著者
尾崎 良智 井上 修平 藤野 昇三 紺谷 桂一 澤井 聡 鈴村 雄治 花岡 淳 藤田 美奈子 鹿島 祥隆 古川 幸穂
出版者
The Japanese Association for Chest Surgery
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.14, no.6, pp.726-730, 2000-09-15 (Released:2010-06-28)
参考文献数
14
被引用文献数
3 2

入院中に喀毛症 (trichoptysis) を認め, 左上葉気管支と交通のあった縦隔奇形腫の1手術例を経験した.症例は36歳, 女性.1995年6月の検診で左上肺野に異常陰影を指摘され, 血疾が出現したため当科に入院した.入院中に喀毛をきたし, 縦隔成熟型奇形腫の気道内穿破と診断された.同年7月に縦隔腫瘍摘出および左上区切除術を行った.切除標本で腫瘍は左B3気管支に穿破していた.縦隔成熟型奇形腫は比較的高頻度に隣接臓器, 特に肺・気管支への穿孔をきたすが, 画像診断が進歩した現在では, 喀毛症により診断される例は極めてまれである.穿孔する原因としては腫瘍内の膵, 腸管組織による自家消化作用が注目されているが, 本症例では, 膵, 腸管組織は認められず, 腫瘍内容物の増大に伴う嚢胞内圧の上昇と周囲組織との炎症性癒着が穿孔の主たる原因と考えられた.
著者
楫山 健太 眞鍋 堯彦 佐古 達彦 花桐 武志
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.541-546, 2022-07-15 (Released:2022-07-15)
参考文献数
16

症例は72歳男性.咳嗽,左前胸部痛を主訴に当院を受診した.来院時の胸部CTにて左胸腔内に巨大腫瘤が認められ,腫瘤による縦隔偏位および左肺気管支の圧排による無気肺が認められた.エコーガイド下に針生検を施行し,組織診断の結果,脱分化型脂肪肉腫が疑われた.手術は胸腔鏡下に開始し,腫瘤を摘出する際に左第4肋間開胸を施行した.術中所見では腫瘍は前縦隔より発生しており,左肺および胸壁などの周囲組織への浸潤は認められなかった.病理学的精査の結果は脱分化型脂肪肉腫の診断であった.今回われわれは前縦隔に発生した巨大腫瘤を呈した脱分化型脂肪肉腫の切除例を経験した.腫瘍切除に際して,腫瘍が巨大であるため通常開胸では視野確保が困難であり,胸腔鏡下操作が有用であった一例と考えられた.
著者
梅田 将志 三竿 貴彦 妹尾 知哉 鹿谷 芳伸 青江 基 中村 聡子
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.531-535, 2022-07-15 (Released:2022-07-15)
参考文献数
23

胸腺リンパ上皮腫様癌は,胸腺癌の一亜型に分類され,未分化型上咽頭癌であるリンパ上皮腫癌に類似した病理組織像を有している.国際胸腺悪性腫瘍研究会は,胸腺リンパ上皮腫様癌は胸腺癌全体の6%程度と稀であると報告している.今回我々は,胸腺リンパ上皮腫様癌に対して外科的切除および術後放射線療法を施行した一例を経験したので,文献的考察を加えて臨床像について報告する.症例は68歳,男性.検診の胸部CT検査にて前縦隔に10 mm大の小結節影を認め,精査加療目的に当科紹介となった.前縦隔の小結節影は緩徐に増大傾向を示したため,正岡I期の胸腺腫疑いで左胸腔鏡下胸腺部分切除術を施行した.病理組織検査では,胸腺原発のリンパ上皮腫様癌であると診断された.術後は放射線照射療法を施行し,術後37ヵ月現在,無再発生存中である.
著者
竹野 巨樹 井上 玲 飯村 泰昭 寺村 一裕
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.536-540, 2022-07-15 (Released:2022-07-15)
参考文献数
9

