著者
神保 宇嗣
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.221-227, 2016 (Released:2016-06-01)
参考文献数
17
被引用文献数
2

日本における生物多様性情報を発信するシステムに関する現状と課題を概説し、その課題を解消する一方法として生物多様性情報の簡易データベースシステムを提案した。現在の生物多様性情報の公開は、印刷物やウェブサイトなどが多くデータ形式がまちまちなため、データの検索や再利用がしばしば困難である。今回提案するシステムは、メタデータとデータの二枚の表から自動的にデータベースを作成するもので、データ提供者の作業を減らし、かつ自動的に標準的な方法で公開できる点で、データ提供者にも利用者にもメリットがある。また、オープンソフトウェアで構成され、システム自身もオープンソースで公開することで、今後の自由な更新が可能となる。データ公開の大きな流れの中で、このようなシステムを核とし、データ提供者と利用者双方が参加するコミュニティの形成が必要である。
著者
前迫 ゆり
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.5, 2022 (Released:2022-04-11)
参考文献数
36

本稿では,照葉樹林に侵入した外来種として、国内外来種ナギNageia nagi (Thunb.) Kuntzeと国外外来種ナンキンハゼTriadica sebifera (L.) Smallの拡散と定着について述べる。春日山原始林に隣接する御蓋山の天然記念物ナギ林から拡散したナギは照葉樹林に侵入し、シカが採食しないことから、数百年かけて拡散し、イチイガシQuercus gilva Blume林の一部はナギ林に置き換わった。ニホンジカCervus nippon subspp.の採食環境下において、耐陰性の高い常緑針葉樹ナギ林から照葉樹林に戻る可能性はきわめて低いことから、この植生変化はシカの影響による森林の不可逆的変化ともいえる。一方、1920年代に奈良公園に植栽されたナンキンハゼは奈良公園一帯および春日山原始林のギャップに広域的に拡散し、ナンキンハゼ群落を形成している。照葉樹林における空間分布の調査から、生態的特性が異なる外来木本種2種の拡散を定量的に把握した。シカの不嗜好植物でもある外来木本種の群落形成にはシカが大きく関与していると考えられた。過密度シカ個体群が生息する照葉樹林の保全・管理についても議論する。
著者
道前 洋史 若原 正己
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.33-39, 2007
参考文献数
52
被引用文献数
1

表現型可塑性は生物が環境の変化に対して示す適応的反応であり、理論的にも適応進化できることが報告されている。この場合、自然淘汰は、個々の表現型ではなく反応基準を標的としているのである。しかし、表現型可塑性を適応進化させる生態的・環境的条件の実証的研究結果が十分にそろっているとはいい難い。本稿では、この問題について、北海道に生息する有尾両生類エゾサンショウウオ幼生の可塑的形態「頭でっかち型」を題材に議論を進め、表現型可塑性について、分野横断的(生態学的・生理学・内分泌学的)なアプローチも紹介する。
著者
斉藤 憲治 片野 修 小泉 顕雄
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.35-47, 1988-04-30
被引用文献数
69

Paddy fields and ditches around irrigation creeks constitute temporary waters flooded only in summer. In order to consider the significance of such temporary waters for fishes, the movement and behaviour of fishes in temporary waters and a permanently filled creek were investigated near the town of Yagi, Kyoto Prefecture. Among twenty-three species identified in the study area, seven species frequently entered the temporary waters, six of which utilized these waters as spawning sites. Two species were seldom found in the temporary waters, in spite of their abun dance in the permanent creek. The remaining fourteen identified species were rare in the study area. Fishes which frequently utilized the temporary waters for spawning had a similar reproductive habit, i. e., they scattered many eggs widely and showed no parental care. It is considered that many fishes, including juveniles, were foraging on the plankton which became abundant in the temporary waters after irrigation. It is surmised that newly emerged habitats of temporary waters with high productivity serve for the maintenance of a rich fish fauna in irrigation creeks.
著者
菊地 デイル万次郎
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.55, 2022 (Released:2022-04-11)
参考文献数
37

