著者
小川 里美 岩田 幸蔵 久野 臨 小島 伊織 堀部 良宗
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.605-611, 2016-05-25 (Released:2017-01-10)
参考文献数
10

神経内分泌型非浸潤性乳管癌(neuroendocrine ductal carcinoma in situ; NE-DCIS)の細胞学的所見について検討した。病理組織学的にNE-DCISと診断され,穿刺吸引細胞診を実施した5例を対象とした。年齢は50歳代から80歳代で平均年齢70.6歳であった。NE-DCISの細胞学的特徴は,出血性から清の背景に粘液様物質や裸血管を認めた。細胞採取量が多く,結合性の低下した集塊ないし孤立散在性に出現し,筋上皮の付随はみられなかった。細胞形態は多辺形から類円形で,細胞質はライトグリーンに淡染性で顆粒状を呈していた。核は円形から類円形で偏在傾向を示し,クロマチンは微細顆粒状から細顆粒状に軽度増量し,小型の核小体が1から数個みられた。肉眼的に,腫瘍の大きさは4例が10 mm以下で,1例が最大径25 mmであった。病理組織学的に,腫瘍細胞は拡張した乳管内に充実性および索状に増殖していた。間質には毛細血管が豊富にみられ,粘液貯留も観察された。免疫組織学的検索では,シナプトフィジン,クロモグラニンAは4例陽性,CD56は3例陽性であった。Ki67は,検索した4例について0%から19.1%(平均8.5%)であった。本症例と鑑別を要する腫瘍は,乳管内乳頭腫であった。NE-DCISは,結合性が低下し散在性細胞の出現,筋上皮細胞を認めない,さらに核の偏在傾向や顆粒状の細胞質を有することが最も重要な鑑別点に挙げられた。
著者
滝野 豊 松村 隆弘 二木 敏彦 川端 絵美子 星名 悠里 本田 理沙 油野 友二 柴田 宏
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.541-545, 2018-07-25 (Released:2018-07-28)
参考文献数
16

肝炎ウイルスやアルコール性肝炎,非アルコール性脂肪性肝疾患などによる慢性肝炎は線維化の過程を経て,将来的に肝硬変症を経て肝癌に至ることが知られている。肝線維化診断のゴールデンスタンダードは肝生検であるが,侵襲的な検査であることから血液成分であるヒアルロン酸やIV型コラーゲン,および生理学的な検査法が利用されている。新しい肝線維化マーカーとしてMac-2 binding protein glycosylation isomer(M2BPGi)が保険適応された。ヒアルロン酸は食事の影響を受けやすいことが知られているが,M2BPGiについての食事の影響は調査されていない。今回,M2BPGiの食事の影響を血中ヒアルロン酸値とIV型コラーゲン値の変動と比較した。ヒアルロン酸のみが食事摂取1・2時間後に食前と比べ有意に測定値が上昇した。M2BPGi値とIV型コラーゲン値は食事の影響を受けなかった。このことから,M2BPGi値測定は随時採血の検査においても正しい評価ができると考えられた。
著者
大野 明美 永野 勝稔 山方 純子 野口 昌代 柴田 綾子 菊池 春人 村田 満
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.534-540, 2015

ジアゾカップリング法を用いたビリルビン尿試験紙検査は,しばしば偽陽性を示すため,ビリルビン真陽性かどうかの確認試験が必要である。尿ビリルビンの測定法として,酸化法を測定原理とするRosin法,Harrison法,Watson-Howkinson法があるが,我々はこれらの方法とHarrison法,Watson-Howkinson法をアレンジした方法について確認検査としてどれが最も適切かの検討を行った。その結果,Watson-Howkinson法をアレンジした方法(W法-C)を選定した。W法-Cは吸収パッドの保存が簡単,操作も簡便で短時間に少量検体でも測定可能であった。W法-Cについて使用する吸収パッド,最低検体量,検出限界,イクトテストとの一致率を検討した。その結果,吸収パッドはワンショットドライが尿3滴で判定しやすい発色が得られ,適当と考えられた。イクトテストとの一致率は92.6%と良好であった。W法-Cはコスト面でも安価であり,日常検査における尿ビリルビン確認試験として十分使用可能であると考えられた。
著者
加藤 真由佳 田中 雅彦 松井 みどり 橋本 由徳 神谷 葉子 神谷 剛 渡邉 賢司
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.434-439, 2014-07-25 (Released:2014-09-10)
参考文献数
10
被引用文献数
1

