著者
萩原 治夫 村上 徹
出版者
群馬大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

人の体のつくりについて学習する教材を制作した。本年度は、泌尿器、男の生殖器、女の生殖器、神経、感覚器、からだの中をのぞいてみようのぺ一ジを制作した。「泌尿器」のコンテンツとして、泌尿器のつくり、腎臓のつくりと働き、尿をつくるしくみ、尿管、ぽうこう、泌尿器の病気、エックス線で見る泌尿器を制作した。「男の生殖器」のコンテンツとして、男の生殖器のつくりと働き、精巣のつくりと働き、精子を制作した。「女の生殖器」のコンテンツとして、女の生殖器のつくり、卵巣、卵管、子宮、受精と妊娠、性の決定を制作した。「神経」のコンテンツとして、神経のつくり、神経細胞、中枢神経、大脳のつくりと働き、脊髄、脳神経、脊髄神経、自律神経、皮ふの感覚の伝わりかた、筋肉を動かす指令の伝わりかた、エックス線で見る脳、MRIで見る脳を制作した。「感覚器」のコンテンツとして、目、耳、鼻、舌、皮ふを制作した。「目」のコンテンツとして、目のつくり、ものが見えるしくみ、近視と遠視、盲点をさがそうなどを制作した。「耳」のコンテンツとして、耳のつくり、膜迷路、音を感じるつくり、体のバランスを感じるつくりなどを制作した。「鼻」のコンテンツとして、鼻のつくり、においを感じるつくりを制作した。「舌」のコンテンツとして、舌のつくり、味らい、味を制作した。「皮ふ」のコンテンツとして、手のひら型の皮ふのつくり、ふつうの皮ふのつくり、皮ふに見られるつくりを制作した。X線、CT、MRIなどによる医用画像を利用して、体の内部の様子をみることができる教材として、「からだの中をのぞいてみよう」を制作した。これらのコンテンツを、生き物探検センター(http://anatomy.dept.med.gunma-u.ac.jp/rika/):人の体のつくりとして、一般に公開した。
著者
植松 光夫 河村 公隆 三浦 和彦 長田 和雄 鵜野 伊津志 向井 人史
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

大気・海洋表層の物質循環過程の定量的解析のため、海洋大気中の気体や粒子の分析法開発・観測・モデル計算を行った。陸起源大気粒子の沈着が含有鉄分により十分に植物プランクトンの大増殖を引き起こす可能性を観測から見出した。西部北太平洋の海洋大気粒子中の窒素や炭素の大部分は有機態であり、いずれも海洋起源であることを解明した。また、モデル、衛星データ等により黄砂が地球を一周半以上も輸送されることを発見した。
著者
仲山 英樹
出版者
神戸大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

【研究目的】植物の生産性を著しく減少させる塩ストレスの主要因であるNa^+毒性の分子機構を明らかにするために植物体内のK^+/Na^+輸送系の理解が必須である。本研究は、主要作物のイネに存在するHAK/HKT輸送体がK^+/Na^+輸送に果たしている役割を解明し、HAK/HKT輸送体を活用した耐塩性植物の分子育種を行うことを目的とする。【結果と考察】1. HAK輸送体ファミリーのクラスターIに属するイネHAK輸送体の解析HAK輸送体ファミリーのうち、高親和性のK^+輸送能を有すると推定されるクラスターIに属するOsHAK1, OsHAK5, OsHAK16, OsHAK20, OsHAK21, OsHAK22, OsHAK27の7つのHAK輸送体遺伝子の発現様式を解析した。その結果、OsHAK5は、K^+欠乏やNa^+ストレス下の根において恒常的に発現していたが、葉ではK^+欠乏により発現が上昇した。OsHAK1とOsHAK16はK^+欠乏やNa^+ストレス下の根において発現が上昇した。2. HKT/HAK導入による耐塩性植物の分子育種これまでに、OsHAK5を過剰発現したタバコ細胞の耐塩性が向上することが明らかとなったが、現在、形質転換イネの作製を進めている。Na^+輸送体OsHKT2 ; 1とK^+輸送能を獲得したその点変異体OsHKT2 ; 1S88G、K^+輸送体OsHKT2 ; 2をそれぞれ過剰発現する形質転換イネを作出した。各形質転換イネのT2個体で低K^+(0.3mM)、高Na^+条件(50mM)において水耕栽培を行い、生育を調査した。高Na^+条件では、OsHKT2 ; 1S88G系統とOsHKT2 ; 2系統で他の系統よりも生長率が高かった。このことから、高Na^+条件では、OsHKT2 ; 1S88GやOsHKT2 ; 2が、直接または間接的にイネの耐塩性向上に寄与していることが示唆された。
著者
酒井 寿郎 田中 十志也 浅場 浩
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

