著者
松村 暢隆
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.169-177, 1979-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
11

本研究の目的は, 形式的課題における, 否定語の理解と生産の発達を調べることである。そのために, 類否定にかんして, 選択課題, 構成課題および言語化課題を行った。いくつかの教示 (下位項目) を組合せて, 被験者各人の否定および肯定の段階を定めた。また, 先行経験 (色・形分類または絵カードでの選択) の, 課題に及ぼす影響を見た。4~6才児54名を対象とした。選択課題は, 4枚の図形の中から「青い丸とちがうもの」や「青いものの中で丸とちがうもの」などを選択する。構成課題は, 色と形を分離した材料を用いて, 選択課題の下位項目に対応するものを構成する。言語化課題は, 指示されたものを, 選択課題の教示に対応する言葉で言語化する。その結果, 先行経験の影響はなかった。否定について, 選択課題と構成課題はほぼ同じ年齢で可能で, 1次元否定は4才ころ, 2次元否定は5才ころ, 部分補クラスは 5才ころ (構成課題では6才ころ) に可能になった。それに対して言語化課題は困難で, 5才ころ1次元否定ができ, 6才でもそこにとどまった。肯定については, 選択課題と構成課題では, 2次元肯定が4才からできた。言語化課題では, 1次元肯定は, 4才からできたが, 2 次元肯定は, 5, 6才ころにできた。肯定の段階は否定の段階より1年ほど先行していた。なお, 別の被験者で, 選択課題の材料の図形が, 4枚の場合と9枚の場合とを比較したところ, 難易に差はなかった。また, 選択課題の材料が, 図形の場合と絵カードの場合とを比較したところ, 肯定についてのみ絵カードの方が困難になった。絵カードの場合は属性によって困難さが異なり複雑になるであろう。
著者
砂田 良一
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.215-220, 1979
被引用文献数
1

Eriksonの自我同一性という概念を実証的に定義し, それを用いて個体と家族, 市民社会, 国家の間の諸規範ずれが同一性混乱をひきおこすことを示すことが本研究の目的である。<BR>Eriksonの理論の中から, 時間的展望混乱, 自意識過剰, 役割固着, 労働麻痺, 同一性混乱, 両性的混乱, 権威混乱, 価値混乱という8つの部分症候を下位概念とする同一性混乱尺度を構成した。長島他 (1967) からの12 の形容詞対を用い, 「現在の私」, 「家族からみた私」, 「大学生活での周囲の人からみた私」, 「世間の人からみた私」「理想の私」, 「家族から望まれている私」, 「大学生活での周囲の人から望まれている私」, 「世間の人から望まれている私」という8つの自己像のを測定し, 諸自己像のずれを諸規範のずれとした。<BR>自己の規範と家族, 市民社会, 国家の規範の間のずれは同一性混乱をひきおこす1つの原因であることが示された。
著者
保坂 亨
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.52-57, 1995-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
15

The purpose of this study is to investigate, in a certain city, the actual number and incidence ratio of long absence and school non-attendance on the basis of cumulative guidance records over a 3-year period of all children, in elementary and junior high schools, who were absent from school for more than thirty days in one school year. The results were as follows: from 1989 to 1991, in total, the incdence ratios of long absence were 1.64%, 1.64%, 1.62% and those of school non-attendance were 0.93%, 0.95%, 0.95% respectively. It was revealed that the ratios of long absence in junior high schools was higher compored to those in elementary schools being caused by an increase in school non-attendance. And it was evidently confirmed that the large number of school non-attendance in this investigation compared to the “reluctance to go to school” in the report of Ministry of Education was caused by an ambiguous definition of the term.
著者
飯島 有哉 山田 達人 桂川 泰典
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.388-400, 2020-12-30 (Released:2021-01-16)
参考文献数
39
被引用文献数
3

本研究は,教師の生徒に対する賞賛行動が,生徒の学校生活享受感情および教師自身のワーク・エンゲイジメント(WE)に与える効果とそのプロセスについて検討することを目的とした。公立中学校教師4名に4週間の賞賛行動の自己記録を依頼し,介入に伴う生徒267名および教師自身の変化を測定した。生徒に対する質問紙調査および教師に対する生徒の学校生活の様子に関するインタビュー調査の分析結果から,教師の賞賛行動に伴うほめられ経験の増加がみられた学級において生徒の学校生活享受感情の向上が認められた。教師自身においては,単一事例実験法による検討およびインタビューデータの分析結果から,賞賛行動の増加に伴うWEの向上が認められ,その変化プロセスとして,賞賛行動の実行に伴う【効果の体験】が直接的に【WEの向上】に結びつくものと,【生徒認知の変化】を介するものの2種類のプロセスが見出された。本研究の結果から,教師の賞賛行動が生徒および教師双方の学校適応の促進に寄与することが示され,その効果プロセスにおける相互作用性および,教師の主観的な賞賛行動と生徒のほめられ経験の一致の重要性が考察された。
著者
寺尾 尚大
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.37-51, 2021-03-30 (Released:2021-05-01)
参考文献数
42
被引用文献数
2

