著者
長島 正明 蓮井 誠 山内 克哉 美津島 隆
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1626, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】ネフローゼ症候群は高度の尿蛋白により低蛋白血症を来す腎臓疾患群の総称である。腎臓病患者に対する運動療法は少なくとも嫌気性作業閾値(以下AT)であれば尿蛋白や腎機能へ影響を与えないことが報告されつつあり,ネフローゼ症候群診療ガイドライン2014においても安静や運動制限の有効性は明らかではなく推奨されていない。一方,ネフローゼ症候群の急性期治療として高用量(0.5>mg/kg/日)ステロイド治療が一般的であるが,ステロイド筋症による筋力低下によってADL制限が顕在化することがある。低用量ステロイド治療患者に対し運動療法が有効であることが報告されているが,高用量ステロイド治療における運動療法の有用性は不明である。本研究の目的は,高用量ステロイド治療中のネフローゼ症候群患者における運動療法の有効性を体組成・筋力・運動耐容能から検証することである。【方法】対象は高用量ステロイド治療目的で当院腎臓内科に入院したネフローゼ症候群患者で,運動療法の依頼でリハビリテーション科に紹介となったADL自立の60歳代一症例とした。運動療法は週5回実施した。有酸素運動としてATでの自転車駆動30分,筋力運動としてスクワット動作や上肢ダンベル体操をBorg Scale13の強度で実施した。測定は運動療法開始前と退院時に実施した。体組成は体組成計インボディを用い,筋量,脂肪量を測定した。筋力は筋機能評価運動装置BIODEXを用い,等尺性膝伸展最大筋力を膝屈曲90°位で測定した。運動耐容能は心肺運動負荷試験で評価した。心肺運動負荷試験は呼気ガス分析装置および自転車エルゴメータを用い,10wattランプ負荷とし,ATおよび最高酸素摂取量を測定した。ATはV-slope法にて決定した。最高酸素摂取量は症候限界時の酸素摂取量とした。また,体重,食事摂取カロリー,尿蛋白一日量,ステロイド服用量を診療録より記録した。【結果】入院3週目よりステロイド0.8 mg/kg/日で治療開始され,同時に運動療法開始となった。運動療法は8週間実施され,ステロイドは0.4mg/kg/日まで減量し退院となった。運動療法8週間前後で,体重(kg)は60.4→53.5に減少した。筋量(kg)は26.5→21.8に減少,体脂肪量(kg)は11.0→12.1に増加した。体重比筋力(Nm/kg)は右2.15→1.50,左1.85→1.51に低下した。AT(ml/kg/min)は12.7→15.6,最高酸素摂取量(ml/kg/min)は19.8→20.0に増加した。心肺運動負荷試験の終了理由はペダル50回転維持困難であった。また,入院中の食事は1800kcal全量摂取であり,間食はなかった。尿蛋白一日量(mg/日)の一週間平均値は4095→2159へ改善した。【結論】本症例において,運動療法によって筋力を維持することは困難であったが,運動耐容能を維持することができた。高用量ステロイド治療中のネフローゼ症候群患者における運動療法の強度の検証が必要である。
著者
平塚 健太 吉田 整 大家 佑貴 倉本 祐里 田宮 高道
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1079, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】脳卒中片麻痺患者の歩行パターンの一つにExtension Thrust Pattern(以下,ETP)がある。ETPの改善策として装具の調整が多くなされるが,それのみでは改善できないことも少なくない。そこで今回,装具療法と機能的電気刺激(以下,FES)を併用してETPに対して介入を行った。【方法】症例は50歳代。男性。脳梗塞(右延髄内側)。左片麻痺。介入時評価は,Stroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS):35点。SIAS-下肢Motor(以下,SIAS-m):1-1-0. Functional Ambulation Categories(以下,FAC):1と歩行に介助を要する状態であった。発症当日より段階的に理学療法介入を行った。発症4週後にはSIAS:48点,SIAS-m:4-3-1.7-item Berg Balance Scale(以下,7-item BBS):20点。10m歩行:15.8秒。Timed Up and Go Test(以下,TUG):21.8秒,T-caneと油圧制動継手付Ankle Foot Orthosis(以下,AFO)を使用下でFAC:3と運動機能の向上が認められた。しかし,下腿三頭筋のModified Ashworth Scale(以下,MAS):2と筋緊張の亢進が認められた。加えて,川村義肢社製Gait Judge System(以下,GJS)を測定した。底屈モーメントはLoading response(以下,LR)時の底屈モーメント平均値(以下,FP):5.9Nm.Pre swing(以下,Psw)時の底屈モーメント平均値(以下,SP):5.1Nmであった。なお,LR~Mid Stance(以下,Mst)に底屈モーメントが出現し,ETPを認めた。この時期より,ETPに対して装具療法とFESの併用療法を開始した。FESには帝人ファーマ社製歩行神経筋電気刺激装置ウォークエイド(以下,WA)を用いた。介入内容はKnee Ankle Foot Orthosis(KAFO)およびAFO装着下にて歩行練習や部分練習を行い,セラピストがWAをPsw~Mstにかけて足関節背屈筋群に対して電気刺激を与えた。介入時間は40~60分/日とし,4週間介入を行った。評価項目は,SIAS,SIAS-m,MAS,7-item BBS,10m歩行,TUG,FAC,GJSによる底屈モーメント平均値とした。【結果】介入後の結果は,SIAS:49点,SIAS-m:4-4-2,下腿三頭筋MAS:2,7-item BBS:22点,10m歩行:11.7秒,TUG:15.9秒,FAC:4,GJSによる底屈制動モーメント平均値:FP;10.3Nm,SP;7.1Nmと向上が認められた。下腿三頭筋のMASは数値に変化のない範囲で筋緊張軽減が認められた。さらにLR~Mstに出現していた底屈モーメントが減少し,ETPの軽減を認めた。【結論】ETPの原因として前脛骨筋の筋活動の関与(田中ら,2014)や足関節底屈筋の痙縮の有無(Perry,2010)が報告されている。それに伴う歩行中のロッカー機能の破綻がETPの出現に関与していることが考えられる。油圧制動継手付装具はロッカー機能の改善に寄与し,ETPの改善が期待されるが,本症例においては装具のみでは改善が困難であった。WAを併用することによって前脛骨筋の電気刺激による下腿三頭筋の相反抑制効果や立脚期までの電気刺激によりロッカー機能における下腿の前傾を促せることができ,ETPの改善に寄与したものと捉える。FESとの併用により装具療法で得られるロッカー機能の再構築が効率的に行える可能性がある。
著者
小野部 純 今村 幸恵 神保 和美 山本 優一
