著者
菅野 喜久子 木下 寛也 森田 達也 佐藤 一樹 清水 恵 秋山 聖子 村上 雅彦 宮下 光令
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.131-139, 2014 (Released:2014-11-15)
参考文献数
28

東日本大震災後のがん患者の緩和ケア・在宅医療については, ほとんど調査がされていない. 本研究では, 震災時のがん患者の緩和ケアと在宅医療の実態を明らかにし, 今後の大規模災害に向けたシステムの提言やマニュアルの整備のための基礎資料を作成することを目的とした.被災沿岸地域の医療者53名に半構造化面接を行った. 結果より, がん患者の緩和ケア・在宅医療に対する医療者の経験は, 【がん患者への医療提供の障害】【津波被害や避難の際に内服薬を喪失した患者への服薬継続の障害】【ライフラインの途絶による在宅療養患者への医療提供の障害】【地域の医療者と後方医療支援や医療救護班との連携の障害】【医療者に対する精神的ケア】【原発事故地域の医療提供の障害】の6カテゴリーに整理された. 大規模災害に向けた備えの基礎資料となり, 災害時のがん患者の緩和ケア・在宅療養に関する問題やその対応方法について明らかとなった.
著者
垂見 明子 三松 早記 森田 達也 内藤 明美 坂本 康成 奥坂 拓志 清水 千佳子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.301-305, 2016 (Released:2016-01-07)
参考文献数
12
被引用文献数
2

終末期についての話し合いは患者家族のquality of lifeを規定する重要な要因である.本研究はがん治療医を対象とした質問紙調査の自由記述の質的分析から,終末期の話し合いにおける課題に関するがん治療医の意見を収集した.質問紙は864名に送付し490名から回答を得た.自由記述から合計420意味単位を分析対象とした.がん治療医が終末期の話し合いを行う際の問題として(1)患者家族の課題(【患者家族の個別性に対応することの難しさ】【病状理解の難しさ】)(2)医療者に起因する課題(【患者家族・医療者双方への精神的サポートの不足】【医療者間の考え方の相違】など)(3)システムと体制に関する問題(【時間・人的リソースの不足】【教育・研究の不足】など)が抽出された.本研究の知見は,今後緩和ケア医とがん治療医が共同してがん患者との終末期の話し合いを行う際の相互理解に役立つと考えられる.
著者
新城 拓也 岡田 雅邦
出版者
Japanese Society for Palliative Medicine
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.306-310, 2006

悪性腹水を伴うがん患者に対して, 腹水穿刺は有効な治療法である. 多くの症例は, 腹水の再貯留により頻回の穿刺が必要であり, 処置の苦痛と合併症を軽減する目的にカテーテルを留置する方法がある. 症例は, 73歳男性の膵臓がん患者. 合併した悪性腹水の貯留による症状緩和を目的に, 中心静脈カテーテルを留置した. 留置から死亡まで21日間, 連日1,000mlの腹水をドレナージした. 合併症であるカテーテル閉塞を防止するために複数の穴を加え, 発生した腹水リークに対しては医療用シアノアクリレート系接着剤(アロンアルファA®)を使用し良好な効果を得た. 中心静脈カテーテルを用いた腹水ドレナージは処置の侵襲を軽減させ, 低コストである. またカテーテル留置による合併症に対する工夫を報告した.
著者
李 美於 新城 拓也
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.527-530, 2015 (Released:2015-06-17)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

本邦では,フェンタニル舌下錠,フェンタニルバッカル錠が,がん疼痛の突出痛に対して投与可能となった.しかし,どのような病態の患者,またどのような突出痛にフェンタニル粘膜吸収剤を投与するか,具体的な報告は少ない.フェンタニル粘膜吸収剤の投与を推奨できない症例を提示する.77歳,男性,直腸がんの胸椎転移に対して,フェンタニル貼付剤 12.5μg/時を投与中,突出痛には,化学療法による悪心,嘔吐があったため,フェンタニル舌下錠 100μgを投与した.強い突出痛に対して,フェンタニル舌下錠を初めて使用したところ,6時間意識障害をきたした.重篤な呼吸状態の悪化がなかったため,経過観察した.回復後の後遺症はなかった.定時投与するオピオイドが経口モルヒネ換算 30 mg(オキシコドン 20mg,フェンタニル貼付剤 12.5μg/時)の患者に対しては,フェンタニル舌下錠 100μgを投与しない方がよい.
著者
坂本 雅樹 林 祐一 今藤 裕之 高山 悟 可児 久典 大橋 純子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.531-534, 2015 (Released:2015-06-22)
参考文献数
20
被引用文献数
1

