著者
久野 義徳 小林 貴訓 Lam Antony 福田 悠人
出版者
埼玉大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

まばたきはほとんど無意識のうちに行われているが、コミュニケーションの過程との関連が指摘されている。相手の話を理解して聞いているときは、相手のまばたきに同期して聞き手にまばたきが生じる。そこで、人間と円滑にコミュニケーションできるロボットの実現のために、ロボットのまばたきについて検討した。その結果、ロボットが話し手の場合、聞き手の人間は相手が人間のときと同様にまばたきの同期現象を示した。相手のまばたきをカメラ画像から検出して、それに同期してまばたきのできるロボットを開発した。これを用いて、ロボットが聞き手の場合の効果について実験したが、明確な結果は得られなかった。今後さらに検討が必要である。
著者
中川 裕
出版者
東京外国語大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

2021年度の主要な調査活動は、(1)蓄積してきた資料の整備と精密な観察・分析と、(2)副産物的な成果として開発した正書法と識字学習ツールの拡張と更新だった。本来予定していたボツワナ共和国カラハリ地域における現地調査はコロナ感染状況がいぜんとして深刻なため実現することができず、その実施は研究期間を延長して、2022年度にする申請を行い承認を得た。上記(1)については、2020年1月までに収集したグイ語音韻獲得データに、さらに1990年代の資料を加えた:すなわち過去において現地調査で収集した録音とフィールドノート記録に子供の発音資料を「発掘」して整理したデータを併せて資料群を拡大整備した。そして、昨年度に引き続き、クリック獲得の過程で観察される置換音パタンがもつ理論的含意に関する考察を、追加資料分析をもとに進めた。この考察の結果は、日本音声学会で行った特別講演「多数のクリック子音をもつ言語は音韻体系をどう組織化するか:コイサン諸語の子音・母音・音素配列」の内容に含まれる子音の音韻的解釈にも反映している。(2)については、研究代表者と研究協力者が、日本アフリカ学会第58回学術大会でポスター発表した。またその後、識字学習用のイラストを追加してオンライン・ツールを充実させた。従来の研究では探求されてこなかった「多数のクリック子音をもつコイサン諸語の音素体系を子供はどのように獲得するか?」という問いに取り組む本研究は音韻獲得研究の射程を拡張しつつある。また、音韻獲得の研究指針に「獲得の難しい音類に関する探求」を組み入れることで、音韻獲得の言語相対性(個別性・類型性)の理論の発展に新しい光を与えつつある。
著者
高橋 純一 杉村 伸一郎 大村 一史
出版者
福島大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

本研究が対象とする「アファンタジア(aphantasia)」は2015年に提唱された新たな事例で,実際の知覚は機能しているが心的イメージを形成しにくい特質である。現在,成人を対象とした研究が展開されており,その知覚および心的イメージの特徴について知見が得られ始めている。アファンタジアは先天的な特質であるため,幼児期・児童期でも既に心的イメージ形成の困難さが生じている可能性が推測される。本研究は,幼児期・児童期におけるアファンタジアの新奇事例を提唱し,その定義を可視化できるアセスメントツールを開発しようとするものである。
著者
高橋 勤
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

石牟礼道子の『苦海浄土』三部作は 60年代から水俣病問題を追跡し小説化した長大な作品だが、この作品は公害病を記録したルポルタージュであるばかりではなく、近代産業によってもたらされた権力と差別の構図、そして不知火海の自然と精神風土に対して加えられた暴虐を浮き彫りにする。そうした日本近代をめぐる石牟礼の思想性について考察し、語りの象徴性を検証するのが本研究課題の全体的なねらいである。環境人文学とは、環境教育を含めて、人文学の観点から環境問題を考察する知の枠組みであり、日本における環境破壊の捉え方、意見の対立、その文学的表象を検証する。
著者
小澤 貴明
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2021-07-09