バイオメカニクスは生物の形態や運動を力学的に分析する学問である。生物の行動は小さな動きの積み重ねであり、力学的な制約のもとで形成される生物の形態と運動はエネルギー収支を介して適応度にまで影響する。これまでバイオメカニクスは生物の機構を力学的に探求することで、生物の運動における普遍的な原理や機能の発見を遂げてきた。一方で、バイオメカニクスは境界領域であるためか、“孤立した学問”になりやすいことが指摘されている。このような状況を打破するには、生態学の研究テーマにも取り組むことで、より広範な問いに答えていくことが必要であろう。近年は、形態や運動の機能と制約のトレードオフ関係を分析することで、進化についても理解を深めようとするアプローチが提唱されている。こうした新しいアプローチに加え、隣接した分野の研究者とも連携していくことでバイオメカニクスは生態学の一分野として発展していくだろう。本論では代表的な研究を紹介しながら、バイオメカニクスが生態学分野にどのように貢献してきたのかを考察する。
著者
平井 利明 木村 俊介
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.159-163, 2004-12-25 (Released:2017-05-26)
参考文献数
22
被引用文献数
1

We conducted fecal analysis of the common bat, Pipistrellus abramus, foraging above rice fields in Kyotanabe City, Kyoto, Japan. Two classes and eight orders of arthropods were identified. Most of the prey arthropods were flying insects such as Diptera, Hemiptera, and Hymenoptera. The diet composition varied seasonally, and the principal prey taxon changed from Diptera in June to Hemiptera in September.
著者
西城 洋
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-11, 2001-04-25 (Released:2017-05-25)
参考文献数
17
被引用文献数
10

Faunal composition and seasonal changes in the number of aquatic Coleoptera and Hemiptera were investigated in paddies and an adjacent irrigation pond in Shimane Prefecture, Japan. The paddies held water from mid April to mid June, and then were irrigated intermittently until the end of August. The irrigation pond was filled with water throughout the year. Twenty-two species of Coleoptera and nine species of Hemiptera were collected from both the paddies and the pond. The number of species of adult insects in the paddies increased from May to June, then gardually decreased toward autumn. In contrast, the number in the pond was highest during autumn. The number of species of larval insects was high in paddies especially from May to July, but low in the pond throughout the year. Thirteen of the aquatic insect species observed were classified into four types on the basis of their habitat utilization pattern : A) those using the pond for both non-reproductive and reproductive purposes, B) those using the pond as the main habitat and the paddies for reproduction, C) those using both the pond and paddies as a living habitat and also the paddies for reproduction, and D) those using the paddies for both non-reproductive and reproductive purposes. Paraplea indistinguenda was the only species belonging to type A, and stayed in the irrigation pond throughout the year. Hyphydrus japonicus, Laccophilus difficilis, Cybister brevis, Cybister japonicus, Hydrophilus acuminatus, Ranatra chinensis and Notonecta triguttata were type B insects. Their adults immigrated (probably from the pond) into the paddies and reproduced from May to July. The new adults then migrated to the irrigation pond before the watered area of the paddies dried up. Type C included Agabus conspicuus, Rhantus suturalis and Appasus major. Laccotrephes japonensis and Sigara sp. were classified as type D, and they were seldom found in the pond. My observations indicate that paddies play an important role in the reproduction of aquatic Coleoptera and Hemiptera, whereas the pond provides stable habitat for non-reproductive stages, as well as a place for reproduction of some species. This means that the coexistence of paddies and ponds is important for the species richness of aquatic insects in this region
著者
松浦 健二
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.227-241, 2005
参考文献数
83
被引用文献数
1

進化生物学においてHamilton(1964)の血縁選択説の登場は、Darwinの自然選択説以降の最も重要な発展の一つである。本論文では、この40年間の真社会性膜翅目とシロアリの研究を対比しながら、昆虫における真社会性の進化と維持に関する我々の理解の進展について議論する。まず、真社会性膜翅目の性比に関する研究により血縁選択説の検証が行われていった過程について概説する。一方、シロアリにおける真社会性の進化に関して、血縁選択の観点からのアプローチを紹介し、その妥当性も含めて議論する。なぜ「性」が進化し、維持されているのか。この間題は古くから、そして現在も最も重要な進化生物学の課題の一つである。実は真社会性の進化と維持の問題は「性」の進化と維持の問題と密接な関係にある。社会性昆虫の社会は血縁者に対する利他行動で成立しており、血縁度の側面から社会進化を考えるならば、コロニー内血縁度の低下を招く有性生殖よりも、いっそ単為生殖の方が有利なはずである。つまり、真社会性の生物では、ほかの生物にも増して単為生殖によって得られる利益が大きく、それを凌ぐだけの有性生殖の利益、あるいは単為生殖のコストが説明されなければならない。現在までに報告されている産雌単為生殖を行う真社会性昆虫に関する研究をレビューし、真社会性昆虫にとっての有性生殖と単為生殖の利益とコストについて議論する。
著者
山岸 哲
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.54-59, 1962-04-01 (Released:2017-04-08)
被引用文献数
2