ペルオキシソーム増殖薬活性化受容体δ(PPARδ)はリガンド依存的に転写を制御する核内受容体の一つである.我々はPPARδが骨格筋の脂肪酸代謝を調節する因子の一つであることを報告した(PNAS,100,229-234,2003).選択的PPARδアゴニストGW501516(GW)の投与により,ミトコンドリアの増生,脂肪酸β酸化および代謝速度の亢進,骨格筋における顕著な脂肪滴蓄積の減少が認められ,高脂肪食(HFD)負荷によって惹起される肥満およびインスリン抵抗性を改善することを明らかにした.GWは骨格筋および肝臓において脂肪酸輸送,脂肪酸β酸化および呼吸鎖に関与する遺伝子群を誘導した.一方,普通食負荷したマウスのWATの遺伝子発現には影響を及ぼさないが,GWはHFDによって惹起されるTNFαおよびPAI-1の遺伝子発現増加を抑制した.さらに,HFD負荷したマウスの肝,骨格筋およびWATではインスリンによるPI-3キナーゼの活性化が顕著に低下していたが,GW投与群では有意な改善が認められた.以上のことより,GWは長期投与において持続的な抗肥満および抗糖尿病活性を有することが示唆された. PPARδアゴニストのインスリン感受性改善効果の一部は,肝や骨格筋での脂質蓄積抑制や脂肪細胞の肥大化を抑制し,PI-3キナーゼ介在性の糖取り込みやアディポサイトカイン産生を改善することによって発揮されていると考えられた.Oikeらとの共同研究で血管新生液性因子angiopoietin-related growth factorが抗肥満効果としてPPARδを介することを示した。また、私たちは転写因子Kruppel-like factor KLF15が絶食時に誘導されATPを合成するアセチル-CoA合成酵素プロモーター活性を調節することを明らかにした。KLF15は脂肪細胞の分化に関与する転写因子としても知られている。
著者
小川 陽一 山口 謡司 勝山 稔
出版者
大東文化大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

中国では宋時代以後、とくに明・清時代には、民間で商業出版が流行した。私の調査では、その民間の商業出版で、著者への原稿料はどうであったか、版権はどうであったか、本の価格はどうであったか、書店はどのようにして本を仕入れたか、書店はどのようにして本を売ったか、書店はどのようにして経営されたか、書店の景観(店の様子)はどうであったか、などについて調査した。これらに関するデータは非常に少なくて、調査は困難だった。しかし小説や戯曲のなかには、データを少しは発見することができた。李緑園の小説『岐路燈』には開封の大書店のオープニングに至るまでの準備とオープニング・セレモニーの様子が詳しく叙述されていた。孔尚任の戯曲『桃花扇』には南京の大書店・蔡益所の店内が書かれていた。徐揚のパノラマ『姑蘇繁華図』には蘇州の大書店の外観が描かれていた。李漁の戯曲『意中縁』には、杭州で本と骨董品を取り扱う店の仕入れと販売のことが叙述され、絵も付け加えられていた。李日華の日記『味水軒日記』には、書と画の贋物の多いことが詳しく述べられていた。これらのデータに依って、明代と清代の大都会において、書店では本だけではなく、書や画も売っていたこと、本屋の開設には莫大な資金が必要だったこと、書や画には贋物が多かったこと、本の著作権の意識は希薄だったらしいこと、などを発見した。
著者
三宅 隆 ARYASETIAWAN Ferdi
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

