著者
三村 將 藤田 佳男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.191-196, 2018-04-25 (Released:2018-05-18)
参考文献数
12

安全な自動車運転を行っていくためには,「認知,予測,判断,又は操作」の領域が十分に保たれていることが必要である.運転安全性の評価には,神経心理学的検査,運転シミュレータ,同乗者による評価,実車による評価を適宜組み合わせていく.認知機能領域に関しては,注意機能と視空間認知機能を中心に,一般的知能,記憶,遂行機能,聴覚―言語機能,感情コントロールといった領域を評価する.
著者
関 一彦 鶴田 和仁 稲津 明美 福本 安甫 繁田 雅弘
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.243-248, 2013 (Released:2013-08-23)
参考文献数
26
被引用文献数
1 4

目的:パーキンソン病(PD)では,罹病初期から非運動性症候の一つである嗅覚障害が顕著に認められ,またその自覚がないことは広く知られているが,低下する嗅覚の種別などについては検討されていない.よって,今回は,PDにおいて低下する嗅覚の種別(臭素)について健常者と比較し障害のプロフィールを明らかにすることを目的とした.方法:対象は,神経内科外来に通院中で臨床的にPDと診断されている女性患者14名(平均年齢71.6±6.1歳)と,精神疾患及び神経疾患に罹患してない健常高齢者女性11名(平均年齢68.9±6.9歳)であった.検査には,スティック型嗅覚同定能力検査法(OSIT-J)(Odor Stick Identification Test for Japanese)を用いた.結果:PD,健常者ともに低下していた臭素は材木・みかん・家庭用のガスであった.PDは,香水に対する嗅覚は保たれていた.一方,墨汁・メントール・カレー・ばら・ひのき・蒸れた靴下(汗臭い)・練乳(コンデンスミルク)の臭素は,健常者に比べ有意に低下しており,PDの補助診断指標となる可能性が示された.結論:PDで低下している嗅覚の内容を把握しておくことは,日常生活における危険の回避において,また効果的なリハビリテーションのプログラムの遂行において重要であると考えられた.
著者
蓮尾 裕 上田 一雄 藤井 一朗 梁井 俊郎 清原 裕 輪田 順一 河野 英雄 志方 建 竹下 司恭 廣田 安夫 尾前 照雄 藤島 正敏
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.65-72, 1986
被引用文献数
1

昭和48・49年及び昭和53年の久山町検診を受診した満60歳以上 (昭和53年検診時) の一般住民で, 両検診の血液生化学値が検討できた男女818名を対象にし, 昭和53年から昭和56年11月30日まで追跡調査した. 両検診時の血液生化学値と, 同一個体の両検診間での変化値について, 追跡期間中に死亡した57名と生存例761名の2群のあいだで年齢補正を加えて, 男女別に比較検討した.<br>昭和53年検診時の血液生化学値18項目中, 男性死亡例ではアルブミン, 尿素窒素の低値とGOT, GPT, TTT, ALP, LAPの高値がみられ, 一方, 女性死亡例ではアルブミン, カルシウムの低値がみられた.<br>生存例の両検診間の生化学値の変化を基準にして, 死亡例についてみると, 男性ではアルブミン (-0.2g/d<i>l</i>), 尿酸 (-0.5mg/d<i>l</i>), Na (-2.2mEq/<i>l</i>), Ca (-0.3mg/d<i>l</i>) の低下, 女性ではアルブミン (-0.2g/d<i>l</i>), Ca (-0.3mg/d<i>l</i>) の低下を認めた. これら死亡例にみられた5年間の生化学値変化は, 生存例に比べて有意であった (p<0.05).<br>死亡例を悪性新生物死亡 (23例), 心血管系疾患死亡 (15例), その他の死因による死亡 (19例) に分類し, 生化学値の個体内変化を生存例のそれと比較した. 前記4項目について, 疾患の種類による特異的な変化はみられなかった. 死亡例を脳卒中後遺症, 寝たきり, 手術の既往歴の有無によって2群にわけ, 各群での生化学値の変化を生存例と比較した. このような後遺症や既往歴を持つ群で, 生化学値の変化が必ずしも大きいとはいえなかった. 以上のことから, 死亡例にみられた血液生化学値変化は, 生前の合併症や疾病の種類に基づくとは考え難く, 死亡例にみられたより進んだ老化過程にむしろ関係があると考えられる.
著者
小坂 陽一 佐藤 琢磨 藤井 晶彦 佐々木 英忠
出版者
日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.398-400, 2008-07-25
参考文献数
3
被引用文献数
4
著者
神長 達郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.1-6, 2006-01-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
18
被引用文献数
2 1

