著者
辻 啓介 市川 富夫 田辺 伸和 阿部 士郎 樽井 庄一 中川 靖枝
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.1241-1246, 1992-08-01 (Released:2008-11-21)
参考文献数
19
被引用文献数
29 34

食塩を1%含む半合成飼料に黄麹または紅麹を添加し,高血圧自然発症ラット(SHR)に3週間与え, SHRの血圧とミネラル代謝に及ぼす影響を検討した. 第1の実験では,1%塩化ナトリウム含有飼料に麹を10%添加した.その結果,黄麹群,紅麹群ともに血圧降下作用が認められ,とくに紅麹群では29mmHgもの低下がみられた.市販の固形飼料に切り替えた後,1週間後でも紅麹群では対照群に比べ有意に低い値であった.血圧に関与するミネラルの出納にはあまり変化はみられなかった.また,血漿のコレステロール,中性脂肪,グルコースレベルについてもほとんど変化はなかった. 第2の実験では,黄麹を5%,紅麹を5%または3%に減少して効果を判定したが,SHRの急激な血圧上昇がとくに紅麹で顕著に抑制された.血漿中のNa量,K量,Na/K比を調べたが,それらの注目すべき変動は認められなかった. 以上のことより,麹,とくに紅麹は,すぐれた血圧降下作用があり,その作用機序は,ミネラル代謝の変動によるものではないことが明らかになった.
著者
関口 伸子 藤村 理佳 村田 容常 本間 清一
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.689-698, 1992-04-01 (Released:2008-11-21)
参考文献数
11

インスタントコーヒー中のFe(II)と結合する成分を検索する目的で,0.1mMのFeSO4を含む0.01M酢酸緩衝液(pH4)を溶出液とするゲル濾過HPLC(カラム平衡法)を用いて実験を行った. (1) EDTAをHPLCにかけると,溶離液中のFeの濃度の平衡がくずれ,EDTAの濃度に比例したFe濃度の山と谷ができた. (2) コーヒー,モデルメラノイジン,フィチン酸,カフェイン,クロロゲン酸の鉄結合性をカラム平衡法で検討したところ,コ一ヒー,モデルメラノイジン,フィチン酸にはFe(II)との相互作用があることがわかった.カフェイン,クロロゲン酸のFe(II)との相互作用は本法ではなかった. (3) イソプロピルアルコールを用いてコーヒー成分の分画をこころみた.70%イソプロピルアルコールが可溶性成分と不溶性成分の分離に一番有効であることがわかった. (4) コーヒーの70%イソプロピルアルコール不溶性成分を水抽出し,トヨパールHW-40 (coarse)で分画したところ,中間に溶離する可視部の吸光度の低い画分と,最後に溶離する赤褐色のクロロゲン酸残基を含む画分はFe(II)との相互作用があった. (5) コーヒーの70%イソプロピルアルコール可溶性成分をトヨパールHW-40 (coarse)で分画したところ,最初に溶離する褐変色素の画分はFe(II)との相互作用があった. (6) コーヒーの70%イソプロピルアルコール不溶性成分を水抽出したあとの繊維状の不溶性物質にもFe(II)との相互作用があった. 終わりにインスタントコーヒーを提供していただいたネッスル株式会社に感謝いたします.
著者
橋本 皓 向井 克憲
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.41, no.10, pp.506-511, 1967
被引用文献数
2

イボタロウカタカイガラムシ雄幼虫を,虫体とロウ殻にわけ,それぞれの脂質組成を明らかにした.<br> (1)虫体とロウ殻の構成重量比は約1:2であった.<br> (2)虫体の脂質含有率は18.6%,ロウ殻のそれは88.8%であった.<br> (3)虫体脂質の主構成成分は,トリグリセリドで82.7%を占め,他に遊離脂肪酸,炭化水素,ワックス,リン脂質,モノ,ジグリセリドなどが存在した.これに対してロウ殻脂質の主構成成分は,ワックスで92.4%を占めた.他に遊離高級アルコール,炭化水素などが存在した.しかしグリセリド,リン脂質は検出されず,虫体,ロウ殻の脂質組成はともに特徴的であった.<br> (4)虫体脂質の構成脂肪酸は, C<sub>18</sub>酸が優勢であった.リン脂質は,ホスファチジルエタノールアミンとホスファチジルコリンが主成分であった.
著者
滝 基次
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.445-448, 1959 (Released:2008-11-21)
参考文献数
11
被引用文献数
1