異常ヘモグロビンとはグロビン鎖のアミノ酸配列異常を呈するヘモグロビンの総称である.鎌状赤血球貧血患者の研究に端を発し,Hb M-Iwateの発見により日本人においても異常ヘモグロビン症が証明された.異常ヘモグロビン症は等電点電気泳動法の応用や技術改良による検出頻度の拡大を経て,現在ではヘモグロビンA1cの測定に用いられる高速液体クロマトグラフィの異常クロマトグラムより発見される例が増えている.今回われわれは,非血縁2家系,4例の異常ヘモグロビン症を経験した.同疾患は遺伝性疾患であり人口移動の少ない地域では出現に注意する必要がある.異常クロマトグラムであってもヘモグロビンA1cが測定される場合があり,クロマトグラムのパターンに注意を要する.遺伝子解析には十分に配慮する必要があるが,不要な検査,治療を避けるためにも患者が自身の病態について理解しておくことは重要と考える.普段から臨床医とコミュニケーションを図り,適切な情報を臨床側に提供していく必要があると考えられる.
著者
千葉 美紀子 佐藤 貴美 三浦 悠理子 石戸谷 真帆 勝見 真琴 阿部 裕子 藤巻 慎一 藤原 亨
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.260-266, 2021

<p>Methicillin-resistant <i>Staphylococcus aureus</i>(MRSA)スクリーニング培地を用いての監視培養を導入する目的で,MDRS-K寒天培地(MDRS-K),X-MRSA寒天培地(X-MRSA),クロモアガーMRSAスクリーン培地(関東クロモ),CHROMager MRSA II(MRSA II)を比較検討し,検査フローを考察した。保存菌株を用いた評価では,栄養要求の高いMRSAは,48時間(h)培養で検出率を高められる可能性が示唆された。患者検体を用いた評価では,48 hのpositive predictive value(PPV)/negative predictive value(NPV)(%)は,MDRS-K,X-MRSA,関東クロモ,MRSA IIでそれぞれ100.0/80.0/42.9/100.0,100.0/94.9/75.0/100.0,100.0/89.7/60.0/100.0,93.3/95.9/78.0/98.9であった。夾雑菌の一部は,48 hでMRSA類似コロニーとして観察された。本検討により,スクリーニング培地を用いての監視培養検査は,48 hを最終判定とし,24 hではスクリーニング培地の発育有無のみで判定,48 hでは発色コロニーの同定を追加して判定することにより,低コストで正確性,迅速性に優れた検査が可能と考える。</p>
著者
白石 直樹 木村 竜一朗 森 樹史 澤田 貴宏 清水 重喜 坂井 和子 西尾 和人 伊藤 彰彦
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.551-559, 2021-07-25 (Released:2021-07-28)
参考文献数
15

近年,分子標的薬の開発が急速に進み,特に原発性肺癌においてはコンパニオン診断として保険収載が多くの分子標的薬で行われている。近畿大学では2017年6月に肺癌に特化したコンパニオン検査を行うゲノムセンターを近畿大学医学部内に設置し,PD-L1(22C3),ALK(IHC),ALK(FISH),EGFR検査の受注を開始した。ゲノムセンターは2年の稼働期間に517件の検体を受け付け,検査を行った。充分量の悪性腫瘍が検出され,検査が実施できた割合は365件/517件(70.6%)であった。検査種ごとの検査数はEGFR検査が81件(稼働期間7カ月),PD-L1(22C3)は350件(稼働期間2年),ALK(IHC)は278件,ALK(FISH)は237件であった。病理部にてホルマリン固定検体を受け付けてから,検査結果を臨床に返却した日数の平均は11.8日(土日祝日を含む)であった。EGFR検査に限っては7.73日(土日祝日を含む)であった。外注検査と比較して十分に短いturnaround timeが得られた。今回,病院内で次世代シーケンサーを用いた遺伝子検査を行う新部署を新設したため,ゲノムセンターは2年間の上記検査の受注業務を終了した。自施設での検査を導入する際に起こり得る問題を提示しながら,これらの取り組みによりわかった自施設で検査を行うメリット,デメリットを報告する。
著者
山下 史哲 渡部 俊幸
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.198-204, 2020-04-01 (Released:2020-04-01)
参考文献数
5
被引用文献数
1

