著者
稲本 由美子 木原 健二 飯田 一史
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.284, 2017

はじめに 重症心身障害児者にとり、「呼吸」を安楽に維持することが生命予後、QOLの向上につながる。呼吸ケアというと、吸引・呼吸器の管理など医療的ケアをイメージするが、姿勢管理、口腔ケア、緊張緩和のための心理的関わりなどのほうが重要である場合も多い。日常生活の中で多職種がそれぞれの専門性を発揮して適切な介助、対応を行うことが重要であると考える。しかし、現状は職種間の知識・技術の格差があり、専門性を発揮した呼吸ケアを実践しているとは言い難い状況である。職員全体の「呼吸」に対する知識の底上げを行うことが重要であると考える。さらに、知識だけでなく、それを実践に活かすためにはOJTは不可欠であり、指導する立場の職員を育てることも重要である。 今回、施設が求めるそれぞれの職種(看護師・支援職・セラピスト)の呼吸ケアにおける役割を明確にすること、「重症心身障害児者の呼吸障害」の基礎的な知識を職種間格差なく持てること、個々の症例に合わせた適切な呼吸ケアを実践できることを目標とし、系統的な「呼吸研修プログラム」の立ち上げに取り組んだので、その経過を報告する。 活動内容 1.「呼吸研修検討会」定例会議1回/月を実施。「呼吸研修プログラム」の内容検討し、計画立案を行う。 2. 研修会の実施・評価 結果 呼吸の仕組み・重症心身障害児者の呼吸障害とその対応・呼吸リハビリの基礎と実際など基本的に知っておくべき知識と技術を得るための「ベーシックコース」計5回と指導的立場を担うための知識と技術を得る「アドバンスコース」計3回を計画・実施した。「ベーシックコース」は対象職員(看護・支援・セラピスト)約140名中、各回約50〜80名参加。「アドバンスコース」は対象者を限定して実施した。 今後の課題 研修内容を「難しい」と感じた職員に対して理解度のチェックとフォローアップ実践に活かすための、職種別知識・技術の研修プログラムの検討
著者
飯田 一史 中平 真由美
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.286, 2016

はじめに在宅で過ごす重症心身障害児(者)の高齢化、重度化が進む中、短期入所のニーズは年々増加し、当センターでも4年間で登録者数は102人から225人へ増加している。気管切開や呼吸器装着の超重症児から行動障害を伴う動く重症児まで、多彩な状況の方が利用されている。今回、その方々を安心・安全に受け入れるために家族と職員・部署間で情報を正確かつ効率的に伝達、共有する方法に取り組んだので成果を報告する。方法平成26年4月に医師、看護師、支援員、ケースワーカーで構成される短期入所推進委員会を発足させ、以下の点に取り組んだ。(1)入所時の診察から関わる看護師の配置。(2)施設共通のADL表を作成、電子システム化する。(3)短期入所利用中のインシデントリストを作成、カルテに綴じる。(4)利用3日前の家族からの事前連絡を開始。(5)短期入所新聞を月1回発行。結果(1)(2)の取り組みにより収集する情報内容が充実、整理された。(3)の取り組みにより以前のインシデントの確認が容易になり、再発予防に役立った。(4)の取り組みにより事前の体調確認が可能となり、体調不良のまま利用することを防げた。(5)の取り組みにより情報の発信が可能となった。以上の取り組みの結果、生命に関わるアクシデントは平成26年4月以降認めていない。また短期入所中に体調不良となり入院に切り替えた件数は、平成27年度は延べ561件中3件であった。考察体調の変化を来しやすい重症児者を受け入れるためには、個々の情報を職員・部署間で共有することが必須であるが、膨大な情報の共有は困難である。今回情報の共有に重点を置いて取り組んだ結果、ケアの統一ならびにリスク防止につながり、家族との信頼関係の構築につながった。今後の課題は、慢性的な短期入所ベッドの不足と、病棟の空床利用のため感染流行時の利用停止などの問題に加えて、短期入所中のQOL向上にも取り組んでいく必要があると思われる。
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.329, 2019

