著者
細谷 孝博 久保田 通代 熊澤 茂則
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.321-329, 2016-06-05 (Released:2016-07-07)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

アントシアニンは,ベリー果実等に含まれる色素成分の一種で,昔から天然着色料として幅広い食品に利用されている.また近年では,アントシアニンの様々な生理機能に関する研究も行われており,機能性成分としての利用も期待されている.本研究では,アントシアニンを豊富に含むベリー果実について,定量核磁気共鳴法(定量NMR)を用いた分子種解析によるアントシアニン成分の評価を行った.まず各ベリー果実抽出物の1H-NMRスペクトルより,各アントシアニン成分の定性及び定量分析を行った.続いて同スペクトルを用いて主成分分析を行ったところ,各アントシアニンによる分類分けに成功した.また,Oxygen Radical Absorbance Capacity(ORAC)法を用いて各ベリー果実抽出物の抗酸化活性を評価し,アントシアニン成分の種類と含有量,さらに,主成分分析から得られた結果に相関関係を認め,シアニジン系のアントシアニンが抗酸化に寄与することを明らかにした.1H-NMRを用いた本分析手法は,ベリー果実の品質管理や機能性を有するベリー果実をスクリーニングするための有用な手法であると言える.
著者
加藤 大
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.77-87, 2015-02-05 (Released:2015-03-05)
参考文献数
48
被引用文献数
2 2

タンパク質の細胞内局所での機能に注目が集まる中で,これらの解析にタンパク質を内包した刺激応答性ナノ粒子が用いられ始めている.タンパク質は,ナノ粒子に内包されることで細胞内に導入され,刺激応答を受けるまでナノ粒子内に安定に留まり,非侵襲な刺激を与えることで,細胞内で放出され機能する.そのため,刺激応答性ナノ粒子を用いることで,様々なタンパク質について細胞内で機能発現する時空間を正確に制御することができる.細胞内でタンパク質を放出する刺激として,標的部位の細胞内環境(低pH,還元状態)や光などの外部刺激が利用されている.本論文では,タンパク質内包ナノ粒子と,それを用いた細胞内タンパク質の機能解析に関しての最近の研究を紹介する.
著者
飯田 康夫 後藤 一男 古川 正道 柴田 正三
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.32, no.7, pp.401-406, 1983-07-05 (Released:2009-06-19)
参考文献数
16
被引用文献数
10 8

吸光光度法により多成分同時定量を行う場合のデータ処理において,Lambert-Beerの法則を行列の形で表す方法(AKC法)と,逆に,濃度を吸光度の関数として表す方法(CPA法)を定量精度などの面から比較し,更に検量(キャリブレーション)法についても検討した.その結果,定量精度の点ではCPA法が優れていると考えられるが,AKC法においてはスペクトルとしての観察ができることなどの利点があり,両者を組み合わせて用いることがよいと結論される.又,キャリブレーションにおいては,各成分の混合溶液を用いること,あるいは解析式に切片項を導入することにより,定量精度の向上が認められた.更に,これらの方法を用いて,8-キノリノール(オキシン)によるアルミニウム,鉄,及びチタンの3成分同時定量を行い,ほぼ満足のゆく結果を得ることができた.
著者
深沢 力 岩附 正明 平出 正孝
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.25, no.9, pp.634-639, 1976-09-10 (Released:2009-06-30)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1

湿式定性分析を結晶化学的又は構造化学的な新しい立場から見直し,新しい知見を得ることを目的として,まず銀イオンと水銀(I)イオンの系統的定性分析で得られる沈殿の状態を光学顕微鏡とX線回折計により調べた.その結果,本来正八面体か立方体の結晶が析出すべきと思われる塩化銀が条件によっては六角(又は三角)板状結晶として析出すること,塩化水銀(I)沈殿に過剰のアンモニァ水を作用させると,いったん生成した塩化水銀(II)アミドが六方晶系又は等軸晶系の水酸化水銀アミド2水和物Hg2NOH・2H2Oに変化してしまうこと,塩化銀共存下で塩化水銀(I)沈殿にアンモニア水を作用させると銀アマルガムが生成する場合があることなどが分かった.
著者
下山 進 野田 裕子
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.49, no.12, pp.1015-1021, 2000 (Released:2001-06-29)
参考文献数
10
被引用文献数
3 4

