀胱との間に索状物があり,子宮膀胱間を連結し,膀胱子宮窩がヘルニア門となり絞扼性イレウスが生じたものと考えられた.この索状物は,中腎傍管が癒合し子宮広間膜を形成する際に形成されたものであろうかと推測された.
著者
鹿田 康紀 桂 正和 竹尾 貞徳
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 = The journal of the Japan Surgical Association (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.328-331, 2012-02-25
被引用文献数
1

まれな肺原発の良性淡明細胞腫:benign clear cell tumorの1例を経験した.症例は65歳,女性.前医にて直腸癌(RS)に対し高位前方切除術施行された(pT3N0M0:Stage IIIB,Adenocarcinoma,well differentiated).術前より胸部CTにて左肺S3に小結節を認め肺転移も疑われたが,亜イレウス状態であったため直腸の手術を行った.術後化学療法(LV/UFT)を行うも肺病変に変化なく,肺病変の診断および治療目的に当科紹介となり,胸腔鏡補助下に左肺S3部分切除術を施行した.病理組織所見では淡明な胞体を有する細胞が増殖し,類同様血管に囲まれていた.またPAS染色陽性でかつHMB-45陽性であることより,良性淡明細胞腫と診断した.本症例はまれな疾患であり,文献的考察を加えて報告した.
著者
宮田 圭悟 藤井 宏二 高橋 滋 竹中 温 李 哲柱 竹内 義人
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 = The journal of the Japan Surgical Association (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.3073-3076, 2001-12-25

右卵巣癌摘除後に発生した,左頸部転移および放射線照射後の上肢浮腫に対して,左胸肩峰動脈から鎖骨下動脈に向けて動脈注入用カテーテルを挿入し皮下リザーバーを留置,週1回4時間かけてグリセオール200mlを55回持続動脈注入したところ,左上肢は軟化し周径の縮小をみとめた.<br> ハドマー,マイクロ波照射にても軽快しない難治性上腕浮腫に対して,在宅グリセリン動脈注入療法は有用であった.
著者
藤井 大輔 栗田 啓 高嶋 成光
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.2918-2922, 2001

慢性関節リウマチの経過観察中に早期胃癌を発症し,それに対する幽門側胃切除術施行時に得られた小腸片より続発性消化管アミロイドーシスの確定診断を得た1例を経験した.症例は72歳,女性.近医にて慢性関節リウマチの治療のために入退院を繰り返していた.健康診断目的で受けた胃内視鏡にて早期胃癌を認めたため,治療目的で当院へ紹介された.早期胃癌の診断の下に幽門側胃切除術を行った.手術施行時に得られた空腸の一部を病理標本として提出,検討した.組織学的には,粘膜下層に分布する小型~中型の血管壁に好酸性物質の沈着,硝子化を散存性に認めた.同部位の特殊染色結果はAA typeのアミロイドーシス蛋白の沈着を示し慢性関節リウマチに続発した消化管アミロイドーシスと考えられた.消化管アミロイドーシスは,本症例のように胃癌が併発していることもあり,慢性関節リウマチに対しては定期的に内視鏡検査を行う必要があると考えられた.
著者
佃 和憲 浅野 博昭 内藤 稔 村岡 孝幸 伊野 英男
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.1615-1618, 2010 (Released:2010-12-25)
参考文献数
10

症例は57歳,女性.子宮体癌術後1年の時,孤立性脾腫瘍を発見された.合併していたサルコイドーシスの病変と考えられ経過観察されていた.徐々に増大するためCTガイド下生検を行われ,子宮体癌脾臓転移と診断された.他臓器への転移は認めなかったため,脾臓摘出術を施行した.肉眼的な腹膜播種は認めなかったが,腹水細胞診がclass Vであったため,術後に化学療法を再開した.孤立性の転移性脾腫瘍はきわめて珍しく,若干の文献を含め報告する.
著者
曽ヶ端 克哉 染谷 哲史 佐藤 卓 鳥越 俊彦 佐藤 昇志 平田 公一
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.1115-1118, 2005
被引用文献数
1

