著者
中澤 高志 由井 義通 神谷 浩夫 木下 礼子 武田 祐子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.95-120, 2008-03-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
43
被引用文献数
9 5

本稿では, 日本的な規範や価値観との関係において, シンガポールで働く日本人女性の海外就職の要因, 仕事と日常生活, 将来展望を分析する. 彼女たちは, 言語環境や生活条件が相対的に良く, かつ移住の実現性が高いことから, シンガポールを移住先に選んでいる. シンガポールでの主な職場は日系企業であり, 日本と同様の仕事をしている. 彼女たちは, 日本においては他者への気遣いが必要とされることに対する抵抗感を語る一方で, 日本企業のサービスの優秀さを評価し, 職場では自ら日本人特有の気配りを発揮する. 結婚規範の根強さは, 海外就職のプッシュ要因となる可能性があるが, 対象者の語りからは, こうした規範をむしろ受け入れる姿勢も読み取れる. 彼女たちは, これら「日本的なもの」それ自体というよりは, それを強制されていると感じることを忌避すると考えられ, 海外就職はこうした強制力から心理的に逃れる手段であると理解できる. 日本の生活習慣や交友関係のあり方は, むしろ海外での生活でも積極的に維持される.
著者
西村 雄一郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.9, pp.571-590, 2002-08-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
87
被引用文献数
1

本稿では,日本におけるジェンダーと職場の関係について,地理学の立場から論じ,日本における研究の可能性を提示することを目的とする.従来の日本の地理学では,職場におけるジェンダーの問題を限定的にしか注目してこなかった.本稿では特に,日本における空間的分業論による研究と時間地理学的研究を取り上げることによって,従来の研究におけるジェンダーの視点の欠如・限界について批判的に検討した.一方,欧米のフェミニスト地理学においては,ポストフォーディズム下での「新しいジェンダー秩序」,および職場内部のミクロな空間におけるジェンダーの構築に関する議論が進展している.そこで本稿では,日本の職場におけるジェンダー秩序の変化とその分析枠組を明らかにしようと試みた.1970年代から1980年代の日本のトヨティズム期における性別職務分離は欧米の場合と異なっていた.1990年代以降の日本経済の変化は,職場におけるジェンダー関係を変化させるだけでなく,職場と家庭の境界が不明確な新たな空間を生み出している.日本において,新たなジェンダー秩序がどのようにつくられるのかについて,職場丙部のミクロな空間性や経済的・社会的・文化的・政治的要素,ネットワークに着目することによって検証する必要がある.
著者
青山 高義
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.8, pp.405-422, 2006-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
25

松本盆地南部や伊那盆地北部に発達する南風は,総観スケールの気圧傾度が北東方向に低い場合と,北西方向に低い場合に発達する.前者をNE型,後者をNW型として,二つのタイプの気流に対する地形の影響をスコラー数(l)を用い検討した.NE型は冬季に多く,冬型や二つ玉低気圧で発現し, NW型は暖候期に多く,前線型,日本海低気圧型,移動性高気圧型などで発現する.両タイプの850hPaの風向は250°, lは0.81km-1を境界とし, NE型では風向は北よりでlはより小さく, NW型では南よりでlはより大きな値となって,NE型では山越え気流, NW型では迂回流の性質が強くなると考えられる.それぞれのタイプの850hPaの風と地上の風速,局地的気圧傾度,温位差などとの相関分析を行った. NE型では,局地的気圧傾度や温位差等と高い相関を持って山越え気流の特徴を,NW型では,局地的気圧傾度等と相関を持つが温位差との相関は低く迂回流の特徴を示した.
著者
高橋 伸幸 長谷川 裕彦
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.161-171, 2003-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
22
被引用文献数
2 1

北アルプス南部に位置する常念乗越(鞍部)の標高2465m地点において1997年10月~1998年10月の期間で気温観測を行った.その結果,年平均気温は3.9°Cであったが,アメダスデータとの対応で推定される平年値は2.7°Cとなる.また,温量指数の平年値(27.2°C・月)は,常念乗越が亜高山帯に位置付けられることを示しており,温量指数15°C・月により推定される森林限界高度は標高2833mとなる.しかし,実際には西寄りの冬季卓越風により森林の成立が阻まれ,常念乗越頂部から西向き斜面の風衝地を中心に周氷河環境が出現している.年間の凍結・融解出現日数は,72日に及んだ.この値は高山帯周氷河地域における凍結・融解出現日数を凌ぐものである.常念乗越における凍結・融解の出現時期は10~4月であり,3~6月と9~11月に出現時期が二分される高山帯周氷河地域とは明らかに異なる.

