著者
郡司 幸夫 中村 恭子
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本研究の目的は、計算機や人工知能をメタファーとする意識モデルの転倒に対抗し、創造性に基礎付けられた意識モデルを構築することにあった。それは、人工知能によってアートを実現しようとする風潮や、科学によって現代芸術を再解釈しよいうという近年の傾向に反し、むしろ藝術に基礎付けられた科学を指向することであった。この目的は、第一に、知覚できる情報を評価し自らを拡張する人工知能に対する概念として、天然知能を打ち出すことで実現され、講談社から「天然知能」として2019年書籍化された。本書において天然知能とは「知覚できない外部を待つ」知性と定義され、外部を待ち、外部を召喚する技術が様々な事例で示された。本書の評判は高く、毎日、朝日、読売、日本経済新聞の各紙が書評を掲載した他、朝日や産経では文芸時評でも紹介され、群像、ケトル、週刊朝日などの雑誌でも取り上げられた。天然知能の意識に関するモデルはfoundations of Scienceなどの国際誌で発表された他、外部を召喚するための群やネッワークのモデルも構築され、これらも国際誌で発表された。第二に、藝術に基礎付けられた科学や意識モデル、創造性について、共同研究者である中村恭子とともに、水声社から「TANKURI:創造性を撃つ」を共著で2018年刊行した。本書は中村の日本画と郡司および中村の論考で構成され、日本画の構想段階から作品に至る経緯を題材としながら、創造とは何かについて論じたもので、天然知能の藝術における実装を示したものになっている。本書も読売新聞で書評が掲載された他、刊行記念として京橋のギャラリーaskで中村の絵画や郡司の解説の展示会が催された。さらに創造性に関する議論はBrusselの国際会議でも発表され、その際中村の作品が展示された。本書は早稲田大学からの助成金によって英語に翻訳され、現在出版社と刊行に向けた準備が進んでいる。
著者
服部 恒太 岸江 信介
出版者
徳島大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2020-07-30

これまでに日本方言の区分は研究者が記述的な方法を用いて行ってきた。しかし、日本語母語話者が実際に方言を聞いてどのように区分をするのかという科学的な検証は未だに行われていない。また、彼らが世代間で方言の認識の仕方をどのように変化させているのかも科学的に検証されていない。本研究では幅広い年齢層(若年層と中年層)の日本語母語話者に各都道府県の老年層の話す方言を聞いてもらい、その区分を行ってもらう。本研究は彼らの区分を統計的に分析することで日本人自身が自分たちの方言をどのように区分しているのか、そしてどの程度若い世代のあいだで方言の消失が進んでいるのかを初めて科学的に明らかにすることを目的とする。
著者
小寺 智史 磯部 哲 岡田 希世子 奈須 祐治 鵜飼 健史 高 史明
出版者
西南学院大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

本研究は、補完代替療法(Complementary and Alternative Medicine, 以下CAM)に対する日本の法規制の現状と課題を分析し、今後求められる法規制のあり方を明らかにするものである。本研究では特に、科学的根拠に基づかない健康食品・サプリ及びホメオパシーに対する法規制について、次の3つの観点から研究を行う。第1に、CAMに関する利用・情報の拡散の程度及びその原因に関する分析である。第2に、CAMに関する日本の現行の法規制の分析である。第3に、CAMに関して将来必要な法規制の分析である。これらの観点から、CAMに対する法規制の問題点及び今後の法規制の様態を検討する。
著者
岡崎 篤行 野澤 康 井上 年和 今村 洋一 川原 晋 大場 修 澤村 明 岡村 祐 池ノ上 真一 井上 えり子 松井 大輔 西尾 久美子
出版者
新潟大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2020-07-30

元来、料亭は宴席以外にも冠婚葬祭や公式会合、商談など日本人の生活と密着していた。しかし、現在ではその役割が他施設へ移り、都市の料亭街が消滅しつつある。一方で、和食や料亭の価値は見直され、重要な観光資源にもなっている。ひとつの重要な建築類型といえる料亭は、あらゆる日本の伝統文化を包括的に継承する場であり、花柳界や業界団体、支援・連携する行政、民間組織など様々な組織が関わっている。このように、ひとつの地域文化システムといえる料亭について網羅的視点で捉え、関連組織・活動の変遷、料亭の分布とその変遷、料亭建築の規模と保全活用の実態を明らかにする。
著者
高木 康博
出版者
東京農工大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

