著者
高橋 祐輔 三島 修 北野 司久 三澤 賢治 牛山 俊樹
出版者
一般社団法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.435-439, 2013-05-15 (Released:2013-06-04)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

胸腔ドレーン抜去時には,創部を結紮したりフィルム剤を貼付したりと施設により方法は様々である.当院では胸腔ドレーン抜去時に縫合はせず,ハイドロコロイドドレッシングであるカラヤヘッシブTM(以下:カラヤ)を貼付しており,簡便で低侵襲であり創傷治癒の面から有用であると思われるため報告する.2010年1月から2011年10月まで当院呼吸器外科で手術を行い胸腔ドレーンを挿入した181人を対象とした.ドレーン抜去後にカラヤの交換が必要だった症例は9例であった.ドレーン抜去後に浸出液が多く創部を縫合閉鎖した症例が1例あった.再挿入は2例であったが,抜去の手技に問題はなく時期に問題があると思われた.以上の結果から,ほとんどの症例で,抜去に伴う問題はなく,当院におけるドレーン抜去の工夫は有用であると思われた.
著者
伊坂 哲哉 高橋 航 前原 孝光 益田 宗孝
出版者
一般社団法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.420-426, 2014-05-15 (Released:2014-06-13)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

鈍的外傷による外傷性気胸の経過観察中もしくはドレナージ療法後に遅発性外傷性気胸(LTP)を発症することが知られている.今回LTPのリスク因子を検討した.2006年11月1日~2012年12月31日に横浜労災病院で治療を行った鈍的外傷による外傷性気胸患者58人,61病変をLTP群と非LTP群に分けて患者背景および臨床背景を比較検討した.今回検討した肺嚢胞とは気腫性肺嚢胞および外傷性肺嚢胞とした.胸部CTにて,肺嚢胞は10病変(16.4%)検出された.LTPは7病変(11.5%)で発症した.単変量解析および多変量解析にて肺嚢胞の存在がLTPの独立したリスク因子だった.外傷性気胸の気胸側に肺嚢胞を有する場合LTPを念頭に厳密なフォローを要することが考えられた.
著者
岩井 俊 山形 愛可 関村 敦 本野 望 薄田 勝男 浦本 秀隆
出版者
一般社団法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.37-43, 2021-01-15 (Released:2021-01-15)
参考文献数
14

肺癌手術における偶発症として迷走神経反射や胸腔内温蒸留水による心機能異常は稀に認められる.しかし,術中の偶発的な心停止はその頻度,機序や患者背景などについての報告は認められない.今回,我々は術中に心臓への機械的圧迫や,破滅的な大出血を来たしていないにもかかわらず,突然心停止を来たした症例を4例経験した.1例は縦隔リンパ節郭清中に,3例は胸腔内の温蒸留水による洗浄中に心停止に至っていた.いずれの4症例も用手的な心臓圧迫や自然な自己心拍の再開などにより,停止時間は2分以内であり,術後に重篤な合併症,後遺症を来たすことはなかった.ただし,1例のみ,術後7日目に脳梗塞を来たした.しかし,脳梗塞はヘパリン投与により改善し,後遺症を残さなかった.術中の偶発的な心停止は胸腔内洗浄でも起こりうるが,麻酔科などと適切に対応することで重篤な合併症や後遺症を残すことなく,良好な経過を導き得る.
著者
林 龍也 重松 久之 坂尾 伸彦 杉本 龍士郎 岡崎 幹生 佐野 由文
出版者
一般社団法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.27-31, 2021-01-15 (Released:2021-01-15)
参考文献数
14

転移性肺腫瘍による続発性気胸は時に経験されるが,その原発腫瘍としては肉腫,特に骨肉腫による報告が多い.今回,骨肉腫の治療終了後,気胸の発症を契機に骨肉腫の肺転移を診断し,その後全身化学療法を施行して無再発生存を得ている症例を経験したので報告する.症例は14歳の男性で,左脛骨原発の骨肉腫と診断され,腫瘍広範切除術と人工関節置換術が施行された.術後化学療法が行われ,治療終了約6ヵ月後に右自然気胸となった.画像上,肺転移巣を疑う陰影は認めなかったが,右上葉胸膜直下に5 mm大の囊胞を認めた.術中同部位からの気漏を確認し,肺部分切除術を施行した.組織学的に骨肉腫の肺転移であり,胸膜直下の転移巣による胸膜の破綻が気胸の原因であると考えられた.骨肉腫の既往や治療後経過観察中に気胸を発症した場合は,骨肉腫の肺転移を疑い,診断と治療を兼ねた外科切除が有用であると考えられた.
著者
三品 善之 野間 大督 禹 哲漢
出版者
一般社団法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.160-166, 2023-05-15 (Released:2023-05-15)
参考文献数
21

