著者
渡邉 小百合 吉野 孝
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.43-51, 2018-01-15

近年,ドラマやアニメの舞台への聖地巡礼等の新しい形態の旅行が出てきたことや,外国人旅行者の増加から,観光地に対して新しいニーズが発生してくることが考えられる.これより,観光地側も観光客のニーズや問題点を知り,観光地の発展につなげていく必要がある.しかし,Twitterにおいて「観光地名が入っていない観光地に関するツイート」の収集が困難であるという問題があった.そこで本研究では,観光地名を含まないツイートからの観光地に関する感想の抽出手法について検討し,下記を明らかにした.(1)観光地の特徴語を含むツイートの中には,観光地に関する感想が含まれている可能性がある.(2)観光地名入りツイートの前後に呟かれた観光地名なしツイートの中には,観光地に関する感想が含まれている可能性がある.(3)観光地名入りツイートに対するリプライには,観光地に関する感想が含まれている可能性がある.(4)観光地名を含まない画像付きツイートには,観光地の食べ物や催し物に関する感想が含まれている可能性がある.
著者
中村 聡史 鈴木 正明 小松 孝徳
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.2599-2609, 2016-12-15

綺麗な文字を書くということに日本人の多くは興味を持っていると考えられる.さて,綺麗な文字とはどのような文字だろうか?本研究では,人の手書き文字をフーリエ級数展開によって数式化し,その式の平均を計算することによって,平均的な文字を生成することを可能とした.また,その平均文字を利用した実験により,実際に書いた文字よりユーザの平均的な文字が高く評価されること,ユーザの平均文字より全体としての平均文字が高く評価されることを明らかにした.さらに,ほとんどの人が自身の文字を高く評価する傾向があることも明らかにした.Almost Japanese are interested in handwriting beautiful characters. Here, what is beautiful handwritten character? In this paper, we proposed a method to generate average handwritten characters by using Fourier series expansion. Then, an experimental test showed that user's average characters are more beautiful than user's handwritten characters. Another test showed that average characters of users are more beautiful than each user's average characters and that almost all users evaluate own average characters highly.
著者
隅田 麻由 水本 旭洋 安本 慶一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.399-412, 2014-01-15

本論文では,個人の身体条件に適した負担度でのウォーキングを支援するシステムの実現を目指し,スマートフォンで利用可能な機能のみを用いた心拍数推定法を提案する.提案手法では,歩行中の心拍数を推定するために,機械学習を基に,加速度や歩行速度などの歩行データから心拍数を予測する心拍数モデルを構築する.心拍数の突発的な変化に対応するため,モデルの入力として心拍数変化と関連性が高い酸素摂取量に着目する.そして,加速度および位置情報などのスマートフォンで計測可能なデータから酸素摂取量の変化を正確に推定する方法を新規に提案する.また,学習データのない様々なユーザに対して心拍数を推定できるようにするため,過去の運動習慣を基に分類したユーザカテゴリごとに心拍数モデルを構築し,パラメータの最適化,心拍数データの正規化などを適用する.複数の被験者および歩行ルートについて実際に計測したデータに本手法を適用した結果,6.37bpm(拍/分)以内の平均誤差で心拍数の推定ができること,提案する酸素摂取量推定法が平均10bpm以上の誤差の軽減に寄与することなどを確認した.
著者
荻野 貴大 高田 哲司
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.1833-1842, 2017-12-15

Drive-by Download攻撃などWebを通じたマルウェア感染の脅威が問題になっており,その対策が求められている.Webはpull型の情報メディアであるため,マルウェアを流布するためには,Web閲覧者をマルウェア流布のために構築した「仕掛け」に誘導する必要がある.本研究では,このために既存のWebページを改ざんし,「仕掛け」に誘導するページを「誘導ページ」と定義し,その検出を可能にする研究を行った.誘導ページに関するWeb記事を対象に調査を行い,その結果から悪性コンテンツが隠蔽されるという特徴に着目した.この特徴を基に判定ルールを策定し,Webブラウザ上で誘導ページを検出可能にするプロトタイプシステムをFirefoxの拡張機能として実装した.実装したシステムを用いて誤検出率に関する検証を行った結果,False Positiveについては5%を下回る結果を得た.また実際の運用可能性についても検証を行い,実用性についても見込みがあることを示した.
著者
北條 真史 長尾 洋也 宮尾 武裕 首藤 一幸
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.439-447, 2015-02-15

