著者
島 雅人 奥田 邦晴 岩田 秀治 菊池 昌代 木村 淳一 長谷川 珠華 太田 啓介 森 優花 西野 伸一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ed1467, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 我々は、2010年より大阪府下に在住する重度知的障がい者及び知的と身体機能の重複障がい者(以下重複障がい者)を対象として、理学療法士及び作業療法士が心身機能や活動の評価を行い、対象者個々のニーズに応じてスポーツ活動に結び付く心身機能の向上を目的としたトレーニングを計画し実践している。今回は、これまでの取り組みを報告するとともに、理学療法士が知的障がい者の社会参加支援に関与する意義について述べる。【方法】 本活動は、大阪府下在住の重度知的障がい者及び重複障がい者(児)を対象に実施している。参加者の募集は大阪府下の特別支援学校教員やスペシャルオリンピックス日本(以下SON)大阪の協力を得て行っている。チームの構成は理学療法士4名、作業療法士3名、支援学校教員1名、理学療法士および作業療法士を目指す学生ボランティアで構成し、シフトを組んで実施している。また、医療的ケアの必要な参加者が来られた時など、必要に応じて看護師の協力を得ている。対象者の評価に関しては、Special Olympics Motor Activities Training Program(以下MATP) Coaches Guide2005を参考とし、社会適応能力、原始反射、バランス反応、姿勢保持能力、環境適応能力、日常生活活動能力、認識能力、コミュニケーション能力、行動の問題に関連する内容を評価している。また、スポーツに関連する運動能力の評価として、移動能力、投げる、打つ、蹴る の4項目を実施している。これらの評価結果にもとづき、一人ひとりのニーズに応じたトレーニング内容を計画し実施している。トレーニングは、参加者1名に対して1名の学生を配置するとともに、理学療法士および作業療法士がトレーニングの内容を指示し監督のもと行っている。トレーニング内容は、評価結果をもとに参加者の能力に応じて、野球、バスケットボール、サッカー、ボウリング等のスポーツに関連した内容を、環境や使用する道具によって難易度を調整し実施している。トレーニングの実施期間と頻度は、2010年度は8月から11月に隔週で合計8回実施し、2011年度は9月から12月に合計10回を計画し実施している。1回の実施時間は90分とし、参加者の状態に合わせて適宜休憩を取っている。実施場所は、SON大阪の協力を得て大阪府下の特別支援学校にて実施している。【倫理的配慮、説明と同意】 本活動の目的や方法に関して、対象者及び保護者へ説明を行い同意を得ている。また、本活動で収集した情報に関しては、個人情報保護法に基づき厳密に管理し、本活動及び学術活動以外には使用しないことに同意を得ている。評価及びトレーニングに際してはヘルシンキ宣言を遵守し、参加者及びボランティアの安全面へも配慮を行った。【結果】 本活動への参加者は、2010年度12名(男性10名女性2名)、平均年齢19±5歳(13-32歳)、重度知的障がい者3名、重複障がい者9名であった。2011年度は10名(男性9名、女性1名)、平均年齢17.5±4.2歳(11-27歳)重度知的障がい者3名、重複障がい者7名で実施している。本活動は2010年度にSON夏季ナショナルゲームの一部として、大阪市長居障害者スポーツセンターにおいて日本で初めてのデモンストレーションを行った。【考察】 知的障がい者に対するスポーツ活動支援は各種スポーツ団体によって行われているが、対象のほとんどが軽度知的障がい者で運動能力の高い方である。スペシャルオリンピックスでは、知的障がいの程度に関わらず参加する機会を設けており、通常のスポーツ活動プログラムに参加できない重度知的障がい者や重複障がい者に対する取り組みとしてMATPを設定しているが、日本ではほとんど行われていない。本活動の実施には、対象者個々の心身機能や活動能力の評価を行い、能力に応じた運動プログラムを実施する必要があるため、その分野の知識や技術を持った理学療法士の関与が必要不可欠であると考える。このような機会を設定することは、重度知的障がい者および重複障がい者が在宅から地域へ出向く機会が増えるとともに、家族にとっても、他者との交流や家族同士の情報交換を促すことができると考える。これらのことより、本活動は理学療法士がリーダーシップを取って実施できる社会参加支援の1つであると考える。【理学療法学研究としての意義】 先行研究より知的障がい者は知的機能のみでなく、身体機能の低下が示されている。ひとり一人の心身機能や活動に応じた運動プラグラムを提供する事に関して、理学療法士は専門的知識と技術を有しているため、本活動のような取り組みに積極的に関与することで、知的障害者に対する安全で質の高い社会参加支援につながると考える。今後は、本活動の参加者及び家族に対する効果を検証して行くことで、理学療法士の関与の必要性がより具体化されると考えている。
著者
上杉 雅之 小枝 英輝 成瀬 進 井上 由里 南場 芳文 後藤 誠 村上 雅仁 武政 誠一 安川 達哉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Bb1184, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 理学療法士(以下PT)は肢体不自由児のみならず知的障害を伴う障害児を治療することが多い。その為に、知的障害に対する知見を深める必要があり、さらに、PTに知的障害への合併を踏まえたアプローチが求められている。また、小児リハビリテーションにおいて様々な障害を有する対象児に対する多職種連携アプローチが求められているが、対象児の問題行動に対して共通した認識がなされているか疑問である。今回、我々は日本語版Aberrant Behavior Checklist(以下ABC-J)を用いてPTと作業療法士(以下OT)間で障害児の問題行動に対して採点が異なるか調査したので報告する。【方法】 対象児はT病院を利用し理学療法を受けている知的障害を有する障害児11名(男7名・女4名、年齢5歳6ヶ月~18歳1ヶ月、平均年齢11歳2ヶ月±4歳5ヶ月)であった。対象児の診断名は脳性麻痺4名、頭部外傷後遺症1名、精神運動発達遅滞2名、急性脳症後遺症4名であった。検査者は同病院に所属し、対象児をよく知っているPT8名・OT7名・計15名であった。PTの経験年数は2~14年目で平均3.7年目、OTの経験年数は2~24年目で平均8.3年目であった。検査者は個別にABC-Jを用いて対象児を採点した。統計学的解析は、検査者をPT群とOT群のABC-Jの「興奮性」、「無気力」、「常同行動」、「多動」、「不適切な言語」の項目の採点結果をウィルコクソンの符号順位検定を用いて比較した。