著者
江玉 睦明 影山 幾男 熊木 克治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI2033, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】大腿直筋の肉離れはハムストリングスに続いて多く,発生部位は近位部に集中している.今回,大腿直筋について肉眼解剖学的に筋構造を明らかにし,肉離れ発生部位との関連を検討した.【方法】日本歯科大学新潟生命歯学部に献体された成人3遺体5側を用いた.検索方法は主に肉眼解剖学的手法を用いた.【説明と同意】本研究は死体保護法で同意を得て行った.【結果】大腿直筋は下前腸骨棘と寛骨臼蓋上縁から起こり,遠位1/4から内側広筋,外側広筋,中間広筋とで共同腱を形成し膝蓋骨上縁に停止した.表面の近位1/3まで幅広い起始腱膜があり,そこから遠位1/3まで筋内腱が存在した.裏面では停止腱膜が近位1/4まで幅広く存在した.下前腸骨棘と寛骨臼蓋上縁から起こる起始腱は混同して起始腱膜となり,近位部で徐々にねじれて筋内腱を形成した.筋内腱は起始腱膜の延長であり,薄い膜状構造を呈した.近位部の特徴として,起始腱膜から筋内腱の筋線維は両側へ走行し羽状構造を呈して停止腱膜に停止していた.起始腱(下前腸骨棘)からの筋線維は,半羽状構造を呈し,起始腱(臼蓋上縁)からの筋線維は長軸方向に平行に停止腱膜に付着しており,表層と深層では異なる筋線維走行を呈した.また起始腱膜の形状は一様ではなく,加えて近位部で徐々にねじれて筋内腱を形成していることで近位部表面の筋線維走行は部位により異なる走行を呈した.【考察】肉離れの発生メカニズムとして羽状構造,筋腱移行部,遠心性収縮がポイントとして挙げられる.大体直筋は羽状筋であり,サッカーのシュート動作時などに受傷することが多く,近位部の筋内腱部,筋束の筋膜が好発部位とされている.今回の結果から近位部は,表層と深層では異なる筋線維走行をしており,また,起始腱膜の形状は一様ではなく,加えて近位部から徐々にねじれて筋内腱を形成しているため,近位部前面は部位により異なる筋線維走行を呈していた.このため,近位部は収縮時に部位により異なる収縮動態を呈する可能性があり,このことが肉離れの発生に関与しているのではないかと考えられた.今後は,超音波を使用しての筋収縮の動的評価を行い近位部の収縮動態を明らかにしていきたい. 【理学療法学研究としての意義】本研究は,肉眼解剖学的観点から大腿直筋の肉離れの発生原因を考察しており今後更に発展させていくことにより肉離れの治療や予防の一助となるものと考える.
著者
中俣 修 山﨑 敦 金子 誠喜
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI2117, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】身体の鉛直方向への運動を反復する跳躍動作については、主に下肢関節運動に着目され研究がなされている。動作中にほぼ直立位に保持されている体幹部では観察される関節運動は少ないものの、身体長軸方向に繰り返し加わる負荷に対して体幹姿勢を保持するための姿勢制御が必要となる。このような体幹長軸方向に加わる運動負荷に対する体幹運動の特徴を明らかにすることは、重力に抗した姿勢保持や運動時の体幹機能を考える上で重要であると考える。そこで本研究では跳躍動作における体幹運動を、1)身体全体の運動との関連性、2)跳躍高による影響という観点から分析することを目的とした。【方法】対象は健常な大学生男性6名(平均年齢21.2歳、平均身長171.6cm、平均体重57.1kg)であった。計測には、3次元動作解析装置(VICON MX)および床反力計を用いた。身体標点としてVicon社の Plug in gait full bodyモデルにより定められた所定の35点に反射マーカーを貼付した。課題は4種類の動作ピッチ(100・120・140・160回/分)での跳躍動作とした。被験者には肘関節伸展位・前腕回外位・手指伸展位、肩関節軽度外転位とさせた状態で15~20回程度跳躍動作を反復させた。被験者には跳躍高を調整してメトロノームのピッチ音に合わせて動作を行うように指示した。Plug in gait full bodyモデルにより算出した胸郭角度、骨盤角度、脊柱角度(胸郭と骨盤の相対角)の矢状面成分を体幹運動の指標として、身体重心の鉛直方向空間座標(以下、重心鉛直位置)、床反力計の鉛直方向成分の左右合計値(以下、床反力鉛直成分)を身体全体の運動の指標として用いた。床反力鉛直成分の変化をもとに接地時点から再び接地するまでを跳躍周期、接地している期間を接地相、離地している期間を離地相と定義した。跳躍周期における胸郭角度、骨盤角度、脊柱角度、重心鉛直位置と床反力鉛直成分の関係について分析した。また動作周期中の胸郭角度・骨盤角度・脊柱角度の変化角度(以下、胸郭運動角、骨盤運動角、脊柱運動角)、重心鉛直位置の鉛直方向の移動距離(以下、重心移動距離)について連続する3周期分の平均値を算出し統計学的分析に用いた。動作ピッチによる胸郭運動角、骨盤運動角、脊柱運動角、重心移動距離の相違の分析には、Friedman検定を用いた。【説明と同意】研究への参加にあたり、被験者には書面および口頭にて説明を行った後、書面にて実験参加の同意を得て実施した。【結果】重心鉛直位置は接地相にて最下点、離地相にて最高点を生じる周期的な変化を示した。床反力鉛直成分は身体重心の最下点付近でピークとなった。接地相において重心鉛直位置が最下点、床反力鉛直成分が最大となる際に胸郭角度・脊柱角度が最大屈曲、骨盤角度が最大後傾となり、その後伸展・前傾運動に転じた。離地相の初期に胸郭角度・脊柱角度が最大伸展、骨盤角度が最大前傾となった。これらの特徴は動作ピッチによらず類似していた。動作ピッチ(100・120・140・160回/分)による重心移動距離の平均値(cm)は26.8・19.7・14.6・10.8であり、重心移動量に相違を認めた(p<0.05)。動作ピッチ(100・120・140・160回/分)による運動角の平均値(°)は、胸郭運動角:7.7・5.7・3.7・3.4、骨盤運動角:5.5・5.4・4.8・5.0、脊柱運動角:12.5・10.0・8.1・7.9、で動作ピッチの小さい方が運動角が大きい傾向にあったものの統計学的には有意差を認めなかった。【考察】本研究では跳躍動作における体幹運動について、身体全体の運動との関係、跳躍高との関係に着目した。その結果、身体重心および床反力鉛直成分の変化と関連して運動を生じることが確認できた。特に接地相においては重心が最下点に達した後、上行する運動へと切り替わる際に大きな鉛直方向の負荷を受けることとなる。この際に体幹では一定の姿勢が保持されるのではなく、床反力の変化と協調的に若干の運動を生じていた。これは脊柱に加わる衝撃吸収や下肢にて発揮させる力を効率的に体幹に伝えることに作用する反応と考える。【理学療法学研究としての意義】跳躍動作では身体全体の運動と関連して体幹運動が協調的に生じていた。この結果は、抗重力位での身体運動における体幹の運動学的特徴を明らかにする一助になると考える。
著者
上田 周平 鈴木 重行 片上 智江 堀 正明 水野 雅康