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1184, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】Axillary web syndrome(以下AWS)は,乳がんの術後にみられ,腋窩から上腕内側または前腕にかけて皮下に索状物(cord)がみられ,強い疼痛と肩関節の可動域制限を呈する病態を指す。これは,手術による外科的侵襲によりリンパ管または表在静脈系の凝固能が亢進したために管内に血栓が生じ,さらに脈管の線維化が生じたためとされており,Mondor病の一種とも考えられている。AWSの多くは術後8週以内に発症し,通常2~3ヶ月程度で自然回復されるとされているが,長期化するケースも報告されている。また,有効な治療手段は確立されておらず,各治療施設によって異なる対応がとられている可能性が高い。そこで本研究では,文献検索によりAWSの治療介入方法の種類とその効果について抽出することとした。【方法】対象とする資料収集は2015年10月時点において,データベースとする医中誌データベースおよびMEDLINEより提供されている医中誌WebならびにPubMedを用いて行った。両データベースとも使用したキーワードは「Axillary web syndrome」とし,評価論文の種類は原著論文,症例報告とし,Reviewや会議録は除外した。収集した論文の選定は,テーマ,アブストラクトを確認し,以下の基準で選定を行った。選定基準として,①乳がん患者の術後を対象としていること,②理学療法の介入手段が記載されていること,とした。【結果】医中誌Webによる検索の結果,10編が該当し,その中から会議録を除外した結果,2編となった。次に,PubMedによる検索の結果32編が該当し,26編が選定基準に該当した。さらに内容を確認した結果,AWSに対する治療方法が記載されていたのは3編のみであった。該当した論文から,効果があった治療手技として挙げられていたのは,関節可動域訓練,ストレッチ,モビライゼーション,軟部組織への徒手療法,温熱療法,コッドマン体操であった。その効果としては,肩関節可動域の改善と疼痛の軽減が報告されていた。【結論】本結果から,AWSに対する理学療法手技を抽出することは出来た。しかし,論文数や対象者数が少なく,ランダム化比較試験は含まれておらず,効果的な治療手技が抽出できたとは言い難い。さらに,関節可動域訓練,ストレッチ,モビライゼーション,徒手療法のそれぞれの手技の違いが明確ではなく,ストレッチに関しても皮膚,筋,codeのどれを対照としてアプローチしているのかも一定ではなかった。AWSは,強い痛みと可動域制限から,著しくQOLを低下させてしまう。Torresらは,AWSの経過は一定期間で自然に収束する症状として見過ごされがちであるが,その病態を短縮できる治療方法の研究が必要であると提言している。本研究からは,現在行われている治療方法について抽出できたが,効果検証までには至らなかった。今後,増加するであろう乳がん術後の後遺症の一つとしてとらえ,有効な介入方法を確立していく必要があると考える。
著者
中俣 恵美 岡本 加奈子 横井 賀津志 甲斐 悟
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1339, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】高齢化や認知症患者の増加に伴い,医療・福祉現場では要介護高齢者の重度化が目立つ。経口摂取が困難な終末期を迎えると,生活の大半を静的姿勢が占めることになる。このような状況において,ポジショニングは,重要な介入方法の一つとなる。ポジショニングの目的として褥瘡予防や拘縮予防はもちろん,重度要介護高齢者では積極的な姿勢ケアによるリラクセーションは特に重要であると考える。しかし,終末期を迎えると言語機能も損なわれ,自身の要望や苦痛を訴えることができないため,そのケアは支援者の能動的なものに移行する。それゆえに,ポジショニングによる主観的満足感を確認,評価することが困難となる。そこで我々は,ポジショニングの有無による心拍数と自律神経活動を測定し,安楽の状況を評価できるか検証した。【方法】研究に同意を得られたポジショニングケアを必要とする症例3名(障害高齢者の日常生活の自立度B2:1名,C2:2名)。ポジショニングなし(背臥位)とポジショニングあり,それぞれの状況で体圧分布〈ニッタ社,BPMS〉,および5分間,自律神経活動と心拍数を測定した。ポジショニングの設定は①接地面積を広くする,②体圧をできるだけ分散する(除圧),③肩甲帯,骨盤帯,体幹での回旋(捻じれ)の改善を基本とし肢位の決定を行った。自律神経活動は,MemCalc Bonaly Light(GMS社)を用い,スペクトル解析から低周波成分(LF:Low frequency,0.04~0.15Hz)と高周波成分(HF:High frequency,0.15~0.40Hz)を計算し,HFを副交感神経活動指標に,LF/HFを交感神経活動指標にした。【結果】A氏:ポジショニングなしからありへの副交感神経活動の変化は,30.8±6.3から43.2±11.2に上昇,交感神経活動の変化は0.4±0.3から0.6±0.6に低下した。心拍数の変化は,60.9±0.8拍/分から58.1±0.3拍/分に低下した。B氏:ポジショニングなしからありへの副交感神経活動の変化は,296.2±197.2から373.4±508.4に上昇,交感神経活動の変化は8.2±14.7から0.8±0.6に低下した。心拍数の変化は,96.7±7.8拍/分から95.2±1.4拍/分に低下した。C氏:ポジショニングなしからありへの副交感神経活動の変化は,2732.4±1949.7から985.7±735.2に低下,交感神経活動の変化は,2.1±2.7から0.5±0.3に低下した。ポジショニングなしのときの副交感神経活動および交感神経活動の変動は激しく,安定しなかった。【結論】リラックス状態と副交感神経活動には,密な関係があるといわれている。今回の研究においても同様の傾向がみられ,重度要介護高齢者においてポジショニングの有無によって心拍数と自律神経活動に変化が生じた。この変化は,リラックス状態を反映していると考えられ,安楽の状況を評価できる可能性が示唆された。そして,自律神経活動として可視化することで尊厳あるケアにつなげることが可能となると考えられる。
著者
本間 佑介 平石 武士
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1313, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】成長期のスポーツ選手では,その身体特性より外傷・障害発生が問題となっている。本研究の目的は,成長期の中学生軟式野球選手に,疼痛についてアンケート調査を実施しその特徴を明らかとすることである。【方法】2015年1月に,T市中体連軟式野球部所属の19チーム(55名)に自己記入形式でアンケート調査を行った。アンケート内容は学年,ポジション,野球歴,既往歴・現病歴,過去,現在の肘・肩・膝関節疼痛の有無,1週間の練習日数(以下練習日数),1週間の練習時間(以下練習時間)の合計とした。過去,現在に肘・肩・膝関節の疼痛(以下,肘痛,肩痛,膝痛)を有する者を疼痛経験あり群,疼痛を有さない者を疼痛経験なし群とし,野球歴,練習日数・練習時間の合計の群間比較を対応のないT検定を用い分析した。解析はDr.SPSSIIfor windowsを用い,有意水準は5%とした。【結果】全回答者数55名(回収率100%)中,有効回答者数は54名(回収率98%)であった。内訳は2年生49名,1年生5名であった。ポジションは,投手13名(24%),投手と複数ポジション兼務20名(38%)であった。肘痛経験者は34名(63%)で現在「疼痛あり」と回答した選手は7名(13%)であった。肩痛経験者は28名(52%)で現在「疼痛あり」と回答した選手は7名(13%)であった。膝痛経験者は28名(52%)で現在「疼痛あり」と回答した選手は8名(15%)であった。肘・肩・膝痛経験あり・なし群の野球歴の平均値は(肘痛経験あり/なし:肩痛経験あり/なし:膝痛経験あり/なし)5.2±1.8年/5.3±1.9年:4.8±2.1年/5.7±1.4年:4.9±1.8年/5.7±1.8年で,肩痛経験に有意な差を認めた。練習日数の合計の平均値は6.4±0.6日/6.2±0.8日:6.3±0.6日/6.3±0.7日:6.3±0.8日/6.3±0.5日で,各群間で有意な差を認めなかった。練習時間の合計の平均値は18.2±5.9時間/16.3±6.3時間:18.7±6.5時間/16.3±5.4時間:17.8±7.2時間/17.2±4.5時間で,膝痛経験に有意な差を認めた。【結論】今回,肘・肩・膝関節の疼痛経験を有する者が半数以上であった。成長期の骨端は力学的にも脆弱で,疼痛が成長期特有の障害発生に起因することから,集団講習会等で障害予防の啓発が必要と考える。野球歴は肩痛経験あり群で有意に短く,その他の疼痛経験あり群において有意ではないが短かった。このような野球経験の不足により,疼痛経験あり群の投球動作が未熟な可能性が考えられる。また,対象者の過半数が投手や投手と複数ポジション兼務の選手であり投球過多が予想される。ゆえに,投球動作の未熟さと年間投球数等の量的因子が疼痛発生に関係すると考える。練習時間は膝痛経験あり群で有意に長く,その他の疼痛経験あり群において有意ではないが長かった。古賀(2007)らは成長期のスポーツ障害は膝関節を中心に下肢に多いと報告している。成長期では膝関節障害が発生し易いことから,練習量の過多が膝痛に起因している可能性が考えられる。
