著者
谷本 真理子 芥田 ゆみ 和泉 成子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.341-355, 2018 (Released:2018-12-21)
参考文献数
62
被引用文献数
9

【目的】日本におけるアドバンスケアプランニング(ACP)に関する研究を統合的にレビューし,現状と課題を検討する.【方法】2011年1月~2017年11月の医学中央雑誌,CINAHL, MEDLINEを検索,日本のデータを用いた研究でSudoreら(2017)のACP定義に沿う論文を選定し,統合的レビューを行った.【結果】選定された39論文のうち,研究方法は基礎的記述研究が最も多く,終末期医療の希望や事前指示の調査が多かった.近年ではACPの実施方法に関する研究もみられたが,診療録調査では患者の価値やゴールを反映したものかが不明,介入研究では介入方法の詳細が不明確等の限界があった.【結論】日本におけるACP研究は萌芽期にある.研究の枠組みとなる日本に適したACPとは何かを医療者と社会が協働して明確に定義し,社会的実装を支援する検証可能な知識の蓄積に資する研究が求められる.
著者
津野 丈彦 徳丸 隼平 小島 昌徳 木谷 洋輔 橋本 真也
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.305-311, 2018 (Released:2018-10-03)
参考文献数
20

頭頸部同時化学放射線療法が引き起こす重篤な口腔咽頭粘膜炎に対する強オピオイド鎮痛薬は疼痛が改善したら速やかに終了すべきであるが,使用期間は患者個々で異なる.そこで,本研究では適正使用の観点から,頭頸部癌患者46例を対象に検討を行った.その結果,治療後の強オピオイド鎮痛薬の漸減期間中央値は30日であった.患者背景と強オピオイド鎮痛薬投与期間の関連を調べたところ,施行した化学療法によって有意差がみられ(TPF vs. S-1 vs. Cmab, 35.0 vs. 44.1 vs. 180.7, p≤0.001),セツキシマブ使用が強オピオイド鎮痛薬投与期間長期化の要因となることが示唆された.漸減の経過において身体依存やせん妄等の症状はみられなかった.患者背景把握や化学療法選択の段階から,強オピオイド鎮痛薬の使用が長期化する可能性について評価し,治療終了後の疼痛状況に応じて減量や中止を検討することが重要である.
著者
野里 洵子 宮本 信吾 森 雅紀 松本 禎久 西 智弘 木澤 義之 森田 達也
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.297-303, 2018 (Released:2018-09-26)
参考文献数
24

【目的】緩和ケアの研修・自己研鑽に関するニーズに影響する要因を探索すること.【方法】緩和ケア医を志す卒後15年以内の医師を対象に質問紙調査を行い,満たされないニーズ(以下ニーズ)を5件法で評価した.ニーズは因子分析を行い,各因子の平均点を従属変数,背景要因を独立変数として単変量解析を行った.【結果】対象者284名に対して回答者は253名(89%),初期研修医・緩和ケア専門医などを除く229名を解析対象とした.ニーズは,研究・時間・キャリア・ネットワーク・質・幅広さの6つの因子が同定された.ニーズの因子得点に効果量≥0.4の有意差があった背景要因は,1)認定研修施設に勤務していない,2)勤務先・研修先が大病院ではない,3)施設内緩和ケア医数が2名以下であった.【考察】認定研修施設ではない病院,または小規模,または緩和ケア医の少ない環境で働く若手医師が受ける研修体制の改善は優先度が高い課題と考えられる.
著者
工藤 朋子 古瀬 みどり
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.287-294, 2018 (Released:2018-09-10)
参考文献数
19

【目的】死別後支援が必要な家族介護者を訪問看護師が予測する要因を抽出する.【方法】訪問看護師が,終末期利用者の家族介護者105人に,自作の質問紙を基に死別後支援を予測する要因の調査(死別前),死別後支援の必要性を判断する調査(死別後)を行った.そのうち同意を得た死別後の家族介護者30人に,研究者が聞き取り調査(うつ病自己評価尺度CES-D,健康関連QOL尺度SF-8TM)を行い.数量化2類により分析した.【結果】治療中の疾患あり,医療への不満あり,経済的負担あり,後期高齢夫婦世帯,同居家族は介護を任せがち,頼れる別居家族・親戚がいない,周囲の助けを遠慮する傾向,が抽出された(判別的中率76.7%,相関比0.42,P=0.001).訪問看護師による判断は,基準関連妥当性が検証された.【結論】これら7項目は,死別後支援が必要な家族介護者を見極めるための重要な要因である可能性が示された.
著者
宇根底 亜希子 河野 彰夫 冨田 敦和 石榑 清 杉村 鮎美 佐藤 一樹 安藤 詳子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.187-193, 2018 (Released:2018-05-11)
参考文献数
20
被引用文献数
1