35% HClO4溶液を展開剤とするペーパークロマトグラフィーによる普通澱粉のアミロースの定量法を設定した.澱粉の1mg/ml溶液の0.mlを濾紙ストリップにつけて風乾後, 35% HClO4溶液で展開し,アミロース区分を展開前線部に,アミロペクチン区分を原帯に分離した.次いでアミロペクチン区分をストリップより切り除き,残余のストリップから35% HClO4溶液でアミロース区分を流下捕集し沃素で呈色せしめて吸光度を測定した.別にアミロースについて同様クロマトグラフィーを行って,回収アミロースの沃素呈色度の標準曲線を求めて,これを基準として澱粉のアミロース含量を算出した.この方法で10種の澱粉のアミロースの定量を行って,従来行われている沃素呈色度による比色法,沃素電圧滴定法で得た定量値と比較した.一般にこの方法で求めた値は他の2方法で求めた値より高かった.更にSchoch法に準じてn-ブタノールを使用して澱粉より分別したアミロペクチン中に沃素で青色に呈色する区分の混在を認めて,この区分の分離を行ってアミロースと推定して定量した.
著者
合谷 祥一 大須賀 葉子 山野 善正
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.25-30, 1985 (Released:2008-11-21)
参考文献数
20
被引用文献数
2 3

市販の大豆サポニンを用いて調製した泡沫とエマルションの物理化学的性質について検討した. サポニン水溶液の起泡性は,サポニン濃度0.1%まで急激に増加し,それ以上の濃度では一定となった.泡沫安定性は,濃度の増加とともに増大した. サポニン水溶液の表面張力は,濃度0.01%まで急激に低下し,それ以上の濃度では一定となった. 水-ケロシン(1:1)のエマルションは,O/W型であった. エマルションを遠心分離した場合,エマルション層と油層の間にゼリ-状の層が生した.静的法および動的法による安定性は,どちらも,サポニン濃度の増加とともに増大し,平均粒径は小さくなった. サポニン水溶液およびエマルションの電導度は,サポニン濃度の増加とともに,直線的に増大した.また,エマルションの電導度は,内部相(ケロシン)濃度の増加とともに直線的に減少した.
著者
手崎 彰子 田辺 創一 森山 恵 福士 江里 川端 潤 渡辺 道子
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.125-128, 1999-02-01 (Released:2008-11-21)
参考文献数
7
被引用文献数
27 40

A methanol extract from grape seeds showed a potent antibacterial activity against Echerichia coli, Salmonella enteritidis, and Staphylococcus aureus. A responsible compound was isolated from the extract to be identified as gallic acid by instrumental analysis. Structure-activity correlation assays revealed that three hydroxyl groups of the compound were effective for antibacterial activity against E. coli and S. enteritidis and all of the substituents of the benzene ring were effective against S. aureus. Minimal inhibitory concentration of gallic acid against E. coli and S. enteritidis was 0.5mM and that against S. aureus was 0.3mM. Ethanol- and salt-containing foods cooperatively acted on the antibacterial activity of gallic acid.
著者
本江 元吉 林田 晋策 井上 繁 小泉 隆司 川原 田肇
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.41, no.12, pp.629-634, 1967 (Released:2008-11-21)
参考文献数
17
被引用文献数
5 4

(1)高濃度アルコール生成に対する米の有効成分は米蛋白質であるオリゼニンであった. (2)各種アミノ酸のうち,とくにトリプトファンとフェニルアラニンがアルコール発酵に有害であった. (3)トリプトフォールは非常に強い害作用を示した. (4)オリゼニンにはトリプトフォールを吸着する能力があった.
著者
松本 達郎
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.300-303, 1957 (Released:2008-11-21)
参考文献数
15

