著者
木村 紗矢香 山田 如子 町田 綾子 杉浦 彩子 鳥羽 研二 神崎 恒一
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.264-265, 2013

本研究の目的は,高齢者の耳掃除の実態を調査し,CGAとの関係を検討することである.当院もの忘れセンターの外来患者116名を対象に耳掃除の有無,認知機能,基本的ADL,抑うつ,意欲,周辺症状,介護負担について調査した.その結果,28%の患者が1年以上耳掃除をしておらず,耳掃除をしていない患者は耳掃除をしている患者よりも認知機能,基本的ADL,意欲,周辺症状が有意に低下もしくは悪化していた.<br>
著者
椎名 豊 本間 康彦 三神 美和 周 顕徳 吉川 広 石原 仁一 佐藤 美智子 東野 昌史 木下 栄治 田川 隆介 玉地 寛光 友田 春夫 中谷 矩章 五島 雄一郎
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.573-579, 1984

健常者6名に, 2日間同一の食事を摂取させ, 2日目に毎食時30grの脂肪 (P/S比1.2) を摂取させ, LCAT活性, 血清総コレステロール (TC), トリグリセライド (TG), 遊離コレステロール (FC), HDLコレステロール, 遊離脂肪酸 (FFA), 血糖 (BS), IRI値を, 空腹時, 朝食後, 1, 3時間, 昼食後2, 4時間, 夕食後2, 4時間の7時点で測定し, 日内変動を検討した. 空腹時LCAT活性は, 第1日目59.8±14.2 (平均±標準偏差) nM/m<i>l</i>/hrで, 第2日目58.4±13.3nM/m<i>l</i>/hrであり, 日内変動は認められず, 脂肪負荷の影響も認められなかった. TG値は昼食後2時間がピークで, その後低下する傾向が認められ, 脂肪負荷で食後上昇した. TC, FC, HDL-C値は日内変動, 脂肪負荷の影響とも認められなかった. FFAは, 空腹時最も高く, 食後低下した. 脂肪負荷で昼食後2時間目以後, 負荷前日の値より高値であった. BSの変化は軽微で, 午後わずかに上昇した. IRI値は午後以後高値で推移し, このことがTGの処理を亢進させ, 血清TG値が, 昼食後2時間をピークに低下することの原因と考えられた. LCAT活性と空腹時のTC (r=0.632, p<0.05), TG (r=0.793, p<0.01), FC (r=0.855, p<0.001), HDL-C (r=0.577, p<0.05), と正相関が認められた. 測定全時点で検討すると, LCAT活性はTC (r=0.403, p<0.001), TG (r=0.508, p<0.001), FC (r=0.415, p<0.001), HDL-C (r=0.503, p<0.001), FFA (r=0.266, p<0.02) と正相関が観察されたが, 空腹時のみの場合よりTG, FCとの相関係数は低下した. 脂肪負荷テストのように大量でしかも脂肪のみ負荷した場合とは異なり, 日常摂取しているような食事ではLCAT活性の日内変動はあっても極く軽微と考えられた.
著者
齋藤 由扶子 坂井 研一 小長谷 正明
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.152-157, 2016-04-25 (Released:2016-05-31)
参考文献数
10
被引用文献数
1

目的:かつてスモン(SMON:subacute myelo-optico-neuropathy)患者には認知症は少ないと言われ,原因の一つにキノホルムのアミロイドβ凝集阻害効果が推測された.一方キノホルム中止後40年以上が経過し,スモン患者は高齢化し老年症候群である認知症の増加が予想された.そこでスモン後遺症をもつ高齢者の認知症の有病率,および現在のアルツハイマー病(以下ADと略す)発症に過去のキノホルム内服量が影響しているかを調査した.方法:対象は2012年スモン検診において,MMSEを解析しえた647例(男性195例,女性452例,平均年齢77.9歳)である.1次調査(MMSE)の結果23点以下は105例であった.2次調査:105例の認知症の有無と背景疾患を,検診を行った神経内科医あるいはかかりつけ医に質問した.次に検診のデータベースを用い「最も重度であった時のスモン症候の重症度」と現時点のAD合併との関連を解析した.結果:認知症の有病率の推定値は9.9%(95%信頼区間:7.3,12.7%),65歳以上に限定すると10.9%(7.9,13.8%)であった.認知症35例のうちADは25例,ADと血管性認知症の合併は4例であった.AD合併と過去に最も重度であった時のスモンの重症度との関連性は,視力障害,歩行障害のいずれにおいても認められなかった.結論:2012年スモン検診受診患者における認知症の有病率は9.9%(65歳以上では10.9%)で65歳以上地域住民(15%)に比べて低値であった.しかし本研究では,対象が検診患者のみでスモン全体を反映せず過小評価の可能性がある.従ってキノホルムのAD発症予防効果は言及できない.キノホルム量はスモンの重症度と関連するため,現時点のAD合併は過去に内服したキノホルム量と関連はないと推察した.
著者
稲垣 俊明 山本 俊幸 新美 達司 橋詰 良夫 水野 友之 稲垣 亜紀 小鹿 幸生
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.172-177, 1995-03-25
被引用文献数
1 2