共感能力はヒトが集団として生存し,発展する上で必須の能力である。ヒトは他者の幸福に対して同じように喜ぶこともあれば(共感的喜び),妬むこともある。また,他者の不幸に対して共に悲しむこともあれば(共感的悲しみ),他者の不幸を喜ぶことさえある(シャーデンフロイデ)。本研究は,モデル動物を用いて,個々人を取り巻く社会的環境と他者の幸不幸に対する共感性についての基本的傾向の関係性について調べる。
著者
根本 雅也
出版者
松山大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2020-07-30

戦争体験を継承することは、日本社会の課題として頻繁に言及され、多種多様な実践が行われている。しかし、注目を集めるのは意識的な継承活動であり、自然発生的に語り継がれる「継承」はこれまであまり省みられていない。本研究では、戦災にまつわる心霊・超常現象を戦争体験が語り継がれる一形態として捉え、それらを掘り起こすことを試みる。これらの心霊・超常現象の語りの考察を通じて、体験者による証言や教育とは異なる「戦争体験の継承」のあり方を探る。
著者
土岐田 昌和
出版者
東邦大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

本研究では赤外線感知能力を獲得し、暗黒の中で温血動物を捕らえるといったユニークな適応行動を進化させたヘビの一種であるマムシの胚を材料に用いて、その頭部にみられる赤外線受容器官(ピット器官)と赤外線受容能を持つ特殊な神経細胞から構成される赤外線受容神経回路の形成機序を調べる。これにより、動物の適応的な行動が生み出される際に起こる大規模な神経回路の再編成の背景にある分子・細胞基盤の理解をめざす。本研究には、神経回路再編成と生物進化との関連性を探究する進化生物学の新たな研究領域の開拓や医療・工業分野で利用される高精度温度センサーデバイス開発の期待が寄せられる。
著者
土屋 貴志 佐金 武 野末 紀之 新ヶ江 章友 石川 優 濱野 千尋
出版者
大阪公立大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

性行動の実証的調査および文献テクスト分析を踏まえ「性愛および『性的倒錯』とはそもそも何なのか」という問題について考察する。「性的倒錯」とは (i)「本来の性愛」からの逸脱、(ii)性愛に関する社会・文化的規範に対する違反、を含むが、両者は必ずしも重ならない。また、「本来の性愛」なるものを疑う立場もあれば、「本来の性愛」の普遍性から社会・文化的規範の恣意性を批判する立場もある。本研究では、従来のセクシュアリティ/ジェンダー研究の成果も踏まえつつ、性愛をとりまく社会・文化的背景について深く考察すると同時に、性愛および「性的倒錯」それ自体を問題とする根柢的な探究を行う。
著者
中井 英一 倉坪 茂彦 藤間 昌一
出版者
茨城大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

フーリエ級数の収束問題について、1変数の関数の場合には1960年代までの研究によりほぼ解決しているが、多変数関数の場合にはまだ分からないことが多い。近年では、Gibbs現象に加え、Pinsky現象、倉坪現象が発見され、多変数フーリエ級数の複雑さがより明らかになった。一方、ガウスの円問題は、円の面積とその円内の格子点の個数との誤差を評価する問題である。Gaussは、誤差のオーダーは円の面積の1/2乗以下であることを証明した。1915年、Hardyは、1/4乗に限りなく近いと予想した。しかし、現在でも未解決である。本研究では、この一見無関係と思われる2つの未解決問題の同値性を証明した。
著者
吉田 一彦 柴田 憲良 藤本 誠 高志 緑
出版者
名古屋市立大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2021-07-09

本研究は、「偽」というマイナスのイメージから研究上の価値が低いと誤認されてきた「疑偽経典」を、豊かな思想を伝えるテキストととらえ直し、その思想作品としての価値を解明するとともに、それらが日本および東アジアの社会、文化に果たした役割を明らかにしようと企図するものである。本研究では、日本に仏教が土着していった様相を、疑偽経典の受容、作成、浸透に着目して考察し、そこから日本仏教の歴史と思想の特質を考究する。
著者
今井 宏平 岡野 英之 廣瀬 陽子 青山 弘之
出版者
独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