危険率5%未満を有意水準とした。統計ソフトはR2.8.1を使用した。 ABC-Jの項目は「興奮性」に関する15項目、「無気力」に関する16項目、「常同行動」に関する7項目、「多動」に関する16項目、「不適切な言語」4項目に関する計58項目からなる。使用方法は、対象児をよく知る検者が、質問紙の項目に対して、問題なし(0点)、少し問題(1点)、問題(2点)、大きな問題(3点)の4段階で採点する。そして、その点をスコアーシートに記入することで5つの問題行動を調査することができる。【倫理的配慮、説明と同意】 対象児の保護者全てに対し、本研究について文書にて事前説明を行い、調査に参加することに同意を得た。本研究は神戸国際大学倫理審査会の承諾を得て実施した(承諾番号G2011-015)。【結果】 PT群とOT群を比較した結果「無気力」が有意差p=0.0091と効果量(Effect Size:ES)ES=0.8037で有意差を認め、「興奮性」がp=0.4372とES=0.2500、「常同行動」がp=0.3428とES=0.3161、「多動」がp=0.1953とES=0.4021、「不適切な言語」がp=0.3991とES=0.2845であった。【考察】 障害児は複雑な問題を抱え個々のアプローチでは限界があり、多職種などによる包括的なアプローチが求められている。そして、そのアプローチにはPTの最も近隣職種であるOTとの協働は不可欠であると考える。今回の結果からABC-Jの4つの項目において両群において効果量は低いものの同じように採点しており大きな違いは見られなかった。しかしABC-Jの項目は5つの問題行動にどれが含まれるか検査者にはわからないようにランダムに並べられているが、両群において「無気力」に関する項目に著しく異なる採点をつけており、その有意差と効果量はp=0.0091とES=0.8037であった。そして、採点の違いは、OTが平均値3.8点(±4.8)と採点しているのに対して、PTは平均値8.1点(±7.8)であり、「無気力」に関わる項目に、より多くの問題があると採点していた。確認のために、筆者らが報告した「The reliability of Japanese manuals of Aberrant Behavior Checklist in the Daycare Center for handicapped children 」の検査者がPTとOTのデータを抽出し再調査したところ、「無気力」に関する項目にOTは平均値0.3点(±0.5)と採点しているのに対して、PTは平均値3.2点(±8.9)と採点しており今回の結果と同じような傾向を示していたことが判明した。PTが「無気力」に関する項目に高い採点をつけた理由の一つに、座位などの静的な姿勢を観察することが多いOTと比べ、活動的な面を観察することが多いPTは「無気力」をより問題がある行動として捕らえようとした結果であると考えた。このことからABC―Jの検査者は対象児を良く知るものであれば検査が可能であるとしているが、検査者の職種によりバイアスがある可能性が示唆され、多職種間での対象児についての問題行動についての捕らえ方には若干の違いがあることを念頭に置く必要があることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 PTとOTは同じ患児を担当することが多い、しかし、両者の患児に対する問題行動の検査の相違の有無についての報告は見られない。本研究は多職種連携アプローチにおける配慮すべき点を指摘する一つの報告として有意義であり、且つ新規性があり理学療法研究の意義があると言える。
著者
木下 一雄 伊東 知佳 中島 卓三 吉田 啓晃 金子 友里 樋口 謙次 中山 恭秀 大谷 卓也 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb1369, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 我々はこれまで後方進入法による人工股関節全置換術(THA)後の長座位および端座位における靴下着脱動作に関する研究を行ってきた。その先行研究においては靴下着脱能力と関係のある股関節屈曲、外転、外旋可動域、踵引き寄せ距離や体幹の前屈可動性の検討を重ねてきた。しかし、靴下着脱動作は四肢、体幹の複合的な関節運動であるため、少なからず罹患側の状態や術歴、加齢による関節可動域の低下などの影響を受けると考えられる。そこで本研究では、退院時の靴下着脱動作に関与する体幹および股関節可動域以外の因子を検討し、術後指導の一助とすることを目的とした。【方法】 対象は2010年の4月から2011年8月に本学附属病院にてTHAを施行した228例234股(男性54例、女性174例 平均年齢64.2±10.9歳)である。疾患の内訳は変形性股関節症192例、大腿骨頭壊死36例である。調査項目は年齢、身長、体重、罹患側(片側か両側)、術歴(初回THAか再置換)、術前の靴下着脱の可否、足関節背屈制限の有無、膝関節屈曲制限の有無をカルテより後方視的に収集した。術前の靴下着脱の可否の条件は長座位または端座位にて背もたれを使用せずに着脱可能な場合を可能とし、不可能をそれ以外の者とした。足関節背屈、膝関節屈曲可動域は標準可動域未満を制限ありとした。統計学的処理はロジスティック回帰分析を用いて目的変数を退院時における長座位または端座位での靴下着脱の可否とし、説明変数を年齢、BMI、罹患側(片側か両側)、術歴(初回THAか再置換)、術前の靴下着脱の可否とした。有意水準はいずれも危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究においてはヘルシンキ宣言に基づき、患者への説明と同意を得た上で測定を行った。測定データをカルテより後方視的に収集し、個人名が特定できないようにデータ処理した。【結果】 まず、長座位では、退院時の靴下着脱可能群は130例、不可能群は114例であった。可能群の平均年齢は62.8±10.6歳、不可能群は65.7±10.9歳であり、可能群の平均BMIは23.4±4.0、不可能群は24.1±3.8であった。可能群の罹患側は、片側70例、両側60例、不可能群は片側例、両側例は各57例であり、術歴は可能群の初回THAは102例、再置換は28例、不可能群の初回THAは101例、再置換は13例であった。術前の靴下着脱の可否は、可能群のうち術前着脱可能な者は74例、術前着脱不可能が56例であり、不可能群のうち術前着脱可能な者は24例、不可能な者は90例であった。また、可能群の足関節背屈制限は4例、不可能群は3例であり、可能群の膝関節屈曲制限は3例、不可能群は15例であった。一方、端座位では、退院時の靴下着脱可能群は110例、不可能群は134例であった。