肺動静脈奇形は遺伝性出血性毛細血管拡張症に合併することが多い疾患であり,治療はコイルやプラグを用いた塞栓術が第一選択である.コイルの胸腔内穿破や膿胸といった合併症はこれまでに報告がない.症例は20歳代女性.遺伝性出血性毛細血管拡張症の既往があり,5年前に他院で右S10の肺動静脈奇形に対しコイル塞栓術を施行された.今回胸痛にて当院救急外来を受診,1度の右気胸を認め経過観察入院となった.入院後,炎症反応の上昇とともに胸水の貯留を認めた.局麻胸腔鏡検査を施行し,膿胸に加え臓側胸膜からコイルの露出を認めた.コイルの胸腔内穿破による膿胸と診断し,胸腔鏡下膿胸腔掻爬術を施行,コイル露出部位を縫合閉鎖した.術後も少量の血痰が持続し,術後3ヵ月のCTでコイル周囲に囊胞状病変を認め,気道との交通が疑われた.そのため約半年後に二期的に右下葉切除を施行した.右下葉切除後,症状再燃なく経過は良好だった.
著者
塩野 裕之 桑原 修 前田 元 太田 三徳 宮崎 実
出版者
The Japanese Association for Chest Surgery
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.8, no.7, pp.773-778, 1994-11-15 (Released:2009-11-10)
参考文献数
10

国立療養所刀根山病院外科において縦隔郭清を伴う肺癌切除術 (以下, 肺癌切除術) 後の乳糜胸を10年間で8例経験した.4例は保存的に治癒したが, 残る4例は再開胸術を要した.後者では再開胸術前に脂肪を経口投与することにより, 胸管損傷部位が明らかとなった.そこで術後乳糜胸予防を目的として, 麻酔導入時に経鼻胃管より脂肪 (牛乳) を注入し, 胸管の流量を増加させ, 縦隔郭清時および術野洗浄時に胸管と乳糜瘻が容易に視認できるようにした.最近14ヵ月間の肺癌切除症例55例全例に対してこの方法を併用したところ, 術後乳糜胸の発症は認めず, また注入に伴う合併症はなく, 乳糜胸予防に有効と思われた.
著者
木村 亨 船越 康信 竹内 幸康 野尻 崇 前田 元
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.120-125, 2009-03-15 (Released:2009-12-14)
参考文献数
25
被引用文献数
3 3

1998年1月から2008年5月までに非小細胞肺癌に対して縦隔リンパ節郭清を伴う肺葉切除または肺全摘を施行した782例のうち,術後乳糜胸を来たした17例(2.2%)を対象とし,乳糜胸の診断,治療方法等につきretrospectiveに検討を行った.6例(35%)は脂肪制限食(A群),8例(47%)は絶食・高カロリー輸液(B群)で治癒したが,3例(18%)は胸管結紮術(C群)を必要とした.術後ドレーン排液量は術後5日間すべてC群で有意に多かった.脂肪制限解除時期(10.1±4.1日vs15.8±10.1日vs21.3±21.4日)はC群で遅く,ドレーン抜去時期(8.7±4.6日vs18.9±11.0日vs12.3±1.5日)と退院時期(28.1±9.9日vs43.8±17.6日vs77.0±66.3日)はA群で早い傾向にあった.術後乳糜胸は発生予防に留意するとともに,保存的治療にもかかわらず1000ml/日以上の排液が持続する場合は速やかな胸管結紮術を考慮すべきと考えられた.
著者
平井 慶充 吉増 達也 内藤 古真 宮坂 美和子 岡村 吉隆 中村 靖司
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.832-835, 2010