著者
藤本 貴大 吉田 聡志 松坂 佳樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0228, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腰椎を含む椎体圧迫骨折の発生率は,女性で高く加齢とともに著明な上昇を示す。一方で,Sinakiら(2002)は背筋伸展運動による背筋力維持は椎体骨折率を低下させるとしている。さらに,背筋力は円背姿勢と関係し,歩行能力さらには消化器・循環器系の機能障害にも影響する。そのため,背筋の筋力強化および腰椎安定化運動は有効である。近年,背筋のひとつに腰部多裂筋(以下;LM)の役割が疼痛や椎体分節制御・安定性に重要とされている。そして,LMの画像評価において,筋横断面積に加え実質的な筋収縮組織以外の脂肪組織増加といった質的変化も機能障害に関与するとされる。我々は第50回日本理学療法学術大会において,女性腰椎圧迫骨折患者の脊柱起立筋(以下;ES)およびLMに占める脂肪浸潤を計測し,中等度(脂肪浸潤率10%以上50%未満)生じていたと報告した。本研究の目的は,その後腰椎圧迫骨折患者の硬性コルセット(以下;コルセット)装着期間における理学療法実施が腰椎脂肪浸潤に影響するか検証することである。【方法】対象は当院を受診しMRI検査により初発単椎体の腰椎圧迫骨折と診断され入院しコルセット装着となった65歳以上女性で,受傷直後とその後1ヶ月以降にMRIを実施した8例(年齢;72.9±12.0歳,BMI;21.9±3.9,MRI検査期間;63.6±24.3日)とした。対象患者は,コルセット装着下で背筋の筋力強化および腰部安定化運動を加えて実施した。MRI撮影部位は,各腰椎上縁および椎体上下縁から中間位,仙椎上縁の横断像計11画像とした。計測する筋はLM・ES・大腰筋(以下;PS)とした。脂肪浸潤計測は,Ransonら(2006)の先行研究を参考にImage Jを使用し,筋横断面積に占める脂肪浸潤面積を脂肪浸潤率とした。統計処理は,受傷時とコルセット装着後の比較をWilcoxon signed rank testにより行った。有意水準は5%未満とした。【結果】各筋の平均脂肪浸潤率において,受傷時:LM;17.262±11.312%,ES;15.898±13.667%,PS;0.870±1.158%に対し,コルセット装着後:LM;13.927±9.249%,ES;9.209±6.371%,PS;0.466±0.593%であった。これらの期間前後に有意差は認められなかった。一方,各椎体部位別では,LM仙骨上縁部に有意な減少が認められた(27.349±7.711%から15.273±9.658% P<0.05)。【結論】先行研究において,長期のコルセット装着は筋活動低下に伴い筋力低下や筋量減少が生じることが示唆され,脂肪浸潤増加も予測される。しかし,各筋ともに増加することなく,ES脂肪浸潤率は軽度(10%未満)となった。また,LMにおいて仙骨上縁の有意な減少が認められていた。LMの選択的な運動には,腰椎の動きが生じない低い筋活動量で行なうことが望ましく,コルセット装着により腰椎運動制御が制限されているため,効率的にLMにアプローチできたと考えられた。よって,コルセット装着にも理学療法実施によりLM,ES,PSの脂肪浸潤増加を予防できると考えられた。
著者
山本 可奈子 横井 裕一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0305, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】反張膝(Genu Recurvatum)は膝関節の障害リスクを高める要因となる。ACL損傷者は女性に多く反張膝を呈する例が多い。近年,若年女性は反張膝傾向にあるが,反張膝を呈する者の各アライメントの特徴を明記している研究は見当たらない。反張膝の有無による骨盤・下肢のアライメント,及び足底中心の差異を調べることとした。【方法】対象は下肢に整形外科疾患を有さない健常女性54名を,反張膝(GR)群15名(21.1±0.6歳),非反張膝(CR)群を39名(20.8±0.8歳)の2群とした。GR群の取り込み基準は膝関節伸展可動域が0°以上且つGeneral Joint Laxity Test(G Test)の膝関節が陽性と定義し,対象肢は膝関節伸展角が高値を示す方とした。(1)膝関節伸展可動域 被験者は背臥位にて,大腿遠位部を把持し膝関節伸展させ,大転子・外側膝蓋裂隙中央・外果を結ぶ線を測定した。(2)足圧中心計測 重心動揺計(Zebrisインターリハ社製)を使用し,被験者は開眼立位で3m先を注視し,測定時間は10秒を3回施行,10秒間の休息を入れた。X方向動揺平均中心変位(X軸変位),Y軸方向平均中心変位(Y軸変位)を指標に用いた。第2趾と踵中央を結ぶ線を左右方向,踵後縁を前後方向0mmの位置に設定し,内側・前方方向を+と定め,X・Y軸変位の値を計測時の足圧中心の座標とした。(3)G Test 肩・肘・手・股・膝・足関節と脊柱の7箇所の弛緩性を対象とし,陽性となる関節の数を加算した7点満点のG scoreを算出した。(4)骨盤・下肢アライメント計測 立位姿勢を1m先に設置したデジタルカメラ(Canon社製)で前額面及び矢状面から撮影を行った。撮影した画像をImage Jにて骨盤傾斜角(PT)・Q-angleを算出した。Leg Heel Angle(LHA)は下腿1/3・アキレス腱中央・踵骨上縁を結ぶ線のなす角度を腹臥位・座位・立位にて計測した。基準値を±0°とし正の値を踵骨回内とした。統計処理には2群間の各項目の差はスチューデントのt検定,2群の各項目にピアソンの相関係数を用い,有意水準は5%とした。【結果】2群の膝関節伸展角はGR群7.4(5.4),CR群1.1(2.7)であった。GJL scoreはGR群4.6(1.3)CR群2.5(1.1)とGR群はGJL test陽性であった。2群間でY軸変位に有意差を認めGR群81.8(12.4),CR群93.6(13.0)とGR群が後方偏位していた。GR群で膝関節伸展角とG score及びX軸変位で0.3,0.63と正の相関,臥位LHAで-0.3と負の相関を認めた。CR群において膝関節伸展角と相関は認めなかった。また,GR群のY軸変位とPTに0.48と正の相関を認めた。【結論】GR群では距骨下関節可動域が大きく,荷重と関節弛緩性の影響で立位LHAでは踵骨回内位となった。GR群の足圧中心は内側かつ後方へ偏位しており,反張膝を呈する者は内側アーチの減少が示唆された。GR群のY軸変位とPTに正の相関を認め,反張膝による後方重心を骨盤前傾増強させ代償している可能性が考えられる。GR群の特徴から反張膝に伴い膝関節及び足部の変形を及ぼす可能性が示唆された。
著者