【目的】ゲムシタビン(GEM)による血管痛の関連要因を明らかにする.【方法】2014年6月~2015年5月にGEMを末梢静脈より投与した患者の投与記録を抽出し,患者背景および投与状況と血管痛の関連について後方視的解析を行った.【結果】すべての項目に記載のある延べ400件(患者数50名)を対象とした.血管痛は79件(19.8%)に生じており,血管痛の関連要因は,性別(女性>男性),年齢(65歳未満>75歳以上),BMI(25 kg/m2以上>25〜18.5 kg/m2>18.5 kg/m2未満),剤形(液剤>凍結乾燥製剤),投与部位(手背部>前腕部>上腕および肘窩部)であった.【考察】血管痛を避けるためには上腕および肘窩部からの投与が推奨され,血管痛の関連要因を有する患者では,温罨法などの予防策を積極的に講じることが望ましい.
著者
中里 和弘 塩崎 麻里子 平井 啓 森田 達也 多田羅 竜平 市原 香織 佐藤 眞一 清水 恵 恒藤 暁 志真 泰夫 宮下 光令
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.263-271, 2018 (Released:2018-08-21)
参考文献数
31

【目的】1)緩和ケア病棟における患者と家族間の思いの言語化を支える家族支援(家族へのバーバルコミュニケーション支援)の有無と評価,2)家族へのバーバルコミュニケーション支援と「患者と家族との良好な関係性」および「ケアの全般的満足度」との関連を検討した.【方法】全国の緩和ケア病棟103施設における死亡患者の遺族968名に質問紙調査を実施した.【結果】536名を分析対象とした.支援を受けた遺族の割合は内容によって差がみられたが,評価は概ね高かった.重回帰分析の結果,患者と家族との良好な関係性では,全8つの支援で有意な正の関連が認められた.ケアの全般的満足度では,4つの支援(家族から患者への言語化の具体的提案,家族の思いを患者に伝える,患者の聴覚機能保持の保証,患者の思いを推察した家族への言葉かけ)で有意な正の関連が認められた(p<0.05).【結論】家族へのバーバルコミュニケーション支援の意義が示唆された.
著者
藤原 正博 金子 睦志 水島 美由紀
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.501-504, 2015 (Released:2015-01-08)
参考文献数
26

治療抵抗性の三叉神経痛に対してNMDA受容体拮抗作用を有するイフェンプロジルが有効であった3例を経験した.【症例1】原発性マクログロブリン血症で当院通院中の70歳,女性.60歳頃から三叉神経痛を自覚.カルバマゼピンは無効で,イフェンプロジルを投与したところ,2~4週間で痛みがほぼ消失した.休薬により症状が再燃したが,イフェンプロジルの再開により痛みが消失した.しかし,1年半ほどでイフェンプロジルの効果が減弱したため,プレガバリンに変更して経過観察中.【症例2】骨髄異形成症候群で当院通院中の89歳,男性.以前より三叉神経痛を訴えていたが,カルバマゼピン,神経ブロックは無効で,イフェンプロジルを投与したところ,2カ月程度で痛みが消失した.【症例3】62歳,女性.50歳代の頃から三叉神経痛を自覚.カルバマゼピンが無効で,イフェンプロジルの投与により,約1カ月で痛みが軽減した.
著者
米永 裕紀 青山 真帆 森谷 優香 五十嵐 尚子 升川 研人 森田 達也 木澤 義之 恒藤 暁 志真 泰夫 宮下 光令
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.235-243, 2018 (Released:2018-08-10)
参考文献数
21
被引用文献数
1

緩和ケアの質や遺族の悲嘆や抑うつの程度に地域差があるかを目的とし,2014年と2016年に実施された全国遺族調査のデータの二次解析を行った.ケアの構造・プロセスはCare Evaluation Scale(CES),ケアのアウトカムはGood Death Inventory(GDI),悲嘆はBrief Grief Questionnaire(BGQ),うつはPatient Health Questionnaire 9(PHQ-9)で評価した.関東をリファレンスとし対象者背景で調整し,比較した.CESとGDIは調整後も九州・沖縄で有意に高かった(p<0.05).BGQは調整後も中部,近畿,中国,九州・沖縄地方で有意に低かった(p<0.05).PHQ-9は調整後,有意差はなかった.いずれのアウトカムも効果量は小さく地域差がほぼないと考えられ,ケアの提供体制は地域で大きく変わらないことが示された.
著者
木村 祥子 松田 良信 吉田 こずえ 日吉 理恵 遠野 かおり 岡山 幸子 野間 秀樹 板倉 崇泰
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.194-200, 2015 (Released:2015-08-21)
参考文献数
29
被引用文献数
2