本研究の目的は,複数英語文章の読解能力を題材として,テスト項目の困難度パラメタに影響を及ぼす要因を検討することであった。大学生151名に対し,同一のテーマについて述べられた二つの文章を一組の文章セットとして提示し,複数英語文章の読解項目への解答を求めた。本研究では,文章セットに含まれる文章の内容の一部を記述した各文が,どの文章で記述されていたかを問うテスト項目を作成し,制約つき2パラメタ・ロジスティックモデル(2PLCM)を適用して,項目困難度パラメタに影響を及ぼす要因について検討を行った。その結果,二つの文章を読んではじめてわかることがらを記述した文や,いずれの文章にも記述されていないことがらを記述した文の分類に関する項目で困難度が高くなっていた。一方,二つの文章が互いに補い合う関係にある相補的文章セットと,二つの文章の間で主張が対立する関係にある矛盾・対立的文章セットの間では,項目困難度は異ならなかった。本研究から得られた知見は,複数英語文章の読解能力を測るテスト項目の作成に対する指針を提供しうるものであることが示唆された。
著者
山川 賀世子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.476-486, 2006-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
24
被引用文献数
5 5

本研究では, George & Solomon (1990/1996/2000) によって提案された, 子どもの愛着の新しい測定具であるAttachment Doll Playが, 日本の子どもに実施可能であるか, 妥当であるかを検討した。Doll Playの教示を日本の子どもにわかるように変更した後, 5~6歳の幼稚園児56名にDoll Playを実施し, 更に, 母子分離の後の母親との再会場面での子どもの愛着行動を観察した。その結果,(1) 日本の女児も男児も, Doll Playに対して, アメリカの子どもと類似した反応を示したこと,(2) 愛着をA, B, C, Dの4タイプに分類する原手引の基準は, 日本の子どもに対しても適応可能であったこと,(3) Doll Playと母子再会場面での子どもの愛着行動との間には有意な一致がみられ (k=.62; p<.001), 妥当性が確認されたこと, が示された。最後に, 文化がDoll Playに与える影響と, Doll Playを用いた今後の研究について述べた。
著者
山田 旭
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.92-105,133, 1969

精神分裂病患者44名(男子30名,女子14名)および神経病患者25名(男子13名,女子12名)にM.M.P.I.及びロールシャッハ・テストを組み合わせて施行し,その結果を動力学的観点から見た症状類型と関連させて解釈することにより次の所見が認められた.M.M.P.I.を両疾患の患者群に施行した結果からは等しく分裂病とか神経症といってもその症状にいろいろの差がある如くM.M.P.I.の人格プロフィルの型は種々であって殊に例数のあまり多くない場合単に両群の平均プロフィルを求めただけではその疾患を代表する一般的なプロフィルを云々することは困難である.然し動力学的観点に立って両疾患における症状類型を陽性症状のニュアンス強いものとに分けると分裂病においても神経症においても前者の型のものは人格プロフィルが高く表れ後者の型においては低く表れる.これは分裂病的人格変化も神経症的人格変化もM.M.P.I.の上では等しく正常平均からの量的偏奇として示されるので新ジャクソン主義的立場で言うところの2つの機制が両疾患に於いて殆ど同じ様な状況でM.M.P.I.のプロフィル上の差異となって表れるのでこの点については分裂病と神経症の間にあまり差異は認められない.しかしロールシャッハ・テストにおいてPitrowskiのprognostic perceptanalytic signを両疾患について適用すると,分裂病においては人格の低下解体の程度の強弱に応じてサインの予測点が低くなるものと高くなるものとの間にかなり開きが出るのに対し,神経症においては殆ど全部が略々人格解体の少い予後良好な分裂病と同じような値を示し,分裂病の場合のように予測点が低く出るものがなかった.而して分裂病においては陽性症状,陰性症状のニュアンスの差による類型と人格解体の程度の強弱の差による類型の組合せから4つの症状類型を訳動力学的立場からその症状の説明を行い,更にそれ等の症状類型はM.M.P.I.の人格プロフィルの高低の差とPiotrowskiのprognostic perceptanalytic signsの予測点の高いか低いかということの組合せから精神測定的方法である程度推定できることを述べた.最後に神経症においては症状的に陽性症状のニュアンスの強い型と陰性症状のニュアンスの強い型とに分けた2類型の各々についてEichlerのanxiety indexを適用した所,不安のもつ2つの発生機制に応じて不安指標の項目のうち或ものは前者の型に高くあるものは後者の型に高いというように項目のもつ意味に応じて,かなり明確に2つの群に分かれることは認められた.擱筆に際し,御校閲を賜った石橋俊実教授に厚くお礼申し上げます.また終始指導をいただいた佐藤愛講師に深く感謝いたします.(この論文を石橋教授開講10周年記念論文として捧げます.)
著者
豊沢 純子 唐沢 かおり 福和 伸夫
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.480-490, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
23
被引用文献数
24 13

