著者
佐野 芳史 鳥海 弥寿雄 池上 雅博 高山 澄夫 益子 博 矢永 勝彦
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.1348-1352, 2005-06-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
24
被引用文献数
2 2

肺粟粒結核発症早期に多発性微小空腸潰瘍を呈した腸結核で,空腸から大量出血した1例を経験したので報告する.症例は53歳,男性.肺粟粒結核発症後約1カ月後に大量下血(タール便)が出現し,ショックとなり緊急手術となった.術中に腸管のsegmental clampingにより出血部位を空腸と診断し,小腸部分切除術を施行した.切除標本の肉眼所見では,空腸に多発性微小潰瘍が認められた.病理組織学的には潰瘍底部粘膜下層に類上皮性肉芽腫と,同部に抗酸菌の存在が認められ,うち3mm大の潰瘍底に破綻した露出血管が確認された.このため,粟粒結核に伴って多発性小腸潰瘍が形成され,一潰瘍底から動脈が破綻出血をきたしたと考えられた.術後第9病日より結核に対する化学療法を開始し,術後146病日に軽快退院となった.腸結核症より大量出血をきたした例は,極めて稀と考えられたため報告した.
著者
関 匡彦 瓜園 泰之 川井 廉之 福島 英賢 畑 倫明 奥地 一夫
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.714-718, 2013 (Released:2013-09-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1

症例は77歳,女性.転倒による大腿骨骨折で近医の整形外科に入院加療中であった.入院翌日より腹痛が出現し,入院5日目の腹部CT検査で腹腔内に遊離ガス像を認めたため,消化管穿孔と診断され当院へ転院となった.来院時はショック状態であり,緊急手術を施行した.Treitz靱帯より200cmの回腸に穿孔部を認め,小腸部分切除を施行した.穿孔部のやや肛側の粘膜に2カ所の輪状潰瘍を認め,病理組織学的検査で,全層性に高度な炎症細胞の浸潤とともに,Langhans巨細胞と乾酪壊死を伴う肉芽腫を認めたため,腸結核による小腸穿孔と診断した.近年,結核菌感染症は増加傾向にあるため,高齢者の小腸穿孔の原因として腸結核も鑑別すべき疾患の一つとして考える必要があると思われた.
著者
米森 敦也 近江 亮 二瓶 和喜 真木 健裕 金古 裕之 三栖 賢次郎
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.729-734, 2013 (Released:2013-09-25)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

症例は75歳,男性.腹痛,発熱にて救急搬送.急性虫垂炎による回盲部膿瘍の診断で当科入院.保存的加療で経過観察としたが,膿瘍が増大したため,13病日に膿瘍穿刺ドレナージ施行し,28病日に退院となった.その後の大腸内視鏡検査にて,虫垂開口部に突出する腫瘍が認められた.生検で管状腺腫の診断となり,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.虫垂内に15×10mmの有茎性腫瘍を認め,病理組織検査にて虫垂管状腺腫と診断された.術後に臍部創感染と後腹膜気腫がみられたが,保存的加療で軽快し,術後30日目に退院となった.虫垂原発の良性腺腫は非常にまれな疾患であるが,術前診断できれば腹腔鏡下手術の良い適応である.
著者
福富 聡 中川 宏治 石塚 満 宮崎 勝
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 = The journal of the Japan Surgical Association (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.1090-1094, 2006-05-25
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

症例は53歳,男性.自殺企図により刃渡り20cmの刺身包丁で腹部を刺し当院に緊急搬送された.腹部CT検査では,胆嚢内腔の高吸収域と腹腔内液体貯留が認められ,胆嚢損傷,腹腔内出血と診断した.全身状態が安定していたため保存的治療を選択した.第5病日の血液検査でT. Bil, CRP値が増加傾向を示し,腹部CT検査で胆嚢周囲の液体貯留の増加を認めたため,経皮経肝胆嚢造影により損傷部位を確認しPTGBDチューブを留置した.以後,腹腔内における液体貯留は減少し,全身状態および肝機能の増悪もみられず,第24病日に退院となった.<br> 腹部鋭的外傷による胆嚢損傷は極めて稀である.本邦では全例に開腹手術が行われており,合併症なく保存的に治癒したのは自験例が初めてであった.胆嚢損傷例に対しPTGBDは有効な手段であり,症例を選んで適切な管理を行えば,開腹手術は必須ではないと考えられた.
著者
長谷川 誠 永嶌 嘉嗣 和田 信昭 長尾 俊孝 石田 康生 長尾 孝一
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.60, no.7, pp.1854-1861, 1999-07-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
20
被引用文献数
5 1