標準的な第一原理計算手法である局所密度近似(LDA)の困難の一つとして電子相関の強い系の電子状態が挙げられる。強相関電子系に対する現状の計算手法の限界を明らかにして新しい手法を開発することを目的として以下の研究を行った。1.dバンドのエネルギー準位現在LDAを超える手法としてGW近似が定着している。電子相関の強くない半導体、絶縁体のギャップ値に対して大きな成果を挙げてきたが、局在性の強い電子に対する妥当性は確立されていない。そこで、代表的なII-VI族半導体であるZnSのセミコア軌道(d軌道)のエネルギー準位を調べた。LDAではd軌道はフェルミ準位から6eV下に位置し、実験値の9eVに比べて大きく過小評価される。ここにGW近似による多体補正を加えると約1eV準位が深くなるが、まだ実験値との差は大きい。そこで、LDA+U法によりセミコア準位を実験値の近傍に下げた状態からGW近似を行った。この(LDA+U)+GW法では、d準位はLDA+U法に比べて押し上げられ、通常のLDA+GW法の位置と近い結果が得られた。このことは、GW法が出発点となる平均場解に強く依存しないものの、d軌道のエネルギー準位の定量的記述には不十分であるということを示唆する。2.格子模型との融合LDA, GW法を超えて強相関電子系を取り扱う計算手法の試みとして、第一原理計算を格子模型へマップし、短距離相関効果を格子模型に対する多体問題の手法により取り扱うことが盛んに行われている。これらの方法において問題となるのは、格子模型の同一サイトにおける電子間反発エネルギー("ハバードU")の見積もりである。そこで、RPAにより求めた遮蔽されたクーロン相互作用のd軌道に対する行列要素を一連の遷移金属に対して計算した。
著者
君塚 信夫 黒岩 敬太 松浦 和則
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

本研究では、分子組織性ハイドロゲルの分子設計の確立および、分子組織性ハイドロゲル中における蛋白質の機能制御を目的とした。その結果、短いアルキル鎖を含む疎水部構造および、複数のアミド結合を含むグルタミン酸骨格を有するアンモニウム脂質が芳香族スルホン酸イオンや、過塩素酸イオンなどの疎水性アニオンと疎水性イオン対を形成することで、分子組織性ハイドロゲルを形成することを明らかとした。例えば、カウンターアニオンとして2-ナフタレンスルホン酸イオンを用いたハイドロゲルにおいては、光捕集機能を有するハイドロゲルとなる。このハイドロゲルにおいては、ナフタレンが二分子膜ゲルファイバー中に高密度に集積化されており、光励起エネルギーはこのファイバー上を効率的に移動する。アクセプターとして1mol%の9,10-ジメトキシ-2-アントラセンスルホン酸イオンの添加により、ナフタレン由来の蛍光は大きく消光し、かわりにアントラセン由来の増感蛍光が大きく現れた。エネルギー移動効率は低濃度の水溶液状態よりも、ハイドロゲル状態において著しかった。これは、2-ナフタレンスルホン酸の二分子膜ファイバーへの結合率と相関しており、ハイドロゲル状態においての高い結合率が、高効率のエネルギー移動をもたらした。また、光捕集性のハイドロゲルのみならず、フェロセンカルボン酸などをカウンターアニオンに用いると、レドックス応答を有するゲルが得られる。このレドックス応答性ゲルはアクチュエーターやバイオセンサーなどの応用が期待される。このように、我々は、共有結合を使うことなく、機能性のアニオンと、自己集合性の短鎖アルキル脂質を用いることで、効率的に機能性アニオンを集積化させ、それに伴い機能性のハイドロゲルを作製することに成功した。
著者
宮木 幸一 中山 健夫 岩隈 美穂
出版者
国立国際医療研究センター
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究の主な目的はゲノム・コホート事業が開始され継続されていく中で市民の事業・研究に対する認知の現状と血液提供意思に影響を与える因子を把握し、それに基づいた市民・研究者双方への情報提供の在り方を検討することである。事業開始前の調査では、年齢階級別に無作為抽出された2000人(回収率53% : 1060部)のうち、研究参加希望者が36.3%(383名)、「わからない」と答えたものが42.3%(447名)、「血液を提供したくない」と答えたものが383名中62.7%(217名)であった。研究参加の理由は「子や孫の世代の健康づくりに役立つ」が最も多く67.5%(75名)であり、研究参加に消極的な理由は「予期しない不利益があるかもしれない」が最も多く584名中45.2%(264名)であった。消極的な層が参加に転じる条件として、「自分の解析結果の提示」を挙げたものが548名中(45.2% : 264名)と最も多かった。事業開始後1年半後に行った2500人対象の調査と聞き取り調査から、信用にたる事業者が提供する「お得な健診」として認知されていることが示唆され、ゲノム研究の認知に関しては国民性の差があることが示唆されているが、我が国でのゲノム疫学研究を進めていく上で参考とすべき事項が明らかとなった。
著者
岡部 繁男
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