拡張現実(AR)技術の表示デバイスとして、現在はシースルー型ヘッドマウントディスプレイが用いられている。本研究では、究極のAR用表示デバイスとして、コンタクトレンズ型ディスプレイをホログラム技術を用いて実現した。コンタクトレンズ型ディスプレイの実現では、ディスプレイをコンタクトレンズ内に置くと目がピント合わせできないことが問題となるが、ホログラムにより目から離れた位置に立体表示することでこれを解決した。本研究では、スケールアップ光学系を作製して、提案した表示原理の有効性を確認した。また、コンタクトレンズに組み込むために必要なレーザーバックライトを開発し、実際のホログラム表示に用いた。
著者
吉崎 悟朗
出版者
東京海洋大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

植物油に含まれるα-リノレン酸(ALA)からドコサヘキサエン酸(DHA)を作るには2段階の炭素鎖数の延長と3か所に二重結合の導入(不飽和化)が必要である。一般に海産魚はこれら何れかの反応を司る酵素を欠損しているため、DHAを合成できない。申請者は、熱帯域に生息する小型シタビラメ類が、ALAからDHAを合成する際に必須な全ての不飽和化活性を持つFADSを持つことを発見した。本研究では、日本産の食用シタビラメ類と本熱帯産種を交雑することで、食用種の特徴を具備しDHAも合成可能な新品種を作出する。
著者
伊藤 健 小嶋 寛明 新宮原 正三 清水 智弘
出版者
関西大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

セミやトンボなどの翅には無数のナノ構造が表面を埋め尽くしており、その表面は抗菌性を示すことが近年報告された。本研究では、その抗菌メカニズムを解明するために、人工的に様々な条件を制御したナノ構造を作製し、構造や物理化学的性質と抗菌との関係を明らかにしようとしている。初年度は、安価かつ大面積にナノ構造を作製するため、コロイダルリソグラフィとメタルアシストエッチングを用いることで2インチ角のシリコン基板に対して任意の寸法をもつ円柱状の構造物をアレイ状(ナノピラーアレイと呼ぶ)に配列させることに成功した。作製法を以下に記す。まずSi基板上にナノサイズの樹脂ビーズを単層配列させる。樹脂ビーズの直径により構造の間隔を決定できる。次に、酸素プラズマをこの基板に当てることで、樹脂ビーズを徐々に削っていく。この時の樹脂ビーズの直径がナノ構造の直径に相当する。次に、メタルアシストケミカルエッチングの際の触媒として働く金を上述した基板に薄く堆積させる。続いて、基板を特殊なエッチング溶液に浸すことでシリコン基板が深さ方向に異方的にエッチングされる。エッチング溶液に浸している時間で、ナノ構造の高さを制御することができる。最後に、金と樹脂ビーズを除去することでシリコン単体からなるナノ構造を形成することができる。この技術を用いることで任意のピッチ、直径、高さを持つナノ構造を得ることができた。この技術を利用して様々な幾何学的な条件を変化させたナノ構造を作製し、その基板に対して抗菌評価を実施した。抗菌評価法にはJIS Z2801(フィルム密着法)を適用し、菌体として大腸菌をターゲットに抗菌評価を行った。その結果、抗菌性を示す条件を得ることができ、特許の申請に至った。
著者
岸本 利彦
出版者
東邦大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

