著者
眞田 幸尚 石崎 梓 西澤 幸康 卜部 嘉
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.149-162, 2017-03-05 (Released:2017-04-07)
参考文献数
40
被引用文献数
4 14

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による津波に起因した東京電力福島第一原子力発電所事故によって,大量の放射性物質が周辺に飛散した.事故直後より,放射線の分布を迅速かつ広範囲に測定する手法として,有人のヘリコプタを用いた空からの測定方法が適用されている.本手法自体は,1980年代に日本独自に研究開発されていたものの,事故直後に適用できる状態ではなかったためモニタリングしつつデータ解析手法の体系化・最適化を進めてきた.本稿では,事故後体系化した上空からの放射線モニタリング手法及び測定結果についてまとめる.
著者
小林 真 大矢 恭久 奥野 健二
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.99-105, 2013-02-05 (Released:2013-03-11)
参考文献数
15

比例計数管と液体シンチレーションカウンタによるトリチウムの実時間定量測定からチタン酸リチウム(Li2TiO3)及びリチウム濃縮したチタン酸リチウム(Li2+xTiO3)中でのトリチウム移行過程を明らかにした.Li2+xTiO3はLi2TiO3とLi4TiO4の混合物であり,トリチウム熱脱離スペクトルにおいて,リチウム濃度が増加するに伴いLi4TiO4起因のトリチウム放出が見られた.また,等温加熱実験の結果を速度論的に解析することで,トリチウム放出の律速段階はLi2TiO3構造中の拡散過程であることが分かった.一方で電子スピン共鳴(ESR)測定によりリチウム濃度の増加に伴い生成する照射欠陥密度が増加することが分かった.Li4TiO4構造に起因した照射欠陥の増加や構造の境界がトリチウム拡散を抑制することが明らかとなった.
著者
玉井 忠治 橋本 哲夫 松下 録治 岩田 志郎
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.502-507, 1970-04-05 (Released:2010-05-25)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

無担体ヨウ素131は,テルルの中性子照射でできたテルル131のβ壊変で得られるが,実際には,用いたテルル中に不純物として含まれるヨウ素の量により比放射能が左右される.したがって,高比放射能ヨウ素131を得るためには,テルル中に存在するヨウ素の量を求める必要がある.本報告では,Ge(Li)半導体検出器のエネルギー分解能のよいことを利用し,テルル中のヨウ素の非破壊中性子放射化分析法の開発を目的とし,ヨウ素の検量線を用いる方法と,テルルとヨウ素の放射能強度比から求める方法とを検討した.両方法を各種テルル化合物に適用し,試料中に含まれる1~100ppm程度のヨウ素を簡便に定量することができた.
著者
高野 敏 長谷川 章 大塚 博司
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.137-141, 1988-03-05
被引用文献数
3 1

界面活性剤定量用自動光度滴定装置を用いて,スルホン酸塩型及び硫酸塩型の界面活性剤とセッケンとの分別定量を検討した.既報の方法で分析したところ,アルカンスルホン酸塩(SAS)及びα-オレフィンスルホン酸塩(AOS)の酸性とアルカリ性条件下での分析値に有意な差が認められた.この原因は,SAS及びAOS中のポリスルホン酸塩の存在によるものと推定されたため,1-ヘキサノールによる協同効果を利用して,ポリスルホン酸塩のクロロホルム相への抽出率を向上させたところ,酸性とアルカリ性条件下での分析値が一致してセッケンの分別定量が可能となった.又,スルホン酸塩と硫酸塩の分別定量についても,加水分解条件を改良することにより定量性の向上が認められた.一方,陽イオン界面活性剤の分相指示薬として,酸性及びアルカリ性の両条件下で使用可能なジスルフィンブルーを用いて定量条件を確立し,同級アンモニウム塩との分別定量も可能となった.
著者
下山 進 野田 裕子
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.49, no.12, pp.1015-1021, 2000-12-05
被引用文献数
3 4