興奮性シナプスはシナプス後部側の細胞質構造として、樹状突起スパインとシナプス後肥厚部(PSD)を持つ。この二つの構造は興奮性シナプスの機能発現において重要である。生体内でのシナプス発達過程においてスパインとPSDがどのように形成され、また両者の形成過程にどのような関連があるのか、その詳細は明らかになっていない。本研究ではフィロポディアの形成、スパインの発達とPSDの動態を同時に個体内で観察することを目的とした。まず子宮内電気穿孔法を利用して蛍光蛋白質標識されたPSD分子を大脳皮質錐体細胞に発現させる系について検討し、PSD-95に比較して単一PSDからの蛍光シグナルが強いGFP-Homerlcをin vivo観察用の蛍光プローブとして選択した。GFP-Homer1cは培養細胞での分布と同様に細胞体と樹状突起に局在しクラスターを形成した。さらに成熟したマウス個体の大脳皮質ではGFP-Homer1cはスパインの頭部に局在した。以上の分布様式から、GFP-Homer1cはPSDの存在部位を示す蛍光プローブとして利用できることを確認した。次にGFP-Homer1c分子の大脳皮質錐体細胞の発達過程における変化を解析する目的で、GFP-Homer1c分子とDsRed分子を大脳皮質で発現させた幼弱なマウス(生後1-2週間)を対象として、両者の蛍光の同時励起を二光子顕微鏡により行った。大脳皮質浅層の6時間程度のタイムラプス画像を取得し、樹状突起から形成されるフィロポディア・スパイン構造を同定し、このような新規のフィロポディア・スパインにほぼ同時にGFP-Homer1c分子が集積することを確認した。PSDの集積のダイナミクスに関する結果は、我々が以前分散培養系で観察したスパインシナプス形成の時系列データに一致するものであり、個体レベルでもフィロポディアの樹状突起からの伸長が興奮性シナプス形成の初期段階であることが示された。
著者
野田 哲生 田矢 洋一 石川 冬木 花岡 文雄 山本 雅之 下遠野 邦忠 中村 卓郎 石川 冬木 花岡 文雄 山本 雅之 畠山 昌則 中村 卓郎 高井 義美 丹羽 太貫 廣橋 説雄 下遠野 邦忠 佐谷 秀行
出版者
財団法人癌研究会
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

本総括班は、特定領域研究「遺伝情報システムと発がん」において、計画班と公募班からなる研究組織の立ち上げから、各研究班の研究成果の評価までを行い、さらに研究代表者会議の開催などを通じて情報交換の促進を図るなど、本領域の研究活動の効果的な推進のため、各種の支援活動を行った。その結果、がんの発生と進展の過程の分子機構に関し、がんの予防法の確立と治療法の開発に貢献する多くの新たな知見が得られた。
著者
穂積 勝人
出版者
東海大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2010