本研究は, 脅威アピール研究の枠組みから, 小学生を対象とした防災教育が, 児童の感情や認知に変化を及ぼす可能性, および, これらの感情や認知の変化が, 保護者の防災行動に影響する可能性を検討した。135名の小学校5年生と6年生を対象に, 防災教育の前後, 3ヵ月後の恐怖感情, 脅威への脆弱性, 脅威の深刻さ, 反応効果性を測定した。また, 防災教育直後の保護者への効力感, 保護者への教育内容の伝達意図と, 3ヵ月後の保護者への情報の伝達量, 保護者の協力度を測定した。その結果, 教育直後に感情や認知の高まりが確認されたが, 3ヵ月後には教育前の水準に戻ることが示された。また共分散構造分析の結果, 恐怖感情と保護者への効力感は, 保護者への防災教育内容の伝達意図を高め, 伝達意図が高いほど実際に伝達を行い, 伝達するほど保護者の防災行動が促されるという, 一連のプロセスが示された。考察では, 防災意識が持続しないことを理解したうえで, 定期的に再学習する機会を持つこと, そして, 保護者への伝達意図を高くするような教育内容を工夫することが有効である可能性を議論した。
著者
古厩 勝彦
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.65-75,124, 1964

ろう者の手話または口話によつて送話された内容の了解度を,(A) 書記再生,(B) 絵画選択の応答方法により検討した。送話は黒白8<SUB>m</SUB>/m映画により, 送話文は相当平易なものを使用した。口話による低書記再生の場合にはむしろ読み取りともいうべき応答方法であるが, 手話による (A) と手話,<BR>口話による (B) の方法は了解度をみるものと考えられる。ただ,(A) による場合には「言語力」というべきものによつて相当に結果は左右され, 本研究においても結局このような能力によつてSp. R., Si. R. の成績はともに大きく影響を受けていた。(B) の場合には偶然による見かけの成績におわる危険を伴なつているものではあつたが, こうした「言語力」によりあまり大きな影響を受けない方法によつてみた場合, Si. R. の方がSp. R. をうわまわる好成績をあげている。<BR>そして, Si. R. がだれにとつてもある程度までは行なえるものであるのに対して, Sp. R. は個人差が大きく, 成績のよいものは相当の成績をもおさめうるのに, 成績の悪いものはほとんどできないといつたように差がはげしく, その送話文によつてもでき・ふできの差が著しい。
著者
太田 絵梨子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.204-220, 2021-06-30 (Released:2021-07-21)
参考文献数
26
被引用文献数
4

高校数学では,基礎的な概念の理解や数学的表現力の育成が重視されており,テストなどの学習評価でもそうした観点での診断が求められている。一方,概念的理解やその表現を問うテストとは具体的にどのようなものであり,そうしたテストの実施が教育現場の課題の解決にどのように資するかについては十分検討されていない。そこで本研究では,研究者が心理学的な視点を生かして行なった学習評価に関する提案を高校数学の実践場面で検討した。具体的には,(1)高校数学における概念的理解を評価するテストの考案,(2)テストを受験した高校生のつまずきの分析,(3)高校生による概念的理解の実態に対する教師の認識の検討,の3点を行なった。分析の結果,基礎的な概念の理解や数学的表現に課題が見られ,教師が生徒の理解の実態を必ずしも把握できているとは言えないことが明らかになった。また,結果を教師にフィードバックした際のグループディスカッションの様子から,教師が学習者の理解状況に対する認識を修正し,日常的な評価や授業でも概念的理解を問う必要性を感じていたことが示された。最後に,数学における学習評価の研究及び教育実践に対する示唆と展望について論じた。
著者
芳賀 純
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.82-84,132, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1

