著者
長沼 理恵 城戸 照彦 佐伯 和子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.28-35, 2006-03-24 (Released:2017-04-20)
被引用文献数
1

目的:日本に在住する日系ブラジル人労働者(以下日系人)の保健指導に生かすため,日系人の食生活と食生活行動に結びつく彼らの文化と考え方を明らかにすることとした.方法:エスノグラフィーを用い,日系人14人への面接調査,参加観察,既存の資料の収集を行った.データ分析により食生活についてのテーマを抽出した.結果:テーマ(1)ブラジルにおける日系人の食事はブラジル食と日本食が混じり合った「日系人食」である.テーマ(2)日本における日系人の食事は「日系人食」の形態を保ちながら,自分達の労働条件や味覚に合った食料品や調味料を取り込んでいる.ブラジルにおける日系人の食事は,父母,祖父母から受け継いだ習慣や周囲の環境などによって個人差がみられた.日系人が食べる日本食の特徴は,「ご飯と味噌汁を基本とする」「ブラジル食と日本食が同時に食卓に出る」「日本の調味料を使用する」であった.日本における日系人の食事に影響を与える要因として,「ブラジルで食べていた日本食の頻度」「現在の生活と労働環境」「居住地域で購入可能なブラジル食料品の状況」「来日の目的」があげられた.考察:ブラジルにおける「日系人食」はブラジルに渡った日本人移民の日本食文化が基盤にあった.日本で働く日系人はその日本食文化を受け継いでいるが,現在の日本における日本食文化が変化しているため,現在の日本食文化に適応する必要があった.
著者
渥美 綾子 安齋 由貴子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.23-31, 2013-11-30 (Released:2017-04-20)
被引用文献数
5

目的:行政保健師が個別支援の際に行った関係機関や関係職種との連携内容を具体的に明らかにする.方法:対象者は,複数の関係機関や関係職種と連携をした個別支援事例を有する行政保健師8人である.半構成的インタビューにて,事例の概要,連携についてどのようなことを何のために行ったのか質問し,得られたデータを質的記述的に分析した.結果:行政保健師が個別支援の際に行った関係機関や関係職種との連携内容として,《連携機関の見極め》《巻き込み》《橋渡し》《支援方針の合意》《専門的役割の発揮》《連携のルール化》の6つのカテゴリーが抽出された.考察:行政保健師は,対象者支援の質を向上させることを目指し,関係機関や関係職種とのコーディネートの役割を担っていた.また,行政保健師は対象者を中心とし,対象者を支援する関係機関や関係者を全体的にみて,支援が円滑に進むように調整していると推測された.
著者
吉岡 京子 黒田 眞理子 蔭山 正子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.69-78, 2017 (Released:2018-04-20)
参考文献数
26
被引用文献数
1

目的:精神障害者に関する近隣苦情・相談への保健師の対応の実態と困難について精神保健福祉業務の経験年数別に解明することである.方法:53市区町村で精神保健を担当する659人の常勤保健師を対象に自記式郵送調査を2015年に実施した.調査項目は保健師の属性,最も対応が困難だった近隣苦情・相談について,苦情・相談を寄せた者とその内容,保健師の対応と感じた困難をたずねた.保健師の精神保健福祉業務経験年数が10年未満の者を「10年未満群」,10年以上の者を「10年以上群」の2群に分け,各調査項目についてt検定,χ2検定,Kruskal-Wallis検定で比較した.統計解析にはIBM PASW Statistics 22.0(Windows)を使用し,有意水準は5%未満とした.結果:有効回答の264人(40.1%)のうち10年未満群は159人(60.2%),10年以上群は105人(39.8%)であった.近隣苦情・相談は住民や行政機関内外の職員から寄せられ,精神障害者の入院を要求する内容が最多だった.精神保健福祉業務経験年数と近隣苦情・相談で感じた困難との間には有意な関連は認められなかった.10年以上群の方が10年未満群よりも近隣苦情を寄せた者に「精神疾患について理解を深めてもらう」対応をしていた者の割合が有意に高かった.考察:10年以上群の保健師は,近隣住民と精神障害者の双方が互いに生活しやすい地域づくりを目指して,近隣苦情・相談を寄せた者に精神疾患について理解を深めてもらうための対応を行っていた可能性が考えられる.
著者
小林 真朝 麻原 きよみ
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.42-48, 2007
被引用文献数
1