113歳で生存中の高齢者のなかで日本最長寿者になり, 現在115歳 (1994年9月時) で生活中の女性例の臨床病態について検討した結果を報告した. 社会医学的な面では, 遺伝的因子の関与, 食事は偏食がなくバランス良くとり, タバコ・酒はたしなまず, 睡眠は充分にとり, 青壮年期は農業に従事し, 老年期ではラジオ体操などの適度な運動を行っていた. 精神心理学的, 老年者の総合的機能評価法では, 性格は執着性であり, 107歳まで日常生活動作能力はほぼ自立し, 明らかな痴呆がみられなかった. 医学的には, 血圧は時々一過性の高血圧を示したが, 心電図は完全右脚ブロックであり, 超音波心臓検査は左室機能が保たれており, 末梢血および生化学検査値は赤血球数, ヘモグロビン, ヘマトクリット, アルブミンが軽度の低下, 尿素窒素が軽度の上昇を示したが, 免疫系を含めた他の検査値は正常範囲内であった. 本例は109歳以降, 頻回に呼吸器感染症 (主に肺炎), 尿路感染症を併発しているが, 附属病院に入院し, 適切な医療を受けたことが長寿達成に重要な役割を果しているものと考えられた.
著者
船迫 真人 上江洲 朝洋 岡本 幸春 阪上 良行 谷本 幸三 大田 喜一郎 大畑 雅洋 藤田 拓男
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.347-354, 1978
被引用文献数
2

最近遊離基と老化に関する問題が注目を集め, 遊離基の作用の結果生じる過酸化脂質 (以下Pxと略す) と組織及び細胞の老化に関する報告も増加の傾向にある. 私共は入院患者398名及び集団検診被検者75名の空腹時血清を使用して血清Pxを測定し, 加齢及び各脂質分画との関係を検討した. 又集団検診被検者については血清PxをTBA反応比色法 (以下比色法と略す) 及びTBA反応蛍光法 (以下蛍光法と略す) で測定し, 両法の比較も若干行った. まず入院患者を対象に血清Pxを比色法により測定するとm±SD=13.08±2.45nmole/ml, これを平均年齢のほぼ同じ集団検診被検者ではm±SD=11.3±1.98nmole/mlで何らかの疾患を有する入院患者の方が高値を示した. 又症例数の増加と共に正規分布に近い分布状態を示した.<br>血清Px値と年齢の関係は70歳までは加齢と共に血清Px値は増加の傾向を示し, 70歳より高齢で逆に低下の傾向を示した. 特に70歳以下の集団検診被検者に於ける蛍光法によるPx値と年齢の間では有意の正の相関がみられた. 入院患患では胃癌・心筋硬塞・心不全・気管支喘息等種々の疾患に於いて比色法によるPx値が高値を示し, ことに比較的重症な症例では高頻度であつた.<br>次に各脂質分画とPx値の関係について検討すると入院患者ではNEFA・βリポ蛋白・βリポ蛋白分画とPx値は有意正の相関を示した. 又集団検診被検者に於ては蛍光法によるPx値はβリポ蛋白と正の相関を認めた.<br>血中 Vitamin E (以下VEと略す) とPx値との間には有意の相関を認めなかったが, このことは血清中ににはVE以外にも抗酸化作用を有する物質が存在することを示唆した.<br>血清での比色法によるPx値と蛍光法よにるPx値の間に有意の相関を認めず, 比色法によるPx値の方が約10倍の値を示したが, 比色法ではシアル酸等Px以外の物質を非特異的に測定している可能性が多い.
著者
蒲原 聖可
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.141-143, 2014 (Released:2014-05-23)
参考文献数
5
被引用文献数
1 2