平均年齢は可能群62.2±10.9歳、不可能群65.8±10.7歳、可能群の平均BMIは23.2±4.1、不可能群は24.1±3.6であった。罹患側に関しては、可能群の片側59例、両側51例、不可能群は片側69例、両側65例であった。術歴に関しては可能群の初回THAは84例、再置換は26例、不可能群では初回THAは112例、再置換は22例であった。術前の靴下着脱の可否に関しては、可能群では79例が術前の着脱が可能、31例が着脱不可能であり、不可能群は術前の着脱可能な者は34例、不可能な者は100例であった。可能群の足関節背屈制限は3例、不可能群は4例であり、可能群の膝関節屈曲制限は2例、不可能群は16例であった。統計処理の結果、長座位での靴下着脱因子は術前の靴下着脱の可否が抽出され、端座位での靴下着脱因子には術前の靴下着脱の可否と年齢が抽出された。(p<0.01)。【考察】 本研究においては退院時における靴下着脱動作に関与する体幹および股関節可動域以外の因子を検討した。先行研究では本研究と同様に術前の着脱の可否が術後の可否に関与しているという報告があるが、いずれも症例数が少ない研究であった。本研究の結果より術前の着脱の可否は術後早期における着脱の可否に関与しており、術前患者指導の必要性を示唆するものである。端座位着脱における年齢の影響に関しては、加齢または長期の疾病期間に伴う関節可動域の低下、あるいは着脱時の筋力的な要因が考えられる。今後は症例数を増やして詳細な因子分析を行いながら、縦断的な検討も加えていきたい。【理学療法学研究としての意義】 THAを施行する症例は術前より手を足先に伸ばすような生活動作が制限され、術後もその制限は残存することが多い。本研究により靴下着脱動作に関与する因子を明らかにすることで術前後の患者指導の効率化や質の向上が図られると考える。
著者
橋立 博幸 長田 けさ枝 森本 頼子 澤田 圭祐 柴田 未里 井上 智子 萩原 恵未 笹本 憲男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ea1006, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 超高齢者への運動介入により筋力増強効果が得られることが報告されてきているが,超高齢者における筋力増強効果と歩行機能向上効果との関連については十分に検証されていない.本研究では,要支援認定を受けた85歳以上の超高齢者に対して,12か月間の運動器機能向上プログラムを実施し,筋力増強効果と歩行機能改善効果との関連を検証することを目的とした.【方法】 対象は,介護保険制度下における介護予防通所介護を初めて利用した要支援高齢者17人(要支援1:7人,要支援2:10人,男性:5人,女性:12人,年齢87.2±2.5歳)であった.介護予防通所介護での運動介入は,12か月間,1~2日/週,1時間30分/日,実施し,主な介入内容として,ストレッチ,筋力増強運動,姿勢バランス練習,歩行練習,日常生活動作指導を行った.実際の介入は理学療法士,介護福祉士,看護師,等の職種が協働して行い,疼痛および疲労等の症状に応じて調整した.介護予防通所介護での運動介入実施前の初回評価時および運動介入実施後6か月ごとの生活機能について,身体機能(下肢筋力,姿勢バランス能力,歩行機能),日常生活活動(ADL)を評価した.身体機能は,脚伸展マシントレーニング機器レッグプレス1回最大挙上量(1RM),片脚立位保持時間(OLS),functional reach(FR),timed up & go test(TUG),通常歩行速度(NGS)および最大歩行速度(MGS)をそれぞれ計測した.ADLは老研式活動能力指標(TMIG-IC)を用いて調べた.初回評価時と運動介入12か月後の1RMの結果から,下肢筋力が増加した群(下肢筋力増加群,n=9)と低下した群(下肢筋力低下群,n=8)の2群に群別し,各群において初回評価時および運動介入実施後6か月ごとに評価した下肢筋力,姿勢バランス能力,歩行機能,ADLを示す各指標についてFriedman検定および有意確率をBonferroni補正した多重比較検定を用いて比較した.【倫理的配慮】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき,概要を対象者および家族に対して事前に口頭と書面にて説明し,同意を得た後実施した.【結果】 初回評価時における両群の1RM,OLS,FR,TUG,NGS,MGS,およびTMIG-ICの各評価結果は有意差が認められなかった.介護予防通所介護における運動介入は,12か月間で合計77.9±18.8回/人,1月当たり平均6.5±1.6回/月実施され,12か月間の介入期間中,新たな疾病への罹患,症状の増悪,転倒の発生はなかった.た.初回評価時と各運動介入実施後の追跡評価時における各指標を比較した結果,下肢筋力増加群では,初回評価時に比べて1RMは介入6か月後に37.1%,介入12か月後に40.4%有意な増加を示すとともに,TUGは介入6か月後に22.1%,介入12か月後に22.9%,NGSは介入12か月後に27.3%,MGSは介入12か月後に18.3%,それぞれ有意な向上が認められた.一方,下肢筋力低下群では,1RMが介入12か月後に13.9%の有意な低下を示し,他の歩行の評価指標に有意な変化は認められなかった.また,両群ともにOLS,FR,およびTMIG-ICには有意な変化は認められなかった.【考察】 初回評価時から介入6か月ごとの各追跡評価時の指標を比較した結果,下肢筋力増加群では介入6か月後および12ヵ月後における1RMが増加するとともにTUG,NGSおよびMGSが有意に改善し,下肢筋力低下群では1RMが12か月後に有意に低下し,他の指標に変化がみられなかった.これは本研究における運動介入では,筋力増強効果と歩行練習効果が相乗的にTUGおよび歩行速度の有意な改善に反映されたと考えられた.また,これまでの先行研究では,地域に在住する健康な前期高齢者および後期高齢者においても1年後の歩行機能が低下し得ることが報告されており,超高齢者では筋力および歩行機能の低下が加速すると考えられている.本研究の対象者において,歩行機能の向上およびADLの維持が認められたことから,12か月間継続的に実施した運動器機能向上プログラムによって筋力増強効果を得ることが歩行機能の長期的な改善効果を得るために重要な要素であると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 要支援認定を受けた85歳以上の超高齢者に対する12か月間の運動器機能向上プログラムによる筋力増強効果と歩行機能改善効果との関連を検証し,継続的な運動器機能向上プログラムによる筋力増強は超高齢者の長期的な歩行機能の維持・改善に重要であることを示唆した.