消化器がん患者では黄疸による皮膚掻痒感を訴える例が多く,さまざまな治療・ケアが提供されるが,症状緩和に難渋することも多い.進行がんによる黄疸が原因の皮膚掻痒症に対して,牛車腎気丸が有効と考えられた 2例を経験した.【症例1】68歳男性,胆管細胞がん.閉塞性黄疸による掻痒感が持続し,内視鏡的経鼻胆管ドレナージ(endoscopic nasobiliarydrainage; ENBD)にて減黄しても掻痒感は軽減せず,種々の対症療法も無効であった.牛車腎気丸 7.5g分 3を投与開始し,睡眠が改善した.【症例 2】81歳男性,C型肝硬変,肝細胞がん.黄疸の進行により皮膚掻痒感が出現し,種々の治療は無効であった.牛車腎気丸を 5.0 g分 2で開始し,掻痒感 NRSが 10→3に減少した.黄疸による皮膚掻痒感に牛車腎気丸が有効であり,同様の症例に対して試してみてよい治療法と考えられた.
著者
平本 秀二 菊地 綾子 吉岡 亮 大津 裕佳 小東 靖史 後藤 容子 堤 ゆり江 平岡 眞寛 小野 公二
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.514-517, 2015 (Released:2015-04-16)
参考文献数
10
被引用文献数
4

進行胃がんの出血や通過障害に対する緩和的治療には,外科的治療,内視鏡的治療があり,多くの報告があるが,緩和的放射線治療の報告は少ない.2006年4月~2014年3月の間に当院で非切除進行胃がんの患者の症状緩和目的に放射線治療を施行した11例について検討した.治療目的は止血8例,狭窄解除4例であった.止血奏効率は63%,狭窄解除奏効率は50%であった.止血奏効期間中央値,狭窄解除奏効期間中央値はそれぞれ103日,52日であった.全生存期間中央値567日で,照射開始後生存期間中央値は105日であった.症状緩和目的の放射線治療は,外科的治療や内視鏡的治療より効果発現までに時間を要するため,症例を選べば一定の効果が期待でき,低侵襲であるため,よい選択肢となる治療である.
著者
大西 佳子 細川 豊史 坪倉 卓司 深澤 圭太 上野 博司 権 哲 原田 秋穂 深澤 まどか 山代 亜紀子 谷口 彩乃 波多野 貴彦 田中 萌生 仲宗根 ありさ 岡田 恵
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.509-513, 2015 (Released:2015-04-16)
参考文献数
10
被引用文献数
1

転移性脳腫瘍による頭痛は,腫瘍による脳血管の偏位や頭蓋内圧亢進に基づく硬膜の緊張,痛覚神経が存在する頭蓋内部位の牽引などで生じる.また,腫瘍の髄腔内播種やがん性髄膜炎による髄膜刺激症状などによっても生じる.頭蓋内圧亢進による頭痛の治療は,通常,高浸透圧輸液とステロイドの投与により脳浮腫の軽減と頭蓋内圧を下げることで行うが,内圧が下がらず頭痛治療に難渋することも少なくない.今回,頭蓋内圧亢進に基づく頭痛に対し,高浸透圧輸液とステロイド投与が奏功せず,オピオイドの増量が奏功した2 症例を経験した.痛覚神経への浸潤に対してはオピオイドが有効であるが,頭蓋内圧亢進による頭痛に対してオピオイドが有効であるという報告は過去にない.高浸透圧輸液やステロイドで頭蓋内圧が下がらず頭痛のコントロールが不十分な際は,NSAIDs やオピオイドの投与あるいは増量で対処を試みることは臨床的に十分価値があると考える.
著者
森本 有里 新城 拓也 関本 雅子 東川 俊昭 新國 雅史 大石 麻利子 石川 朗宏 槇村 博之 置塩 隆 岡田 泰長 本庄 昭
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.120-124, 2015 (Released:2015-02-05)
参考文献数
11

【目的】高齢者福祉施設の看取りと終末期ケアの現状把握をするために実態調査を行った.【方法】神戸市内の高齢者福祉施設350施設を対象に質問紙調査を実施した.【結果】350施設のうち314施設(回収率89.7%)から回答を得た.看取りを実施している121施設(39%),看取りに対して取り組む意思がある151施設(48%),胃瘻造設した入居者がいる152施設(48%),点滴可能183施設(58%),医療用麻薬使用可能72施設(23%)であった.【結論】高齢者福祉施設のうち看取りを実施している所は半数に満たないことが分かった.また医療的処置として胃瘻,点滴は半数程度の施設で対応可能だが,医療用麻薬を使える施設は少ないことが分かった.
著者
森田 達也 井村 千鶴
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.116-126, 2013 (Released:2013-02-28)
参考文献数
14
被引用文献数
3 3 1

