著者
島津 俊之
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.14, pp.887-906, 2007-12-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
137
被引用文献数
1 1

近年の英語圏地理学史研究では, 地理的知識の生産・流通・消費における空間の意義を問題化する知の空間論の視点が勢いを増している. 本稿では, 京都帝国大学教授として日本で最初の地理学教室を主宰した小川琢治が, 紀州を中心とする多様な空間的コンテクストの中で, 地理学に関わる思想・実践をどのように育んでいったのかを検討した. 少年期に紀州で育まれ, 後年の中国歴史地理研究に活かされた漢学の素養は, 不眠症に陥った青年期の小川を熊野旅行へと導いた. 熊野の物質的景観との遭遇は小川の地学への志向性を呼び覚まし, そこでは地表の外形や地表諸現象の相互関連への関心が表明された. 慶応義塾で地理学を教えた紀州出身の養父の理解は小川の理科大学地質学科入学を可能にし, 地学への志向を標榜する地質学教室は彼の地理学的想像力の内的進展を促した. 知の空間としての東京地学協会は, 小川に地理学を新たな専門分野として明視させる契機を与えた.
著者
大呂 興平
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.10, pp.547-566, 2007-09-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
40
被引用文献数
2 6 2

北海道では1950年代後半以降, 肉用牛繁殖部門が急成長してきた. この成長は, 異なるタイプの経営が複雑に展開することにより実現されたものである. そこで本研究では, 北海道の代表的な子牛産地である大樹町を事例に, 肉用牛繁殖部門の成長過程を, 経営群の進化という概念により考察した. 経営群の進化とは, 地域の経営群において特定のタイプの経営が増減し, 経営群の構成が変化する過程をいう. 本研究ではこの過程を, 個々の農家が経営タイプを変化させる際の, 資本装備の導入, 適応的な技術習得過程, 維持という三つの局面に注目して説明を試みた. 大樹町の肉用牛繁殖経営群では, 時間の経過とともに小規模経営, 中規模経営, 大規模経営という異なる技術的特徴を持つ経営が現れ, それらが地域の基幹農業部門の動向や補助事業の実施などと関連して複雑な展開を示した. 小規模経営は, 農家の副収入源として, 他部門の動向に規定されながら広範に展開した. 中規模経営は, 他部門に対して所得が劣るため, 主に畑作の冷害や子牛価格の高騰時に一時的に成立した. 大規模経営は, 酪農や畑作に生計を依存できない少数の農家が, 大型補助事業を利用することで成立し, 技術力の違いによる収益格差を伴いながら展開した.
著者
富田 啓介
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.6, pp.335-346, 2006-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
8
被引用文献数
2 1

都市近郊のため池密集地域である愛知県知多半島中部を事例にして,1998年から2002年の期間におけるため池の減少率を,それぞれのため池周辺に卓越する土地利用別に検討した.調査の結果,ため池は,圃場整備の行われていない農地や,農地に宅地が無秩序に進出しているような用途混在地に多く分布していた.そこでは受益面積のない貯水量の小さいため池が多くを占め,減少率が高かった.一方で,宅地や圃場整備の行われた農地ではため池の分布数は少なかった.そこに存在するため池は,受益面積が比較的保持され,貯水量が相対的に大きいという特徴を持ち,減少率は低かった.以上のことから,土地造成が行われていない地域において,利用価値の低下を理由として小規模なため池が放棄され消滅が進んでいること,宅地や農地のための土地造成が行われている地域においては,利用価値のある大規模なため池が選択的に残されていることが確認された.
著者
木村 オリエ
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.111-123, 2006-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
40
被引用文献数
4 9

本稿は大都市圏郊外地域を対象とし,地域社会において新たな社会関係作りを試みようとする男性退職者の郊外コミュニティへの参加を考察し,これを通して明らかになった彼らの社会関係再構築の可能性と課題を検討した.近年,郊外地域に住む多くの勤労者が定年退職を迎え始め,居住地で過ごす時間が多くなった.しかしながら,郊外コミュニティとの接点を持てない孤独な男性退職者の存在が社会問題となっている.だがその一方で,郊外コミュニティで自発的に社会関係を築こうとする男性退職者たちの存在も見逃せない.そこで本稿は,男性退職者が郊外コミュニティに向き合う一つの手段としてコミュニティ活動に着目し,活動への参加状況を把握するためにアンケート調査,および彼らがこれらの活動に参加するプロセスを検討するために聞取り調査を行った.その結果,男性退職者のコミュニティ活動では,「自己の生活の充実」を目的とした活動への参加が,またこれに至る過程では妻など仲介者に依存する側面が大きいことがわかった.しかし活動に参加する退職者の中には,「コミュニティの充実を図る」という目的で活動を行う一面もみられた.彼らは,勤め人として培ってきた知識や経験を活かすかたちで新たに郊外コミュニティへの参加を可能にしているのである.
著者
高橋 健太郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.14, pp.987-999, 2005-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
29