YAMAGISHI, Satoshi (Tenryu Low. Sec. School, Nagano Pref.) Roosting behaviour in crows. 1. Autumnal and wintry roosting behaviour in Nagano Prefecture. Jap. J. Ecol. 12,54〜59 (1962) The roosting behaviour of crows was observed in Nagano Prefecture, and the results are as follows : (1) In the daytime in autumn crows form small flocks in their habitat and feed there. Before sunset they gather at their regular assembling places, and then move to roost in groups. The group at the farthest assembling place from the roost move first, joining the nearest group, one by one, and at last all of the crows reach the roost. (Fig. 1) (2) There are three roosts in autumn in Upper Ina-gun and Lower Ina-gun ; in winter one of these three is used as their wintry roost, and the other two are canelled, being used only as their assembling places. Crows' number in each of these three autumnal roosts is about 900,and the number in one wintry roost is about 3,000. (Fig. 2) (3) The numbers of the above-mentioned wintry roosts are seven in Nagano Prefecture ; crows' number in each of them is 1,000〜3,000. Only ever-green woods are used as the wintry roosts, the main tree species of which is Japanese red-pine. (Fig. 3,Table 1) (4) In the future I intend to investigate on crows' roost in their breeding season and the actual organization of their society.
著者
佐藤 綾 上田 哲行 堀 道雄
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.21-27, 2005
参考文献数
16
被引用文献数
1

1. 石川県羽咋郡甘田海岸において, 打ち上げ海藻を利用する小型動物相と, それを餌とする高次捕食者であるイカリモンハンミョウ成虫の捕食行動を調査した.海浜性のイカリモンの成虫は, 石川県では6月中旬∿8月に見られ, 砂浜の汀線付近で餌探索する.2. 打ち上げ海藻より採集された小型動物には, ハマトビムシ科の幼体, ヒメハマトビムシ, フトツヤケシヒゲブトハネカクシ, ケシガムシ属が多く見られた.3. イカリモンの成虫の捕食行動を, 個体追跡により観察した結果, イカリモンは, ハマトビムシ類の幼体を多く追跡あるいは捕食していた.また, 砂浜に埋めたピットホールトラップからは, 多くのハマトビムシ類の幼体が得られた.4. 本研究より, 打ち上げ海藻(一次資源)-ハマトビムシ類(腐食者)-イカリモン(捕食者)という砂浜海岸における生物間関係の一つが明らかとなった.
著者
細矢 剛
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.209-214, 2016 (Released:2016-06-01)
参考文献数
12
被引用文献数
2

地球規模生物多様性情報機構(Global Biodiversity Information Facility、GBIF)は、地球規模で生物多様性情報を収集・提供する機構である。GBIF は、国、研究機関などの公式の機関が参加者となり、意思決定は、年に1 回開催される理事会においてなされる。実質的な運営は執行委員会と事務局が担っている。各参加国からのデータは、ノードと呼ばれる中核機関を通じてGBIF に提供されており、現在5.7 億件の標本情報、観察情報をだれでもホームページからダウンロードして利用できる。日本国内の活動は日本ノード(JBIF)が担っており、国立科学博物館(科博)・国立遺伝学研究所(遺伝研)・東京大学が拠点となって、GBIF への情報提供のほか、普及活動、アジア地域での活動への対応がなされている。GBIF の活動は世界6 地域に地域化し、日本はアジア地域で最多のデータ提供国であるが、アジアからのデータ数はGBIF 全体の3%に過ぎず、いっそう活発な活動が求められる。今後、データの統合・利用の互換性を維持のための技術的な問題の他、コピーライトの問題など、解決しなくてはならない課題が多数あるが、生物多様性情報学的な常識・基礎知識の普及や、オープンアクセスなど、オープンマインドな知識共有の文化醸成が今後の課題である。
著者
深澤 遊
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.311-325, 2013-11-30 (Released:2017-04-28)
参考文献数
114
被引用文献数
6