セラミックスで密封した粒状のアメリシウム(241Am)を樹脂で環状(厚さ3mm×外径φ18mm×内径φ12mm)に成形した放射線強度1.85MBqの線源(AET Technology,重量:0.5g,検出器側鉛遮蔽材を含め26g),この線源から放出される放射線を大気中において試料に照射し,試料から発生する二次X線を線源の中央(環状線源の中央空洞部)から検出する小型電子冷却式シリコン半導体X線検出器(Amptek XR-100CR,重量:142g),検出器と接続するプリアンプ(Amptek PX2CR,重量:1387g),そして小型マルチチャンネル波高分析器(Amptek PMCA 8000A,重量:240g)を用いて,総重量約1800gの簡易携帯型蛍光X線分析装置を組み立てた。そして,この装置を用いて1682年に奉納された絵馬「羅生門図」の青の彩色に使用された着色料について非破壊分析を行った。その結果,この着色料はCa,Fe,Co,Ni,Asを主成分元素として含む“スマルト”であることが明らかとなった。
著者
谷藤 浩介 清家 泰 奥村 稔
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.767-770, 2009 (Released:2009-10-09)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

The adsorptive removal of borate-boron from an aqueous solution using silica gel was studied using a batch equilibration technique. The effects of the pH and metal ions, such as alkali metal and alkaline earth metal, were clarified. The boron adsorption efficiencies increased with increasing the pH and the concentration of alkaline earth metal ions, and their maximum adsorptions were obtained at pH 10-12 in solutions containing calcium ion. The adsorption data obtained by changing the boron concentration and the adsorbent dosage were well represented by the Freundlich isotherm model.
著者
中村 清香 佐藤 浩昭
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.71, no.9, pp.483-493, 2022-09-05 (Released:2022-10-05)
参考文献数
27

質量分析法はポリマーキャラクタリゼーションにおいて有力な手法であり,測定装置の高分解能化とともにますますその利用範囲が拡大している.その一方で,マススペクトルが複雑になるため解析が困難になるという課題があった.その課題に対し,著者らはマススペクトルを二次元プロットへと展開することで視覚的に成分分布を表現する「ケンドリックマスディフェクト(KMD)解析」を,実用的なポリマー分析へと初めて適用した.さらにKMD解析を工業製品として用いられる複雑な組成を持つポリマー材料の組成分析へと適用するために,KMDプロットの高分解能化を行った.あわせて,KMD解析に適用できる高強度のマススペクトルを,マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOFMS)で観測するための,簡便な試料前処理法を開発した.さらにKMD解析の適用範囲をMALDIのみならず,他のイオン化法を用いたデータへも拡大した.このような成果により高分解能質量分析法を用いたポリマーキャラクタリゼーションが加速されると期待される.
著者
若松 茂雄
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.7, no.5, pp.309-313, 1958-05-05 (Released:2009-06-30)
参考文献数
10
被引用文献数
13 9

従来酸性溶液中の遊離のホウ酸は加熟その他の処理によって非常に揮発しやすいと信ぜられている.このためにホウ素の定量にあたっては分析操作に種々な制限が加えられる.金属その他のなかの微量のホウ素の吸光光渡法による定量が困難であるとされている原因の一つはここにあると考えられる.よって著者はこの点について検討した結果,酸性溶液中の遊離のホウ酸は加熱その他の処理によって揮発することのないことをたしかめた.そしてこれによってホウ素の定量を困難にしている原因の一つを除去することができた.
著者
松枝 隆彦
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.110-115, 1980-02-05 (Released:2010-02-16)
参考文献数
23
被引用文献数
4 2