インターネット上で無償配布を行っている,試薬管理システムは,プロトタイプシステムの開発と運用経験の元,臨床検査室の試薬管理業務効率化のために,汎用性と導入の容易さを目標に開発した。本システムでは,試薬包装に表記されているバーコードのGS1-128シンボルを利用することにより,品質管理に必要とされる試薬の有効期限,ロット情報の自動取得と記録が可能である。また,試薬マスターの設定により,試薬の箱単位,もしくはその箱内の個包装数に対し,管理番号バーコードラベルを発行添付して管理することで,それぞれの開封日や使用完了日の記録に関してもバーコード運用を可能にした。その結果,試薬の在庫管理と共に記録の効率化と人為的ミス削減を実現した。完成後,無償配布を開始し,ダウンロード件数と導入施設からの問い合わせ件数より,必要性及び実用性が確認でき,本システムの開発と無償配布は有用であったと考えられた。
著者
根岸 美葉 滝川 久美子 中村 文子 小栗 豊子 乾 啓洋 石井 清 小倉 加奈子
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.677-682, 2020

<p>40歳台の男性。性行為後の関節痛を主訴に当院を受診した。来院時の血液検査では炎症所見が認められ,血液培養から<i>Neisseria gonorrhoeae</i>が検出されたことから播種性淋菌感染症と診断された。血液培養からGram陰性球菌が検出された場合一般的に<i>Neisseria meningitidis</i>を疑うが,翌日の分離培養でヒツジ血液寒天培地にも良好に発育したこと,細菌性髄膜炎の迅速抗原検査キットであるPASTOREXメニンジャイティスキットによる<i>N. meningitidis</i>の免疫学的検査の結果陽性を示したことから両者の鑑別に苦慮した。<i>N. gonorrhoeae</i>と<i>N. meningitidis</i>の保存菌株を用いて,ヒツジ血液寒天培地とチョコレート寒天培地での発育性とPASTOREXメニンジャイティスキットによる<i>N. meningitidis</i>の免疫学的な反応を検証したところ,発育性状に両者の差は認められなかった。しかしながら,<i>N. gonorrhoeae</i>の6株中3株は,<i>N. meningitidis</i>のY/W135特異抗体感作ラテックスと弱い凝集が認められた。<i>N. gonorrhoeae</i>と<i>N. meningitidis</i>の鑑別には,生化学的性状や質量分析によって最終確認する必要がある。</p>
著者
佐伯 勇輔 大﨑 博之 此上 武典 藤田 泰吏 北澤 荘平
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.1-7, 2017-01-25 (Released:2017-01-31)
参考文献数
23

