著者
吉田 聡
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

本研究では、1分毎、高度100m毎の高時空間分解能で大気中の水蒸気量を推定できる新型マイクロ波放射計と2分毎に全天の雲画像を撮影できる雲カメラを用いた白浜・潮岬での定点観測と同測器を搭載した車両による3点同時観測によって、降水直前の数km、数十分の間に潜む詳細な水蒸気・雲分布の4次元変化を捉え、降水が地上に達する直前までの大気場の変動と、現実大気中での水蒸気、雲、降水に至る過程の実態解明に挑む。
著者
西谷 和彦
出版者
神奈川大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

茎寄生植物であるアメリカネナシカズラ(Cuscuta campestris Yuncker)は茎で他の被子植物の茎に巻き付くと、接着面側の皮層組織から吸器という分裂組織を発生させる。吸器の最前面の細胞列には探索糸細胞が並び、これらが伸長させながら宿主組織内に浸入する。探索糸は伸長を続け、宿主の維管束領域に浸入すると管状要素に分化し、最終的には宿主道管と連結し、水や養分を全て宿主より調達し、繁殖する。吸器形成から道管連結に至る一連の過程の分子メカニズムは今、尚、ほとんど未解明である。我々の今年度の研究により、探索糸が二段階の核内倍加を経て、伸長することをまず明らかにした。ついで、核内倍加と伸長の過程が宿主由来のエチレンにより促進されることを、シロイヌナズナを宿主に用いた解析により明らかにした。すなわち、アメリカネナシカズラが野生型のシロイヌナズナに巻き付くと、1-aminocylclopropane-1-carboxylic acid(ACC)合成酵素の遺伝子、ACC SYNTHASE2(AtACS2)およびACC SYNTHASE6(AtACS6)の発現が上昇するが、エチレン欠乏シロイヌナズナ変異体を宿主とした時には探索糸の伸長や核内倍加が抑制され、これらの抑制はACCの投与によって相補された。一方、シロイヌナズナのエチレン感受性変異体etr1-3を宿主にした時には、探索糸の伸長抑制は観察されず、宿主植物のエチレンシグナル伝達系は、アメリカネナシカズラの寄生には関与しないことも明らかにした。更に、エチレンによるアメリカネナシカズラの核内倍加促進の機構についても分子解剖を行なった。本成果の学術的な意義は、寄生植物が寄生行動の過程で宿主が発する化学シグナルを、寄生植物が寄生行動のゴーサインと認識し、寄生行動を一層推進させるメカニズムの存在を実証した点にあると考えている。
著者
尾崎 一郎
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

本研究は、専門家ですら読解に困難を覚えるほど、極めて複雑化した現代日本の法言語、すなわち法令の条文と判決文とについて、美的洗練という観点から、簡潔明瞭な言語への転換が人々の法への理解度と共感度を大きく改善することを実証し、法化時代を迎えた日本の法令や判決が今後備えるべき美的合理性の具体的な形を実践的に提言するものである。実証の手段として、法言語の計量分析と実験室を用いた社会心理実験を併用する。
著者
扇谷 昌宏
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本研究では、申請者の開発した末梢血誘導型ミクログリア様細胞技術を用いて、慢性疲労症候群におけるミクログリアの関与と客観的評価法の開発を目的に研究を実施した。慢性疲労症候群と類似した症状を示す線維筋痛症患者群において、ATP刺激後ではTNF-αの遺伝子発現が有意に増大していた。さらに興味深いことに、不安・抑うつの重症度(HAD)とTNF-α遺伝子の発現量との間に正の相関関係を認めた。これらの知見は、患者群における精神症状(抑うつ・不安)及びQOLがミクログリア由来のTNF-αによってコントロールされている可能性を示唆している。
著者
若木 重行 谷口 陽子 岡田 文男 大谷 育恵 南 雅代
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2021-07-09

本研究では、考古遺物としての漆工芸品の漆塗膜の理化学的分析より漆工芸品の製作地を推定するための方法論を提示することを目的とする。その実現のため、漆・下地・顔料などの漆塗膜の各成分の分離、ならびに分離した微少量の試料に対する多元素同位体分析を実現するための分析化学的手法開発を行う。漢代漆器・オホーツク文化期の直刀に対して、開発した手法による分析と蒔絵の種類・製作技術の解析などの情報を統合し、総合的に製作地の推定を試みる。
著者
大江 秋津 三橋 平
出版者
東京理科大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2020-07-30