本研究の目的は,乳幼児健康診査の委託に焦点を当て,市町村保健師の事業委託の経験を記述・分析することで,市町村保健師にとっての委託の意味づけを検討し,委託事業における市町村保健師の役割および保健事業の効果的な委託のあり方への示唆を得ることである.乳幼児健康診査の委託の前後に携わった経験をもつ市町村保健師11名に半構成的インタビューを行い,データを質的に分析した.市町村保健師にとっての保健事業の委託の経験は【委託を契機に生じる変化に気づき,自分にとっての委託を意味づけていくプロセス】であり,時間の変化の特徴に沿って5つの期で構成された.さらに保健師の住民との関係性のとらえ方により,住民庇護型,住民顧客型,住民パートナー型の3つの型に分類され,<委託とは住民との距離を隔てるもの><委託とは住民の求めるものに応えるための保健師にとっての救いの手><委託とはコミュニティの資源の専門性を高め豊かにするもの>という意味づけがされていた.これらのことから,保健師がそれまでの自身と住民との関係性や事業のとらえ方の傾向に気づき,視点や視野を変えたらどう見えるか,状況に即したやり方で活動しているかを見直すことが重要であると考えられた.
著者
松井 藍子 大河内 彩子 田髙 悦子 有本 梓 白谷 佳恵
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.75-81, 2016

<p><b>目的:</b>発達障害児の母親が子育てにおいて肯定的感情を獲得する過程を明らかにし,母親への育児支援の示唆を得る.</p><p><b>方法:</b>A県で発達障害児をもつ親の会に所属している母親7人を対象に半構造化面接を個室で実施し,得られた逐語録から母親の子育てに対する思いに関する部分を抜き出し,カテゴリーを作成した.</p><p><b>結果と考察:</b>発達障害児をもつ母親は子どもの特性に気づき戸惑っており,受け入れにくさや不安を感じていたが,子どもについての模索や子育て仲間の獲得を経て納得や理解が始まり,子育て方法を見いだしたり子どもに期待したりすることへつながり,子育てを振り返り,気持ちの揺れを感じつつ,他の発達障害児やその母親にも目を向けることができていた.母親は子育てを模索することにより,子どもの特性の理解へとつながっていたため,母親に対して専門職からの今後を見通せるようなアドバイスの必要性が示唆された.また,母親は親同士の仲間とのつき合いを通してロールモデルに出会い,支え合うことで,自身がロールモデルとなる母親へと成長したと考えられるため,子育ての体験を共有できるコミュニティへつなぐための支援の必要性が示唆された.さらに母親は子どもを理解しつつも気持ちは揺れ動いており,子どもの発達や母親・家族の変化に応じた継続的な支援の必要性が示唆された.</p>
著者
長沼 理恵 城戸 照彦 佐伯 和子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.28-35, 2006
被引用文献数
1

目的:日本に在住する日系ブラジル人労働者(以下日系人)の保健指導に生かすため,日系人の食生活と食生活行動に結びつく彼らの文化と考え方を明らかにすることとした.方法:エスノグラフィーを用い,日系人14人への面接調査,参加観察,既存の資料の収集を行った.データ分析により食生活についてのテーマを抽出した.結果:テーマ(1)ブラジルにおける日系人の食事はブラジル食と日本食が混じり合った「日系人食」である.テーマ(2)日本における日系人の食事は「日系人食」の形態を保ちながら,自分達の労働条件や味覚に合った食料品や調味料を取り込んでいる.ブラジルにおける日系人の食事は,父母,祖父母から受け継いだ習慣や周囲の環境などによって個人差がみられた.日系人が食べる日本食の特徴は,「ご飯と味噌汁を基本とする」「ブラジル食と日本食が同時に食卓に出る」「日本の調味料を使用する」であった.日本における日系人の食事に影響を与える要因として,「ブラジルで食べていた日本食の頻度」「現在の生活と労働環境」「居住地域で購入可能なブラジル食料品の状況」「来日の目的」があげられた.考察:ブラジルにおける「日系人食」はブラジルに渡った日本人移民の日本食文化が基盤にあった.日本で働く日系人はその日本食文化を受け継いでいるが,現在の日本における日本食文化が変化しているため,現在の日本食文化に適応する必要があった.
著者
西嶋 真理子 柴 珠実 齋藤 希望 増田 裕美 西本 絵美 松浦 仁美
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.40-49, 2018