著者
春田 みどり 大矢 敏久 太田 進 内山 靖
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Aa0881, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 加齢変化により頭部の前方突出を呈することが知られている。また、頸部痛では頸部の屈曲の程度が強いことや、頸部の位置と顎関節の機能に密接な関連があるとの報告がされている。これまで、姿勢評価として胸椎や腰椎の彎曲角度を測定する方法は数多く報告されているが、頸椎では、頭部や頸部の屈伸角度を測定するものの頸椎の彎曲を測定することは少なく、非侵襲的な測定方法は確立していない。そこで本研究では、非侵襲的で臨床適用が容易でかつ信頼性の高い頸椎彎曲の測定方法を検証することを目的とする。【方法】 対象者は健常大学生10名(年齢23.6±3.0歳)であった。頸椎彎曲の測定は3方法で行った。方法1(以下;「二次元法頸椎彎曲角度」)は、ビデオカメラによる二次元動作解析により頸椎彎曲角度を算出した。被験者は7か所にマーカーを装着し、5秒間前方の印を注視して座位を保持し、ビデオカメラ1台にて計測した。方法は、Kuoの方法に準じて行った。第2・5・7頸椎棘突起を結ぶ角度を頸椎彎曲角度とした。また、鼻翼・耳孔・第1胸椎棘突起を結ぶ角度を頭部伸展角度、耳孔・第一胸椎棘突起・胸骨丙を結ぶ角度を頸部伸展角度とし、頭・頸部のアライメントの指標とした。方法2(「ゲージ法彎曲指数」)は、型取りゲージを用いて第2頸椎棘突起から第7頸椎棘突起の形状を計測し、彎曲の頂点の高さを第2・7頚椎棘突起の距離で割った値を頸椎彎曲指数とした。方法3(「定規法彎曲指数」)は、自在曲線定規を用いて「ゲージ法彎曲指数」と同様に頸部後面の形状を計測し、頸椎彎曲指数を算出した。3方法を異なる日に同様に測定を行い、再現性を検討した。統計処理は、級内相関係数(ICC)を用いた。3方法から算出した各測定値と頭・頸部伸展角度との相関はPearsonの相関係数を用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 所属施設生命倫理審査委員会の承認を得た上で行った。被験者には、個別に研究内容の説明を行い文書により同意を得た。【結果】 3方法から算出した各測定値は、「二次元法頸椎彎曲角度」は160.3±8.1°、「ゲージ法彎曲指数」は0.1±0.0、「定規法彎曲指数」は0.1±0.0であった。検者内のICCは、「二次元法頸椎彎曲角度」は0.72、「ゲージ法彎曲指数」は0.84、「定規法彎曲指数」は0.55であった。また、二次元法の頭部伸展角度は106.3±10.2°(ICC 0.93)、頸部伸展角度は89.0±6.0°(ICC 0.71)であった。「二次元法頸椎彎曲角度」は頭部伸展角度と負の相関(r=-0.7)、「ゲージ法彎曲指数」と頭部伸展角度は正の相関(r=0.7)がみられたが、頸部伸展角度ではいずれの彎曲角度・指数とも有意な相関関係はみられなかった。【考察】 「二次元法頸椎彎曲角度」と「ゲージ法彎曲指数」では高い再現性が得られた。各測定値と頭・頸部伸展角度の相関関係は、「二次元法頸椎彎曲角度」では頭部伸展角度と負の相関関係、「ゲージ法彎曲指数」では頭部伸展角度と正の相関関係が認められ、頸椎の彎曲が大きいほど頭部が伸展することが示された。よって「二次元法頸椎彎曲角度」と「ゲージ法彎曲指数」は、頭部伸展に伴う頸椎彎曲のアライメント変化を表している可能性が考えられる。「二次元法頸椎彎曲角度」は、二次元動作解析を用いて頭部や胸椎、腰椎、下肢の関節を全身のアライメントを測定する際に同時に頸椎の彎曲を測定することが可能であるという点で有用であると考える。高齢者の姿勢変化を脊柱変形のみでなく頭部位置にも注目した報告があり、加齢による姿勢の変化は、胸椎や腰椎のみだけでなく頸椎にも及んでいると考えられる。そのため、加齢による姿勢変化を胸椎や腰椎のみの測定だけでなく頸椎彎曲角度を測定することで新たな知見を得ることが出来ると考える。「ゲージ法彎曲指数」は、3方法のうち最も再現性が高く、より簡便であったため頸椎のアライメントを測定する際には、臨床適用が容易な方法である。頸部痛や顎関節機能障害などにおいて頭頸部の水平軸に対する傾きを評価指標にすることが多いが、頸椎の彎曲アライメントを測定することで新たな知見を得ることが出来ると考える。今後、X線画像によって計測した頸椎彎曲角度との比較などから妥当性を検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 臨床適用が容易で非侵襲的な頸椎の彎曲角度を作成するための基礎資料が得られ、加齢による姿勢変化を呈する高齢者の姿勢評価や治療法への発展が期待できる。
著者
大石 信節 小樋 雅隆 玉利 光太郎 元田 弘敏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Db1209, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 理学療法において患者の腹式呼吸や胸式呼吸の能力を知ることは非常に重要である。腹式呼吸の評価法としてはレスピトレースやMRIや超音波を用いたものなどがある。しかし、スパイロメータを用いて直接腹式呼吸や胸式呼吸の機能を評価した研究は筆者らの検索したところでは見あたらない。そこで本研究では腹式呼吸の肺活量(VC-AR)や胸式呼吸の肺活量(VC-TR)をスパイロメータで測定し、級内相関係数を用いて検者内信頼性をBland-Altman plotより妥当性を検討した。また、測定結果が真の変化を表すかどうかを判断する指標として最小検知変化(MDC)を算出した。さらにVC-ARとVC-TRの割合を算出した。【方法】 健常成人男性30名(年齢21.6±0.72歳、身長171.2±4.53cm)に対してVC-AR、VC-TRを5回、VC を4回測定した。測定肢位は安静背臥位でVC-ARは剣状突起の下部に最大呼気位でバンドを巻き、胸郭の動きを阻害した。その状態で被検者には最大吸気位から最大呼気位まで意識的に腹式呼吸のみを行わせた。VC-TRは下部肋骨の2横指下に最大呼気位でバンドを巻き、横隔膜の動きを阻害した。その状態で被検者には最大吸気位から最大呼気位まで意識的に胸式呼吸のみを行わせた。測定結果についてはVC-ARとVC-TRは測定1~3回目、2~4回目、3~5回目の級内相関係数(ICC)、VCは測定1~3回目、2~4回目のICCを算出して信頼性を検討した。またSpearman-Brownの公式よりICC=0.8を保証する測定回数(K)を算出した。さらに測定標準誤差(SEM)を用いてMDCをVC-AR、VC-TR、VCについて算出した。妥当性はVC-AR とVC-TR の和がVCと一致すると仮定して、Bland-Altman plotよりt検定で加算誤差、ピアソンの相関係数で比例誤差を検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 健常成人男性30名に対して事前に本研究の主旨、測定方法、リスクについて説明し、書面で同意を得た。