7 0 0 0 OA 空間認知とGIS

著者
若林 芳樹
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.10, pp.703-724, 2003-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
140
被引用文献数
2 2

1990年代以降,GISの研究が「システム」から「科学」へと力点を移していく過程で,空間認知研究との間に新たな接点が生まれてきた.ここで,GISと空間認知との関わり方には,(1)空間認知研究のツ-ルとしてのGIS,(2)空間認知モデルとしてのGIS,(3)空間的知識の情報源としてのGIS,(4)空間認知研究の成果を応用したGISの改善,という四つの側面が考えられる.本稿は,これらに関する既往の研究の成果と課題を整理し,今後の展望を提示した.
著者
小笠原 節夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.267-279, 1963-05-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
23

鍋田干拓地は伊勢湾奥,木曽川河口左岸にある第二次大戦後の国営干拓地であつて,昭和34年9月伊勢湾台風高潮によつて入植者288人中125人の生命が失われ,かつ家屋,耕地の全面的流失という大被害をうけた.これを契機として集落計画の全面的変更が行われた. 被災前の集落計画では, (1) 集落は東西方向の幹線道路にそつた路村形態をとり, (2) したがつて集落は干拓地全面にひろがり微高地を利用しようとする意図はなかつた. (3) また家屋も木造,平屋建てであつて,そうじて水害対策を欠く. (4) 1戸当り土地配分面積は1.4haでこれが数筆に分散しており, 1筆面積も区々であつて営農面でも欠陥の多いものであつた.これは干拓地の土地条件の不整一であつたことと,入植が一斉でなく逐次的に行われたことによる. 被災後の集落再計画が被災前のそれと異なる主な点は, (1) 集落を干拓地北西角の微高地に集中させ, (2) これを第二線堤防で包囲すること, (3) および家屋を鉄筋プロック3階建てとして水害対策に万全を期したことである. (4) 1戸当り土地配分面積は2.Ohaに増加し, (5) 1筆区画 (40a) もより整然となり, (6) 各戸の耕地は3筆が原則として連続するように, (7) さらに入植者の各グループ毎にも,ある程度耕地が集団するように計画されていて営農条件も被災前より整備されている.ただし再計画では住居と耕地は完全に分離することになつた,このような大規模な計画変更が可能であつたのは,被害が大きかつたこと以外に,被災時にはまだ国有地あつたからである. 最近のわが国における干拓地の集落計画は,集落と耕地の配置から九州型と児島型に類別できるが,鍋田干拓の被災前後のそれは何れも九州型に近い. 被災後の水害対策を極度に考慮:した鍋田干拓の集落計画は非常に特異なものであるが,他干拓地の集落計画にもつとも参考となるのは家屋の堅牢,高層化の点であろう.水に対して安全というばかりでなく湿気をさける意義もあるからである.
著者
藤田 和史
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.1-19, 2007-01-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
24
被引用文献数
4 2 4

近年, 日本の製造業は, 技術集約・知識集約型の生産システムへと変化しており, この傾向は大都市圏外に立地する中小製造業へも波及しつつある. 本稿は, 長野県諏訪地域を事例に, 変化の先進事例である試作開発型中小企業について,「知識・学習」に着目しながら, その生産および技術的存立基盤を明らかにすることを目的とした. その結果, 知識・情報の収集と習得・創造によって構成される技術学習が, 試作開発型中小企業に対して, 技術的な陶冶をもたらすと同時に, 成長の基盤を与えたことが明らかとなった. また, 技術学習に関する知識は, 機械加工に関わる暗黙知が中心であり, それらめ知識は諏訪地域内の同業者からもたらされる. これらの暗黙知が, 域内に立地する関係主体間に共有されることで, 知識を基盤とした生産体系が構築されている.
著者
辻本 芳郎 板倉 勝高 井出 策夫 竹内 淳彦 北村 嘉行
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.35, no.10, pp.477-504, 1962-10-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
19
被引用文献数
3 1