<p><b>目的:</b>発達障害児の親を対象に前向き子育てプログラムのひとつであるステッピングストーンズ・トリプルP(以下,SSTP)を実施し,その効果と地域での導入について検討する.</p><p><b>方法:</b>地域の保護者会の協力のもと,3~12歳の発達障害児の親27人に対して筆者らがSSTPを実施し,介入前後の親の子育て場面でのふるまい(Parenting Scale;PS),児の行動の難しさ(Strength and Difficulties Questionnaire;SDQ),親の抑うつ・不安・ストレス(Depression, Anxiety, and Stress Scale;DASS),親としてどう感じるか(Parenting Experience Survey;PES)について比較し分析した.</p><p><b>結果:</b>介入前はPSやSDQのすべての下位尺度は臨床範囲あるいは境界範囲であったが,介入後はPSの親の多弁さと過剰反応,SDQの児の難しい行動の総合スコア,感情的症状,行為問題,交友問題,DASSの抑うつ,ストレスが有意に改善した.PESでは,得られた助け,パートナーとのしつけの一致度等が介入後に有意に改善した.7歳以下ではPS,SDQ,DASSのすべての下位尺度が有意に改善した.</p><p><b>考察:</b>地域の発達障害児の親を対象に行ったSSTPは,親の子育て場面でのふるまい,児の問題行動,親として子育てにストレスを感じる等に有意な改善効果が確認できた.特に児の年齢が7歳以下の家庭への改善効果が大きく,地域でSSTPを導入することが発達障害児と親の支援に有効であると考えられた.</p>
著者
稲垣 絹代
出版者
日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.75-80, 1999-03-15

研究目的 戦後最大の不況のもとで,大阪市内では野宿生活者の増加がみられ,その健康問題の深刻さが予想されていた.野宿生活者への健康相談を通じて,健康問題の実態を明らかにすることを目的として,炊き出し公園で健康相談活動を実施した.研究方法1996年の8月から1997年1月までの毎日曜日の午後1時〜3時ごろまで,釜ヶ崎の四角公園で炊き出しが始まる時刻に机と椅子を置き,1人ずつ約15分面接した.調査項目は体温,脈拍,血圧測定し,現在の健康状態,相談内容,既往歴,居住地,栄養状態,就労状況,野宿の期間や原因などを質問した.その後,必要な援助を実施し,結果は項目ごとに統計的に分析した.結果と考察 相談日数は合計14日,相談件数は合計174件,1回平均12件であった.相談者は男姓150人,女性1人である.年代別にみると,50歳台後半から60歳台前半が合わせて56.9%にも達する.九州出身者が34%と多い.野宿をしている人が69.5%で,その期間は1週間以内から2年以上とさまざまである.半数以上がほぼ失業状態で,栄養摂取状況の不良な者は59%である.体温測定では夏季は発熱者が多く,秋から冬では低体温が多い.脈拍では48.1%が90以上の頻脈であり,血圧測定では収縮期血圧の異常が70.7%あり,拡張期血圧の異常も39.3%あった.相談内容としては循環器系,脳神経系,筋骨格系,呼吸器系の症状の訴えが多く,既往歴は呼吸器系,循環器系,筋骨格系が多い.特に結核は7人に1人,高血圧は8人に1人の割で発症していた.無料の医療機関への紹介,救急車での搬送,相談と指導の援助を行った.仕事に就けないことが,野宿せざるを得ない状況になり,栄養状態の悪化を招く結果になっている.結論 野宿と栄養障害が原因による健康障害の重篤性が明らかになり,対策が求められてる.
著者
永田 千鶴 北村 育子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.23-31, 2014-07-31 (Released:2017-04-20)
被引用文献数
1

