著者
須藤 英一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.291-293, 2015-07-25 (Released:2015-08-13)
参考文献数
4
被引用文献数
2

医学生への老年医学の教育は,全国の医学部で老年科を設置している大学は約4分の1といまだ不十分であるがその重要性は指摘されている.しかし医学生以外の医療福祉専門職(看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士等)の学生への老年学の体系的講義は各施設に委ねられており,端緒についたばかりである.当大学で作業療法学科の学生へ15回/年の老年学の講義を行い,アンケート調査を行った.老年学を学ぶのは初めての学生が多く,半数近くが講義前と講義後ではイメージが変わったと答え,学外の高齢者施設,サービスの見学を多くの学生が希望していた.また講義後に高齢者に対する態度,接し方が変わった学生は半数以上であり,殆どの学生が,老年学がこれからの我が国において必要な学問と考え,全ての医療従事者の講義カリキュラムに必要であるという回答であった.
著者
葛谷 雅文
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.199-203, 2003-05-25
被引用文献数
13 11

高齢者は咀嚼力の低下, 嚥下障害などを伴いやすく, さらに食欲低下を起こすさまざまな原因により摂食障害また摂食量が低下し, 低栄養に陥りやすい. しかも医療者側に低栄養に関する認識が低く, 重要性の自覚がないため, 往々にしてその栄養障害を見逃し, 患者の予後に悪影響を及ぼしていることが少なくない. 実際, 寝たきり高齢者などでは, 入院中にもかかわらず, 身長, 体重が測定されていないことは決してめずらしいことではない. 低栄養の原因となる摂食障害の原因を明らかにし, それに対して適切に対処することが高齢者の予後に好影響もたらすことは明らかだが, それ以前に医療従事者が低栄養に気付くこと, また低栄養のリスクがあることを認識することがもっとも大切なことだと思う. また, もともと食欲低下がめずらしくない高齢者が食欲をそそられるような食事の提供にも今後病院側は注意をはらうことが必要であろう. さもなければ"starvation in the hospital"は今後も続くことになる.
著者
鳥羽 研二 守屋 佑貴子 中居 龍平 岩田 安希子 小林 義雄 園原 和樹 長谷川 浩 神崎 恒一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.269-270, 2009 (Released:2009-06-10)
参考文献数
5
被引用文献数
1 2

目的:アルツハイマー型認知症の意欲の低下に,コリンエステラーゼ阻害薬が有効か検証する.方法:患者23名に対し塩酸ドネペジル5 mgを投与,前後にVitality Indexを測定し比較.結果:Vitality Indexは投与前7.87±0.25,投与後8.74±0.19と有意な改善がみられた.結論:アルツハイマー型認知症の生活の意欲の低下にコリンエステラーゼ阻害薬が有効である可能性が示唆された.
著者
下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.462-464, 2006-07-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
16

健康長寿を目指すためには生活習慣の改善が最も重要である. 喫煙や飲酒のコントロール, 肥満防止, 栄養改善, 運動習慣などの生活習慣の改善は, 寝たきりを防止して健康寿命を延ばしていくためには不可欠である. 生活習慣の是正は小児期から必要であり, 青年期, 中年期から老年期まで, 生涯にわたって必要であるが, ライフステージごとに方法や目標は異なる. 75歳以上の後期高齢者では肥満よりも痩せの危険が高いことを認識し栄養指導を行うことが必要である. 喫煙による循環器疾患や呼吸器疾患への影響としては急性の不整脈の誘発や, 末梢血管の収縮, 気道への刺激などもあり, 禁煙は高齢者でも有用と考えられる. また代謝予備力が落ちているために飲酒量も減らすことが望ましい. 運動習慣は高齢者の身体活動能力を維持するだけでなく, 代謝機能を高め, 鬱を予防するなど心身の健康維持に重要であり, 運動教室などを利用して積極的な介入を行っていくべきであろう.
著者
森 聖二郎 稲松 孝思 林 泰史 軽部 俊二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.457-462, 1986-09-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
10