センサが構成する無線メッシュネットワークなどにおいてメッセージ配送やデータ収集を行うためには,ノード群でオーバレイネットワークを構築することが有望である.地理的な近接性を考慮したルーティングや範囲問合せを行うためには,ノード位置に基づいたオーバレイネットワークの構築が必要となる.ノード位置をIDとして用いる場合,ルーティングの方式には,ノード位置すなわちIDに偏りがあっても経路長を短く抑えることが求められる.我々は,この要件を満たし,かつ,構造化オーバレイの設計手法である柔軟な経路表(FRT)の特長を備える構造化オーバレイを提案する.柔軟な経路表の特長とは,経路表サイズの動的な設定や高い拡張性を指す.提案手法は,既存手法の1つであるP2Pドロネーネットワークをトポロジとして採用し,ホップ数の推定に基づいて遠隔ノードとのショートカットリンクを形成することによって経路長を短く抑える.It is a promising way to construct an overlay network with sensor nodes for wireless mesh networks to perform message delivery and data collection from the nodes. It is necessary for an overlay to reflect nodes' locations to perform geometric routing and geometric search, for example node IDs on the overlay are nodes' location. Furthermore, a route on the overlay should be small, in other words, involve small number of hops even if the distribution of node locations and IDs are biased. A structured overlay presented in this paper fulfills the requirements and provides features of Flexible Routing Tables (FRT), a method for designing routing algorithms for structured overlays. Features of FRT are the dynamic routing table size and high extensibility. The proposed overlay adopts P2P Delaunay Network as its topology, and the method keeps route length short by forming shortcut links to distant nodes based on the estimated number of hops.
著者
可児 潤也 鈴木 徳一郎 上原 章敬 山本 匠 西垣 正勝
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.2232-2243, 2013-09-15

近年,既存のCAPTCHAにおける脆弱性が多くの研究者によって指摘されており,人間の「より高度な知識処理」を利用してCAPTCHAを強化する方法が検討されている.また,人間である正規ユーザにとって,CAPTCHAに解答することは本来不要の「煩わしい手間」であるため,CAPTCHAの利便性についても考慮しなければならない.そこで本論文では,人間の「ユーモアを解する能力」に注目し,4コマ漫画を用いたCAPTCHA方式を提案する.ユーモアを解する能力は人間の究極的な認知処理能力の1つであると考えられており,高いマルウェア耐性が期待できるとともに,4コマ漫画のエンタテイメント性が「正規ユーザに心地良さを与えるCAPTCHA」の実現に寄与すると考えられる.評価実験およびアンケート調査を通じ,4コマ漫画CAPTCHAの可用性について論ずる.As many researchers have already reported, conventional CAPTCHA could be overcome by state-of-the-art malware since the capabilities of computers are approaching those of humans. Therefore, CAPTCHA should be based on even more advanced human cognitive processing abilities. In addition, it is also important to keep in mind that answering CAPTCHA is an added annoyance for users, who feel troublesome to prove that they are human at every Web access. So, CAPTCHA should be enjoyable for users. To cope with these issues, we have focused on the human ability to understand humor which is considered as one of the most advanced human cognitive processing abilities, and proposed the concept of a new type of Turing test that uses four-panel cartoons, which would make CAPTCHA test fun and enjoyable. This paper carries out experimental study to confirm the usability of the proposed CAPTCHA.
著者
根本 啓一 高橋 正道 林 直樹 水谷 美由起 堀田 竜士 井上 明人
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.1600-1613, 2014-06-15