枡田 隆利 矢野 正剛 重盛 大輔 外間 志典 長岡 正子 大垣 昌之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0599, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】O'Brienらは65歳以上の高齢者において転倒経験者と非経験者ではFunctional Reach Test(以下,FRT)のリーチ距離(以下,FR値)に有意差があり,大腿骨近位部骨折の既往がある高齢者は再骨折のリスク群にあると報告している。しかし相反する報告もあり,JonssonらはFR値とCenter of Pressure(以下COP)の変位相関は低いとしており,FR値だけで立位の安定性限界を述べるには弱く運動戦略やCOPとの関係を明らかにする必要があると示唆している。本研究では,立位姿勢における動的バランス能力と運動戦略をより詳細に把握することが重要であると考え,二次元動作解析装置と重心動揺計を用いて左右FRT施行時の運動戦略と動的バランスの関係性を分析したのでここに報告する。【方法】対象は当院回復期病棟入院中の歩行が自立している大腿骨近位部骨折患者10名(男性0名,女性10名)。平均年齢79.5±8.2歳,平均身長1.49±0.05m,平均体重49.8±9.7kg。測定方法は,Duncanらの方法に準じFRTを左右施行しFR値,COP前後移動距離,運動戦略について記録した。COP前後移動距離は,多目的重心動揺計測システム(Zebris社製WinPDMS)を使用し,FRT測定開始時からFR値最大到達点時において測定した。運動戦略はFRT測定時において矢状面より肩峰,大転子,腓骨頭,外果,第5中足骨頭をランドマークとしてビデオカメラで定点撮影し,二次元動作解析装置(DARTFISH Pro5.5)を使用して股関節と足関節角度を解析した。統計処理はWilcoxonの符号付順位和検定を用いFR値,股関節角度,足関節角度,COP前後移動距離の骨折側と非骨折側を比較した。有意水準は1%未満とした。【結果】FR値は骨折側20.4±8.6cm,非骨折側22.5±7.7cmで有意差を認めなかった。股関節角度は骨折側が屈曲20.3±16.7°,非骨折側が屈曲31.5±16.6°で非骨折側股関節角度が有意に大きかった(p<0.01)。足関節角度は骨折側が底屈3.0±2.4°,非骨折側が底屈3.1±2.6°で有意差を認めなかった。COP前後移動距離は骨折側60.8±18.1cm,非骨折側78.8±27.2cmで非骨折側が有意に大きかった(p<0.01)。【結論】本研究の結果より,骨折側リーチ時のCOP前後移動距離が有意に短いことは骨折側転倒リスクに繋がるのではないかと考えた。また,高齢者におけるFRT施行時の運動戦略は股関節戦略有意であり,足関節戦略に依存しにくい傾向にあると示唆された。足関節戦略が見られない要因として,藤澤らが多くの高齢者の特徴として足関節機能は加齢に伴い優位に低下する傾向にあると報告しており,今回の結果もそれに起因しているのではないかと考えた。このことから大腿骨近位部骨折患者は骨折側立位時に股関節屈曲角度が低下していることで,COP前後移動距離が短縮し動的バランス能力が低下する傾向にあると考えられた。本研究は症例数が少ないため今後も継続して調査を行い,より信頼性高い結果を示していきたいと考える。
著者
荒川 高光
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0518, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】上殿神経は通常第4と第5腰神経,第1仙骨神経から起こる仙骨神経叢の一枝で,上殿動静脈とともに大坐骨孔の梨状筋上孔から出て,中殿筋と小殿筋の間を走行しながら両筋へと筋枝を与え,さらに前方へと回って大腿筋膜張筋を支配する神経である。このような走行のために髄内釘の手術の際に上殿神経が傷つけられる危険性が指摘されている(Ozsoy, et al., 2007;Lowe, et al., 2012)。また上殿神経には殿部の皮膚や殿筋膜への知覚枝が存在することも報告されている(Akita, et al., 1992)。上殿神経の詳細な解剖学的情報は股関節リハビリテーションにおいても重要である。今回,梨状筋上孔を出た上殿神経が大殿筋への筋枝を持つ例に遭遇したため,詳細に観察することとした。【方法】所属大学医学部の解剖学実習用遺体1体(女性)を用いた。殿部や骨盤内に外傷や手術の既往はなかった。皮膚剥離後,大殿筋を反転する際に,梨状筋上孔から大殿筋に至る筋枝に気付き,全て色糸でマークして,動静脈とともに切断して大殿筋を反転した。続いて中殿筋を反転し,小殿筋との間の上殿神経を剖出し,大腿筋膜張筋までその走行を確認した。所見をスケッチとデジタル画像にて記録した。【結果】梨状筋上孔からは上殿神経の他に,後大腿皮神経から分かれた下殿皮神経と会陰枝,総腓骨神経が出ていた。上殿神経は梨状筋上孔を出た後に,中殿筋の深層へと走行する手前で大殿筋に至る筋枝を3本出していることが確認できた。大殿筋の最も頭側の筋束(腸骨稜起始)へと筋枝を送り,仙骨から起始する筋束にも筋枝を出した。本筋枝が大殿筋内を通り抜けて後方へ出て知覚枝になる様子は現在のところ発見できていない。上殿神経は大殿筋へ筋枝を出した後,中殿筋と小殿筋の間を走行しながら両筋に筋枝を出し,大腿筋膜張筋へ達した。大腿筋膜張筋への筋枝が一部本筋を貫いて筋膜へと出ていた。梨状筋下孔からは脛骨神経と下殿神経が出ていた。下殿神経は大殿筋の下方の筋束へと筋枝を出していた。後大腿皮神経の残りの枝と陰部神経は未確認である。【結論】上殿神経が大殿筋を支配する例の報告は現在のところ存在せず,本例は臨床的にも非常に貴重な例である。すなわち,上殿神経を傷つけるリスクのある手術を行った際には,ごく稀ではあるが,大殿筋の支配神経を傷つけている可能性も否定できないのである。さらには,上殿神経が傷つけられると,大転子付近の筋膜や皮膚への知覚が障害される可能性もある。術後のフォローアップの際に理学療法士が知っておかねばならない詳細な解剖学的情報の1つと位置づけられる。今後本例の上殿神経などの起始分節を確かめるとともに詳細に解析を加えていきたい。
著者
石井 健史 佐瀬 隼人 伊藤 貴史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1077, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】階段は,在宅や公共施設を移動する重要な手段である為,適切な評価を基に,階段自立を判断していく必要がある。しかし階段自立を判断する明確な基準がないのが現状である。階段自立には,様々な報告がされているが,その一つに動作中の大きな関節運動と関節モーメントが必要であるとされている。先行研究においては,下肢筋力に関する報告は多いが,動作中の関節運動に関する報告は散見されない。昇降動作において,関節運動の低下は,転倒の危険性があると報告されており,階段自立を判断する際は,筋力だけでなく動作中の関節運動にも目を向ける必要があると考える。そこで本研究では,脳卒中片麻痺者を階段自立群と見守り群に分け,三次元動作解析装置を用いて動作中の各関節運動を分析し,階段自立を判断する一助にすることを目的とした。なお,本研究においては,脳卒中片麻痺者が特に難しいと言われている降段動作に着目し検討した。【方法】対象は,入院また通所リハビリを利用していた脳卒中片麻痺者14名とした。包含基準は,T字杖と短下肢装具を使用し階段の昇降動作が見守り以上で可能な者とした。除外基準は,両側に運動麻痺を呈している者,重度の高次脳機能障害を有する者,体幹及び下肢に著明な整形外科的疾患の既往がある者,研究方法の指示理解が困難な者とした。対象者の属性は,男性12名,女性2名,年齢61.9±10.9歳,階段自立群7名,見守り群7名であった。測定方法は,階段の降段動作を実施してもらい,三次元動作解析装置(株式会社酒井医療製,マイオモーション)を用いて各関節角度を測定した。階段は,4段(蹴り上げ15cm,踏み面30cm)を使用した。階段の降段方法は2足1段とし,振り出し側は麻痺側,支持側は非麻痺側となるよう統一した。測定項目は,胸椎・腰椎・股関節・膝関節の各関節角度とした。各関節角度の測定時期は,振り出し側の全足底面が踏み面に接地した瞬間とし,それぞれ3段の平均値を算出した。統計解析は,測定項目に対して,2群間の差をみる目的で対応のないt検定及びMann-WhitneyのU検定を実施した。なお,有意水準は5%とした。【結果】統計解析の結果,降段時の支持側膝関節屈曲角度(測定値[°]:自立群67.5/見守り群52.7)に2群間で有意な差を認めた(p<0.05)。その他の項目においては有意な差を認めなかった。【結論】今回の研究において,階段自立群は見守り群と比較し,支持側の膝関節屈曲角度が増大していることが明らかとなった。階段の昇降動作は,重心の上下移動が大きく,降段する際は支持側の膝関節を十分に屈曲させる必要がある。先行研究においては,筋力の重要性が示唆されてきたが,本研究の結果から階段の昇降動作中の支持側の膝関節運動にも十分目を向けていく必要があると考えられる。