現在,サプリメント(機能性食品,いわゆる健康食品)が健康保持や疾病予防のために広く利用されている.特に,高齢者ではサプリメントの利用率が高いことが知られており,関節機能や感覚器(視覚機能)訴求製品が頻用されている.この10数年ほどの間に,サプリメント・機能性食品成分に関する研究が顕著に増加し,安全性・有効性・経済性を示す一定の科学的根拠が構築されてきた.したがって,サプリメントは,高齢者医療において,標準治療の補完療法としての臨床的意義が期待される.ただし,高齢者では,複数のサプリメントを摂取していることが多く,医薬品との併用による相互作用も懸念される.今後,サプリメントの適正使用に向けた疾患別診療ガイドラインの整備が求められる.
著者
鐘ケ江 寿美子 市丸 徳美 千々岩 親幸 Fleming Richard 小泉 俊三
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.323-329, 2008
被引用文献数
1

<b>目的</b>:Care Planning Assessment Tool(CPAT)はオーストラリアで開発され,認知症ケアを意識した介護者による高齢者の総合的機能評価尺度である.日本語版CPATを作成し,信頼性·妥当性を検証した.<b>方法</b>:対象者は199名(男性58名;女性141名)で介護老人保健施設,グループホームに入居,あるいはデイケアやデイサービスに通所し,研究の承諾を得た高齢者である.調査期間は平成18年8月より9月までである.<b>結果</b>:日本語版CPATは,(1)コミュニケーション,(2)身体機能,(3)身辺自立,(4)混乱,(5)行動障害,(6)社会的交流,(7)精神症状,(8)介護依存度の8大項目より構成され,61小項目を含む.各小項目は介護ニーズを0∼3点で示し,大項目毎にその合計点数が%表示される.日本語版CPATには「家族との交流」に関する小項目を原文に追加し,CPAT原作者と翻訳妥当性を検証し,詳細な使用手引書を作成した.評定者は対象者をケアする看護,介護職員で,CPATについて約2.5時間の研修を受けた.各大項目のCronbach's αは0.74∼0.95であった.10組の評定者間一致に関する重み付きκ値は平均0.6.14名の評定者における各大項目の評定者内の平均スコア差は0.4∼3.6%であった.認知症の中核症状を示す「混乱」とMMSEの相関係数は-0.90(p<0.01)であり,「身体機能」,「身辺自立」,「介護依存度」と介護保険「介護度」との相関係数は各々0.68, 0.72, 0.62(p<0.01)であった.日常生活動作能力評価尺度(N-ADL)と関連するCPAT小項目の相関も良好であった.<b>結論</b>:日本語版CPATは高齢者の身体機能,認知機能,精神行動障害,その他日常生活機能を総合的に把握し,介護ニーズを簡便に評価できる尺度であると考えられる.<br>
著者
松林 公蔵 木村 茂昭 岩崎 智子 濱田 富男 奥宮 清人 藤沢 道子 竹内 克介 河本 昭子 小澤 利男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.29, no.11, pp.811-816, 1992-11-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
10
被引用文献数
12 14

老年者の quality of life (QOL) の一端を, 客観的に評価する目的で, Visual Analogue Scale による (「主観的幸福度スケール」) Visual Analogue Scale of Happiness (“VAS-H”) を考案し, 地域在住の後期老年者を対象に, すでに確立されているうつ評価法との関係を検討した.“VAS-H”は, 同時に施行した標準的 Geriatric Depression Scale ならびに, 同じ被験者に一年前に行った Zung の自己評価抑うつ尺度 (SDS) とも有意の相関を示した. 以上より, 老年者の日常の主観的幸福観を評価する本法は, 情緒やうつ状態を一定程度反映していると考えられた. 本法はQOLの一端を評価するための簡便な方法と考えられる.
著者
西 真理子 新開 省二 吉田 裕人 藤原 佳典 深谷 太郎 天野 秀紀 小川 貴志子 金 美芝 渡辺 直紀
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.344-354, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
27
被引用文献数
7 9