セラミックスで密封した粒状のアメリシウム(^<241>Am)を樹脂で環状(厚さ3 mm×外径φ18 mm×内径φ12 mm)に成形した放射線強度1.85 MBqの線源(AET Technology, 重量: 0.5 g, 検出器側船遮蔽材を含め26 g), この線源から放出される放射線を大気中において試料に照射し, 試料から発生する二次X線を線源の中央(環状線源の中央空洞部)から検出する小型電子冷却式シリコン半導体X線検出器(Amptek XR 100 CR, 重量: 142 g), 検出器と接続するプリアンプ(Amptek PX2CR, 重量: 1387 g), そして小型マルチチャンネル波高分析器(Amptek PMCA 8000A, 重量: 240 g)を用いて, 総重量約1800 gの簡易携帯型蛍光X線分析装置を組み立てた. そして, この装置を用いて1682年に奉納された絵馬「羅生門図」の青の彩色に使用された着色料について非破壊分析を行った. その結果, この着色料はCa, Fe, Co, Ni, Asを主成分元素として含む"スマルト"であることが明らかとなった.
著者
大高 亜生子 簗田 陽子 保倉 明子 松田 賢士 中井 泉
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.1011-1022, 2009 (Released:2010-01-25)
参考文献数
29
被引用文献数
10 11

小麦粉の産地判別を目的として,蛍光X線分析法により小麦粉中の微量元素の高感度定量を試みた.三次元偏光光学系エネルギー分散型蛍光X線分析装置を用い,測定条件を最適化した結果,小麦粉中の17元素(Na,Mg,Al,P,S,Cl,K,Ca,Mn,Fe,Cu,Zn,Br,Rb,Sr,Mo,Cd)において直線性のよい検量線を作成することができた.本法はサブppmレベルの重元素の定量が可能であった.63試料の小麦粉の定量分析を行ったところ,国産と外国産・混合とで微量元素組成に異なった傾向がみられた.更に,産地の指標となると考えられた特定の元素の定量値を用いた多変量解析から,国産の小麦粉をほぼ正確に判別できる判別式を構築することができた.本研究により,迅速・簡便な蛍光X線分析が産地判別に有用であることを示すことができた.今後は,本法がその他の食品へと応用されるだけでなく,多検体の分析を要する食品の品質検査における実用的な分析法として利用されることが期待される.
著者
大滝 仁志
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.22, no.9, pp.1275-1281, 1973-09-05 (Released:2009-06-30)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2
著者
山下 大輔 石崎 温史 宇田 応之
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.347-355, 2009 (Released:2009-07-13)
参考文献数
51
被引用文献数
2 2

現場での使用が可能で,XRD(X線回折),XRF(蛍光X線)の2種類の分析を同一ポイントで行うことができるポータブルX線回折・蛍光X線分析装置(portable X-ray diffractometer equipped with XRF,XRDF)を開発した.開発した装置は,0°から60°の範囲内のどの角度にも0.002°刻みにX線管と検出器を動かすことができる.XRDFはポータブル型であるので現場に持ち込み,移動,搬出の制限されている遺物や文化財などのその場分析が可能になった.更に,測定対象の大きさ,形状に制限がほとんどないため,測定対象が大型,異形であっても,破壊や裁断,分割することなく,そのまま測定できる.このような特長を持つXRDFだからこそ,貴重な文化財の調査で数々の成果を上げた.本稿では,鶴林寺聖観音像,セヌウのミイラマスク,ツタンカーメン王の黄金のマスクの分析結果を紹介する.
著者
田上 恵子 内田 滋夫 菊池 洋好 小暮 則和
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.67, no.7, pp.405-411, 2018-07-05 (Released:2018-08-08)
参考文献数
20
被引用文献数
5