fMRI (functional MRI) は, 人における脳機能局在を研究する手段として, 中心的な地位を占める. fMRIは100mmのオーダーの空間分解能と, 数秒程度の時間分解能とを持ち, 脳内部位の認識が容易であるという特徴を持つ. また, ほぼ大脳および小脳全体の計測が可能である. 時間分解能を補うためには, 時間分解能に優れた脳機能局在研究手段である, EEG (Erectroencepharogram) やNIRS (Near-Infrared Spectroscopy) との並列, または同時施行が有用である. fMRIは臨床MRI機でも施行可能であるが, fMRIを適切に計画および実行し, さらに得られた結果を正しく解釈するには, 一定の知識が必要である. また, 結果は別の手段により検証されることが望ましい. fMRIで重要な事のひとつはタスクのデザインである. タスクの形式は大きく分けて Block design と Event related design があり, それぞれに利点, 欠点がある. コントロールタスクの選択, タスクの提示順番や回数などにも検討が必要である. 被験者や患者の安全を守るという点では, 強い静磁場に入れてはならない被験者があり, 熟知しておく必要がある. 得られた結果の解析には, 複雑な数学的過程が必要であり, SPM (Statistical Parametric Mapping) などがこれを担っている. SPMは複雑な機能を備えたソフトウェアであるが, fMRIの結果解析にはこれの理解が必要である. このように, fMRIは多様な知識を必要とするため, その運用は集学的なチームによってなされる事が望ましい. 適切に運用すれば, fMRIは多くの可能性を秘めた手段であると考えられる.
著者
下方 浩史 葛谷 文男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.30, no.7, pp.572-576, 1993-07-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
13
被引用文献数
5 32

Age is one of the most important factor of changes in energy metabolism. The basal metabolic rate decreases almost linearly with age. Skeletal musculature is a fundamental organ that consumes the largest part of energy in the normal human body. The total volume of skeletal muscle can be estimated by 24-hours creatinine excretion. The volume of skeletal musculature decreases and the percentage of fat tissue increases with age. It is shown that the decrease in muscle mass relative to total body may be wholly responsible for the age-related decreases in basal metabolic rate. Energy consumption by physical activity also decreases with atrophic changes of skeletal muscle. Thus, energy requirement in the elderly decreases. With decrease of energy intake, intake of essential nutrients also decreases. If energy intake, on the other hand, exceeds individual energy needs, fat accumulates in the body. Body fat tends to accumulate in the abdomen in the elderly. Fat tissue in the abdominal cavity is connected directly with the liver through portal vein. Accumulation of abdominal fat causes disturbance in glucose and lipid metabolism. It is shown that glucose tolerance decreases with age. Although age contributes independently to the deterioration in glucose tolerance, the decrease in glucose tolerance may be partly prevented through changes of life-style variables, energy metabolism is essential for the physiological functions. It may also be possible to delay the aging process of various physiological functions by change of dietary habits, stopping smoking, and physical activity.
著者
門 祐輔
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.428-430, 1997-05-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

症例は82歳男性. 猛暑の夏に重労働をし, 下肢の浮腫, しびれ, 筋力低下, 全身倦怠感が生じ本院へ入院した. 神経学的には下肢遠位部に強い筋力低下, 感覚障害, アキレス腱反射の消失あり. 胸部レントゲンで心胸郭比の拡大, 超音波心臓検査法で左室壁運動の亢進を認めた. ビタミンB1値, 赤血球トランスケトラーゼ活性の低下を認め,「浮腫を伴う多発性神経炎」を呈する脚気と診断した. ビタミンB1の投与でこれらの症状, 所見は消失した. 本例は, われわれが調べえた限りでは最高齢の脚気患者であるが, 最近の報告例は以前に比し高齢化してきている. 脚気は若年者だけの病気と考えず, 高齢者でも多発性神経炎の鑑別診断に加える必要がある.
著者
新開 省二 渡辺 修一郎 渡辺 孟
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.30, no.7, pp.577-581, 1993-07-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
10