メサドンはがん疼痛治療薬として本邦でも使用可能となったオピオイドであるが,個人差の大きい薬物動態や重篤な副作用のため使用にあたり細やかな配慮が必要であり,広く使用されるには至っていない.今回,他のオピオイドからメサドンに変更導入を行ったがん疼痛のある44症例を通してその鎮痛効果と副作用の検討を行い,がん疼痛治療におけるオピオイド鎮痛剤の中のメサドンの臨床的意義を考察した.44症例のうち導入に成功したのは37症例(84.1%)であり,成功症例においてメサドン投与前後の疼痛強度(Numerical Rating Scale;NRS)は平均7.5から2.8に低下していた.副作用として強い眠気が6例,嘔気が3例にみられたが,QT延長や呼吸抑制の重篤なものは認めなかった.高用量のオピオイドを必要とする難治性のがん疼痛患者では,メサドンも疼痛治療の選択肢となり得ると考えられた.
著者
永井 純子 植沢 芳広 加賀谷 肇
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.161-168, 2015 (Released:2015-08-12)
参考文献数
43
被引用文献数
2 6

オキシコドンの薬効および体内動態は性差等の患者背景に依存することから,副作用と患者背景因子の関係の把握は臨床上重要な知見を与える可能性がある.そこで,独立行政法人医薬品医療機器総合機構・医薬品副作用データベース (JADER)を用いた解析を試みた.オキシコドン投与患者において,主要な副作用症例の年齢・性別による発現傾向の変化を観察した.オキシコドンに関連する重要な有害事象は,モルヒネおよびフェンタニルと共通して臨床的に認知されている譫妄,悪心・嘔吐等の症状であった.女性において悪心,下痢などの消化器症状が,男性においては間質性肺疾患が報告の多い有害事象であった.一方,非高齢者と比較して高齢者における有害事象は傾眠,譫妄等の報告が多かった.以上の結果は,オキシコドン投与時の副作用マネジメントの個別化において有用な知見となるものと期待される.
著者
犬丸 杏里 玉木 朋子 横井 弓枝 冨田 真由 藤井 誠 辻川 真弓
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.181-186, 2018 (Released:2018-05-11)
参考文献数
12
被引用文献数
1

【目的】終末期ケアシミュレーション(terminal care simulation: TCS)参加者がTCSを通して何を感じたかを質的に明らかにすることを目的とした.【方法】TCS後に振返り用紙への自由な回答を求め,その内容を質的に分析した.【結果】参加者39名.振返り用紙へ記載された内容は334記録単位に分割でき〈コミュニケーションに関する知の獲得〉〈実施方法への評価〉〈看護に関する自己の理解〉〈看護に関する自己の肯定的見通し〉〈終末期に関する知の獲得〉〈場の雰囲気に対する評価〉〈学習機会の取得〉〈看護に関する自己の肯定的変化〉〈デブリーフィングの効果〉〈経験への評価〉〈リアリティの実感〉〈看護の知の獲得〉〈教員の関わりに対する評価〉の13カテゴリーが形成された.【考察・結論】現実的な感覚が結果に現れたことから,模擬患者の協力がTCSでの現実味の体験に貢献したと考える.
著者
谷川 明希子 片山 寛次
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.147-152, 2018 (Released:2018-04-18)
参考文献数
21

強オピオイドは癌性疼痛に有用であり,副作用は悪心・嘔吐,眠気,便秘等が知られ,過量投与では呼吸抑制や意識障害をきたす.今回,強オピオイド開始直後に悪心と羞明,少量で意識障害と縮瞳をきたした症例を経験した.79歳男性が肝細胞癌stage IVBで肋骨転移あり,癌性疼痛を認めた.除痛のための強オピオイド開始直後に強い悪心と羞明を認めた.オキシコドン塩酸塩水和物は強い悪心で中止し,モルヒネ硫酸塩水和物は羞明で中止した.フェンタニル貼付製剤は1 mgで一過性の健忘,2 mgで縮瞳と意識障害を認め,中止した.呼吸抑制は認めなかった.強オピオイドは羞明もきたしうる.少量でも縮瞳や意識障害をきたす症例もある.強オピオイド開始時に強い副作用や羞明を認めた場合には,少量でも縮瞳や意識障害をきたす可能性があり,注意した観察が必要である.
著者
武富 由美子 田渕 康子 熊谷 有記 坂本 麻衣子 牧原 りつ子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.139-145, 2018 (Released:2018-04-18)
参考文献数
35