高熱, 白血球増多, 血沈亢進など重症感染症を疑わせる臨床経過をたどった偽痛風の6症例を報告する.症例は74~89歳, 全例女性で, 38.3~39.8℃の発熱を伴い, 末梢血白血球数10,100~17,900/μl, CRP6+, 血沈1時間値65~164mm/hrであった. これらの所見から, 重症感染症が疑われ各種抗生剤の投与をうけたが, いずれも無効であった。関節液中ピロリン酸カルシウム結晶の存在, 特徴的な関節軟骨石灰化などより偽痛風と診断, 非ステロイド抗炎症剤が投与され, すみやかな解熱, 炎症所見の著明な改善をみた. 6例中4例では, 2関節以上に関節炎の所見を認めた. また, 経過から感染症の存在は否定され, 全身性の炎症所見は全て偽痛風発作に由来したものと結論された.偽痛風は一般に, 単関節炎症状を呈し, 時に微熱, 軽度の白血球増多を認める程度であるとされているが, このように全身性炎症反応を伴い, 重症感染症とまぎらわしい例もあり, 老年者発熱疾患の鑑別診断上重要である.
著者
沖田 将人 日下部 明彦 秋葉 涼子 八木 宏章 田村 陽一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.560-563, 2014-11-25 (Released:2015-02-26)
参考文献数
1

94歳女性,アルツハイマー型認知症の末期,寝たきり,意思疎通は不可能.胃瘻からの人工的水分,栄養補給法(以下,AHN)を行っている患者の娘からAHNの中止を求められた.そこで,日本老年医学会が発行した高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン(以下,ガイドライン)1にそって,約2カ月の時間をかけて複数医師の診察,家族,訪問看護師ステーション責任者,ケアマネージャー,訪問介護事業所責任者,訪問入浴事業所責任者,介護用具貸出事業所責任者と話し合いを重ねた末に,AHNの中止を決断した.その後患者はインフルエンザに罹患し,肺炎を併発したため,AHNは中止せずに肺炎発症から7日目に永眠した.今回の症例で,胃瘻を中止することが命を断ち切る心の葛藤に家族は悩まされることや意思疎通のできない患者の本人らしさをどのように引き出すのかの難しさをあらためて実感した.今までにガイドラインにそってプロセスをふみ,AHNの中止を検討した報告はなく,今後の課題などを考察して報告する.
著者
太田 壽城 原田 敦 徳田 治彦
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.483-488, 2002-09-25
被引用文献数
8 7

高齢化社会の進行に伴って老人医療費は急速に増加し, 新しい高齢者医療の役割として老人医療費の適正化が期待されている. 本研究の目的は, 日本における大腿骨頚部骨折の医療経済に関する文献データを収集し, 大腿骨頚部骨折の治療と介護に関わる費用と, 現在効果的と考えられている対策の医療経済的効果について検討することである. 大腿骨頚部骨折の新規発症について Orimo らは国内の50施設をモニターし, 日本全体における大腿骨頚部骨折の新規発症を89,900~94,900人 (平均92,400人) と推計している. 大腿骨頚部骨折の予後については, 大腿骨頚部骨折により歩行可能な者から寝たきりあるいは要介助となる者は36~42%と推測され, 大腿骨頚部骨折後の生命予後は平均5年程度はあると推察された. 一方, 大腿骨頚部骨折の手術・入院費用は140~180万円, 介護保険制度の単位から算出した最も介護度の低い要介護1の年間介護福祉施設サービス費用は242万円と推定された. これらの文献データを基に, 日本における大腿骨頚部骨折の医療と介護にかかる費用を推計すると, 年間の大腿骨頚部骨折にかかわる医療・介護費用は5,318.5~6,359.0億円と推計された. 大腿骨頚部骨折の予防あるいは骨粗鬆症の治療と大腿骨頚部骨折の医療費について検討した. 日本において80歳代の女性全員 (約273万人) にヒッププロテクターを適用した場合, 単純なコストベネフィットの計算では144.7~243.0億円の適正化という結果になった. ホルモン補充療法も骨折患者の発生を顕著に低下させ, 費用削減効果があるとされている. 日本において80歳代の女性 (約273万人) の半数がビスフォスフォネートを服用した場合の推計を行うと, コストの方がベネフィットを大きく上回る結果となった. しかし, 薬剤中止後も治療期間と同程度の期間効果が継続すると仮定すると, コストとベネフィットが拮抗した.
著者
青柳 暁子 西田 真寿美
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.264-270, 2014 (Released:2014-07-04)
参考文献数
30