本研究は目本の工業を空間的配置の上から研究することをこころざしたものである.まず,最大の工業地帯である京浜の中核である東京都区内の分析を行なつた. 1958年末現在で都内30人以上の全工場を重化学工業・組立工業・軽工業の3部門にわけて考察した. 概観して,中小工場が多く,鉄鋼・化学・繊維などの基礎的原料部門にかけている.〈重化学工業〉城東・城北・城南に多いが,河川・運河ぞいのわつかの部分をのぞき,重量物をあつかうものは少く,雑貨工業か組立工業の一部とみとめられるものが多い.〈組立工業〉城南・城北の2大核心地域をもつが雑貨的耐久消費財の生産が主である.〈軽工業〉各種の問屋の集中地域である日本橋と,浅草を核として城東地域に卓越し,印刷出版は中央地域に集中している.これを総合すると雑貨の多い城東・中央の躯幹部分と,戦中戦後飛躍的に発達した組立工業を主とする城南・城北と,西郊に成立しつつある環状分布の地域に分けられる.いつれも同一製晶をめざした同業・関連業種の工場が割合せまい地域に集つている. これらの工場は,手労働を主とした雑貨的商品が多く製晶ごとめ問屋的生産組織が無数の小営業者を統括しているのが特色である.
著者
桐村 喬
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.154-171, 2006-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

本研究は,人口分布の変化による公立小学校通学区域の再編に焦点を当て,通学区域の最適化モデルを提示するとともに,その効率的解法として,遺伝的アルゴリズム(GA)に基づいた新たな解法を提案する.モデルでは総通学距離の最小化を目的関数とし,最大通学距離,児童数による適正規模,飛び地発生の抑制,公共施設との対応維持を制約条件とし,それらに時間軸を設けて,長期的に通学区域を維持できるようにした.また,GAを区割り問題に適応させたアルゴリズムを開発し,従来の同問題に対する解法と性能を比較した.その結果,従来の解法よりも効率よく問題を解くことができることがわかった.このアルゴリズムを用いて,児童数の変動の激しい大阪府吹田市立小学校の通学区域に対してモデルの適用を行い,その結果,(1)吹田市全域に対しては適正規模を維持して通学距離を減少させることができ,(2)市による通学区域再編案にっいてはこれがおおよそ最適解と一致することが明らかとなった.
著者
荒又 美陽
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.435-449, 2003-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
26

本稿は,現代パリの景観が形成され,受容される背後にある理念をとらえることを目的としている.ルーヴル美術館のガラスのピラミッドは,激しい論争を経て完成した.この景観が,さまざまな思想の交錯の中でコンセンサスを得ていく過程を分析することにより,パリにおける景観形成の特質を明らかにし得る.ここでは,景観の象徴性と調和をめぐる議論について分析した.結果として,論争にはある種の排他性がつきまとっており,新景観には「フランス文化」を侵害しないものであることが理念的に求められていたことが明らかになった.これは,1980年代のフランスが,世界におけるプレゼンスの低下を強く意識していたことを反映するものといえよう.論争の中で,賛否双方は,既存の「フランス文化」に多くを参照しつつ議論を繰り広げた.ガラスのピラミッドは,論争を通じ,まさにフランスの景観として読み込まれることによって受容されたのである.
著者
村田 陽平
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.7, pp.463-482, 2004-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

今日の空間論においてジェンダーという視点は注目されつつある一方,男性という主体がその意味を的確に認識しているかは疑問の余地がある.そこで本稿では,男性によってジェンダーの視点を導入して設計されたといわれる岐阜県営住宅「ハイタウン北方・南ブロック」を事例に,この問題を検討した.具体的には,総合プロデューサーの男性建築家,南ブロックの居住者,男性建築家に選定された7名の女性設計者,施工主の岐阜県,という四つのアクターから,この居住空間の実態を分析した.その結果,この居住空間は,ジェンダーの視点を踏まえたものというより,むしろその視点が問題にしてきた男性中心的な発想で生産されたものであることが判明した.このことは,空間論においてジェンダー概念に伴うポジショナリティの意味が,男性という主体に十分に把握されていない表れであると考えられる.
著者
松本 太 三上 岳彦 福岡 義隆
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.6, pp.322-334, 2006-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
6 7 3

