著者
櫻井 健司 日石 智紀
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1333, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】Elbow push test(以下EPT)は,原テストの11項目の1つで野球肩・肘障害の理学的評価として用いられ,陽性であるものは肩甲帯や体幹の機能不全として捉えられている。今回,EPTと肩関節屈曲のBreak test(以下BT)の肢位での前鋸筋と外腹斜筋の筋活動の違いを,表面筋電図(以下EMG)を用いて比較し検討した。【方法】対象は,運動器疾患を有しない健常男性12名の右上肢である。平均年齢は28.6歳であった。被験筋は,前鋸筋中部線維,下部線維,外腹斜筋としEMGを記録した。測定肢位は,原テストのEPTの方法に準じ,被験者は両足底を床から離した端座位にて,肩・肘関節屈曲90°とした。検者は肘頭部に抵抗を加え3秒間保持した。BTには徒手筋力検査の方法に準じ,被験者は端座位にて肩関節屈曲130°,肘関節伸展位にて上腕部に抵抗を加え3秒間保持した。EMG導出は多チャンネルテレメーターシステム(WEB-1000,日本光電社製)を用いた。双極導出法で,電極間10mm,筋電図周波数帯域30~500Hzとして,筋活動電位をサンプリング周波数1000Hzで記録した。EMGよりRMS値を算出し,肩関節屈曲130°保持した肢位でのRMS値を1として両テストの測定値を正規化し,%RMSとして表した。統計学的検定には,Wilcoxonの検定,Speramanの順位相関係数を用いた。【結果】外腹斜筋の%RMSは,EPTが9.41,BTが2.15でありEPTにて有意に高かった。前鋸筋下部線維では,EPTが1.13,BTが5.08とBTが有意に高かった。前鋸筋中部線維は,EPT5.97,BT5.91と両テストに有意な差は認めなかった。前鋸筋中部線維,前鋸筋下部線維,外腹斜筋の間に有意な相関は認めなかった。【結論】伊藤らは,EPT時の筋活動では前鋸筋,外腹斜筋で高値であったが,前鋸筋と外腹斜筋の関係性は低かったと述べている。今回の結果からも前鋸筋と外腹斜筋に相関は認めなかった。EPTはBTと比べ,外腹斜筋の筋活動が高く,前鋸筋中部線維に差がなく,前鋸筋下部線維の筋活動が低かった。EPTは,前鋸筋中部線維の収縮により肩甲骨の肋骨面に固定するとともに,外腹斜筋によって体幹回旋作用するものと思われる。そのため,EPTはBTよりも体幹機能の影響が高かったものと考えられた。また五十嵐らは,前鋸筋の作用として中部線維は肩甲骨外転,下部線維は下角を外転・上方回旋に作用するとしている。EPTの評価では肩甲帯機能に加え外腹斜筋による体幹の影響を受けるが,BTにおいては,肩甲骨上方回旋機能の評価の可能性が示唆された。
著者
池澤 剛輔 宮内 博雄 薦田 昭宏 窪内 郁恵 澤田 純
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0453, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに】近年,腰痛患者における運動制御は健常者と異なることが明らかとなり,特に慢性症状を有する者では,多裂筋の筋活動の減弱や遅延が起こると報告されている。これに対し多裂筋を含めた腹腔周囲筋の促通として,McGillらのバードドッグや,体幹を頭尾側へ伸展させる課題(以下 軸伸展位)の有効性が報告されているが,先行研究では健常者を対象としたものが多く,姿勢別に軸伸展位における多裂筋の筋活動量を比較した報告は少ない。そこで今回,腰痛の有無および軸伸展位での運動課題が,各姿勢における多裂筋,脊柱起立筋の筋活動に与える影響について筋電図学的に検討した。【方法】対象は,3カ月以上腰痛が持続している腰痛群10名(男性10名,平均年齢28.1±6.7歳)と,腰痛を有さない健常群10名(男性10名,平均年齢27.6±5.9歳)の2群とした。筋活動の測定は表面筋電計(小沢医科器械製筋電計:EMGマスター)を用い,測定筋は右側の多裂筋(L5-S1棘突起外側),脊柱起立筋(L3棘突起外側)とした。測定姿勢は,端座位,四つ這い位,四つ這い位で左上肢と右下肢を挙上した姿勢(以下BD),BDにて左手関節部に体重の2.5%,右足関節部に5%重錘負荷した姿勢(以下BD+)の4条件とした。各姿勢で安静位,軸伸展位にて2回ずつ測定し,姿勢が安定した5秒間の筋活動量を記録した。データ処理は,波形が安定した3秒間の筋積分値を平均し,最大随意収縮(以下MVC)を100%として正規化して%MVCを求めた。また脊柱起立筋に対する多裂筋の筋活動を多裂筋/脊柱起立筋比(以下M/E比)として表した。検討項目は,各姿勢での安静位,軸伸展位における多裂筋と脊柱起立筋の各%MVCおよびM/E比の比較とした。統計処理はt検定,二元配置分散分析を用い,有意水準5%未満とした。【結果】姿勢別の比較では2群ともに,端座位,四つ這い位,BD,BD+の順に多裂筋,脊柱起立筋で有意に活動量が増加した。2群間における比較では,多裂筋は腰痛群で有意に低値を示し,脊柱起立筋は有意差を認めなかった。安静位・軸伸展位の比較では,多裂筋,脊柱起立筋,M/E比において,軸伸展位で筋活動量増加の傾向は認めたが有意差は認めなかった。【結論】先行研究では,腰痛患者において発症早期より多裂筋の機能不全が起こるとされており,本研究でも腰痛群で多裂筋が有意に低値を示したことから,腰痛群において選択的な多裂筋の機能不全が示唆された。姿勢別の比較では,運動負荷の増加に伴い多裂筋,脊柱起立筋の筋活動量が有意に高値を示した。このことから,特に腰痛患者に対しては,適切な運動負荷量の設定が重要と思われた。また軸伸展位での運動課題において筋活動量増加の傾向を示したことから,軸伸展位が体幹筋に対し量的効果をもたらす可能性が示唆された。今後は,軸伸展位が体幹筋に及ぼす質的効果の検討も必要と考える。