52歳男性,2002年に検診で胸部異常陰影を指摘された.近医を受診し,CTで右S1に1cmのすりガラス状陰影を認めたが,気管支鏡で診断がつかず経過観察とされていた.その後増大傾向を認めなかったが,2008年の胸部CTで,胸膜陥入像を伴う1.5cmの結節へと増大傾向を認めたため当科紹介となった.CTでは一部に充実成分を伴うすりガラス状陰影であり,PET-CTで同部位にSUV max 1.06の弱い集積を認めた.高分化型腺癌の可能性が高いとし手術を施行した.胸腔鏡下部分切除術を施行し,術中迅速病理診断でadenocarcinomaの診断であった為,右上葉切除術+縦隔リンパ節郭清を施行した.術後病理診断で,Noguchi B typeの腺癌の内部に一部充実成分を含み,免疫組織化学染色では,EMA(+/-),vimentin(+),PgR(+),またNCAM(+),synaptophysin(+/-),chromogranin A(-),CD34(-),α-SMA(-),factor VIII(-)であった.以上より同部位はminute pulmonary meningothelial-like nodules(MPMNs)と診断された.術後経過は良好であり,術後1週間で退院となった.【考察】MPMNsは剖検例や切除肺に偶然見つかる微小病変であり,報告例も少なく不明な点が多い.しかし近年画像診断の進歩に伴いGGOを呈する腺癌や腺癌の肺内転移との鑑別が問題になることがある.また肺悪性腫瘍,特に肺腺癌との合併やMPMNsのLOHの報告もあり,背景肺の変異の蓄積によるgenomic instabilityが腺癌発生と共通した要因である可能性がある.
著者
藤原 和歌子 髙木 雄三 松岡 佑樹 前田 啓之
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.108-114, 2022-03-15 (Released:2022-03-15)
参考文献数
26

縦隔リンパ節転移を伴った硬化性肺胞上皮腫の1例を報告する.症例は44歳女性.検診異常精査のCTで右下葉S7に25 mm大の境界明瞭な円形結節影を指摘され,CTガイド下生検にて非小細胞肺癌と診断された.PET-CTで原発巣に集積があるも,肺門縦隔リンパ節には明らかな集積は認めなかった.右下葉肺癌cT1cN0M0 Stage IA3の診断で,胸腔鏡下右下葉切除+ND2a-1を行った.永久病理標本にて硬化性肺胞上皮腫及び気管分岐下リンパ節転移と診断された.硬化性肺胞上皮腫は肺良性腫瘍として扱われているが,リンパ節転移や再発例が稀にみられ,低悪性度腫瘍としての性質を持つものと考えられている.外科的切除が治療の第一選択であるが,その切除範囲については定まっていない.切除例の予後は良好で,リンパ節転移も予後不良因子ではないとされるが,本腫瘍の生物学的な特徴については不明な部分も多く,慎重な経過観察が必要と考える.
著者
坂井 貴志 青景 圭樹 三好 智裕 松原 伸晃 石井 源一郎 関原 圭吾 菱田 智之 吉田 純司 坪井 正博
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.3-7, 2017-01-15 (Released:2017-01-15)
参考文献数
10

背景:縦隔原発非セミノーマ胚細胞腫瘍(non-seminomatous germ cell tumor:NSGCT)の治療は化学療法が第一選択であり,手術は通常,腫瘍マーカーが正常化した症例における残存病変に対して行われる.一方,正常化が得られない場合にも手術が施行されることがあるが,その治療成績,予後は明らかにされていない.対象:2008年8月から2013年2月までに当院で施行されたNSGCTに対する手術症例7例.結果:AFPは初診時全例で高値,化学療法後正常化せず手術に臨んだ症例は3例であった.そのうちviable cellの遺残を認めた1例で術後再発があり原病死しているが,他2例においては無再発生存が得られている.結語:縦隔原発NSGCTでは,化学療法後にAFPが正常化しなくても大幅な減少が得られれば,残存病変切除により長期生存を期待できる症例がある.
著者
大石 久 星川 康 岡田 克典 佐渡 哲 鈴木 聡 松村 輔二 近藤 丘
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.768-772, 2006-07-15 (Released:2008-03-11)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