希土類元素の工業利用の増加に伴い,その環境負荷が増える可能性がある.将来,人への希土類元素の移行を推定するためには,土壌から農作物への移行係数(TF=可食部中濃度[mg kg−1-dry]/土壌中濃度[mg kg−1-dry])を求めておくことが有用である.本研究では特に水田土壌から玄米への移行に着目し,希土類元素としてLa,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,LuについてTFを求めた.日本全国から98地点の水田土壌-玄米試料を収集し,土壌,玄米及び糠の元素濃度測定を誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)で行った.その結果,土壌から玄米への希土類元素のTFの幾何平均値の範囲は(0.42〜6.9) × 10−4であり大きな差は見られなかった.玄米中においては,軽希土類元素の方が糠に多く分布する傾向があることがわかった.
著者
相澤 省一 森 勝伸 小池 優子 角田 欣一
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.271-279, 2017-04-05 (Released:2017-05-13)
参考文献数
15
被引用文献数
3

赤城大沼湖心部の堆積物では放射性セシウムは湖底下5 cm以内の表層にとどまるのに対し,水深の浅い流入部や流出部では15 cmから20 cm付近まで放射性セシウムが含まれていた.流入部や流出部では,粒度の粗い堆積物粒子間への湖水の浸透あるいは湖底での水の流れによる表層堆積物の撹乱が下方まで放射性セシウムが取り込まれた原因と考えられる.湖底堆積物の主な構成鉱物はクリストバル石,石英,斜長石であり,そのほか比較的多量の非晶質物質が含まれる.これらの非晶質物質が放射性セシウムの保持に係わっている可能性がある.周辺土壌の多くは500 Bq kg−1から5000 Bq kg−1の放射性セシウム含有量であり,放射性セシウムの分布について湖周辺で地域的な顕著な偏りは見られなかった.湖底堆積物及び周辺土壌の放射性セシウム含有量から赤城山一帯に降下した放射性セシウムの降下量を見積もったが,その数値は文部科学省が航空機モニタリングで求めた赤城山一帯の沈着量に近い値だった.
著者
保母 敏行 飯田 芳男 石橋 耀一 岡本 研作 川瀬 晃 中村 利廣 中村 洋 平井 昭司 松田 りえ子 山崎 慎一 四方田 千佳子 小野 昭紘 柿田 和俊 坂田 衛 滝本 憲一
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.363-392, 2008-06-05
被引用文献数
6

(社)日本分析化学会は1993年にU,Thの含有率を認証した二酸化ケイ素標準物質を開発して以来,燃焼灰,土壌,底質,河川水,排水,プラスチックス,工業材料,食品と多岐にわたる種類の標準物質の開発を続けており,現在頒布中の標準物質は23種類に上る.認証対象は特定成分の含有率で,成分はダイオキシン類,金属元素など環境分析で扱われるものが多いが,食品では栄養成分を対象とした.本会の標準物質の大きな特徴は純物質あるいはその溶液ではなく,上述のように,環境試料あるいは工業製品であること,つまり一般分析者が実際に扱う試料の形態であることである.認証値の決定方法は,まず均質性の保証された試料の調製と,多数の試験機関の参加による分析共同実験,そして得られた報告値をロバスト法を導入した統計手法で処理して評価し,信頼性ある認証値を得る,という手法によっている.また,これらの標準物質の開発時において,例えばダイオキシン類のガスクロマトグラフ分離の状況,PCBの抽出条件と塩素置換数の変化など,貴重な知見が得られたことは分析手法改善につながる収穫といえる.
著者
加藤 徳雄
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.627-630, 2001-09-05 (Released:2009-02-27)
参考文献数
7