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BaOI2019, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】頭頚部の運動は環椎後頭関節を中心とする頭部の運動と下位頚椎を中心とする頚部の運動から規定される(Hislop H.J.2002)。頭頚部のアライメントの相違は咽頭、喉頭などに形態的差異をもたらし嚥下機能に密接に関与すると報告されているが、頭頚部の関節可動域(以下ROM)を頭部と頚部に分け嚥下機能との関連性を検討した報告はみられない。我々は第45回本学術大会において施設入所中の50名の高齢者を対象に誤嚥性肺炎の既往の有無で頭頚部のROMを比較し、複合(頭部+頚部)屈曲には差はないが、誤嚥性肺炎群では頭部屈曲ROMが低値であることを報告した。そこで本研究は、嚥下機能の変化に伴い複合屈曲と頭部屈曲のROMにどのような変化が見られるのかを明らかにすることを目的とした。【方法】対象者は嚥下障害でリハ依頼のあった者のうち、才藤らの嚥下障害の臨床的病態重症度分類(以下class)で4以下の障害を有し、急性期の脳血管障害、腫瘍などによる通過障害、臥位で頭部が床面に接しない円背の者を除外した36例(男性20例,女性16例,平均年齢84±8歳)とした。リハ開始時と最終時に嚥下機能はclass、改訂版水飲みテスト、食物テストを指標として評価した。また頭頚部機能は頭部屈曲と複合屈曲のROM、舌骨上筋機能グレード(以下GSグレード)、相対的喉頭位置(吉田.2003)を評価した。リハ開始時と比較して最終時に嚥下機能の評価指標のいずれかが1ランクでも改善が見られた者を改善群とし、それ以外の群(不変・悪化群)との2群に分類し、頭頚部機能を比較した。なお入院期間中は全例PT、STによる介入を行った。ROMの測定肢位はベッド上臥位とし、他動運動にて最大角度と可動範囲を測定した。頭部屈曲の最大角度は外耳孔を通る床からの垂直線と外眼角と外耳孔を結ぶ線とのなす角(A角)の最大値、可動範囲は最大角度に開始肢位でのA角を加えた角度とした。複合屈曲の最大角度は肩峰を通る床との平行線と肩峰と外耳孔とを結ぶ線とのなす角(B角)の最大値、可動範囲は最大角度から開始肢位でのB角を引いた角度とした。測定にはデジタルカメラを用い、カメラが被検者と平行になるように三脚に固定して撮影を行った。その後データをPCに取り込み画像解析ソフトImage J(NIH)を用いて角度を算出した。統計学的手法は群内の比較には対応のあるt検定、Wilcoxonの符号付順位検定、2群間の比較には対応のないt検定、Mann-Whitneyの検定を用い、危険率5%未満を有意水準とした。【説明と同意】対象者またはその家族には研究の主旨を十分に説明し、研究に参加することへの同意を得た。また本研究は所属機関の倫理委員会の承認を受けて行った。【結果】最終評価後の嚥下機能は改善群18例、不変・悪化群18例であった。両群間で基礎データ(年齢,性別,リハ開始時と最終時Barthel Index,脳血管疾患既往の有無,入院からリハ開始までの日数,入院期間,リハ日数)に差を認めなかった。群内の比較は改善群では頭部屈曲の最大角度と可動範囲、複合屈曲の最大角度と可動範囲に有意な増大を認めた。不変・悪化群では複合屈曲の最大角度と可動範囲、GSグレードに有意な増大を認めた。2群間の比較では最終評価時の頭部屈曲の最大角度と可動範囲、リハ開始時と最終評価時のGSグレードが改善群で有意に高値であった。【考察】頭頚部機能として評価した相対的喉頭位置は群内、群間ともに差を認めなかった。この指標は吉田らが脳卒中患者を対象に検討を行っている指標であり、今回のような高齢なADLの低い者では両群とも高値を示しており、嚥下機能を反映しないことが考えられた。GSグレードにおいては改善群では群内の変化は認められなかった。不変・悪化群では有意な増大を認めたが、リハ開始時、最終評価時ともに改善群が不変・悪化群と比較し有意に高値を示しており、先行研究と同様に舌骨上筋群の機能が嚥下運動に影響を与えることが示された。ROMに関しては改善群では複合屈曲、頭部屈曲ともに改善を認めたが、不変・悪化群では複合屈曲のみ改善を認めた。頭頚部屈曲の効果には舌圧の増加、嚥下後喉頭蓋谷残留の減少、喉頭閉鎖不全の代償などが報告されているが、報告者により複合屈曲、頭部屈曲が混在している状況である。しかし今回の縦断調査の結果から治療における頭部屈曲へ対する介入の必要性は明確になったと考える。【理学療法学研究としての意義】高齢嚥下障害患者の嚥下機能改善の為の介入を行ううえで、また悪化させないように維持するうえで注目すべき頭頚部機能として頭部屈曲ROMがあげられることが示唆された。
著者
杉山 健治 上田 泰久 鈴木 泰之 逸見 旬 浅見 優 木暮 一哉 田村 岳久 齋藤 智幸 鈴木 明恵 平塚 尚哉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI1250, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 上位頚椎と下位頚椎は解剖学的構造や機能に異なった特徴を持っており,さらに頚椎と肩関節複合体との解剖学的連結も強いことが数多く報告されている。臨床においても肩関節可動域制限を有している症例に対して頭頚部からの介入により肩関節可動域が変化することを経験する。しかし,頭頚部のアライメントと肩関節可動域の関係性を示した報告は少ない。そこで,本研究では,頭頚部のアライメント変化と肩関節の可動域との関係を検討することを目的とした。【方法】 対象は肩関節・頚部・顎関節に整形外科疾患の既往のない健常成人男性12名(年齢24.8±2.8歳)とした。被験者の利き手はすべて右利きとした。測定肢位は,頚部を正中位にした背臥位(以下,頚部正中位)・頭部を右側屈位にした背臥位(以下,頭部右側屈)・頭部を左側屈位にした背臥位(以下,頭部左側屈)・頚部を右側屈位にした背臥位(以下,頚部右側屈)・頚部を左側屈位にした背臥位(以下,頚部左側屈)の5肢位とした。頭部の左右側屈位は,下顎下端中央と剣状突起・左右ASISの中点の3点を結ぶ線(基本軸)と左右外眼角の中点と下顎下端中央を結ぶ線(移動軸)のなす角度が10度になる肢位とした。頚部の左右側屈位は,頚切痕と剣状突起・左右のASISの中点の3点を結ぶ線(基本軸)と左右外眼角の中点と頚切痕を結ぶ線(移動軸)のなす角度が10度になる肢位とした。測定内容は,肩関節の水平内転・2nd positionでの内旋・2nd positionでの外旋の自動運動時の関節可動域とした。関節可動域は,日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会が制定する「関節可動域表示ならびに測定法」に準じて被検者の右上肢で測定した。なお,頭頚部の左右側屈位のアライメント設定および関節可動域の測定は同一検者が行い,代償動作の確認を他検者と2名で行った。測定肢位と測定運動はランダムに実施し,頭頚部の5肢位における肩関節可動域の変化を調べた。統計処理はSPSSを用い,一元配置分散分析後に多重比較(Bonferroni)を行い,有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 本研究の内容を書面と口頭にて十分説明し,同意書に署名を得た上で行った。【結果】 水平内転では,頚部正中位53.8±7.7度,頭部右側屈60.4±7.2度,頭部左側屈48.0±6.6度,頚部右側屈52.1±6.9度,頚部左側屈52.1±8.9度であった。頭部右側屈は他4肢位と比較して有意に可動域が増大した(p<0.05)。また,頭部左側屈は頚部正中位より有意に可動域が減少した(p<0.05)。 2nd positionでの内旋では,頚部正中位102.5±9.7度,頭部右側屈107.9±10.5度,頭部左側屈93.3±10.1度,頚部右側屈98.8±13.3度,頚部左側屈100.8±11.6度であった。