協力:学校法人第一平田学園 中国デザイン専門学校今回のファッションショーを企画するにあたり、まずはじめに、地元岡山・倉敷の「ジーンズ」が頭に浮かびました。日頃、身体や生活に合ったおしゃれを楽しむことや出かけることが難しい重症心身障害者の方が、ちょっとおしゃれをしてお出かけしたくなるような、カジュアルファッションをイメージして構成しました。この思いに賛同してくださった中国デザイン専門学校は、国内でも珍しくファッションデザイン科にデニムジーンズ専攻コースを有しており、より専門的な技術やアイデアでご協力いただきました。3名の出演者やご家族には、「おしゃれ」についておたずねしましたので、そのコメントをもとに今回の出演者をご紹介します。なお、実名でのご紹介については、ご家族の承諾をいただいています。坂万優子さんは、ピンクや淡いパープル系の色が好みで時々スポーティーな服も着ますが、基本的に可愛らしいデザインのものが好きです。レギンスや短パン、スカートもよく着ています。最近はお姉さんの結婚式におしゃれをして出席したり、成人式ではドレスを着たりして、特別な日のおしゃれも体験しました。髪型はお姉さんお勧めのボブヘアーですが、お出かけの時にはセットしてアレンジしたりして、トータルなおしゃれも考えています。池田千鶴さんは、小柄ということもあり、水玉やフリルのついた可愛い系の服が好みでした。最近では、「いまどき女子」の服に挑戦したり、外出するときは、ガラッと雰囲気を変えて大人っぽい服を着たりすることもあります。歌や音楽が好きで、曲に合わせて笑顔でリズムをとる姿が「かわいい、かわいい」といわれますが、おしゃれをすると、さらに皆から「かわいい」と言われるので、おしゃれすることは大好きです。宮木俊輔さんは、在宅で暮らしながら、通所事業所に通っています。医療的ケアが濃厚で、変形も強いので、着る服装は限られますが、おしゃれは大好きです。お母さんと一緒にその日に着るTシャツやポロシャツを選ぶことから朝がスタートします。また、車椅子はどんな服装でも素敵に見えるように、フレーム以外は全て黒で統一しています。好きなことはたくさんありますが、出かけて行く先々で、人と出会うことが何より大好きです。「かっこいい!」という言葉をかけてもらうととても嬉しいですが、中でもお祖母さんがいつも体をさすりながら掛けてくれる言葉が最高に嬉しいです。「俊ちゃんは、つらいこともいっぱいあるじゃろうに、心がきれいじゃから、いつも満面の笑顔でおれるんじゃなぁ。この笑顔がみんなに元気をくれて、幸せにしてくれとる。えらいなぁ。一番かっこいい!俊ちゃんは、かっこいい生き方をしとるよ」。中国デザイン専門学校の先生方や学生の皆さんは、何度も施設に来てくださり、出演者の生活の様子や車椅子のこと、介護のことも考えて、一人ひとりの「おしゃれ」のためのデザインを提案してくださいました。機能的な面からのちょっとした工夫やカジュアルファッション特有の面白さをお伝えできたらと思います。また、それらを着こなしているモデルの表情もご覧下さい。担当:旭川荘療育・医療センター出演者(敬称略50音順)池田 千鶴坂 万優子宮木 俊輔
著者
山本 梨絵 林 明子 高畑 卓子 芝山 和則 高橋 久恵
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.263, 2015 (Released:2021-03-10)

目的 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))は不安や気分障害、中枢の機能障害のために睡眠リズムが不整でしばしば不眠が見られる。オルゴール音楽は睡眠障害に有効との研究があるため、重症児(者)にもオルゴール音楽が催眠効果や中途覚醒に有効か検証する。 方法 消灯から入眠までに1時間以上を要する、または中途覚醒があり睡眠時間が継続しない重症児(者)10名を選出。オルゴール音楽のCDを20時から4時まで流す。第1期:音楽非介入期、第2期:音楽介入期、第3期:音楽非介入期に分け、各28日間、21時から4時まで1時間毎に睡眠状態を記録。消灯から熟眠に要する時間は、測定開始から熟眠判定した時間を算出。睡眠状態については覚醒3点、浅眠1点、熟眠0点で調査し、中央値の比較とウィルコクソン検定を行う。 結果 消灯から熟眠に要する時間において、第1期と第2期では中央値は1.5時間から0.75時間となり熟眠までに要する時間は短縮された。第2期と第3期を比較し、中央値は0.75時間から2時間となり熟眠までに要する時間が延びた。睡眠状況において、第1期と第2期では中央値は9.5点から7点となり、熟眠、浅眠が増加した。第2期と第3期の比較では中央値は7点から9点となり、オルゴール音楽を中止した後も効果の持続がみられた。 考察 重症児(者)は中枢神経系に障害を持つことから、睡眠−覚醒パターンを整えるケアは重要である。今回、オルゴール音楽を睡眠前に流すことでヒーリングミュージックによるリラクゼーション効果が導かれ、副交感神経優位の状態に変化したと考えられる。また、侵襲が少なく簡易的なオルゴール音楽を取り入れたことで重症児(者)の心理的安定を促進し催眠状態に導くことが出来たと考える。 結論 睡眠前よりオルゴール音楽を取り入れることで、睡眠−覚醒パターンに変化が見られたことから、重症児(者)に対しても有効であることが明らかになった。
著者
渡邊 絵都子 吉岡 純希 吉野 友美 本田 真美
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.319, 2018

はじめにデジタル・ホスピタル・アートとは患者や医療者のニーズに合わせたデジタルアートの実践によりケアの支援を目指すものである。背景当クリニックでは、一般診療・発達専門外来などに加え、重症心身障害児の日中ショートステイを実施している。その活動の一部で個々のニーズに合わせたデジタルアートの実践を行っている。方法方法1:楽器の音によってプロジェクションマッピングされた映像が反応したり、児童が選んだカードの模様が投影されることを実施した。方法2:カード型のRFIDを利用し、近づける動作に伴い音やキャラクターが出てくるデジタルアートを実施した。結果症例1:クリスマスイベントとして実施し、児童のプロジェクションマッピングへの注目は高く、カードの選択では首を振ったり、視線を背け明確な意思を示した。症例2:カード型のRFIDによって反応する因果関係は理解し、自分好みの反応を何度も繰り返し楽しむ様子と周囲に共感を求める場面がみられた。症例3:RFIDのカードを保持できない児童には指に引っかけ、上肢を能動的に動かせるよう環境設定することで介助なく、何度も上肢を動かす様子がみられた。まとめ重症心身障害児(者)の多くは、非言語コミュニケーションを使っているが、自身で明確な意思を表出したり、身体的に行動することが難しいことから、受け身的な活動やコミュニケーションになりやすい。自己決定・自己選択がなされるかは、本人の動機を満たすためのどのような選択肢があり、どのようにしてその中から選択をし、選択を行った結果、どのようなことが引き続き起こり、その変化が、自分にとってどのような意味を持つかによって左右される。個々に合わせたデジタルアートを提案することで、自分で操作し、相互が共感し合う活動場面を設定する中に、コミュニケーション行動が発達する重要な要素が期待される。
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, 2017