著者
青木 幸平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0207, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】張らは人工神経回路網による眼球運動制御モデルを作成する際に,網膜への刺激や頭の傾き(網膜誤差)だけでは人の滑らかな眼球運動が再現できず,外眼筋の求心性情報が重要であると述べている。この眼球運動には頚部の動きが伴う。そこで眼球運動にエラーが生じれば頚部の不良肢位を生じ,頚部由来の痛みや痺れが発生すると考えられる。そのため一般的な体を正中位に改善させるリハビリでなく,外眼筋に着目し治療を行い効果を得られたため以下に報告する。【方法】症例は60代男性。パソコンの使用頻度(左側)が多く座位姿勢は体幹右回旋し頚部左側屈・左回旋位で「まっすぐ座れている」と言語化。座位で右肩甲帯上部から上・前腕外側や母指・示指にかけて痺れがみられ,spurling testでVAS7/10に増強。頚部の右回旋・側屈はC6~Th1の過剰運動が見られた。右上肢は全体的に過緊張。右側のものを中心視野で捉えようとすると若干ずれが生じた。痛みの原因は右回旋・側屈時のC6~Th1の過剰運動が原因と考えられるが,頚部は眼球運動との関連が強い。眼球運動は対象物を中心視野にとどめ見やすくする機能を持つが,長時間の随意的な追視は困難であり,反射が必要である。網膜誤差や外眼筋の伸張感覚により非意識的に外眼筋を制御し追視する反射は,より求心性情報に依存する。これらの求心性情報にエラーが生じた状態では中心視野に対象物を留めにくく不明瞭。そのため運動制御が行われやすい情報を優位にシステムを構築するような代償が生じることが予想される。これらの考えより,長時間の左側作業により外眼筋の内外側で求心性情報に不均等が生じ,網膜情報を中心に眼球を制御するように代償したため右側では外眼筋が働きにくくC6~Th1の過剰運動を引き起こし痺れを生じさせたと考えた。治療肢位は座位。9つに区切られた板を正面より60°に置き,その番号の位置を記憶。閉眼し眼球をセラピストの介助でリーチした手に追随後開眼。リーチした番号と共に手を視野の中心で捉えられているかを確認させた。これを左・右の順番で行った。【結果】spurling testはVAS2/10となり上位頚椎から滑らかな運動が可能となり右上肢の過緊張も軽減した。座位は「真っ直ぐ保ちやすくなった」と言語化し正中位保持が可能となった。【結論】今回の結果より,眼球運動の求心性情報のエラーにより痺れが生じる可能性が示唆された。眼球運動は様々な情報(前庭・網膜・眼輪筋等)の統合により適切な制御が可能となる。反射の制御は伸張反射など四肢のみでなく眼球運動にも存在し,この反射が適切な形で制御されなければ,対象物が動くたびに身体の正中性が崩れるような負の学習がなされる。またこの反射は頭頂・後頭葉により制御されるが,主に随意運動を制御する前頭眼野と小脳を介しシナプス結合が強いことから,随意運動にて反射制御が可能ではないかと考えられた。
著者
南原 宗治 槌谷 宏幸 和久 美紀
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1259, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに】仙骨疲労骨折は,疲労骨折の中でも単純X線画像では診断されがたく,見逃し例もある診断困難な疾患である。また,陸上選手に多い疾患と報告されているが,走行量が多い他のスポーツでも発症する報告が散見される。今回当院で仙骨疲労骨折と診断された女子バスケットボール選手から,仙骨疲労骨折と身体運動機能との因果関係を検証し考察したので報告する。【症例紹介】右仙骨疲労骨折16歳 女性。全国大会出場レベルの高校女子バスケットボール部所属。過去に腰痛既往歴なし。入部2ヶ月後からジャンプやダッシュ時に腰痛が発症したが,安静時に痛みが治まるので練習と試合を継続した。翌月,腰痛が増悪して歩行困難となり当院を受診した。X線画像所見で異常は認められず,MRI画像所見にて上記診断された。【理学療法評価及び治療経過】診断後,理学療法(以下PT)を開始した。2ヶ月間運動中止とし,下肢・体幹のストレッチングと非荷重筋力強化を中心に進めた。初期評価時は,歩行・走行時,長坐位での右上殿部痛が主訴で,右股関節伸展・外転筋の筋力低下,エリーテストとSLRテストの右側陽性,右片脚立位姿勢不安定と右片脚スクワット時knee-inを認めた。PT開始から右側股関節伸展・外転の可動域exと非荷重筋力強化,ハムストリングスのストレッチングを行った。2ヶ月時に痛みは消失し,荷重トレーニングを開始して負荷を徐々に増していった。PT3カ月時にジョギングを開始したが,走行動作は重心上下運動が大きく,股関節伸展運動が不足していた。PT開始4ヶ月後にダッシュなどの高負荷トレーニングで症状を認めず,CT所見で骨癒合を確認したため部練習と試合に復帰してPT終了となった。PT終了時,最大負荷運動時痛はなく,股関節ROM左右差は消失していた。筋力は右中殿筋,右ハムストリングスがやや低下,右片脚スクワット時knee-inは軽減していた。走行動作は重心上下運動が減少し,股関節伸展運動が増大した。【考察】過去の症例報告から,本疾患は股関節外転筋力の低下,仙骨翼骨梁の圧迫と垂直方向への反復衝撃負荷が仙骨への剪断力の主因ではないかと報告されている。本症例は,過度の走行,患側股関節周囲筋力の低下,腰椎前彎,ハムストリングスの柔軟性低下など,仙骨疲労骨折症例の特徴が類似して骨盤へ剪断力を高めるメカニズムと一致する。さらに,本症例の走行フォームは重心上下運動が大きく,このフォームが走行時に骨盤の衝撃負荷を増強した要因ではないかと考えられた。また,この走行フォームは股関節ROM・筋力向上に伴い改善されたため,股関節伸展運動が走行時の重心上下運動にも影響していることが示唆される。本症例より,仙骨疲労骨折は股関節周囲の筋力アンバランスや柔軟性だけではなく,股関節伸展運動や走行フォームも関連因子となり,適切な走行動作が本障害の予防に重要であると考えられた。
著者