目的:地域在宅高齢者における「虚弱(Frailty)」の疫学的特徴を明らかにすることを目的とした.方法:2001年に群馬県草津町在住の70歳以上全高齢者を対象に訪問面接調査を行い,虚弱の出現率を求めた.次いで,2005年に同町と新潟県与板町で行われた高齢者健診(対象70歳以上)のデータを使用し,虚弱高齢者の身体医学的,心理社会的特徴を調べた.虚弱の判定には,虚弱性指標として用いることの妥当性が確認されている「介護予防チェックリスト」を用いた.分析は男女別に行い,各変数について虚弱群と非虚弱群で比較検定し,虚弱の有無と各変数との関連は,年齢,地域,共通罹患の有無,ADL障害の有無を共変量においた多重ロジスティック回帰モデルを用いて分析した.結果:訪問面接調査には916名が応答し(応答率88.2%),うち912名を分析対象とした.虚弱の出現率は,男性で24.3%,女性で32.4%であった.虚弱の出現率は,男性は80歳以降,女性は75歳以降で急増する傾向がみられた.高齢者健診は1,005名が受け,うち974名を分析対象とした.多重ロジスティック回帰分析の結果を総合すると,身体的機能や心理社会的機能,生活機能などの低水準が虚弱高齢者の特徴として示された.また,非虚弱群に比べ虚弱群の方が,認知機能検査の成績が低く,抑うつ傾向の割合が高く,男性で聴力障害,女性で尿失禁や歩行障害の保有率が高いなど,いわゆる老年症候群との関連が示された.一方,心拍数と血圧,男性で一般的な血液検査項目と虚弱との関連は示されなかった.結論:70歳以上の在宅高齢者の約3割が虚弱であった.虚弱があらゆる老年症候群と密接に関係するmultifactorial syndromeであるという病態像が浮かび上がった.虚弱の病態は,心身機能や生活機能などの機能的諸側面の低さに現れやすく,一般的な臨床医学検査には表出されにくい特徴を有することが明らかになった.
著者
山下 一也 小林 祥泰 恒松 徳五郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.179-184, 1992-03-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
20
被引用文献数
9 13

島根県隠岐郡知夫村在住の60歳以上の健常老年者113人を対象に, 老年期の独居生活と抑うつ状態および主観的幸福感との関連についての検討を, 独居老年者 (独り暮らし) 33人と同居老年者 (配偶者と2人暮らし) 80人の2群に分け行った. 抑うつ状態の尺度には Zung の自己評価式抑うつ尺度 (SDS) を, また, 主観的幸福感の測定尺度としては, モラールスケールを用いた.SDSの比較では独居老年者のほうが有意に抑うつ状態度が高かった (p<0.01). SDS48点以上の抑うつ状態の比率をみると独居老年者は33人中6人 (18.2%), 同居老年者は80人中5人 (6%) であった (0.05<p<0.1). モラールスケールの総得点では, 同居老年者のほうが, 有意に高かった (p<0.01). 各項目別にみてみると, 独居老年者の方が「寂しいと感じることがある.」と答えた率が高かった (0.05<p<0.1).以上から独居老年者では同居老年者に比して, やや抑うつ傾向にあり, 人生の満足度も低いことが示唆された.
著者
葛谷 雅文 遠藤 英俊 梅垣 宏行 中尾 誠 丹羽 隆 熊谷 隆浩 牛田 洋一 鍋島 俊隆 下方 浩史 井口 昭久
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.363-370, 2000-05-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
18
被引用文献数
8 14