出演 阿部未音 高橋幸太郎 牧野刻世 大友志空 赤間 愛 郷内星菜 髙橋桃子 協力 ファッション文化専門学校DOREME、陽光福祉会エコー療育園 重症心身障がいの方々は病気や障がいのために生きづらさを抱えていますが、日々携わる私たちはその幸せをいつも願っています。そして、その笑顔が実は私たちの幸せでもあることに気づきます。お互いに支え支えられる関係から、うまれてきてよかったと思える社会を作りたいですね。 障がいの重い方々も私たちと同じようにファッションを楽しみたいと思っています。しかし、身体の不自由さから衣服の着脱が簡単でないことや、デザインよりも機能的である(例えばおむつ替えが楽にできる)など介助する側の利便性が優先され選択肢も少ないと思います。また、成長して大人になっても、その体格に合う市販の服はこども用のものしかなく、年齢相当の色彩やデザインを選ぶことができません。そこで、7人の方にモデルさんになってもらい、着てみたいファッション(スーツ、ドレス、着物など)をファッション文化専門学校DOREMEの学生さんや先生と一緒になって考え作りました。輝く笑顔に会いに来てくださいね。(モデルの氏名の掲載はご本人・保護者の了解を得ています) 阿部未音さん 小さな頃から小鳥のさえずりや枝葉の揺れる音、そして動物とのふれあいが大好きな女の子でした。小中学校では、ジャニーズやおしゃれにも興味を持ち、特に創作活動では独特な色彩感覚やセンスで周りの大人たちを驚かせていました。女の子はだれでもおしゃれが大好き、お年頃ならなおさらです。今日は「究極の普段着」をテーマにしたファッションを披露しますね。 高橋幸太郎さん 光明支援学校高等部3年訪問生です。脳性麻痺で気管切開胃瘻で寝たきりですが、イベントには全力で参加して楽しむ、恋をして音楽聞いてゲーセンに行って学校で居眠りするという、17歳の男子高校生として青春の日々を過ごしています。男子高校生といえば制服とジャージがあればいい!でも社会人になるにはスーツも必要だし、というわけで三つ揃えのスーツをお願いしました。手作りの靴にもご注目ください。 牧野刻世さん 新生児仮死で産まれ、NICUで重い障がいが残ることを告知されたあの日から6年。生後7日目に初めて抱っこできた時の温もりと感動を今でも鮮明に覚えています。トキセのために、お洋服をデザインから作ってもらうなんて、初めてのこと!とっても嬉しいし、それを着た姿をみんなに見てもらえるなんて、ドキドキワクワク。しいあちゃんとペアの袴姿をお楽しみくださいね。 大友志空さん 通園とデイに行き、楽しいお友達、優しい先生に囲まれ毎日楽しく過ごしています。昨年までは入退院をたくさん繰り返し、辛いことも苦しいことも乗り越え、お家では一番の頑張り屋さんです!チャームポイントはくるんとした長〜いまつげ。重い障がいがあってもこんなに素敵な服を着られるなんて幸せ♡ ふわふわ素敵な袴でとびきり可愛くなったしいあを温かく見守ってください。 赤間 愛さん 23歳には喉頭気管分離手術を受けてかわいい声を失いましたが、今は口からもりもり食べてこんなに元気です。手術をしてくれた先生が「前の笑顔に戻してあげるね」っていってくれた言葉が忘れられません。小さい頃からファッションショーに出演するのが夢でした。DOREMEの先生、学生さん、ショーの演出をしてくれたスタッフのみなさんありがとう。 郷内星菜さん 私は仮死状態で産まれ、よく尻もちをついていましたが段々筋肉がついて上手に歩けるようになりました。中学生の今では、自分の名前を漢字で真似をしてかけるようになりました。私の夢は看護師になる事、人の役に立てるよう私は夢に向かってがんばります。ファッションショーに出てみない?と言われてずっとこの日を心待ちにしていました。今日はピンクのウェディングドレスをご覧くださいね。 髙橋桃子さん おしゃれ番長。20歳のお誕生日を迎えてお酒を解禁、当面の目標は国分町に行く事です。人生と梅酒はやっぱり'ロック'じゃないと!今回の着物の製作は言葉でのコミュニケーションが難しい私にとって、自分の想いをどう伝えていけるかチャレンジでもありました。学生の皆さんの愛情が細部にまでたくさん詰まった'世界に1つだけ'の着物です。ありがとう!
著者
藤井 鈴子 中友 千芳子 大藤 祥子 宮崎 愛 下司 洋子 興梠 直美 石橋 純子 秋山 仁美 辻 愛実
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.222, 2014