浅野 信一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1730, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】内発的動機づけと外発的動機づけがバランス良く成り立つ事が,臨床実習成果向上の大きな要因の一つである。承認行為としての褒める叱るは外発的動機づけであろう。指導者がそれを理解し実際の指導に当たることは,実習をより有意義なものにするための鍵となり得ると考える。今回,臨床実習学生に対して褒められ・叱られ経験とその時の感情および最終的な達成感,さらには実習中「楽しい」と感じた体験を尋ねることにより,外発的動機づけと学生の心理への影響および実習達成度,満足度との関連性について知見を得たので報告する。【方法】対象は,平成25年4月から27年10月までに当院で実施した総合臨床実習の実習生42名(男性21名,女性21名,平均年齢21.9歳)である。調査方法は質問紙により,担当指導者の影響を受けない状況となるよう,実習最終週に発表者自らが学生個々に説明・依頼をして直接回収した。調査項目は,実習期間中の褒められ経験と強い口調の注意や指導を含む叱られ経験の有無とその回数および指摘内容。褒められた時の感情として,「その時は率直にうれしかったか」「その時実習遂行意欲は増したか」を,叱られた時として,その時の気持ちに一番近い状態(不安・怒り・虚しさ・恐怖・悲しさ・嬉しさから選択),「その時自己否定感を感じたか」「それは今克服できているか」を尋ねた。更に「実習の自己達成感」および「カリキュラムとしての実習と考えたときの満足度」をパーセントで示してもらった。関連項目として,学校教員からの褒められ叱られ経験および実習中楽しかった事を尋ねた。【結果】設問〔この臨床実習期間中に実習指導者から褒められるという経験をしたか:自分が褒められたであろうと感じた経験〕の設問では「はい」37名,「いいえ」5名。〔それは何回くらいか〕では5回以上と答えたのは15名。〔その時うれしかったか〕では全員が「はい」。〔実習遂行意欲は増したか〕では「はい」34名,3名が「いいえ」と答えている。〔実習指導者から叱られたという経験をしたか:強い口調の注意や指導含む〕に対して「はい」25名,「いいえ」17名。〔何回くらいか〕では5回以上が4名。〔その時の気持ち〕では,不安11名,虚しさ20名,恐怖1名,悲しさ4名(未回答1名)。〔その時自己否定感を感じたか〕で「はい」20名,「いいえ」5名,〔それは克服できているか〕では「はい」12名,「いいえ」が8名であった。自己達成感の平均値は61.3%,満足度は75.4%であった。褒め叱りの有無や回数,克服状況等で比較をしたが,克服できなかった8名の達成度が53.8%と他と比べ低めであった。その他男女差等の諸条件で検討したが優位な偏りは認められなかった。【結論】当院での実習生の褒められ叱られ経験と,その時の感情,実習達成感,実習中楽しく感じる経験等の実態を知ることができた。今後の実習指導に生かしていきたい。
著者
市橋 康佑 上田 雄也 松野 凌馬 中村 瑠美 神崎 至幸 林 申也 橋本 慎吾 丸山 孝樹 酒井 良忠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0014, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】近年,人工足関節全置換術(TAA)は,重度な変形性足関節症や関節リウマチにより高度に破壊された足関節に対する治療法として,選択施行されている。TAAの長期予後として,優れた除痛効果と関節可動域(ROM)の温存ならび改善に優れると報告されている。しかし,TAA術前から術後早期に身体機能変化について検討したものは見当たらない。また,術後の最大歩行速度(MWS)の低下は,手段的日常生活動作の低下や転倒のリスク因子であると報告されている。しかし,TAA術後のMWSに関連する因子についての報告はない。そこで,本研究の目的は,TAA術前と術後3ヶ月の身体機能の変化を比較検討するとともに,術後のMWSに関連する因子について検討することとした。【方法】対象は,2014年4月~2015年7月の期間に当院整形外科にて,TAAを施行された13名13足(男性3名,女性10名,年齢75.6±6.0歳)とした。13足のうち,変形性足関節症が12足,関節リウマチが1足であった。測定項目として,以下の項目を術前と術後3ヶ月で測定した。(1)他動ROM:足関節背屈および底屈のROMを測定した。(2)疼痛:歩行時の足関節の痛みについてVisual analog scale(以下VAS)を用いて数値化した。(3)歩行速度:10m歩行路の歩行時間を測定し,MWS(m/分)を算出した。統計解析として,術前と術後3ヶ月の各測定項目についてPaired t-testを用いて比較した。また術後3ヶ月において,MWSと背屈ROM,底屈ROM,VASの関連についてPearsonの相関分析を用いて検討した。すべての統計解析にはJMPver11.0を用い,有意水準は5%とした。【結果】背屈ROMは術前3.5±4.3°から術後7.3±3.9と有意に改善したが,底屈ROMは31.5±8.3から30.7±10.0°と有意な変化を示さなかった。また,VASは69.8±18.6から37.0.±20.7,MWSは54.4±20.0m/分から69.6±18.4m/分と有意な改善を認めた。術後3ヶ月において,MWSと背屈ROM(r=0.71),底屈ROM(r=0.56),VAS(r=0.56)とそれぞれ有意な相関関係が認められた。【結論】TAA術後3ヶ月では,術前に比べ背屈ROM,歩行時のVAS,MWSに有意な改善を認めた。術後3ヶ月におけるMWSに関連する因子として,背屈ROM,底屈ROM,VASに関連があることが示唆された。
著者
久保 貴嗣 大須賀 章倫 戸田 芙美 田平 一行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0784, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】熱傷患者の重症度は深度・範囲・年齢で決定される。熱傷の予後予測評価として熱傷の深度,範囲を評価するBurn indexと年齢の和で算出されるPrognostic Burn index(PBI)が使用される。PBI 90の傷病者の死亡率は13%,100では39%と上昇することが知られている。重症熱傷患者に対する理学療法は重症度が上がるほど困難となり,しばしば重症すぎるために行われないこともあり,重症熱傷患者に対する理学療法についてまとめられた報告はない。そこで本研究の目的は高死亡率が予測される患者への理学療法の実施状況及び有効性について検討することである。【方法】2011年4月から2013年3月までに当院,熱傷センターに入院した熱傷患者に理学療法を行った66例を対象とした。PBI9以上(≥90)と90以下(<90)の2群に関して,理学療法の実施率,有効性(ICU滞在日数・入院期間・人工呼吸装着期間・端座位開始までの期間・立位開始までの時間・歩行開始までの期間・退院時のADLおよび肺炎の合併例)につき検討した。なお,退院時のADLはBarthel Indexを用いた。統計解析は名義変数についてはカイ二乗検定を用い,連続変数はMann-Whitney U検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【結果】基本情報は症例数(≥90vs<90:18例vs48例),PBI(≥90vs<90:101.5±10vs 65.3.5±17.9),Burn Index(≥90vs<90:25.5±20.3vs11.0±9),年齢(≥90vs <90:76±15歳vs54±18.5歳)であった。気道熱傷患者(≥90vs<90:8例vs19例),挿管患者(≥90vs<90:11例vs19例),理学療法開始までの期間(≥90vs<90:4.5±6.1日vs4.1±5.6日)であった。PBI,Burn Index,年齢において有意差が認められた。治療成績はICU滞在日数(≥90vs<90:38.5±27.2日vs21.4±21.1日),入院期間(≥90vs<90:90.4±41.9vs47.2±33.3日),人工呼吸器装着期間(≥90vs<90:8.8±7.8日vs9.4±7日),端座位開始までの期間(≥90vs<90:14±9.4日vs10.1±10.5日),立位開始までの期間(≥90vs<90:32.4±23.6日vs12.4±13.5日),歩行開始までの期間(≥90vs<90:41.3±30.7日vs16.8日),退院時のADL(≥90vs<90:65.0±33.8vs85.6±22.2)であった。また,肺炎は(≥90vs<90:3例vs7例),死亡例(≥90vs<90:2例vs0例)であった。ICU滞在日数・入院期間・歩行開始までの期間・退院時のADLに有意差が認められたが,人工呼吸装着期間・理学療法開始・端座位・立位開始までの期間,肺炎の合併例には差を認めなかった。【結論】PBI 90以上は死亡率が高くなるとされるが本検討での死亡例はPBI 120を超えた2例のみであった。この事により重症例でも救命できるケースは多く理学療法介入の必要性が示唆された。また,受傷後から理学療法開始,離床開始,人工呼吸器離脱までの期間において両群に差はなかった事から,超重症熱傷患者においても積極的に理学療法介入が出来,肺炎の発症予防,廃用の予防に貢献できると思われる。