【目的】一般病棟のがん患者遺族の心的外傷後成長(posttraumatic growth: PTG)の特徴と関連要因を明らかにする.【方法】同意を得た死別後1~4年の遺族42名に,郵送で無記名の自己記入式質問紙調査を行った.【結果】37名(有効回答率97%)に回答を得た.PTGI総得点項目平均値は2.63で,先行研究の一般病院や緩和ケア病棟のがん患者遺族と同程度であった.そして,PTGI総得点は情動焦点型コーピング,認識評価的サポート,情緒的サポートと正の相関を示した.また,自宅療養した遺族のPTGI総得点は,しなかった遺族より有意に高かった.【結論】遺族が悲嘆感情を上手く切り替えることができるか,ソーシャルサポートを受けられるか,またそのネットワークがあるかをアセスメントし,支援提供の場について情報提供をしていく必要がある.また,患者が自宅療養できる支援体制の整備も必要である.
著者
木下 里美 宮下 光令 佐藤 一樹
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.121-128, 2018 (Released:2018-03-29)
参考文献数
34
被引用文献数
1

米国のIntensive Care Unit版Quality of Dying and Death(ICU-QODD)医療者版の終末期における患者の体験に関する評価15項目から,ICU-QODD看護師評価用の日本語版を作成し,総合評価として使用可能かを検討した.尺度の因子妥当性と内的一貫性の確認のための調査は1372名,再調査信頼性の確認のための調査は39名のICU看護師から回答を得た.探索的因子分析の結果,6項目2ドメインとして確定し,「身体症状」,「尊厳」と命名した.Cronbachʼs α係数は,「身体症状」が0.89,「尊厳」が0.75であった.級内相関係数は,「身体症状」が0.62,「尊厳」が0.72であった.因子妥当性,内的一貫性,再調査信頼性のある尺度であることが確認できた.15項目のうち6項目が総合評価として使用可能であることが示唆された.
著者
角甲 純 大園 康文 小林 成光 關本 翌子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.115-120, 2018 (Released:2018-03-23)
参考文献数
15

【目的】デスカンファレンスで話し合われた内容を明らかにする.【方法】2012年5月〜2014年11月までの期間に,国立がん研究センター東病院の緩和ケア病棟で行われたデスカンファレンス60件について,診療録およびデスカンファレンス実施時の記録用紙を後ろ向きに調査し,内容分析を行った.【結果】期間中に行われたデスカンファレンスから,170単位のデータを抽出した.最終的に5つのカテゴリーに分類し,[ケア対象としての家族を支える][患者の思いを汲み取り大切にする][症状を緩和し苦痛を取り除く][医療者間における連携の大切さを実感する][患者との関わりに苦慮する]とした.【結論】デスカンファレンスは,さまざまな視点と方向から支援を振り返る有用な機会であることが示唆された.
著者
梶山 倫子 吉岡 さおり
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.99-108, 2018 (Released:2018-03-23)
参考文献数
50
被引用文献数
3

本研究の目的は,終末期がん患者の在宅療養移行に向けた一般病棟看護師の意思決定支援の特徴とその関連要因を検討することである.本研究で新たに意思決定支援項目(17項目)を作成し,重回帰分析により関連要因を検討した.看護師1,019名を対象に質問紙調査を実施し,有効回答は653であった(有効回答率64.0%).分析の結果,「がん患者の在宅療養移行支援経験(β=0.26)」「看護師の自律性:具体的判断能力(β=0.23)」「看護師の自律性:実践能力(β=0.18)」「在宅看護論履修(β=0.13)」「死後の世界観(β=0.12)」「家族看護に関する学習経験(β=0.07)」が関連要因として特定された.調整済みR2は0.27であった.終末期がん患者の在宅療養移行における看護師の意思決定支援には,経験に基づく看護実践能力,在宅看護や家族看護に関する学習経験,死についての考え方などの関連が示唆された.
著者
照屋 典子 砂川 洋子 豊里 竹彦 伊波 華 知念 正佳 木村 安貴 與古田 孝夫
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.49-56, 2018 (Released:2018-02-20)
参考文献数
42