名古屋大学医学部附属病院老年科病棟と, 国立療養所中部病院高齢者包括医療病棟入院中の65歳以上の患者を対象に老年医学的総合評価 (ADL, Instrumental ADL, 認知機能, 情緒傾向, 社会的状態などを含む) と服薬コンプライアンス評価調査表を用い, 高齢者の服薬コンプライアンスに関与する因子を検討した. 2施設間の調査対象集団を比較すると, 中部病院で女性の割合が多く有意に高齢であった. さらに中部病院では Instrumental ADLが有意に低スコアーであった. 老年医学的総合評価項目と服薬コンプライアンス評価項目との検討では, 服薬管理者 (自己管理か非自己管理か) を規定している因子は主にADL, Instrumental ADL, 認知機能障害, うつ状態, コミュニケーション障害の有無であった. 服薬状況 (薬の飲みわすれ) は老年医学的総合評価項目のいずれにも有意な関係がなかったが, 用法の理解度, 薬効の理解度との関係は施設間で差を認めた. すなわち大学病院では服薬状況と用法, 薬効理解度との間に有意な関係を認めたが, 中部病院ではいずれも有意差を認めなかった. 服薬用法理解, 薬効理解度は Instrumental ADL, 認知機能, コミュニケーション能力, 集団行動能力と有意な関係にあった. 薬効理解度は教育歴とも有意な関係にあった. 2施設を比較すると多くの総合評価項目とコンプライアンスの関係は一致していた. 以上より, 高齢者の服薬コンプライアンスは患者の身体機能, 認知機能とは関係なく, 服薬用法, 薬効理解との関係が示唆された. このことは服薬指導の重要性が高齢者の服薬コンプライアンス向上に重要であることを再認識させる.
著者
佐藤 秩子 田内 久
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.27-34, 1987-01-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
18
被引用文献数
1

乳癌手術時に摘出された各10年代あたり20~40例の日本人女性の大胸筋 (29~81歳) 180例, 小胸筋 (26~80歳) 200例を対象とし, フォルマリン固定, パラフィン切片において免疫酵素組織化学的手法によりβ-エノラーゼの局在の濃淡により筋線維をタイプI, IIにわけ, タイプ別の年齢変化を微計測的に検討するとともに, 大, 小胸筋における老化様相の差について考察した.筋重量は大胸筋では60歳以後有意に減少するが小胸筋では減少は有意ではない. 筋細胞数は, 大, 小胸筋のタイプI, II線維とも, 60歳以後有意に減少する.両筋線維の数の比率は, 小胸筋ではI型が, 大胸筋ではII型が高く, 加齢に伴ってともにI型の割合が増すが, 小胸筋では軽く, 大胸筋では有意な増加を示した.筋線維 (横断面) の大きさは, タイプIでは小胸筋で60歳以後逐齢的に顕著に増加するが, 大胸筋では70歳以後, 増加は有意であるが比較的軽い. 一方タイプIIは, 大胸筋で年齢差なく, 小胸筋では, 40歳以後有意に減少する. このような成績を, 生命維持に直結する呼吸補助筋としての機能 (タイプI主導型) を持つ小胸筋と, 腕の運動-内転-に関与する (タイプII主導型) 大胸筋との機能の差と関連して考察を施した.
著者
秋下 雅弘 寺本 信嗣 荒井 秀典 荒井 啓行 水上 勝義 森本 茂人 鳥羽 研二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.303-306, 2004-05-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
10
被引用文献数
12 22

高齢者では臓器機能の低下や多剤併用を背景として薬物有害作用が出現しやすいとされるが, その実態はよく知られていない. そこで, 大学病院老年科5施設の入院症例について, 後ろ向き調査により薬物有害作用出現頻度と関連因子について解析した. 2000年~2002年の入院症例データベースから薬物有害作用の有無が記載された症例を抽出し, 総計1,289例を解析に用いた. 主治医判定による薬物有害作用出現率は, 5施設全体で9.2%, 施設別では6.6~15.8%であった. 薬物有害作用の有無で解析すると, 多疾患合併および老年症候群の累積, 多剤併用, 入院中2薬剤以上の増加, 長期入院, 緊急入院, 抑うつ, 意欲低下が有害作用出現と関連する因子であった. 以上の結果は, 従来の単施設でのデータを裏付けるものであるが, 今後の高齢者薬物療法における参照データとなりうる. 関連因子については, 有害作用の予防および影響の両面から高齢者薬物療法に際して注意していく必要がある.
著者
秋下 雅弘 荒井 啓行 荒井 秀典 稲松 孝思 葛谷 雅文 鈴木 裕介 寺本 信嗣 水上 勝義 森本 茂人 鳥羽 研二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.271-274, 2009 (Released:2009-06-10)
参考文献数
9