本研究において,中国寧夏回族自治区を事例として,回族のイスラームの聖者廟(ゴンベイ)への参詣の実態と特徴,およびその宗教活動が教坊(モスクを中心とする地域社会)へ与える影響について検討した.調査地域においては,聖者廟は,スーフィー教団のものとそれに属さない教宣者を祭ったものとに大別され,回族住民は教坊ごとにそれらへの集団参詣を行っている.参詣の主な目的は,現世利益の獲得,聖者の霊への接近,死後の平安の祈念と多様であり,レクリエーションも兼ねている.聖者廟参詣の際には,交通手段の確保や廟への施しの取りまとめ,儀礼の遂行などで教坊が重要な役割を果たしており,集団参詣を通して,人々の間で教坊の存在意義が再確認されている.また,特に男性にとって,聖者廟参詣は自身の宗教知識や敬虔さ,経済力を示す機会となっており,この宗教活動を通して,教坊内における社会的地位を向上させている人もいることが明らかになった.
著者
吉田 雄介
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.8, pp.491-513, 2005-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
43

本稿では,イラン・ヤズド州メイボド地域における1980年代以降のズィールー(綿絨毯)の衰退過程を,現役生産者32名への聞取り調査とメイボド・ズィールー生産者協同組合所蔵の資料調査に基いて検討した.生産量・生産者数ともに激減する中で,ズィールーの生産構造は,少数の主力生産者と多数の兼業者という二極分化が生じた.近年のズィールー生産の特徴の一つは,専業の生産者数がきわめて少なくなったということであり,もう一つの特徴は多くの生産者は日雇労働などと兼業でズィールーを生産するという多就業化である.このように,メイボド地域のズィールー生産は,本業から多就業の一選択肢へと位置づけが変化した.それは,ズィールー生産は単体では存在し得ず,多就業の一環として存続し得るにすぎなくなったことを意味する.そして,こうした多就業的なズィールー生産を可能としているのは,外的な要因としては,イランの経済構造の変化による臨時・日雇の就労機会の増加であり,内的な要因としては,ズィールー製織の柔軟性と産地の集積の利益としての組合の存在にある.
著者
富永 隆 貞広 幸雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.10, pp.743-758, 2003-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
13
被引用文献数
1 4

本研究では,学区を構成するさまざまな物理的環境に焦点を当て,GIS上の空間データを用いた学区再編案の導出手順を提示し,東京都北区の小中学校統廃合問題に適用した.特に各中学校区が複数の小学校区を包含する学区形態(スクールファミリー)に注目し,学区再編におけるスクールファミリーの導入を検討した.実証分析ではいくつかの通学条件を目的変数として区割りを最適化することで具体的な学区案を導出し,得られた学区案における通学環境を定量的に測定,比較評価した.分析の結果,スクールファミリー導入により通学距離は増大するが,最大通学距離を制約条件とすることで現実的な通学距離に抑えることが可能であることがわかった.また,現状および学校統廃合時のいずれの学校配置においても,学区再編時にスク-ルファミリーの導入は物理的に可能であることが確認できた.したがって,スクールファミリーは学区再編の議論における一つの現実的な選択肢であるといえる.
著者
関根 智子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.10, pp.725-742, 2003-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
24
被引用文献数
4 4

本研究では,千葉県松戸市における眼科医院を事例として,都市施設への近接性の安定度を時空間的に分析した.GISを利用して町丁・字の中心から眼科医院への最短道路距離を測定し,近接性の測度とした.この近接性を,測定対象数の変更(第2近隣施設の考慮),測定地域単位の細分化(100メートル・メッシュ),診療時間の考慮,の三つの側面から分析し,安定度を考察した.その結果,測定対象数の変更では,近接性の良い地区でも,施設の分布密度が下がると,安定度も急激に低下することが明らかになった.居住地の地域単位を100メートル・メッシュに細分化すると,20%の町丁・字では,その地区面積の半分以上で100メートル・メッシュの近接性と異なり,安定度が低かった.診療時間を考慮すると,市内の第1の中心地周辺では近接性は安定している一方,第2,第3の中心地周辺では大きく低下していることがわかった.
著者
廣内 大助
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.119-141, 2003-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
36
被引用文献数
1 1