頭部右側屈は頭部左側屈・頚部右側屈・頚部左側屈の3肢位と比較して有意に可動域が増大した(p<0.05)。 2nd positionでの外旋では,頚部正中位101.7±10.1度,頭部右側屈106.3±9.6度,頭部左側屈95.4±11.8度,頚部右側屈97.9±10.3度,頚部左側屈94.6±11.0度であった。頭部右側屈は頭部左側屈・頚部右側屈・頚部左側屈の3肢位と比較して有意に可動域が増大した(p<0.05)。 頚部左側屈と頚部右側屈では,各測定運動において可動域に有意差は認められなかった。【考察】 頭部側屈位は,頚部側屈位と比較して肩関節可動域に大きく関与していることが示唆された。頭部側屈位は環椎後頭関節や環軸椎関節の上位頚椎の運動が主であり,頚部側屈位は下位頚椎の運動が主である。頚椎の側屈には回旋が伴なう複合運動(coupling motion)があることが報告されており,頚椎の複合運動により上位頚椎および下位頚椎に付着する筋の作用が異なるものと考えられる。上位頚椎および下位頚椎に付着する筋には僧帽筋上部線維や肩甲挙筋などがあり,これらは肩甲帯へ付着する。そのため,側屈の運動様式が変わることが肩関節複合体に影響を与えたものと考えられる。以上より,上位頚椎の機能障害や位置異常が肩関節機能を最大限に発揮することを制限する一因になると考える。今後,筋硬度等も含めて引き続き検証をしていこうと考えている。【理学療法学研究としての意義】 上位頚椎および下位頚椎の動きが肩関節に関係していることが認められた。肩関節に可動域制限を有する症例に対して,頚部の評価・治療を考慮した理学療法展開が必要であると考えられる。
著者
森木 貴司 小池 有美 上西 啓裕 梅本 安則 田島 文博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.EbPI2428, 2011 (Released:2011-05-26)

【はじめに】純粋無動症はパーキンソン症候群を伴う疾患で、進行性核上性麻痺の一病型と考えられ、すくみを主症状とする。すくみは、日常生活上ですくみ足として現れ、しばしば転倒の原因となっている。したがって、すくみ足を改善することが期待され、しばしば理学療法が処方される。すくみ足に対する理学療法は、眼前の障害物を意識することで改善する特質(矛盾性運動、kinesie paradoxale)を活用した方法が多く報告されている。しかし、純粋無動症に対しての報告は少なく、臨床的にあまり検討されていない。今回、純粋無動症患者に対して、自助具の導入と運動療法を実施し、ADL改善がみられたので報告する。【説明と同意】本調査実施にあたり、文書による十分なインフォームドコンセントを行い、同意を得た。【症例紹介】70代男性、無職、妻と二人暮らし。社会資源に関しては、身体障害者手帳2級、介護保険要介護度5で、入院前はデイサービスと訪問リハビリを週3回ずつ利用されていた。平成15年に純粋無動症、パーキンソン症候群と診断された。平成22年に入り、すくみ足が強く出現し歩行困難となり、同年6月初旬にADL改善目的で入院され、理学・作業・言語療法が処方された。リハビリ開始時現症は、意識清明、見当識良好。仮面様顔貌、小字症がみられた。脳神経には異常所見はなく、筋緊張は亢進し固縮がみられた。協調性は上下肢でやや拙劣さあり、企図振戦もみられた。立位姿勢は、典型的な前傾姿勢を呈し、頸部や体幹、肩関節、股関節でROM制限がみられた。MMTは両上下肢5レベル。ADLについて、セルフケアは食事以外は中等度介助レベル、歩行はすくみ足が強く中等度~軽介助レベルであり、FIMは85点であった。【経過】リハビリ開始当初は集中的に運動療法を行った。具体的なプログラムとしては、ROM訓練、筋力訓練、床上動作、歩行、階段昇降などを実施した。また、運動耐容能や左右肢体の協調性改善目的に自転車エルゴメータおよびハンドエルゴメータ、トレッドミルなどを実施した。リハビリ開始から3日後には独歩が軽介助~監視レベルとなったが、依然としてすくみ足が問題であった。1週間後のカンファレンスでは、入院中の目標を実用的なすくみ足改善手段の決定、退院後の機能維持のため自主トレーニングの習得、他機関医療者への情報提供とした。すくみ足に対する環境設定については、L字型杖が著効した。10m歩行時間においても他手段と比較しL字型杖使用時で最速であった。したがって、すくみ足改善手段をL字型杖の導入に決定した。これにより症例自身もすくみ足改善を実感されていた。入院から3週後の退院時には、セルフケアは軽介助~監視レベル、歩行はL字型杖使用により監視~自立レベルとなり、FIMは107点に増加した。【退院後の状況】退院1カ月後の状況は、訪問リハビリ、通院リハビリ、デイサービスをそれぞれ週2回受けられ、自宅では、入院中の指導も守れており、転倒もなく入院中と同レベルのADLを維持できていた。また、歩行改善に伴いリースしていた車椅子や電動車椅子は返却し、移動手段は歩行のみとなっていた。しかし、退院5カ月後の状況では、歩行は行えていたものの動作指導や自主トレーニングを継続しておらず、主にセルフケアで妻の介助を要し、FIMは95点と入院中に比べ減少していた。【考察】純粋無動症患者に対し自助具の導入と運動療法の併用により、短期入院ではあったが著明にADLが改善した。L字型杖の導入によりすくみ足が改善した理由は、矛盾性運動誘発の障害物として状況に応じて自由に目印にすることができ、場所の限定がされないということが考えられる。また、すくみ足改善以外にセルフケアも全般的に改善したため運動療法も効果的であったと考えられる。本疾患は、進行性ではあるが退院後もできるだけ機能維持していくことが重要であり、退院後は他機関への情報提供と在宅での自主トレーニングを継続していく必要があると考える。退院後の調査では、退院直後は機能維持できていたが、5カ月後では入院中に比べADLが低下していた。この対策としては、定期的な状態の把握と動作指導、訪問・外来リハビリでの運動量の確保、指導の徹底をする必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】純粋無動症についての報告は少なく治療に難渋することが予測される。そこで、本発表を参考にして頂き治療の一助になればと思い報告させて頂く。
著者
安達 みちる 猪飼 哲夫 平澤 恭子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BbPI2149, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】超低出生体重児の運動発達は、体重が少ないほど遅れる傾向があると報告されている。400g未満で出生した児の運動発達経過についての報告は少なく、今回、346gで出生した超低出生体重児の理学療法をNICU退院後も引き続き経験した。発達経過と理学療法について検討考察し、今後の症例への理学療法に活かす事を目的とした。【方法】対象は、346gで出生した超低出生体重児。重症IUGRを認め、27週4日で緊急帝王切開にて出生。アプガースコアは1分1点、5分1点。呼吸器管理日数は63日。修正5ヶ月で経口と経管栄養で自宅退院。修正11ヶ月で経管栄養を離脱。修正18ヶ月のMRIは異常なし。3歳時の新版K式はDQ78(運動48、認知84、言語社会78)。38週から3歳まで理学療法が行われ、児の発達経過と理学療法との関連を検討した。【説明と同意】理学療法の施行と本学会への発表において、家族から口頭と書面で承諾をいただいた。【結果】38週1日(756g)保育器内より理学療法施行。覚醒時、驚愕しやすく啼泣が多いためホールディングにて落ち着くポジショニングを確認し施行指導した。