著者
鈴木 周朔 渡邉 二祐子 眞野 容子 古谷 信彦
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.158-163, 2018-03-25 (Released:2018-03-27)
参考文献数
25

緑膿菌は,びまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis; DPB)等の慢性気道感染症を増悪する主な原因菌である。マクロライド系薬の少量長期低療法によるDPB患者の生存率は,既存の治療法に比べ著しく上昇した。しかしマクロライド系薬は緑膿菌に対して抗菌活性を持たない。マクロライド系薬の作用解明のために様々な検討が行われた結果,緑膿菌の病原因子を抑制することが報告された。しかし,これらの研究は短期間マクロライド系薬を緑膿菌に曝露し評価している。本研究では,マクロライド系薬(エリスロマイシン,クラリスロマイシン)を2年間緑膿菌に継続曝露することによりマクロライド系薬少量長期療法をin vitroで再現し,緑膿菌の外毒素(トータルプロテアーゼ活性,エラスターゼ活性,ピオシアニン産生量),及びマクロライド系薬曝露後の緑膿菌上清の添加がA549細胞へ与える影響について検討を行った。緑膿菌の外毒素産生性,及びA549細胞に対する障害性は,マクロライド系薬の曝露期間延長に伴い抑制が確認された。マクロライド系薬少量長期療法は,経時的に外毒素の産生を抑制することで緑膿菌の病原性を低下させ,DPB等の臨床経過を変化させるのかもしれない。
著者
守重 比路美 大塚 喜人 戸口 明宏 平田 雅子 橋本 幸平 山田 智 古村 絵理 小栗 豊子
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.18-23, 2014-01-25 (Released:2015-02-26)
参考文献数
17

Drug resistant Pseudomonas aeruginosa is responsible for severe nosocomial infections, and combination therapy is needed. We studied antibiotic combination effects by “break-point checkerboard Plate (BC plate)” and disk diffusion susceptibility test against drug resistant P. aeruginosa. Thirty-three strains of multi-drug resistant P. aeruginosa (MDRP) and metallo β lactamase (MBL) produced P. aeruginosa collected from February 2010 to June 2012 were tested using BC plate ‘eiken’ (Eiken Chemical Co. Ltd, Tokyo, Japan) to evaluate the effect with combined antibiotics. The isolates have combined effect rather than single drug effect were tested using KB disk (Eiken Chemical Co. Ltd, Tokyo, Japan). As a result, there were higher zone of inhibition against some isolates for AMK/AZT, CL/AZT, CL/RFP and RFP/AZT, and the other isolates were not strong zone (≤0.5 mm). Therefore, disk diffusion susceptibility test for MDRP and MBL produced P. aeruginosa is able to determine antibiotic combination effects when it is recognized apparent zone.
著者
土田 一樹 石田 貴子 石川 哲夫 齋藤 理 西井 亜紀
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.110-116, 2017-03-25 (Released:2017-03-29)
参考文献数
11

国内の糖尿病患者数が増加傾向にある中,血糖自己測定(self-monitoring of blood glucose;以下,SMBG)器は患者自身による日常的な血糖コントロールの手段として,ますます重要性を増している。メーカー各社から販売されているSMBG器の多くは,2013年に改訂されたISO15197に準じて精度向上が図られているが,それらの測定値には機種間差が存在することが報告されている。そこで今回,医療スタッフが正しい知識を基に機種選択を行い,患者が安心してSMBG器を使用できる環境整備に貢献するべく,SMBG器7機種を用いて精度試験を実施し,新ISO15197(2013年)の基準に沿って基本性能を評価した。
著者
横田 進 天野 直樹 糸井 正枝
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.225-233, 2017-05-25 (Released:2017-05-31)
参考文献数
16

Jerk-locked back averaging(JLA)は,誘発電位測定装置を用いて測定中に出現したミオクローヌスによって生じる筋収縮をトリガーし,その前後の脳波を加算平均する解析法である。我々は,既に記録したビデオデジタル脳波からJLA解析を行う独自ソフトウエアを開発した。本論文の目的は,このJLA解析ソフトウエアの有用性について検討することである。対象は,Dravet症候群の8か月女児(症例1)と不随運動が認められた11歳5か月女児(症例2)のビデオデジタル脳波とした。JLA解析は,以下の手順に従った。1)ビデオデジタル脳波記録を再生する。2)ミオクローヌス様の不随運動が認められる部分の筋電図の立ち上がりをonsetとする。3)onsetの同位相の前後140 msの脳波を加算平均処理する。症例1は,onsetの約60 ms前に約20~30 μVの陰性波が存在することから皮質性ミオクローヌスが示唆された。しかし,症例2には,有意な脳波変化は認められなかった。ビデオデジタル脳波記録データを用いたJLA解析は,誘発電位測定装置を用いた解析と同様に皮質性ミオクローヌスの診断の補助となり,我々が独自に開発した解析ソフトウエアは,特に測定が難しい小児において有用である。
著者
岩澤 劍 古川 美里 斎藤 友子 鈴木 愛美 小林 昌子 林 秀和
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.731-737, 2017-11-25 (Released:2017-11-30)
参考文献数
8

