著者
森 浩一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.9, pp.1153-1160, 2020-09-20 (Released:2020-10-01)
参考文献数
39

吃音は, 呼吸と発声・構音器官に器質的な障害や可動制限が原則としてなく, 吃音中核症状 (繰り返し, 引き伸ばし, 阻止・ブロック) を生じる発話障害である. ほとんどは幼小児期に発症する発達性吃音である. 獲得性吃音としては成人後の心因性が多いが, まれに脳損傷 (神経原性) と薬剤性もある. 診断基準は, 吃音検査で中核症状が100文節あたり合計3以上あることである. しかし, 自分の名前のみ吃る症例等も見られ, 頻度は絶対基準ではない. 発話に際しての渋面や手足を動かすなどの随伴症状は, 吃音にかなり特異的である. 鑑別疾患として, 言語発達遅滞・異常, 構音障害, 発声障害, チック, 場面緘黙, 脳損傷等がある. 早口言語症 (クラタリング) は, 鑑別も必要であるが, 吃音との併発もある. 発達性吃音は3歳前後に好発し, 幼児の1割程度に発症する. 発症要因の7割以上が遺伝性であり, 育て方が原因という「診断原因説」は否定されている. 発吃から2~3年程度までの経過で7割以上が自然治癒する. したがって, 幼児期には楽に話せる環境を整えながら経過を追い, 発話に苦悶・努力や悪化傾向があるか, 就学1年前頃になっても改善傾向がない場合に言語治療を開始する. 幼児期の言語訓練は有効率が比較的高い. 8歳頃以降は自然治癒が少なくなる一方, 独り言ではほぼ吃らなくなり, 状況依存性が強くなる. 学齢期に約半数がいじめやからかいを経験するので, 対策が重要であり, 診断書等で対応する. 学齢後期以降には, 吃音を隠そうとして多彩な, しばしば不適切な対処行動を発達させ, 思春期以降は社交不安障害やうつ等の精神科的問題も併発しやすい. 言語訓練は単独では長期的な有効率が低く, 心理面・社会面のサポートも必要である. 就学・就労支援として, 診断書によって差別解消法に基づく合理的配慮を求めることができる. 発達性吃音であれば発達障害者支援法に基づき, 精神障害者保健福祉手帳の取得が可能である.
著者
谷内 一彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.3, pp.196-204, 2019-03-20 (Released:2020-04-08)
参考文献数
24
被引用文献数
2 2

アトピー性皮膚炎, 花粉症, 食物アレルギー, 蕁麻疹などアレルギー疾患は多くの国民が罹患している. 抗ヒスタミン薬は即効性があるのが利点であり, アレルギー治療における中心的薬物である. 開発初期の第一世代抗ヒスタミン薬はアレルギー疾患に対する効果が認められる一方で, 強い鎮静作用 (眠気, 疲労感, 認知機能障害), 口渇, 頻脈といった抗コリン性作用, そして心毒性などの副作用が問題視されていた. 現在, 花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患症状の緩和に非鎮静性抗ヒスタミン薬が First-line treatment であり, 非鎮静性抗ヒスタミン薬のアレルギー疾患への長期投与の治療効果は高い. 日本では過去に鎮静性抗ヒスタミン薬が格段に多く使用されていたが, 古典的抗ヒスタミン薬の使用はアレルギー性疾患には世界中のガイドラインでほとんど推奨されていない. 鎮静性抗ヒスタミン薬は制吐剤, 抗動揺病, 抗めまい薬などの使用に限定される. 脳内ヒスタミン神経系の機能に配慮し, 脳内移行のより少ない非鎮静性抗ヒスタミン薬が第一選択として求められる. その非鎮静性を判断する場合に, ヒスタミン H1 受容体占拠率を用いることを推奨している. ヒスタミン H1 受容体占拠率の最新データと薬理作用から見た理想的な抗ヒスタミン薬治療について提言する.
著者
松山 裕
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.113, no.1, pp.1-8, 2010 (Released:2011-02-19)
参考文献数
9