本研究では、国家をもたない世界最大の民族と言われ、イラク、イラン、シリア、トルコに跨って居住しているクルド人に注目し、クルド人の非政府主体が現在の国際秩序に与えるインパクトを検討した。本研究は研究目的達成のために実証分析と理論分析の2段階で検証を行った。実証分析に関しては、クルド人の活動に関する詳細な分析、そして武装組織の実態、紛争解決に向けた手段、そして紛争後の和解に至るプロセスに関する分析を行なってきた。また、国際関係論、政治学、社会学の理論もしくは概念を実証研究のために掘り下げた。本研究の最終的な成果が『クルド問題:非国家主体の可能性と限界』(岩波書店、2022年2月)である。
著者
廣瀬 通孝
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

物体と触れる指の姿勢に補正を加えた映像を提示することで,視触覚間相互作用を誘発し,実際に触っている物とは異なる触力覚を提示できる.一方で,強い擬似触力覚提示を狙って深部感覚と視覚のズレを大きくすると身体所有感の喪失がおき,擬似触力覚提示効果の喪失が起こる.この解決のために本研究では,指先などの物体と身体が接触する身体パーツの姿勢だけでなく,全身の身体姿勢の見えに適切な補正を加えることで,複雑な触力覚提示装置を用いることなく自由空間で任意の身体部位へ擬似触力覚提示が可能な新規手法を提案した.この手法を実際に構築し,基礎評価と応用評価を通じて,その性能や適用限界を明らかにした.
著者
石村 大輔 馬場 俊孝 近貞 直孝 山田 圭太郎
出版者
東京都立大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2020-07-30

人類の多くは沿岸低地に居住しており,津波リスクにさらされている.中でもフィリピンが面する南シナ海の周辺人口は数億人にのぼり,東南アジアの主要都市が立地している.しかし,南シナ海の津波リスク把握のための基礎的情報が圧倒的に不足しており,実証的なデータ(津波堆積物)に立脚した津波リスク評価は喫緊の課題である.そこで本研究では,南シナ海における津波リスク評価の高度化を目指して,ルソン島の海岸に分布する巨礫を対象にし,1)空撮画像による巨礫の大きさ・分布の把握,2)巨礫を運搬させうる津波の数値計算,を行う.そして,過去に南シナ海を襲った津波の規模と波源の推定を行い,津波リスクを評価する.
著者
上田 正人 目崎 拓真
出版者
関西大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

サンゴ礁は破滅的な状況にあり,多岐にわたる専門家がその保全に取り組んでいるが,有効な打開策は確立されていない。従来の延長線上にない革新的な切り口が必要である。研究が飛躍的に進んでいる領域の知見を転用・活用することが有効である。医療分野では組織から単離した細胞の利用がパラダイムシフトをもたらせた。サンゴでは水温上昇など環境が悪化すると,そのストレスにより軟組織のポリプがベイルアウト(剥離・脱離) する。ネガティブな現象であるため,それをサンゴ礁再生に利用する発想はなかった。本研究では,そのベイルアウトを人工的に誘発し,サンゴ片から採取したポリプを起点にサンゴを増殖する手法を確立する。
著者
坂本 健太郎 青木 かがり
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2020-07-30

鯨類の潜水能力は哺乳類の中で最大である。潜水中には、心拍数を低下させるなど、何らかの循環器系の調節を行う事で、このような長期間の潜水を可能にしていると考えられている。これまでは水中で遊泳する鯨類の心機能を経時的に計測することが出来なかったため、その生理機能は謎に包まれていた。本研究では潜水を行う鯨類から長期間にわたって心電図計測を行い、鯨類の潜水能力を循環器系制御の側面から解明することを目指す。
著者
小野 正博
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

近年,筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis; ALS)患者脳においてTDP-43タンパク質(細胞核に局在するRNA結合タンパク質)が細胞質へ漏出し,異常に凝集・蓄積することが報告されている.したがって,ALSにおけるTDP-43タンパク質の異常蓄積は,ALSの病態解明および治療のための重要な標的分子と考えられる.本研究では,ALS患者脳内に発現するTDP-43凝集体を標的とした新規PET/SPECT用核医学イメージングプローブを開発し,その生体内での可視化を目的とする.
著者
小池 一彦 山下 洋
出版者
広島大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