近年,基礎疾患をもたない膿胸患者の報告が散見され,一部に口腔内常在細菌の関与が指摘されている.本稿は2012年から2022年の10年間に当院で急性膿胸に対し胸腔鏡下膿胸腔掻爬術を施行した31例を対象とし,特にその要因として歯性感染症に注目して臨床・細菌学的因子について後方視的に集計,検討した.31例の内,口腔内感染症に起因すると考えられる症例は7例(22.6%)であり,既報告の12.0~33.3%と概ね同等であった.これらの症例はいずれも糖尿病やステロイド内服の既往は無く,齲歯や重度の歯周炎を放置している症例が目立った.急性膿胸の一因として歯性感染症が一定の割合を占めており,口腔衛生環境を含めた病歴の聴取,口腔ケアの重要性について改めて認識すると共に,日常生活から予防の実践,啓蒙に努めることが重要であると考える.
著者
石田 裕人 岡見 次郎 須﨑 剛行 楠 貴志 徳永 俊照 東山 聖彦
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.172-175, 2021-03-15 (Released:2021-03-15)
参考文献数
8

症例は61歳男性,右中葉肺癌に対して右中葉切除術を行った.術中にタコシールⓇを2回使用し,1回目は上肺静脈に約1 cm2使用し,2回目は1時間後に肺瘻修復と先程の上肺静脈の追加補強のために約22 cm2使用した.その約10分後に,収縮期血圧が40 mmHg台まで急激に低下し,昇圧剤投与にも反応乏しく,血圧低値が続いた.術野に明らかな出血はなく,患者の顔面や頸部,上腕に紅潮・膨隆疹を認めたため,アナフィラキシーショックと判断した.タコシールⓇが原因である可能性を疑い,全てのタコシールⓇを除去し,生理食塩水で貼付部を洗浄した.約10分後に血圧は改善し,昇圧剤への反応は良好であった.後日,リンパ球刺激試験(DLST)を行い,2回目で陽性判定となったため,タコシールⓇによるアナフィラキシーショックと診断した.タコシールⓇによるアナフィラキシーショックは非常に稀であり,注意喚起も含めて報告する.
著者
近藤 泰人 玉川 達 園田 大 松井 啓夫 塩見 和 佐藤 之俊
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.12-20, 2019-01-15 (Released:2019-01-15)
参考文献数
26

抗リン脂質抗体症候群(APS)は,動静脈血栓症を伴う自己免疫疾患である.APS合併肺癌は稀で,その意義は明らかでない.【症例1】75歳女性.検診で血小板低値を認め,精査でAPSと診断された.胸部CTで右下葉に103 mm大の腫瘤影と#7リンパ節腫大を認めた.精査で扁平上皮癌(SCC)と診断され,右下葉切除術を行った.入院時に血小板低値を認めた.術前,術中に血小板輸血を行い,合併症なく退院した.【症例2】66歳男性.副甲状腺腺腫精査のMIBGシンチグラフィーで左S6に31 mm大の腫瘤影を認めた.精査でSCCと診断され,左下葉切除術を行った.入院時に血小板低値と凝固時間延長を認めた.既往歴にAPSと心房細動があり,バイアスピリンとワルファリンを内服していた.術前に同薬剤を休薬し,未分画ヘパリンを投与し,合併症なく退院した.APS合併肺癌の外科的治療には慎重な周術期管理を要すると考える.