血清(1→3)-β-D-グルカン値の測定による深在性真菌症の血清学的診断は,広く利用されているが,その測定値は真菌症以外の種々の因子による影響を受け,偽陽性を示すことがある.我々は肺リンパ脈管筋腫症の患者に対し,脳死両側肺移植術を施行した.術翌日の血清(1→3)-β-D-グルカン値は2964 pg/mlと異常高値を示した.原因を検討した結果,術中の人工心肺中のポンプ吸引使用により,ガーゼに浸み込んだ血液が体内へ送血されたことが原因である可能性が疑われた.それを踏まえ,我々は生理食塩水とガーゼを使用した(1→3)-β-D-グルカン値の実験的測定を行ったところ,ガーゼから生理食塩水への(1→3)-β-D-グルカン成分の溶出を示唆する結果を得た.ガーゼの大量使用,および人工心肺中にポンプ吸引を行った症例では血清(1→3)-β-D-グルカン値の異常高値を示す可能性があり,注意を要すると考えられた.
著者
中川 拓 今野 隼人 佐々木 智彦 大山 倫男 伊藤 学 齋藤 元 南谷 佳弘 小川 純一
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.733-741, 2010-05-15 (Released:2010-08-09)
参考文献数
14
被引用文献数
1

フィブリンの析出のためにドレナージが困難となった急性膿胸および肺炎随伴性胸水に対して,胸腔鏡下の手術奏功例が多数報告されているが,全身状態が不良で手術困難な場合も少なくない.このような症例に対してウロキナーゼの胸腔内投与の有用性が報告されている.しかし標準的な投与方法は確立していない.当科でウロキナーゼの投与を行った急性膿胸および肺炎随伴性胸水5例を対象に,ウロキナーゼ投与方法,治療期間,効果を中心にretrospectiveに検討した.全例で多房性胸水を認めていた.4例は発症後1~16日の経過で,ウロキナーゼ投与(1回12万単位,6~9回投与)のみで肺の良好な再膨張が見られた.ウロキナーゼ注入に加えて外科治療を要した1例は,発症から1ヵ月経過した膿胸で,手術後治癒した.出血などの合併症はなかった.ウロキナーゼの胸腔内投与は簡便であり大きな合併症もなく,poor risk症例に対して考慮すべき治療法と思われた.
著者
樋口 光徳 郡司 崇志 鈴木 弘行 櫛田 正男 矢内 康一 管野 隆三 大石 明雄 薄場 彰 井上 仁 元木 良一
出版者
The Japanese Association for Chest Surgery
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.34-39, 1997-01-15 (Released:2009-11-10)
参考文献数
28
被引用文献数
4 2

検診で胸部異常陰影を指摘され原発性結節性肺アミロイドーシスと診断された48歳の男性を経験したので報告する。胸部X線写真およびCT上, 両側肺に石灰化を伴う多発性の結節影 (2~20mm) を認めた.術前, 気管支鏡下検査で確定診断が得られず, 胸腔鏡下に最も大きな左肺S9の腫瘍 (20×18×15mm) を切除した.組織学的検索でAA型アミロイドーシスであることが判明した。術後の全身検索では他臓器にアミロイドの沈着を認めず, 原発性肺アミロイドーシスと診断した.退院後16ヵ月の現在も特記すべき症状の変化もなく経過良好である.原発性肺アミロイドーシスは術前に診断を確定することは困難であるが肺癌との鑑別および確定診断のため胸腔鏡検査は有用である.また, AA型アミロイドーシスは, 結合織疾患や原発性マクログロブリン血症, あるいは悪性リンパ腫などを併発することがあり, 長期にわたる経過観察が必要である.
著者
桑田 泰治 浦本 秀隆 宗 知子 花桐 武志 田中 文啓
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.060-063, 2012-01-15 (Released:2012-02-29)
参考文献数
8