江戸時代の藩校の200年以上の長期データを用いて、知識普及のメカニズムを実証する。国学や算学など、様々な学問を教える藩校では、教員の出身学派の非公式な信頼関係から新たな知識がもたらされる。藩校は知識の集積所といえ、学派ごとに形成された複数の非公式な外部知識ネットワークを持つ。さらに、ネットワーク内の新たな知識の普及には、地理的に近い他の藩校からの影響もあると考える。以上から本研究は、(1) 実践共同体で形成される複数のネットワークで多次元的に知識が普及するネットワーク構造特性の実証と、(2) 組織間信頼による知識の組み替えが起こるメカニズム、(3)組織間の地理的近接性が与える影響を実証する。
著者
島田 昌一 近藤 誠 中村 雪子 小山 佳久
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

嗅覚障害の1つに嗅覚過敏がある。自分にとって有害、危険、つらい状況に遭遇すると、周囲のにおいとそのネガティブな体験が関連づけられて記憶、条件づけされる。そして、その状況からいち早く回避するため、そのにおいに対する感受性が高くなり嗅覚過敏になると同時に、そのにおいに対して強い嫌悪感をいだくようになる。本研究では嗅覚過敏を研究するため、確実な嗅覚過敏モデルの作成方法の確立とその治療薬の開発を試みた。微量のにおい物質をマウスに飲水させることによりマウスは口腔内で揮発する微量のにおい分子を感知する。その後にマウスの腹腔にLiCl溶液を注射することにより、マウスの嗅覚過敏・嫌悪学習モデルを確立した。
著者
堤内 要 室屋 裕佐
出版者
中部大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2020-07-30

本研究では放射性廃棄物汚染の浄化、放射性廃棄物の濃縮、そして濃縮放射性廃棄物からのエネルギー生産を目的として、2つの課題に取り組む。1つは、放射性核種を捕捉できるような化学修飾を施した磁性微粒子の開発であり、磁石の力を用いて汚染水や汚染土壌の浄化を効率よく行う方法を確立する。2つ目は、水の放射線分解である。ナノ粒子を用いて水の放射線分解を行い、水素を高効率で生成させる検討を行う。
著者
丹羽 伸介
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

キリンのように長い軸索を持つ生物の分子モーターはそれにあわせて高速化しているかどうかを解析するために、全ゲノムシークエンスが完了しているキリンの全ゲノム情報を解析し、シナプス小胞の軸索輸送キネシンKIF1Aを探索した。RNAseqのデータがないために解析は難航したが、幸いKIF1A遺伝子は非常によく保存されていたため、KIF1Aの全長配列を得ることに成功した。キネシン型モータータンパク質はモータードメインと呼ばれる部位によって微小管上を歩行する。モータードメインの配列を解析したところ、ネックリンカーのような速度に重要な働きを持っている部位にアミノ酸置換が起こっていることがわかった。キリンKIF1Aの速度を計測するために、そのDNA配列を合成した。私が得意とする線虫を用いた解析を行うためにコドンはあらかじめ線虫に調節した。この配列を線虫で発現してシナプス小胞の軸索輸送の速度変化を計測するためのプラスミドベクターを作製した。また、in vitroの解析を行うために大腸菌でキリンKIF1Aのモータードメインを発現するためのベクターも作製した。KIF1Aに加え、KIF5Aキネシンについても岡田康志東京大学理学部教授との共同研究によって解析を行った。KIF5Aの線虫ホモログであるUNC-116はミトコンドリアの軸索輸送に関与していることがわかっている。キリン型KIF5Aが軸索輸送s九度を変化させるかどうか解析するため、UNC-116のモータードメインをKIF5Aに置き換えたキメラ遺伝子を作製した。
著者
和田 真 小早川 達
出版者
国立障害者リハビリテーションセンター(研究所)
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

「スイカに塩をかけると、甘くなる」といった味覚の増強は、万人に通用するとはいえない。これまでの調査研究からも、自閉スペクトラム症者は、「味がまざるのを嫌う」とされており、塩味・甘味等の知覚の分離がうまくいかないことが、偏食に結びつく可能性がある。本研究では「基本味間の時間的に過剰な統合が、味覚の問題に起因した偏食を引き起こす」という仮説のもと、発達障害者における偏食の背景にある神経メカニズムの理解と、解決策の提案を目指す。
著者
須長 正治
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