目的:3つの地域密着型サービスで提供されているケアサービスの現状からその特性と共通するケアサービスを明らかにし,地域包括ケア体制下の地域密着型サービスの機能および今後の課題を明示する.方法:3つの地域密着型サービスにおけるエイジング・イン・プレイスを果たすケアサービスの比較検討により明らかにしたケアサービスの現状を,国が示す地域包括ケアシステムの構築に向けた5つの視点に基づき検討する.結果:3つの地域密着型サービスの共通するケアサービスの特徴としては,1.小規模・小人数・ユニット型による個別ケアが徹底できること,2.地域密着型サービスとして関係する専門機関および専門職,地域・住民,行政と連携してケアサービスが提供されていること,3.家族とのつながりを重視し家族とともにケアを提供していること,4.医療が提供しにくい環境下で何とか工夫や努力をして医療ニーズに対応し,終末期ケア・看取りに取り組んでいること,が挙げられた.結論:地域包括ケア体制下でのエイジング・イン・プレイスを果たす地域密着型サービスは,「介護サービスの充実強化」や「住まいの機能をもつこと」「ネットワークを生かしたケアニーズへのタイムリーな対応」などの重要な機能を担うことが明らかになった.課題としては,医療との連携強化において,地域密着型サービスにおける高齢者への医療提供のあり方を明確にすることが示唆された.
著者
髙橋 美保 田口(袴田) 理恵 河原 智江
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.43-51, 2020 (Released:2020-08-20)
参考文献数
19

目的:本研究は,地域包括支援センター看護職が,虐待予防や健康保持のために認知症の妻を介護する高齢夫介護者を地域の水平的組織につなげる支援のプロセスを明らかにすることを目的とした.方法:認知症の妻を介護する高齢夫介護者を地域の水平的組織につなげた経験をもつ地域包括支援センター看護職7人を対象に半構造化面接を行い,夫介護者が自らの意思で水平的組織に参加継続するまでの支援を聴取した.得られたデータは複線径路・等至性モデリングの手法で分析し,支援のプロセスを示した.結果:地域包括支援センター看護職が高齢夫介護者を地域の水平的組織につなげる支援のプロセスは4つの時期から構成された.第1期は,サービス利用の提案に消極的な夫介護者と支援関係の構築を図る時期であり,その後,妻の介護環境を整え信頼を得て,夫自身の健康の大切さを気づかせる第2期となる.第3期は,水平的組織参加の一歩を踏み出させ,メリットを感じてもらう時期となる.第4期に至ると,水平的組織への参加継続に向けて環境の再調整を行う時期となる.考察:認知症の妻を介護する高齢夫介護者を地域の水平的組織につなげていくためには,妻の状況に合わせ段階的に夫介護者の意識を変えていくこと,ならびにその段階に応じた支援の展開が必要であることが示された.また,男性の関心事に合う多くの種類の水平的組織を育成し,周知していくことの重要性が示唆された.
著者
マルティネス 真喜子 畑下 博世 河田 志帆 金城 八津子 植村 直子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.97-106, 2012

目的:A県に在住する労働目的で来日した在日ペルー人女性が,異なる文化,制度を背景にもち,外国人労働者としての境遇の下で行う日本での生活および育児とはどのようなものであるかを明らかにすることを目的とする.方法:A県在住の乳幼児をもつ在日ペルー人女性7人を研究対象に8か月間のフィールドワークを行い,フィールドノートに記録したデータをもとに民族誌を記述した.フィールドワークは自宅訪問を中心に,医療機関,保健センター,スーパーなどの生活の場で行い,インフィーマルインタビューはすべてスペイン語で行った.結果:7の大カテゴリー,25の中カテゴリー,73の小カテゴリーにまとめられた.在日ペルー人女性は,『波乱に満ちたデカセギ労働独身時代』を経て,『豊かで安全だが労働に縛られた環境』『殻に閉じこもっての在日生活』を『国境や距離を超えてつながる家族の結束力』をもって乗り越えながら,『ペルーの母親役割遂行と葛藤』『日本の母子保健制度利用への戸惑い』といった課題を抱えつつ『日本の要素を取り入れたペルー文化中心の育児』を行っていた.結論:在日ペルー人女性の育児環境は,デカセギ労働者という境遇文化・制度の相違による戸惑いがあり,それを家族の結束で乗り越えていた.地域の一住民として,文化を越えて人間としての結びつきを重要視した看護職のかかわり,外国人母子に関する調査研究を発展させていく重要性が示唆された.
著者
有本 梓 伊藤 絵梨子 白谷 佳恵 田髙 悦子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.21-32, 2020 (Released:2020-08-20)
参考文献数
43