症例は68歳男性.咳,血痰を主訴に近医を受診した.胸部CTで右肺尖部から肺門部にかけての腫瘤を認めた.気管支鏡検査にて放線菌が疑れたため,抗生剤治療を開始した.自覚症状は改善したが,腫瘤の縮小を認めなかったため,肺癌の合併を疑い,診断と治療を兼ねた手術を行った.術式は胸腔鏡補助下右肺上葉切除術とリンパ節郭清(術中迅速病理診断carcinoid).術後診断はadenocarcinoma, p-T3N1M0 stage IIIA.摘出標本からは放線菌は認めなかった.今回,我々は肺放線菌症に肺腺癌を合併した比較的稀な症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
川名 伸一 三竿 貴彦 松原 慧 吉川 武志 青江 基
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.150-155, 2019-03-15 (Released:2019-03-15)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

肺切除術中の偶発症の一つとして,稀ではあるが迷走神経刺激による心停止が起こることがある.症例は69歳,女性.左上葉肺腺癌に対して完全胸腔鏡下にて左肺上葉切除および縦隔リンパ節郭清術を予定して手術を開始した.肺門前方での左主肺動脈の剥離操作中に突然高度の徐脈から心静止となった.直ちにツッペルと示指を用いて心臓を叩打したところ,心静止後約1分で自己心拍は再開した.迷走神経刺激が原因と考えアトロピンを投与して手術を続行した.大動脈弓下リンパ節郭清の際に再び高度徐脈となったが,操作の中断により徐脈は改善した.その後,徐脈誘発に注意しつつ郭清を完遂し手術を終了した.肺切除術中の迷走神経刺激による心停止例の誌上報告は,本症例を含めていずれも左側手術であった.肺切除術,特に左側手術においては徐脈の出現に注意を払い,心停止の前兆として捉えて機敏に対応することが,心停止への移行を回避するために重要である.
著者
日野 直樹 露口 勝 中川 靖士
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.21, no.5, pp.691-695, 2007-07-15 (Released:2008-11-18)
参考文献数
10
被引用文献数
2

巨大な胸腔内低悪性限局性線維性腫瘍(Solitary fibrous tumor(Low-grade malignancy):SFT)の経過観察中に低血糖発作を発症し手術で改善した一例を経験したので報告する.症例は82才の女性.2003年2月に右胸腔内に10cm大の充実性腫瘤を認め,針生検にてSFTと診断した.患者の希望にて経過を診ていたが,同年6月に低血糖発作が出現した.血中と尿中のC-peptide(CPR),血中インスリン(IRI)の低下を認めた.副腎皮質機能検査と下垂体機能検査は正常であった.以上より腫瘍による低血糖と考え摘出術を行った.術後第2病日に一度低血糖発作を起こしたが,以後は発生せず内因性インスリンも正常化した.術前血中に高分子insulin-like growth factor(IGF)-IIを認めたが,術後は消失しており,胸腔内SFTが産生した高分子IGF-IIによる低血糖発作と考えられた.術後3年目の現在再発や低血糖発作を認めていない.
著者
矢島 澄鎮 卜部 憲和 朝井 克之
出版者
The Japanese Association for Chest Surgery
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.18, no.5, pp.637-640, 2004-07-15 (Released:2010-06-28)
参考文献数
7
被引用文献数
1