菌類は枯死木の分解において中心的な役割を果たしている。枯死木の細胞壁を構成する有機物であるリグニンとホロセルロースに対する菌類の分解力に基づき、大きく分けて3つの「腐朽型(decay type)」が知られている。白色腐朽では、リグニンが分解されるため材は白色化し、繊維状に崩壊する。褐色腐朽では、リグニンが変性するだけで分解されずに残るため材は褐色化し、ブロック状に崩壊する。軟腐朽は含水率の高い条件で起こり、主に材の表面が泥状になる。異なる腐朽型の材では、物理化学性が異なるため、枯死木を住み場所や餌資源として利用する様々な生物群集に影響を与えることが予想される。本稿では、細菌、菌類、植物、無脊椎動物、および脊椎動物の群集に対する材の腐朽型の影響について実証的な研究をレビューする。細菌については、褐色腐朽材に比べ白色腐朽材で窒素固定細菌の活性が高いことが知られている。腐朽型が菌類に与える影響に関しては研究例が非常に少ないが、腐朽菌や菌根菌が材の腐朽型の影響を受けることが示唆されている。植物についても研究例が非常に少ないが、種により実生定着に適した腐朽型が異なるようだ。無脊椎動物については、特に鞘翅目およびゴキブリ目の昆虫に関する研究例が多く、種により好む腐朽型が異なることが知られている。脊椎動物についてはほとんど研究例がなかったが、腐朽菌の種類によってキツツキの営巣に影響があることが示唆されている。腐朽型が生物群集に影響する理由としては、材の有機物組成や生長阻害物質、pHが腐朽型によって異なることが挙げられている。このように菌類には、ハビタットとしての枯死木の物理化学性を変化させることで他の広範な分類群の生物群集に強い影響を与える生態系エンジニアとしての働きがあると考えられる。ただし、その一般性については今後さらに多くの分類群の生物に対する菌類およびその腐朽型の影響を検証していく必要がある。
著者
尾崎 研一 明石 信廣 雲野 明 佐藤 重穂 佐山 勝彦 長坂 晶子 長坂 有 山田 健四 山浦 悠一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.101-123, 2018 (Released:2018-08-02)
参考文献数
168
被引用文献数
4

森林は人間活動に欠かすことのできない様々な生態系サービスを供給しているため、その環境的、経済的、文化的価値を存続させる森林管理アプローチが必要である。保残伐施業(retention forestry)は、主伐時に生立木や枯死木、森林パッチ等を維持することで伐採の影響を緩和し、木材生産と生物多様性保全の両立をめざす森林管理法である。従来の伐採が収穫するものに重点を置いていたのに対して、保残伐は伐採後に残すものを第一に考える点と、それらを長期間、少なくとも次の主伐まで維持する点に違いがある。保残伐は、皆伐に代わる伐採方法として主に北アメリカやヨーロッパの温帯林、北方林で広く実施されているが、日本を始めとしたアジア諸国では普及しておらず、人工林への適用例もほとんどない。そこで、日本で保残伐施業を普及させることを目的として、保残伐施業の目的、方法、歴史と世界的な実施状況を要約した。次に、保残伐の効果を検証するために行われている野外実験をレビューし、保残伐に関する研究動向を生物多様性、木材生産性、水土保全分野についてとりまとめた。そして、2013年から北海道で行っている「トドマツ人工林における保残伐施業の実証実験(REFRESH)」について紹介した。
著者
内藤 和明 福島 庸介 田和 康太 丸山 勇気 佐川 志朗
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.217, 2020 (Released:2020-12-24)
参考文献数
44
被引用文献数
1

兵庫県豊岡市を中心とする地域で行われている「コウノトリ育む農法」の実施圃場と慣行栽培圃場のそれぞれで植生および動物分類群の調査を行い、景観要素を含めて解析して、コウノトリ育む農法が植生および動物分類群に及ぼす影響を明らかにした。コウノトリ育む農法は水生動物の個体群密度よりも田面および畦畔の維管束植物の出現種数と被度に対してより直接的な正の影響を及ぼしていた。水生動物の個体群密度に対するコウノトリ育む農法の影響は、アシナガグモ属、ミズムシ科、コオイムシ科、タイコウチ科、ゲンゴロウ科(成虫および幼虫)、ガムシ科(成虫および幼虫)の個体群密度、カメムシ目およびコウチュウ目(成虫)の出現種数に対しては総じて正の影響で、この農法の生物多様性保全効果が確認された。一方で、分類群によって異なる景観要素の影響も検出された。トノサマガエル(成体)の個体群密度には農法による影響が確認されなかった。
著者
一方井 祐子 小野 英理 榎戸 輝揚
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.91-97, 2021 (Released:2021-08-17)
参考文献数
32