尿細胞診は,尿路系悪性腫瘍のスクリーニングや経過観察に欠かすことのできない検査であるが,他領域の細胞診に比べ誤陽性の比率が高いという問題がある。特に,尿路結石患者の尿中に出現する反応性尿路上皮細胞は,形態学的に尿路上皮癌細胞に類似するため,誤陽性の原因となっている。そこで今回は,反応性尿路上皮細胞と尿路上皮癌細胞を客観的に鑑別することを目的として,vimentinを用いた免疫細胞化学的検討を行った。反応性尿路上皮細胞群18症例,尿路上皮癌細胞群17症例,正常尿路上皮細胞群21症例を対象とした。上記症例にvimentinを用いた免疫細胞化学を行い,1)各群における症例別のvimentin陽性率,2)各群における全細胞集団別のvimentin陽性率,3)反応性尿路上皮細胞群における結石の存在部位とvimentin陽性率の3項目について比較検討を行った。症例別と全細胞集団別のvimentin陽性率においては,反応性尿路上皮細胞群が尿路上皮癌細胞群・正常尿路上皮細胞群よりも有意に高い結果を示した。結石の存在部位とvimentin陽性率では,腎盂の方が尿管よりも有意に高いvimentin陽性率を呈した。今回の検討で,尿路結石症例に出現する反応性尿路上皮細胞のvimentin陽性率は,尿路上皮癌細胞よりも有意に高いことが明らかになった。以上よりvimentinを用いた免疫細胞化学は両者の客観的な鑑別に有用である。
著者
石田 亜光 斉藤 誠人 永瀬 泰平 冨澤 一与 栗原 康哲 高草木 俊範 櫻井 信司
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.486-492, 2017-09-25 (Released:2017-09-30)
参考文献数
17
被引用文献数
1

ベセスダシステムは,atypical squamous cells(ASC)やatypical glandular cells(AGC)のカテゴリーを採用することで,判定困難な細胞症例における臨床的対応を明確にした。しかし,それでもASC,AGCの何れに判定すればよいのか苦慮する異型を伴う化生細胞症例が存在する。これらの細胞について,判定者間の判定のばらつきについて調査し,問題点を明らかにした。近隣5施設に所属する細胞診専門医4名,細胞検査士20名に異型化生細胞の写真18問を提示し,ベセスダシステムのカテゴリーでの判定を依頼した。その結果,異型化生細胞の評価に関する判定者間の一致率は極めて低く(κ‍値 −0.17~0.39),経験年数や細胞診専門医・細胞検査士別でも一致する傾向はみられなかった。異型を伴う化生細胞は,現在のベセスダシステムのカテゴリーを用いた評価では,判定者間でほとんど一致しないことが明らかとなった。近年,異型未熟化生細胞の一部にハイリスクHPV感染が関わることが明らかとなっており,このような細胞の判断基準,取り扱いについて新たな検討が必要と考えられた。
著者
田中 佳 松本 正美 田中 千津 中川 静代 柳田 善為 永田 勝宏 飯沼 由嗣
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.179-185, 2015-03-25 (Released:2015-05-10)
参考文献数
14
被引用文献数
1

我々は過去3年間に当院で尿酸アンモニウム(Ammonium Urate; AU)結晶を報告した15検体に関して患者背景および関連の検査結果を検討した。その結果,尿pHは15件中13件が酸性側に出現しており,これはAU結晶の多くはアルカリ性尿に出現するとされていたこれまでの報告とは異なっていた。その原因のひとつとして,近年本邦の尿沈渣検査が迅速に検査されるようになり,採尿時間が経過してアルカリ化した古い尿が減少したことなどが推察された。また,本結晶出現検体の背景を対照群と比較した結果,患者の多くは低年齢層であり(p < 0.001),男性に偏りを認めた(p < 0.05)。これは酸性AU結石症による腎後性腎不全の出現背景とも合致しており,AU結石症と尿沈渣検査のAU結晶の関連性が示唆される。また,尿比重は有意に高値を示し(p < 0.001),脱水・乏尿(p < 0.001)の症状が高頻度に見られた。尿の濃縮,停滞は尿路結石症のリスクファクターであることから,尿沈渣におけるAU結晶の出現はAU結石症に注意すべき所見であり,かつ脱水にも注意すべき所見と考えられた。
著者
三島 千穂 金重 里沙 長谷川 真梨 清水 直人 本木 由香里 野島 順三
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.9-14, 2021-01-25 (Released:2021-01-26)
参考文献数
11

慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome; CFS)は,これまで健康に生活していた人が,ある日突然,関節痛・筋肉痛・発熱を伴う極度の疲労状態に陥り,半年以上も健常な社会生活が送れなくなる原因不明の難病である。従来の臨床検査では,特異的な異常や病因を確定できず,治療法も確立されていない。本研究では,臨床徴候により診断が確定した慢性疲労患者28症例と一般人27名を対象に,相対的酸化ストレス度(oxidative stress index; OSI)評価および単核球細胞表面抗原解析を実施し,CFS患者の鑑別診断に有用なバイオマーカーを探索した。その結果,OSIは一般人に比較して慢性疲労患者で有意に上昇していた。一方,リンパ球分画解析では,一般人と比較して慢性疲労患者ではB細胞の有意な増加,NK細胞の減少傾向が認められた。また,単球の表面抗原解析において一般人と比較して慢性疲労患者ではCD14+/CD16−単球の割合が有意に減少し,CD14+/CD16+単球の割合が有意に増加していた。さらに,慢性疲労患者におけるB細胞およびCD14+/CD16+単球の増加は,OSIの上昇と関連していた。これらの結果から,酸化ストレス亢進によって引き起こされる慢性炎症がCFSの病態形成に関与している可能性が示唆された。
著者
森田 幸 根ヶ山 清 三好 そよ美 木内 洋之 梶川 達志 末澤 千草 上野 一郎 村尾 孝児
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.294-299, 2014-05-25 (Released:2014-07-10)
参考文献数
20
被引用文献数
2

食用鶏腸管内容物と市販鶏肉を対象にESBL産生E. coliの保菌・汚染状況を明らかにするとともに,分離株のESBL遺伝子型や分子疫学的関連性から汚染経路について検討を行った.食用鶏腸管内容物の65.1%(71/109検体)から88株のESBL産生E. coliが分離された.市販鶏肉では68.0%(34/50検体)から47株が分離された.ESBL遺伝子型は腸管内容物由来株では,CTX-M2型の占める割合が65.9%と最も高かったが,市販鶏肉由来株では,遺伝子型の偏りは認められなかった.養鶏場別のPFGEの結果,類似したバンドパターンを示す株が認められた.以上のことから,ESBL産生菌は養鶏場内で伝播することにより飼育段階で広く保菌されていると考えられた.さらに,事前に見学した食肉加工場の様子から,その処理工程においてESBL産生菌による鶏肉の汚染が拡大している可能性が推察された.
著者
刈田 綾美 眞野 容子 神作 一実 古谷 信彦
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.32-39, 2021-01-25 (Released:2021-01-26)
参考文献数
18

洗口剤を使用した口腔ケアにより,肺炎の発症リスクが低下したとの報告が海外で為されている。しかし,洗口剤は主に口腔疾患予防を目的としており,肺炎予防を目的としていないため,洗口剤の一部有効成分は既報の有効濃度よりも,日本における上限濃度は低くなっている。本研究では,洗口剤で使用されるさまざまな有効成分が肺炎を引き起こす病原体に対して十分な殺菌効果を提供できるかどうかを調査した。実験は欧州標準規格EN 1040に軽微な変更を加えて実施した。グルコン酸クロルヘキシジン(CHG),塩化セチルピリジニウム(CPC),及び1,8-シネオールを用い洗口剤で一般的に用いられる濃度を中心に調整した。各菌を18時間培養後,菌懸濁液を収集,PBSで洗浄し,細菌濃度を108 CFU/mLに調整,OD 660 nmで標準化した。菌懸濁液を洗口剤有効成分と10,20,30,および60秒間反応させた後,中和および希釈した各混合物を寒天プレートに広げ,35℃で18時間培養し,菌数算定を実施した。本研究の結果,洗口剤に用いられる濃度では,CPCは肺炎起炎菌に効果的であり,洗口剤で用いられるよりも低濃度で十分な殺菌効果を発揮することが明らかとなった。CHGは,いくつかの肺炎起炎菌に対して効果的であり,既報濃度(0.12–0.20%)よりも低濃度において有効であることが判明した。
著者
中村 真紀 坂田 裕介 小林 秀行 加藤 憲 山上 潤一 米本 倉基
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.106-115, 2021-01-25 (Released:2021-01-26)
参考文献数
7