基礎代謝量と関連が深い除脂肪量 (LBM) は加齢とともに減少する. しかし, 40歳代から60歳代の中高年者の基礎代謝量とその関連要因についての重回帰分析の結果からは, LBMの減少のみで加齢による基礎代謝量の減少は説明できなかった. そこで, 除脂肪組織成分 (EBM) と脂肪組織成分 (FTM) ごとの基礎代謝産熱量を性別, 年代別に推定した結果, 男女とも40歳代から60歳代にかけ, EBM単位重量当たりの基礎代謝産熱量が漸次減少していることが判明した. すなわち, 加齢に伴う基礎代謝量の低下には, 活性組織量の減少とともに活性組織単位重量当たりの基礎代謝量が減少していることも関与していることが示唆された.中高年肥満女性に15週間の有酸素運動トレーニングを処方した結果, 全身持久力が向上し, 体構成でEBMが増加し, さらにEBM単位重量当たりの基礎代謝産熱量が21%増加した. 他方, FTMの基礎代謝産熱量には変化を生じなかった. このことから, 中高年者の活性組織の代謝活性ひいては全身の基礎代謝を向上する上で, 有酸素運動トレーニングが有効であることが示された.さらに, 70歳代および80歳代の高齢者では個人差が大きいものの, 日常生活活動レベルが高いほど基礎代謝量が高く維持されているようであった. 身体的運動を継続する, あるいは活動的な生活を送ることによって加齢に伴う基礎代謝の低下を抑制し, 老人のエネルギー代謝を改善することが期待できる.
著者
冲永 壯治 古川 勝敏 石木 愛子 冨田 尚希 荒井 啓行
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.136-142, 2017
被引用文献数
1

<p>東日本大震災のような超大型災害では被害の規模が大きく,復興に時間がかかる.しかし5年や10年といったスパンは高齢者にとって未来に希望を持ちにくい長さである.従ってその復興の過程において高齢者の生活の質を保つ努力が必要になる.はたして東日本大震災後はどうであったか,今後どうなるのか,そして新たな大規模災害に対して高齢者を守る手立ては講じられているのか.その問に対して東日本大震災の経過を4期に分け,それぞれの時期に特有な高齢者の健康問題を提示して解決策を模索したい.</p>
著者
金森 雅夫 鈴木 みずえ 山本 清美 神田 政宏 松井 由美 小嶋 永実 竹内 志保美 大城 一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.659-664, 2001-09-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
17
被引用文献数
12 14

デイケアに通所する痴呆性老人のうち, 事前に動物の嗜好, 飼育体験, 動物のアレルギーを聞き, 本研究に関する本人と家族の同意・承諾を得られた7名 (男性2名, 女性5名: 年齢69~88歳, 平均年齢79.43歳 (±6.06) に対し動物介在療法 (Animal Assisted Therapy: AAT) を実施した. 期間は平成11年7月27日から10月12日までの隔週計6回, 場所は対象者が普段利用するデイケア施設にて行ない, 以下の結果を得た.(1) MMSの平均値を比較すると11.43 (±9.00) から12.29 (±9.69) と僅かに上昇した. コントロール群では10.20 (±7.04) から9.50 (±6.26) と僅かに低下が認められた.(2) N-ADLでは, 28.43 (±14.00) から29.57 (±14.47) とわずかに上昇したが, コントロール群では29.70 (±11.02) から28.95 (±10.92) とわずかに変化した.(3) Bhave-ADではAAT群の合計は11.14 (±4.85) から7.29 (±7.11) と有意な下降を示していた (p<0.05). コントロール群は5.45 (±3.27) から5.63 (±3.59) と僅かに上昇していた. AAT群は「D. 攻撃性」,「G. 不安および恐怖」,「全体評価 (介護負担)」において3カ月後は有意に下降していた (p<0.05).(4) 表情分析によるコミュニケーション行動評価では, AAT群は28.71 (±2.87) から28.14 (±3.76) とわずかに下降していたが, コントロール群では, 26.55 (±4.95) から25.35 (±5.58) と有意に下降していた(p<0.05). コントロール群では「うなずき」,「会話量」,「会話内容の適切性」,「接近行動」の4項目においてコントロール群が有意に下降していた (p<0.05).(5) 精神ストレス指標であるクロモグラニンA (CgA) の評価ではAAT群の平均値は0.327 (±0.043) から0.141 (±0.115) とt検定によりやや差のある傾向が認められた (p=0.084). コントロール群において平均値は0.316 (±0.145) から0.377 (±0.153) と有意ではないが, 僅かに上昇していた.本研究は, AATの評価手法を検討することを目的に既存の評価尺度とCgAの測定を用いた. 既存の評価方法を組み合わせることにより患者の変化の側面を捉える可能性が示唆された.
著者
武原 格
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.197-201, 2018-04-25 (Released:2018-05-18)
参考文献数
17