北陸地方南部に位置する福井平野には,平野東縁山麓部の活断層と,1948年の福井地震の震源断層とされる伏在断層(福井地震断層)が分布する.本研究では,これら活断層の活動と,福井平野の地形形成との関係を考察した.福井平野東縁地域には, M1~M3の3面の海成段丘面と, Mf・Lf1~Lf3面の4面の河成段丘面が分布する.平野東縁に分布する活断層は段丘面に累積的な変位を与え,その上下平均変位速度は約0.1~0.3m/ky程度である.これら活断層の変位によって,平野東縁での,山地と丘陵,丘陵と平野の分化が進んだ.左横ずれ活断層であると考えられる福井地震断層は,沖積低地に分布するため,変位地形は不明瞭である.しかし,断層に沿った地下の基盤高度は断層を挟んで北東と南西で高く,北西と南東で低いという特徴がある.また,地震断層北部東側ではM2面は分布高度が高く,北北西方向へ傾動している.これらの特徴は,左横ずれに伴う上下変位が累積していることを示しており,計算から求められた福井地震時の上下変位量分布とも矛盾しない.
著者
有留 順子 石川 義孝
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.44-55, 2003-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
55
被引用文献数
1 1

本稿では,東京大都市圏の事例企業を対象に,テレワークの代表的な形態である分散型オフィスでの業務内容とオフィス立地の特色を明らかにした.データは,主に企業のテレワーク推進者への聞取り調査から得た.情報・通信技術の進展により,分散型オフィスでは,文書作成など個人単位の業務がより効率化されただけでなく,従来は対面接触が不可欠であった会議などのグループ単位での業務形態も変わりつつある.分散型オフィスは,東京大都市圏の南西部,都心から約30kmの圏内に多く立地している.調査事例では,分散型オフィスへ勤務地を変更した就業者は,全般的に通勤時間を大幅に短縮していた.
著者
杉浦 芳夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.201-215, 1977
被引用文献数
1

大正期に世界的規模での流行をみたスペインかぜのわが国における流行過程は,これまで不鮮明であるとされていた.本稿は,その拡散経路を推定しつつ,この点の再検討を行なうことを目的としている.日本帝国死因統計を資料として, 1916年7月~1926年6月の10か年の各月ごとの府県別インフルエンザ死亡率を因子分析にかけた結果, 3つの流行地域が抽出された.それによると,第1因子は西日本地域,第2因子は都市地域,第3因子は東日本地域を識別していることがわかった.そして,因子得点間のクロス相関から3つの流行地域の時間的前後関係を検討してみると,スペインかぜは,西日本の主要港湾ならびに横浜港から侵入した可能性のあることが示唆され,その拡散過程において近接効果と階層効果が働いていたことも明らかとなった.以上の分析結果は,従来の通説とは異なり,わが国におけるスペインかぜの流行過程に,一の空間的秩序のあったことを意味するものである.
著者
貝塚 爽平 森山 昭雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.85-105, 1969-02-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
32
被引用文献数
4 7 19

相模川の沖積低地の地形と沖積層を記載し,その形成過程をのべた.研究の方法は,普通の地形・地質調査法と調査ボーリングならびに深井資料の解析によった.この沖積低地には2つの興味ある問題がある.その1つは相模川の河成段丘地形と沖積層と海底地形との関係で,陽原段丘の1時期に海面が現在より100m以上低下し,沖積層基底の不整合面が作られたと結論された.古富士泥流の時期はこれよりおくれる.もう1つの問題は相模川は河口まで礫を運ぶ河川であり,河川も平野も扇状地的勾配をもつのに,平野は自然堤防型で,厚い後背湿地堆積物をもち,日本の海岸に近い普通の河成平野と異なることである.この理由は,海岸に砂州が発達し,とじられた水域に泥の多い沖積層が堆積したことや,下流部の地盤の上昇による河床低下などに主な原因があると推定した.
著者
松浦 旅人
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.142-160, 2003-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
42
被引用文献数
1 1