臨床研究を行う際には生物統計学による支援が必須となってきている. しかも, 臨床研究において生物統計家に期待される役割は単なるデータ解析者だけでなく, methodologistとしての参画が要求されている. 本稿では, 臨床研究を実施する際に生物統計学に期待される3つの側面 (研究計画・統計解析・データ管理) のうち, もっとも重要な部分である「研究計画」について概説する. 具体的には, プロトコル作成の必要性・研究の内部妥当性の確保・研究の精度の確保について述べる.
著者
草野 佑典 太田 伸男 湯田 厚司 小川 由起子 東海林 史 粟田口 敏一 鈴木 直弘 千葉 敏彦 陳 志傑 草刈 千賀志 武田 広誠 神林 潤一 志賀 伸之 大竹 祐輔 鈴木 祐輔 柴原 義博 中林 成一郎 稲村 直樹 長舩 大士 和田 弘太 欠畑 誠治 香取 幸夫 岡本 美孝
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.6, pp.469-475, 2020-06-20 (Released:2020-07-01)
参考文献数
14

スギ花粉症に対する舌下免疫療法薬が2014年に発売されてから4シーズンが経過したが, 実臨床における診療の実態は不明な点が多い. 2016年, 2017年にも同様の調査を行い報告してきたが, 今回2018年花粉飛散シーズン後に, スギ花粉症に対する舌下免疫療法を開始してから1~4シーズン経過した患者431例を対象として, 服薬状況, 自覚的治療効果, 副反応, 治療満足度, 治療に伴う負担などについて自記式質問紙を用いたアンケート調査を行った. 年齢分布は10歳代と40歳代に二峰性の分布を示した. 自覚的効果については1シーズン目と比較して2シーズン目以降で治療効果を自覚していると回答した患者割合が高い傾向にあり, 治療効果を自覚するためには少なくとも2シーズンの治療継続が望ましい可能性が示唆された. 副反応については, 1シーズン終了群では23.4%の回答で認めたが2シーズン目以降は5.6%, 5.0%, 1.2%と減少する傾向が見られ, 1シーズン継続することができればそれ以降の治療継続に大きな影響を及ぼす可能性は低いと考えられた. 4シーズン目になると積極的に治療継続を希望しない患者がおり, 今後は治療の終了時期に関する検討が望まれる.
著者
田中 是 菊地 茂 大畑 敦 堤 剛 大木 雅文
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.11, pp.1301-1308, 2015-11-20 (Released:2015-12-11)
参考文献数
35
被引用文献数
5

急性喉頭蓋炎は急速に気道閉塞を引き起こし, 死に至る可能性がある感染症である. 呼吸困難がある症例では速やかに気道確保を行うことは言うまでもないが, 喉頭蓋や披裂部などの腫脹はみられるものの呼吸困難を生じていない症例に対して気道を確保すべきか判断に迷うことが多い. 1998年1月から2014年12月までの17年間に埼玉医科大学総合医療センター耳鼻咽喉科において入院加療を行った急性喉頭蓋炎285例 (男性180例, 女性105例, 平均年齢49.6±16.3歳) についてその臨床像を後方視的に解析した. 咽頭痛は全例にみられ, 呼吸困難感を訴えた症例は62例 (21.8%) であったが, 他覚的に高度な呼吸困難症状を呈した症例は17例 (6.0%) であった. 気道確保を行った症例は27例 (9.5%) であった. また, 喉頭蓋および披裂部の腫脹の程度によって, 急性喉頭蓋炎の重症度を1点から5点まで5段階に重症度スコアとして評価した結果, 他覚的に高度呼吸困難症状を認めた症例および気道確保を要した症例はすべて重症度スコアが4点以上であり, 今後前方視的な検討を要するものの, 重症度スコアは気道確保の適応を決定する上で有用と思われた. さらに, 気道確保を施行した群と施行しなかった群とを比較すると, 前者では有意に初診時の白血球数と体温が高く, 咽頭痛出現から初診までの日数が有意に短かったが, 初診時の血清 CRP 値は両群間で差はなかった.
著者
齋藤 康一郎
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.5, pp.614-630, 2014-05-20 (Released:2014-06-20)
参考文献数
146
被引用文献数
7