本研究では東京都区部において2004年春のソメイヨシノの開花日を調査し,気温分布との関係を考察した.その結果,開花日の分布は2004年3月の平均気温の分布とよい対応を示しており,都心部の高温域で開花が早く,郊外部の低温域で遅い傾向がみられた.よって,ヒ-トアイランド現象が開花日に影響を与えていることが明らかとなった。また,開花日と3月の平均気温との関係は,温度変換日数(積算気温のモデル)を用いて,開花日に至るプロセスを評価することによって裏付けられた.各観測地点における開花日から2004年3月の平均気温を推定し,その精度を実測値との比較により評価した.その結果,推定値と実測値との誤差はほとんどの地点で±0.3°C以内で,二乗平均平方根誤差(RMSE)は0.2°Cであった.よって開花日がヒ-トアイランドなどロ-カルスケ-ルの気候環境を表す指標となり得ると考えられる.
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.116-140_2, 1956-02-01 (Released:2008-12-24)
被引用文献数
1 1
著者
土屋 純 伊藤 健司 海野 由理
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.10, pp.595-616, 2002-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
21
被引用文献数
2 1

愛知県の書籍小売業は1980年代後半から急激に再編成が進んでいる.1990年代における大規模小売店舗法の運用緩和の中で,郊外のロードサイドを中心として,書籍チェーンによる大型店の立地が進んでいる.そうした大型店では,CD販売やレンタル業などの兼業化が進んでおり,大きな駐車場が設置されている場合が多い.加えて,名古屋市の都心部では都心再開発の進展とともに超大型店のテナント入居も進んでいる.このような大型店の店舗展開と雑誌を取り扱うコンビニェンスストアの発展によって,商店街や住宅地内に立地する中小型店の淘汰が進んでいる.そこで,売場面積100坪 (330m2) 以上の大型書店を事例として, GIS (地理情報システム)を用いて商圏の時空間変化(日変化)を分析した.その結果,名古屋市内では21時までには多くの店舗が閉店するために大型店がカバーする商圏範囲が縮小するのに対して,それ以外の地域では大型店の商圏がくまなく地域をカバーし,深夜になっても競争が激しいことが明らかになった.さらにロードサイド店に右ける深夜営業の実態を分析したところ,レンタル業などを併設する複合店が深夜の新たな市場を開拓していることが明らかになった.
著者
林 琢也
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.11, pp.635-659, 2007-10-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
39
被引用文献数
8 8 4

本研究は, 遠隔地農村において農業と地域の振興を図るために進められた観光農業の発展要因を, 青森県南部町名川地域 (旧名川町) を事例に考察した. 旧名川町は青森県最大のサクランボ産地であり, 町は1986年からサクランボ狩りを核とした観光事業を進めてきた. こうした活動の推進に際しては, 観光農業における先駆的農家と周囲の農家の組織化を促すほか, 補助事業を積極的に活用することで, 観光農業の充実を目指した地域リーダーの功績が大きかった. また, 集落レベルでの観光農業の普及においては, 専業的な果樹栽培農家に加え, 農外就業経験を有する帰農者の参加や, 集落内とその近隣地域から供給される労働力の存在も重要であった. このように, 多くの住民の協力体制の確立が, 遠隔地における観光農業の発展にとって不可欠であることが明らかとなった.
著者
波江 彰彦
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.178-191, 2007-04-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
40
被引用文献数
2 1

本稿では, 地域分析に従来適用されてきた重回帰 (MLR) に代わる手法としてPLS回帰 (PLSR) を提示し, その有用性と課題について検討する. PLSRはMLR適用の制約となる多重共線性やオーバーフィッティングの問題を回避でき, 複雑な構造を持つ事象の分析と予測精度の高いモデル化を可能にする. 本稿では, 福井県の市町村間にみられる1人当たりごみ排出量の地域差についてMLRとPLSRを適用して分析し, 両者の結果を比較した. PLSRの結果, 説明変数群は二つの潜在変数に要約され, これらの潜在変数が表す地域特性によって1人当たりごみ排出量の地域差は効率よく説明された. また, MLRで有意と認められた3変数に加え, 新たに11変数が1人当たりごみ排出量に有意に影響を及ぼしていることが示された. 一方, PLSRの課題としては, 回帰係数の有意性検定の改良, 空間的従属性や空間的異質性を持つデータへの対応などが挙げられる.
著者
加藤 武雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.29, no.9, pp.559-567, 1956-09-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
6