山形県新庄盆地に分布する中期更新世後半のテフラ層序を示し,奥羽山脈東側の地域に分布するテフラとの対比を試みた.テフラの対比にあたって,構成物質および屈折率特性の層内垂直変化に着目した.主なテフラは下位より,西山テフラ (Nsy), 鳥越テフラ (Trg), 二枚橋テフラ (Nmb), 泉川テフラ (Izk), 絵馬河テフラ(Emk),牛潜テフラ (Usk) が累重する.Nsy, TrgおよびEmkは奥羽山脈東側にも分布し, Trg, Emkは鬼首池月テフラ (O-Ik), 曲坂テフラ(MgA)にそれぞれ対比される.Uskは上位にあるレスの堆積速度を一定と仮定すると,200~230kaに噴出したと推定される.新庄盆地を埋積する中部更新統山屋層は,O-Ik噴出以降,Nmb噴出前後に堆積が終了し,その年代は300ka前後と推定される.
著者
埴淵 知哉
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.87-112, 2005-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
42
被引用文献数
2 1

本稿は,国際的非政府組織(INGO)における空間組織の編成を,グローバル化との関連から明らかにするものである. INGOの空間組織は,調整機関としての国際拠点と自律的な地域拠点,そしてネットワーク組織の諸特性を伴う拠点間の関係から構成されており,それは多様な空間スケールにおける戦略の結果としてみられる.このような空間組織を編成する要因は,相互に依存する「ローカルな実行性」・「グローバルな実行性」・「ローカルな正当性」・「グローバルな正当性」というカテゴリーから説明することができる.すなわち, INGOはグローバル化の複雑な空間再編成に同時対応する戦略を通じて,これらの実行性と正当性を獲得しその影響力を行使していると考えられる.また, INGOの空間組織は国家の領域を基盤として編成されており,このことから世界都市システムをとらえ直す必要性が指摘された.
著者
平野 昌繁
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.324-336, 1966-05-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
8
被引用文献数
7 4

A mathematical model of slope development is summarized by the relation _??_ where u: elevation, t: time, x: horrizontal distances, a: subdueing coefficient, b: recessional coefficient, c: denudational coefficient and f (x, t): arbitrary function of x and t, respectively. Effects of the coefficients are shown in figs. 1-(A), (B) and 2-(A). In order to explain the structural reliefs, the spatial distribution of the rock-strength against erosion owing to geologic structure and lithology is introduced into the equation by putting each coefficient equal a function, in the broadest sence, of x, t and u. Two simple examples of this case are shown in fig. 5. The effects of tectonic movements, for instance of faulting, are also introduced by the function f (x, t), which is, for many cases, considered to be separable into X (x) and T (t), where X (x) and T (t) are functions of x only and t only, respectively. An attempt to classify the types of T (t) has been made. Generally speaking, provided the coefficients a, b and c are independent of u, the equation is linear and canbe solved easily. With suitable evaluation of the coefficients (as shown, for example, in fig. 4-(A)), this linear model can be used to supply a series of illustrations of humid cycle of erosion, especially of the cycle started from faulting.
著者
平井 幸弘
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.679-694, 1983-10-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
27
被引用文献数
19 14

関東平野中,部の加須低地と中川低地とでは,沖積層の層序・層相や低地の微地形に違いが見られる.この違いをもたらした要因を明らかにするために,沖積層の堆積環境の地域的差異と時間的変化を,沖積層堆積直前の地形(前地形)の変化という視点から考察した. 中川低地では,最終氷期極相期に渡良瀬川・思川によって,深い谷(中川埋没谷)が形成された.後氷期の海進はその谷の全域に及び,海成層が堆積した.その後,河川は勾配の緩やかな幅広い谷底を自由蛇行し,それに沿って自然堤防を発達させてきた. 加須低地では,沖積層に薄く被覆された洪積台地(埋没小原台~武蔵野面)が存在している.後氷期の海進は,この台地を開析した複数の小さな谷(加須埋没谷)の下流部にのみ及んだ.その後,河川による堆積は,最初谷中に限られていたが,谷が埋積されると,沖積層の堆積域は台地面上へと拡大し,地域全体が「低地」化した.しかし,台地を覆っている沖積層は薄いため,沖積面下の台地の凸部が微高地(台地性微高地)として島状に残っている.河道は,埋没谷の位置とほぼ一致し,蛇行帯の幅が狭く,自然堤防も直線的な形態を示す.
著者
山本 理佳
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.10, pp.634-648, 2005-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
24
被引用文献数
1 2