屈曲位の側臥位または腹臥位で下部体幹骨盤を圧迫包み込むことで睡眠への導入、落ち着いた覚醒が得られた。39週(890g)以降、State4が保てる様になり自発運動等を評価できた。肩の後退と足外反は各姿勢でみられ、四肢の分離的自発運動は見られるがぎごちなく体幹を含め回旋運動と運動範囲が少なく、下肢のROM制限、四肢の過筋緊張、自発運動で驚愕しやすかった。手足のホールディングで落ち着かせると注視が可能であり、ホールディングした中で落ち着いた覚醒を経験させ、リラクゼーション後、四肢の他動運動等を通して触圧運動の感覚入力など施行し、親にホールディングと声かけ、見つめ合い等指導した。40週(1079g)では、State4が増え、追視可能。背臥位のポジショニングでは、頭部を安定させるための枕を作製した。41週(1184g)経口開始。吸啜嚥下みられ咽せはないが、3ccを10分要した。42週(1228g)でクベース外での理学療法が可能。感覚入力への受け入れは良く、ROMは改善したが、GMsはPRで自発運動と筋緊張は39週と同様の傾向であった。経口も1回5~20ccと安定せず、胃残や嘔吐を繰り返していたため、理学療法は経口前に施行するなど介入時間を配慮した。43週3日(1372g)でコットへ移床。四肢の過筋緊張は軽減していたがGMsはPRであった。評価、四肢の自発運動の促し、感覚運動入力、ポジショニングなど施行し、親へは、児の感覚運動の特徴や発達の変化を伝え、好む抱っこや落ち着いた覚醒での相互的な感覚運動入力を通して母子関係を促した。以降、感覚運動発達はみられ、53週(2918g)では関わりで声出し笑いや、四肢の抗重力運動が可能となった。退院後は、独歩獲得まで月に1回、獲得後は3~6ヶ月に1回の理学療法評価と各機能獲得に向けた運動、遊び方を指導した。各機能の獲得は修正で、定頚4ヶ月、寝返り6ヶ月,座位保持10ヶ月、四つ這い移動11ヶ月、伝い歩き12ヶ月、独歩19ヶ月であった。独歩獲得までの問題として、立位時に足外反足趾屈曲が見られ、足部の支持性と体重移動への反応が低下していた。足部でのけり出しと運動を指導した。足部の問題は独歩獲得後もみられ、足部運動の継続と靴の指導を施行、2歳9ヶ月時には改善していた。【考察】40週前後で週数に比し体重が少ない児は、過敏で驚愕啼泣しやすいと感じているが、本児も38週時の理学療法介入時は感覚過敏が問題であった。自発運動で受ける感覚を過剰に受け、覚醒時啼泣が多かったことが、四肢の筋緊張に影響していたと考えられた。ポジショニングの施行で睡眠への導入、落ち着いた覚醒が得られたことは筋緊張の緩和に、また、在胎37週以降に覚醒して集中する能力を発達させるといわれておりポジショニングでState4が保てたことは集中するための環境作りに有用だったと考える。超低出生体重児の粗大機能の獲得時期については、第44回の本学会で報告したIQ70以上の超低出生体重児群の運動獲得時期と比較すると、独歩のみ、90%通過修正月齢よりも遅かった。独歩獲得が遅れたことは、足部の問題が影響していたと考えられるが、修正11ヶ月まで経管栄養であり、体力の少なさ等他の影響も考えられた。【理学療法学研究としての意義】近年、出生体重が400g未満であっても生存可能となっている。400g未満で出生した脳の器質的異常を伴わない超低出生体重児へのNICUからの理学療法で、児の安定を引き出し発達経過に沿った理学療法の施行経験は、今後の症例への理学療法に役立つと考える。
著者
出原 千寛 石原 みさ子 北嶋 宏美 木村 友哉 秋山 隆一 四方 實彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CdPF2036, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 頸椎除圧術後に、新たに第5頸髄節領域を中心とした麻痺が5~30%の確率で生じる(以下C5麻痺)ことがある。C5麻痺について多数の研究報告があるが、発生機序や病態、効果的な治療方法などはまだ明らかにされていない。また、C5麻痺の発生から回復までの経過を追った報告は少ない。C5麻痺患者に対して適切な治療の選択や患者教育を行うために、麻痺の回復過程の理解は必須である。 我々は第21回京都府理学療法士学会においてC5麻痺患者の麻痺の回復が良好であった例と遅延した例を比較し、遅延例の特徴を回復遅延項目と定義し報告した。今回我々はC5麻痺患者の回復過程を詳細に示し、回復遅延項目を活用した予後予測が可能であるか検討した。【方法】 2009年1月から2010年9月までに当院にて頸椎除圧術を施行した208例のうち、15例が術後にC5麻痺症状を呈した(発生率7.2%)。そのうち第5頚髄節の支配筋の麻痺を呈した13例(男性10名、女性3名、年齢:67.9±7.3)を対象とした。 算定上限日数(150日)内にMMT3以上に至らない例を予後不良と定義した。回復遅延項目は、(1)頸椎後縦靱帯骨化症もしくは歩行障害(頸椎機能判定基準の下肢の項目が1.5点以下)を有している(2)術前の肩・肘関節のMMTが3以下(3)術前の自覚症状発生から手術までの期間が1年以上(4)C5麻痺が術後翌日に発生している(5)麻痺発生時の麻痺筋のMMTが1もしくは0とした。 対象者の麻痺発生から最終評価までの期間(平均116.0±5.0週)の三角筋前部のMMT、端座位での肩屈曲の自動関節可動域(以下、A-ROM)のデータを、カルテから後方視的に調査した。本研究は倫理審査委員会で了承された(2010-1)。【説明と同意】 頸椎除圧術の対象者に対して、術前に研究・学会発表等におけるデータの活用を書面にて説明し了承を得た。【結果】 C5麻痺患者のうち算定上限日数以上もしくはMMT3以上に至るまで経過を追えた症例は、13例中7例であった。7例中5例が予後良好、2例が予後不良であった。予後良好であった5例のうち4例は、回復遅延項目に該当せず3ヶ月以内にMMT4以上に回復した。残りの1例は2項目に該当し、麻痺発生から5ヵ月後にMMT3に至った。予後不良であった2例は3~4項目に該当し、算定上限日数を超過してもMMT3以上に至らなかった。 回復遅延項目数が2項目だった1例のA-ROMは、回復遅延項目に当てはまらなかった4例と比較して、麻痺発生時から算定上限日数まで緩やかな回復過程であった。予後不良であった2例のA-ROMは、麻痺発生時から最終評価時までほぼプラトーであった。【考察】 回復遅延項目数が少ないほどMMT3以上に回復するまでの期間が短く、項目数が多い症例ほど経過が長くなる傾向であった。 A-ROMの結果からC5麻痺の回復過程は以下の3つに分類できる。1~3ヶ月で回復が見込まれる群(以下、グループA)、回復するまでに長期間を要する群(以下、グループB)、回復の見込みが少ない群(以下、グループC)である。また、これらのグループの回復遅延項目数は、グループAが0個、グループBが2個、グループCが3~4個であり、回復遅延項目数を活用することでC5麻痺患者の予後予測が可能であることがわかった。 細野らはC5麻痺の予後は良好で数ヶ月で自然回復すると報告している。しかし、実際には経過が長くなる患者や予後不良な例を経験することがある。グループAに対しては、麻痺の回復に応じて筋力増強訓練や動作練習など機能的な訓練を積極的に行っていく必要があるが、グループBやグループCに対しては、理学療法を行う際に代償運動や筋の過用・廃用に注意を払う必要がある。そのため、麻痺筋に対して正しい運動方向での収縮を学習させたり、麻痺筋以外の筋群の二次的な筋力低下を防ぐ治療や関節可動域訓練を行ったりするなど二次障害を予防する治療が中心となってくる。 このようにC5麻痺発生直後にグループに分類し予後予測をすることで、患者の経過に合わせた適切な治療の選択が可能となり、患者に対するC5麻痺の説明や患者教育をより詳細に行うことができる。【理学療法学研究としての意義】 C5麻痺患者の回復過程を詳細に示した報告はなく、臨床において予後予測が困難であった。C5麻痺患者の回復過程を示し、回復過程を3つの群に分類することができた。回復遅延項目数によってC5麻痺患者の麻痺発生時点での予後予測が可能となった。これらは、理学療法を行う際のプログラムの立案やゴール設定の際の指標となる。さらに患者へのC5麻痺の情報提供がより的確に行える。