虫垂粘液嚢胞腺腫の1例を経験したので,その診断,手術術式などについての考察を加えて報告する.症例は77歳,女性.主訴は右下腹部痛と右下腹部腫瘤. 1カ月前より右下腹部痛と右下腹部腫瘤を自覚していたが(心窩部痛,嘔気,下痢などは認めなかった.),次第に症状が悪化し近医より紹介され来院した.右下腹部には軽い圧痛を伴う直径3cm大の腫瘤を触知した.超音波検査では右下腹部に20×17mm大のlow echoic lesionを, CT検査では回盲部に直径2cm大の中心がlow densityを示すmassを認めた.注腸造影検査では盲腸に透亮像は認めず,また虫垂は造影されなかった.また大腸内視鏡検査では,虫垂根部に粘膜の発赤と腫脹を認め,虫垂の内腔は閉塞していた.手術はまず虫垂切除術を施行し,術中迅速病理検査で虫垂粘液嚢腫との診断であった.しかし切除断端に腫瘍細胞が認められたため,回盲部切除を追加施行した.後日の病理学的検索では,多量のmucinの産生を認め, 7×12mm大のcystを形成し,これを取り囲むように一層の丈の高い円柱上皮を認めた. NC比は小さく核の形,大きさも比較的均一で異型性は少なく,最終診断はlow grade malignancyの虫垂粘液嚢胞腺腫であった.患者は術後14日目に軽快退院した. 3年経過後の現在患者は再発なく健在である.
著者
尾身 葉子 安田 秀光 橋本 政典 清水 利夫
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.1841-1844, 2005-08-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
21
被引用文献数
1

Radial scarは線維性結合組織からなる中心部分を機軸として乳管が放射状に配列し,その上皮に過形成変化を伴う病変である.癌との鑑別がしばしば困難で,異型過形成を伴う場合は乳癌発生のリスクとなる.その報告例は未だ少ない.今回われわれはradial scarの1例を経験したので報告する.症例は41歳,女性.左乳房痛を認め,当科を受診.左乳房C領域,疼痛部位よりやや内側に硬結を触知した.エコーにて同部位に境界不明瞭な後方エコーの減衰を伴う低エコー領域を認めた.マンモグラフィーではdistortionが認められた.穿刺吸引細胞診を施行したところ二相性の増殖性変化のみられる上皮が採取されClass IIIaであった.針生検では二相性の保たれた乳管上皮の乳頭状増殖が認められ,乳管内乳頭腫が疑われた.悪性の可能性を考慮し,確定診断のため左乳腺腫瘤切除術を施行した.病理組織診断はradial scarであった.
著者
湯浅 吉夫 角 重信 中光 篤志 今村 祐司 香山 茂平 羽田野 直人
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 = The journal of the Japan Surgical Association (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.548-553, 2009-02-25
参考文献数
24
被引用文献数
5 5

今回われわれは,膵内副脾に発生したepidermoid cystの1例を経験したので報告する.症例は45歳,女性.平成13年9月,検診の超音波検査で膵尾部に嚢胞性病変を指摘され,近医にて経過観察されていた.しかし,腫瘤の増大傾向を認めたため,精査目的にて当院紹介となった.血液生化学検査では異常は認めなかった.CT検査では,膵尾部に大きさ2×2cm,単胞性で,壁に造影効果を認める嚢胞性病変を認めた.また,MRIではT1強調像で低吸収域,T2強調像で等吸収域を示していた.画像所見から膵嚢胞性疾患と診断し,悪性疾患も否定できないと判断,平成14年8月,手術を施行した.術中迅速病理診断を行ったところ,副脾を原発とするepidermoid cystとの結果であったため,腫瘤核出術のみ施行した.副脾の存在は珍しくないが,嚢胞性疾患の発生は極めて珍しい.過去の報告例を集計し,若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
中村 吉貴 大西 律人 脇田 和幸 崔 修逸 塚本 忠司 石田 武
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.652-656, 2003-03-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