頸部膿瘍にてヘマトイジン結晶を認めた1症例を経験した。症例は10歳男児,左耳下腺部腫脹を訴え当院耳鼻咽喉科を受診した。画像検査所見より膿瘍形成を認め,エコー下穿刺を行った。採取した検体をグラム染色及びチールネルゼン染色を施した結果,赤血球,白血球,細菌とともに色調が黄褐色から赤褐色で大部分が菱形,一部は針状の結晶を認めた。結晶の形態的特徴からヘマトイジン結晶を疑った。ベルリン青染色とスタインのヨード法がともに陰性であり95%アルコール,10%酢酸,10%塩酸に不溶,10%水酸化ナトリウムに溶解したため,ヘマトイジン結晶と同定した。ヘマトイジン結晶は閉塞的な環境で出血することで形成され,髄液や尿などで観察されることが知られている。特に,髄液では穿刺時の血液混入と陳旧性の頭蓋内出血を鑑別診断する指標となる。結晶の出現は出血時期の推定に有用な情報となり得るため,積極的に臨床側へ報告することが重要である。
著者
田島 桂子 宮澤 義
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.533-539, 2016-09-25 (Released:2016-11-10)
参考文献数
8

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は極めて進行が速く,発症後2~5年で半数ほどが呼吸筋麻痺による呼吸不全で死に至る。呼吸管理をするうえでスパイロメトリーは必要不可欠な検査であるが,筋力障害のためスパイロメトリーが困難で,病態に即した値を導きだすことが難しく,努力呼出の誘導や妥当性の基準は不明である。我々は11症例のALSの病期進行に伴う肺気量変化とFV曲線のパターンの変化の関係を解析し,最大努力呼出の誘導や妥当性の確認の目安となる指標を調べた。ALS患者の病期進行に伴うFV曲線のパターンの変化は,呼出の持続ができず呼気終末が止まる腹式呼出障害パターン,スムーズな胸・腹式共同呼出ができず下降脚が乱れる胸・腹式共同呼出障害パターン,速い呼出ができずピークの低い波形となる胸式呼出障害パターンの順に現れた。また,この呼出障害パターンが現れる肺気量(%FVC)は,腹式呼出障害パターンで100%,胸・腹式共同呼出障害パターンは80%,胸式呼出障害パターンは50%程度で出現しはじめた。肺気量とFV曲線の呼出障害パターンを参考にすることで,病態に合致した最大努力呼出の誘導および妥当性の確認が可能となることが示唆された。
著者
天野 宏敏 原澤 彩貴 眞野 容子 細井 淳裕 古谷 信彦 藤谷 克己
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.339-346, 2019-04-25 (Released:2019-04-25)
参考文献数
16

尋常性痤瘡(ニキビ)は,90%以上の人が経験する一般的な疾患であり,角化異常および皮脂分泌の亢進などにより,Cutibacterium acnes(C. acnes)が増殖した結果,引き起こされる慢性炎症性疾患である。外見へ影響があるため,感情面での生活の質(QOL)への影響が大きい。本研究では,健常人におけるニキビ治療の実態把握やC. acnesの年代別保有状況を疫学的に調査,分析を行うことを目的とした。10代19名,20代20名,30代20名,40代20名の計79名を対象に,検体採取を行った後に,質問表式調査法による調査を行った。両頬におけるC. acnesの検出率は全体で82.3%であった。また検出率における年代および性別間では差が認められず,年代・性別を問わずC. acnesを保有していた。ニキビに対する対処法として,全体では洗顔をするが50.0%と最も多かったが,何もしないが16.4%であった。発症時期(自覚した時)は10代に最も多く認められた。治療を始めた理由として全体では,ニキビ痕が残ることが心配になった,人からの目が気になった,の2つが多く半分以上を占めていた。ニキビに関して,全体ではとくに関心をもっていないが最も多く,特に30代と40代で顕著であった。
著者
星 雅人 堀田 真希 宿谷 賢一 野崎 司 古川 博 滝 賢一 油野 友二 稲垣 勇夫
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.275-282, 2014-05-25 (Released:2014-07-10)
参考文献数
10