自動吻合器を使用したPPH (procedure for prolapse hemorrhoids) 法により痔核手術を施行したが,術後に巨大な直腸粘膜下血腫を生じ排便困難になった症例を経験した.患者は69歳女性で,痔核の脱出を主訴に外来受診し, Goligher分類ではIII度内痔核であったため手術を施行した.手術は肛門拡張器を肛門内に挿入し, Purse-string Suture Anoscopeを順次回転させながら2-0プロリンにて直腸粘膜に巾着縫合を全周にかけ,自動吻合器により切除を行った.巾着吻合の糸を索引した際に下腹部痛,嘔気および徐脈・血圧低下を訴え,術後も下腹部の違和感が残っていた.術後4日目になっても便が排出されず,肛門診の際吻合部に疼痛を訴えたため術後7日目に骨盤CT施行したところ,直腸に直径約7cmの粘膜下血腫を認めた. PPH法は手技も簡便で術後痔痛が少ないなど利点も多い.しかし安易な施行は合併症を起こすことを認識し,適応と手技を十分に検討していく必要があると思われた.
著者
坂本 和彦 西田 峰勝 前田 義隆 岡 正朗 栗本 典昭 森田 克彦
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 = The journal of the Japan Surgical Association (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.2338-2343, 1999-09-25
被引用文献数
8 1

肝細胞癌切除後の肺門リンパ節転移巣を切除し,良好な経過を得た症例を経験したので報告する.症例は63歳男性.平成5年10月,肝S7の肝細胞癌に肝後区域切除を施行し,約2年後S8の残肝再発と右肺上葉の肺転移に対し肝部分切除と肺部分切除を施行した.平成8年8月の胸部CTにて約2cmの肺門リンパ節腫大を認め, 3カ月後には腫瘤は約3cmに増大した.肺門リンパ節転移と診断し,平成9年1月よりミトキサントロンによる化学療法を施行し経過観察した. 5月の胸部CTで腫瘤は約4cmと増大したが,画像上で新たな他病変はなく手術適応と考えた.血管造影で大血管への浸潤はなく, 6月25日右開胸下右肺上葉切除とリンパ節郭清を行い術後15日目に退院した.術後約1年経過した現在,外来にて厳重に経過観察をしているが血液検査および画像診断で再発の徴候はない.
著者
斉藤 良太 島田 淳一 北村 博顕 遠山 洋一 柳澤 暁 矢永 勝彦
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.1035-1040, 2013 (Released:2013-10-25)
参考文献数
16

症例は50歳の男性で,上腹部違和感にて近医受診,腹部USにて膵頭部の膵管拡張を指摘され当院紹介となった.MRCPにて膵頭部に非特異的な走行を示す蛇行した膵管像を認め,一部は嚢胞状に拡張しており分枝型の膵管内乳頭粘液性腫瘍と診断した.経過観察としていたが初診から2年後のMRCPにて嚢胞径が32mmに増大し,かつ壁在結節を疑う所見を認めたため悪性を否定できず幽門輪温存膵頭十二指腸切除を施行した.摘出標本の膵管造影を行ったところ,背側膵管と腹側膵管が各々の下枝を介して癒合する膵管癒合異常を示し,広岡らの分類における分枝癒合型2型に相当すると考えられた.病理組織学的診断では微小浸潤を伴った膵管内乳頭粘液性癌であった.非常に稀な膵管像を呈した膵管内乳頭粘液性腫瘍の1例と考えられるため報告した.
著者
長嵜 悦子 佐久田 斉 仲栄真 盛保 比嘉 昇 國吉 幸男 古謝 景春
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.64, no.11, pp.2913-2917, 2003-11-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
9
被引用文献数
1

肺塞栓症の塞栓源として下肢深部静脈血栓症が知られている.肺塞栓症を合併した孤立性ヒラメ筋静脈血栓症の3症例を経験したので報告する.症例1: 59歳,女性. Cushing syndromeに対する腹腔鏡下副腎摘出術後3日目に胸部圧迫感,低酸素血症が出現.症例2: 54歳,女性.卵巣癌の既往があり1カ月前より左下腿鈍痛が出現.症例3: 44歳,女性.両下腿に腫脹,鈍痛があり,階段昇降時に息切れを自覚.いずれも下肢超音波検査でヒラメ筋静脈のみに限局した血栓,肺血流シンチで肺血流欠損像,胸部造影CT検査で多発性肺動脈血栓を認めた. 3例中1例にウロキナーゼによる血栓溶解療法,全例に抗凝固療法を行い症状の改善が得られた.ヒラメ筋静脈血栓症は臨床症状が乏しいため見落とされやすい.しかし肺塞栓症の合併,血栓の中枢側進展,再発を繰り返すことがあり,積極的に診断,治療,予防する必要がある.