目的:日本の介護保険施設等では認知症高齢者の援助方法のひとつとしてアクティビティケアが注目されている.実践の現場では職員が各々の経験と認識に基づいて判断している現状がある.本研究では看護職・介護職が重要と認識するアクティビティケアの評価基準を類型化することによって,その特性を明らかにすることを目的とした.方法:中国地方5県に所在する全ての特別養護老人ホーム・介護老人保健施設の看護主任および介護主任に郵送法による質問紙調査を実施し,657名を分析対象とした.調査は認知症高齢者に対するアクティビティケアの評価基準に関する項目について主観的な重要度を5段階尺度で回答を求めた.重要度の類似性を検討するため階層的クラスター分析と多次元尺度構成法(ALSCAL)を併用して分析した.結果:クラスターは1「快・安楽の状態」,2「自発性」,3「緊張状態の消失」,4「他者との交流」の4つに分類された.重要度の平均値は高い順からクラスター1(4.48),クラスター2(4.23),クラスター3(3.95),クラスター4(3.48)であった.2次元モデルにおいてはストレス値0.113,決定係数RSQ 0.948で良好な適合度が示された.次元1『複雑性』では,単純な表現から複雑な行為を表すクラスターが平均値の高い順に布置され,より単純な行為が重視されていた.次元2『開放性』では,中央付近とその下方にあるクラスター1と2の平均値が高く,上端のクラスター3と下方にあるクラスター4が低値であった.医療的な問題解決や高次の社会的な開放性よりも,個人の快・安楽や自発性などの個別的な開放性が重視されていた.結論:従来のアクティビティケアの目的別の分類のみでは把握できなかった4類型と2次元構造の抽出によって,評価基準の重みづけの方向性が明瞭となった.その主観的な重要度の認識には,行為の複雑性と個別的な開放性に着目し,視覚的なわかりやすさ,測定可能である汎用性を目安にしていると考えられた.
著者
杉原 伸幸 松崎 益徳 加藤 由紀子
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.403-410, 1992
被引用文献数
1

目的: 高齢者において, 骨カルシウム代謝が非炎症性の大動脈弁石灰化 (AVC) に関与しているか否かを検討した.<br>方法: 70・80歳代高齢者 (男性49例, 女性140例, 81.0±4.4歳) を対象に, 断層心エコー図により僧帽弁輪石灰化 (MAC) (-) 群とAVC (-) (C群), MAC (-) のうちAVCが一冠尖石灰化群 (A1群), 二冠尖石灰化群 (A2群), 三冠尖石灰化群 (A3群), およびAVC (+) とMAC (+) 群 (AM群) の5群に分類した. 骨量は腰椎CT検査に骨量ファントム (中外製薬, B-MAS) を用い海綿部骨量 (BMC: mg/cm<sup>3</sup>) を計算した. 血液検査は血清カルシウム, 血清リン, 副甲状腺ホルモン, カルチトニン, オステオカルシンを測定した.<br>結果: 男性において, BMC値は群間に有意な差異をみなかった. 女性において, BMC値はA3群がA1, A2群に比べ低値であったが, A1, A2, A3群ともにC群との間に有意な差異がなかった. 一方, BMC値はAM群がC群に比べ, 有意に低値であった (C群48±35 vs AM群29±24mg/cm<sup>3</sup>; p<0.05). 血液結果は男女とも群間に有意な差異をみなかった.<br>結語: 高齢者でのAVCは, 男女ともMACと比べ骨粗鬆症との関連が弱く, 主に他の要因 (おそらく圧負荷やストレスなど) の関与が考えられ, 血液因子の明確な関与も証明されなかった.
著者
山形 敞一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.183-190, 1984-05-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
12