北海道全域から抽出した中学校3年生1267名を被検者にしてNHKラジオ放送によつて英語聞き取り検査を施行し, 標準化した。この検査は6項目の聞き取り能力の下位検査からなり, ペーパーによる英語標準検査とは.780の相関値をもつ。問題の録音吹込みは経験を経た日本人教師によつてなされたために, この聞き取り検査は教室場面で経験を経た英語教師がテープなしに問題を読むことによつて近似的に生徒の能力を測定・評価することも可能である。なお今後の研究は, この結果を基礎として外人教師が問題を吹込んだ場合との比較および分析が必要である。
著者
榊原 彩子
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.19-27, 1999
被引用文献数
4

本論文では, 絶対音感を習得するプロセスについて, 考察を加える。1名の3歳児に対し19か月間, 毎日, 絶対音感を習得するための訓練をおこなった。訓練内容は9種の和音の弁別課題である。江口 (1991) によれば, これらの和音が弁別できた時点で全ての白鍵音について絶対音感を習得したことが保証される。本研究の目的は, 訓練プロセス中にあらわれる認知的ストラテジーの変化を, 縦断的に明らかにすることである。音高が「ハイト」と「クロマ」という2次元でなりたつという理論に従えば, 絶対音感保有者は, 音高を判断する際「クロマ」に依存したストラテジーをとることが予想される。結果, 2つのストラテジーが訓練プロセス中に観察され, 1つは「ハイト」に依存したストラテジーであり, もう 1つは「クロマ」に依存したストラテジーであった。また, 絶対音感を習得するプロセスは, 次の4段階に分けられた。第1期: 常に「ハイト」に依存する。第II期:「クロマ」を認識する。第III期:「ハイト」と「クロマ」がストラテジー上, 干渉をおこす。完成期:「ハイト」も「クロマ」も正しく認識する。
著者
竹村 明子 仲 真紀子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.211-226, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
55
被引用文献数
1

二次的コントロール(Secondary Control : SC)(Rothbaum, Weisz, & Snyder, 1982)とは, 状況に合わせて個人が変わる過程を表す概念であり, 集団主義的文化や高齢者心理の特徴を理解するために重要な概念として期待されている。しかし, SC概念は研究者ごとに捉え方が異なり, 研究結果の比較を妨げる障害となっている。本稿は, このようなSC概念に関する研究者間の一致・不一致を整理することを目的に, 関連研究のレビューを行った。その結果, 1) SCの概念構造に関して, 階層構造を想定する立場と単層構造を想定する立場があること, 2)一次的コントロール(Primary Control : PC)とSCの関係において, PCとSCと諦めの位置づけおよびPCとSCの区分基準, PCに対するSCの機能性に関する考え方に研究者間の違いがあること, などを見出した。さらに, 3)統制感の維持に焦点を当てる立場と状況との調和に焦点を当てる立場, 4)行動と結果の随伴性認知を必然と捉える立場と偶然と捉える立場, 5)SCの統制主体を自分以外と捉える立場と自分自身と捉える立場, などの考え方の違いにより想定されるSCの機能性が異なることを明らかにし, 今後の課題について考察した。
著者
大西 彩子 黒川 雅幸 吉田 俊和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.324-335, 2009
被引用文献数
12

本研究の目的は, 児童・生徒が教師の日常的な指導態度をどのように捉えているのかということ(教師認知)が, 学級のいじめに否定的な集団規範と, いじめに対する罪悪感の予期を媒介して, 児童・生徒のいじめ加害傾向に与える影響を明らかにすることである。547名(小学生240名, 中学生307名)の児童・生徒を対象に, 教師認知, 学級のいじめに否定的な集団規範, いじめに対する罪悪感予期, いじめ加害傾向を質問紙調査で測定し, 共分散構造分析による仮説モデルの検討を行った。主な結果は以下の通りであった。(1) 学級のいじめに否定的な集団規範といじめに対する罪悪感の予期は, 制裁的いじめ加害傾向と異質性排除・享楽的いじめ加害傾向に負の影響を与えていた。(2) 受容・親近・自信・客観の教師認知は, 学級のいじめに否定的な集団規範といじめに対する罪悪感の予期に正の影響を与えていた。(3) 怖さの教師認知と学級のいじめに否定的な集団規範は, いじめに対する罪悪感に正の影響を与えていた。(4)罰の教師認知は, 制裁的いじめ加害傾向と異質性排除・享楽的いじめ加害傾向に正の影響を与えていた。本研究によって, 教師の受容・親近・自信・客観といった態度が, 学級のいじめに否定的な集団規範といじめに対する罪悪感の予期を媒介して, 児童・生徒の加害傾向を抑制する効果があることが示唆され, いじめを防止する上で教師の果たす役割の重要性が明らかになった。
著者
原田 杏子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.344-355, 2004-09