目的:地区組織基盤の世代間交流プログラムを開発し,1年後の高齢者の健康ならびにソーシャルキャピタル(SC)への評価を行い,今後の地域づくりにおける示唆を得る.方法:2015年2月~2018年3月にA市2地区で高齢者ボランティア(参加群)を対象に,園芸活動を中心とする世代間交流プログラムを実施した.世代間交流の不足,フレイルの地域の問題解決のために,住民・地区組織・自治体・大学などがアクションリサーチを展開した.定量的評価として,基本属性,健康指標(握力等),SC(地域コミットメント等)についてベースラインと1年後に測定し,地域在住高齢者(非参加群)と比較した.定性的評価として,フォーカスグループディスカッション(FGD)を実施し質的に分析した.結果:参加群(n=36)は72.6±5.6歳,非参加群(n=36)は74.7±4.6歳,両群ともに男性23人(63.9%)であった.参加群は非参加群に比べ,握力の改善傾向がみられた.非参加群では地域コミットメントが有意に低下したのに対し,参加群では維持されていた(p<0.05).FGDでは,【子どもたちと関わり合える喜び】【経験の伝承による子どもの育成】【内省による人生の価値づけ】【地域の人とのつながりの拡大】等が抽出された.考察:地区組織基盤の世代間交流プログラムにより,高齢者の健康およびSCに効果がもたらされる可能性が示唆された.
著者
中谷 久恵 金藤 亜希子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.64-70, 2018 (Released:2019-12-20)
参考文献数
16

目的:本研究の目的は,行政で働く保健師の職場と職場外での情報ネットワーク環境を把握し,ICT活用の現状を明らかにすることである.方法:調査対象者は670人の保健師であり,調査内容は属性,職場と職場外の情報ネットワーク環境と検索学習の実態,eラーニング利用の有無を調査した.調査は,無記名自記式で任意の調査票を配布し,研究者宛に個別に郵送で返送してもらった.結果:350人から回答があり,常勤317人を分析対象とした.職務上の個人専用パソコンは82.6%が保有し,職場外でネットにつながる私用機器は95.0%が所有していた.職務に関する職場内外での検索学習は92.7%が行っており,職務の個人専用パソコンを保有する保健師は検索学習の割合が高かった(p=0.004).eラーニングの学習は77.9%が希望しており,職場内外の情報ネットワーク環境や年齢区分での有意差はなかった.考察:保健師は,個人専用の情報通信機器を8割以上が保有し,インターネットを活用した職務の検索学習を9割以上が実施しており,ICTを活用している実態が明らかとなった.eラーニング利用は約8割が希望しており,保健師はICTを職務の利用に加えて,学習用のツールとしても関心を寄せていることが示された.
著者
錦戸 典子 京谷 美奈子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.72-78, 2004-03-25 (Released:2017-04-20)
被引用文献数
2

本研究では,産業看護活動の質の向上のために,今後どのような支援が必要であるか明らかにすることを目的として,東京都に在勤の産業看護職250名を対象に活動上の困難に関する質問紙調査を実施した.130名からの回答を分析した結果,活動上の困難に関しては,「非常にある」が26.8%,「まあある」が57.5%,「あまりない」が13.4%,「まったくない」が2.4%であった.「非常にある」と「まあある」を合わせたものを「困難あり群」,「あまりない」と「まったくない」を合わせたものを「困難なし群」として,属性データや学習機会の有無との関連を調べ,単変量分析でp<0.10の関連がみられた変数を独立変数とし,困難の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を実施した.その結果,産業看護経験が短いこと,職場内学習機会がないこと,産業保健推進センターの研修受講機会があったことが,各々独立して困難があることに関連していた.困難の具体的内容に関する自由記述データを内容分析した結果,91名の回答から188のフレーズが得られ,32の小カテゴリー,16の中カテゴリー,6つのコアカテゴリーに整理された.主なコアカテゴリーは,活動スキル上の困難,職場での理解・支援・連携不足,学習機会・相談相手の不足,組織上の制約,活動範囲・質が不十分,などであった.今後,産業看護活動の質を高めていくためには,スキル向上のための継続教育の体系化やスーパーバイザーの育成とともに,他職種・事業場の理解を得るためのPR活動など,産業看護職が働きやすい環境を整えることが重要であることが示唆された.
著者
中村 瑛一 有本 梓 田髙 悦子 田口(袴田) 理恵 臺 有桂 今松 友紀
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.4-13, 2016 (Released:2017-04-20)
参考文献数
22
被引用文献数
3