2018年度は下記の研究を実施し、その成果を得た。1.高温適応進化大腸菌の構築 2系統の大腸菌高温適応進化を継続実施し、2系統とも47.9℃への完全適応(適応度:>0.35 1/h)に成功した。現在も48.0℃への適応を実施している。2.高温適応進化大腸菌の解析 2017年度にゲノム解析を行った、高温適応進化系統1の大腸菌のうち47.3℃適応株、46.0℃適応株、高温適応進化系統2の大腸菌のうち47.4℃適応株、46.0℃適応株、およびそれぞれの先祖株であるAnc株、について15℃~50℃の増殖特性、細胞内タンパク質の熱安定性を解析した。その結果、両系統で46℃以上の高温への適応度上昇が見られ、増殖最適温度は、1系統 43~44℃、2系統 43~45℃ となっていた。2系統に関しては、43~45℃の適応度に有意差が無くなっており、ほぼ高温菌への進化ができていることが示唆された。また、15~20℃の低温では、高温適応に伴い適応度の低下が確認され、トレードオフが起こっていることが確認された。細胞内タンパク質の解析の結果、1系統においては、適応温度上昇に伴うGroEL発現亢進が見られ、系統2においては、適応温度上昇により細胞内タンパク質の熱安定性の上昇がみられ、系統毎に高温への適応様式が異なる可能性が示唆された。3.高温適応進化大腸菌の遺伝子解析 2017年度にゲノム解析した結果に関して、変異解析、GC含量、アミノ酸解析などを行い、2系統で全く異なる変異が導入されたが、アミノ酸レベルでは同じ傾向の変化を示すこと、GC含量は高温適応進化に伴い低下する傾向があることを確認した。上述のゲノム解析完了株について、最高適応温度でのRNAを回収し、次世代シークエンサーによるRNAseq解析を外注した。現在解析結果の報告待ちの状況である。
著者
豊原 治彦 前川 真吾
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本年度は、ディスカスの親魚の粘液に含まれる仔魚期の生残を優位にする哺育因子を探索する目的で、RNA-seqによるディスカス粘液中遺伝子の網羅的発現解析を行った。また、哺育因子と思われる物質についてディスカス粘液中のウエスタンブロット解析及び仔魚の消化管の免疫染色を行った。その結果、哺育期のディスカス粘液中で免疫系の遺伝子群、特に免疫グロブリンを構成する遺伝子が誘導されていることが分かった。また、仔魚が親魚の粘液由来の免疫グロブリンを摂餌していることが示唆された。RNA-seqにより哺育期と非哺育期のそれぞれの粘液で発現している遺伝子を比較した結果、非哺育期に比べ哺育期に発現が抑制される遺伝子数は12であるのに対し、誘導される遺伝子数は160と多く、ディスカスの親魚は仔魚の育成のため複数のタンパク質の合成を促進していることが示唆された。また各遺伝子の発現パターンをもとに行ったクラスター解析では、Breed 4個体、Non-Breed2個体がそれぞれ同グループになることを期待したが、結果としてNon-Breed1とNon-Breed2及びBreed3とBreed4が同グループに、Breed1とBreed2が他4個体の外縁のグループに分類された。Breed1,2とBreed3,4が異なるグループに分類された原因として、粘液採取時の仔魚の孵化後日数の違いが考えられる。Breed3,4がともに仔魚の孵化後5日目の時期に採取しているのに対し、Breed1,2はそれぞれ仔魚の孵化後8,13日目の時期に採取したものである。哺育期のディスカスは仔魚の孵化後の経過日数にあわせ粘液中のイオン含量等を変化させるという報告があり、Rディスカスは仔魚の成長段階にあわせ異なる遺伝子の発現を誘導させることで粘液中のタンパク質組成等を変化させていると考えられる。
著者
桜井 武
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

応募者らが新たに見出した、脳内の視床下部に局在する神経細胞群は、人工的に興奮させるとマウスを冬眠様の状態にすることが可能である。その神経回路網や、低体温、低代謝を誘導するメカニズムを明らかにし、将来的に冬眠状態を医療に応用するための技術を開発する基礎的なデータを得る。
著者
栗田 敬 市原 美恵 熊谷 一郎 久利 美和
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

・実験課題の整備:従来の課題の整備以外に、Dancing Raisin、Rootless Eruption実験、火炎実験、降伏応力流体の落球実験、ペットボトル噴火実験などの新しい実験課題を整備した.その幾つかは授業、研究会、一般公開の場で利用された.また実験内容は地球惑星科学連合大会、European Geosciecne Union年会、日本火山学会などで発表されるとともに、Web上に公開されている(http://kitchenearth.sblo.jp/ ).小冊子「キッチン地球科学 レシピー集」を作成し、配布するとともに上記Web上に公開した.・キッチン地球科学研究集会の開催:2019年9月1日、2日に東京大学地震研究所にて40名余の参加者を得て開催された.・大学、高校における実験講義の試行:東京大学教養課程・惑星地球科学実習、明星大学理工学部・プロジェクト研究実験「身の回りのものを使った考える流体実験」、都立八王子東高校・化学部特別実験、聖星高校・科学部実験講義などの機会を利用して学生の実験を指導した.実験の題材は味噌汁対流実験、綿飴実験、ベッコウ飴クラック、ペットボトル噴火実験などである.学生の興味を引き出す手法として不確定要素を含む実験課題が有効であることを確認出来た.・キッチン地球科学の広報活動:はまぎん子供宇宙館、東京大学地震研究所一般公開、次世代火山研究者育成プログラム、地球惑星科学連合大会における「キッチン地球科学」セッション、ホイスコーレ札幌生涯学習セミナーなどの場を借りて教育における実験の役割、その具体的な利用法の宣伝活動を行った.
著者
山中 康裕
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