著者
由谷 仁 梶原 秀明 宮原 正文 中根 博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.GaOI2055, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 情意領域の低下、特に「自発性のなさ」が問題となる臨床実習学生(以下、学生とする)の指導は、臨床実習指導者(以下、指導者とする)の心的負担を著しく増加させる。そこで、臨床実習を円滑に遂行するため、指導者にとって負担の少ない指導方法を確立させることは急務であるが、現状は各病院や各指導者の裁量次第で明確な方法は示されていない。当院では臨床実習の位置付けとして、平成21年より「受動的教育」から「能動的教育」へ行動変容させることを最重要課題とし、続いて国家試験の知識を習得することを目的として掲げている。辻下は、行動分析学的アプローチは有効な行動変容法であると述べており、学生に行動変容を促しつつ指導者に負担の少ない指導方法を模索してきた。 今回は、情意領域に問題があると指摘された学生に対し、行動分析学的アプローチを用いた「質問行動の増加」という介入を行い、その効果をシングルケースデザインにより検討し報告する。【方法】 対象は当院での臨床実習にて情意領域の低下が指摘された理学療法士学科最終学年、30代、男性、1名。方法は畑山らの報告を参考にし、実習期間をベースライン期(2週間)、介入期(4週間)、非介入期(2週間)に分け、まずベースライン期終了時にターゲット行動の明確化を図るため中間評価を行った。その際、特に低下がみられ問題とした「自発性のなさ」に対し、「質問行動の増加」をターゲット行動と設定した。 介入期は「質問行動の増加」のため、学生に自ら質問を行い、その内容を質問行動記録表に記載するよう指導した。また、質問のルールとして自分の考えを可能な限り述べることとした。先行刺激は、質問数に応じて臨床実習総合評価の情意領域に関して15回/週以上で「可」、30回/週以上で「良」にすること、質問に関して否定的なコメントはしないこと、必要以上に課題を出さないことを約束した。後続刺激は、質問行動が見られた直後に指導者側から賞賛することを徹底し、週末に学生と1週間分の質問内容を確認した。 非介入期では質問行動記録表への記載は継続させたが、後続刺激は与えなかった。調査内容は質問行動数(自分の考えを述べた質問数/全体の質問数)、臨床実習評価(当院独自、各項目4点満点で良好4点、普通3点、やや劣る2点、劣る1点)とした。なおベースライン期の質問行動数はデイリーノートより作成した。加えて最終週は3日間のみのデータ収集となった。【説明と同意】 学生には本報告の主旨、本データを報告以外に使用しないこと、未同意でも不利益を受けないことなどを実習終了時に説明し、紙面にて同意を得た。【結果】 1週間の平均質問行動数はベースライン期で0/0.5(0%)回、介入期で16.3/32.3(50.4%)回、非介入期で16.3/31.3(52.0%)回であり、介入期で増えた回数を非介入期でも維持できた。臨床実習評価による全領域の平均は、2週後2.6点、4週後2.4点、6週後2.5点、最終2.5点と若干の変化であった。そのうち、情意領域だけの平均は、2週後2.5点、4週後2.6点、6週後2.7点、最終2.8点と改善傾向はみられたが大幅な変化ではなかった。【考察】 ベースライン期ではほとんどなかった質問行動自体は、介入期より増加し非介入期でも継続してみられたため、質問行動自体の定着は図れたと考えられる。しかし、臨床実習評価の平均点数に大幅な変化がなかったことを考慮すると、当院で目的とした能動的な行動変容までは至らなかったと考えられる。これは質問行動数の結果より、先行刺激で与えた30回/週以上で「良」との質問数を若干超えた値が多く、質問行動数自体が目的となっていたためと考えた。臨床実習教育の手引き-第5版-によれば内発的動機づけには知的好奇心が必要で、その知的好奇心は環境に変化を起こせたという有能感あるいは達成感が動機づけに重要となると述べられている。今回、知的好奇心を促せなかったことが、能動的な行動変容まで至らなかった原因ではないかと思われた。今後は、知的好奇心を促すために、人の役に立つという視点で指導方法を模索し、能動的な行動変容を促す方法の確立に取り組んでゆきたい。【理学療法学研究としての意義】 臨床実習教育において自発性のなさが問題となる学生に対し、受動的から能動的への行動変容を起こさせる簡便かつ、有効な指導方法が確立出来れば大変有意義なことである。
著者
小林 茂 金尾 顕郎 吉川 貴仁 藤本 繁夫 平田 一人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.DcOF1092, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は中・高齢者に多い慢性の肺症状をはじめ全身炎症性疾患として捉えられる。慢性の換気障害とガス交換障害のために動脈血低酸素血症や高炭酸ガス血症が生じ、高次脳機能への影響が考えられるがその報告は少ない。そこで本研究ではCOPD患者の認知機能を評価し、肺機能、低酸素血症の有無、呼吸困難度さらに日常生活活動(ADL)との関係を検討することを目的として実施した。【方法】 O大学医学部附属病院呼吸器外来に通院する60歳以上のCOPD患者で、内科的標準治療がなされ症状安定期にある39名(男性23名、女性6名)、平均年齢72.2±7.0歳を対象とした。対象者の肺機能はVC 2.94±0.83L、%VC 94.5±21.13%、FEV1.0 1.35±0.62L、%FEV1.0 65.51±27.81%であり、GOLD分類の軽症7名、中等症21名、重症8名、最重症3名であった。なお、既に認知トレーニングを受けている症例、60歳未満の症例は対象より除外した。 評価はスパイロメトリーによる肺機能テストを実施し、パルスオキシメータにより低酸素血症の有無を観察した。認知機能は面接法にてMini-Mental State Examination(MMSE)30点満点、呼吸困難度はMedical Research Council(MRC)スケール、日常の活動性は日常生活活動(ADL)テスト身辺動作15点満点と移動動作15点満点を用いて評価した。 解析は肺機能(GOLD)の分類、低酸素血症の有無、MRCスケール各指標の程度ごとにMMSEの平均値を求め比較した。さらにMMSEと各指標の順位相関を求め検討した。また、MMSEの再現性を検討するために、2ヶ月間の観察期間をあけて症状の変化を認めなかった8名において再評価を実施した。【説明と同意】 本研究はO大学医学部倫理委員会の承認を得て臨床研究として実施した。対象者には事前に口頭と文面にて研究内容と方法を説明し同意書を得た。【結果】 1 MMSEの結果 全対象者の平均は25.3±2.3点であった。 2 MMSEの信頼性 8名において初期評価25.3±1.6点、2ヵ月後の再評価25.5±2.3点であり有意な差はなく、両評価の相関係数は0.80(P<0.01)であった。 