【結果】 1) VC-ARは測定3~5回目の ICC(1,1)=0.843、VC-TRは測定3~5回目の ICC(1,1)=0.757、VCは測定2~4回目のICC(1,1)=0.935が最も高かった。またその際のVC-ARではK=0.74、SEM=0.245(L)、MDC=0.68(L)であった。VC-TRではK=1.28、SEM=0.325(L)、MDC=0.90(L)であった。VCではK=0.29、SEM=0.169(L)、MDC=0.47(L)となった。2)X軸に{(VC-AR+VC-TR)+VC}/2をY軸に(VC-AR +VC-TR)-VCをとりBland-Altman plotを作成した。その結果、加算誤差は認められなかったものの(t=-1.53,p=0.14)、比例誤差、すなわち肺活量が大きくなるほど、過大評価をする傾向が認められた(r=0.039,p=0.034)。3)30名の各肺活量の平均はVC-AR=2.11±0.61L 、VC-TR=2.63±0.64L、VC=4.39±0.64Lであった。またVC-ARとVC-TRの和に対するVC-ARの割合の平均は43±0.09%であった。【考察】 1)よりVC-AR、VC-TRでは測定3~5回目のICCが最も高かった。またその際VC-ARのK=0.74 、VC-TRのK=1.28という結果からVC-ARは2回の練習後に1回の測定、VC-TRは2回の練習後に2回の測定の平均値で一定の信頼性を持つ測定値が得られることが明らかになった。VCでは測定2~4回目のICCが最も高かった。またその際VCのK=0.29という結果からVCは1回の練習後に1回の測定で一定の信頼性を持つ測定値が得られることが明らかになった。VC-AR のSEMとMCDはVC-TRより優れていたが、VCよりは劣っていた。VC-ARのSEMは全体の11.6%、VC-TRのSEMは全体の12.4%、VCのSEMは全体の3.9%であった。VC-ARとVC-TRのSEMの場合は一般的に感受性がよいと言われる10%以内に近い値を示した。2)の過大評価をする傾向が認められた原因は不明である。データ数を増やして再検討する必要がある。3)一般的に男性は胸式呼吸よりも腹式呼吸が優位であると言われている。しかし、本研究により最大呼吸活動の肺活量測定時には腹式呼吸よりも胸式呼吸が優位な人が多いことが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】 本研究で腹式呼吸と胸式呼吸の機能をスパイロメータで評価できる可能性が示唆された。理学療法での呼吸機能の改善度を数値化できれば、臨床への貢献が期待できる。
著者
岡田 菜摘 池田 裕
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cf1508, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに】 交通事故により外傷性くも膜下出血,多発骨折を呈した60歳女性に対し,職場復帰に向けICFモデルを活用して目標指向的アプローチを行った.主婦業再開と職場復帰が必要な症例に対し,早期より参加向上訓練を行い,入院中からADL自立,主婦役割の再獲得を果たし退院後復職が可能となった経過を報告する.【症例紹介】 本症例は60歳女性.交通事故により外傷性くも膜下出血・左鎖骨端骨折・右母指末節骨骨折・右足関節外果骨折を呈し,高血圧・子宮筋腫の既往歴がある.背景因子は,病前は独歩でADL・ASL自立,長男・長女夫婦と同居,週5日ドラッグストアに勤務し,本人・家族ともに復職を希望していた.入院時,参加は主婦業・パート勤務は非実施,院内では自室にて読書をして余暇を過ごしていた.活動は,車いすレベルで入浴以外のADLを修正自立,歩行レベルではPTB装具・U字型歩行器を使用しADLに軽介助~見守りを要していた.家事は座位で一部介助,仕事は非実施であった.麻痺や高次脳機能障害はなく,立位での複合動作に軽介助,床からの立ち上がりに中等度介助を要し,基本動作は修正自立,歩行はU字型歩行器とPTB使用にて監視レベルであった.ROMは左肩関節屈曲150°,外転140°,足関節背屈5°,MMTは左上肢3,右足関節2~3で足関節外果下部・足背部に荷重・伸張時痛が認められた.【説明と同意】 事前に本報告の説明を行い,本人・家族の同意を得た上で報告する.【経過】 [目標]初期評価で得た情報をICFモデルで構造化し,以下の目標を設定した.3ヶ月の入院期間で在宅生活・主婦業を再開し職場へ復帰する.日常の移動手段として自転車使用を再獲得し,病前同様の生活を送る.[課題]多発骨折による機能制限のためセルフケアや就労に関する動作遂行に介助を要する.在宅生活や主婦業,パート勤務への参加が制約されている.[アプローチ]在宅での主婦業再開と復職に向け,早期からの機能向上訓練と同時に参加向上訓練としての外出外泊訓練を繰り返し,階段昇降や買い物等,徐々に高いレベルの課題を与えていった.実際場面でADL動作を行い,家事や仕事の関連動作も本人が自主的に実施するようPT・OT介入時に確認と促しを行った.[退院時評価]外泊時に家事全てを自立にてこなし,就労は業務動作が独立レベルとなった.そして本人と職場店長,MSWらと情報を共有し復職計画を立て職場に出向いた.院内では外の散歩や自主訓練をして活動的に過ごした.ROMや筋力等の機能は改善され疼痛は消失した.【考察】 初期の生活機能は主婦業・就労が非実施であり,受傷部の可動域制限や筋力低下,疼痛のため車椅子レベルにて修正自立でADL遂行,できるレベルではPTB装具を用いた歩行でADLに軽介助を要し,仕事の関連動作は立ち仕事全般に介助を要した.家庭の経済的理由から働く必要があり,入院時座位レベルで目的動作が修正自立していたことから歩行自立により病前同様の生活が可能であると考え,主目標は入院期間を3ヶ月とし,ADL・ASL自立で在宅生活と主婦業を再開,職場復帰することとした.復職に必要な動作を評価し,機能向上訓練の中に関連動作を取り入れ,併行して歩行レベルでのADL訓練やレベルに応じた課題を与えながら外出泊訓練を実施することで早期から参加向上を意識した介入を行った.主婦とパートを兼任できる高い耐久性の獲得が必須であると考え,本人主体で1日のスケジュールを立てることで自主的な活動を促し,歩行能力向上に伴って物持ちや長時間の屋外歩行等の課題を取り入れた.リハ介入時に声かけによる確認と課題修正を行った.以上により入院2ヶ月目には自発的な運動習慣が身に付き,ADL自立にて自宅退院が可能なレベルとなった.パート勤務に関しては軽介助~見守りを要したため,1か月間集中的なリハビリを行う方針をたて,退院時には全動作自立となった.多発骨折を呈した症例に対し早期から参加向上訓練を積極的に実施し,他部門との協業によって退院後の生活の流れに類似させた生活を行う事で早期のADL・ASL自立を獲得し復職に繋げることができた.【理学療法学研究としての意義】 目標指向的に機能向上訓練と参加向上訓練を併行することで機能改善と同時に参加場面の広範化が図られ早期でのADL・ASL自立を獲得し,復職に対する重点的な介入や協業による他職種との連携が高い訓練効果・QOLの獲得を可能にし,退院後そのまま社会参加を達成した.本症例は退院後,主婦業再開と職場復帰を果たし,目標指向や参加への介入の大切さについて報告することができた.