近年、科学と研究者の理想が無いままに、被引用数やインパクトファクターを安易に評価 指標とした歪みとして、組織や研究者の業績評価における論文崇拝主義や、直接的な課題解決を得意とする学問分野への偏重を招いている。本研究では、研究者コミュニティーが、自ら研究活動を評価し、それに基づく社会への説明責任を果たす文化を創造することを目指す。社会の中の科学の縮図として、地球科学分野を取り上げる。研究活動の把握(IR)として、国内各研究者への情報収集、聞き取りやアンケートにより「知の創造」に対する価値基準の国際比較を行う。チューニングの概念にもとづき、社会と研究者コミュニティーが納得する評価指標を提案する。
著者
武部 貴則
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

われわれは、マウス細胞とヒト細胞とを特定条件下で培養を行うことにより、マウスmRNAがヒト細胞に受け渡されていることを見出した。本研究では、われわれが世界で初めて発見した異なる細胞種間の直接接触を介したmRNAの伝搬機構の解明を通じて、細胞の運命を転換するための全く新たな細胞操作技術を構築する。今後、遺伝子編集を伴わない安全かつ安定な細胞を創出できるばかりか、未解明な細胞間相互作用に関わるさまざまな生命現象、例えば、正常幹細胞とニッチ間相互作用、ガンと間質間の相互作用など 、近年着目されている多細胞間相互作用に関する研究を全く新たな視点から切り込むための基盤原理へと昇華する可能性がある。
著者
小川 佳宏
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

申請者らは既に、肥満マウスにSodium-glucose cotransporter 2(SGLT2)阻害薬を投与することにより、代償性の摂餌量増加により体重は減少しないが、脂肪細胞の肥大化を伴う精巣周囲脂肪組織重量の増加とともに肝重量の低下と脂肪肝の改善が認められることを報告し、脂肪細胞のエネルギー貯蔵力の増加が肝臓における異所性脂肪蓄積を抑制に関連する可能性を提案した。本研究では、ヒトの病態を再現する非アルコール性脂肪肝炎(NASH)マウスにSGLT2阻害薬カナグリフロジンを投与すると代償性に摂餌量が増加し、むしろ体重増加の傾向が認められるが、血糖値は低下してインスリン抵抗性は改善すること、精巣周囲脂肪組織重量の増加と脂肪細胞の肥大化が認められるが、炎症所見の増悪はなく、肝臓では新規脂肪合成酵素あるいは炎症関連遺伝子や線維化関連遺伝子の発現の減少とともに肝臓の炎症所見と線維化が抑制されることを見出した。このNASHマウスでは長期間の飼育によりほぼ全例が肝細胞癌を発症するが、1年間のSGLT2阻害薬投与により肝腫瘍数の減少と腫瘍の最大径は低下傾向が認められた。以上により、脂肪組織のHealthy Expansionに伴って肝臓異所性脂肪蓄積が抑制され、脂肪肝と炎症所見・線維化に伴うNASH肝癌の発症の遅延することが示唆された。又、SGLT2阻害薬を投与したNASHマウスより得られる精巣周囲脂肪組織では、還元型グルタチオン(GSH)の増加と酸化型グルタチオン(GSSG)の減少が認められ、脂肪組織のHealthy Expansionには脂肪組織における還元力の増加が関連する可能性が示唆された(Sci. Rep. 8: e2362, 2018)。
著者
丸山 敦 入口 敦志 神松 幸弘
出版者
龍谷大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

ユネスコ無形文化遺産「和食」の起源である江戸から明治初期における日本人の食生活を、書籍に漉き込まれた毛髪の安定同位体分析によって詳らかにする。申請者らが発表したばかりの新規的アプローチを洗練し、地方の出版物に対象を拡張することでより多くの地域の比較を、書籍の選定や素材の化学分析によってより細かな時間スケールで、当時の食物の同位体比を把握することでより定量的に行うことに挑戦する。
著者
落合 啓之
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