著者
西 啓太郎 磯谷 隆介 輪違 弘樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1430, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】介護保険は2000年からスタートし,年を重ねる毎にその保険費が増大している。当初3.6兆円(2000年)が8.6兆円(2014年)にまで膨れ上がっている。厚生労働省の推計によると団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年に介護保険費は19.8兆円になると予想されており,国家予算がおよそ100兆円とするとその約2割を占めている。地域で理学療法士が介入することによっての介護度の変化と,それによる経済効果を具体的な数値で示したので報告をする。【方法】対象はH25.6~H27.10の間に弊社の2ヶ所のデイに通所している利用者のうち,6ヶ月以上利用し,理学療法士による運動・生活指導,個別リハを受け,その間に介護度が変化した利用者74名(男性19名,女性55名,年齢80.2±6.7歳)とした。介護度とその利用回数を抽出し,介護保険費(介護保険給付費+自己負担分)を計算した。介護保険の認定期間は新規を除くと原則12ヶ月となっているため,介護度が変化する以前と以後で1年間利用したと仮定し,年間の介護保険費に換算して差を比較した。比較には対応のあるt検定を使用した。また,理学療法士による介入は運動指導,生活指導,個別リハを行い。各利用者個人と達成可能な目標を決め,達成に向けて個別・集団での運動プログラムを実施した。【結果】介護度認定の前後での介護度は有意に改善が見られた(p<0.01)。対象者74名のうち,介護保険更新前は要支援1:15名,要支援2:19名,要介護1:17名,要介護2:11名,要介護3:6名,要介護4:6名,要介護5:0名であった。介護保険更新後は要支援1:15名,要支援2:19名,要介護1:16名,要介護2:12名,要介護3:5名,要介護4:0名,要介護5:0名であった。また,更新後自立に至った利用者は7名であった。介護度認定の前後での利用料金は優位に差が見られた(p<0.01)。年間での介護保険費を計算すると更新前は32,477,640(円/年),更新後は28,527,528(円/年)となり差額は3,950,112(円/年)であった。【結論】今回の結果において介護保険費抑制効果は3期分の合計で3,950,112(円/年間)であった。先行研究においてリハビリ専門職の介入によって介護度が優位に改善する可能性は既に言われている。故に今回の報告は国家予算を圧迫している介護保険費を理学療法士の介入によって抑制できる示唆となった。各地方行政と協同した積極的なリハビリ職種の介入によって,介護保険費の削減が可能であることが示唆された。
著者
仲島 佑紀 亀山 顕太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1265, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】近年,野球選手の投球障害に対する予防の取り組みに関する報告が散見される。また障害予防の観点から選手・指導者に対する検診を実施する地域が増加している。我々は2012年より障害予防の啓蒙活動の一環として少年野球選手を対象に,県内複数地域で障害調査やフィジカルチェックを中心とした野球肘検診を実施してきた。調査結果やフィジカルチェックにおける所見が障害発生にどのように関連するかを追究し,投球障害予防に貢献することを目的として投球障害肘の発症を縦断的に調査し,その発症因子を検討した。【方法】対象は2014年1月,2015年1月の検診に2年連続で参加し,初回検診時に肩肘に現病歴のなかった少年野球選手168名(9-12歳)とした。調査項目は2014年1月から2015年1月までの肘痛発症の有無と,初回検診時に実施したフィジカルチェックとした。フィジカルチェックの項目は,問診情報(①ピッチャー経験の有無・②1週間の総練習時間),局所所見(③肘伸展制限の有無・④肘屈曲制限の有無),柔軟性検査(⑤広背筋テストの可否・⑥踵臀部距離・⑦投球側股関節自動屈曲角度・⑧非投球側股関節自動屈曲角度),上肢機能(⑨上肢挙上位肩外旋角度・⑩肩甲帯内転角度・⑪腕立て伏せの可否),下肢機能(⑫投球側片脚立位テストの可否・⑬サイドジャンプ距離)の計13項目とした。統計解析として肘痛発症の有無を従属変数,フィジカルチェック項目を独立変数として多重ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を行った。多重ロジスティック回帰分析にて有意な関連(p<0.05)を示した連続変数についてはReceiver operating characteristics(ROC)曲線による分析を行い,カットオフ値を算出した。統計ソフトはR2.8.1を用いた。【結果】肘痛発症例は168名中,39名であった。有意な関連を示した項目は,1週間の総練習時間(p=0.009,オッズ比:1.13,95%信頼区間:1.03-1.24)と柔軟性検査である広背筋テストの可否(p=0.02,オッズ比:2.89,95%信頼区間:1.20-5.96)の2項目が抽出された。総練習時間のカットオフ値は17時間(感度:60.0%,特異度:82.6%,曲線下面積:0.73)であった。【結論】週17時間以上の練習時間は,日本臨床スポーツ医学会の提唱する1日2時間以内の練習時間を上回る結果となった。広背筋テストは両側の肘を合わせ,鼻の高さ以上に挙がるかをチェックするものであり,広背筋の柔軟性・胸郭の伸展動作などが関与する。これらの機能低下は投球動作における,いわゆる「しなり」を減弱させ肘下がりなどを惹起し,肘痛発症の要因となったと考える。障害予防においては,選手や指導者でも簡便に行えるチェック項目の抽出が重要なポイントと考えており,本研究結果は現場でも導入可能であり,障害予防に貢献し得ることが示唆された。
著者
西野 雄大 増田 一太 笠野 由布子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0721, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】肩こりは様々な定義が提唱されており,その多くは「後頭部から肩,肩甲部」にかけての範囲での症状を指す。また我が国における肩こり有訴者は欧米に比べ非常に多いが,肩こり自覚度と筋硬度の関係性は無いとの報告もあり,その病因は十分に解明されているとはいえない。そして,先行研究により肩こりの定義内には肩甲背神経由来の肩甲背部痛が包括されている可能性を報告した。そこで今回,肩こりの有訴症状の部位を分類し,それぞれの疼痛発生メカニズムを検討したので報告する。【方法】対象は平成26年12月~平成27年9月までに来院した椎間関節症および神経原性疾患が否定された「本態性肩こり」の症状を有する23名とした。平均年齢は57.3±16.7歳であった。有訴部位により頚部から肩甲上部の範囲の疼痛を主訴とする群(以下,U群)と肩甲背部痛群(以下,S群)で分類した。測定内容はVisual analogue scale,頚部・肩甲骨周囲筋の圧痛,頚椎・胸椎ROM,肩峰床面距離,X線画像により頚椎前弯距離,C2-7角,鎖骨の傾き,なで肩の有無を確認した。圧痛・なで肩の有無に対してはカイ二乗検定を,その他の項目の比較には対応のないt検定を実施した。さらに上位項目に対してステップワイズ法による判別分析を用いて疼痛要因を分析した。統計学的処理の有意水準は5%未満とした。