近年,自発的・持続的な行動変革を誘発するためのアプローチとして,ゲーミフィケーションが着目されている.ゲーミフィケーションはゲームの考え方やデザイン・メカニクスなどの要素を,ゲーム以外の社会的な活動やサービスに利用するものとして定義される.このゲーミフィケーションを活用して,多数のユーザの行動変容を促すことで,社会的な課題を解決する活動が生まれている.本稿は,このような社会的課題の解決にゲーミフィケーションを活用することに関して述べている.従来の社会課題解決型のゲーミフィケーションは,ウェブ作成者など特定の作者が作成した仕組みを使って,ユーザの行動を喚起するために利用されることが多かった.しかし,個々のユーザやコミュニティが抱えている課題は多種多様であるため,課題解決の観点では,本質的課題をとらえることが難しい.課題を抱えるユーザ自身が行動をデザインすること,必要に応じて改良可能な参加型の仕組みが必要である.そこで,課題を持つユーザ自身による課題解決のための自発的・持続的な行動の設計と実行をゲーミフィケーションを利用して支援する仕組みを提案する.我々は,参加者が自らの課題に取り組むためのゲームを設計するワークショップを設計・実践し,さらに,そのアイデアをゲームにして実行に移すことができる,ゲーミフィケーション・プラットフォームと呼ぶウェブサービスを試作した.ゲーム作りのワークショップを計3回実施し,48名が参加した.プラットフォーム上には9つのゲームが作成され,ゲームプレイを通じて827個の行動がなされた.本稿では,これらの結果をふまえ,動機づけ,能力,誘因という3つの観点から自発的・持続的な行動を生み出すための課題について考察する.
著者
東 和樹 新井 イスマイル
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.384-395, 2017-02-15

設備負担のない屋内測位手法で,スマートフォン搭載センサを駆使するものとしてWi-Fi・地磁気フィンガープリンティング(以下,FP)の双方を組み合わせた手法が提案されている.Liらの研究ではWi-Fi FPの測位結果周辺で地磁気FPを行うことで測位する.しかし提案されている手法では一方のFPが良い精度であっても,もう一方のFPの精度に測位結果が大きく影響されるという性質がある.この問題点を解決するために,観測したWi-Fiアクセスポイント(以下,AP)のBSSID観測状況に応じて制限したエリア内で地磁気FPを行った結果と,Wi-Fi FPの結果を,Wi-Fi FPの信頼度で加重平均することで,安定した精度を得る手法を提案する.評価の結果,測位誤差の平均値6.95m,中央値3.48m,測位失敗率0%となった.また実験環境上に存在するAPのBSSIDを無作為に75%削減したときの,測位誤差が5m以内に収まる確率について,Liらの手法は28%に対し,提案手法は48%を達成し,Wi-Fi FPの高い精度を維持したまま,Wi-Fi FPで測位できないエリアも安定した精度で測位できた.
著者
冨野剛 井上 亮文 市村 哲 松下 温
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.7, pp.2091-2098, 2006-07-15
参考文献数
14
被引用文献数
3

従来のテレビ会議システムは,表示サイズや表示解像度が限られているため「誰が発言者か分かりにくい」または「発言者の表情をとらえにくい」などの問題点があった.著者らは,会議室内の参加者の中から発言者を自動的に検出し,検出した発言者を拡大表示して遠隔地に伝送することが可能なテレビ会議システムを構築することを狙いとして研究を実施している. 本論文では,このような1拠点に10人程度が参加できる1拠点多人数参加型テレビ会議システムを構成するための,マイクロフォンアレイと映像処理を用いた映像表示法について述べる.汎用PCと市販音響機器のみから構成されていることが特徴であり,特殊なハードウェアを使用することなく,通常の会議室環境において10人程度の会議参加者から発言者の方向を検出して拡大表示することが可能である. マイクロフォンアレイからの音声情報をデジタル処理して発言者の位置を特定する手法と,複数の人物を含む映像をデジタル処理して発言者の人物の上半身映像を拡大表示する手法によって実現した.また,紙をめくるノイズが発言と間違われないよう工夫を行った.Due to the limitation of display size or resolution of traditional TV conference systems, we can not see detailed expression on speaker's face shown on a TV screen, or can not even see who is speaking from the remote site. We have been developing a TV conference system where a speaker is automatically identified and his/her face is zoomed in on the TV screen, so that remote participants can better read speaker's facial expression. In this paper, a microphone array and video processing for TV conference systems are described. Our microphone array system is unique because it consists only of one consumer PC, an extra PC sound card, two general cameras, and four omni directional microphones; no other special hardware or special operating system is required. It has a capability that a speaker can be detected out of more than 10 participants in a meeting room. The system expands speaker's upper-body image based-on the speaker's position detected with the microphone array. Then we propose a method to prevent the system from mistaking paper flip-flap noise for voice from a speaker.
著者
押切 徹 齊藤 泰一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.1964-1970, 2014-09-15