今年のファッションショーは、重度の障害があっても本人にとって機能的かつ好みのファッションを通し、「夢かなえる装い」を大きなテーマにしています。今年のファッションショーを担当させていただくことになった南京都病院の重症心身障害児者病棟では、日々の活動や行事を通してより豊かな生活を送って頂きたいという想いを大切にしています。その中でも毎月のお誕生会や季節行事の際には、職員が作った色とりどりの衣装を楽しんでもらっています。身にまとうことで「衣装」を介しておのずと会話が広がり、その場は楽しい雰囲気と笑顔に包まれるのです。装い一つで、利用者の皆さん、保護者、職員の気持ちに一体感が生まれ、「衣装」が楽しいひと時を過ごすための重要な役割を果たしています。今回のモデルは、夢多き女性3名です。一人目の女性は、おしゃれに興味がありファッション雑誌を見るのが大好き、夢はモデルさん。当日はモデルになった気分を思いっきり感じたいと思っておられます。二人目の女性は音楽大好きな女性、どんな曲でもピアノを奏でることができます。夢は大好きなピアノやオルガンを発表会で演奏することです。発表会用の衣装を着てリサイタルショーをします。みんなで一緒に歌いましょう。3人目の女性は理想のボーイフレンドと一緒にデートをするのが夢… 素敵な洋服でお出かけします。大好きな人が振り向いてくれますように、とそれぞれ夢かなえる装いをテーマにしています。ファッションショーの最後には南京都病院の利用者の皆さんがおしゃれを楽しまれているスライドを紹介いたします。テーマは「花火大会」。花火のようにきれいに輝く笑顔をお届けします。日本の古都、京都らしさを感じていただき、幸せな気持ちになっていただけたら幸いです。このように身にまとうことを大切にしている南京都病院ならではの行事の様子と衣装をブースにて展示しております。行事に参加されている重症児病棟の利用者の皆さんの輝く笑顔と共にご覧いただければ嬉しく思います。これからもファッションを通して笑顔の輪が広がりますように……。
著者
藤井 鈴子 中友 千芳子 大藤 祥子 下司 洋子 興梠 直美 石橋 純子 秋山 仁美 辻 愛実
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.113-115, 2015

昨年のファッションショーは、重度の障害があっても本人にとって機能的かつ好みのファッションを通し、「夢かなえる装い」を大きなテーマにしました。南京都病院が中心となり日本女子大学の先生と一緒に半年以上前から試行錯誤しながら進めてきました。モデルには、おしゃれに興味がある3名の利用者の方が、出演されました。会場でその人らしく一番輝ける演出を…ということでファッション雑誌をいつも見ているMさんには雑誌から飛び出てきた女性を、大好きな人にいつも素敵な笑顔を見せてくれるUさんにはデートの演出を・・オルガンの演奏をしているときが一番幸せそうな表情をされているYさんには演奏会を・・体調などを心配していましたが、3名とも本当に素敵な笑顔で出演してくださり嬉しかったです。特にYさんは全盲のため、慣れない場所での演出が本人の負担になるのではなど、ファッションショーが終わるまでたくさんの不安を抱えていましたが、本番では輝く笑顔を見ることができ、衣装を提供して頂いた日本女子大学の先生、南京都病院のスタッフともに安心しました。南京都病院の重症心身障害児者病棟では、日々の活動や行事を通してより豊かな生活を送って頂きたいという想いを大切にしています。その中でも毎月のお誕生会や季節行事の際には、職員が作った色とりどりの衣装を楽しんでもらっています。装い一つで、利用者の皆さん、保護者、職員の気持ちに一体感が生まれ、「衣装」が楽しいひとときを過ごすための重要な役割を果たしています。このように身にまとうことを大切にしている南京都病院ならではの行事の様子と衣装をブースにて展示しました(展示ブースの写真参照)。ファッションショーでは、3名が代表として出演して頂きましたが、病院内には笑顔の素敵な利用者の方がたくさん入所しておられます。全員に出演してほしいという職員の想いから、南京都病院の利用者の方々がおしゃれを楽しまれているスライドを紹介しました。この笑顔はおしゃれをして嬉しいだけではなく「かわいいよ」「きれいだね」と周りのスタッフから愛され注目されたことにより生まれたものだと思います。また、京都らしさを…という気持ちから、甚平や浴衣を着てきれいに輝く花火の打ち上げとともに演出しました。輝く笑顔が皆さんの心に届いたでしょうか?今年も重症心身障害児者のファッションショーが開かれます。今までだと、衣装に包まれた利用者の方の笑顔や演出を楽しく拝見させていただいていただけだったのですが、ここまでの道のりには、日本女子大学の先生との何回もの打ち合わせやリハーサル、職員や、会場の方、たくさんの人たちの協力で開催されているのだと思うと、また違う熱い気持ちで拝見させていただくこととなるのだろうと思います。今回身にまとうということ、「衣装」を介して個性が光り、一人ひとりが大切にされ注目されることにより周りが笑顔に包まれ、見ている人たちに深い感動を与えることができるということを学ばせて頂きました。これからもファッションを通して笑顔の輪が広がりますように……そして人と人の優しいつながりができますように……Mさん…おしゃれに興味がありファッション雑誌を見るのが大好き、夢はモデルさん。当日は大好きな主治医の先生とモデルになった気分を思いっきり感じていただきました。スポットライトを浴び、素敵な笑顔が見られました。Uさん…理想のボーイフレンドと一緒にデートをするのが夢……素敵な洋服でお出かけします。当日は年下の男の子のBGMが流れる中、大好きな人からバラの花束を頂きました。とても幸せそうな笑顔が見られました。Yさん…音楽大好きな女性、どんな曲でもピアノを奏でることができます。夢は大好きなピアノやオルガンを発表会で演奏することです。発表会用の衣装を着てリサイタルショーをしました。大好きな『バラが咲いた』の曲を演奏し、会場のみなさんと歌うことができました。(出演者の皆様には写真掲載の承諾を頂いています。)四季折々の衣装とともに笑顔と優しさを届けます。
著者
内海 真衣
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.307, 2018