胸腺内T細胞分化を支持するNotchシグナルの分子機構解析造血未分化細胞の胸腺への移行に始まるT細胞分化には、胸腺環境を担う上皮細胞を介したNotchシグナルの発動が必須であるが、その分子的詳細は明らかではない。これまで、未分化T細胞におけるNotchシグナルの解析には、Notchリガンド(NotchL):Dll1あるいはDll4を強制発現させたOP9細胞等の単層培養系が用いられてきた。しかし、これまでの我々の解析から、上記単層培養系にて調製された未分化T細胞は、胸腺内ではT細胞へ分化できないことが明らかとなり、単層培養系と本来の胸腺環境との間には、少なからず差異があることが示唆された。そこで我々は、Notchシグナルを付与しないT細胞分化環境として、Dll4欠失胸腺を用い、未分化T細胞への様々な遺伝子導入により、Notchシグナルを代替しうるシグナルについて調べた。Dll4非存在下に胸腺未分化T細胞(DN112画分)を胸腺器官培養にて分化誘導を行うと、ほとんどT細胞は分化しなかった。これは、TCR6鎖およびpTαの遺伝子導入を行っても改善しなかった。また、Notch下流にて機能することが示唆されるc-mycおよび活性化Aktの共発現によっても正常T細胞分化は再現できず、異常増殖が観察されるのみであった。これに対し、DN3画分のDP細胞への分化については、c-mycの恒常的発現によって、Dll4由来シグナルの欠失による分化停滞を限定的ながら回復させることが見出された。これらのことから、T細胞分化および正常細胞増殖の担保には、制御されたNotchシグナルの発動が重要であり、その本態としてc-mycが関与することが推察された。
著者
中嶋 琢也 長谷川 靖哉 湯浅 順平 河合 壯
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

電荷の局在状態の光制御を実現するシステムを目指し、ジアリールエテン、ターアリーレン(ジアリールアリーレン)へのイミダゾリウム環の導入を行った。光化学反応に伴い、導入されたイミダゾリウム環は正電荷が非局在化したイミダゾリウム型と局在化したイミダゾリニウム型に相互変換する。本年度は、この正電荷の局在構造変化によるソルバト、イオノクロミズムや反応性の発現など興味深い特徴を見出した。(1)イミダゾリウム置換ジアリールエテンはトルエンからピリジンまで幅広い極性の溶媒中においてフォトクロミック反応を示すことを見出した。閉環体における局在正電荷はルイス塩基結合サイトとして働き、高ドナー数を有する分子やアニオンと特異的に相互作用する。その結果、π共役構造を変化させ、マルチクロミック特性(光、溶媒、イオン応答)を示すことを見出した。(2)ジチアゾリルイミダゾリウムは種々の溶媒中で可逆的にフォトクロミック反応を示し、(1)と同様に、ソルバトクロミズムを示した。この場合、溶媒のドナー数ではなく誘電率に応答した吸収ピークシフトを示した。低極性溶媒中において局在カチオンはヨードアニオンと強く相互作用し、イミダゾリニウムのN(1)-C(2)-N(3)の二重結合性を低下させ、π共役系の縮小により低波長シフトを与えた。さらに、局在カチオンの高い反応性は、強い求核剤であるメトキシドとの求核付加反応によりphoto-gated reactivityとして実証された。
著者
月田 早智子 田村 淳
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本申請では、上皮細胞シートのparacellular経路による物質透過性の制御に焦点をあて、その機能異常により引き起こされる炎症などの生体反応の解析を目的とする。本年度は3点の解析を行った。(1) 上皮細胞シートのaracellularの経路による物質透過性の制御機構により引き起こされる炎症などの生体反応の解析;昨年度に確立した2チャンバーシステムを用いた電気生理学的解析により、胃では通常の上皮細胞シートとは異なったイオンの選択的な透過性制御があることが分かった。この特異的な透過性が、胃粘膜を胃酸から保護すると考えて矛盾しない結果である。NSAIDの投与によりこの選択性が変化するとのpreliminaryな結果が得られ、NSAID胃炎との相関が示唆された。プロトンの透過性、小腸での透過性変化も含めさらに詳細を検討中である。(2) 感染・炎症にかかわ生理活性物質のaracellularの経路による物質透過性の解析;慢性炎症性腸疾患のモデルであるDSS腸炎では腸管上皮のバリアーが脆弱になる。特にある種のクローディンノックアウトマウスでは、大きな反応を示すことが分かった。直接の原因を含め解析中である。DSSは投与方法によってはがんを誘発することが知られており、発がんと炎症との視点からも解析を進めている。(3) 外来性の物質の投与により、物質透過性を任意に操作できる方法の検討;物質の透過性について複数の試薬の検討を行ったが、大きな変化は見出せなかった。一方で、イオンの濃度がタイトジャンクションの物質透過性に、拡散電位を介して影響する可能性が示唆されるので、飲水中の電解質や錠剤を介した腸管内電解質濃度の調節が、上皮細胞シートの細胞間物質透過性を介した、NSAIDなどとは異なる経路の「消炎剤」として利用できる可能性についても検討を行いたい。
著者
落合 謙太郎 近藤 恵太郎 北村 晃
出版者
独立行政法人日本原子力研究開発機構
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