著者
丸岡 弘 藤井 健志 小牧 宏一 木戸 聡史 井上 和久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab0472, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 一般的にアンチエイジング対策には、食品摂取や有酸素運動などが知られている。特に、抗酸化作用を持つことが知られている還元型コエンザイムQ10(QH)摂取の効果には、老化の遅延や抗疲労作用などが報告されている。そこで今回は、長期間のQH摂取と運動が老化や酸化ストレス防御系へおよぼす影響について検討した。【方法】 対象は老化促進モデルマウス(SAMP1、週齢4週)50匹とし、無作為に4群(QH摂取群:A群、QH摂取と運動併用群:B群、運動群:C群、コントロール群:D群)に区分した(A群~C群各n=12、D群n=14)。マウスは動物飼育室にて馴化飼育した後、週齢8週目(若年期)より週齢56週(高齢期)まで研究に用いた。酸化ストレス防御系は活性酸素・フリーラジカル分析装置(H&D社製FRAS4)を使用し、酸化ストレス度(d-ROM)と抗酸化力(BAP)を安静時に測定し、d-ROM/BAP比(RB比)を算出した。測定は研究開始時(週齢8週):2M、12ヶ月の時点(週齢56週):12Mの計2回実施した。d-ROMなどの測定には尾静脈を一部切開の上、採血を行い遠心分離後の血漿を用いた。老化の指標には老化促進モデルマウス連絡協議会の老化度評点により判定を行った。運動能力は動物用トレッドミル(TM)を使用し(速度20m/min・傾斜20%)、走行時間を測定した。なお、運動の終了基準はTM走行面後方の電気刺激の時間間隔が5秒以内となった時点とした。老化指標と走行時間の測定は、2M、6ヶ月の時点(週齢32週):6M、12Mの計3回実施した。QH(30%安定化粉末)は給水ビンにて300mg/Kgの割合で配合、毎日摂取させた。運動の暴露はTMにて走運動(速度20m/min・傾斜10%・30分)を2回/週の割合で実施した。コントロール群は通常の飼料と水道水を摂取した。本研究において得られた数値は平均値±標準偏差で表し、統計ソフトはSPSS(Ver19.0)を用い、有意差の検定はwilcoxon符号付順位検定と一元配置分散分析を用いて行った。【倫理的配慮】 研究に当たっては、所属する大学動物実験委員会の承認を得て実施した(承認番号32)。【結果】 2Mの酸化ストレス防御系と老化指標、走行時間は、4群間において有意差を認めなかった。走行時間は12Mまでの経時的な変化において、4群共にそれぞれ有意な減少を認めた(p<0.001)。しかし、6Mにおいて4群間を比較すると、D群がA群とB群と比較し有意な減少、12Mにおいて4群間を比較すると、B群がC群とD群と比較し有意な変化を認めた(p<0.01~0.001)。老化指標は12Mまでの経時的な変化において、4群共に有意な増加を認めた(p<0.001)。しかし、6Mにおいて4群間を比較すると、C群とD群において有意な増加、12Mにおいて4群間を比較すると、特にB群が他の群と比較し有意な増加抑制を認めた(p<0.05~0.001)。酸化ストレス防御系は2Mと12Mを比較すると、d-ROMにおいてB群のみ有意な増加、BAPとRB比において4群間共に有意な減少を認めたが(p<0.05~0.01)、個体間のバラツキが大きかった。【考察】 今回、QH摂取による走行時間への影響が認められた。このような走行時間への影響は、ミトコンドリア賦活によるATP産生作用の増大などの生理学的効果が考えられた。さらに、QHは心筋の代謝を賦活させると共に、末梢血管抵抗を減少させ心肺機能や末梢循環を改善させることが報告されており、本研究においても老年期に至るまで、同様な効果を生じた可能性が考えられた。今回、老化指標はQH摂取によって遅延する傾向を認めた。このようなQH摂取による老化指標への影響は、運動を併用することによって生理学的効果が高まることが推察された。一般的に老化による生体への影響では、継続的な酸化ストレスの暴露に対する消去機能の衰えを示すことから、QHによる老化指標の抑制はQH自身の抗酸化作用による酸化ストレスの減少とATP生産による抗酸化系の活性維持が考えられた。また、B群では老化指標の増加抑制を認めたにも係わらず酸化ストレスの減少を認めなかったことから、老化指標に関しては酸化ストレスよりもATP生産が影響をしていたことも考えられた。一方では、血漿中の鉄イオンの還元力を分析している BAP値では、QHが脂質環境に存在するため、摂取による影響をよく反映しない可能性も考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本研究からはQH摂取と運動による走行時間や老化指標への影響を認めたことから、アンチエイジング対策などの基礎的データとなりうる。
著者
吉村 洋輔 石田 弘 小原 謙一 大坂 裕 伊藤 智崇 吉政 かおり 井上 かよ子 伊勢 眞樹 渡邉 進
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab0417, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 人間は歩行中,両側の腕を無意識のうちに振っているが,これは単なる振り子運動ではなく,歩行を円滑に行うために中枢神経系に組み込まれた機構の一つであると考えられている.しかし,実際の生活の中では荷物を持つ,ポケットに手を入れて歩くなど腕を振らないで歩いていることも少なくはない.さらに臨床場面に目を向けると,高齢者や障害者では杖をつく必要があったり,上肢の機能障害のために腕を振れない状態にある者も少なくはない.また,近年では,下肢の振りに合わせて対側ではなく同側の上肢を振った方が歩行速度の改善や歩行耐久性の向上につながることも報告され,いくつかの実証例も存在する.歩行時の上肢の腕振りの状態が歩行動作の歩行率やエネルギー消費にどう影響するかを検討した報告は少なく,特に下肢の筋活動についての比較は見当たらない.ここでは歩行中の腕振りの状態が下肢筋活動にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることにより,今後の歩行指導に役立てることを目的とした.