目的Lesch−Nyhan症候群は舞踏病様アテトーゼや口唇、指等を噛む自傷行為等により生活面で様々な困難さを抱えやすい。自傷行為に対する有効な治療法はなく身体抑制等、対症療法が用いられる。本報告では入所当初、情緒不安定さが顕著であった本症候群利用者に対する心理支援について検討する。症例19歳、男性A。家族との面会・外泊前後で情緒不安定となり「寂しい」「家に帰りたい」と訴え、より強固な身体抑制を求めることもあった。また自傷行為や汚言に対しては「わざとじゃない」「みんなに僕の病気のことをわかってほしい」と訴え、自分を「情けない」と涙することもあった。経過入所生活と情緒の安定を目的に心理支援を行った。心理士の勤務にあわせて週4〜6回、約30分の個別の時間を設けた。個別の中ではAの話を丁寧に聴き共感的理解に努めた。そしてAの思いを関係者に伝え関わりを助言し周囲とつなぐように支援した。またAが安心して楽しく過ごせるような環境調整を他職員と協働して行った。少しずつ個別の中で気持ちを言語化し消化できるようになり調子の波はありながらも落ち着いて過ごせる日が増え、約10か月後には「ここに来てよかった。僕のことを理解してくれる人がいるから」という言葉が聞かれるようになった。考察Aの行動障害や舞踏病様アテトーゼは精神的ストレスや気持ちの揺れと連動して強まり、自分の意志で抑制できないことで情緒的に混乱した。そして汚言は周囲との意思疎通を困難にした。これらがAの心理的苦痛となっていた。このようなAの体験世界や心理的側面に理解を示しながらAの健康的で肯定的な部分と対話するように関わり続けたことが情緒の安定につながったと考えられた。そして入所生活の安定には職員から障害特性も含めて理解されているという安心感や介助等に対する信頼感、生活上の楽しみや役割が寄与したと考えられた。倫理的配慮本報告にあたり本人および保護者の同意を得た。
著者
森岡 祐貴 安田 寛二 上村 治 中島 務
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.308, 2018 (Released:2021-01-21)

症例 40代女性。出生時異常なし。6か月から発語が遅く、発育の遅れを感じていた。30代になりパーキンソンニズムが出現。2015年WDR45の異常を認め、βプロペラタンパク関連神経変性症(以下、BPAN)と診断された。家族内には同疾患発生を認めない。 入所時所見 発語なく意思疎通は不可能。嬉しいときには笑顔を見せることあり。音がする方向へ視線を向ける。2015年まで1−2mの手引き歩行が可能であったが、肺炎で入院したのを機に歩行困難となり、寝返りをうつことが不可能な状態。胃瘻造設あり。食事は経腸栄養。前医よりレボドパ、ロチゴチンが処方されていた。 経過 2016年7月当センターに入所。ロチゴチンを増量し、レボドパは継続投与していた。2017年2月両側気胸のため、近医救急病院へ搬送。転院先ですべての薬剤を打ち切られ22日後、再入所。再入所後49日、表情が硬いため、レボドパ再開。6月血中亜鉛濃度の低下を認め、 酢酸亜鉛水和物を投与したところ、表情が穏やかとなった。11月にレボドパを中止しているが症状の悪化を認めない。その後DHA、グルタチオンをサプリメントで摂取し、表情豊かで眼球運動がスムーズになった。 結論 BPANはWDR45の異常により進行性ジストニア、パーキンソンニズム、認知障害を呈する神経変性疾患である。根本的な治療薬はなく、パーキンソンニズムに対して、パーキンソン病治療薬が投与される。パーキンソン病治療薬はハネムーン期間を過ぎると増量をしなければならず、長期服用によりwearing off現象、ジスキネジア、精神症状などを起こすことが知られている。BPANは小児期から20代に発症することが多く、服用期間は長期間になる。脳内での鉄代謝異常のメカニズムは解明されていないものの、神経変性症に対して亜鉛治療や8−OH−quinolineを基にした除鉄剤が開発されつつある。BPANのように患者数が少ない病気は治療薬の開発が難しいが、オーソモレキュラー的アプローチにより症状の緩和、改善への寄与が期待される。
著者
丸箸 圭子 村岡 正裕 中農 万里 横井 彩乃 山田 晋也 中村 奈美 脇坂 晃子 大野 一郎 村上 婦美
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.327, 2018

はじめに当院では2012年より多職種による緩和ケアチーム(以下、PCT)を立ち上げ活動している。その中で重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の緩和ケアに取り組んだ5例について報告する。症例症例1:亜急性硬化性全脳炎 誤嚥により低酸素性虚血性脳症となる。体位変換、吸引などのケア時にあえぎ呼吸、SpO2低下、徐脈が頻回にみられ、PCTに相談した。あえぎ呼吸の原因が咽頭けいれんによるミオクローヌスであるとの見立てよりクロナゼパムの内服を開始したところ、呼吸状態は改善した。症例2:細菌性髄膜炎後遺症 CTにより偶然、食道がん、多発肺転移と診断。末期がんではあるが苦痛様症状をとらえることが難しく、PCTに相談した。バイタルサインに加えFaces Pain Scaleを用いた評価、疼痛、呼吸緩和の方針、栄養管理、家族へのケアを確認した。症例3:脳性麻痺 介護スタッフの交代を機に摂食量低下した。低栄養に伴う皮膚トラブルなどが増えてきたためPCTに相談。療育、遊びを通してスタッフとの信頼関係を築き、お気に入りの場所や嗜好に合わせた食事内容の検討をしたところ摂食量も増え、活気も戻ってきた。症例4:脳性麻痺 肝細胞がん 診断後定期的にPCT介入し、塩酸モルヒネを少量より開始していたが効果の評価は難しかった。症例5:脊髄小脳萎縮症 がん性胸膜炎 PCT介入にて主な苦痛の原因は上気道閉塞および胸水貯留による呼吸苦と判断し、呼吸リハビリチームに協力を要請し呼吸ケアに重点をおいて関わっている。 まとめ重症児(者)は、言語的コミュニケーションをとることが難しく、苦痛な状態を評価し、治療やケアの方法を選択するのに苦慮する場面が多い。病棟内外の多職種で関わることで倫理的、効果的な治療方針を立てていくことができる。今後もガイドラインに沿いながらも当院の患者に合った緩和ケアに取り組んでいきたい。
著者
百中 宏 杉 洋子 沖野 文子
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.231, 2015 (Released:2021-03-10)