【結果】U群と比較してS群において中斜角筋の圧痛に有意差を認めた(p<0.05)。また頚椎前弯距離,C2-7角においても2群間で有意差を認めた(p<0.05)。判別分析ではU群の発症に強く関連する因子は頚椎前弯距離,C2-7角,頚椎伸展可動域,なで肩,S群は頚椎前弯距離,C2-7角,頚椎伸展可動域,中斜角筋であった。【結論】肩こりの有訴部位の違いを検討したところU群17名,S群6名に分類され,3:1の比率でU群が多かった。本研究の結果から頚椎前弯距離,C2-7角,頚椎伸展可動域,なで肩,斜角筋が2群間で有意な関係性を認めた。U群はS群に比べてストレートネックやなで肩が多く,竹井やHarrisonらの報告を裏付ける結果であった。そのため肩甲挙筋を中心とした頚部伸筋群の緊張が高まり頚部から肩甲上部の範囲の疼痛が発生したと考えられた。一方,S群は頚椎前弯が正常よりも増強傾向であり,なで肩が有意に少なかったためU群に比べて下位頚椎と第1肋骨との距離が短縮し,中斜角筋の筋活動量が増大しやすい。また中斜角筋は頚椎伸展位で伸張されるため,頚椎伸展時には同筋の過活動が助長され肩甲背部痛が発生したと考えられた。本研究により,一般的な肩こりの定義内での頚部から肩甲上部の範囲での疼痛には頚椎アライメントやなで肩の有無が関与し,肩甲背部痛には中斜角筋での肩甲背神経のentrapment neuropathyが関与する可能性が示唆された。
著者
小松 徹也 魚住 洋一 臼井 雅宣
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1025, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】髄外胸髄腫瘍の術後予後は良好と言われているが,具体的な回復経過を詳細に報告したものは少ない。今回,髄外硬膜外の胸髄腫瘍によりTh6以下の不全対麻痺(ブラウン・セカール症候群)を呈する症例を担当し,術前から退院までリハビリを実施した。術前から術後7週間にわたってASIAスコアと歩行スピード(10m歩行・Timed Up & Go:以下TUG)の評価を行ったので報告する。【方法】症例は67歳 女性 身長161cm,54kg。既往歴として62歳時に右乳癌に対して乳房部分切除を施行されホルモン療法を当院外科外来で行っていた。現病歴は,2015年3月より歩きにくさを自覚,5月よりT字杖歩行,7月からは屋内伝い歩きとなり外出を控えるようになった。同月,当院脳神経外科を受診し8月1日脊髄造影MRIでTh2-3に髄外硬膜外腫瘍を認めたため,加療目的で8月4日入院となった。8月7日術前リハビリ開始,8月17日に再度MRIを撮影し乳癌転移を否定した後,8月27日脊髄腫瘍摘出術が施行された。腫瘍は髄膜腫(Meningotheliel meningioma,WHO Grade1)と診断された。8月31日からリハビリ再開となり9月4日より両松葉杖歩行を開始。9月8日より右ロフストランド杖歩行開始,3度の自宅外泊を実施し,10月17日に自宅退院となった。退院時の歩行能力は屋内独歩・屋外ロフストランド杖歩行であった。【結果】術前評価:意識は清明,コミュニケーション良好。両上肢に感覚・運動障害は見られず,握力は右18.6kg,左19.0kg。四肢に可動域制限を認めず。異常感覚として腹部から両下肢にかけてしびれ感とつっぱり感があり,Babinski反射は両側ともに陽性。膀胱直腸障害を認めず。基本動作は物的介助にて自立。歩行は両松葉杖にて指尖介助レベルであり連続40m程度。FIM113点(移動能力と浴槽への移譲動作のみ低下)。自宅は二階建てで夫と二人暮らし。本人のneedsは「歩けるようになって早く帰りたい」であった。ASIAスコア(運動82/100,痛覚67/112,触覚88/112)。10m歩行は27.3秒。術後1週:ASIAスコア(運動84,痛覚80,触覚97)。術後2から6週:ASIAスコア(運動86→91→93→94→95,痛覚101→109→109→110→110,触覚103→110→111→111→111)。歩行スピード(10m歩行 計測実施せず→14.3秒→11.9秒→8.87秒→9.4秒,TUG 計測実施せず→計測実施せず→16.9秒→11.6秒→12.37秒)。術後7週(退院前):ASIAスコア(運動97,痛覚111,触覚112)。歩行 スピード(10m歩行 8.9秒。TUG 11.9秒)。屋内独歩,屋外右ロフストランド杖歩行での退院となった。【結論】髄外胸髄腫瘍の症例を担当した。ASIAスコアの触覚スコアは術後7週で満点となり,痛覚スコア・運動スコアは術後7週では満点にはならなかった。歩行スピードは術前と比較し明らかな回復を認めた。本症例を通じ,髄外硬膜外胸髄腫瘍の術前および術後7週間にわたるASIAスコアと歩行スピードの具体的な回復の経過を知ることができた。
著者
溝口 想 黒川 純 佐久間 孝志 室井 聖史 小口 駿
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0371, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】肩関節疾患では腱板機能が重要視されており,腱板エクササイズの肢位や負荷量などについてさまざまな報告がなされている。我々は,腱板エクササイズの運動速度について検討し,運動速度の増加が棘下筋と三角筋の筋活動のバランスに影響を与えることを報告してきた。しかし,以前の報告は求心性収縮相のみの検討であり,遠心性収縮相の筋活動については検討していない。筋活動へ与える影響は運動速度だけでなく収縮様態によっても異なると考えられ,腱板エクササイズにおいても求心性収縮相と遠心性収縮相では運動速度の影響が異なることが予想される。本研究の目的は腱板エクササイズにおける棘下筋・三角筋の筋活動を求心性収縮相と遠心性収縮相で分け,運動速度が各筋活動に与える影響を検討することである。【方法】対象は肩関節に疾患のない健常者13名とした。測定肢位は端座位で肩関節45°屈曲位・肘関節90°屈曲位・前腕回外位で肘を机上に乗せた肢位とした。被験筋は棘下筋・三角筋中部・三角筋後部とした。運動課題は,セラバンドを把持させ,肩関節内旋60°から0°までの範囲の内外旋運動を9回とした。なお,運動速度はメトロノームを用い60回/分・120回/分・180回/分とした。解析区間は筋電図とビデオカメラを同期し外旋運動開始から内外旋0°までを求心性収縮相(CC相)とし,内外旋0°から内旋運動終了までを遠心性収縮相(EC相)とし,9回における前後2回を除いた中間5回の値を使用した。また,Danielsらの徒手筋力検査法に準じた肢位でMMT3遂行時の等尺性収縮を5秒間測定し中間3秒間の値から平均筋活動(RVC)を算出し,得られたデータより各筋の平均筋活動を正規化し,%RVCを算出した。検討項目は,棘下筋・三角筋中部・三角筋後部の筋活動の割合とし,各相別における運動速度間で比較した。統計学的処理はSPSS ver.12.0を使用し,棘下筋・三角筋中部・三角筋後部の筋活動の割合を一元配置分散分析を用いて検討した。その後の下位検定としてTuckyの多重比較を行った。なお,有意水準は5%とした。【結果】棘下筋はCC相・EC相ともに各運動速度で有意差を認めなかった。三角筋中部はCC相において各運動速度で有意差を認めなかった。EC相においては60回/分で6.2%,120回/分で8.6%,180回/分で10.4%であり,60回/分と比較し180回/分で有意に高値を示した。三角筋後部はCC相において60回/分で11.8%,120回/分で15.1%,180回/分で18.4%であり,60回/分と比較し180回/分で有意に高値を示した。EC相においては60回/分で9.5%,120回/分で11.1%,180回/分で13.8%であり,60回/分と比較し180回/分で有意に高値を示した。【結論】運動速度の増加によりCC相のみでなくEC相でも三角筋中部・後部の筋活動が増加し,棘下筋は一定の筋活動を示した。これより,運動速度の調節には棘下筋より三角筋中部・後部の影響が大きいと考えられた。