最近,硝子円柱における臨床的意義に関する多くの報告があるが,硝子円柱の詳細な形態基準は未だ明らかではなく,判定のバラツキが大きいのが現状である.我々は尿検査担当技師643人に硝子円柱フォトアンケート調査を実施し,得られた結果から硝子円柱判定の形態学的特徴の解析とその解析結果に基づいた硝子円柱形態判定フローチャートを作成した.本調査結果により,硝子円柱判定のバラツキの収束と統一化された判定基準による硝子円柱の臨床的意義の解明が望まれる.
著者
森永 睦子 古川 聡子 岡本 操 河口 勝憲 辻岡 貴之 通山 薫
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.113-118, 2018-01-25 (Released:2018-01-27)
参考文献数
12

リチウム(以下,Li)は躁うつ病の治療薬として広く利用されており,治療濃度域と中毒濃度域が接近していることから治療薬物モニタリング(therapeutic drug monitoring; TDM)の対象薬物である。またLiは腎臓から排泄されるため腎機能が低下すると中毒症状を出現しやすい。今回,当院高度救命救急センターへ意識障害で搬送され,腎機能低下を伴う高Li血症がみられた2症例について報告する。症例1は30歳代,女性で医療に対する精神的不安感から多剤大量服用した患者で,Li推定服用量は12,800 mg/1回である。来院時の血中Li濃度は13.2 mEq/Lと極高値かつ腎機能低下を認めた。持続的血液透析(continuous hemodialysis; CHD)約30時間後の血中Li濃度は1.2 mEq/Lまで低下し,CHD離脱後21時間後の血中Li濃度は0.8 mEq/Lであり,リバウンドを認めることなく第3病日に退院となった。症例2は80歳代,女性でLiの服用に伴い定期的に血中Li濃度を測定し治療域を推移していた患者で,Li服用量は400 mg/dayである。来院時の血中Li濃度は1.8 mEq/Lと高値かつ腎機能低下を認めた。輸液により意識レベルは改善し同日帰宅となった。以降,Liの服用は中止された。当院に意識障害で搬送され,毒劇物解析室に分析依頼があった患者の集計を行った結果,約17年間でLi服用患者は47例でそのうち19例(40.4%)が高値側の中毒域であった。意識障害で搬送された患者にLiの服用歴がある場合,Li中毒,腎機能低下を疑い,さらにLi濃度測定を行うことで診療に貢献できると思われる。
著者
橋本 文子
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.570-576, 2019-07-25 (Released:2019-07-27)
参考文献数
24

世界保健機構(World Health Organization; WHO)によれば世界3大感染症はHIV・結核・マラリアである。特に1980年代以降に急速に広がったHIV感染は結核の発病を促進した。3大感染症が深刻なのは一般的にサハラ以南アフリカ地域においてである。これらの地域では近年イムノクロマトグラフィー法を中心とした感染症の迅速診断検査(rapid diagnostic test; RDT)が急速に広がっている。RDT診断は日本ではpoint of care testing(POCT)として初期治療に役立つ迅速検査の意味を持つが,サハラ以南アフリカにおいては,簡便に診断が行える検査として用いられている。又,世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)がこれら感染症検査と治療の財源を多く賄っている。尚,結核の診断は現在も塗抹鏡検検査法に頼っている為,新しい技術による検査法が待たれている。一方,日本では結核こそ中蔓延国に分類されるが,これら感染症の発症数が少ない為,診断法として,より精度の高いPCR検査が一般的に用いられる。ここから見えることは高蔓延国においてはいかに合理的に患者を拾い上げるか,低蔓延国においてはいかに正確に診断をするか,が検査において問われているということである。
著者
小野原 健一 吉多 仁子 田澤 友美 松下 茜 河原 邦光 橋本 章司
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.483-488, 2015-07-25 (Released:2015-09-10)
参考文献数
9
被引用文献数
2