サンゴを含むサンゴ礁の多くの動物は,褐虫藻と呼ばれる藻類と共生している。しかしこの共生藻を親から受け継ぐことは希で,多くの場合,環境中から褐虫藻を取り込む。従って,サンゴ礁には単独の褐虫藻が存在しなければならない。この共生ソースとなる褐虫藻は,サンゴ同様に褐虫藻を体内に共生させる「シャコガイ」から排出されてきたものかもしれない。実際,シャコガイの糞には生きた状態の褐虫藻が密に詰まっている。この研究ではシャコガイの糞に含まれる褐虫藻を詳細に調べ,シャコガイの幼生とサンゴの幼生に糞を与え,褐虫藻が感染するか調べた。その結果,何れもが糞に由来する褐虫藻を取込み,共生が成立可能であることがわかった。
著者
菊田 順一
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2021-07-09

免疫システムは生命にとって必要不可欠な生体防御機構であり、免疫システムの破綻は、感染症、自己免疫疾患、アレルギー、がんなど多くの疾病が関与する。そのため、病態の発症進展機序を解明し、それに立脚した治療応用、医療技術開発を実現することは、医学的にも社会的にも重要の課題である。本研究者はこれまで、最新の光学観察技術を駆使して、動物個体が生きた状態で様々な生体組織内の免疫細胞の動態を可視化し、その制御メカニズムを解析してきた。本研究では、生体イメージング技術をさらに発展させ、ヒト免疫細胞の動態・機能を解析する新たな基盤技術を確立し、ヒト疾患の病態解明と新たな治療法開発の実現を目指す。
著者
片寄 晴弘 橋田 光代 小川 容子 古屋 晋一
出版者
関西学院大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

名演奏に心打たれるという体験をした人は少なくないであろう。しかしながら、その理由、メカニズムについてはほとんどわかっていない。本研究では、コンテスト優勝者クラスのピアニストの協力のもと、世界最高峰の制度を持つセンサを用い、タッチまで含めたピアノ演奏(ポリフォニー)の演奏制御情報を計測する。あわせて、普段、必ずしも意識下に上がってこないレベルのものも含めて演奏者が解するポリフォニーレベルでの音楽構造の徹底的な聞き取りを実施する。得られた演奏制御情報と音楽構造の関係について、最新の数理解析手法を用いて分析し、ピアニストが演奏表現にこめた感動のデザインについて探っていく。
著者
山田 高敬 赤星 聖
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

2021年度の主な研究実績は、以下の2点である。一つは、2020年5月にベルリン自由大学の研究チームと共同でオンライン開催した会議の際に提出した論文を加筆修正した。もう一つは、2022年3月に開催された米国国際政治学会で研究成果を報告したことである。前者に関しては、『国際政治』掲載の論文から得られたデータを新たな基準(特に方法論に関して記述的な研究と事例研究の違いに関する基準を明確化)で分析し直し、米国のInternational Studies Quarterly及びInternational Organization、ドイツのZeitschrift fur Internationale Beziehungeなど海外学術誌のデータとの比較可能性を向上させ、さらに日本の特徴である低理論依存性が日本における外交史研究や地域研究の優位性と強い相関があることを統計学的に示した。その上で、改めて日本の国際関係論がグローバルな国際関係論に統合するポテンシャルについてコペンハーゲン大学のクリステンセンの研究などを参考に多角的に検討した。後者に関しては、上記の研究成果をドイツ側の研究者と共有した上で、さらに発展させ、その成果を上述の米国国際政治学会で報告した。報告では、グローバルな国際関係論の「中心」の外郭に存在する日本とドイツの国際関係論がどの程度「中心」に統合されているのかを欧米の学術誌への投稿論文の数や海外博士号取得者の数などのデータを基に分析し、さらにそのような統合を妨げる要因についても検討した。分析の結果、日独の研究者の大部分が自国内で学位を取得していているため「中心」からの独立性が高いという点や、日本ではドイツよりも母国語での研究成果発表に重点が置かれている点、さらにはドイツと比較して英語を媒体とする海外専門誌における日本人研究者のプレゼンスが低い点などが明らかとなった。