臨床検査部門のトップマネージャーが,どのような管理職行動をすれば,部下の職務満足度を向上させるかについての科学的な研究はこれまでなされておらず,その手段は他職種のプログラムに依存しているところが大きい。そこで本研究は現場の臨床検査技師長など部門のトップマネージャーの行動が部下の職場満足度に与える影響や,部下が求める優れた管理職行動の特性を科学的に明らかにすることでこれからのマネジメント教育の指標を得ることを目的とした。方法は難波らの先行研究を引用し,管理職行動24項目,職務満足度26項目,性別等の属性を含む計69項目を150名の臨床検査技師を対象にWEBで調査を行い,得られた回答から管理職行動と職務満足度のデータを得点化し分析を行った。その結果,トップマネージャーの管理職行動が部下の職務満足度に与える影響は極めて大きく,臨床検査技師におけるトップマネージャーへのマネジメント教育の必要性が確認できた。また,管理職行動には「キャリア重視」と「働きやすさ重視」の2つの重要な役割行動があり,そのどちらかが欠けると部下の職務不満足は改善されないことが示唆された。とりわけ,トップマネージャーにおいては,性差を問わず若年層が働きやすい職場環境の充実と,役職者に対して職場の良好な人間関係構築のための配慮を同時に遂行することが重要であり,この両者からの期待役割に対してバランスよく応えられるマネジメント教育が必要と考えられる。
著者
富安 聡 大塚 百華 四丸 知弥 澁田 樹 宿谷 賢一 大田 喜孝 三宅 康之 佐藤 信也
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.562-569, 2020-10-25 (Released:2020-10-29)
参考文献数
11

背景・目的:病理診断において,マッソン・トリクローム(Masson trichrome; MT)染色は重要な染色法の一つである。しかし,MT染色は工程が多く煩雑であり,1時間程度の時間を要する。今回,MT染色における迅速法を検討したので報告する。方法:色素の調合およびマイクロウェーブ(microwave; MW)による時間短縮効果の検討と染色工程の簡略化を図り,従来法と染色結果を比較した。結果:鉄ヘマトキシリン:1分,オレンジG・酸性フクシン混合液:1分,リンタングステン酸:MW 10秒照射,アニリン青:MW 10秒照射後,腎臓は3分,肝臓は7分で,従来法と同等で良好な染色結果を得ることができた。さらに,染色工程の簡略化として第1媒染剤,1%塩酸アルコールによる分別,第2媒染剤,1%酢酸水による洗浄の工程を省略した結果,染色性の低下は認められなかった。考察:MT染色において,染色工程の時間短縮と簡略化を実現できた。これは,現在報告されているMT染色の中では最短時間である。迅速化の要因は,細胞質染色における分子間の競合をなくしたこと,MWによるリンタングステン酸の媒染効果促進によるものと考えられる。したがって,この迅速法は従来法と同等の染色結果を得ることができ,臨床の現場において推奨できる方法と考える。
著者
西森 美香 大原 有理 塩田 祐也 山﨑 美香 弘内 岳
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.92-98, 2019-01-25 (Released:2019-01-25)
参考文献数
8