3 MMSEと肺機能(GOLD)の分類との関係 GOLD分類の軽症26.0±2.2点、中等症25.7±2.6点、重症24.5±1.9点、最重症24.0±2.0点であり、それぞれ有意な差は認められなかった。また、両指標の間の順位相関はrs=-0.27(P<0.05)と低い関係であった。 4 MMSEと低酸素血症の有無との関係 低酸素血症無し(低酸素無群)26.1±2.4点、運動時低酸素血症有り(低酸素有群)23.9±1.9点、常時血酸素血症有り在宅酸素療法(在宅酸素群)24.1±1.4点であった。低酸素無群と低酸素有群および在宅酸素群との間に有意な差(P<0.05)が認められた。また、両指標の間に有意な順位相関rs=-0.40(P<0.01)が認められた。 5 MMSEとMRCスケールとの関係 Grade1 26.7±2.2点、Grade 2 25.8±2.4点、Grade 3 23.9±1.6点、Grade 4 23.3±1.2点であった。Grade1と3および4、Grade2と3との間に有意な差(P<0.05)が認められた。また、両指標の間に有意な順位相関rs=-0.51(P<0.01)が認められた。 6 MMSEと活動量との関係MMSEとADLテスト(移動動作)平均8.3±3.2点との間に有意な順位相関rs=-0.41(P<0.05)が認められた。しかし、ADLテスト(身辺動作)平均12.8±3.2点との間には有意な関係は認められなかった。【考察】 MMSEの再現性はFolsteinら等の再検査法で報告があり、非常に高い信頼性が示されている。我々の今回の60歳以上のCOPD患者においても相関係数は0.80と高い信頼性が示された。MMSEは30点満点で評価され、認知障害のcut off値は23/24点が推奨されている。COPD患者の認知機能の平均値25.3±2.3点は軽度認知障害の疑いのあるレベルであるが、一般高齢者と同等レベルと考えられた。しかし、MMSEは低酸素血症の有無、MRCスケールの程度で有意な差が認められ、また各指標との相関が認められた。さらに日常の移動動作の程度との間にも相関が認められた。この結果より低酸素血症を示す症例、動作時の呼吸困難が強い症例、日常活動レベルの低い症例ほど認知機能が低いことが考えられた。このことに共通する因子は活動性の低下と低酸素血症の存在であり認知機能に大きく関わっていることが考えられた。【理学療法学研究としての意義】 今後、同対象者に運動療法を実施し、認知機能に対する運動療法の有効性を検討するための基礎データとして意義は重要である。
著者
中岡 伶弥 櫃ノ上 綾香 羽崎 完
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI1071, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 筋連結とは,筋と筋のつながりのことを指し,隣接する筋の間は筋膜,筋間中隔などの結合組織や互いの筋線維が交差している。筋が連結している部位では,片方の筋が活動したとき,その筋に連なるもう一方の筋にまで活動は伝達するとされている。このことは,PNFやボイタなどの治療法にも応用されている。しかし,筋が連結しているかどうかについては,解剖学的な考察や経験に基づいており,筋の機能的な連結については明らかではない。そこで本研究では,前鋸筋と外腹斜筋に着眼し,この2筋間に機能的な筋連結が存在するのかを明確にすることを目的とした。【方法】 対象は健常成人男子大学生14名 (平均年齢21.1±0.7歳,身長172.4±5.6cm,体重62.4±8.4kg)とした。測定方法は,ベンチプレス台の上で背臥位になり,肩関節90°屈曲位で肩甲帯を最大前方突出させた。その肢位で,自重(負荷なし),体重の30%負荷・60%負荷をベンチプレスで荷重し,5秒間保持させた。施行順はランダムとした。測定は第6肋骨前鋸筋,第8肋骨前鋸筋,外腹斜筋の3箇所とし,前鋸筋は肋骨上で皮膚表面から視察・触察できる位置に,また,外腹斜筋は腸骨稜と最下位肋骨を結ぶ中点から内側方2cmの位置に筋線維の走行に沿って電極を貼った。筋活動の導出には表面筋電計(キッセイコムテック社製 Vital Recorder2)を用い,電極(S&ME社製)は,電極間距離1.2cmで双極導出した。サンプリング周波数1kHzとした。基準値を設定するために,徒手抵抗による最大等尺性収縮(Maximum Voluntary Contraction,以下MVC)時の表面筋電図を記録した。各筋のMVCの数値を100%とし,各負荷における数値を除した%MVCを算出した。解析方法は,第6肋骨前鋸筋,第8肋骨前鋸筋,外腹斜筋それぞれにおいて,自重,30%負荷,60%負荷の3群をFriedman検定を用いて比較し,多重比較検定としてScheffeの対比較検定を用いた。また,有意水準を5%未満とした。【説明と同意】 すべての被験者に対し,本研究の趣旨を口頭および文書にて説明し,署名にて研究協力の同意を得た。【結果】 第6肋骨前鋸筋の筋活動量の50パーセンタイル値は,自重で30.8%MVC,30%負荷で40.0%MVC,60%負荷で52.9%MVCであり,Friedman検定の結果,自重より60%負荷が有意に高値を示した(P<0.05)。第8肋骨前鋸筋の筋活動量においても50パーセンタイル値は,自重で22.5%MVC,30%負荷で22.9%MVC,60%負荷で24.7%MVCであり,自重より60%負荷が有意に高値を示した(P<0.05)。外腹斜筋の筋活動量の50パーセンタイル値は,自重で12.6%MVC,30%負荷で17.1%MVC,60%負荷で26.3%MVCであり,自重より30%負荷・60%負荷の2群で有意に高値を示した(P<0.05)。いずれの筋においても30%負荷,60%負荷の間には有意な差は認められなかった。【考察】 前鋸筋と外腹斜筋の関係については,これまでに荒山らによって検討されている。彼らは,体幹筋強化トレーニングとして用いられるTrunk Curlを使用して,前鋸筋と外腹斜筋の筋連結を検討することを目的にしていた。それは,1)肘伸展0°,肩90°屈曲位で,最大努力で肩甲帯前方突出を行いながら,上体を起こす。 2)肘伸展0°,肩90°屈曲位で肩甲帯前方突出をせずに,上体を起こす。3) 胸部前面で,腕を組み上体を起こす。という3種類の上体起こしにより関係を示している。その結果として,前鋸筋の活動は外腹斜筋の活動を高めることが示唆され,付着部を共有し,筋線維走行の方向が一致する筋の相互作用を期待したエクササイズの有効性が示唆されたとしている。しかし,この方法では,上体を起こすことによって直接的に外腹斜筋を働かせているため,機能的な筋連結を明確にするという点では不十分である。そのため,本研究では外腹斜筋の作用である体幹の反対側への回旋や同側への側屈,前屈が起こらないように,被験者には背臥位でベンチプレスを荷重させた。直接的に外腹斜筋を活動させる条件下でないにも関わらず,前鋸筋の筋活動量が増すにつれ,外腹斜筋の筋活動量も増加した。肩甲帯の前方突出により前鋸筋が収縮すると,肩甲骨は外転し,胸郭は上方に引き上げられる。しかし,前鋸筋が最大筋力を発揮するためには,胸郭の固定が必要である。そのため,胸郭を下方に引き下げる外腹斜筋が固定筋として作用したため,外腹斜筋の活動がみられたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究で得られた結果は,治療にも役立てられるのではないかと考える。例えば,翼状肩甲の治療には前鋸筋のトレーニングが必要だといわれている。しかし,翼状肩甲の治療において筋連結を考慮すると,前鋸筋へのアプローチだけでなく,それに併せて外腹斜筋へのアプローチも行うことで,より肩甲骨の安定性は増すのではないかと思われる。