活性炭が水中の微量水銀をよく吸着する性質を利用して,水銀(II)及びメチル水銀(II)をパッチ法により活性炭(ダルコG-60, 225メッシュ以下)に捕集濃縮させ,ゼーマン効果を用いたフレームレス原子吸光装置(日立ゼーマン水銀分析計501形)により定量した.試料水500mlに1N塩酸5ml及び活性炭50mgを添加し,70分間振り混ぜた後,メンブランフィルター上に活性炭をろ別する.これを60℃で30分間乾燥し,その一定量を試料ボートに採り吸光度を測定した.活性炭に吸着された水銀について0~50ngの範囲で直線の検量線が得られた.又,繰り返し精度は,標準偏差パーセントで8.3%(10ngHg/10mg活性炭)であった.検出下限(S/N=2)は0.5ngであった.最適条件における水中のppbレベルの水銀(II)及びメチル水銀(II)の回収率はそれぞれ97%及び96%以上であった.還元気化法で著しい妨害を示す硫化物イオンの影響は認められなかったが,チオ硫酸イオン,金イオンが共存すると負の誤差を生じた.本法により,水銀(II)及びメチル水銀(II)をそれぞれ0.25ppb含む混合試料について分析した結果,還元気化無炎原子吸光法によるものとよい一致を示した.
著者
松本 健 木羽 敏泰
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.12-16, 1981-01-05 (Released:2009-06-19)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

100ml分液漏斗に1M塩化アンモニウム-炭酸アンモニウム-アンモニア水溶液(pH10)50mlを入れ,窒素を通じ脱酸素してから,金属銅試料を加え振り混ぜると,酸化銅(I)と酸化銅(II)はアンミン錯イオンとなって溶解し,金属は溶けないで残る.水溶液について銅の量を原子吸光法で定量すれば,酸化銅(I)と酸化銅(II)の合量が求められる.一方,水溶液について窒素ふん囲気の下でバソクプロイン-クロロホルム抽出した後,銅を比色定量して酸化銅(I)の量を求める.酸化銅(II)は酸化銅(I)と酸化銅(II)の合量から酸化銅(1)を差し引いて算出した.本法は精度が高く,金属銅表面の酸化銅(I)と酸化銅(II)とを簡単迅速に分別定量できる.
著者
大澤 進 杉本 晋哉 米久保 功 加治木 美幸 寺島 薫 岩崎 昭夫
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.37-50, 2018-01-05 (Released:2018-02-06)
参考文献数
31
被引用文献数
1

先進国で高齢化社会を最初に向かえる日本の医療費は約42兆円であり,国家予算の約38% に達する.我が国の医療での分析化学の技術は,患者の診断,治療効果の判定,予後の推定,そして健康管理に利用され,世界一の長寿国に貢献している.企業に勤務する社員の多くは健康診断を受ける機会があるが,自営業や家庭の主婦は健診会場にほとんど行くことがない.分析化学の技術を駆使して家庭内で臨床検査が可能な研究開発はされているが,その検査項目はぶどう糖など限定的であり十分に普及しているとは言いがたい.厚生労働省は40歳以上の国民を対象に特定健診(メタボ健診)を実施しているが受診率は47.6% であり,目標の70% には到達していない.著者らは手指からの微量の血液(65 μL)を緩衝液で希釈し,即時に血球と希釈血漿しょうを分離する技術を開発した.希釈された血漿は一週間安定であることから,試料を郵送して病院検査室で用いる生化学自動分析装置で測定することが可能である.希釈された血漿中の成分は採取した検査者の採取量や血球量により変動する.全血の希釈緩衝液に内部標準を添加することで,その希釈率から生体成分の希釈倍率を求め,血漿中の生体成分濃度を求めることができる.また,手指からの末梢血を緩衝液で希釈することにより,フィルターで容易に血漿を血球から分離することが可能となった.さらに希釈された血漿成分は生体内酵素も希釈されることから代謝産物の安定化にも寄与している.これらの血液希釈血漿分離技術を駆使し,希釈血漿150 μLでメタボ健診の14項目の検査を可能とした検査技術とその活用による効果を述べる.
著者
池田 涼音 関根 詩乃 別所 朋香 大月 陽香 柴田 紗希 中野 実紅 佐藤 香枝
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4.5, pp.289-296, 2022-04-05 (Released:2022-06-05)
参考文献数
10
被引用文献数
2