救急搬送された患者に急性期脳梗塞が疑われる場合,心原性脳塞栓症(cardio-embolic stroke; CE)と非心原性脳梗塞(non-cardio-embolic stroke; non-CE)の鑑別は,治療計画決定のため重要である。今回我々は2016年7月~2018年2月に当院救命救急センターに搬送され急性期脳梗塞が疑われた101例(CE群33例,non-CE群68例)を対象とし,可溶性フィブリン(soluble fibrin monomer-fibrinogen complex; SF),D-dimer測定がCEとnon-CEとの鑑別に有用かどうかについて検討した。発症から入院時までの時間(ΔT(Hr))によって,この急性期群患者を次の2群,超急性期群(ΔT ≤ 4.5)および準急性期群(ΔT > 4.5)に分けて解析した。超急性期CE群において,搬送時SF,D-dimer値はNIHSSまたは退院時のmRSとの間に相関は認められず,SF,D-dimer値は搬入時重症度や予後をあらわす因子とは言えなかった。SF,D-dimer測定値はΔTによる群別に拘わらずCE群がnon-CE群に比べて有意に高かった。CE群とnon-CE群を鑑別するためROC解析を行った結果,超急性期群においてSFを測定項目とすることにより,AUCの最大値が得られた(カットオフ値11.8 μg/mL,特異度97%,感度87%)。このことよりSFの測定が超急性期脳梗塞患者のCEとnon-CEの鑑別の補助診断マーカーとなり得ると考えた。
著者
八鍬 恒芳
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.66, no.J-STAGE-2, pp.74-83, 2017-08-31 (Released:2017-09-06)
参考文献数
9

認知症に対する超音波検査の中で,病態に直接的な関わり合いを持つ脳内の血流動態を観察する検査として,経頭蓋超音波検査がある。経頭蓋超音波検査には,パルスドプラ信号のみで頭蓋内の血流シグナルを捉える経頭蓋超音波ドプラ法(transcranial Doppler; TCD)と,一般的な通常の超音波断層像およびドプラ法により検査を行う経頭蓋カラードプラ法(transcranial color-flow imaging; TC-CFI)がある。TCDはくも膜下出血後の脳血管攣縮(vasospasm)のスクリーニングや脳塞栓症微小栓子シグナル(high intensity signals; HITS)の検出などに用いられている。TCD検査には,TCD専用の特殊な超音波機器が必要である。一方で,TC-CFI(TCCFIやTCCSともいう)は周波数の低いセクタプローブがあれば,通常の超音波診断装置にて検査が可能である。TC-CFIにより,中大脳動脈などの血流シグナルを捉え,波形解析を行うことで,認知症の進行度合いをみたり経過観察に用いたりすることができる。また,脳血管障害の有無を調べることで,認知症との鑑別や重複する疾患を認識できる。本章では,主にTC-CFIを用いた検査法と認知症病態への応用について述べる。
著者
大野 明美 永野 勝稔 山方 純子 野口 昌代 柴田 綾子 菊池 春人 村田 満
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.534-540, 2015-09-25 (Released:2015-11-10)
参考文献数
5

ジアゾカップリング法を用いたビリルビン尿試験紙検査は,しばしば偽陽性を示すため,ビリルビン真陽性かどうかの確認試験が必要である。尿ビリルビンの測定法として,酸化法を測定原理とするRosin法,Harrison法,Watson-Howkinson法があるが,我々はこれらの方法とHarrison法,Watson-Howkinson法をアレンジした方法について確認検査としてどれが最も適切かの検討を行った。その結果,Watson-Howkinson法をアレンジした方法(W法-C)を選定した。W法-Cは吸収パッドの保存が簡単,操作も簡便で短時間に少量検体でも測定可能であった。W法-Cについて使用する吸収パッド,最低検体量,検出限界,イクトテストとの一致率を検討した。その結果,吸収パッドはワンショットドライが尿3滴で判定しやすい発色が得られ,適当と考えられた。イクトテストとの一致率は92.6%と良好であった。W法-Cはコスト面でも安価であり,日常検査における尿ビリルビン確認試験として十分使用可能であると考えられた。
著者
髙梨 淳子
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.66, no.J-STAGE-2, pp.55-61, 2017-08-31 (Released:2017-09-06)
参考文献数
6

脳波検査は,脳血流障害や外傷等による脳萎縮,脳梗塞などの脳器質的障害の程度,てんかんの鑑別などを目的に実施される。記録方法はガイドラインに則り各種の導出法や賦活の反応性から異常を判定するが,年齢や各種の要因によって脳波波形は変化するためそれらの要因を考慮して評価する必要がある。認知症患者では,病態によって理解力の低下や判断力の低下,異常行動などがあり,患者の病態や行動を確認しながら臨機応変に対応することが重要である。