- 著者
-
幸田 正典
- 出版者
- 大阪市立大学
- 雑誌
- 挑戦的研究(萌芽)
- 巻号頁・発行日
- 2017-06-30
共同繁殖魚プルチャーは、個体変異のある顔の模様でお互いに個体識別をしている。本課題研究では本種を対象に顔認識について、さらにいくつかの研究を進めることができた。まず、本種が複数の個体を個別に識別することができるのかどうかを検証し、「True Individual Recognition (TIR)」ができることが実証できた。TIRはヒトの他多くの霊長類や社会性ほ乳類で確認されている能力で、複雑な社会関係を維持して行く上で不可欠な能力といえる。しかしこれまで魚類での報告はなかった。我々は縄張りの「紳士協定」と呼ばれる現象を利用し、これを解明した。紳士協定はほとんどの動物で知られており、本成果はほとんどの動物でもTIRができることを示唆しているし、実際にそうだと我々は考えている。また、プルチャーの顔認知で「顔の倒立効果」が起こることがほぼ検証できた。顔の倒立効果はヒトで最初に発見され、その後霊長類現在では多くの社会性ほ乳類でも確認されている。これは、顔の認知に特化した顔神経の存在を意味しており、今回の発見は、魚類でも顔神経が存在することが示唆された。ほ乳類では顔認神経の存在が確認されており、今回の発見は魚類での顔神経の研究を促すものと言える。また同時に、顔の個体特異的な模様でTIRをしているなら、まず相手個体の顔を見るだろうとの仮説を考えそれを検証した。相手個体の顔や特に目を見ることは、ヒトや霊長類で確認されている。我々は独自に計測装置を考案し、それを用いて実験を行った。その結果、本種もまず同種他種個体の顔を見ることが検証できた。このような魚類の顔認知が一般的かどうかも検討課題である。これまでスズキ目魚類を対象に顔認識を検証してきたが、今回は、コイ目のゼブラフィッシュ、ダツ目のメダカ、カラシン目のグッピーを対象に顔認識に基づく個体認識が、ほぼ明らかにすることができた。