In this study, we developed a cell culture device using gelatin. An appropriate material was sought to be used as a mold for the gelatin gel, and the bonding method between the gelatin gel and the coverslip, which was the cell culture surface, was investigated. The developed device can be used with a high-magnification objective lens. Furthermore, we report that human vascular endothelial cells and fibroblasts were co-cultured in the gelatin device, and a capillary network was successfully constructed.
著者
山本 勇麓
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.239-248, 1956-04-05 (Released:2010-05-25)
参考文献数
18

錯滴定法とは錯化合物生成反応に基く滴定分析法のことであって,古くからLiebigによって創案され,後にDénegésにより改良されたCN-に対する銀滴定法がある.すなわち,シアンアルカリの中性溶液に硝酸銀を滴下すればシアン化銀の白色沈澱を生ずるが,しんとうすることによってこの沈澱は消失する.これは次式の様に可溶性のシアノ銀錯イオンを生ずるからである.Ag++2CN-→[Ag(CN)2]-更に過剰の硝酸銀を続いて滴下すれば上記反応が終了した後には次式の様にシアン化銀が沈澱し,しんとうすることによっても消失しない白濁を生ずる。この白濁の確認によって終点が指示される.[Ag(CN)2]-+Ag+〓Ag[Ag(CN)2]Dénigésはこれを改良して沃度カリウムを指示薬として用いアンモニア性溶液での滴定を可能にした.該法は簡便的権であり,Cl-,Br-,I-およびCNS-等の共存下においてもCN-のみを定量することが出来る.このように錯化合物の生成を利用する滴定法はLiebig法を以って始めとするが,これから述べようとする“錯滴定法”はG.Schwarzenbachによって創設され且定義された“Die Komplexometrische Titration”のことであって,その特長とするところはいわゆるキレート試薬(Chelating Agent)を用いて滴定することである.すなわちG.Schwarzenbachは1945年以来エチレンジアミン四酢酸を始めとする一群のポリアミノカルボン酸およびポリアミン類について,金属錯塩の生成定数(formation constant)の測定を始めとし金属の滴定法への応用に至るまでの広汎な研究を遂行しているが,これらのキレート試薬に“Komplexon”なる名称を与えているところより,該法を“Komplexometrie”と称するのである.特に,エチレンジアミン四酢酸を滴定剤としエリオクロドムブラックTを指示薬とする水の硬度測定法はSchwarzenbach法として著名であり,その他これらのKomplexonを用いる分析化学的応用の文献は枚挙に邊がないほどである.エチレンジアミン四酢酸(ethylendiamine tetraace-tic acid)(EDTAと略称する)の分析化学への応用については,本邦では早川,上野,山口,水町,本田,坂口等の諸氏により,またその基礎的な部分については音在により,また配位化学については新村,文献については武藤,和田によりすでに詳細且こんせつに紹介されている。また該法の基礎についてはG.Schwarze-nbach自身による総説および箸書もあり,またE.MartellによるReviewがあるので,これらのRe-viewを適当に訳して紹介するのが本講の目的に最も適していると考える.従って,基礎的な面についてのみ記述し,応用的面については省略する.
著者
本島 健次
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.66-73, 1959-01-05 (Released:2009-06-30)
参考文献数
17
被引用文献数
3 2
著者
大橋 弘三郎 崔 聖鎔 扇柳 仁
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.807-833, 2000 (Released:2001-06-29)
参考文献数
228
被引用文献数
13 12