1) 山羊の第一胃ガスを午前11時と午後3時とに採取して分析し,飼斜摂取前後のガス組成の変動の模様,並びに飼料の種類を変えた場合のガスの変化について検討した.実験Iでは1日1回,午後1時に麩と乾草とを給与し,実験IIでは終日繋牧して青草を自由に摂取せしめた.実験IIIでは1日1回,午後1時に麩と乾草に少量の青草を添加して与えた. 2) 第一胃ガスのうち,CO2は飼料摂取後急激に増加するが,空腹時には減少する.CH4の生成は徐々に継続的に行われる.従って採食後のCO2/CH4の比は採食前の値の2~3倍に増加する. 3) 実験Iでは第一胃ガス中に多量のH2が存在し,そのパーセンテージは採食前と採食後の値がほとんど同じであった.即ち採食後急激に増加するCO2の生成と平行して, H2の生成も急増していることを示すものとして注目された.然し実験II及びIIIではH2は全く存在しないか,存在する場合も極めて少量であった. 4) 1日1回飼料を給与した実験I及びIIIでは,午前と午後の第一胃ガスの組成は,かなり著しい変化を示したが,終日繋牧して自由に青草を摂取せしめた実験IIの場合は,第一胃ガスの発生は終日盛に行われ,その組成は午前,午後ともにほとんど同じであった. 5) 青草の摂取は第一胃ガスの生成を盛にする.その原囚の一つは,青草が唾液の分泌量を増加させ,唾液中の炭酸塩に由来するCO2の生成量を増加させる為であると推論された.
著者
山内 邦男
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.240-245, 1960 (Released:2008-11-21)
参考文献数
25
被引用文献数
1

レンニンによる凝固の諸過程にある脱脂乳即ち, (1) レンニン無添加脱脂乳, (2) 2°でレンニン添加後未放置の脱脂乳, (3) 2°でレンニン添加後一昼夜放置した脱脂乳,及び(4) 35°でレンニン凝固させた脱脂乳を低温で超遠心分離し(78,000G, 60分),上澄液に残留するレンニン効力,窒素,カルシウム及び燐を定量した.同様の実験をカルシウムを添加した脱脂乳についても行った.上澄液のレンニン効力から求めると,添加したレンニンの約1/2が沈澱として除かれる計算となり,これはおそらくカゼインミセルとの会合によるものと推定された.上澄液に残るレンニン効力は(2), (3)及び(4)において差は認められなかった.カルシウム無添加脱脂乳では全カゼインの約10%がprimary reaction完結後の上澄液(3)にもなお残留した,レンニン作用により全カゼインの約1%の非蛋白態窒素及び約4%の非カゼイン態窒素が生成した.沈澱のカルシウム/窒素比及び燐/窒素比は(1), (2), (3)及び(4)においてそれぞれ有意な差はないようであった.更に凝固生成後のカードの硬化と収縮とはレンニンの継続的作用とは無関係に起る非酵素的変化であることを馬血清を用いた阻害実験で確認した.
著者
浜野 光年 青山 康雄 杉本 洋
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.401-407, 1976 (Released:2008-11-21)
参考文献数
30

(1)示差走査熱量計(DSC)を用いる熱分析法で,糖成分および,粉末醤油中の水分の吸湿状態が測定できた.水分(挙動)は, 50°C~80°Cにかけて1つの吸熱ピークとして観測された. (2)イオン交換樹脂で醤油より分画した,オリゴ糖,ヘキソースおよびペントースを含有する中性糖区分は,熱分析や吸湿曲線の結果から,相対湿度35~40%以上の領域で,粉末醤油の吸湿状態に大きく影響を与えていることがわかった. (3)各種糖成分をそれぞれ加えた粉末醤油は,+glucose≧+sucrose>+maltose>+mannose≧+galactose≧無添加粉末醤油>+soluble starch>+arabinose>+xyloseの順で平衡吸湿量が増加していた. (4)醤油中の酸性多糖類は,易乾燥性,高保水能を示し,品質上プラスに寄与する.その中に含まれる水は,粉末醤油や中性糖区分に含まれる水にくらべて,結合様式の強固な水であると思われる. (5)多糖の防湿効果を検討したところ,デンプン糖や酸化澱粉の構造の間隙に,粉末醤油中の易水分収着物質が取り込まれて,吸湿性が低下したと推定された.
著者
小菅 充子 森 洋子 山西 貞 渕之上 弘子
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.259-262, 1978 (Released:2008-11-21)
参考文献数
2
被引用文献数
3 5