シチズンサイエンスとは、研究者などの専門家と市民が協力して行う市民参加型の活動やプロジェクトを意味する。科学的な成果や地域課題を解決するための活動、研究者や市民が主体の活動など、その形態は多様である。近年では、Galaxy ZooやeBirdに代表されるように、デジタルツールを活用し、より多くの市民参加を可能にするオンライン・シチズンサイエンスが始まった。日本でも、生態学系のみならず様々な分野でオンライン・シチズンサイエンスが展開され、成果を出している。本稿では、国内外における事例を紹介しながら、現状の課題を整理し、今後の活用可能性を考える。
著者
東樹 宏和 曽田 貞滋
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.46-52, 2006-04-25 (Released:2016-09-06)
参考文献数
32
被引用文献数
3

軍拡競走による急速な形質進化は、集団間の適応的分化を促進する。近年、「共進化の地理モザイク」を扱った理論・実証研究により、同じ種と種の組み合わせであっても相互作用の進化・生態学的な動態が地理的な変異を示すことが明らかにされつつある。本稿では、著者らが取り組んでいるヤブツバキ(Camellia japonica)とツバキシギゾウムシ(Curculio camelliae]の作用系を例にとり、種間相互作用に起因する自然選択がいかにして集団間で変異し、形質の適応分化を促すのか、その要因を考察する。
著者
吉原 佑
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.1-7, 2019 (Released:2019-04-11)
参考文献数
56

草原は生態系機能や食料生産の場として極めて重要な生態系である。本稿では、草原の生態系サービスの持続的利用に向け、生態系機能、生物多様性、空間的異質性と撹乱それぞれの関係性について概説する。生物多様性と生態系機能の関係については草原を舞台として世界をリードするインパクトのある研究が展開されてきた。それらの多くは生物多様性が相補性効果等を介して生態系機能の上昇をもたらすことであった。生物多様性と空間的異質性の関係も同様に、概して正の関係がみられるが、これは植物等の環境の空間的異質性が動物に様々な生息地を提供することや、土壌中の資源の空間的異質性が根の競争を介して植物の共存をもたらしていることによる。撹乱はその空間的異質性に影響を与えるが、撹乱体制によってその影響は空間的異質性の創出にも喪失にもなる。したがって、空間的異質性をもたらす撹乱は、生物多様性の上昇を介して生態系機能を促進させる可能性があるが、草原における農地管理のように空間的異質性を損なう恐れも認識しておくべきである。また、環境の変動性が大きい生態系では、生物多様性が必ずしも生態系機能の安定に繋がらないということも認識しておくべきである。
著者
山道 真人 角谷 拓
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.207-216, 2009-07-31
被引用文献数
9

野外で得られる生態学のデータは複数の因果関係・プロセス・誤差を含み、複雑な構造を有している。その中から知りたい情報を抽出するためには、適切なモデリングが必要不可欠である。シミュレーションモデルは複雑なプロセスであっても直感的なモデリングが可能であるため、保全・管理などの応用的な分野において広く用いられている。しかし、(1)パラメータ数が膨大になる、(2)実測データにもとづいた適切なパラメータ推定が難しいという2点から、その有効性を疑問視する見方もある。近年、シミュレーションモデルの持つこのような弱点を克服する強力な手法として「ベイジアンキャリブレーション」が提案されている。ベイジアンキャリブレーションとは、MCMCなどのベイズ推定の手法を用いて観測データからモデルのパラメータを推定する手法である。本稿では、ベイジアンキャリブレーションの有効性を個体ベースの移動分散モデルを事例に示す。
著者
石井 博
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.151-167, 2008-11-30 (Released:2016-09-17)
参考文献数
107
被引用文献数
2

植物が複数の花を咲かせるとき、個花をとりまく送受粉環境は、花序(または株内)の他の花の存在に影響を受ける(=花間相互作用)。すなわち、株内の個々の花は、花間の資源競争、局所的配偶者競争、局所的資源競争、隣花受粉、花粉減価、複数の花が同時に咲くことによる誘引効果の増大や定花性への影響などを通じて互いに影響を及ぼしあう。これまでこうした花間相互作用は、株サイズ依存の資源分配戦略や、植物の繁殖様式の進化を説明する上でしばしば引き合いに出されてきた。最近の幾つかの研究はさらに、花や花序のあらゆる形質(例えば個々の花の性比、花の寿命、花の大きさ、花形態、花序形態など)の進化が、花間相互作用の影響とは無関係でありえないことを示している。このような意味において、多様な花序や花が進化してきた背景を理解するためには、たとえそれが個花の形質であっても、実はそれが花序全体のパフォーマンスを高めるように進化してきた形質なのではないかと疑う視点が、今後ますます重要となるだろう。