本研究の目的は, 法律相談を題材として, 「専門的相談がどのように遂行されるのか」を, 実践現場からのデータに基づいて明らかにすることである。データ収集においては, 弁護士及び相談者(クライエント)の同意を得て, 12件の法律相談場面の会話を録音した。データ分析においては, 質的研究法の1つであるグラウンデッド・セオリー・アプローチを用い, 分析の途中段階で法律家によるメンバー・チェックを受けた。分析の結果, 15の弁護士発言カテゴリーが見出され, それらはさらに【I問題共有】【II共鳴】【III判断伝達】【IV説得・対抗】【V理解促進】【VI終了】という6つの上位カテゴリーにまとめられた。分析結果からみるに, 専門的相談は, 問題をめぐる様々な情報を相談者との間で共有し, 専門的立場から判断を伝えることを中心として遂行される。加えて, かかわりの基本的態度としての共鳴, 相談者の不適切な解決目標や思い込みに対する対抗, 相談者の理解を促進する働きかけ, 相談の終了を導く働きかけなどが見出された。法律相談の実践現場から導かれた本研究のカテゴリーは, 既存の援助モデルで十分扱われていない専門的相談の特徴を明らかにしている。
著者
鹿毛 雅治 並木 博
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.36-45, 1990-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
16
被引用文献数
11 19

The purpose of the present study was to investigate the effects of evaluation structure on children's intrinsic motivation and learning. The following three experimental conditions were set up in terms of the mode of feedback given to the pupils: norm-referenced evaluation, criterion-referenced evaluation, and self-evaluation. Each of the three classes of sixth graders was randomly assigned to one of the experimental conditions. The learning material was composed of several pages of programmed sheets. The pupils were given feedback based on the result of tests corresponding to the three experimental conditions. The dependent variables consisted of several measures of intrinsic motivation obtained from behavioral indicators and questionnaires. Results indicated that higher intrinsic motivation was revealed in the criterion-referenced evaluation group than in the normreferenced evaluation group. And the results of a questionnaire showed that increasing pressure was experienced in the norm-referenced evaluation group relative to the criterion-referenced evaluation group. Furthermore, ATI effect was observed between intelligence and the three conditions when perceived competence was used as a dependent variable.
著者
阿部 望 岸田 広平 石川 信一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.64-78, 2021-03-30 (Released:2021-05-01)
参考文献数
39
被引用文献数
4

本研究では,学校の実情に合わせた2つの強み介入を実施し,強み介入が中学生の精神的健康(生活満足度・抑うつ症状)に及ぼす効果について検討することを目的とした。研究1の強み認識・注目介入(自己や他者の強みを認識・注目させる介入)では中学3年生128名が対象であり,研究2の強み認識・注目・活用介入(自己や他者の強みを認識・注目させ,自己の強みを活用させる介入)では中学3年生87名が対象であった。分析の結果,研究1で実施した強み認識・注目介入は,生活満足度の向上に対してのみ効果があることが示唆された。一方,研究2で実施した強み認識・注目・活用介入は,生活満足度の向上と抑うつ症状の低減の両方に対して有効であることが示唆された。次に,効果的な強み介入の構成要素を探るために,介入の構成要素と対応する既存の強み変数の変化と精神的健康の変化の関連について探索的に検討した。その結果,強みの認識と他者の強みへの注目の変化が生活満足度の変化と正の関連を示し,強みの活用感の変化が抑うつ症状の変化と負の関連を示した。これらの結果から,生活満足度を向上させるためには強みの認識と他者の強みへの注目が重要であり,抑うつ症状を低減させるためには強みの活用が重要である可能性が示された。最後に本研究の課題と今後の展望について議論された。
著者
三和 秀平 外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.426-437, 2015 (Released:2016-01-28)
参考文献数
38
被引用文献数
13 5