時限式暗号(Timed-Release Encryption, TRE)とは,復号できる時刻を暗号化の際に指定できる暗号方式である.本稿ではIDベース暗号(Identity-Based Encryption, IBE)にTREの機能を持たせた時限式IDベース暗号(Timed-Release Identity-Based Encryption, TRIBE)を提案し,その安全性定義を行う.さらにIBEとワンタイム署名からなるTRIBEの一般的構成法(generic construction)を示し,定義した安全性を満たすことを証明をする.Timed-Release Encryption (TRE) is an encryption mechanism that allows a receiver to decrypt a ciphertext only after the time that a sender designates. We propose a notion of identity-based encryption scheme with TRE encryption mechanism, timed-release identity-based encryption (TRIBE), and define its security models. Moreover we show a generic construction of TRIBE from IBE and one-time signature, and prove that the constructed scheme achieves the security we defined.
著者
佐々木 孝輔 平田 章 井上 智雄
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.260-269, 2016-01-15

イラストは,読者を引きつけると同時に文書などの可読性を高めることができるが,だれでも作成できるものではないため,需要が大きいコンテンツの1つである.従来,高品質かつ高価格で,イラストを必要とするクライアントの要望に応じ最適なイラストがプロのイラストレータによって提供されてきた.これに対して本研究では,クライアントの要望に則したイラストを描画能力を問わない複数人で作成することを目的とし,線画イラスト作成をマイクロタスク化し,それをクラウドソーシングにより実行する線画イラスト生成手法を考案した.本手法では1枚の写真を原図とし,複数の一般ワーカが原図を見ながら少しずつ線を描き加えることで,1枚の線画を生成する.本手法による線画イラスト生成の実験から,実際に線画イラスト生成が可能であることが確認できた.Illustration is a key factor to attract document readers. However not everybody can make it in good quality. Thus illustration has high demand. Although conventionally clients request skilled creators to draw illustrations with good rewards, there exists huge needs for less expensive illustrations. We propose a novel method of generating such illustrations by crowd-sourced microtasks. In this method, a basic drawing is generated by unskilled crowd workers from one photograph. Experimentation to study the feasibility of the proposed method indicated positive result.
著者
伊藤 英明 中西 英之 石田 亨 スコット ブレイブ クリフォードナス
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.256-265, 2003-02-15
参考文献数
10
被引用文献数
7