本研究の目的は, 緩和ケアに関する地域連携を評価する評価尺度の信頼性・妥当性を検証することである. 476名の医療福祉従事者を対象として25項目からなる「緩和ケアに関する地域連携評価尺度」を開発した. 内的一貫性は良好であった. 因子分析により7因子(他の施設の関係者と気軽にやりとりできる, 地域の他の職種の役割が分かる, 地域の関係者の名前と顔・考え方が分かる, など)が同定された. Palliative care Difficulties Scaleの地域連携に関する困難感と有意な逆相関が認められた. 地域連携の全般的評価, 多施設多職種対象の研修会の参加回数, 困った時のサポートとなる人の数, 地域での臨床経験年数との間に有意な関連があった. 「緩和ケアに関する地域連携評価尺度」は, 緩和ケアに関する地域連携を評価する尺度となりうることが示唆された.
著者
宮原 強 小杉 寿文 仁田 亜由美 濱田 献 日浦 あつ子 森 直美 八谷 由貴 平川 奈緒美 佐藤 英俊 松永 尚
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.125-130, 2014 (Released:2014-11-11)
参考文献数
18

【目的】当院ではオキファスト®注(OXJ)の換算比として簡便な 「OXJ:モルヒネ注射剤:フェンタニル注射剤=1:1:1/50」 を用いているが, 妥当性を検討した報告はない. 【方法】OXJに切り替えたがん疼痛患者18例を対象に臨床的検討を行った. 【結果】OXJへの切り替え理由としては, 鎮痛効果不十分11例, 内服困難6例, 傾眠1例であった. 疼痛コントロール達成までの投与量調節に要した日数は平均0.6日であった. 鎮痛効果不十分例ではOXJ変更前後のnumeric rating scaleは3.3から1.1と有意な改善効果が認められ(p=0.007), 内服困難例では変更前後で同等の疼痛管理が得られた. OXJ変更による有害事象の悪化は認められなかった. 【結論】OXJへのオピオイオド・スイッチングに対し, 簡便な換算比を用いても, 臨床での疼痛コントロールや有害事象における問題は特に認められなかった.
著者
柴原 弘明 世古口 英 竹下 祥敬 鈴木 伸吾 森本 美穂 稲熊 幸子 森 陽子 工藤 壽美代 太田 由美 西村 美佳 植松 夏子 今井 絵理 西村 大作
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.523-528, 2013 (Released:2013-06-29)
参考文献数
10

【緒言】フェンタニル貼付剤による色素沈着の報告は現在までにみられない. 【症例】43歳, 男性. 直腸がん術後再発に対して, セツキシマブ+イリノテカン療法後, パニツムマブ+FOLFIRI療法を施行した. がん疼痛に対して, フェンタニル貼付剤(フェントス®)投与し, 再発部位に後方からの放射線療法を行った. 経過中, 胸部と腹部のフェンタニル貼付剤の貼付部位に色素沈着がみられた. 貼付中止後, 4カ月でほぼ消失した. 【考察】色素沈着の機序として, フェンタニル貼付剤による接触皮膚炎後の炎症後色素沈着である可能性が高い. 正確な機序の解明のためには, パッチテスト・皮膚生検が望ましい. 【結論】フェンタニル貼付剤投与時には, 色素沈着に留意する必要がある.
著者
栗秋 佐智恵 上村 智彦
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.118-123, 2014 (Released:2014-07-23)
参考文献数
22
被引用文献数
1 2

【目的】がん患者の臨死期の意思決定について検討した. 【方法】52例の診療記録, 半構造化面接による医師の意向をもとに, 臨死期の意思決定について分析した. 【結果】医師が病状説明した対象は52例中49例において家族・代理人で, 48例で家族・代理人が意思決定していた. 患者が臨死期の意思決定をしているのは4例だった. 話し合いから死亡までの日数中央値は4日だった. 患者が意思決定を行わなかった際の理由は, 病状悪化が最多だった. 臨死期の意思決定者にかかわらず, 全例でdo not attempt resuscitationが選択されていた. 15名中8名の医師が臨死期の話し合いを家族と行うと回答, 患者と話し合うと答えた医師はいなかった. 【結論】臨死期の意思決定は, 医師が患者より家族と話し合う傾向があること, 話し合いの時期が死亡時期に近いこともあって, 大部分の患者で家族が行っており, 全例がDNARの意向だった.
著者
高橋 修 加藤 聡彦 林 路子 清水 佳都子 千葉 康子 白濱 秋美 窪蔵 孝道 佐々木 啓吾 長嶋 敦 原 直 栗原 由紀子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.901-906, 2013 (Released:2013-11-13)
参考文献数
16
被引用文献数
1