著者
米ヶ田 宜久 高濱 照 壇 順司 国中 優治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI2248, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】前腕の回内の可動域測定は、近位橈尺関節と遠位橈尺関節に加え手関節の可動性を含めた角度にて測定している。また、高齢者に多発する橈骨遠位端骨折後に問題となる前腕の可動域制限を考える上で、日常生活上、最もよく使用される回内の可動域を正確に測定することが重要であり、可動域を改善するためには、橈骨と尺骨での純粋な回内運動とその制限因子を把握する必要がある。今回、前腕の軸回旋のみの可動性を”真の回内”と位置づけ、通常の可動域と区別し可動域測定の指標となる角度を算出した。さらに回内の動きを制動する要因について、遺体解剖の所見により検討した。【方法】対象は健常人55名(男性30名、女性25名、年齢21.13±2.84歳)、110肢とした。回内の可動域測定方法は、日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会の測定方法に基づき、上肢下垂位から肘関節を90°屈曲し、基本軸を上腕骨、移動軸を手指伸展した手掌面にて測定した。また、可動域の制動となる要因を、熊本大学医学部形態構築学分野の遺体、左右14肢を用い測定・観察を行った。まず健常人での回内可動域を測定し、次に回内を制動する可能性の高い回外筋に着目し、切断前後の可動域の差を測定した。測定方法は健常人と同じ方法を用いた。尚、手関節の可動性はほとんどなかった。また関節包・靭帯のみを残した標本を作成し制動要素を観察した。さらに橈骨粗面が尺骨に衝突し制動要因となるかを観察した。その後、健常人の真の回内を測定した。方法は、上肢下垂位から肘関節を90°屈曲し、基本軸を上腕骨、移動軸を尺骨頭背側面の最も高い部位とリスター結節背側面の最も高い部を結ぶ線にて測定した。検定には全てt検定を用いた。【説明と同意】対象者には本研究の参加に際し、事前に研究の内容を説明し、同意を得た上で実施した。また、生前に白菊会にて同意を得ている遺体を用いた。【結果】回内の可動域は108.72±16.17°、男性106.53±17.44、女性111.36±14.22°であり性別間に有意差はなかった。次に遺体解剖の所見から、回外筋を残した状態での回内角度は45.57±8.84°であり、切断後は56.42±9.35°となり、回外筋切断後の可動域に有意な差を認めた(P<0.01)。また、靭帯・関節包の制動要因については、外側側副靭帯・輪状靭帯の緊張が高くなることが観察された。骨は14肢とも橈骨粗面は尺骨と衝突しなかった。これは解剖用のメスを橈骨粗面と尺骨の間に挟み、最大回内させても容易にメスを抜き出すことができた事から骨の衝突はないといえる。その後、健常人の真の回内を測定した。可動域は86.09±16.52°であり、回内との可動域に有意な差が認められた(P<0.01)。また、性別比較では男性87.33±15.52°、女性84.60±17.69°であり、回内と比較し有意な差が認められた(P<0.01)。性別間に有意な差はなかった。【考察】回内角度は健常人108°、遺体45°であること、遺体による回外筋の切断前後の可動域の差を約11°認めたことから制動の大きさを示している。しかし、健常可動域にはまだ不十分である。そこで、他の要因として、近位橈尺関節周囲の軟部組織と橈骨と尺骨の衝突、手関節の可動性が考えられる。靭帯・関節包の観察により外側側副靭帯、並びに輪状靭帯の緊張により回内制動されることが確認された。また、橈骨と尺骨の衝突は、回内位で生じないことが確認できた。これは橈骨の生理的湾曲と橈骨頭が楕円形であることで衝突を回避し、より大きな可動域を確保しているものと考えられる。しかし、そのまま回内への可動を許すと近位橈尺関節は脱臼するため、これらを制動する要因として橈骨頭の軸回旋を安定化させる、外側側副靭帯と輪状靭帯が緊張することが、回内制動に最も適していると考えることができる。また外側側副靭帯は橈骨頭の上端より上の部分から、内下方に走行していることも制動に適しているのではないかと考えられる。また、健常人の真の回内は約86°であり、回内と比較すると22°の角度を手関節が担っている。遺体で回外筋切断後も約56°であったこと、健常人での回内と真の回内の角度に約22°の差を認めることから手関節部も大きな制動要因になる可能性が高いと考えられる。これらのことから回外筋・外側側副靭帯と輪状靭帯の変性、手関節の柔軟性が真の回内の可動性を制限する要因になると考えられる。【理学療法学研究としての意義】回内の可動性の測定において、真の回内と回内に分類して考えることで、可動性の異常に対する原因を切り分け、治療対象を明確化でき、回内の測定はこれら2種類の可動域に着目する必要があると言える。また、回外筋・側副靭帯・輪状靭帯・手関節の変性は回内制動の原因となることが示唆された。
著者
榎本 洋司 川間 健之介
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BbPI2174, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】理学療法において教示やフィードバック等の言語指示は、患者の運動学習を促進する上で重要であり、治療技術の一つとして考えられるが、実際の臨床で理学療法士(以下PT)がどのような教示・フィードバックを行っているのかを検討した報告は見当たらない。本研究の目的は、脳血管障害患者(以下CVA患者)への言語指示がどのように行われているのかを明らかにすることを目的とする。【方法】PTが、CVA患者に対し起立動作練習を実施している場面をVTR、ICレコーダーにて記録した。起立動作練習開始から起立動作を5回行うまでを1セッションとして記録した。対象は、当院に勤務する経験年数3年以上のPT15名(男/女:12/3、平均経験年数4.2±1.3年)であり、治療対象となる患者は、当院入院中のCVA患者42名(男/女:20/22、平均年齢73.5±13.5歳)とし、疾患の内訳は、脳梗塞25名、脳出血16名、くも膜下出血1名であり、右片麻痺12名、左片麻痺25名、両片麻痺2名であった。計42セッションの記録を行った。対象となるPTには、「治療対象となる患者に対して、起立動作を安全かつ安定して行えるよう動作の自立を治療目標とすること」と呈示した。記録から、言語指示の内容をテキスト化し、「教示・KP」、「KR」、「合図」、「その他」に分類した。言語指示の分類方法に関しては、信頼性の検討を目的とし、経験年数3年以上のPT8名により、分類方法に基づき4セッションのVTRの分析を行い、分類結果について一致率を求めた。その結果、κ係数0.754~0.948が得られ、分類方法の信頼性を確認した。分析は、言語指示の付与されるタイミングにより動作遂行中である起立・着座動作中と静止位である座位・立位の2場面での付与頻度を求めた。また徒手的操作として、VTRよりPTが介助・促通を行っている時間を計測し、またジェスチャーなど視覚的情報に関しては、その付与頻度を求めた。言語指示の付与頻度に関して、CVA患者の起立動作能力レベル(Berg Balance Scale起立動作項目:以下BBS)による比較、セッションの総時間に占める徒手的操作が加えられている時間の比率(以下%SUP)による差異を比較した。