我々は,計算機の高度な専門的知識を使わずに短時間で仮想空間を用いた社会心理学実験のための環境を実現できる,3次元仮想空間環境を開発した.社会心理学実験を仮想空間において行う利点は次の2つである.1つは,ネットワークを介することで地理的な制約が解け,従来ではできなかった,国際的な協力関係のもとでのコラボレーション実験や異文化間コミュニケーション実験が可能となることである.2つめは,実空間と比較し,社会心理学実験のための実験環境の実現が容易であることである.先行研究により,仮想空間が社会心理学的研究に耐えられるものであることは分かったが,それらの研究では実験環境の実装をハードコーディングで行っていたため,実験環境の準備には計算機分野の専門的知識が必要であった.そこで,こうした専門知識を持たない研究者でも仮想空間を用いた社会心理学実験が可能となる仮想空間環境を設計・実装した.その後,この仮想空間環境をスタンフォード大学と京都大学との共同クラスとして行われた社会心理学実験で使用することでその評価を行った.その結果,社会心理学の実験デザインに沿った実験環境の実装を従来より短時間で,また高度な専門知識なしに行うことができた.We developed a 3D virtual space environment for social psychological experiments.By using this, researcher can conduct social psychological experiments quickly in the virtual space even if they don't have much knowledge on computer.There are two advantages for us to conduct these experiments in the virtual space.One of the advantages is elimination of geometrical barrier. Virtual spaces can connect experimenters and subjects overseas so that international collaborative cross-cultural experiments become much easier.The other is that it is much easier to construct setup for social psychological experiments in virtual spaces than in real worlds.Recent investigations have demonstrated that virtual environments can be useful in the social psychological studies.However in those researches, the researchers need special knowledge on computer science because they have to implement the virtual environment by themselves.Therefore the purpose of this study is to design and implement the virtual space environment by which nonspecialists on computer science can conduct social psychological experiments easily.We evaluate this virtual space by using in the joint class on social psychology between Stanford Univ. and Kyoto Univ.As a result, our software showed great efficiency and students in the class can prepare the virtual environments more quickly and easily according to their designs of experiments.
著者
中谷 多哉子 藤野 晃延
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.48, no.8, pp.2534-2550, 2007-08-15
被引用文献数
6

ビジネスとは,複数の人々が関与し,各々の人々が各自に与えられた責務を,自分たちの意思によって達成し,同時に,組織としての目的を達成する営みである.したがって,ビジネスシステムの要求分析では,システムの利用者だけでなく,正負の影響を受ける複数の人々の責務と,それへの影響を分析しなければならない.ビジネス領域を分析する目的は,システムへの要求の背景を明らかにして,要求が発せられた根拠を示すことにある.我々はビジネスシステムの要求を獲得するための手法として,RODAN を開発している.RODAN を適用する分析者は,ステークホルダが担うロールに着目し,個人へのインタビューから得られた要求の背景を明らかにすることができるようになる.本稿では,最初にRODAN を適用して得られる成果物のメタモデルを示し,金庫という身近な事例に適用した結果を用いて手法を評価する.この手法を適用した結果,要求の背景を明らかにすることによって,未定義の要求を発見できること,さらにミスユースケースを得るためのネガティブアクタを抽出できることを示すことができた.最後に,手法の実用性についても考察を行う.One of the purposes of analyzing a business domain is to reveal the background of customers requirements. The resulting artifact provides us the reason why the requirements arise and what the customers' problems are. We are developing RODAN as a requirements elicitation method for customer's business domain. When RODAN is applied to the business domain, analysts focuse on a personal view of their customers. The view is determined as a role that the stakeholder plays. This paper presents a metamodel of RODAN with a product perspective. It is build as a model of a common structure of "business domain" with stakeholders and their roles. RODAN is evaluated by applying an example. As a result of the application, undefined requirements can be extracted as well as anti-actors for misuse cases with the background of the requirements. We also discuss on the practical aspect of RODAN applications.
著者
中山 颯 鉄 穎 楊 笛 田宮 和樹 吉岡 克成 松本 勉
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.1399-1409, 2017-09-15

IoT機器の中にはTelnetサービスが動作し,容易に推測可能なIDとパスワードでログインができるものが大量に存在しており,この状況を悪用したサイバー攻撃が多数観測されている.本研究ではTelnetを利用したサイバー攻撃において,特にログインチャレンジとログイン成功後に使用されるシェルコマンド系列に着目した分析を行う.特にハニーポットにより観測される攻撃とハニーポットにより収集したマルウェアの動的解析により観測される攻撃を突合することで,攻撃元のマルウェアの識別を行い,マルウェア流行の状況把握を試みる.また,攻撃に利用されるID/パスワードを調べることで攻撃目標となっている機器の種類が増加傾向にあることを示す.
著者
市川 幸宏 伊沢 亮一 白石 善明 森井 昌克
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.8, pp.2524-2534, 2006-08-15