核融合炉のプラズマ対向壁内のトリチウムは、その多くが表面付近に存在する。この様な表面のトリチウム密度分布を知ることは核融合トリチウムの安全評価の観点から重要である。それゆえ、固体表面のトリチウム保持量の絶対測定法が必要である。核融合炉のプラズマ対向壁表面のトリチウム保持密度深さ分布の高精度な測定法の開発として、DT核反応を利用した核反応分析法(DT-NRA)高精度化を実施した。昨年度課題であった実験室壁等から発生する散乱中性子成分の測定除去としてベリリウム体系による散乱中性子抑制法を検討し、抑制効果の検証実験を原子力機構核融合中性子源施設FNSで実施した。その結果、上記ベリリウム体系を用いることで、核反応分析法をDT核反応の放出粒子である3.5MeVアルファ粒子と14MeV中性子のコインシデンス測定に高精度に行うことが可能となり、NRAの中性子散乱抑制法としてベリリウム等の減速材抑制体系が必要であることが分かった。
著者
金子 純一 藤田 文行 本間 彰
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

今年度は前年度良い結果の出たリフトオフ法を北海道大学に導入することを第一目標として研究を行った。Ib型基板を使用して連携研究先である産業技術研究所と同一の合成条件でCVD単結晶の合成を行った。合成した試料をリフトオフ法により自立膜化した。さらに化学処理ならびに電極製作を行い、検出器とした。製作した検出器に対してI-V測定、α線応答測定を行った。十分な印加電圧がかかり、α線に対して16%程度ではあるがピークの立つ応答を示す検出器の製作に成功した。今後、高品質基板を使用し、合成条件の最適化を進め実用的な人工ダイヤモンド放射線検出器の実現を目指す。また合成した結晶中の電荷捕獲準位を同定するための積極的電荷捕獲を利用した光I-V測定法の改良をすすめ、ある程度信頼性のあるデータが取得できる状況に達した。
著者
半那 純一 飯野 裕明
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

棒状液晶物質をモデルとして、ポリアニリンによるドーピングによる電子伝導、及び、イオン液体によるいイオン伝導のバルクキャリア濃度の制御、及び、それを利用した液晶物質を半導体層とするTFT特性の改善について検討した。ポリアニリンを所定量ドープした8-TTP-8の低電界下での電流特性は、その濃度に依存して増加し、増大し、最大4桁(1wt%時)増大が見られた。一方、ポリアニリンのHOMO準位よりもホールに対してエネルギー的に高いHOMO準位を持つNaphthalene系液晶8-PNP-012ではこの現象は観測できなかった。さらに、ドープされた試料のtime-of-flight法による過渡光電流の測定から、濃度によらず移動度は未ドープの試料と変わらないことから、ポリアニリンは液晶中では液晶分子が形成するスメクティック層の層間に存在しているものと考えられた。8-TTP-8の多結晶薄膜を有機半導体層として作製したボトムゲートFETの素子特性は未ドープのFETの特性に比べ、on電流、及び、ゲート電圧に対する電流の立ち上がりの改善が見られ、移動度は約2倍の0.2cm^2/Vsまで改善された。イオン液体によってドープした8-TTP-8の液晶相ではイオン液体の種類による伝導度の違いはあるものの、いずれの場合も濃度に依存して伝導度の上昇が観測され、結晶相では高濃度ドープした試料を除いてその濃度に係わらず、未ドープ試料の示す伝導度との違いが見られなかった。この特性は、8-PNP-012の場合も基本的に同じ結果を与えた。これらの結果は、ドープされたイオン液体が液晶物質の中で解離し、イオンとして伝導に寄与していることを示している。イオン液体の種類による伝導度の違いは液晶物質中におけるイオン液体の解離の違いによると考えられた。
著者
冨田 佳宏 中井 善一 長谷部 忠司 屋代 如月 徳田 正孝
出版者
神戸大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