症例は69歳男性.2000年より間質性肺炎のため当院通院中, 2003年1月20日左気胸のため入院.胸腔ドレナージのみで軽快し1月30日在宅酸素療法を導入し退院した.2月7日再発し入院, 胸腔ドレナージ行うも肺瘻改善せず, 3月4日肺瘻閉鎖術を施行した.第3病日再発したため, 再度3月18日肺旗閉鎖術を施行したが, 責任病巣は初回手術とは異なっていた・術後肺瘻は消失したが第2病日再発した.血液検査で第XIII因子は低値であったため, 第6病日より血液凝固XIII因子製剤を5日間投与したところ肺瘻は消失し, 第17病日胸腔ドレーンを抜去し第22病日退院し以後現在まで再発していない.第XIII因子が欠乏した間質性肺炎を合併している難治性気胸例において血液凝固XIII因子製剤投与が有効であったので報告した.
著者
生田 安司 木下 義晃
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.301-305, 2020-07-15 (Released:2020-07-15)
参考文献数
12
被引用文献数
1

ドレナージ困難となった急性膿胸に対して胸腔内線維素溶解療法の有用性が報告されているが,その有効性や安全性は十分に確立されていない.当院でウロキナーゼ胸腔内線維素溶解療法を行った急性膿胸7例を対象にレトロスペクティブに検討した.男性6例,女性1例,平均年齢65.0歳であった.統合失調症やアルコール多飲,高血圧などの併存疾患が5例で認められ,Performance status(PS)はPS 1が3例,PS 2-3が4例であった.ウロキナーゼの平均投与回数は2.9回,7例中6例で改善した.改善した6例のドレーン留置期間は平均6.7日間であった.出血やショックなどウロキナーゼ胸腔内投与による重篤な副作用は認められなかった.手術が選択し辛い症例に対してウロキナーゼ胸腔内線維素溶解療法は簡便であり副作用のリスクも少なく,考慮すべき治療法の1つであることが示唆された.
著者
山下 貴司 朝井 克之
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.7, pp.686-692, 2019-11-15 (Released:2019-11-15)
参考文献数
19

若年者自然気胸は肺胸郭不均衡により発症すると考え,若年気胸患者の肺実質の平均CT値を後ろ向きに調査し,正常肺患者との差違について検討した.若年気胸患者の肺実質の平均CT値を後ろ向きに調査し,正常肺患者との差違について検討した.15歳から25歳の男性,若年気胸患者35例,正常肺患者105例について肺実質平均CT値(HU)と胸腔内容積(mL)について検討したところ,CT値は両側とも有意に気胸群のほうが低かった(右:-846.8/-819.9;p=0.005,左:-843.1/-812.1;p=0.002).胸腔内容積は両群で明らかな有意差を認めなかった.またCT値と胸腔内容積は負の相関を示した.このことから気胸患者における肺胞径は正常肺患者に比べて大きいことが示された.この肺胸郭不均衡が気胸発症の根底にあるため,外科的治療の施行にあたっては肺実質の切除はさらなるリスクになることが懸念され,肺囊胞切除に伴い切除される正常肺実質は最小限に留めるべきであると考えられる.
著者
池 晃弘 大瀬 尚子 新谷 康 奥村 明之進
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.74-79, 2019-01-15 (Released:2019-01-15)
参考文献数
15

排卵期に発症した月経随伴性気胸の症例を報告する.症例は40歳女性.39歳時,月経の3日前に右胸痛と呼吸困難感が出現した.右気胸の診断で胸腔ドレナージを施行されたが,気漏が遷延し,前医で胸腔鏡下右上葉部分切除術を施行された.術中,横隔膜に菲薄化病変を認め,ポリグリコール酸シートを貼付された.その4ヵ月後,月経終了後約10日目の排卵期に右気胸が再発し,胸膜癒着術を施行された.しかし,その2ヵ月後の排卵期に右気胸の再々発を認め,当院で再手術を行った.横隔膜腱中心に網目状の多数の小孔を認め,腹腔と交通し肝臓を視認できた.横隔膜病変を切除後縫縮し,酸化セルロースシートで横隔膜及び全肺胸膜を被覆した.病理組織学的に横隔膜内に子宮内膜様間質組織を認め,異所性子宮内膜症と診断した.排卵期に繰り返し発症した本症例は,月経周期に依存しない異所性子宮内膜症の存在を示唆する1例である.