According to the present JIS method, which describes the determination of ammonia (NH3) in flue gas, the presence of more than 10 times as much sulfur dioxide (SO2) as NH3 results in interference with the determination of NH3 by indophenol blue absorptiometry. The magnitude of interference from the coexisting sulfur dioxide and its elimination of described. The magnitude of interference was investigated using NH3 and SO2 standard gases. Both standard gases were bubbled through a 0.5% boric acid solution independently and simultaneously; 0∼200 times as much SO2 as NH3 by mole was bubbled through a boric acid solution. The absorbed NH3 and SO2 were determined by coulometry and alkalimetry, respectively. The magnitude of interference was dependent upon the amount of SO2 absorbed in the boric acid solution, not the molar ratio of SO2 to NH3. More than 100 μmol SO2 led to a serious decrease in the absorbance. In the case of a 20 liter sample, it was found that more than approximately 110 volppm of SO2 gave a lower analytical value of NH3. The interference could be eliminated by bubbling 400 ml of oxygen at a flow rate of about 70 ml min-1 through a boric acid solution containing the absorbed gas sample.
著者
橋谷 博 本島 健次
出版者
The Japan Society for Analytical Chemistry
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.7, no.8, pp.478-483, 1958
被引用文献数
7

チタンは過酸化水素によってマスクされアンモニアアルカリ性ではオキシン錯塩をつくらず,一方アルミニウム・鉄はオキシン錯塩をつくって定量的にグロロホルムで分離抽出することができ,抽出液の390および470mμの吸光度より両金属を比色定量することができる.<BR>この方法によリチタン(TiO<SUB>2</SUB>として)約20mg中のアルミニウム(Al<SUB>2</SUB>O<SUB>3</SUB>として)5~100μgおよび鉄(Fe<SUB>2</SUB>O<SUB>3</SUB>として)5~150μgをきわめて簡単にまた正確に定量することができる.<BR>またバナジンも過酸化水素によって同様にマスクされ全くオキシン錯塩をつくらず,同じ原理によってバナジン(V<SUB>2</SUB>O<SUB>5</SUB>として)約200mg中の上記と同じ存在量のアルミニウムおよび鉄を定量することができる.
著者
若松 宏武 寺崎 浩司 島津 光伸
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.445-451, 2017-06-05 (Released:2017-07-12)
参考文献数
14

ゲフィチニブは上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子を標的とした非小細胞肺癌がんの治療薬であり,EGFR遺伝子に活性化変異を有する患者には奏効を示し,本治療薬の対象となるが,治療後1年位でEGFR遺伝子に薬剤耐性T790M変異が出現し,治療効果が消失することが知られている.この変異を患者から早期に発見することは,治療薬の変更や副作用を回避する上で重要な情報となる.耐性変異の早期発見には低侵襲材料によるモニタリング検査が望ましいが,血液などには正常細胞が多数混在するため,変異型細胞の混在率が低く通常の検出法では検出困難な場合が多い.今回,著者らは光応答性プローブ(PREP: Photo-Reactive Probe)を利用した高感度な変異検出法(光クランプ法)を開発し,T790M変異について高感度に検出可能であることを確認した.本法は,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)前のサンプルDNAに直接処理するだけであり,様々な検出アプリケーションに応用が可能である.また,複数の変異点に対して同時に処理することも可能であり,微量な遺伝子変異を検出する際の非常に有効な手段であることを示すことができた.
著者
石井 真史
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.827-832, 2012-10-05 (Released:2012-11-06)
参考文献数
10

1000℃ を超える高温における物理・化学特性を分析する新しい手法として,火を用いる複素インピーダンススペクトロスコピー(OTD-CIS, over thousand degree centigrade complex impedance spectroscopy)を提案する.火は電気伝導を持つため,それを加熱と共に電気プローブの目的に使用するのが基本的アイディアである.一方で火は理想的な導体ではないため,直流と交流特性のそれぞれを考慮して,条件の選択や解析上の処理が必要になる.直流では,火の整流性の影響を回避するため,バイアスを印加して電流-電圧特性が線形となる領域を選択する.交流では,火の正イオンの応答特性を除去するため,差分解析を行う.これらの措置により,酸化アルミのOTD-CISスペクトルが得られた.スペクトルの解析により,抵抗率はOTDでも減少し続けるのに対し,誘電率は室温から変化しないことを示した.
著者
渡辺 最昭 磯村 勝利
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.15, no.11, pp.1215-1219, 1966-11-05 (Released:2009-06-30)
参考文献数
6