特殊関数論を他の分野との相互作用を意識しつつ展開することを探る挑戦的研究である。初年度である本年度は、まず、特殊関数として、Mittag-Leffler 関数やそれを拡張した一般ライト関数など、あまり馴染みのない関数の性質を調べた。特殊関数というと先行研究では超幾何関数やゼータ関数などがよく扱われているが、その範囲を超えていった場合にどのような性質が保たれ、どのような新しい現象が起こるのかをこれらの関数の族で検証していったものである。Uuganbayar(モンゴル国立大学) 並びに私の研究室の大学院生Dorjgotovと共同研究では、先行研究で得られている関係式を整理するとともに新しい関数関係式を与えることができ、それを論文として公表した。今後はこれらの関係式がなす代数構造があるかどうか、あるとしたら超幾何関数の昇降演算子のようなリー代数としての解釈を許すかどうかなどの発展が見込めるものである。特殊関数の由来として、新たに分数階の偏微分方程式の対称性の決定と、その対称性による変数分離の機構を考察した。群作用による多様体の分解だけでなく、独立変数の選択が分数階の微分の場合には、ドラスティックな変更をもたらすことに気づいたのが我々の研究の成果であり、この成果の副産物として、解の今まで知られていなかった表示を与えることに成功した。連立系に対する基礎方程式(係数関数に対する拘束条件)も新しく与えている。これは多数の未知関数を含む非線形の連立系であるが、帰納的構造を見出すことで幾つかの場合は係数関数と対称性のリー環を決定できている。このアルゴリズムが上手くいくカラクリを解明することは今後の課題である。
著者
小川 一仁 渡邊 直樹 田口 聡志 高橋 広雅 尾崎 祐介
出版者
関西大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

2017年度の研究実績については2点ある。1:各大学が実験参加者プールを構築すること研究グループで何度か打ち合わせを行い、実験参加者プールの構築と収集データの統一を図ることで合意した。関西大学と同志社大学についてはすでに実験参加者プールが完成している(関西大学)か、すでに構築を始めていた(同志社大学)。広島市立大学では研究分担社が過去に実験を実施した経験があるので、その時の経験を基に実験参加者プールの再構築に着手した。大阪産業大学はコンピュータ室の使用許可や、謝金の支払い方に関するルールの策定など実験実施環境の構築を終え、被験者プールの構築に着手した。これらは大学をまたいだ共通実験環境の構築の第一歩として必要である。2:複数の大学で共通して実施する実験の選定各大学で共通に実施する実験として、参加者募集など実験の実施が容易(1人で意思決定を行うタイプ)であり、なおかつ学問的価値も高いものとしてGuerci et al.(2017)のWeighted voting gameを利用することとした。現在、Guerci et al.(2017)の基本枠組みで実験を実施し、なおかつ多地点での実験実施による効果の違いを検討できる実験計画を選定中である。なお、実験参加者プールがすでに確立されている関西大学についてはGuerci et al.(2017)の基本枠組みに従った実験を17年度中に4セッション実施できた。さらに、Guerci et al.(2017)のデータも利用できることになった。
著者
細矢 直基 前田 真吾
出版者
芝浦工業大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

生体組織の病変を早期に発見するために,生体組織を外部から加振し,その際の応答を核磁気共鳴画像法 (Magnetic Resonance Imaging: MRI) により,生体組織に伝播する波動を可視化し,その弾性率を評価する方法として,Magnetic Resonance Elastgraphy (MRE) が検討されている.しかし,広範囲な弾性値を持つ様々な生体組織に対応するためには,十数Hz~数十kHzまでの広帯域な周波数成分を含む入力が必要であるが,加振器のような接触式デバイスでは非常に軟らかい生体組織に対して広帯域な周波数成分を含む入力を作用させることができない.本研究では,所望の音響放射パターン(指向性)に単一デバイスで制御できる,直径数mmの大きさの誘電エラストマーアクチュエータ (Dielectric Elastomer Actuator: DEA) を用いた音源デバイスを創成する.平成29年度は,風船型球面DEAを実現した.柔軟電極をカーボンブラック,誘電エラストマーをアクリル系とし,空気圧により膨らませることで球面DEAとした.この風船型球面DEAスピーカの形状を計測したところ,真上から見た形状は直径15 mmの円,真横から見た形状は長径15 mm,短径12 mmの楕円であった.膨張前の薄膜DEA(円板)の面積が78.5 mm^2,風船型球面DEA(楕円殻)の表面積が2459.2 mm^2であるので,3033 %拡大することに成功した.また,この風船型球面DEAの音響放射特性,振動特性を計測することで,音源デバイスとして有効であることを検証した.さらに,音響放射特性と風船型球面DEAスピーカの振動モード形との関係を調べた.