消化管出血の原因として小腸動静脈奇形は比較的稀な疾患であり,また微小病変の場合術中の局在診断が困難なことがある.今回われわれは術中の局在診断を適切に行うため,術直前にマイクロカテーテルを血管内留置し,切除しえた2症例を経験したので文献的考察を加え報告する.(症例1) 62歳,女性.大量下血にて当院を受診した.入院後腹部血管造影検査で微小回腸動静脈奇形と診断した.術直前にマイクロカテーテル,マイクロコイルを留置した.術中,色素の注入および単純X線撮影にて病変部位を同定し,回腸部分切除術を施行した.(症例2) 34歳,男性.下血,めまいを主訴に当院を受診した. Hb 4.8g/dlと高度の貧血を認めた. Dynamic CT,腹部血管造影検査で空腸動脈の一本に著明な拡張を認め小腸動静脈奇形と診断した.術直前にマイクロカテーテルを留置し,色素の注入で切除範囲を確認し,空腸部分切除術を施行した.
著者
深田 真宏 丸山 修一郎 奥本 龍夫 藤井 徹也 金谷 欣明 横山 伸二
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.68-72, 2014 (Released:2014-07-31)
参考文献数
14
被引用文献数
1

自然気胸に対しドレナージを施行後,hypovolemic shockを伴う再膨張性肺水腫(re-expansion pulmonary edema:RPE)を発症した1例を報告する.症例は43歳,男性.右自然気胸に対し発症10日目に胸腔ドレナージ施行.その後大量の泡沫状喀痰を排出し,呼吸循環動態が不安定となった.RPEと診断し,PEEPを付加した人工呼吸器管理を開始した.収縮期血圧60mmHg,心拍数120回/分とショック状態となり,輸液負荷と昇圧剤にて循環管理を行った.シベレスタットナトリウム,ステロイド投与を行い救命することができた.再膨張性肺水腫は気胸のドレナージ後などに起こる重篤な合併症である.呼吸不全に加えhypovolemic shockを伴うこともあり治療には慎重な呼吸循環管理が必要となる.
著者
川瀬 寛 高橋 瑞奈 本間 直健 早馬 聡 仙丸 直人 藤田 美悧
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.2498-2503, 2012 (Released:2013-04-25)
参考文献数
43

症例は83歳,女性.右乳房の腫瘤を主訴に外来を受診した.右乳房C領域に弾性硬の腫瘤を触知し,マンモグラフィでは境界明瞭平滑な高濃度腫瘤を認め,カテゴリー4と診断した.超音波では内部低エコーの充実性腫瘤を認め,MRI,CTにおいては造影効果を伴う腫瘤影を認めた.針生検では,核の異型や分裂を伴う軟骨化生を示す細胞を認め,乳癌が示唆された.乳癌の可能性も視野にいれ,乳腺部分切除術を施行した.切除標本では,2.8cm大の多結節性病変を認め,明らかな悪性所見は認めず,chondromatous hamartomaの診断であった.乳腺過誤腫は,比較的稀な良性の病変であるが,chondromatous hamartomaはその中でもさらに稀な疾患であり,術前の確定診断は困難である.今回われわれは,術前に乳癌が疑われた乳腺chondromatous hamartomaの1例を経験したので報告する.
著者
中山 智英 長谷川 直人 小西 和哉 阿部島 滋樹 市村 龍之助 金古 裕之
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.2101-2104, 2006-09-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
15

症例は3歳,男児. 2005年8月6日午後7時20分,自宅で玩具にて遊んでいる際,単5乾電池2個にて動いていた玩具の電池カバーがはずれており,そのうち1個を飲み込んだのを母親が目撃した.同日7時30分に当院救急外来を受診.救急外来到着時,呼吸苦や腹部症状はみられなかったが,腹部単純X線写真にて上腹部に誤飲した乾電池と思われる1×3cm大の陰影を確認.母親からの病歴聴取とあわせ乾電池の誤飲と診断した.透視下造影検査を行ったところ上部小腸まで乾電池が進んでいたため,緊急手術を施行した.下腹部正中切開にて開腹し,直視下に小腸まで進んでいた乾電池を確認.用手的に回盲部まで進め,虫垂切除術を施行し,虫垂切除断端より乾電池を摘出した.小児の筒型乾電池誤飲症例は報告が少なく,治療法も確立されていない.われわれは小児の筒型乾電池誤飲症例に対し,虫垂切除術を施行し摘出しえた1例を経験したので報告する.
著者
正司 裕隆 服部 優宏 三野 和宏 今 裕史 小池 雅彦 赤坂 嘉宣
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.73, no.7, pp.1700-1704, 2012 (Released:2013-01-25)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