コンピュータウイルスによる被害を軽減させるためには,ネットワーク上において早期に検知し,いち早く廃棄する必要がある.コンピュータウイルスを検知するためには,まずそのコンピュータウイルスを解析する必要がある.通常,その解析はアンチウイルスベンダに所属する技術者によって,基本的にそのウイルスコードを1 行1 行解析する手法がとられている.亜種も含めて,大量にコンピュータウイルスが発生する現在,その解析能力は飽和状態にあり,ウイルス解析者を支援するシステムの開発が希求されている.本論文では,既知のコンピュータウイルスだけでなく,未知のコンピュータウイルスを解析することを目的として,ウイルス解析者を支援するシステムを提案している.提案システムは,ウイルスコードを直接解析するのではなく,実行時に動作するメモリ上に展開されたコードを解析し,難読化が施されたコードであっても解析が可能となっている.
著者
福嶋 良平 片寄 晴弘
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.11, pp.1756-1764, 2017-11-15

ビデオゲームの世界観を構築するうえで,Non-Player-Character(以下NPC)にタイプの異なった性格付けを行うことはデザイン上の重要なタスクである.従来,これらの性格付け,それらが表出するNPCの振舞いについては,ゲーム制作者の経験的知識によって実装されてきたが,プレイヤが見出すNPCの性格とは,与えられた制約条件下で最適化が行われた結果,典型化した振舞いに対して付与されたラベルとみることもできる.本研究では,この考え方に基づき,島モデル遺伝的アルゴリズム(以下島モデルGA)を用い,先験的な情報を与えずに個性が表出するNPCの振舞いを獲得する手法を提案する.提案手法を2Dアクションゲームに対して実施したところ,慎重型,積極型などのように解されるNPCの振舞いが獲得された.
著者
厚谷 有輝 金子 晋丈 寺岡 文男
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.849-864, 2014-02-15

本論文はインターネットを通して提供される様々なサービスに対し,統一的な認証認可の仕組みを実現する汎用認証認可基盤ヤマタノオロチを提案する.汎用の認証認可基盤には"マルチドメイン環境で多様な認証方式をサポートすること","サービスによらないアクセス制御を実現すること","基盤の負荷を少なくしてスケーラビリティを確保すること"の3つが要求事項としてあげられる.本論文で提案するヤマタノオロチはこれらの要求事項を満たすような認証と認可の機能を提供するシステムである.AAAプロトコルのDiameterと認証フレームワークのEAPを利用することで,ユーザ情報の一元化とマルチドメイン認証を可能とした.またKerberosやXACMLを参考にしたチケットシステムを設計し,サービスによらないアクセス制御とスケーラビリティの確保を実現した.これらの設計に基づいて実装したシステムが複数のインターネットサービスにおいて正しく動作することを検証し,認証および認可の処理時間も実用上問題ない時間で処理が完了することも確認した.This paper proposes Yamata-no-Orochi, an authentication and authorization infrastructure for Internet Services. On the authentication and authorization infrastructure, service providers must authenticate users and authorize them by checking their privilege information. And the users obtain personalized services as specified by their privileges. A future authentication and authorization infrastructure should focus on "multi-domain extensible authentication", "service independent access control", and "high scalability". For multi-domain extensible authentication, Yamata-no-Orochi uses Diameter base protocol and Extensible Authentication Protocol (EAP). For service independent access control and high scalability, Yamata-no-Orochi introduces a ticket mechanism inspired to the Kerberos procedure and the XACML policy treatment. The evaluation results showed that all the authentication and authorization processes worked correctly and the processing time was short enough for practical use.
著者
宗森 純 吉田 壱 由井薗 隆也 首藤 勝
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.447-457, 1998-02-15
被引用文献数
17