1970年から1979年までの厚生省発表のによる全死亡数6,982,264名の年齢別死亡率によると, 胃癌では55~59歳, 胃潰瘍では75~79歳, 十二指腸潰瘍では35~39歳が最高である. また1970年から, 1979年までの日本病理剖検輯報の剖検数257,868名の年齢別死亡率によると, 胃癌では70~74歳, 胃潰瘍では65~69歳, 十二指腸潰瘍では25~29歳が最高である.次にわれわれが宮城県で実施している胃集団検診成績のうち1961年, 1966年, 1971年, 1976年, 1981年の受検者総数407, 695名の年齢別頻度によると, 胃癌では70歳, 胃潰瘍では65~69歳, 十二指腸潰瘍では29歳以下が最高である. すなわち, これらの成績は胃癌と胃潰瘍が典型的な老人病であることを示している.人間の生命維持に最も重要な機能の1つは消化吸収で, これに関与するのは胃液と膵液の分泌機能である.われわれは内視鏡的胃粘膜正常者245名について胃液分泌能を測定したところ, 胃液分泌量, 最高酸濃度, 最高ペプシン濃度はいづれも70歳を過ぎると減少する傾向を認めた. 次に膵疾患を除外された507名について膵液分泌能を測定したところ, 膵液分泌量, 重炭酸分泌量, アミラーゼ分泌量はいづれも加齢によっては減少しない. それで健康者の脂肪吸収試験を行ったところ, 脂肪1日摂取量が30g以下では加齢による脂肪吸収の滅退はみられないが, 脂肪1日摂取量が35~40gになると, 70歳以上では滅退する傾向を認めた. したがって, 健康な老人では食餌量が適量であれば加齢による消化吸収の障害はみられない.最近日本人の平均寿命が伸びて世界1の長寿国となったが, 文献によると, 日本人は従来から長寿だったようである. 古代中国の史官陳寿 (233~277) の記した「魏志倭人伝」によると, 3世紀の日本人の寿命は百歳であった. また江戸時代の医学者貝原益軒 (1630-1714) の著わした「養生訓」(1713), 香月牛山 (1656-1740) の著わした「万民必用長命養生訓」(1716) でも, 日本人の寿命は百歳と記されている.ドイツの医学者 Christoph Wilhelm Hufeland (1762-1836) はその著書のなかで天寿二百歳説を提唱したが, これを現代日本人にあてはめると天寿120歳となる. また, 約140億の脳細胞が全部死滅するのは190歳と算出されているから, その過半数が残存する120歳位を天寿としてよいと考えている.われわれは, 今後天寿120歳を目ざして研究をすすめるべきであると考える.
著者
前田 美季 中村 千種 内垣 亜希子 弓庭 喜美子 内海 みよ子 志波 充 三家 登喜夫 宮井 信行 有田 幹雄
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.158-162, 2011 (Released:2011-07-15)
参考文献数
17
被引用文献数
2 2

目的:加齢とともに高血圧の罹患率は増加するが,閉経との関連は明らかではない.女性の加齢及び閉経による血管系に及ぼす影響を明らかにするため,年齢により分類し比較検討した.方法:151名の中高年女性を性成熟期群,移行期群,閉経期群に分類し,身体計測,血圧測定,血液生化学検査,上腕・足首脈波速度(brachial-ankle pulse wave velocity:baPWV),血圧脈波検査(Augmentation Index:AI),内皮依存性血管拡張反応(flow-mediated vasodilation;%FMD),心エコー図検査を実施し,3群間の心・血管系に及ぼす影響を比較した.結果:収縮期血圧は性成熟期群に比し閉経期群,移行期群が有意に高値を示し,移行期群と閉経期群間にも有意差がみられた.baPWVは,性成熟期群に比し閉経期群で有意に高値を示し,移行期群と閉経期群間にも有意差がみられた.AIは性成熟期群に比し閉経期群,移行期群が有意に高値を示した.%FMDは性成熟期群,移行期群に比し閉経期群が有意に低値を示し,血清クレアチニン,推算糸球体濾過値(eGFR),高感度CRPは有意に高値を示した.E/Aは性成熟期群に比し閉経期群,移行期群が有意に低値を示し,移行期群と閉経期群間にも有意差がみられた(いずれもp<0.05).結論:加齢および閉経により血圧の上昇,動脈硬化の進行,血管内皮機能の低下などが認められた.女性の健康管理や心血管イベント防止のためには,年齢に応じたエストロゲンの作用による心血管系の変化を理解することが重要であることが示唆された.
著者
辻 一郎 ソバジェ カトリーヌ 久道 茂
出版者
日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.341-343, 2001-05-25
被引用文献数
3