症例1は53歳男性で糖尿病性腎症のため血液透析施行中であった.夕食後より腹痛を認め,症状が増悪したため翌日未明に搬送となった.CTで門脈ガスを認め腸管壊死を疑い緊急手術を施行した.分節状の腸管壊死を認めたため小腸切除を行った.病理で血栓塞栓を認めず,nonocclusive mesenteric ischemia(NOMI)と診断した.症例2は58歳男性で慢性腎不全のため血液透析施行中であった.閉塞性動脈硬化症のため心臓血管外科に入院していたが,夜間より腹痛が出現しその後増悪したため当科紹介となった.CTで上腸間膜静脈分枝内ガスと腸管壁気腫像を認め腸管壊死を疑い緊急手術を施行した.分節状の腸管壊死を認め,小腸切除を行った.病理で血栓塞栓を認めず,NOMIと診断した.血液透析患者はNOMIの発症リスクが高く,腹痛を主訴とする透析患者の診察にはNOMIの可能性を考慮し慎重な対応が必要である.
著者
朝蔭 直樹 原口 美明 鈴木 貴久 塚田 健次 山本 哲朗 小林 滋
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.70, no.8, pp.2416-2420, 2009

症例は69歳,女性.24年前より全身性強皮症と診断されている.1年ほど前から直腸脱が出現し早急に増悪,立っているだけで超手拳大の腸管が脱出し当科を受診した.身長149cm,体重34kgと小柄痩せ型で顔面,手指に茶褐色の光沢を持った皮膚硬化を認めた.怒責診では約10cmの直腸が脱出し,脱出腸管は浮腫状であたかもソフトボール状に緊満していた.怒責時腹部CT検査を施行すると,脱出腸管壁内にガス像が認められ脱出腸管反転部内への小腸陥入を伴う直腸脱と診断した.手術は会陰式直腸S状結腸切除術(Altemeier手術)に肛門挙筋形成術を併施した.術後経過は順調で,現在術後1年半経過したが脱出はなく特に排便機能にも問題はない.全身性強皮症は結合組織の線維性硬化性病変を伴い,直腸脱の発症要因の一つと考えられた.本症例のような基礎疾患を有する場合,侵襲が少なく肛門挙筋形成も行えるAltemeier手術は有効であると思われた.
著者
岩崎 靖士 山田 暢 小熊 潤也 岡本 譲二 清水 壮一 高橋 伸
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 = The journal of the Japan Surgical Association (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.1181-1185, 2011-05-25
参考文献数
11
被引用文献数
1

症例は60歳,男性.左下腹部痛を主訴に当院受診した.腹部超音波検査および腹部CTにて左下腹部直下にS状結腸に接する4cm大の腫瘤影を認め,腹膜垂炎の所見と診断した.保存的に経過を観察したが,疼痛が持続したために腹膜垂切除目的に入院し,腹腔鏡補助下にS状結腸腹膜垂切除術を施行した.手術所見では,S状結腸部の腹膜垂が腹壁と炎症性に癒着しており,鏡視下にこれを剥離し,小開腹創より体外に誘導すると,炎症性に腫大した2cm大の腹膜垂を認めた.同部を結紮切離し,腹膜垂を摘出した.病理組織学的所見にてうっ血,炎症細胞浸潤,脂肪壊死を認め,腹膜垂炎と診断した.腹膜垂炎はまれな疾患で,大腸憩室炎との鑑別が重要となるが,近年の画像診断技術の発達により,CTや超音波による腹膜垂炎に特徴的な所見がえられるようになってきた.今回,術前診断が可能で,腹腔鏡を用いて治療しえたS状結腸腹膜垂炎を経験したので報告する.
著者
安岡 利恵 宮垣 拓也 北尾 善孝 門谷 洋一 中村 隆一
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, pp.2210-2215, 2004-08-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
14