【方法】 対象は研究の趣旨に同意を得られた健常成人8名(平均年齢22.5±0.5歳,平均体重52.7±1.7kg)であり,男女の内訳は男性4名,女性4名であった.各自の快適速度にて10m平地歩行をした際の歩行速度を算出し,その速度にて (1)腕の振りを固定しない自由な歩行(以下,自由歩行群),(2)上肢を同側の大腿部に固定し,腕の振りを制限した歩行(以下,固定歩行群)をそれぞれトレッドミル上にて30分間行った.その後,それぞれの条件下での歩行時の右大腿直筋(以下,RF),右大腿二頭筋(以下,BF),右前脛骨筋(以下,TA),右外側腓腹筋(以下,GL)の筋活動を表面筋電計(キッセイコムテック社製,Vital Recorder 2)にて計測し,付属のソフトであるBIMUTAS IIにて解析を行った.なお,両群での筋活動をフットスイッチからの信号により立脚相と遊脚相に分けてそれぞれを比較した.なお,筋疲労の蓄積を考慮し,自由歩行群と固定歩行群の計測には3日以上の間隔をあけて実施した.筋活動の比較は各筋の最大随意収縮値を100%として正規化し%MVCとして3歩行周期分の平均にて比較検討した.統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS 17.0 J for Windows(エス・ピー・エス・エス社製)を用いて,Wilcoxon符号順位和検定を行い,危険率5%未満をもって有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には事前に本研究の趣旨と目的を文書にて十分説明した上で協力を求め,同意書に署名を得た.【結果】 自由歩行群の30分トレッドミル歩行後のRF,BF,TA,GLの筋活動は,立脚相ではそれぞれ13.6±10.3(%),15.1±16.9(%),11.2±5.5(%),60.4±41.9(%)であり,遊脚相では12.4±14.0(%),18.4±14.3(%),22.7±6.8(%),15.4±9.0(%)であった.固定歩行群の30分歩行後のRF,BF,TA,GLの筋活動は,立脚相ではそれぞれ10.7±8.4(%),8.8±7.6(%),11.3±3.5(%),53.5±25.9(%)であり,遊脚相では6.1±4.2(%),12.0±5.2(%),20.7±6.8(%),18.2±21.6(%)であった.自由歩行群と固定歩行群の歩行後の各筋の筋活動の比較では,RFの立脚相では有意差を認めなかったが,遊脚相では有意差を認めた.BF,TAにおいては立脚相,遊脚相ともに有意差を認めなかったが,自由歩行群に比べ固定歩行群では筋活動が低値である傾向を認めた.GLでは両群間の立脚相においてその筋活動に有意差を認めた.【考察】 遊脚相におけるRFと立脚相におけるGLの筋活動は歩行周期の中で特にその働きが重要であるが,自由歩行群に比べ固定歩行群では,それらの筋活動において有意な低下を認めた.その他の筋の活動においても,固定歩行群では低値を示す傾向にあった.長い時間の歩行においては,上肢の振りを下肢の振りに合わせた方が下肢筋への負荷や疲労が少ないことを示唆する結果となった.なんば歩行と呼ばれる腕振りを同側下肢の振り出しに合わせた歩行様式ではエネルギー消費や酸素摂取量が変化することも報告されており,陸上競技などでのコーチング内容として紹介されることも多い.さらに,日常場面や臨床場面では上肢の動きが制限される場面もある.また理学療法治療場面では,下肢筋力や筋持久力が低下している患者も多いが,そのような患者がある程度以上連続して行える歩行能力の獲得には腕振りの状態を考慮する必要があるといえる.【理学療法学研究としての意義】 連続歩行の際に腕振りを制限することによる下肢機能への影響を下肢筋活動の観点から示すことができた.筋力低下や廃用症候群などにより歩行障害を呈する患者への歩行練習を指導する際の基礎的資料となり得ることから,理学療法学研究としての意義があるものと考えられる.
著者
島袋 公史 平山 史朗 渡邉 英夫 久保田 健治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb0757, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 近年、大腿骨近位部骨折患者の高齢化は進んでおり、当院でも85歳以上の超高齢者が7割を占めている現状である。大腿骨近位部骨折患者の中でも、超高齢者(85歳以上)と年齢で回復状況を比較しているのは渉猟した限りでは多くない。そこで今回、大腿骨近位部骨折を受傷した高齢者を85歳前後で年齢別に分け、回復状況を比較、検討したので報告する。【方法】 対象は、2009年6月から2011年5月末日までに受傷後当院で手術を受けた大腿骨近位部骨折患者161例の内、受傷前は自宅生活し杖歩行自立以上の条件を満たす32例とした。その中から、85歳以上の群(以下,超高齢者群)20例(大腿骨頸部骨折10例、大腿骨頸基部骨折1例、大腿骨転子部骨折9例)と85歳未満の群(以下,高齢者群)12例(大腿骨頸部骨折8例、大腿骨転子部骨折4例)の二つに区分した。尚、年齢は超高齢者群89±4.7歳,高齢者群80±3.6歳で差があり、リハに影響する中枢神経疾患、運動器疾患、重度認知症、転科転棟例は除いた。調査項目は手術日を基準として、リハ開始までの日数(以下,リハ開始日数)、訓練室移行に要した日数(以下,訓練室移行日数)、起き上がり・移乗・排泄・移動各項目獲得までそれぞれに要した日数(以下,起き上がり獲得日数・移乗獲得日数・排泄獲得日数・移動獲得日数)とした。その他の項目として、FIM改善率、在院日数、自宅復帰率とした。尚、統計学的処理は対応のないt検定にて実施し、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言にもとづくとともに当院の倫理委員会の承認を得て比較、検討した。【結果】 リハ開始日数は超高齢者群1.4±1日,高齢者群2±1.2日であった。以下同様に、訓練室移行日数は4.9±3日, 3.9±1.8日、起き上がり獲得日数16.7±13日,8.6±5日、移乗獲得日数24.5±21日,23±25日、排泄獲得日数41.2±33日,27.8±26日、移動獲得日数52.7±42日,28±20日という結果となった。訓練室移行日数、移乗獲得日数、起き上がり獲得日数、排泄獲得日数、移動獲得日数は超高齢者群の日数が遅延する結果となったが、起き上がり獲得日数のみ有意に差を認めた。