加齢にともなう認知機能の低下が,高齢者の自動車運転に影響を及ぼすことは,広く知られている.しかし,加齢に伴う身体機能の変化が安全運転に及ぼす影響については知られていない.近年眼科領域にて緑内障による視野欠損と運転に関する報告が相次いでいる.変形性関節症や椎間板ヘルニア,それらの手術後影響,難聴なども安全運転に関わってくる.本稿では,これら疾患の安全運転への影響と対応について解説した.
著者
森本 茂人 今中 俊爾 荻原 俊男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.395-400, 1989-07-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

副甲状腺ホルモン(以下PTHと略す)の血圧に与える影響について若年者及び高齢者において比較検討した. 健常若年者15例 (平均年齢±標準偏差: 20.9±1.7歳, 男性7例, 女性8例) および健常高齢者11例 (78.1±5.9歳, 男性4例, 女性7例) に対して合成ヒトPTH (1-34) の100単位を急速静注負荷すると, これら全ての例において, 一過性の降圧効果を認めた. 血圧の基礎値からの最大降下度は, 収縮期血圧において高齢者群(42.5±13.9mmHg)が若年者群 (8.0±8.9mmHg) よりも有意 (p<0.01) に大きかったが, 拡張期血圧においては高齢者群 (25.5±9.4mmHg) と若年者群 (27.3±10.9mmHg) との間に有意差は認められなかった. 平均血圧における最大降下度は高齢者群 (31.9±8.7mmHg) が若年者群 (20.6±7.6mmHg) よりも有意 (p<0.01) に大きかった. 一方, 血清補正カルシウム値は高齢者群 (9.6±0.2mg/dl) において若年者群 (10.0±0.3mg/dl) よりも有意 (p<0.01) に低下しており, またC端に特異性を有する抗体を用いたRIAにより測定した血清中の内因性PTH値は高齢者群 (270±80pg/ml) において若年者群 (150±80pg/ml) よりも有意の高値を示した. 若年者及び高齢者を合わせた全体例において血清補正Ca値は収縮期血圧の最大降圧値と有意の負の相関 (r=-0.52, p<0.01) を示し, また血清の内因性PTH値は収縮期血圧の最大降圧値 (r=0.61, p<0.01) および平均血圧の最大降圧値 (r=0.42, p<0.05) と有意の正の相関を示した. 高齢者においては外因性PTHは血管拡張作用のみならず, 心機能抑制作用をも有し, これらの作用は高齢者におけるカルシウム代謝異常と関係していることが示唆された.
著者
横手 幸太郎 山之内 博 水谷 俊雄 嶋田 裕之
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.35-40, 1992-01-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
18
被引用文献数
3 4

今回我々は, 最近18年間の東京都老人医療センターにおける連続剖検例のうち, 脳の病理学的所見からウェルニッケ脳症と診断された5症例を対象に, その臨床像の特徴を検討した. すなわち, 病理所見上1) 肉眼的に両側乳頭体の点状出血または褐色を帯びた萎縮がみられる. 2) 組織学的に, 乳頭体, 第3脳室周囲, 中脳中心灰白質に出血, 毛細血管の増生, マクロファージの動員がみられるが, これに比して, 神経細胞の脱落は比較的軽度である. 等の特徴を持つものをウェルニッケ脳症とした.年齢は63歳から74歳 (平均年齢67±4歳), 5例とも女性であった. 基礎疾患は神経疾患, 代謝性疾患, 悪性腫瘍, 消化器系疾患と多岐にわたっていた. 生前にウェルニッケ脳症と診断されたものは5症例中1例のみであった. 臨床症状としては, 意識障害が5症例中4例で確認され, うち2例は,「昏睡状態」を呈していた. また, 眼球運動障害と, 不安定歩行・運動失調がそれぞれ5例中2例にみられた. いわゆる3主徴 (ataxia, confusion, ophthalmoplegia) を揃えていたのは5例中2例であった. 臨床検査所見では, 白血球増多, 貧血が5例中3例, 低蛋白血症が5例中4例にみられた. 生前に血中 thiamine 値の測定された2症例では, いずれも正常値を示していた. 生前, アルコール常用者だったものは1例のみであり, 他はいずれも低栄養に関連して発症していた. 5例中4例までは, 発症時, ビタミンの不足した補液を受けていた.比較的容易に低栄養状態に陥り易い老年者において原因不明の意識障害を見た場合, 鑑別診断の1つにウェルニッケ脳症を加えて対処すべきであり, たとえ典型的な症状がなくとも直ちに thiamine の経静脈的投与を開始すべきである.
著者
武田 正中 立花 久大 奥田 文悟 川端 啓太 杉田 實
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.363-368, 1993-05-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
20
被引用文献数
6 9