目的:父親と母親における親役割達成感の関連要因を明らかにし,今後の育児支援を行ううえでの示唆を得る.方法:2012年9~11月にA市B区福祉保健センターが行った,3歳児健康診査対象児の父親と母親各222人を対象に,無記名自記式質問紙調査を行った.調査内容は,基本属性,親役割達成感,父親の育児支援行動(情緒的支援行動・育児家事行動),育児ソーシャル・サポート,過去の子どもとのかかわり等とした.父親と母親おのおので,親役割達成感を従属変数とした重回帰分析を実施した.結果:父親113人,母親144人の有効回答を得た.父親は,健診対象児の出生順位が低いほど,母親への情緒的支援行動が多いと認識しているほど,親役割達成感が高かった.また,「育児が思うようにいかない」と感じているほど,親役割達成感が低いことが示された.母親は,子どもをもつ前に子どもとふれあう機会があった場合や,父親からの情緒的支援行動が多いと認識しているほど,親役割達成感が高かった.また,健康状態が悪いほど,親役割達成感が低いことが示された.結論:父親と母親における親役割達成感の関連要因はおのおのに異なっていたが,父親から母親への情緒的支援行動の多さは共通の要因であった.父親の育児参加を促し,特に夫婦間の会話を多くもち,父親が母親の気持ちに寄り添う等の情緒的支援行動を促進させていくことは,父親と母親おのおのの親役割達成感を高めることが示唆された.
著者
笠井 真紀 河原 加代子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.75-80, 2007-03-30 (Released:2017-04-20)
被引用文献数
1

目的:育児期間中の母親への夫の育児サポートと夫婦関係との関連を明らかにし,子育てに取り組む母親への育児支援についての示唆を得る.方法:対象は東京都内A保健センターの乳幼児健康診査に来所する母親とし,「夫の育児サポート」(5項目)と「夫婦関係」(8項目),基本属性などについて,研究者作成の自記式・無記名の質問紙調査を行った.結果:対象者は407名であり,196名から回答を得た(回収率48.2%).1)対象者の平均年齢は32.4±4.2歳,結婚時の平均年齢は26.5±4.2歳,健診対象児が第1子である者は91名(47.2%)であった.2)「夫の育児サポート」と「夫婦関係」の因子分析を行った結果,どちらも1因子であり,『共同感』,『親近感』と名づけた.3)「夫の育児サポート」と「夫婦関係」の因子得点の相関分析を行った結果,強い正の相関が認められた(r=0.759, p<0.01).4)母親の基本属性,性別役割分業観別に「夫の育児サポート」と「夫婦関係」の因子得点の平均値を比較した結果,有意差は認められなかった(p<0.01).結論:育児期間中の「夫の育児サポート」と「夫婦関係」はどちらも1因子で構成され,重複する部分が多い概念であった.母親が『親近感』を感じることにより,『共同感』も高まることが期待できる.
著者
御厩 美登里
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.66-74, 2016 (Released:2017-08-20)
参考文献数
20

目的:訪問看護師の職務継続に関連する要因を,訪問看護特有の職場環境に焦点を当てて明らかにすることである.方法:北海道の訪問看護ステーションで訪問看護に従事する管理者を除いた常勤・非常勤看護職を対象に,無記名自記式質問紙調査を行った.結果:対象者437人のうち252人から回答が得られ,回収率は57.6%であった.ロジスティック回帰分析の結果,訪問看護師の職務継続意向と有意な関連のみられた項目は,「運営主体が社団法人である」「訪問看護ステーション内に休憩スペースがある」の2項目であった.考察:運営主体と職務継続意向とが関連していたのは,社団法人の理念や組織運営の特徴による可能性もあるが,さらなる検討が必要である.また訪問看護師の職場環境には規定の休憩時間をとることがむずかしいという特徴があると考えられるが,休憩スペース等の職場環境を整えることで,職務継続意向を高めることができる可能性が示唆された.
著者
大須賀 惠子 泉 明美 田川 信正
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.176-181, 2001-03-01 (Released:2017-04-20)