3色覚が色覚正常と言われるのに対し,見分けられない色を持つ2色覚は色覚異常と言われ,3色覚よりも劣った色覚であるとみなされている.しかし,色覚特性の全ての面で,劣っているかどうかはわからない.そこで,本研究では,視覚探索課題を用い,S錐体刺激値差を手掛かりとした色探索に必要な時間を3色覚と2色覚で比較検討した.この際,目標刺激は妨害刺激の間のS錐体刺激値を持つ色とした.その結果,刺激全体が赤みがかるまたは緑みがかると,3色覚の視覚探索能が顕著に低下し,その探索時間は,2色覚よりも長くなった.すなわち,色覚特性に優劣はなく,それぞれに得意な環境,不得意な環境があることを意味する.
著者
中屋 晴恵 武内 章記 石橋 純一郎
出版者
大阪市立大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本研究はフィリピン海プレート収束域を対象として,有害元素である水銀の循環過程とプレートテクトニクスとの関連を明らかにすることを目的として行った。結果は以下の通りであった。1)水銀はマグマ性流体を含む深部流体を起源とする。火山のない地域では水銀は深部流体から気液分離した後に気体として上昇する。2)地下水の水銀汚染はプルーム状に出現する。出現地点は大阪平野とその周辺部では複数の活断層が交差するか,密集する地点である。地殻を切る活断層はマントルから上昇する気体の経路となっている。3)水銀は沈み込むスラブからの脱水に由来するかもしれないが,ウェッジマントルから流体に付加されている可能性は高い。
著者
犬飼 佳吾 中村 友哉
出版者
明治学院大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

本研究では行動経済学、実験経済学分野における主要知見について、大学生を対象とする追試に加えて、一般人市民を対象にも同様の追試を行う。同時に、実験報酬単位、実験プラットフォーム(実験室実験やweb実験)の違いという観点からの検証も同時に行い、行動経済学・実験経済学分野の研究知見の頑健性の検証を通じて、同分野の基礎的手法の精査検討を行う。
著者
谷口 勇仁 岩田 智 小田 寛貴 平本 健太
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

本研究は,大学院理系研究室のマネジメント,すなわち「ラボラトリーマネジメント」について,大学院理系研究室を対象とする詳細な実証分析に基づき,効果的なラボラトリーマネジメントを解明することを目的とする.本研究は3ヶ年計画で実施され,第2年度にあたる2019年度の研究実績の概要は以下の3点である.第1に,大学院理系研究室の組織構成員に対し,研究室の運営(研究室の制度,文化,リーダーシップ)に関するインタビュー調査を行った.前年度に明らかになった理論研究室と実験系研究室のラボラトリーマネジメントの違いが明らかになったため,ラボラトリーマネジメントがより重要であると考えられる実験系研究室に焦点を当てて研究をすすめることとした.第2に,ラボラトリーマネジメントに関連する文献ならびに各種資料をサーベイし,PIのリーダーシップと学生のモチベーションとの関係について検討を行った.特に,学生の研究に対するモチベーションを「リサーチ・モチベーション」と位置づけ,リサーチ・モチベーションを高めるPIのリーダーシップ行動について検討を行った.Deciのアンダーマイニング効果などを参考にしながら,学生が,「研究は労働であり,卒業する対価として研究活動が行われている」として解釈してしまうことの危険性が明らかになった.第3に,現在理系大学院研究室に所属している組織構成員(教授,准教授,助教,PD,博士学生)を対象に,ラボラトリーマネジメントに関する研修を2回実施した.研修後に,受講者から①研修の内容,②ラボラトリーマネジメントに関する課題についてフィードバックを得た.様々な課題が提示されたが,PIは,修士(博士前期課程)で卒業する学生と博士(博士後期課程)に進学する学生との間のマネジメントの違いに難しさを感じていることが確認できた.
著者
近藤 滋
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

イセエビの幼生は、1回の脱皮で、2次元平面から3次元形状に変態する。脱皮前後のクチクラの構造を電顕で詳しく解析することにより、クチクラの各地点での収縮率、収縮の異方性を測定し、それを幼生の平面上クチクラ形状にマップする。次にその平面情報から、収縮後の立体構造を、計算機により3次元物理計算から導き出す。成功すれば、平面の構造から、任意の3次元構造を瞬時に作り出す新しい技術が生まれる可能性がある。
著者
佐々木 陽子 村岡 敬明
出版者
南山大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2020-07-30

「歴史の和解」は往々にして国家主体の課題とされ、個々人の内面における記憶の継承や、対話、内的ダイアローグの生起や影響が軽視される傾向にあった。本研究は国家の枠組みでとらえられがちな歴史和解を、「人の和解」という点から問い直すものである。「他者」の声が立ち現れ、感情や記憶に訴えかける多声(ポリフォニー)が形成され、対話(ダイアローグ)が生まれる場として複数の「芸術」の現場をフィールドと定め、そこでの多声と公共圏形成の過程を分析する。インタビュー調査やPAC分析法など複数の調査手法を用い、芸術の現場で起こる対話と和解を探り、それによって「国家の和解」に対峙する「人の和解」のダイナミズムを模索する。
著者
宇佐美 誠 大屋 雄裕 松尾 陽 成原 慧
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