【目的】TRCReady MTB/MAC(TRC法)は転写-逆転写協奏反応(transcription reserve transcription concerted reaction; TRC反応)を原理とし,自動で核酸の精製,増幅,検出を行う新しい抗酸菌検出法である。結核菌およびMAC検出におけるTRC法と,当院で実施しているコバスTaqMan MTB/MAI(PCR法)を比較検討した。【期間・対象・方法】2012年11月から2013年7月までにPCR法による結核菌同定依頼があった135検体(培養陽性49,陰性86),MAC同定依頼があった107検体(培養陽性64,陰性43)を対象としてTRC法とPCR法を施行し,培養結果との相関および測定時間を比較した。【結果】結核菌検出で培養との一致率は,TRC法95%(感度90%,特異度98%),PCR法94%(感度88%,特異度98%),MAC検出での一致率は,TRC法96%(感度97%,特異度95%),PCR法97%(感度98%,特異度95%)であった。NALC-NaOH処理後の検体から測定結果が出るまでに要した時間は,TRC法約50分,PCR法約210分であった。【まとめ】自動化されたTRC法はPCR法と同等の検出性能を有し,簡便に短時間で結果が得られる結核および肺MAC症の迅速診断に有用な検査法であると考えられた。
著者
河内 誠 尾崎 隆男 西村 直子 大岩 加奈 岩田 泰 野田 由美子 中根 一匡 舟橋 恵二
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.569-575, 2015-09-25 (Released:2015-11-10)
参考文献数
14
被引用文献数
1

2012年10月~2014年3月の1年6カ月間に,激しい咳や長引く咳などにより百日咳の鑑別を要した168例を対象に,百日咳の実験室診断法を後方視的に検討した。病原体診断法として全例から後鼻腔ぬぐい液を採取し,百日咳菌分離とloop-mediated isothermal amplification(LAMP)法による百日咳菌DNA検出を行った。126例については,血清診断法としてPT-IgG抗体価を測定した(ペア血清67例,単血清59例)。実験室診断基準は,菌分離またはDNA検出または血清診断基準に該当したものとした。168例中34例(20%)が百日咳と実験室診断され,初診時年齢の中央値は0.9歳(日齢17~12.3歳)であった。DNA検出は16例(47%),菌分離は9例(26%)であり,菌分離例は全てDNA検出例であった。血清診断基準該当例は31例(91%)であり,18例(53%)が血清診断基準のみに該当した。その中の7例のワクチン未接種幼若乳児(日齢17~3カ月)では,6例がペア血清で抗体価の低下を認め,1例は幽門狭窄症による咳込み嘔吐であった。これら7例は母体の経胎盤移行抗体による血清診断基準偽該当例と考えられた。百日咳の実験室診断法として病原体診断がより確実であり,特に簡便・迅速で感度の高いLAMP法は有用と思われた。
著者
鈴木 優治
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.163-168, 2015-03-25 (Released:2015-05-10)
参考文献数
11

市販のpH試験紙9種類[thymol blue (TB), bromophenol blue (BPB), bromocresol green (BCG), bromocresol purple (BCP), bromothymol blue (BTB), methyl red (MR), phenol red (PR), cresol red (CR), alizarin yellow (AZY)]における非イオン性界面活性剤(Brij 35およびTriton X-100)により生じる測定誤差について検討した。界面活性剤により負誤差が生じた。測定誤差は界面活性剤濃度に比例し,Brij 35存在下ではBTB,BCG,BCP,BPBにおいて大きく,Triton X-100存在下ではBTB,BCGにおいて大きかった。PR,CR,MR,AZYによる測定誤差は小さかった。測定誤差はpH指示薬の分子量と相関傾向を示した。
著者
高橋 嘉明 村上 舞 森川 由佳里 田代 雄大 高橋 裕美 白石 万喜 小林 由香
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.423-427, 2017-07-25 (Released:2017-07-29)
参考文献数
3

近年,病棟に出向いて実施している具体的な臨床検査技師の業務項目として,生理学的検査,検体採取,各検査の説明,ICT・NST活動への参画などを行い,患者中心のチーム医療へシフトし始めている。こうした動向を受け,当院の臨床検査科では病棟業務,特に病棟採血を積極的に実施している。臨床検査技師が全病棟のナースステーションに赴き,検査指示回収から採血,結果報告までを一括して担当しており,患者の病態の把握,診断・治療の迅速化をもたらし,治療の質の改善につながっている。
著者
松木 美貴 竹村 浩之 上野 剛 脇田 満 久野 豊 堀井 隆 田部 陽子 大坂 顯通
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.586-589, 2014-09-25 (Released:2014-11-10)
参考文献数
7
被引用文献数
1