1 0 0 0 OA 食道破裂の3例

著者
法華 大助 良河 光一 森本 真人 上村 亮介
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.100-102, 2011-01-15 (Released:2011-04-27)
参考文献数
7

2009~2010年の1年間に,特発性食道破裂2例と異物性食道破裂1例を経験した.全症例でドレナージおよび破裂部縫合閉鎖術が施行されたが,症例1は発症8時間後に手術,症例2は発症4日目に胸腔ドレーン挿入,症例3は発症7日目に手術が施行された.症例1,2は術後経過良好であったが,症例3は術後10日目に大動脈破裂で死亡した.食道破裂は致死的合併症を起こしうる疾患であるが,発症からの経過が短いほど治療成績は良いとされており,発症後できるだけ早期に診断し対処することが重要である.
著者
西川 敏雄 村松 友義 松三 彰 井上 文之
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.92-96, 2008-01-15 (Released:2008-12-03)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

稀な真菌症である肺ヒストプラズマ症と診断された1例を経験したので報告する.症例は47歳,男性.検診にて胸部異常影を指摘され当院初診となった.右S9に10mm大の腫瘤を認めた.気管支鏡検査にてclass IIであり,また経過観察にて腫瘤の大きさ,性状とも変化を認めなかったが,肺癌の可能性も否定できなかったため手術を施行した.部分切除を行い,術中迅速病理検査にて悪性所見なしとのことであった.術後病理検査では当初クリプトコッカス症が疑われたが,抗体による免疫染色の結果では否定的であり,形態および遺伝子解析の結果よりヒストプラズマ症との診断であった.ヒストプラズマ症は国内での感染例は稀で報告例のほとんどは輸入感染症としてのものである.本症例は海外渡航歴はなく,国内での感染例である可能性もあるが,今後輸入感染症として増加することも考えられ,本疾患も念頭においた鑑別および治療が重要であると考えられた.
著者
川野 亮二 高橋 保博 小林 零 永山 加奈 北原 佳奈
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.171-177, 2020-03-15 (Released:2020-03-15)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

肺癌手術後に脳梗塞を発症した左肺上葉切除例2例と左肺下葉切除例1例を経験した.この内2例は脳血管内治療の適応となり治療後,身体所見の著明な改善を認めた一方で,1例は既に広範な領域の脳梗塞のために積極的治療の対象とならず予後不良の転帰をとった.近年,肺葉切除後に発生する脳梗塞は肺静脈断端部に発生した血栓に起因する可能性が高いことが報告され,特に左上肺静脈切離例にその頻度が有意に高いことが示された.本症例は肺静脈断端部の血栓の証明は得られていないが,左側の肺葉切除例であることや臨床所見などからいずれも肺静脈断端部に形成された血栓による脳梗塞の可能性が高いと考えた.脳梗塞急性期の治療は適応があれば脳血管内治療がきわめて有用な方法であるが,未だ施行可能な施設は限られる.肺静脈断端血栓の予防は外科手技的に困難と考えられる現状から,左肺腫瘍の葉切除例では術後抗凝固療法の施行を検討する必要がある.
著者
調枝 治樹 大越 祐介 竹尾 正彦
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.205-209, 2022-03-15 (Released:2022-03-15)
参考文献数
10

症例は79歳,男性.X年にCOVID-19に罹患し当院で入院加療を行い,第13病日に自宅退院となった.退院1週間後に右気胸を発症して,当院呼吸器内科でドレナージ治療が開始された.再入院後1週間でMRSA膿胸を併発し有瘻性膿胸として当科紹介となった.air leakは少量で発症早期の膿胸であることから胸腔鏡下肺瘻閉鎖術+胸腔内洗浄ドレナージ術を施行する方針としたが術中に肺瘻箇所の同定が出来なかったため,0.1%ピオクタニンⓇ水溶液を用いた洗浄を行って手術を終了した.術後はMRSAの浄化は得られたが,少量のair leakの遷延があったため癒着療法を3回施行した.肺瘻閉鎖が得られたため胸腔ドレーンを抜去し,術後26日目に自宅退院となった.COVID-19関連の気胸は軽快後も発症する可能性があり,易感染状態であれば膿胸を併発するリスクもあるため,適切な治療介入が必要であると考えられる.
著者
渡 正伸 片山 達也
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.626-630, 2006-05-15 (Released:2017-03-29)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