目的:骨粗鬆症検診を自主的に受診した住民の,肥満と骨密度との関連を明らかにし,保健指導のあり方を考える.対象と方法:町のイベント時に実施した骨粗鬆症検診を受診した30〜70歳代の女性151名を対象者とし,骨密度測定および生活習慣等に関する自記式調査(厚生省骨粗鬆症検診マニュアルの問診票に準じた全18項目)を実施・分析した.骨密度測定は,超音波式骨密度測定装置(Lunar社A-1000+)を用い右足踵骨で行った.結果:1)本研究においては,肥満度body mass index(BMI)に注目し,骨密度および生活習慣等に関する自記式調査内容との関連を分析したところ,BMI24.2以上群では,骨粗鬆症に随伴する自覚症状の出現率が有意に高いという結果が得られた.2)肥満者(BMI24.2以上)の骨密度に関する要精検率を年齢別にみたところ,50歳未満者では要精検者がなかったが,60歳以上になると肥満者にも要精検者が高い率で現われており,肥満でない者(BMI24.2未満)との差はほとんどなくなっていることがわかった.体重増加は,骨密度を高める関係にあると一般的に考えられているが,本調査においては60歳以上になるとこの関係は見られなくなった.以上のことから,肥満者(BMI24.2以上)を,年齢によらず骨粗鬆症のhigh risk群として位置付け,適切な保健指導を実施することが望ましいと考える.
著者
舛田 ゆづり 田髙 悦子 臺 有桂
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.25-32, 2012-08-31 (Released:2017-04-20)
被引用文献数
2

目的:地域在住の高齢者の孤独感を評価するための尺度として国際的に標準化されているUCLA孤独感尺度の日本語版を開発し,その信頼性と妥当性を検証する.方法:研究対象は,A政令市B行政区において無作為抽出された65歳以上の住民1,000人である.研究方法は,無記名自記式質問紙調査(郵送法)であり,調査項目は,日本語版UCLA孤独感尺度,基本属性,抑うつ,ソーシャルネットワーク・ソーシャルサポート,主観的健康観ならびに客観的健康状態,地域関連指標とした.結果:回答者は,540人(54.0%),平均年齢は73.6±6.8歳男性225人(50.8%),女性218人(49.2%)であった.日本語版UCLA孤独感尺度は最小20.0〜最大78.0点であり,平均は,42.2±9.9点(男性44.0±9.1点,女性40.6±10.4点)で分布の正規性が認められた.Cronbachのα係数は0.92であり,尺度総点は,GDSの合計得点とは有意な正の相関を示し(r=0.52,p<0.01),さらに主観的健康観とは有意な負の相関(r=-0.26,p<0.001)をおのおの示した.結論:UCLA孤独感尺度の日本語版は,信頼性と妥当性を有した,わが国における高齢者の孤独感を評価するための尺度として有用である.
著者
本田 亜起子 片平 伸子 別所 遊子 太田 貞司
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.61-70, 2012-08-31 (Released:2017-04-20)

目的:経済的理由による介護保険サービス利用の手控えが高齢者やその家族の健康や生活に与える影響と,それに対する介護支援専門員(以下,CM)の対応を明らかにすることである.方法:神奈川県A市のCMを対象とし,自記式質問紙調査(1次調査)を行い,152人の回答について統計的に分析した.調査内容は,(1)対象者の基本属性,(2)経済的な問題がある利用者の把握,(3)介護保険サービスの手控えと影響およびCMの対応であった.さらに,1次調査の回答者のうち18人に半構成的面接調査(2次調査)を行い,質的帰納的に分析した.結果:1次調査:経済的理由から介護保険サービスを手控えている利用者を担当している者は71人(46.7%)であり,手控えによる影響には「本人の健康状態の悪化(52.1%)」「家族の介護負担の増加(47.9%)」等があった.2次調査:経済的理由には,「生活保護基準は超える低所得」「本人の意思」「親族の事情」等があった.CMの対応としては,「通常業務を超える活動」「他職種との調整・協力」「地域ネットワークの活用」等があった.結論:CMの約半数は経済的理由によるサービス利用の手控えが利用者の健康状態悪化や介護負担増加を引き起こした事例を経験していた.CMは手控えの影響を最小限にするために工夫していたが,保健福祉専門機関による支援体制の強化も求められる.