本研究では,一般熱力学的負荷条件下の金属ガラスの超塑性,変形・破壊の実験的検討とその評価,比例・非比例ひずみ履歴を伴う高ひずみ速度負荷試験による実験的検討と構成式の定式化,電子顕微鏡(SEM)・原子間力顕微鏡(AFM)・ナノインデンテーション法による金属ガラスの破壊機構の観察と局所領域の応力および強度の評価を行う.平成19年度は金属ガラスの環境強度について検討した. 3.5%食塩水中・室温において,一定試験力のもとで疲労き裂伝ぱ試験を行った結果,水溶液に浸漬した直後には過渡的なき裂伝ぱ挙動が観察されたが,定常状態においては,時間基準のき裂伝ぱ速度da/Dnは,応力拡大係数Kこよらずほぼ一定となった.3.5%食塩水中・室温において,繰返し試験力を負荷してき裂伝ぱ試験を行った結果,繰返し速度および応力比によらず,時間基準のき裂伝ぱ速度心da/dtが,最大応力拡大係数K_<max>によって規定されており,その関係は,前述の一定試験力におけるda/dt-K関係とほぽ一致していた.また, 0.05%, 0.01%食塩水中においてもき裂伝ぱ挙動を調べた結果,いずれの食塩濃度においても,1サイクル当たりのき裂伝ぱ速度da/Dnは大気中よりも大きく加速したが,超純水中におけるda/Dn-ΔKは大気中とほぼ一致していた.また,食塩水中の繰返し試験力下の破面形態は,一定試験力下の破面形態と同様であったが,超純水中の破面は,大気中における破面と同様であった.また,環境強度と直接結びつくものではないが,分子動力学による検討では,原子弾性剛性係数Bij^αの正値性(局所格子不安定性)により,構造のないアモルファスに欠陥の中の欠陥というべき不安定原子が存在すること,0.2%ひずみ以降,不安定原子が増加しており,塑性変形の担い手として新たな欠陥が導入されていること,などを明らかにした.
著者
内田 裕之
出版者
山梨大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、金属ナノ粒子と混合導電性酸化物間の特異な相互作用を解明・制御して高性能電極を開発し、ナノイオニクスの発展に貢献することを目的とする。本年度は、以下の成果を得た。1) 噴霧プラズマ法で合成したNi-SDC複合粒子のNi粒子サイズ制御とSOFCアノード特性昨年度報告したように、組成と粒径がよく制御されたSDC固溶体とNiOの複合粒子がSSP法により一段階で簡便に合成できる。この粒子は中空状であり、Ni, Ce, Smが均一に分布していた。水素気流中800〜1000℃で1時間還元処理するとNiOは全てNiに還元できた。NiとSDC間の強い相互作用により、SDC表面にアンカーされた状態でNi粒子が析出し、Ni結晶子サイズは、1000℃還元では50nm、800℃では37nmであった。還元温度を低くするほどNi粒径を小さく制御できることがわかった。このNi-SDCをYSZ電解質に取り付けてSOFCアノード特性を評価した結果、17vol%-Niで最大活性を示すことを見出した。2) ヘテロ界面制御 : 混合導電性酸化物LSCF酸素極の長期耐久性La_<0.6>Sr_<0.4>Co_<0.2>Fe_<0.8>O_3(LSCF)+SDC/LSCF二重層構造電極を900℃、0.5A/cm^2で酸素発生させ、5000時間の耐久性を実証できた。落雷での停電での急冷、作業停電での室温までのヒートサイクルにも耐え、0.15V以下(vs. air)という高い性能を維持できた。試験開始時と再起動時に、一度上昇した電位が緩やかに回復する原因は、電極内の粒子同士の焼結がガス拡散性を抑制しない程度に進行してイオンと電子の導電ネットワークが向上し、有効反応領域が増大することに加え、LSCF中のCoの価数変化または相変化が起こっている可能性が高いことを明らかにした。
著者
田中 伸哉 西原 広史
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