症例は13歳の女児。2003年(2歳5カ月時)に急性脳症を発症し、意識なく寝たきりの状態となった。四肢麻痺あり、発語なく意思疎通不可(大島分類1)。経口摂取不可、経鼻胃管によるエレメンタルフォーミュラの注入を行っていた。亜鉛など微量元素の補充のため、ココアとテゾンを投与していたが、特に毛髪の異常は認めていなかった。2013年にココアを中止してから、しだいに脱毛を認めるようになった。しかし当時、脱毛の原因はわからなかった。 『ケトンフォーミュラ長期投与中に脱毛を来し、後にビオチン欠乏症と診断された症例』が報告され、調べてみたところエレメンタルフォーミュラにもビオチンは含まれておらず、本症例もビオチン欠乏を疑った。なおこのとき、テゾンとパンビタンの投与を行っていたが、いずれもビオチンは含まれていなかった。ビオチン濃度を測定し、0.7ng/dLと著明に低値で、ビオチン欠乏症と確定診断した。2015年2月26日よりビオチン(1mg/day)補充を開始、ビオチン補充後3カ月が経過したが、すでに明らかな発毛を認め改善傾向にある。
著者
常門 めぐみ 中富 明子 島内 彩 國場 英雄
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.389, 2018

はじめに施設に入所する重症心身障害児(者)にとって食事は生活の中で最大の楽しみのひとつである。重度の身体障害や知的障害により摂食・嚥下機能が獲得不十分であったり、また加齢とともに通常より早期に機能低下を来すことも多い。また精神障害を合併し盗食や誤食など適正な摂食行動をとれないことがある。一方、誤嚥は気付かれずに、精査で明らかになることも多い。今回われわれの施設において、誤嚥を反復し、多職種チームで栄養、食事管理に介入した症例を報告する。症例26歳、脳性麻痺。知的年齢3歳程度。こだわりが強く不安時に自傷行為を繰り返す。以前よりときどき発熱していたが、24歳時に膿胸を発症。嚥下造影検査の結果、誤嚥を確認。膿胸改善後も経口摂取困難あり。目的体重の回復・食事形態の改善、そして本人が落ち着いて食べられることとした。方法1.連携:家族、医師、言語聴覚士、看護師、栄養士で食事内容や形態について検討した。2.環境調整:盗食・自傷があるため、抑制を含め安全に落ち着いて食べられる環境調整をした。3.手技の統一の伝達:介助手技を病棟全体に伝達し統一に努めた。結果誤嚥を予防しながら安全に食事を取れるようになった。本人も協力して楽しめるようになってきた。発熱回数は明らかに減少し、体重の回復とともに活気も見られるようになった。まとめ介入後、発熱回数は明らかに減少し本人も協力して誤嚥を予防できていると思われた。多職種チームで検討を行い言語聴覚士および担当スタッフ主導で症例の嚥下状態や介助手技を病棟全体に伝達し、一定の環境調整や介助を継続した。これまで大量にかき込むように食べ、誤嚥を繰り返していた症例が、落ち着いた環境で一口ずつ嚥下をするというペースを習得し誤嚥性肺炎による発熱回数の減少につながった。誤嚥の原因としては抗精神病薬が考えられたが、自傷行為のため抗精神病薬の中止はできなかった。
著者
細谷 祐子
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.256, 2017

はじめに 鳥取県立総合療育センターでは平成26年度に利用者・職員合わせて9名のノロウイルス陽性者を出した。このことを受けて感染対策委員会では、感染性胃腸炎発症時のマニュアルの作成、手指消毒の徹底、院内ラウンド、研修会の開催等対策の徹底を図った。以後、集団発生はなく、単発発生で終息できている。集団発生の事例から、施設内での標準予防策の不十分さや多職種で感染対策を実施することの難しさを痛感した。平成28年度から多職種を巻き込んだ感染対策のシステム化を図った結果、継続的に成果につながる仕組みの構築につながったので報告する。 感染対策委員会活動の振り返りと課題 1.正しい知識に基づくマニュアルの整理と標準予防策の徹底の不備。 2.院内ラウンドの実施が不定期。3.研修会の開催が計画的でない。 4.医療職だけでなく福祉職もケア提供者となる。感染対策に対する知識に差がある。5.感染対策が定着しない。 活動内容のシステム化 1.標準予防策の徹底等の業務の規定と明文化。2.PDCAサイクルの徹底。3.活動内容毎に多職種からなるチーム編成。4.教育と育成。 考察 標準予防策(個人防護具の装着)についての自施設内の規定を定め明文化することで、職員への周知と業務の徹底を図ることができた。また、PDCAサイクルを意識することで、委員会メンバーで協働し、継続的に改善を図ることができた。活動内容毎にチーム編成したことは、職種が異なっても感染対策に参加している協働意欲の向上につながった。多職種で構成される自施設においての感染に対する知識の差は、わかりやすい研修や可視化できる工夫で改善を図ることができた。それぞれの活動は「院内感染ゼロ」の共通目的に向かって機能させるために有効な方法であった。 まとめ 職種の異なる集団を組織として機能させ、患者によりよい成果をもたらすためには、「共通目的をもつこと」「伝達しあうこと」「協働」が不可欠である。
著者
児玉 浩子
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.21-28, 2014 (Released:2021-08-25)
参考文献数
21