In this paper, the results of the investigations of the Tachiyazawagawa are reported. The results are summarised as. follows:- 1. The water temperature of the river is lower than that of the Mogami (main stream) throughout the snow-melting season. The diffe-rence, lies 1.3 and 5.1. 2. The upper reaches of the river consist of the Nigorisawa, the Honsawa (the main stream) and the Akasawa. Among the three, the Nigorisawa is most influenced by the volcanic activity of Mt. Gassan, judging from the chemical analysis of the water taken from the stations in the drainage system. 3. The content of the dissolved oxygen in the water undergoes the diurnal change. The relation between the oxygen content and the water temperature nearly shows the negative correlation. 4. The chloride content of the river decreases regularly with the increase of the flow except during the snow-melting season.
著者
佐野 静代
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.19-43, 2003-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
46
被引用文献数
8 2 2

本研究では,歴史地理学的手法による環境問題研究の可能性を再検討することを目的とし,琵琶湖沿岸域の淡水性潟湖である入江内湖を対象に,主に近世以降の景観を分析することから地域住民の生業活動と内湖の環境変化を論じることを試みた.内湖の生態的条件に応じて形成された環境利用システムの実態を,近世以来の文書・絵図資料から検証し,人間を含めた生態系としての水陸漸移帯の全体像と,その崩壊メカニズムを解明した. 入江内湖の生態的環境とその伝統的環境利用システムの崩壊は,昭和初期の水位低下に伴う生物資源の減少と,同時期に生起した農・漁複合生業形態から専業的活動への生業変化を契機としていたことが明らかになった.漁携・藻取り・ヨシ刈りなど多様な価値を含んでいた内湖=水陸漸移帯の「空間の多義性」が捨象され,「農地への転換可能地」という単一の価値観へと収斂されていったことが,干拓促進の要因となったことを指摘した.
著者
吉本 剛典
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.605-620, 1981-11-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
17
被引用文献数
3

多次元尺度構成法 (MDS) の一手法であるToblerの方法は,点間距離の入力データがメトリックの条件を満足し,点の配置を再現する空間をユークリッド平面に限定するとき,より簡便で操作的な手法である.本稿では,昭和36年と昭和55年の2時点について,全国主要46都市間の国鉄路線利用による時間距離にこの手法を適用し,得られた時空間マップの解釈と経年的比較を行なうとともに,手法の有効性に検討を加えた. その結果,この19年間にわが国の交通システムは大きく発展し,なかでも新幹線による時間短縮の効果が絶大であることが判明した.また,時間距離の入力データと,ユークリッド平面に再現された時間距離との適合度の評価によると, Toblerの方法は十分有効であった.これによって,交通システム研究において,時空間マップによる視覚的考察の可能性が示されるとともに,錯綜した構造をもつデータを少数次元の空間に再現するといった手法の有効性が明らかとなった.
著者
Hiroyuki KUSAKA
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.361-374, 2008-05-31 (Released:2010-03-12)
参考文献数
139
被引用文献数
14 18

A review of urban climate studies in Japan since 1980 is presented. First, we describe recent research on an urban heat island. In this section, we focus on the heat island with a scale larger than a single city, heterogeneous temperature distribution in an urban district, and quantitative analysis of the formation mechanism of the heat island using numerical models. We then summarize the interaction between a sea breeze and a heat island. Cloud formation and precipitation over the urban area are also summarized. Furthermore, recent studies on the estimation of urban surface parameters and anthropogenic heat maps are briefly described. Observational studies on the urban canopy layer are also introduced. Some recent studies on urban planning are introduced, focusing on the cooling effect of parks and rivers on the urban temperature. Finally, we conclude the review by describing ongoing work.