尿中ケトン体測定は,日常検査法としてニトロプルシドナトリウム反応を使用した試験紙が用いられているが,本反応では薬剤による偽陽性が多く報告されている.特に抗リウマチ薬であるブシラミンなどスルフヒドリル基(SH基)を有する薬剤と反応し,偽陽性を示すことが問題となる.「ウロペーパーα III‘栄研’改良ケトン体試験紙」(改良KET試験紙:栄研化学)は,SH基を含む薬剤による偽陽性反応の回避を目的として開発された尿試験紙である.本検討では,従来の「ウロペーパーα III‘栄研’ケトン体試験紙」(KET試験紙:栄研化学)との比較を行い,改良KET試験紙の臨床的有用性について検討した.改良KET試験紙とKET試験紙による尿中ケトン体検出結果の完全一致率は89.4%(261/292)で,不一致を示した検体31件(10.6%)中25件は,改良KET試験紙が陰性,KET試験紙が陽性を示した.この乖離検体の尿中ケトン体を酵素法で測定した結果,全検体が陰性であり,ブシラミン服用中の関節リウマチ患者の尿検体であった.改良KET試験紙は,従来法のKET試験紙で認められたブシラミンによる偽陽性反応を回避し,より正確なケトン体検出が可能であると考えられた.
著者
古川 聡子 河口 勝憲 加瀬野 節子 前田 ひとみ 末盛 晋一郎 通山 薫
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.648-654, 2014-09-25 (Released:2014-11-10)
参考文献数
3
被引用文献数
1

溶血・混濁は測定値に影響を与えるため,血清情報(溶血・混濁)を臨床側に報告することは病態把握および検査値を解釈する上で必要である.しかし,血清情報に関しては各施設任意の判定基準を採用しており,標準化が行われていないのが現状である.そこで,現状把握のため調査を実施した.調査内容はアンケート調査,溶血・混濁の希釈系列を用いたコメント付加開始点の調査(岡山県近隣施設の施設間差と目視判定の個人差)および測定値への影響について行った.アンケート調査では,約7割の施設が自動分析装置で血清情報の測定を行っており,報告形態は定性値の軽度(弱または微)・中度・強度の3段階が最も多く使用されていた.溶血のコメント付加開始点の調査ではヘモグロビン(Hb)濃度40~50 mg/dLでの設定が多く,Hb濃度50 mg/dLにおける測定値の変化はLD:53.0 U/L(+29.7%),K:0.16 mEq/L(+4.2%),AST:2.5 U/L(+10.2%)の上昇であり,その他の項目では影響(変化率:4%未満)は認めなかった.混濁のコメント付加開始点はイントラリポス濃度0.02%前後の設定が多く,イントラリポス濃度0.02%では測定値の変化は認められなかった(変化率:4%未満).また,溶血・混濁のコメント付加開始点は施設間で異なり,目視判定も個人の認識に差があることが明らかとなった.
著者
山田 直輝 原 祐樹 川島 誠 浅井 幸江 井藤 聡美 深見 晴江 伊藤 守
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.307-313, 2018

<p>通常血液培養から細菌を同定する場合,最低3日必要であるが,質量分析器を用いれば最低2日で菌名の同定が可能になった。また,MALDIセプシタイパー血液培養抽出キット(ブルカー・ダルトニクス)(以下,セプシタイパー法)が開発され,血液培養検体から直接質量分析測定を行えるようになり,当日に菌名同定が可能になった。しかしセプシタイパー法を用いて測定を行った場合,1検体当たりのコストが高い。そこで,より安く測定できる方法(以下,直接法)を考案し,検討を行った。当院で血液培養陽性となった検体から無作為に抽出した100件を対象として検討を行った結果,全体の同定率は,直接法では菌種レベルまで可能であったのが67%(67/100)セプシタイパー法では66%(66/100)であった。グラム陽性球菌における直接法の同定率は,菌種レベルまで可能であったのが40%(17/42),セプシタイパー法では45%(19/42)であった。グラム陰性桿菌では直接法は92%(48/52),セプシタイパー法では87%(45/52)であった。作業時間もほぼ変わらないだけでなく,特殊な試薬を用いず,セプシタイパー法と同等の結果を得られることから有用な方法であると考えられた。しかし,グラム陽性球菌の同定成績が低く,改善の余地があると考えられたため,今後改良法についても検討を進めていきたい。</p>
著者
尾方 真帆 平塚 京子 赤尾 智広 越智 繁樹 竹治 智 恩地 森一
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.466-471, 2016