FIM改善率は81%,89%で高齢者群の改善率が高い結果となり、在院日数は75.5±36日,71.2±36日で超高齢者群の在院日数が長い結果とはなったが有意に差はなかった。自宅復帰率は65%,75%で高齢者群の自宅復帰率が高い結果となった。【考察】 超高齢者群と高齢者群とでは、起き上がり動作獲得日数に有意な差が生じた。この理由として、起き上がり動作は基本動作の中でも様々な動作が合わさった複合的な動作で習得が困難であるとともに、術後の疼痛やそれによる可動域制限、筋出力低下などが動作に影響すると思われる。しかし、術部の影響は超高齢者群だけには当てはまらない。今回、超高齢者群は、高齢者群に比べリハ開始日数が早い結果となっているが訓練室移行日数は遅い結果となっている。このことから考えられるのが、超高齢者群は術後の全身状態変化の影響を受けやすく発熱などにより安静臥床を強いられることで廃用が起こると思われる。そのため、術部の影響だけではなく、術後初期に取り組む起き上がり動作は高齢者群と比較すると差が出る結果となったのではないかと考えられる。排泄動作獲得日数、移動獲得日数は今回超高齢者群が遅くなる結果となったが有意差はみられなかった。これは、低侵襲的な手術の施行、術後早期からの積極的なリハビリや福祉用具などの環境面の整備実施が奏効したものと思われた。【理学療法学研究としての意義】 高齢化社会を迎えているわが国の現状として、今後さらに高齢の骨折患者が増えることが予測され、その中でも大腿骨近位部骨折患者の年齢による比較は有用だと考える。また、年齢を重ねるごとにADL動作の獲得が遅延する傾向にあることから、基本動作を中心としたADL訓練も進めていく事が今後重要であると思われた。
著者
小川 哲史 竜田 庸平 宮内 良浩 藤元 麻衣子 速見 弥央 本田 隆広
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Gb1454, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 当校では,3学年の臨床実習報告会を理学療法セミナーという形で1学年が参加し,単位としている.今回,1学年前期におけるセミナーの感想を自由記述してもらい,臨床実習に対するイメージや想いなどのキーワードを分析し,臨床実習に対する心構えの指導や助言に繋げることを目的とする.【方法】 理学療法セミナーに初めて参加した当校1学年42名に自由記述方式にて感想や勉強になったことを記入してもらった.そして,テキストデータに変換後khcoderにて分析した.分析方法としては,頻出度の高い順に単語を抽出した後,似通った語をカテゴライズし,2次元対応分析と階層的クラスター分類にて分析を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言を遵守し,学生に十分説明し同意を得た.また,テキストデータに関しては,匿名にて採取したうえで分析後破棄した.【結果】 42名の学生全員から回答が得られた.高頻度抽出語は約70種類あった.その語をクラスター分類し10のカテゴリーに分類した.カテゴリーは「先輩」「セミナー」「自分」「先生」「評価」「知識不足」「実習」「発表」「病態」「治療」というものであった. 2次元対応分析の結果,「自分」と「知識不足」の関わりが1番強い結果となった.また,関連カテゴリーは「自分」と「先輩」,「自分」と「発表」,「評価」と「治療」でった.「病態」に関しては「発表」「実習」と関連があったが,弱く遠い存在であった.加えて,「先生」は他のカテゴリーに満遍なく関わりがあるが遠い結果となった. 階層的クラスター分類のデンドログラムの結果では,3つのグループに分かれた.「自分」「知識不足」「発表」群と「評価」「治療」「実習」「先輩」「セミナー」群,「病態」「先生」群に別れた.【考察】 「自分」と「知識不足」との関係性は,自分は知識不足であるという内部表象であると考える.「自分」と「発表」との関係性は,発表が上手く出来るのかという未来像の内部表象ではないかと考える.階層的クラスター分類の結果からも同様に示唆できた.知識がつけば自分も3学年になれる.また当然その時期がくれば発表もできる.そういう短絡的な発想ではあるが不安と願望,また将来像が交錯している時期だともいえるのではないかと考える. 「評価」と「治療」のカテゴリーは言葉の意味から考えると動的な表象である.これが「実習」という言葉に関連していたため,実習では評価と治療の課題を実施しなければならないという認識が強かったのではないかと考える.1学年の授業に評価実技を多くし,教員の治療アプローチ指導や見学をすることも不安を解消する有効な手段ではないかと考える.当校の理学療法概論の一環として病院見学実習があるが,1学年でも評価の場面や治療を経験できるように,これらの情報を現場へ提供していく必要性も感じた. 加えて,「先輩」を意識する傾向が強かったため,先輩からの発表を吸収しようとする意思を前提に学ぶという姿勢になっているのではないかと考える.また,今回の分析では「先生」というカテゴリーが遠かった.つまり,1学年では先生よりも先輩によって実習の青写真を形成しているのではないかと考える.これらの結果から,今回のセミナーは学生自身が自ら学び,先輩から感じ取る学習スタイルだということも分かった. 新設校が増え,卒業生も多い中,先輩が後輩をどう育てていくのか,今実践され始めたクリニカルクラークシップも1学年時より導入すべきではないか.また理学療法の臨床実習のスタイルも変革の時期ではないかと考える. 理学療法士を目指して少しずつ学び始めた学生が2年先の「先輩」を意識し,「知識不足」を心配している.「知識不足」は勉強を積み上げると解消されるが,「先輩」との対比から生まれる自身の未熟さをどう扱い,どう指導するのかという観点も忘れてはならないと考える.また教育方法の一つに先輩からの体験談などを学ぶ機会づくりやカリキュラムの構成を考慮することでより良い理学療法士の輩出を期待したいと思う.【理学療法学研究としての意義】 理学療法教育においてテキストデータから,学生の内部表象を探る試みは学生の教育方針の転換にも有用であり,今後の教育の発展に寄与するのではないかと考える.今回,1学年から先輩に意識しているという傾向を捉えた.今後の教育に生かし,指導の変革をしていくことに繋がる例だと感じる.