微量金属イオンなどの分析対象物をいかにマトリックスから選択的に分離·濃縮し,定量するかは分析化学的に重要な課題の一つである。本総説では,8-キノリノール及びその誘導体をキレート配位子として用いる金属イオンなどの様々な機器分析法による定量,及び定量に先立っての前濃縮·分離について解説した。選択的定量及び前濃縮·分離系の構築において,8-キノリノール誘導体の分子デザインは重要であり,8-キノリノール誘導体の酸解離定数と液液分配定数などの配位子としての特性,8-キノリノール誘導体と金属イオンとの錯生成平衡,及び液液抽出平衡と速度,超臨界二酸化炭素を抽出媒体とする金属イオンの8-キノリノール誘導体による抽出について言及した。
著者
武内 次夫 鈴木 正巳
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.14, no.13, pp.100R-106R, 1965-12-05 (Released:2009-06-30)
参考文献数
131

1963年および1964年に発表された文献のうち,そのおもなものを取り上げ,この分野の進歩国概要を説明する.
著者
遠矢 将太郎 園田 達彦 前田 憲成
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.201-206, 2022-03-05 (Released:2022-05-11)
参考文献数
10

Nucleic acid extracted from environmental samples is an important analyte in instrumental analysis. With respect to the phenomenon in which sodium tungstate promotes the methane production in anaerobic digestion, the analyses of microbial community using RNA were conducted; however, we noticed that only RNA concentration measured by absorbance measurement (NanoDrop) was remarkably high. Therefore, in this study, DNA and RNA were extracted from the anaerobic digestion sludge samples with sodium tungstate, sodium selenite, or sodium molybdate, and these nucleic acids were quantified and compared by absorbance measurement, fluorescence measurement (Qubit), and gel electrophoresis. Interestingly, it was found that only the RNA concentration of the sample containing sodium tungstate measured by NanoDrop was 3 times higher than that by Qubit analysis. In addition, there was no difference between the RNA concentration measured by Qubit and gel electrophoresis. Regarding DNA concentration and the other compounds, there were no differences. Hence, these results indicate that the Qubit system is useful for the quantification of the RNA concentration in the environmental samples.
著者
菅谷 和寿
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.405-409, 2010 (Released:2010-06-10)
参考文献数
13
被引用文献数
2 1

硫酸ピッチ等廃棄物中のクマリンの分析方法について検討した.その結果,クマリンは,遮光下においてアルカリ性水に抽出し,そのアルカリ性水を酸性化後,再合成したクマリンをジクロロメタンで溶媒抽出することで,ガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)により定量性良く分析できた.クマリンはアルカリ性水溶液中でcis-o-ヒドロキシケイ皮酸陰イオンに加水分解し,紫外線によりtrans-o-ヒドロキシケイ皮酸陰イオンに異性化する.異性化したtrans体からはクマリンは生成しないため,異性化を防ぐ遮光が必要であった.この方法で硫酸ピッチ等廃棄物を分析したところ,硫酸ピッチから51~72 mg/kg,アルカリスラッジから0.16~0.43 mg/kgのクマリンが検出され,不正軽油製造に関与したものであることが推定された.
著者
佐藤 香枝
出版者
The Japan Society for Analytical Chemistry
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1.2, pp.53-58, 2022-01-05 (Released:2022-04-30)
参考文献数
15

近年,Organ-on-a-chipと呼ばれるmicroTASを利用したヒトの細胞微小環境を反映する三次元の組織モデルの開発が進められている.特に血管は血流にさらされており血管内皮細胞のみの静置培養では,生体内と同等の機能を評価できず,マイクロ血管モデルの開発は重要である.マイクロ血管デバイスは,静置で平面培養した単一種の細胞では実現できない複数種の細胞による組織を模倣した構造を持ち,機械的刺激を与えたアッセイもできることから,動物実験なしに血管の生理を評価できる新しいプラットフォームになることが期待できる.ここでは,著者らのこれまでの取組みとして,血管・リンパ管透過吸収試験デバイス,肺高血圧症マイクロデバイス,血液細胞分化マイクロデバイスの開発とバイオ分析化学への応用を紹介する.