インターネットで接続されたパーソナルコンピュータと比較的安価な入力機器を用いて遠隔地間での研究指導を支援する遠隔ゼミナール支援システムを開発した.本システムは知的生産支援システムWadamanに共有カーソルなどのグループウェア用の機能を追加したRemoteWadamanと画像・音声コミュニケーションツールNetGearとを組み合わせたものである.本システムを用いて1年間にわたって大阪大学と鹿児島大学の2地点を結んで20回,東北大学と大阪大学,鹿児島大学の3地点を結んで5回の合計25回の研究指導(ゼミナール)を行った.その結果,本システムを用いた遠隔ゼミナールでは従来の対面のゼミナールと比較して1人あたりかかった平均時間などには大差なく指導できたが,対面独特の緊張感が弱まる傾向にあることが分かった.また,3地点を結んで遠隔ゼミナールを行うことによって異なる大学の学生が1つのゼミナールに同席し意見を出し合うことは利点ではあるが,第三者が割り込んで発言しにくいことが分かった.さらに通信状況がネットワークの混雑の度合いに大きく依存していて,3地点を結ぶと2地点と比較して通信が切断することが多くなることが分かった.We have developed a remote seminar support system which consists of personal computers and inexpensive input equipments.The software of the system consists of RemoteWadaman and NetGear.RemoteWadaman is an intelligent productive work card support system for collaboration and NetGear is a multimedia communication tool.This newly developed remote seminar support system was used on Internet.We have tried the remote seminar via Internet between two places of Osaka University and Kagoshima University 20 times and among three places of Tohoku University,Osaka University,and Kagoshima University 5 times.This Internet experiments shows that almost same seminar time per person was required as conventional seminar in the room and a remote seminar with Internet,however,aweaker tense atmosphere of student compared to the conventional seminar in the room was existed.The advantage of the seminar among three different places is the intellectual trigger because of simultaneous participation of different universities sutdents at the same seminar.The disadvantage,however,was a difficulty in participation of third person at this Internet seminar.Another disadvantage was more of ten communication disconnection among three places if compared to two places.This is because of more often traffic congestion of networks among therr places.
著者
田村 雅成 神山 達哉 添田 隆弘 兪明連 横山 孝典
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.53, no.12, pp.2660-2670, 2012-12-15

モデルベースによる組み込み制御ソフトウェア開発の効率向上のため,SimulinkモデルをUMLモデルへ自動変換するモデル変換環境を提案する.一般に,組み込み制御ソフトウェア開発は制御設計とソフトウェア設計の2段階で行う.制御設計ではMATLAB/Simulinkを用いて制御ロジックをSimulinkモデルとして設計することが多い.一方,ソフトウェア設計ではUMLモデルを用いて設計を行うのが一般的である.本研究では,制御設計からソフトウェア設計への移行をスムーズに行うために,SimulinkモデルからUMLモデルへの変換ツールを開発した.本ツールが生成するUMLモデルはデータとデータの算出処理をカプセル化したクラスからなる.また,変換後のUMLモデルの再利用性向上のため,変換元のSimulinkモデルに対して階層化を行うが,その階層化作業を効率化するため,階層化支援ツールを開発した.そして,複数のSimulinkモデルに対して適用実験を行い,その有用性を確認した.
著者
吉澤 信 横田 秀夫
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.1517-1527, 2015-06-15

2つの画像を境界が自然になるように合成する画像合成問題は,シームレスクローニングやコラージュと呼ばれ,CG分野にて様々な応用があり,その計算方法は重要な研究テーマである.もしも合成する画像間でテクスチャ細部のパターンが異なる場合に,既存のアプローチでは自然な合成結果を生成しないことが知られている.これは,色合は自然に合成できても,テクスチャ細部の不連続性が合成結果の境界を判別可能にするためである.本稿では,画像のテクスチャ細部とベースとなる低周波カラー情報を別々に処理することにより,テクスチャを考慮した画像合成を生成する新しい計算フレームワーク(ポアソン画像類推法)を提案する.提案フレームワークでは,まず画像の細部とベースを新たに開発したエッジ保存フィルタにより分離する.次に,ベースの色合はポアソン方程式を解くことにより補間し,細部は画像類推法と呼ばれる例題に基づくテクスチャ合成法を用いて復元する.提案フレームワークにより,細部のパターンが異なる画像間でも写実的な画像合成に成功した.