The aroma concentrates were prepared from the fresh tea flush of both var. Sayamakaori (a newly registered variety) and var. Yabukita (a popularized variety for green tea), and also from their made tea “Sencha.” Combined gas chromatographic-mass spectrometric analysis was performed on the four aroma concentrates, using a polar and a non-polar columns. By comparison of the chromatograms of “Sencha” from var. Sayamakaori and var. Yabukita, it was clearly recognized that the amount of nerolidol, cis-jasmone and indole were much larger in var. Sayamakaori than in var. Yabukita. On the other hand, linalool was much smaller amount in var. Sayamakaori of both fresh tea flush and “Sencha.” These facts seemed us to explain the aroma characteristics of var. Sayamakaori which is more heavier and lasting floral aroma.
著者
横塚 保 大下 克典 菊地 忠昭 佐々木 正興 浅尾 保夫
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.189-196, 1969 (Released:2008-11-21)
参考文献数
30
被引用文献数
4 4

(1) 液体培養により,わが国の麹菌工業に関連の深い種麹菌類およびその他の麹菌類約70菌株について,とくに注意を要する麹菌の生産毒と考えられるAA, KA, β-NPAおよびOAの生産性を検索し,それぞれのものは個々の菌株によって生産性に非常な差異のあることを知った.同時にX-1やNo. 48のように,それらの生産に関して特異的な菌株を野生菌の中から見いだした. (2) 固体麹中のAAの定量法として,銅塩を作り分離定量する新法を設定した. (3) AA, KA, β-NPAおよびOA生産菌の代表株をそれぞれ2,3株ずつ選び出し,それらを用いて固体麹(醤油麹)を作って,それぞれの生産量の経時的変化を求めた. (4) AAは経時的変化の結果,著しくAAを生産するX-1においてですら,わが国の麹菌工業で使用する通常の製麹期間では30mg/kg koji程度しか生産されず,毒性的問題量が3030mg/kg kojiであるのに比し,きわめて少なく,通常は全く問題にならないが,その性質から,味噌,味醂,清酒工業等においては考慮すべき点のあることを指摘した. (5) KAはその毒性も弱く,毒性的問題量が15,150mg/kg kojiであるのに比し,実際の固体麹中での生産量は最高時で約2001mg/kg kojiであリ,問題なかった. (6)β-NPAは比較的毒性が強く,水溶性であり,通常の製麹期間内に生産量が最高を示す点等,問題はあったが,その生産量は特異的な生産菌No. 48ですら最高15mg/kg koji程度であり,毒性的問題量が1515mg/kg kojiであるのに比し,きわめて少なく,しかも,β-NPA自体が代謝中間産物で,容易に生産菌の代謝系によって分解される点を考慮し,問題ないことを指摘した. (7) OAは固体麹中から検出されなかった,生産を考慮しても,それは330mg/kg koji以下であり,毒性的問題量が4545mg/kg koijであるのに比して問題はなかった. (8) いずれにしろ,わが国の麹菌工業にとって純粋食品の立場から,AA, KA, β-NPAおよびOAのごとき有毒成分を最初から生産しない種麹菌を使用することが望ましく,事実,そうしたものは幾らもあるから,それらを種麹菌とすべきで,今後の種麹菌選択の一項目としてこれらの生産性を考慮すべきであることを指摘した. (9) マウスを用いて醤油および醤油麹のエーテル抽出物について毒性試験を行ない,それらの無毒性を裏づけた.