また、言語指示、視覚的情報の付与頻度について、治療対象となったCVA患者を失語群(失語症を有し、FIM理解の項目が5点以下:9例)、認知群(MMSE20点以下で、FIM理解の項目が5点以下:14例)、対照群(MMSE21点以上で、FIM理解の項目が6点以上:12例)に分類し比較した。分析は一元配置分散分析にて行い、有意確率5%未満を統計学的に有意とみなした。また、言語指示の内容に関しては、テキストマイニングを行い3群間で比較した。なお、テキストマイニングはテキストマイニングソフト・KH Coder(Ver.2)にて行った。【説明と同意】本研究は、筑波大学人間総合科学研究科研究倫理委員会の承認を受け、対象となるPTおよび患者には、研究内容について十分な説明のもと、書面にて同意を得た。【結果】BBSにより介助を有する1点以下と介助を有さない2点以上の者の2群で言語指示の付与頻度を比較すると、起立・着座動作中の「合図」の頻度が介助を有する群で有意に多かった。%SUPが50%未満と50%以上で比較したところ、50%以上の群では、座位・立位時の「教示・KP」および起立・着座時の「合図」が有意に多かった。また、患者の分類による3群の比較では、対照群に比較し、認知群において起立・着座時の合図が有意に多かったが、その他は有意な差異を認めなかった。また、言語指示の内容に関して、頻出語を抽出したところ、3群とも「はい」「そう」や「一回目」などの「回数」を示す語が上位を占めたが、対照群では、体の部位である「尻」や「膝」などが上位に挙がった。【考察】運動の方法を内容に含まない言語指示である「合図」は、治療対象となる患者の動作能力、徒手的操作の量、理解力によって、その付与頻度に差があったが、運動の方法を内容に含む「教示やKP」は、徒手的操作の量によってのみ差を認めた。このことは、学習段階に応じて、PTが「教示やKP」を付与する量を調整していることを示していると考えられる。また、3群間の比較より、「教示やKP」は患者の理解力に応じて、付与頻度ではなく、その内容を変化させることで治療を実施していることが明らかとなった。今後は、言語指示を患者がどの程度理解しているかや、言語指示の患者の運動学習への効果についての検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】運動学習を促進する上で教示やフィードバックなどの言語指示は、治療の成否を左右する要素の一つであると考えられるが、臨床においては経験則によるところが大きいと考えられる。本研究は、教示やフィードバックを一つの治療技術として発展させる上で、有用な知見を得るものになると考える。
著者
奥村 裕 金指 美帆 金澤 佑治 藤田 直人 近藤 浩代 藤野 英己
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI2069, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】廃用性筋萎縮が起こると筋線維毎の毛細血管数や毛細血管径が減少する。このような毛細血管の退行には活性酸素種が関与していると考えられている。活性酸素により毛細血管の退行が生じれば、骨格筋細胞の代謝活性に影響を与える。一方、筋萎縮に伴う骨格筋毛細血管の退行に対する酸化ストレスを軽減させる方法や毛細血管退行と骨格筋細胞の代謝活性を考慮した研究はみられない。そこで、本研究では骨格筋線維と毛細血管のクロストークに焦点をあて、抗酸化力の高い抗酸化物質摂取による毛細血管への影響と骨格筋細胞の代謝という観点から、廃用性筋萎縮筋の筋線維タイプ別の毛細血管及び酸化的リン酸化系の代謝変化について検討した。【方法】12週齢のWistar系雄ラットを対照群(Cont群)、栄養サポートのみを行った群(CA群)、一週間の後肢懸垂を行った群(HU群)、及び後肢懸垂期間中に栄養サポートを行った群(HA群)の4群に区分した。栄養サポートにはアスタキサンチン(富士化学工業株式会社より提供)を毎日50mg/kgを1日2回経口摂取させた。実験期間終了後、足底筋を摘出し、急速凍結して保存した。摘出した筋試料は10μm厚に薄切し、ミオシンATPase染色(pH4.3)、アルカリフォスファターゼ(AP)染色、コハク酸脱水素酵素(SDH)染色後に光学顕微鏡で観察を行った。ATPase染色像を用いて足底筋を遅筋線維の多い深層部と速筋線維の多い浅層部に分別し、筋線維毎の毛細血管数の割合、単一筋線維の周囲の毛細血管数、筋線維のSDH活性を計測した。統計処理は一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を行い、有意水準は5%未満とした。【説明と同意】全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。【結果】一週間の後肢懸垂によりラット足底筋の筋湿重量は12%減少した。また、後肢懸垂期間中にアスタキサンチンを摂取したHA群においても同様に減少した。一方、深層部における筋線維毎の毛細血管数は、HU群ではCont群に比べ有意に減少を認めた。しかし、アスタキサンチンを経口摂取したCA群及びHA群は、それぞれCont群、HU群と比較して有意な増加を認めた。また、浅層部では4群間における有意な差は認められず、後肢懸垂の影響、アスタキサンチンの摂取有無に関係はみられなかった。また、単一筋線維周囲の毛細血管数は、遅筋線維ではCont群に比べHU群では有意な減少を認めたが、アスタキサンチンを摂取したCA群及びHA群では、単一筋線維周囲の毛細血管数の有意な増加を認めた。一方、速筋線維は4群間における有意な差は認められなかった。SDH活性をみると深層部の遅筋線維はCont群に比べHU群では有意に減少を認め、アスタキサンチンを摂取したCA群及びHA群では有意に増加を認めた。これらの結果からアスタキサンチンは遅筋線維のSDH活性を増加させ、廃用に伴う遅筋周囲の毛細血管退行を減衰させるものと考えられる。【考察】一週間の後肢懸垂により足底筋の深層部では、筋線維毎の毛細血管数や遅筋線維周囲の毛細血管数の減少、SDH活性の低下を認めた。これらの結果は、後肢懸垂で筋活動が低下し、筋細胞内のミトコンドリアにおけるエネルギー代謝が低下したために生じる現象であると考えられる。廃用性筋萎縮により骨格筋内の活性酸素種産生が増加するが、アスタキサンチン摂取により活性酸素種の産生を抑制し、酸化ストレスを減少できるとの報告がみられる。(Wolf, 2010)。本研究では、足底筋の深層部でアスタキサンチンを摂取したCA群及びHA群では、筋線維毎の毛細血管数や単一筋線維周囲の毛細血管数の有意な増加を認めた。また、遅筋線維でSDH活性の増加を認めた。これはアスタキサンチン摂取により活性酸素種が減少し、骨格筋線維周囲の毛細血管退行を防止できたために骨格筋細胞の代謝が阻害されなかったものと考えられる。また、その裏付けとして毛細血管の退行を抑制できた遅筋線維ではSDH活性が増加した。本研究では、速筋線維周囲の毛細血管には変化がなく、遅筋線維周囲で廃用の影響や毛細血管の変化が観察された。この結果は、遅筋線維の方が酸化的リン酸化による代謝に依存して、毛細血管からの酸素の供給に影響されることに起因するものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】骨格筋における毛細血管ネットワークは骨格筋細胞への酸素供給や糖・代謝産物輸送に重要である。骨格筋細胞の環境を最適化するために毛細血管の役割は必要不可欠である。また、本研究から、抗酸化物質を用いた栄養サポートは骨格筋の毛細血管退行に予防的な効果を示した。長期臥床などに伴う筋力増強運動などを実施する際に栄養面でのサポートを組み合わせて行っていく必要性があると考える。