カルシウムカーバイドによるアルコールの定量の可否を明らかにする目的で,カルシウムカーバイドとメタノールの反応をガスクロマトグラフ法により検討した.その結果,温度250℃以下ではほとんど反応は起こらないが,温度300℃で,メタノールは100%反応して,アセチレン(65モル%)とジメチルエーテル(35モル%)を生成することが明らかになった.この条件のもとに,n-ヘプタン中に微量メタノールを溶解させた標準試料について実験したところ,本法がメタノールの定量に利用できることがわかった.
著者
永野 久志 高田 安章 鈴木 康孝 杉山 益之 橋本 雄一郎 坂入 実
出版者
The Japan Society for Analytical Chemistry
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.1105-1110, 2013

駅や商業施設,スタジアムなどの,非常に人が多い場所で爆発物の検査を行うため,被験者の手元周辺の検査に特化した爆発物蒸気のサンプリング部を開発した.サンプリング部を駅の自動改札機のICカード認証部を模した形状とし,ICカードをICカード認証部にかざして通過する間に,手やICカードに付着している化学物質から発散する蒸気を質量分析計に吸引し検出する構成とした.ICカード認証部に沿って流す気流について検討した結果,ICカードに付着したtriacetone triperoxide(TATP)や2,4,6-trinitrotoluene(TNT)などの蒸気圧の高い爆薬成分を,約1秒で検出できることを確認した.これにより,駅などの人の往来の非常に多い場所において,人の流れを妨げずに爆発物の検査を実施できる見通しを得た.
著者
黒羽 敏明 渋谷 晟二
出版者
The Japan Society for Analytical Chemistry
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.21, no.7, pp.925-929, 1972

クリスタルバイオレットを用いる銅中の微量水銀の抽出吸光光度定量法を検討した.<BR>EDTAを含む銅のアルカリ溶液からジエチルジチオカルバミン酸-トルエン抽出により水銀を分離したのち,ヨウ化カリウム,臭素酸カリウムおよび臭化カリウムを含む硝酸(0.7<I>N</I>)溶液で水銀を逆抽出し,ついでクリスタルバイオレットを加えトルエンで水銀を抽出し光度定量することにより銅中の水銀の定量ができた.<BR>本法を妨害する元素として銀と金があるが,銀はジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムの添加量を増すことで,金はジエチルジチオカルバミン酸錯塩としてトルエンで抽出したのち,0.5<I>N</I>の硝酸溶液で洗浄することにより水銀の損失を招くことなく金を除去することができた.<BR>銅2gを採取すれば0.25ppmまでの水銀の定量が可能である.
著者
神谷 厚輝 大崎 寿久 竹内 昌治
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.441-449, 2015-06-05 (Released:2015-07-07)
参考文献数
27

細胞膜は,情報伝達や細胞間の情報交換の場である.このような細胞内外での物質のやり取りは,チャネルやレセプターのような膜タンパク質が主にかかわっている.膜タンパク質は,ガン等の疾病と関連しているため,膜タンパク質の機能を理解する研究が強く進められている.特に,イオンチャネルはパッチクランプ法と呼ばれる,イオンチャネル内のイオンの通過を電気シグナルにて観察する手法により機能評価が行われている.しかし,この手法は難度が高く,熟練した研究者でも1日に数回程度のデータ取得が限度と言われ,イオンチャネルをターゲットとした薬剤開発の妨げとなっている.著者らが開発した液滴接触法は,単純な「8」の字のデバイス内において,簡単・迅速に再現良く人工平面脂質膜を形成できる技術である.このデバイスに電極を配線することにより,様々なイオンチャネルにおけるイオン透過の電気シグナル観察に成功している.本稿では著者らが開発したパッチクランプ法に代わる平面膜形成デバイスの有用性について示し,今後の展望を述べる.