目的:日本老年医学会では,2005年に「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリスト」を含む「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を発表した.このような薬物有害反応(ADR)を減らす取り組みにはマスコミも関心を持ち,今般,同ガイドライン作成ワーキンググループとNHKは共同で,老年病専門医に対してADR経験と処方の実態を問うアンケート調査を行った.方法:2008年9月,学会ホームページに掲載された全ての老年病専門医(1,492名)の掲載住所宛にアンケートを郵送した.質問項目は,1)この1年間に経験した高齢者ADRの有無(他機関の処方含む),2)上記リスト薬からベンズアミド系抗精神病薬,ベンゾジアゼピン系睡眠薬,ジゴキシン(≥0.15 mg/日),ビタミンD(アルファカルシドール≥1.0 μg/日)および自由追加薬について,過去のADR経験頻度,3)ADR予防目的による薬剤の減量·中止の有無,4)課題と取り組みについての自由意見,とした.結果:回答数425件(29%).1)1年間のADR;72%.2)過去のADR;ベンズアミド79%(稀に54%,よく25%,以下同),ベンゾジアゼピン86%(62%,24%),ジゴキシン70%(61%,9%),ビタミンD 37%(33%,4%).自由回答では,非ステロイド性消炎鎮痛薬が最も多く,降圧薬,抗血小板薬,抗不整脈薬,血糖降下薬,抗うつ薬が次いだ.3)ADR予防目的の減量·中止93%.4)自由意見;ADRに関する医師·患者の啓発活動,老年病専門医の養成,多剤処方回避の指針作りやシステムの確立を挙げる意見が多かった.結語:老年病専門医はADRをよく経験する一方,多くは予防的対策を講じている.今回の意見を,新しい指針作りや啓発活動に生かすべきである.
著者
溝口 環 飯島 節 江藤 文夫 石塚 彰映 折茂 肇
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.30, no.10, pp.835-840, 1993-10-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
14
被引用文献数
17 31 17

痴呆に伴う各種の行動異常は介護者にとって大きな負担となるが, 行動異常を定量的に評価する方法はまだ確立されていない. そこで, Baumgarten らの Dementia Behavior Disturbance Scale (DBDスケール) を用いて, 痴呆患者の行動異常の評価を試み, 評価法の信頼性と妥当性ならびに介護者の有する負担感との関連について検討した.痴呆群27例 (アルツハイマー型21例, 脳血管性6例, 男性9例, 女性18例, 平均年齢77.7歳) および神経疾患を有するが痴呆のない非痴呆群17例 (男性2例, 女性15例, 平均年齢76.8歳) の外来通院患者と施設入所痴呆患者10例 (アルツハイマー型9例, 脳血管性1例, 男性2例, 女性8例, 平均年齢82.3歳) を対象とした. DBDスケールは, 28項目の質問からなり, 異常行動の出現頻度を5段階に分けて介護者が評価した.DBDスケールの信頼性については, 再テスト法の相関係数0.96, Cronbach のα係数0.95, 評価者間信頼性は Intraclass Correlation Coefficient (ICC) 平均0.71と何れも高い値を示した. 妥当性については, DBDスケール得点と簡易知能質問紙法 (SPMSQ) 誤答数との相関係数0.54と知的機能との相関は良好であった. DBD得点とアンケートで評価した介護者の負担感との間に有意の相関を認め (r=0.53), 介護の負担度を反映し得る指標としての有用性も示唆された.DBDスケールは, 痴呆に伴う行動異常の客観的評価や経過観察の方法として信頼性が高く, 介護負担も反映しうる有用な評価法である.
著者
川西 昌弘 松岡 重信 平岡 政隆 小根森 元 高田 耕基 渡辺 哲彦 大谷 博正 梶山 梧朗
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.28-37, 1988-01-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
17
被引用文献数
1 2

今回, 我々は新しいデータ解析の方法論としての exploratory data analysis の基礎的手法である boxplot および robust regression analysis を応用して正常集団におけるアポ蛋白値に及ぼす種々の背景要因の影響について検討し, 以下の結論を得た.1) Apo-AII (40歳代), Apo-B (30歳代), Apo-CII (40歳代), Apo-CIII (30歳代, 40歳代) は男性が女性より有意な高値を示した.2) 男性ではApo-B, Apo-CII, Apo-CIIIに, 女性ではApo-AII, Apo-B, Apo-Eに加齢の影響を認めた.3) 男性においてApo-AI, Apo-AII, Apo-CIIIの値は飲酒者が非飲酒者より高値であった.4) 男性においてApo-CII, Apo-CIIIの値は喫煙者が非喫煙者より高値であった.5) 肥満傾向の者は男性においてはApo-AII, Apo-B, Apo-CII, Apo-CIII, Apo-Eが, 女性においてはApo-AIIが高値であった.このように, 新しい統計的方法論を用いることにより比較的小数のデータでも多数例を用いた解析に劣らない有効な結果を得ることが可能であった.
著者
門脇 孝
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.389-395, 1999-06-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
22
被引用文献数
1