【はじめに】がん難民「ゼロ」を目指す横浜市鶴見区の取り組みを報告する. 【現状】鶴見区内には, 区外・県外でがん治療を受ける患者も多いが, 治療終了後や状態悪化時には, 地元での療養を求められることも多い. 緩和ケア病床数は限られており, 緊急対応は困難である. 鶴見区では, 緩和ケアに積極的な診療所も多いが, 患者・家族の療養の場の希望は変化し, 最後まで在宅療養が可能とは限らない. 地域連携の拠点として「つるみ在宅ケアネットワーク」が組織され, 緩和ケアの充実を目標に活動している. 当院は専門施設として積極的に関与し, 診療所に対して緩和ケア提供状況をアンケートで把握, 在宅管理を依頼, 緊急時のバックアップを担保し, 基幹病院に対しては早期からの併診を求め, 円滑な移行を可能としている. 【課題】地域緩和ケア連携には専門施設が外来機能を強化し, 確実なバックアップを提供することが大切だが, 在宅スタッフのスキルアップ, 緩和ケアの啓蒙, 診々連携の構築が課題である.
著者
三浦 智史 松本 禎久 沖崎 歩 大石 麻里絵 鈴木 時子 元永 伸也 坂本 はと恵 關本 翌子 阿部 恵子 木下 寛也
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.107-115, 2013 (Released:2013-02-28)
参考文献数
17
被引用文献数
1 4

【背景・目的】国立がん研究センター東病院 緩和ケア病棟(PCU)では, 在宅支援診療所と連携しPCUの急性期運用に努めている. 今回, PCUから自宅への退院の予測因子を探索した. 【方法】当院PCUに入院した患者を対象とし, 入院診療録を後ろ向きに調査した. 2回目以降の入院またはperformance status (PS) 4の症例は解析から除外した. 転帰を退院群と死亡・転院群に分け, ロジスティック回帰分析を実施した. 【結果】2010年10月から2011年9月の1年間に解析対象患者は223名. 退院63名(28.3%), 死亡・転院160名(71.7%)であった. 多変量解析の結果, 自宅からの入院, PS 2以下, Spo2 97%以上, 入院24時間の摂取カロリー450 kcal以上, 呼吸困難なし, 腹部膨満感なしが独立した因子であった. 【結論】今回の結果を念頭に入院時スクリーニングを行うことで, 退院可能な患者を選択しうると考える. 本研究は後ろ向き研究で限界があるため, 今後, 前向き研究で妥当性を検証する必要がある.
著者
森田 達也 古村 和恵 佐久間 由美 井村 千鶴 野末 よし子 木下 寛也 白髭 豊 山岸 暁美 鈴木 聡
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.382-388, 2012 (Released:2012-07-31)
参考文献数
22

本研究の目的は, 患者所持型情報共有ツール『わたしのカルテ』の利用状況を明らかにすることである. 配布数, 医師706名・看護師2,236名の質問紙調査, 医療福祉従事者40名に対するインタビュー調査, 事例を分析した. 年間平均1,131冊が配布され, 15%の医師, 16%の看護師が使用した. 医療者の体験としては, 現状として【一部では使われているが全体には広がらない】, 効果として【患者の自己コントロール感が上がる】【医療福祉従事者間の情報共有になる】, 普及しない理由として【患者にとって利益がない・負担が大きい】【関係する地域の職種すべてが使用する必要がある】ことが挙げられた. 11病院で運用が試みられたが, 3年間継続した運用ができたのは2病院のみであった. わが国の多くの地域において, 患者所持型情報共有ツールを短期間に地域全体に普及させることの実施可能性は低いことが示唆された.
著者
篠原 明子 有賀 悦子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.331-334, 2008 (Released:2008-10-24)
参考文献数
11