頭頸部におけるヒト乳頭腫ウイルス (HPV) 感染に関連した疾患の中で, 喉頭乳頭腫は, 特に再発性・多発性の強い, 喉頭気管乳頭腫症 (recurrent respiratory papillomatosis: RRP) と称される症例では手術も多数回におよび, 治療に難渋し, 医師・患者・家族を大いに悩ませる疾患の一つとなっている. 個々の喉頭乳頭腫で経過がまちまちであることも, 事態を複雑化させている. 本疾患は, 100以上の遺伝子型があるHPVの中でも良性型に分類される6型と11型が主としてその発症に関与しているが, その感染源に関しては種々の可能性が報告されている. 小児発症症例と成人発症症例での臨床経過の違いを含め, 疾患の臨床動態に影響する種々の背景因子に関しては, 慢性のHPV感染症という観点からも, 基礎知識として整理し, 把握しておく必要がある. 診断は, 病理組織学的診断によるが, 病変の広がりの詳細な診断には, 特殊光を用いた内視鏡での観察も有効である. 疾患を取り扱うに際しては, 経過中に悪性転化を来す可能性, 腫瘤の好発部位, さらには気管切開に関する考え方も知っておくことが要求される. 決して頻度が高いとはいえない orphan disease であることもあり, 絶対的な治療方法の開発が進まない現状において, 治療の基本は外科的切除であり, 再発・多発症例では補助療法を併用することとなる. 本稿では, 喉頭乳頭腫に関する疫学からHPV感染症としての背景, 診断のコツや疾患とかかわる中での注意点をまとめた. さらに, 外科的治療の基本的な考え方や種々の手技の特徴, 補助療法に関するこれまでの試みと今後の展望まで含めて, 欧米の報告を中心に概説する. さらに, 2006年6月以来, 60症例以上の喉頭乳頭腫の患者にかかわってきた経験をもとに, われわれが現時点で施行可能かつ有効と考え, 実践している, 診断・治療のポイントを挙げる.
著者
栢森 良二
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.2, pp.86-95, 2014-02-20 (Released:2014-03-20)
参考文献数
7
被引用文献数
1

顔面神経麻痺による表情筋機能不全に対して, 神経再生を促せば顔面神経麻痺は回復すると考えがちである. しかし, これは誤っている. むしろ再生を抑制することが重要である. 迷入再生を抑制して病的共同運動を予防軽減することが目標である. 表情筋の役割は, 第1に目, 口, 鼻, 耳の顔面開口部を閉鎖することであり, ヒトでは第2に感情表出である. 神経障害が起こると, 早急に回復させるべく顔面神経核の興奮性亢進が起こり, 開口部の閉鎖促進機序が作動する. 骨格筋と異なり表情筋は皮筋である. 同様に顔面神経幹には神経束構造がなく, 約4,000本の神経線維は密接している. 接触伝導や迷入再生が容易に起こり, 4つの開口部は同時に効率的に閉鎖する合目的性の解剖になっている. 感情表出の維持には,むしろ開口部同時閉鎖を抑制する必要がある. Bell麻痺などの膝神経節部での神経炎では, 脱髄であるニューラプラキシアが生じる. しかし,骨性神経管内では浮腫による絞扼障害が加わる. まず栄養血管閉鎖による求心性の遡行変性が生じる. 内膜は温存されている軸索断裂である. さらに絞扼圧迫が強いと, 遠心性ワーラー変性が生じ神経断裂が起こる. 内膜も断裂しているために, 引き続き迷入再生が生じる. 脱髄と軸索断裂線維は1mm/日スピードで再生し, 遅くとも発症3カ月で表情筋に達する. 神経断裂による再生突起の指向性は,随意運動あるいは筋短縮方向に向かう. 迷入再生回路の形成時間と拡がりは, 随意運動と筋短縮の強度に規定される. 最速1カ月で迷入再生回路が形成される. このために, 発症3カ月で顔面神経麻痺が完治しない症例では, 4カ月以降に迷入再生線維が順次表情筋に到着して病的共同運動が顕在化する. 神経断裂線維再生時に随意運動と筋短縮を抑制することによって, 迷入再生を抑制して病的共同運動を予防軽減することがリハビリテーションの原則である. 強力な随意運動を避け, 頻回のマッサージを行い, 眼瞼挙筋による眼輪筋ストレッチを行うことが基本的手技である.
著者
北原 糺
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.6, pp.910-915, 2019-06-20 (Released:2019-07-01)
参考文献数
10
被引用文献数
1
著者
喜多村 健
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.62-63, 2014-01-20 (Released:2014-02-22)
参考文献数
3
被引用文献数
1
著者
和田 哲郎
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.9, pp.1146-1151, 2018-09-20 (Released:2018-09-29)
参考文献数
26
被引用文献数
1

感音難聴は治療が困難なことが少なくない. 代表的な感音難聴疾患である突発性難聴についても, 現在までにエビデンスの確立した治療法は存在しない. だからこそ, 現時点で最善と考えられる治療戦略を理解し, その有効性と注意点に配慮しつつ日々の臨床を行っていくことが肝要である. 先ごろ, 平成26~28年度厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業難治性聴覚障害に関する調査研究班 (代表: 宇佐美真一) により,「急性感音難聴の診療の手引き」が作成され, 最新の知見がまとめられた. この手引きの内容を踏まえて, 感音難聴の治療について現場の医師が抱くであろうクリニカルクエスチョンへの回答を概説する. また近年, 治療が困難な感音難聴について, 予防を推進していく取り組みがいくつか始められている. 現状で最善と考えられる治療を行いつつ, 並行して予防にも取り組んでいくことが感音難聴の克服のために重要と考える.
著者
半田 知宏 三嶋 理晃
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.7, pp.899-906, 2017-07-20 (Released:2017-08-18)
参考文献数
20