本研究計画は、人工知能(AI)が著しく発達した近未来の社会的経済的状況を見据えて、新たな分配的正義理論を提案するとともに、個人の自由への新たな形態の脅威に対して理論的応答を提示することを目的とする。この研究目的を効果的に達成するため、正義班と自由班を組織しつつ、相互に連携して研究を実施する。補助事業期間を基礎作業、構築・展開、総合・完成という3つの段階に分け、計画的に研究活動を推進する。
著者
山口 典之 樋口 広芳 辻本 浩史 井上 実 森 さやか 佐々木 寛介
出版者
長崎大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

1. 空中餌資源を把握するための飛翔性昆虫採集ユニットを作成し、ドローンに搭載して採集を行った。ドローンの飛行は安定しており、比較的高速 (ca. 40km/h) で行えたが、捕集できた昆虫類は少なかった。空中餌資源の分布や量がかなり疎であることが理由なのか、捕集システムに大きな問題があるのか検討を重ねる必要が残った。2. ハリオアマツバメの GPS 遠隔追跡を順調に実施し、データを蓄積した。巣からの採食トリップの空間スケールや高頻度利用域の解析を進めた。個体によっては時折、数10km以上の遠方まで直線的に移動していることも明らかになった。利用環境は農耕地(牧草地、耕作地)と林縁・防風林を含む森林だけでなく、都市部の緑地帯や公園にもおよび、都市部についてもかなりの利用が認められた。3. 給餌に持ち帰った餌生物サンプルを蓄積し、空中でどのような餌生物を捕獲しているのかについての解明を進めた。多様な餌を利用していることがわかったが、ケアリ類やクロスズメバチがよく利用されていた。空中での個体数が多い、集中的に分布しているなどの理由が考えられた。どのようにして、そのような集中的に餌生物が発生しているところを発見するかについて、今後、実験アプローチを取り入れて調査を進めることになった。4, 巣箱の設置を継続し、2 年にわたって高い利用率での繁殖誘致に成功した。本種の人工的繁殖場所の提供および生態研究のための環境整備について順調に進捗した。本種は繁殖場所となる大径木の現象に伴い個体数を減らしている。そのような種の保全に役立つ知見を提供することができる見通しが立った。5. 野外調査地で気象調査ドローンを飛ばし、空中の精度高い気象データを計測した。6. 上記の 2, 3, 4 についての現時点での成果をとりまとめ、日本鳥学会 2019 年度大会で発表した。
著者
西藤 清秀
出版者
奈良県立橿原考古学研究所
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本研究は、紛争、開発、自然災害により消滅した有形文化財(以下文化財)・建造物を3次元画像として再現することである。紛争や自然災害は、多くの重要な文化財や建造物の破壊を招き、また昭和の高度経済成長期の宅地開発や社会インフラ整備は、多くの遺跡を消滅させた。これら対して本研究は、2点に焦点を当て実施する。第1点はISに爆破されたシリア・パルミラ遺跡ベル神殿の3次元画像をもとにした再現、第2点は宅地開発等で消えた古墳群・古墳の過去の写真による3次元的再現である。第1点のベル神殿の3次元画像の再現は、ドイツ考古学研究所の画像の提供により、一昨年より僅かに進展した。第2点の過去の写真を活用しての古墳群・古墳の3次元画像の再現は、住宅開発で消滅した奈良県御所市石光山古墳群、同市西松本古墳群、さらに長年の耕作地利用と学校建設によって墳丘の姿を変えていった明日香村小山田古墳において実施した。これらの古墳群・古墳の3次元的再現には戦後直後、1940年代後半に米軍によって撮影された空中写真を利用した。その結果、石光山古墳群では、一基一基の古墳の位置を明確に確認できた。西松本古墳群では、過去に調査された古墳の位置が報告文だけであったが、今回の画像から調査された古墳の位置を検証することができた。明日香村小山田古墳では、学校建設によって外観的にはほとんど消滅した古墳の墳丘を学校建設前の1948年の姿に甦らせることができた。本研究において過去の画像を現代的に活用し3次元化した結果、消失する前の古墳・古墳群とその周辺地形の新たな姿を再現することができた。今後、古墳群や古墳の歴史的立地環境を考える上で絶好の材料を提供することができ、新たな研究への窓口を開くために大いに貢献できると考えている。