本研究は,喉頭摘出者の不安・抑うつ傾向と個人属性および日常生活における困難感との関連性を検討することを目的とした. A県患者会に所属する135名を対象に無記名の質問紙調査を行った.調査内容は基本属性,日常生活における困難感,不安・うつ尺度(NAS-J-L 6項目)である.有効回答が得られた43名を対象として重回帰分析を行った結果,年齢(β=-0.369,p=0.004),外出・趣味に関する困難感(β=0.419,p=0.002)は不安・うつ尺度得点と有意な関連性が認められ,若年,中年者および外出・趣味に困難を有する者では不安・抑うつ傾向が高いことが明らかとなった.看護者はこれらの対象者に対し,より注意深く心理状況や生活環境のアセスメントを行い,継続的な心理社会的支援を行う必要性が示唆された.
著者
村上 真基 荒井 進 稲葉 裕
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.57-62, 2018 (Released:2018-02-20)
参考文献数
20

【目的】血液検査のみで構成されたがん患者用生物学的予後スコア(Biological Prognostic Score第2版)を終末期非がん患者の予後予測に応用することの適応と限界を検討した.【方法】後ろ向きに非がん入院患者のコリンエステラーゼ,血中尿素窒素,白血球数より予後スコアを算出し,カットオフ値で3群に分け,予測精度分析,生存解析,回帰分析を行った.【結果】がんと同じカットオフ値・予測生存期間における非がん患者204名の予後予測精度は,生存期間3週で正診率79%,9週で63%であった.特異度,陰性的中率は精度が高く,感度,陽性的中率は低かった.生存解析では3群間の識別は有意(p<0.05)であったが,回帰分析における回帰係数は有意ではなかった(p=0.43).【結論】非がんに対する本スコアを用いた予後予測では,予後良好の場合の予測精度は高く,慎重に用いれば臨床使用も可能であると示唆された.
著者
谷本 真理子 髙橋 良幸 服部 智子 田所 良之 坂本 明子 須藤 麻衣 正木 治恵
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.108-115, 2015 (Released:2015-04-08)
参考文献数
14
被引用文献数
2

本研究は,一般病院における非がん疾患患者に対するエンド・オブ・ライフケア実践を熟練看護師の実践知から明らかにした.7 名の慢性疾患看護専門看護師の実践事例のインタビューから質的統合法(KJ 法)を用いて最終ラベルを抽出した.熟練看護師は,患者の生き方の意思決定を支える関わりと,患者家族の生き方に沿う関わりを,状態悪化の過程にある患者の自尊感情の回復,満足感,納得を指標に定めていた.一般病院では患者の苦痛対応策が不十分であることや,多職種とのケアの合意や他施設とのケア継続は困難を伴うが,熟練看護師は患者の意向を日々捉えながら,家族や地域ケア体制に患者の意向を浸透させる調整を行っていた.治療の場でのエンド・オブ・ライフケア実践では,家族,医療者も共に了解しながら患者を支え続けることができる支持的環境,診断初期より関わる医療者の意識向上と患者の意思決定を支える支援技術の向上が必要である.
著者
長岡 広香 坂下 明大 濵野 淳 岸野 恵 岩田 直子 福地 智巴 志真 泰夫 木澤 義之
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.789-799, 2017 (Released:2017-12-28)
参考文献数
14

緩和ケア病棟への転院に関する障壁を明らかにすることは,がん患者が望んだ場所で療養できる体制の整備を通して,quality of lifeへの寄与が期待できる.本研究では,がん終末期患者の緩和ケア病棟転院の障壁を明らかにすることを目的に,がん拠点病院424施設のソーシャルワーカー・退院調整看護師を対象に自記式質問紙調査を行った.探索的因子分析により,緩和ケア病棟への転院の障壁11因子が同定された.病状・予後に関して医師から患者に十分説明を行うこと,適切な時期に気持ちの配慮をしながら多職種で意思決定し緩和ケア病棟に紹介すること,がん拠点病院と急性期病院,緩和ケア病棟,在宅等の地域の医療機関との緩和ケア連携体制を整備すること,緩和ケア病棟への入院が必要な患者を適切に評価する仕組みを作ることは,ソーシャルワーカー・退院調整看護師から見た緩和ケア病棟転院の障壁を軽減する可能性があると考えられた.