肺癌術後に健側肺のみに出現した急性肺障害のため術後ARDSに陥った症例を経験した.肺癌術後にALIやARDS等の急性肺障害を発症する場合,その多くは術前から肺に線維性変化が認められることが多く,術後急性増悪として理解されている.術後急性増悪によるARDS症例では通常,肺障害は両側性に現れるが,自験例では手術操作を加えていない健側肺にだけ認められた.なぜ手術操作を加えていない健側肺にのみ急性肺障害が生じたのか原因不明である.術中片肺換気におけるdepending lungであるためventilator-induced lung injuryの関与が疑われるが推論の域を出ない.過去に健側肺のみに生じた肺癌術後急性肺障害に焦点をおいた報告はなく,急性肺障害発症のメカニズムを探求する上でも貴重な症例と考え報告する.
著者
宮内 俊策 牧 佑歩 上野 剛 杉本 龍士郎 山下 素弘 高畑 浩之
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.598-603, 2017-07-15 (Released:2017-07-15)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

CT上,肺切除後のステープルラインにconsolidationを認める症例はしばしば経験する.今回,肺癌術後のステープルラインに増大する結節影を認め,切除を行った症例を経験したので報告する.症例1は77歳,男性.66歳時に右中葉,下葉肺癌に対して右中葉切除術,下葉部分切除術施行し,pStage IAの腺癌であった.経過観察中に右下葉S6のステープル近傍に結節影が出現し,経過のCTで増大傾向を認めたため右開胸S6区域切除術施行し,術後病理診断では炎症性変化の診断であった.症例2は66歳,男性.62歳時に左上葉肺癌に対して左上区域切除術施行し,pStage IAの腺癌であった.経過観察中に左肺門部に結節影が出現したため残存舌区域切除術施行し,術後病理診断では非結核性抗酸菌症の診断であった.本症例のような病態はステープル使用に伴う合併症として認識すべきである.
著者
土田 浩之 棚橋 雅幸 鈴木 恵理子 吉井 直子 渡邊 拓弥 千馬 謙亮 喚田 祥吾 井口 拳輔 内山 粹葉
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.116-121, 2021-03-15 (Released:2021-03-15)
参考文献数
13

過去13年間において当院で手術加療した特発性血気胸15例について臨床的特徴を検討した.診断から手術までの平均時間は28.3時間(2-87時間).手術アプローチは小開胸を併用した胸腔鏡下手術13例,3PORTの胸腔鏡下手術2例であった.全例で胸腔頂部壁側胸膜の血管が出血源と同定でき,5例で複数ヵ所から出血を認めた.総出血量は平均1,298 mL(200-2,670 mL)で4例に輸血を要し,うち2例は術前にショック症状を呈していた.術後胸腔ドレーン留置期間は平均3.1日(2-7日)で,術後平均在院日数は5.4日(3-8日)であった.特発性血気胸は出血性ショックのリスクが高く緊急手術の適応と考えられ,手術の際は詳細な胸腔内観察が重要である.
著者
大角 明宏 寺西 潔 北村 将司 長澤 みゆき 神頭 徹
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.22, no.7, pp.1080-1083, 2008-11-15 (Released:2009-06-04)
参考文献数
16
被引用文献数
4 3

非常に稀な肺原発の腫瘍である淡明細胞腫の1例を経験した.症例は60歳の女性で,検診で胸部異常陰影を指摘された.診断および治療目的で胸腔鏡下右肺部分切除を行った.病理所見では,淡明な胞体を有する細胞が胞巣状に密に増殖し,間質には毛細血管が増生し,類洞様血管に囲まれていた.特殊染色はPAS陽性,免疫染色ではMelan A陽性であり,淡明細胞腫と診断した.病理学的には腎の淡明細胞癌の転移も完全には否定できなかったが,腹部CT上明らかな腎病変がないことから肺原発の淡明細胞腫と考えられた.
著者
蜂須賀 康己 藤岡 真治 魚本 昌志
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.633-638, 2022-09-15 (Released:2022-09-15)
参考文献数
12

症例は48歳,男性.健康診断の胸部単純X線写真で異常影を指摘され当院を受診した.造影CTで左後縦隔に被膜を有する5.5×5.3×5.0 cmの腫瘤を認めた.良性囊胞性腫瘍を疑い切除術を行った.術中所見で腫瘍は胸腔内迷走神経由来であった.病理検査の結果,高度な囊胞変性を伴ったancient schwannomaと診断した.迷走神経由来の後縦隔ancient schwannomaのまれな1例を経験した.
著者
戸田 洋 木村 愛彦
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.627-632, 2022-09-15 (Released:2022-09-15)
参考文献数
13