<p>吸収不良症候群の診断は,脂肪吸収試験が必須である。今回,脂肪吸収試験(簡易便中脂肪定量法)が有用であった吸収不良症候群疑いの2症例を経験したので報告する。症例1は60歳代男性で,体重減少が生じていた。脂肪吸収試験の結果,脂肪吸収率0%(参考基準値:97–100%)で,吸収不良症候群と診断するために脂肪吸収試験が有用であった。治療としてリパクレオン<sup>®</sup>,タフマック<sup>®</sup>Eによる消化酵素補充療法が開始され,治療経過中に再度行った脂肪吸収試験の結果は脂肪吸収率63.9%と,治療前と比較すると大幅な改善が認められた。症例2は60歳代男性で,体重減少が生じていた。脂肪吸収試験の結果,脂肪吸収率97.8%で,吸収不良症候群を否定するために脂肪吸収試験が有用であった。脂肪吸収試験は脂肪負荷食の設定や試験中の間食の監視,蓄便の徹底,および採便前の混和など,手技を正確に行えば再現性は良好で,精度が高い検査であった。また簡易便中脂肪定量法を用いた脂肪吸収試験は界面活性剤と汎用自動分析装置を用いる簡便な検査であり,吸収不良症候群の鑑別のためのスクリーニング検査として,どの施設においても実施が可能であると思われる。さらに,簡易便中脂肪定量法を用いた脂肪吸収試験は吸収障害の程度を定量的に把握することが可能であるため,吸収不良症候群の診断や治療方針の決定,その効果判定に有用であった。</p>
著者
高嶋 浩一 清水 俊彦 朝倉 伸司
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.403-409, 2018-05-25 (Released:2018-05-30)
参考文献数
12

症例は78歳,男性。夕刻に西日の眩しさを気にしながら自家用車を運転していたところ,急に右手のけいれんが起きてパニックになりガードレールに衝突した。頭部MRIのFLAIR画像では両側に高信号域が散見された。また,頭部MRAでは右中大脳動脈の狭窄があった。脳波は3 Hzの光刺激で開始から約1秒後に前頭部優位の小棘・徐波複合が出現した。その後12 Hzの光刺激において開始直後に顔面と上半身がけいれんした状態になり,名前を呼んだが無反応であった。けいれんは約10秒で治り呼名にも応じるようになった。本症例は問診,画像所見,および脳波上のてんかん性放電の出現により症候性てんかんの臨床診断となった。今後,超高齢化社会の到来により,子どもの病気と考えられていたてんかんが高齢者にも増えることが予想される。てんかんであれば薬剤で治療できる疾患である。これは脳波担当の臨床検査技師,および多くの高齢者と日常的に接する老人介護施設のスタッフ,地域のケアマネージャーも認識する必要がある。
著者
高嶋 浩一 朝倉 伸司
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.391-397, 2018

<p>血液透析(hemodialysis; HD)患者の足の冷感と皮膚温,皮膚灌流圧(SPP)の関係を糖尿病合併の有無において検討した。対象はHD患者204例(男性144例,女性60名,うち糖尿病94名,非糖尿病110名),年齢25~91歳(平均:63.5歳),透析歴1ヶ月~34年1ヶ月である。方法は足の症状を問診して足部の皮膚温を皮膚赤外線体温計で計測し,足底SPPを測定した。検討の結果,(1)糖尿病では31例(33%),非糖尿病では31例(28.2%)に足の冷感があった。糖尿病では足の冷感に伴い足部温の有意な低下があったが,非糖尿病では足の冷感の有無による足部温の有意差はなかった。(2)糖尿病と非糖尿病の足部温と足底SPP値には正の相関が認められた。(3)糖尿病の左足底SPP値は75.3 ± 21 mmHg,右足底SPP値は76.5 ± 18.2 mmHgであり,非糖尿病の左足底SPP値80.2 ± 19.2 mmHg,右足底SPP値81.6 ± 15.7 mmHgに比して有意に低下していた。以上よりHD患者において足部温と足底SPP値に相関関係がみられたことは,HD患者の足部温低下は足の毛細血管における血流障害に起因すると考えられる。また,糖尿病HD患者は足の冷感があり,かつ足部温の低下と足底SPP値の低下も認められたことは,糖尿病の合併症である自律神経障害による血管運動異常,および細小血管障害が関与していることが示唆された。</p>