近年、重症心身障害児(者)(以下、重障児(者))においても栄養管理の重要性が指摘されている。また、栄養療法の進歩により、様々な経腸栄養剤や治療フォーミュラ(特殊ミルク、治療乳)が開発・普及している。しかし、その中には、必須栄養素が必要量含有されていないものがある。そのような栄養剤を使用して、欠乏症が多く報告されている。主なものとしては、エンシュアリキッド®にはカルニチン、セレン、ヨウ素;エレンタール®にはカルニチン、セレン;ラコール®にはカルニチン、ヨウ素;牛乳アレルゲン除去ミルク・乳糖除去ミルク・MCTミルク・ケトンフォーミュラ・先天性代謝異常症用ミルクなどにはビオチン、カルニチン、セレン、ヨウ素がほとんど含まれていない。これらを単独で使用すると、含有量の少ない栄養素の欠乏を来す恐れがある。したがって、これら栄養剤・治療乳を単独で使用する場合は、欠乏症に注意し、必要に応じて補充することが大切である。
著者
岩崎 裕治 堀江 久子 藤野 孝子 益山 龍雄 加我 牧子
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.317, 2016

はじめに東京都の委託事業として、平成25年度より3年間、東京都重症心身障害児(者)在宅医療ケア体制整備モデル事業を実施したので、その内容と効果につき報告する。目的この事業の目的は、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))が地域で安心して暮らせるために身近なかかりつけ医を増やす、また地域のネットワーク構築を図るというものである。方法江東区、江戸川区、墨田区、中央区の4区で、連絡会、研修会の開催、事例集発行、かかりつけ名簿作成等実施した。また医療機関ならびに重症児(者)の保護者を対象にアンケート調査を実施した。結果3年目では診療所の1176施設中507施設から回答があった。重症児(者)の診療は、83施設で行っており、定期的な診察、体調不良の初期治療、予防接種などであった。連携・支援の条件では、通院している病院との情報共有、症状悪化時の病床確保などであった。初年度と3年目を比較すると、回収率(17.7→43.1%)、診療している施設数(21→83)ともに増加がみられた。かかりつけ医名簿への登録も24→114施設へと増加した。病院では55施設中22施設より回答があり(回収率40.0%)、重症児(者)の緊急時受け入れ可能7施設、レスパイト入院受け入れ可能5施設であった。保護者へのアンケートは2年目に実施し、141名中75名がすでに地域の診療所で診療を受けていた。内容は定期診察、予防接種などで、また歯科、耳鼻科、眼科なども多かった。考察この事業の実施により、地域での重症児(者)の診療の拡大に効果があった。しかし各医師会での取り組みや、他の小児在宅医療連携拠点事業なども同時に実施されており、これらの影響も大きいと思われた。地域での有効な在宅医療の展開には、他の取り組みとの連携が必要であった。また医師以外の職種(訪問看護、相談支援専門員など)との連携も重要と考えられた。
著者
小倉 英郎 井上 和男 武市 知己 原 昭恵
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.265, 2014

はじめにインフルエンザの感染様式は飛沫感染、接触感染、空気感染が考えられるが、空気感染に関しては、インフルエンザの感染拡大防止対策において重要であるとする意見とそれを疑問視する意見が対立している。今回、われわれは当院重症心身障害病棟において空気感染の可能性を示唆する事例に遭遇したので報告する。事例2014年3月24日〜26日、重症心身障害病棟、1個病棟(41名)において、A型インフルエンザの病棟内流行を認めた。予防接種は40名に行われていた(接種率97.6%)。診断は迅速診断で行ったが、24日9名、25日12名、26日5名が発症し、27日には患者の流行は終息した(罹患率63.4%、うち2名でH1N12009が分離された)。職員では、25日4名、26日5名、27日1名が発症した。3月19日〜21日に個別支援計画の説明が家族になされており、この後の面会がインフルエンザの侵入に関与した可能性が否定できなかった。急激な発症パターンであることとアウトブレイク初日の患者配置図の検討から、空気感染の可能性を強く疑い、現場を検証した。その結果、おむつ交換時に換気スイッチを押すことにより、病棟入り口の天井から急速に吸気され、病室内から外部に排気されることが判明した。このため、病棟廊下から病室への気流が発生し、感染拡大の原因となった可能性が示唆された。この臨時の換気システムは病棟全体の換気システムとは別になっており、応急措置として、おむつ交換時の換気はしないこととした。なお、予防投与を含め、タミフル®が37名、リレンザ®が16名、ラピアクタ®が1名に投与され、流行は終息した。重篤な合併症を呈した例はなかった。考察当院の重症心身障害病棟は3個病棟であるが、他2個病棟では当該病棟のような気流の流れを生じる構造になっていなかった。重症心身障害病棟ではインフルエンザやノロウイルス感染症の流行はしばしば経験される。空気感染対策を考慮した病棟の設計が望まれる。
著者
河本 亮子 北山 真奈美 久保田 千恵
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.287, 2015