【目的】今回, 門脈高度狭窄症例において経口投与されたオピオイドにより予測を超えた傾眠を呈し, 投与経路変更にて改善した1例を経験したので報告する. 【症例】下部胆管がんの術後局所再発およびリンパ節転移により門脈高度狭窄をきたした60歳代女性に, 外科で経口オキシコドン徐放錠剤10mg/日が投与され, 傾眠が出現したため当科に診察依頼があった. 生体利用率は低いが分割投与が可能な散剤を用いて, 経口モルヒネ徐放剤10mg/日に切り替え, さらに投与量を5mg/日に減量したが, 傾眠は持続した. これをフェンタニル貼付剤2.5mg半面貼付に変更したところ, 症状が改善した. 【結論】門脈血流低下症例では, 初回通過効果を受けないために経口オピオイド製剤の血中濃度が上昇する可能性があり, 投与時に十分な観察が必要である. また, 経口から経皮へのオピオイド投与経路変更が血中濃度上昇に伴う副作用の改善に有用である可能性が示唆された. Palliat Care Res 2008; 3(2): 331-334
著者
大谷 眞二 山本 直子 佐藤 尚喜 松波 馨士 岡本 幹三 黒沢 洋一
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.185-191, 2012 (Released:2012-07-18)
参考文献数
12

終末期がん患者における輸液量と呼吸困難・気道分泌との関連性を明らかにすることを目的として後ろ向き研究を行った. 悪性新生物により死亡した138例を対象とし, 死亡前1週の輸液量1,000 ml/日以下の少量群85例と1,001 ml/日以上の多量群53例に分けて呼吸困難と気道分泌の有無を比較した. また, これらの症状に影響のある因子を多変量解析で求めた. 呼吸困難と気道分泌は多量群の64.2%, 52.8%にみられ, 少量群(32.9%, 15.3%)と比較して有意に高値であった. 呼吸困難に関連していたのは肺病変(オッズ比3.55), 輸液1,001 ml/日以上(3.54), オピオイド投与(0.40)で, 気道分泌では肺病変(7.29), 輸液1,001 ml/日以上(4.43), 食事摂取(0.31)であった. 過量な輸液が呼吸器症状に影響を及ぼすことが示唆され, 1,000 mlを超えない輸液が1つの目安と考えられた.
著者
杉浦 八十生 井澤 菜緒子 根本 悦夫 信田 政子 加勢田 靜 井野元 智恵
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.530-536, 2012 (Released:2012-07-20)
参考文献数
21

症例は40歳代, 女性. 2011年3月, 胸部圧迫感を訴え, 胸部CTで前縦隔腫瘍, 両肺に多発結節を認めた. 2010年7月のCTでは病変はなく, 2011年1月の胸部X線写真でも明らかな病変は指摘できず, 急速な増大が考えられた. 既往歴に不正性器出血および月経困難症があった. 画像診断において, 骨転移, 子宮頸部および体部に複数の腫瘍が存在した. 前縦隔腫瘍および子宮腫瘍に対して針生検を施行し, 同一組織像であり, 胸腺未分化がん, 多発肺転移・子宮転移・骨転移と診断された. 急速に増大した胸腺未分化がんの子宮・骨転移に対する疼痛管理において, 骨転移に対してはオピオイドが有効だったが, 子宮収縮による内臓痛には無効であった. しかし, 子宮平滑筋への弛緩作用により塩酸リトドリンが著効した1例を経験したので報告する.
著者
渡辺 法男 安村 幹央 中川 千草 立山 健一郎 安田 公夫
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.310-312, 2007 (Released:2007-11-07)
参考文献数
10

【目的】オピオイド鎮痛薬は単剤治療が基本であるが, モルヒネとフェンタニルパッチ (FP) を併用することにより, 疼痛, 咳嗽・呼吸困難の症状緩和を得ることができた症例を経験したので報告する. 【症例】50歳代, 女性, S状結腸がん, 肝・肺転移. 疼痛に加え咳嗽・呼吸困難があったため, 硫酸モルヒネを開始し, 症状緩和を得た. 将来的に経口摂取が困難になることを考慮し, FPへの変更を計画した. しかしながら, フェンタニルの咳嗽・呼吸困難に対する効果は確立していないため, 咳嗽・呼吸困難に対しては少量の硫酸モルヒネを継続し, 疼痛に対してはFPにて調節を行い, 最後までモルヒネとフェンタニルの両成分を併用することにより, 疼痛, 咳嗽・呼吸困難の症状緩和を得ることができた. 【結論】経口摂取困難で, 疼痛に加え, 咳嗽・呼吸困難を有する症例に対して, 少量のモルヒネとFPの併用は, 安定した症状緩和を得るうえで有用であると考える.