インスリン抵抗性の成因は遺伝素因, 肥満などの生活習慣, 高血糖それ自体に大別される. 肥満に伴うインスリン抵抗性は肥大した脂肪細胞から分泌されるTNF-αや遊離脂肪酸 (FFA) が関与している. インスリン抵抗性の分子レベルでの共通の特徴は, (1)インスリン受容体チロシンキナーゼ・P13キナーゼ活性の低下, (2)GLUT4トランスロケーションと糖取り込み低下, (3)グリコーゲン合成酵素活性低下である. インスリン抵抗性は, 膵β細胞のインスリン分泌能や増殖能に障害のある場合には, 2型糖尿病の強力な発症要因となる. 最近, 糖代謝に関するインスリン作用に加えて, 血管や腎でのインスリン作用が解明されつつある. IRS-1欠損マウスはインスリン抵抗性のモデル動物である, シンドロームXの諸徴候を呈する. 今後, インスリン抵抗性の分子機構の解明により, 2型糖尿病やシンドロームXをはじめとするインスリン抵抗性症候群のより良い治療・予防を目指すことが重要である.

1 0 0 0 OA 臨死体験

著者
山村 尚子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.103-115, 1998-02-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
47
被引用文献数
2 1

意識状態が Japan coma scale で300の昏睡に陥った連続38例につき, 蘇生回復後, 同一医師が同一プロトコールで臨死体験の有無を問診し, 14例, 37%に体験をみとめた.体験ありの例14例に対して, 体験なしの24例を対照として, 年齢, 性別, 原因疾患, 職業, 宗教, 学歴, 体験場所, 使用薬物などによる出現頻度ならびにオッズ比を比較した. 体験場所として病院が高率であったが, 院内故に重症者も救命される率が高いためとみられた. 原因疾患では自殺企図者に1例も体験がなかった. その他に関しては, 体験の有無による群間に差をみず, これらの臨床背景因子が体験の出現, 不出現を分けることはなかった.体験の型として, 超越型, 自己観察型, フラッシュバック型の3型をみとめたが, 欧米に多いトンネル体験の型はみとめなかった. 体験の構成要素としては, 暗闇の虚空と先方の薄明り, 死者との遭遇, 小川, 川, 溜池といった要素がみとめられた.臨死体験の影響として, 死の恐怖が緩和したと述べたものがみられ, その後の生活態度が内省的になり, 精神的影響をうけたとするものが, 対照群に比べて有意に多かった. 体験なしの群では, 意識が300のレベルに陥る疾患に罹患しながら, その経験を日常的健康問題と捉えた例が多かったのと対照的であった.臨死体験例の研究結果として, 高齢者の終末医療に益すると考えられた点は, (i) 死あるいは死に至る過程に関する体験的知識を収集することができた, (ii) 体験者では死に対する不安, 恐怖がないか, 極めて少ないことが分かった, (iii) 終末医療に従事するものが心すべきことが示唆された点であった.
著者
武田 俊平 川合 宏彰 松沢 大樹
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.497-503, 1986-09-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
16
被引用文献数
2

神経学的に異常のなかった男192名, 女196名の脳血流量と脳血管抵抗をXe-133吸入法に依り測定し, 加齢との関係を調べた. 脳血流量は2コンパートメントモデルに於ける速い成分 (F1) とイニシャルスロープインデックス (ISI) で表わした. F1, ISI共に男では40歳台, 女では60歳台から有意に低下が始まった. 女では年齢に比例してF1, ISIの低下が高齢に到るまで続いたのに対し, 男では50歳台までは年齢に比例して低下したが, 60歳台以降プラトーになり, F1で40ml/100g脳組織/分, ISIで35付近に閾値の存在が示唆された. 脳血管抵抗は男女共50歳台から有意に増加し始め, 高齢に到るまで一貫して年齢に比例して増加した.