パーキンソン病 (PD) 患者を痴呆群と非痴呆群とに分け, 事象関連電位 (ERP) と視覚誘発電位 (VEP) を測定し, それぞれ比較検討した. 対象はPD痴呆群9例, 非痴呆群19例, 正常対照群28例である. ERPは聴覚刺激の oddball 課題を用い, VEPは図形反転刺激を用いた. その結果PD痴呆群ではERPのN200, P300潜時およびVEPのP100潜時は正常者群およびPD非痴呆群に比し有意に延長していた. 正常者群とPD非痴呆群との間にはERP, VEPともに有意な差は認めなかった. またPD痴呆群でERPのN200潜時とVEPのP100潜時の間に有意な相関関係が認められた. P300潜時とVEPのP100潜時との間にもその傾向が見られた. 以上の結果より, PD患者においてはERPのP300潜時のみでなくN200潜時も認知機能障害の指標となりうることが示唆された. またVEPのP100潜時の延長は, 網膜レベルよりも中枢の視覚伝導路での障害を示唆するものと考えられた. さらにPD痴呆群では視覚刺激に対する大脳反応性の低下は認知機能や情報処理機能の低下とある程度並行して起こっていくことが示唆された.
著者
鈴木 伸 佐藤 孝一 谷口 正仁 宮川 浩一 小嶋 正義 土肥 靖明 上田 龍三
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.444-450, 1998
被引用文献数
1

リウマチ性弁膜症が減少してきているなか, 動脈硬化との関連が示唆される老人性変性大動脈弁に遭遇する機会が増加してきている. 近年, 心血管系の独立した危険因子とされ, 動脈硬化性病変との関連について注目されているリポプロテイン(a)[Lp(a)]と大動脈弁硬化との関係について, 特に65歳以上の老年者を対象とし検討した. 1995年10月から1996年12月に当院で心臓超音波検査を施行した65歳以上の症例は265例であった. リウマチ性弁膜症や大動脈二尖弁などの9例を除いた256例のうち, Lp(a)を含む血清脂質, 血糖, 血圧などを測定した97例 (65~106歳, 平均77±7歳, 男性48例, 女性49例) を本研究の対象とした. 断層心エコー法において, 大動脈弁に硬化が認められた群 (硬化群) は63例 (平均78歳, 男性24例, 女性39例), 硬化を認めなかった群 (非硬化群) は34例 (平均74歳, 男性24例, 女性10例) に分けられた.単変量解析で硬化群と非硬化群に差が認められたのは, 年齢 (p=0.0090), 性差 (女性) (p=0.0023), Lp(a)(p=0.0124)であった. Lp(a)が60mg/dl以上であった9例全例に大動脈弁硬化が認められた. 血圧, 総コレステロール, HDL-コレステロール, LDL-コレステロール, 中性脂肪, 空腹時血糖には両群間で差は認められなかった. 大動脈弁硬化の有無について多変量解析である判別分析を行ったところ, 女性 (λ=0.9038, =0.0020), Lp(a)(λ=0.8316, p=0.0053) と関連が認められた. 以上の結果から, 老人性変性大動脈弁では血清Lp(a)が高い傾向を認めた.
著者
荒井 啓行 鈴木 朋子 佐々木 英忠 花輪 壽彦 鳥居塚 和生 山田 陽城
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.212-215, 2000-03-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
10
被引用文献数
5 10

Choline acetyltransferase 活性増強作用と神経栄養因子様作用を有する漢方処方の加味温胆湯 (KUT) を用いて, Alzheimer 病 (AD) への治療介入を試みた. 認知機能は, Folstein らの Mini-Mental State Examination (MMSE) スコアで評価し, その年変化を指標とした. Baseline MMSEは, KUT群 (20例) で18.6±6.8, コントロール群 (32例) で20.8±5.6であった. KUTは北里研究所東洋医学研究所薬局処方集第3版に基づき, 煎出し, 平均約1年間服用した. 悪心, 嘔吐, 下痢などのコリン作動性神経刺激症状は認められなかった. コントロール群では, MMSE年変化は4.1ポイントの悪化であったのに対して, KUT群では1.4ポイントの悪化であった (p=0.04). KUTの効果は漢方医学的ないわゆる証やApoE遺伝子型に依存しなかった. KUT投与前後で脳脊髄液tau値やAβ1-42値に有意な変動は見られなかった. KUTは, 少なくとも初期から中期にかけてのADにおいて進行抑制効果を有するものと考えられた.