はじめに現在は自然を楽しむ環境にはあるが重症化に伴い屋外に出かける機会が減少している。そこで室内でより自然に近い空間作りや季節にあった遊びを模索したので報告する。目的1.秋らしい空間となるように自然物を使って制作する。2.視覚・聴覚・触覚・嗅覚それぞれの感覚を刺激する療育活動を設置し個々にあった遊びを楽しむ。方法対象者:4病棟160名期 間:2014年10月27日〜11月21日場 所:第1療育訓練棟内容1.木の実のケーキ作り(自然物やホイップ粘土でケーキを作る)2.缶(感)にあたってHow many ?3.木の実ころころ(自然物を転がしスピードや音の変化を楽しむ)4.歌&楽器演奏(♪この木なんの木♪)5.サクサク通り(落ち葉のじゅうたんを通り音を楽しむ)6.どんぐりマラカス(ペットボトルの中のどんぐりを振り音を楽しむ)7.スノードーム風まつぼっくりパズル(シャカシャカ振ってリングを松ぼっくりに引っ掛ける)8.桜の葉の塩づけ(匂ってみよう)9.柿の木ライトアップ結果および考察数の概念の理解が難しい利用者も共感し楽しむことで感覚刺激を覚醒させ喜びや達成感が味わえた。複数の選択肢を作ったことで興味や関心がある活動を見つけることが出来、利用者が主体的に活動出来た。利用者だけでなく御家族や病院職員の協力を得て実りの空間を作ることが出来たことは目に見える療育活動となった。持ち運びができる物品にしたので週1回の病棟での集団活動や離床が難しい超重症児(者)の利用者にベッドサイドで行うことが可能になり活動の幅が広がった。まとめ移転後の新病院は屋外に出る機会が困難になるためこのような空間作りや自然物を使った遊びは有用であると考えられた。今後も入所生活が豊かになるよう様々な体験ができる遊びや環境作りを創意工夫していきたい。
著者
丸箸 圭子 山田 晋也 脇坂 晃子 中村 奈美 辻 隆範 大野 一郎 関 秀俊
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.330, 2014

はじめに長期に経管栄養管理されている重症心身障害児(者)のセレン(Se)欠乏症の報告が近年多く見られている。今回徐脈、洞停止を来した4症例に対しSe欠乏症を疑い測定したところ全員血中Se値が低値でありうち3例に対し経管栄養剤を変更しSe値、脈拍数ともに改善したため報告する。症例12歳女児、経鼻胃チューブより育児用ミルクほほえみを投与されていた。入院時よりHR50〜80/分と徐脈傾向であったがある日HR30/分台と低下し、ホルターECGにて3.2秒の洞停止を確認した。アイソカルジュニア® 1.0に変更したところSe値は5.3から8.1μg/dlに上昇しHRも60〜90/分と改善した。症例26歳女児、胃瘻よりラコール®を投与されていた。普段より徐脈傾向、心室性期外収縮認めていたがHR30-40/分台が続きホルターECGにて3.1秒の洞停止を認めた。ACEI、利尿剤の投与量調整に加え、栄養剤をSe含有量の多いメイバランス® 1.0に変更したところSe値は6.2から8.8μg/dlに上昇しHRも60台以上をキープできるようになった。症例315歳女児、PEG-Jカテーテルよりラコール®を投与されていた。普段はHR70-100/分であったが尿路感染症の治療中に徐脈、モニター上HR36/分、心エコーにてLVEF45%と心機能低下も来した。栄養剤をメイバランス® 1.0に変更したところ、Se値は7.4から11.3μg/dlに上昇し以降徐脈も認めていない。症例422歳男性、胃瘻よりラコール®投与され在宅療養している。HR40-50台と徐脈傾向あり精査したところSe値は8.7μg/dlと低値であった。現在経過観察中である。まとめ当院には多くの経管栄養管理中の重症児がおり、Se欠乏症例は多数いると思われる。今後徐脈を含め疑いのある症例があればSe投与量を考慮し対処する必要があると考えられた。
著者
井上 道雄 本橋 裕子 竹下 絵里 石山 昭彦 齋藤 貴志 小牧 宏文 中川 栄二 須貝 研司 佐々木 征行
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.231, 2015

はじめに経鼻胃管を利用する重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))では、骨格変形や嚥下障害等により、適切な胃管留置ならびに胃内に管があることの確認がときに困難である。当院では、管の胃内留置を確認するため、pHチェッカーを用いて逆流物が胃酸と同等のpH5.5以下であることを確認している。一方で、重症児(者)の胃酸分泌抑制薬使用者へのpHチェッカーの有用性を検討した報告は乏しい。目的経鼻胃管を使用する重症児(者)において、胃酸分泌抑制薬の内服がpHチェッカーの結果に与える影響について検証する。対象当院重症児(者)病棟に入院中で経鼻胃管を利用している17人。方法カルテ診療録を調査し、胃管の留置位置が適正であると確認できた例の、注入前と胃管交換時に用いたpHチェッカー5.5 (JMS)の値と内服情報を収集し、その関係について検討した。経鼻胃管内腔の容量が最低1.6mlであるため、胃内容物が1.6ml以下は除外した。結果対象者の使用薬剤数は平均7.8剤、16人が胃酸分泌抑制薬(H2受容体拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬)あるいは制酸剤(酸化マグネシウム)を内服していた。46機会の計測を行った。そのうち、胃内容物が1.6ml以下は25機会(全体の54%)であった。残りの21機会分のpH値で検討を行った。21機会中、胃酸分泌抑制薬もしくは制酸薬内服ありの19機会でpH 5.5以下は14機会(74%)だった。考察胃残が十分引けない機会が相当数あり、重症心身障害児の胃酸分泌抑制薬・制酸薬内服者で、pHチェッカーで逆流物を胃内容物であると同定できた割合は半数以下であった。胃残が十分量引けない例での内服薬の間接的影響の有無は今回は検討できていない。胃残が十分量引ければ、pHチェッカーは74%の感度で呼吸器分泌物と胃内溶液が鑑別できる。今後、胃酸分泌抑制薬・制酸薬の非内服者における、胃逆流物量、pHチェッカー値のデータが蓄積し、今回のデータと比較を行うことが必要である。