本研究は, 教師の学習の特徴を踏まえた“教師の教科指導学習動機尺度”を作成しその妥当性および信頼性を検討すること, またその特徴を検討することを目的とした。研究1では教師202名を対象に, 予備調査によって作成された原案54項目を用いて因子分析を行った。その結果, “内発的動機づけ”, “義務感”, “子ども志向”, “無関心”, “承認・比較志向”, “熟達志向”の6因子29項目から構成される教師の教科指導学習動機尺度が作成され内容的な側面の証拠, 構造的な側面の証拠および外的な側面の証拠が一部確認され, 尺度の信頼性も確認された。研究2では現職教師243名および教育実習経験学生362名を対象に, 分散分析により教師の学習動機の違いについて検討した。その結果, 特に現職教師と教育実習経験学生との間に学習動機の差が見られ, 教育実習経験学生は“承認比較志向”が高いことが示された。研究3では教師157名を対象に, 教師の学習動機とワークエンゲイジメントとの関係について重回帰分析により検討した。その結果, 特に“内発的動機づけ”, “子ども志向”, “承認・比較志向”がワークエンゲイジメントと正の関連があることが示された。
著者
中邑 幾太
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-1,10, 1969-10-15 (Released:2013-02-19)
参考文献数
7

Generally speaking, there are two aspects in the judgment of the scale value of attitude. The one is that in which the scale values are judged in terms of agreement with the statements of attitude, and the other is that in which they are judged in terms of opposition to the statements. L. L. Thurstone has pointed out the reliability of the experimental scale value S dependent on agreement with the statements of attitude, but the present writer has been thinking that the attitude measurement in terms of the experimental scale value S' dependent on the opposition to the statements would be none the less effective, and that for that reason it may be of great necessity to find out a new formula which is able to measure the attitude in terms of the continuous variable which has both directions mentioned above. The attitude score L by R. Likert, though without any scientific and statistical foundations, has been relatively valid and reliable scoring on the basis of the attitude continuum with both directions of agreement and opposition.The present writer has experimentally examined the validity and reliability of such attitude indices as S, S', L, S-S' and S/S', and found out that S-S' is the most valid and reliable of them all. However, it must be admitted that S-S' is not free from some defects as its calculation is very complex and the opinions selected in its scale are quite few.In order to correct these defects, the present writer thought it best to apply S, S', and S-S' to the attitude scale measured by Thurstone's method of apparently equal intervals. Based on the experimental results, the present writer has concluded that Sr-S'r is the most valid and effective of, all these subjective rating scale values, Sr, Sir and Sr-S'r, measured by the method of apparently equal intervals.When examined statistically, S-S' has a significant difference. Such significant differences, existing not only in the area of attitude measurement but also in the form of perceptional judgment, necessarily call for further psychological investigations and interpretations.
著者
濱口 佳和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.248-264, 2017
被引用文献数
5

本研究は自記式能動的・反応的攻撃性尺度(大学生用: SPRAS-U)を作成し, 因子構造, 信頼性, 妥当性を検討するとともに, 身体的攻撃, 言語的攻撃, 関係性攻撃との関連を明らかにすることが目的とされた。SPRAS-U原版は, 能動的攻撃性として他者支配欲求, 攻撃有能感, 攻撃肯定評価, 欲求固執, 反応的攻撃性として, 易怒性, 怒り持続性, 怒り強度, 報復意図, 外責的認知の合計9下位尺度, 合計75項目から構成された。1短大・5大学の学生616名(男子294名, 女子322名)から妥当性検討の尺度が異なる2種類の質問紙に対する回答を得た。因子分析の結果, 想定された9因子が得られ, α係数による信頼性は7下位尺度で.70以上の値を示し, 概ね使用可能な範囲にあった。反応的攻撃性の下位尺度の殆どがBAQの敵意や怒り喚起・持続性尺度, FASの報復心と中程度以上の正の有意相関が見られ, 能動的攻撃性の各下位尺度は一次性サイコパシー尺度やFASの支配性と中程度の正の有意相関を, 共感性とは負の有意相関を示し, 併存的妥当性が実証された。重回帰分析の結果, 身体的攻撃は主に反応的攻撃性と, 言語的攻撃は主に能動的攻撃性と, 関係性攻撃は能動的・反応的両攻撃性の下位尺度と有意な関連を示した。