混合型性腺異常発生症では,染色体異常が主に45X/46XYなどのmosaicであるために,一側性腺が精巣で他側が線状性腺を持ち,未分化な膣,子宮,卵管などMüller管の遺残を認めることがある.また,混合型性腺異常発生症は様々な身体学的特徴を有する.本症は主に小児科医,小児外科医が関わる疾患であるが,今回われわれは45歳にして成人鼠径ヘルニア治療時に偶然混合型性腺異常発生症を発見し,十分なインフォームドコンセントのもと,線状性腺とMüller管遺残を摘出した興味深い症例を経験したので,これを報告する.
著者
松下 典正 鈴木 隆文 鈴木 仁呂衣 古川 達也 重松 恭祐
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.1079-1083, 2010 (Released:2010-10-25)
参考文献数
22
被引用文献数
2 2

直腸癌に対する腹腔鏡補助下直腸低位前方切除術の術中体位が原因と考えられる左腕神経叢障害を経験した.症例は46歳女性.排便時出血を主訴に来院.下部消化管内視鏡検査にて肛門縁より約10cmの直腸に径2cm大のI型直腸癌を認め腹腔鏡補助下直腸低位前方切除術を施行した.術中体位は頭低位約20度,右低位約20度とし両側上腕は70-80度外転として両側肩支持器を肩鎖関節上に置いた.手術時間は6時間25分,術中4回ほど体動を認め麻酔深度の調節が必要であった.麻酔覚醒時より患者から左上腕の位置覚,運動覚,触覚異常の訴えあり.診察の結果術中体位異常によって惹起された腕神経叢障害と診断して運動療法,低周波刺激療法,ビタミンB12製剤投与を行った.腹腔鏡手術では開腹手術と異なった術中体位をとることがあり,近年腹腔鏡下手術術中体位が原因と考えられる神経障害の報告が散見される.それら神経障害に対し対策を講じる目的で文献的考察を加え報告する.
著者
横田 和子 中村 隆俊 佐藤 武郎 樋口 格 山下 継史 渡邊 昌彦
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.615-619, 2017 (Released:2017-09-30)
参考文献数
11

症例は48歳,男性.人間ドックの腹部超音波検査にて,右腎腹側に6cm大の腫瘤を認め,精査目的に当院紹介となった.腹部造影CTでは,右腹横筋に接して6cm大の境界明瞭で内部均一な腫瘤性病変を認め,腹部MRIでは,T1脂肪抑制画像で内部均一な低信号を認めた.注腸造影検査では,横行結腸肝弯曲中心に壁外性の圧排像を認めた.以上より腹横筋脂肪腫が疑われ,悪性腫瘍が否定できないため手術の方針となった.画像上,腫瘍は腹腔内に突出していたため腹腔鏡下手術の方針とした.右肋骨弓下に突出する腫瘍を認め,周囲臓器への浸潤はなく腹膜および腹膜前脂肪織・腹横筋の一部とともに合併切除した.病理組織学的所見は,被膜を有し異型に乏しい脂肪組織の増生を認め,辺縁に全周性に筋組織が付着するintermuscular lipomaと診断した.腹壁由来脂肪腫を腹腔鏡下に切除しえた症例は非常に稀であるため,文献的考察を加えて報告する.
著者
北野 義徳 田中 晃 井上 潔彦 船井 貞往
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.70, no.11, pp.3370-3374, 2009 (Released:2010-04-05)
参考文献数
19
被引用文献数
3

症例は82歳,女性.左下腹部痛を主訴に来院.腹部CTでS状結腸にhigh densityな異物像を認め,遊離ガスおよび腹水貯留を認めた.異物によるS状結腸穿孔と診断し,腹膜刺激症状を認めることから緊急開腹術を施行した.S状結腸に5mm大の穿孔を認め,穿孔部直下に異物を触知した.異物を摘出したのち,S状結腸部分切除,人工肛門造設術を施行した.切除標本では穿孔部と連続した部位に憩室が存在し,また術後の問診で柿を種子ごと摂取したことが判明したことから,柿の種子によるS状結腸憩室穿孔と診断した.種子による消化管穿孔は本邦においてこれまで2例の報告しかなく,非常に稀な症例であり,文献的考察を加えて報告する.