膠原病に伴う肺病変は多彩であり, 間質性肺炎の他に気道病変や胸膜炎, 肺高血圧症などを呈することがある. 間質性肺炎は, 膠原病の予後にかかわる重要な臓器病変である. 病理学的には非特異性間質性肺炎パターンが多く, 特発性肺線維症と比較すると予後は一般に良好である. また, シェーグレン症候群ではリンパ増殖性疾患も併発することがある. 治療に関して, ランダム化比較試験が行われているのは強皮症のみである. 一般にステロイドと免疫抑制剤が使用されるが, 強皮症ではその効果は限られる. 近年特発性肺線維症に用いられる抗線維化薬の効果が強皮症を中心に検討されてきている. また, 治療不応例では肺移植も考慮される. 日常臨床では膠原病の特徴を有しつつも膠原病の診断基準を満たさない間質性肺炎が少なくないため, 現在そのような疾患をどう分類するかについて議論がなされている. それらは現在のガイドラインでは特発性間質性肺炎に含められるが, Interstitial Pneumonia with Autoimmune Features(IPAF) という概念が提唱され, その特徴が検討されている. 膠原病性間質性肺炎の治療に関するデータは十分ではなく, 今後の検討を要する.
著者
伊藤 勇 池田 稔 末野 康平 杉浦 むつみ 鈴木 伸 木田 亮紀
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.104, no.2, pp.165-174, 2001-02-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
19
被引用文献数
2 9

日本人の耳介に関する計測学的研究の多くは1950年代までに報告されており, それ以降, 本邦における耳介の加齢変化についての詳細な計測学的な検討はほとんど行われていない. 今回, 当時よりも体格が向上し, また, 高齢化の進んだとされる現代日本人の耳介形態について, 乳児から高齢者までの幅広い齢層における詳細な計測学的検討を行ったので報告する. 対象は, 0歳から99歳までの日本人1958名 (女性992名, 男性966名) で, 耳長, 耳幅, 耳介付着部長, 耳介軟骨長, 耳垂長, 耳指数, 耳垂指数, 耳長対身長指数, および耳介の型について検討した. 各計測値はほぼすべての年齢群において男性の方が女性よりも大きく, 10歳代までの年齢群に見られる成長によると思われる急激な計測値の増加傾向に加え, それ以降も高齢者群になるに従い加齢変化によると思われる有意な増加傾向を認めた. 各指数, 耳介の型についても同様に成長によると思われる変化と加齢によると思われる変化を認めた. また, 以前の日本人の耳介を計測した報告に比べて耳介計測値の多くが大きくなっていた.今回の計測学的研究は現代日本人の耳介の大きさについて成長や加齢による変化を検討したものであり, 今後, 日本人の耳介形態についての一つの指標になるものと考える.
著者
辻 富彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.5, pp.679-687, 2018-05-20 (Released:2018-06-05)
参考文献数
20

自閉症スペクトラム (ASD) の子供の聴覚過敏について保護者に対するアンケート調査による解析を行った. 症例は小学校2年~高校3年までで現在防音保護具を使用している15例である. アンケートは症状の履歴, 現症, 対策について40項目にわたる項目に対して保護者に記載してもらった. 症状に気づいた年齢は2~5歳が大半を占めたが, 聞こえは普通という例がほとんどであった. 症状は年齢が進むにつれ少しずつ改善している例, 不変な例が半々で一部に悪化している例があった. 嫌がる音は個人差が大きくさまざまであったが, その音圧レベルとは必ずしも相関していなかった. 特に嫌がる音では子供や赤ちゃんの声や泣き声が多く, 大丈夫な音はテレビなど画像を伴う音が目についた. 防音保護具は7歳で使用を開始している例が多く, 使用により落ち着いた生活を送れるという例が多かった. 音に慣れる治療は “有効と思わない” という保護者が多かったが, その一方で自分で掃除機をかけるようになって掃除機の音に慣れたという例もあった. ASD の聴覚過敏には環境対策のほか, 防音保護具の使用が有効であることが確認された.