症例は56歳,女性.喘鳴と右胸背部痛を主訴に前医を受診し,胸部単純X線検査で大量の右胸水を認めたため,持続胸腔ドレナージが開始された後,当院へ転院した.胸部CT検査では右胸腔内に不整に造影される長径9 cm大の腫瘍を認め原発性肺癌が疑われたが,胸水細胞診では悪性所見は得られなかった.腫瘍マーカーの上昇は認めなかったが,胸水中アミラーゼ値が異常高値であったため,アミラーゼ産生肺癌などを念頭に置き,診断目的に手術を施行した.胸腔内は強固に癒着していたものの,剥離を進めると前縦隔から右胸腔内に有茎性に発育する,充実成分と囊胞成分が混在した腫瘍を認め,肉眼的に完全切除を行った.術中迅速診と永久標本の病理組織学的所見は,いずれも成熟奇形腫の診断であった.胸腔内に穿破した成熟奇形腫の報告は多いが,胸腔内に有茎性に発育し穿破した症例は検索し得ず,非常に稀な症例と考えられた.
著者
原田 柚子 今井 一博 髙嶋 祉之具 中 麻衣子 松尾 翼 南谷 佳弘
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.621-626, 2022-09-15 (Released:2022-09-15)
参考文献数
16

区域切除はIA期の非小細胞肺癌(NSCLC)に対する標準的治療の一つであるが,根治を目的として区域切除を行う際は適切なリンパ節転移の評価と,切除断端の確保が必須である.本研究の目的は,術中判断で区域切除から肺葉切除に移行した症例の頻度と理由,予後を検討することである.当院で2014年から2020年までに臨床病期IA期のNSCLCに対して区域切除が予定された121名の転帰を検討した.121例中8例が術中診断と術者の判断により区域切除から葉切除に変更されていた.4例が術中迅速診断でリンパ節転移陽性の診断,4例は手術手技に関する問題が変更の主な要因となっていた.リンパ節転移の評価には迅速免疫組織化学染色も併用した.区域切除を完遂した患者(n=113)と肺葉切除術に変更した患者(n=8)の間で,全生存期間に有意差はなかった(P=0.5828).適切な術中の判断がなされれば,術前に区域切除の適応と考えられた症例のうち,肺葉切除すべき症例を発見することができる.
著者
平井 恭二 竹内 千枝 揖斐 孝之 臼田 実男
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.428-434, 2015-05-15 (Released:2015-05-26)
参考文献数
10

開胸術または胸腔鏡下手術後の創部痛では肋間神経障害性疼痛がみられ,その症状は退院後も遷延することより治療には難渋することがある.今回,呼吸器外科術後で創部に発生した神経障害性疼痛要素を含む創部痛に対するプレガバリンとロキソプロフェンの併用効果についての検討を行った.Visual analogue scale:VAS, Numerical rating scale:NRSの疼痛スコアを使用して開胸手術群と胸腔鏡手術群に対して後ろ向きに比較検討を行った.経時的な開胸手術群,胸腔鏡手術群ともにプレガバリン併用群の方がVAS, NRSともに低下しており,各々のVAS, NRSの低下率でも有意に上回っていた.呼吸器外科手術後の創部痛は神経障害性疼痛が混在することが多く,プレガバリンとロキソプロフェンの投与はその症状緩和に寄与する可能性が示唆された.
著者
工藤 智司 出口 博之 友安 信 重枝 弥 兼古 由香 吉村 竜一 菅野 紘暢 齊藤 元
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.614-620, 2022-09-15 (Released:2022-09-15)
参考文献数
16

自然気胸患者におけるPS(Performance Status of Spontaneous Pneumothorax:PSSP)を新たに提案した上で,続発性自然気胸の術後合併症予測因子に関して検討した.2015年1月1日から2021年5月31日の期間に,当院で手術を行った続発性自然気胸患者に対し統計解析を行った.164例のうち,術後合併症は37例,術後死亡は3例であった.PSSP(0/1/2/3/4)の合併症率は0/8.6/27.3/56.3/66.7%,死亡率は0/0/0/6.3/33.3%であった.術後合併症の独立した危険因子として,PSSP(3-4),BMI(<16),血清アルブミン値(<3.5)に有意差を認めた.PSSP:3以上,低BMI,低アルブミンの患者で,術後合併症率が有意に高いことが示唆された.