これまでの研究で、アダプター分子Crkの癌化における役割を解析し、癌腫、肉腫、脳腫瘍など様々なヒト癌細胞株を用いてsiRNA法にてCrk knockdown細胞株を樹立した。何れの種類のCrk knockdown細胞においても、接着能、浸潤能、足場非依存性増殖能、in vivo造腫瘍能など、癌細胞の悪性化を示す指標に、著明な減少がみられ、Crkはヒト卵巣癌、軟部肉腫、脳腫瘍において、悪性化に必須の分子であることが明かとなった(Oncogene, 25,2006 : Mol.Cancer Res., 7,2006)。また、Crkの癌化におけるシグナル伝達メカニズムを詳細に解析するために、NMRを用いた構造解析を行い(Nature Struct.Mol.Biol., 2007)、昨年度は、Crkのシグナル伝達を抑制する薬剤開発する前段階として、単一の遺伝子変化に対応する薬剤スクリーニングの系を確立した(BBRC,373,2008)。この系を用いてCrkを発現させたアストロサイトに対して、dual luciferase assayを行い96wellプレートで薬剤をスクリーニングして、Crkシグナル阻害薬を同定した。以後の研究では、真にCRKシグナルを抑制する薬剤か否かを個別に判定していき臨床応用可能か否かをin vivoの系で解析していきたい。また、今年度の研究において癌細胞の浸潤能にはシグナル伝達アダプター分子CRKが必須であることが判明しているが、CRKによるGab1のY307のチロシンリン酸化制御が重要であることが明らかとなっていたが、本年度の研究ではY307F変異体により細胞接着斑の形成異常が誘導されることが明らかとなった(Watanabe, et al.Mol.Cancer Res., 2009)。さらにCrkはDock180を介して細胞の運動を制御するが、その際にDock180結合蛋白であるElmoのりん酸化が必要であることが判明した。
著者
岡山 博人 佐方 功幸 石見 幸男 白髭 克彦 大矢 禎一 石見 幸夫
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

当研究の主たる課題であり、発癌の根底機構をなす足場依存性・非依存性細胞周期機構の解明に向けて研究を推進し、重要な進展を得た。特に、足場消失に伴い、染色体DNAの複製開始に必須なCdc6タンパクの発現が転写停止とタンパクの分解促進によって遮断されること、このタンパク分解に、少なくとも2種類のユビキチンリガーゼと1種類のカテプシン様システインプロテアーゼが関わっていること、その一つはG1期で作用することが示されているCdh1-APであり、その働きに癌抑制因子p53が必要であること、更にこれらの系によるCdc6タンパクの分解制御にTsc-Rhebシグナル伝達経路が深く関わっていることを見出した。一方、G1期サイクリン依存性キナーゼのなかでCdk6/サイクリンD3の複合体が、阻害タンパクの影響を受けないこと、その結果、増殖刺激が無い状態で細胞の増殖促進効果を発揮し化学発癌に対する細胞の感受性を著しく引き上げること、更に、骨細胞分化を負に抑制することを明らかにした。他方、細胞周期チェックポイント制御に関して、以下の知見を得た。Myt1キナーゼはCdc2の抑制的キナーゼであり、ツメガエル卵の減数分裂においては、Mos/MAPK下流のp90rskキナーゼがMyt1と結合し、その活性を阻害している。また、体細胞周期においてPolo様キナーゼPlx1がMyt1と結合しリン酸化することによってその活性を阻害することを見出した。更に、様々な基質中の二重にリン酸化されたDSGモチーフ(DpSGFXpS)を認識するSCFb-TrCPユビキチンリガーゼが、ツメガエルおよびヒトのCdc25Aにある新規な非リン酸化型DDGモチーフ(DDGFXD)を認識し、分解に導くことを見出した。