本稿は,長崎県佐世保市を事例として,地方自治体がいかなる軍事施設イメージを提示しているのかを明らかにすることを目的とした.特に軍事施設の存在が憲法第9条で明示された「平和」理念と矛盾するという点に着目し,それに対してどのように対処しようとしているのかを検討した.具体的には,そうした「平和」との矛盾を顕在化させた事象として,1960年代の米軍原子力艦艇寄港反対運動を位置づけ,これに関連する時期や場所について分析を行った,その結果,佐世保市行政は,顕在化した矛盾に抵触しないよう,さまざまなレトリックを駆使しつつ,軍事施設イメージを創り出していた状況が明らかとなった.
著者
伊藤 久雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.40, no.7, pp.369-372, 1967-07-01 (Released:2008-12-24)

日高山地はかつて密林におおわれた未開の頃,狩猟土人は鹿の通路と河谷と峠の自然通路を利用したが,これを辿って先づ砂金採取の和人が入り,次いでクルミ材を求める人々が入った.開拓者入植後は地域開拓の必要上自然通路を基にして漸次技術を加え南北縦貫の道路が整備された.これが近年は国道に昇格し日高町から金山・富川の各地にバスを通じ鉄道と接続している 山地横断道路としての日高・清水線は既に完成し,日高・夕張線は1966年着工した. 鉄道は南から北に向つて日高町まで縦貫線が延び,将来は金山で根室本線に接続が予定され,東西横断路線の建設も決定している. このように道路・鉄道共に縦貫横断路線の発達は道央と道東,道北と道南の距離を短縮し結合を深め北海道の開発に寄与する所大である.
著者
池口 明子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.14, pp.858-886, 2002-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
36
被引用文献数
2 4

本研究は,ベトナム・ハノイを対象として鮮魚流通における仲買人・露天商の商業活動を明らかにした.特に,近郊生産地における生産者-仲買人-露天商の取引ネットワークの形態を,仲買人の取引台帳を用いて養殖生産との関係から分析し,その形成条件を考察した.ハノイの鮮魚露天商は,ドイモイ(刷新)後に参入した近郊農村居住者およびハノイ居住者が多くを占める.ハノイ居住者は市内に立地する単一の卸売市場から仕入れ,主として海産魚を販売する.これに対し,近郊農村居住者は主として農村で採捕・生産される淡水魚介類の流通を担っている.仕入れには,ハノイへの経路上に位置する農村市場や,市内の卸売市場での仕入れのほか,産地仲買人を中心に形成される取引ネットワークを利用している.近郊農村における淡水魚養殖は,複数の魚種を組み合わせた複合的生産が常態である.その取引ネットワークは地縁をきっかけに,多様な生産形態と,都市および近郊の市場の発達に対応して形成されてきた.ハノイの鮮魚露天商の活動基盤は,販売地である都市の露天市場のみではなく,集魚圏内の都市近郊生産地の市場も含めて理解する必要がある.
著者
松尾 英輔
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.151-164, 1982

本稿は,奄美大島における在来ネギ属野菜の伝統的な識別と呼称,ならびにそれらの変容の実態を明らかにし,主として九州本土からの文化の流入とその影響について検討した.在来ネギ属野菜は,'ビラ'(ニラ),'ガッキョ'(ラッキョウ),'フィル'(ニンニク),'ヌィビル'(ノビル),'キビラ'(ネギとワケギを一括)などの代表的呼称により,古くから識別されていた.江戸時代末期から明治時代にかけて,'フィル'を'ニンニク'と称し,'キビラ'を'ヌィフカ'(ネギ)と'センモト'(ワケギ)とに呼び分ける様式が九州本土から伝播して北部に定着し,徐々に島内に浸透した.やや遅れて,本土系葉ネギが導入され,冬作ネギとして普及するにつれて,その呼称'ヌィフカ'はいち早く島内全域に定着した.この結果,ネギとワケギについて,北部では本土型の識別を行なって両者を区別するが,南部では区別しない.呼称'ヌィフカ'は島内全域に普及しているが,北部ではネギを指し,南部では主に本土系葉ネギを指す。'センモト'は北部を中心に使われ,ワケギを指すが,'キビラ'は南部を中心に使われ,在来系葉ネギとワケギを指す.