著者
渡邊 彩美 新田 收 松田 雅弘 櫻井 瑞紀
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0240, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腰痛は大多数の日本人が経験する最も多い症状の一つである。腰痛の既往があることは,腹横筋の筋活動低下による筋厚減少および表在筋の過剰な筋活動による筋厚増大と関連することが報告されている。内腹斜筋は体幹深部筋群に含まれ,インナーユニットとして体幹の安定性に寄与するとの報告がある。筋肉量の評価方法としてMRIのT2強調像を用いた方法が挙げられる。MRIの組織分解能は現在存在する検査機器の中で最も精度が高い。腰痛者において腹横筋の筋厚減少は報告されているが,表在および深部筋,筋断面積比についての検討はない。本研究の目的は,腰痛者における深部筋の筋断面積を健常者および表在筋と比較することである。【方法】対象は半年以上腰痛のない成人男性10名(27.6±3.7歳,168.4±4.9cm,58.8±5.8kg)を健常群(A群),疼痛誘発テストで陽性かつ半年に1回以上の頻度で右側に腰痛を生じる成人男性10名(26.1±3.8歳,169.5±5.3cm,61.0±9.0kg)を腰痛群(B群)とした。神経学的・整形外科的疾患を有する者,測定日に腰痛を有する者,心因性疼痛の要素がある者は除外した。測定項目は第3・4腰椎間高位水平断の左右の表在筋(外腹斜筋)と深部筋(腹横筋+内腹斜筋)の面積[mm2]とした。T2強調像はPhilips社製MRI(Achieva 3.0T Quasar-dual)を使用した。撮像肢位は両上肢拳上の背臥位とした。ImageJ(1.48v)を使用し筋断面積を計測した。統計解析は筋断面積を従属変数,腰痛経験の有無と表在筋か深部筋かの2要因を独立変数とした二元配置分散分析を行い,交互作用があった場合には単純主効果の検定をボンフェローニ法により行った。統計ソフトはIBM spss ver19を用い,本研究の有意水準は10%とした。【結果】ICC(1,3)の結果は0.971であり,高い信頼性を認めた。筋断面積[mm2]は右側では表在筋がA群1849.2±373.7,B群2324.5±790.3,深部筋がA群1825.1±526.4,B群1560.1±611.7で交互作用を認めた。単純主効果の検定ではB群の表在筋と深部筋間に有意差を認めた。左側では表在筋はA群2291.1±407.1,B群2458.7±594.5,深部筋はA群1776.9±520.0,B群1714.5±549.9で交互作用は認められなかった。【結論】腰痛群では疼痛部位と同側の表在筋と深部筋の筋断面積の差が健常群に比べて大きくなっていた。先行研究同様に表在筋の筋断面積増大と深部筋の筋断面積減少を認め,腰痛経験が表在筋の筋厚増大に関連していることが明らかとなり,内腹斜筋を含めた深部筋の筋厚減少が示唆された。
著者
小串 直也 中川 佳久 宮田 信彦 羽崎 完
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0712, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】高齢者の多くは加齢に伴い特有の不良姿勢をとり,その中でも頭部前方突出姿勢は臨床において頻繁に観察される。頭頸部は嚥下機能と強く関係していることから,頭部前方突出姿勢は嚥下機能に影響を与えると考える。また,嚥下時の食塊移送には舌の運動が重要であり,舌筋力の低下は嚥下障害の原因のひとつである。しかし,高齢者の頭部前方突出姿勢が舌筋力に与える影響についての報告はない。そこで,本研究は高齢者の頭部前方突出姿勢が舌筋力に与える影響について検討した。【方法】対象はデイサービスを利用している神経疾患の既往のない虚弱高齢者16名(平均年齢85.6±7.7歳)とした。使用機器は舌筋力計(竹井機器工業株式会社製)と舌圧子(メディポートホック有限会社製)を用いた。測定は舌突出力と舌挙上力の2項目とし,各2回ずつ測定した。舌突出力の測定は口唇に舌圧子を当て,舌を最大の力で突き出させた。舌挙上力の測定はまず被験者に開口させ,口腔内で舌圧子を固定し,舌を最大の力で押し上げさせた。また,被験者の第7頸椎棘突起にマーカーを貼り付け,測定中の頭頸部をデジタルビデオカメラ(SONY社製)により撮影した。その後,Image Jにて第7頸椎棘突起を通る床との水平線と第7頸椎棘突起と耳珠中央を結んだ線のなす角を計測し,舌突出力測定中および舌挙上力測定中の頭蓋脊椎角(以下CV角)を算出した。測定肢位は端座位とし,頭部をアゴ台(竹井機器工業株式会社製)に固定した。分析は各々2回の平均値を代表値とし,舌筋力とCV角の関係を明らかにするために,Spearmanの順位相関係数を求めた。【結果】舌突出力は平均値0.23±0.10kg,舌突出力測定中のCV角は平均値29.50±5.79°となり,相関係数R=0.70で有意な正の相関を認めた(p<0.01)。舌挙上力は平均値0.22±0.09kg,舌挙上力測定中のCV角は平均値29.57±5.74°となり,相関係数R=0.72で有意な正の相関を認めた(p<0.01)。【結論】今回,高齢者の舌筋力とCV角の間に有意な正の相関を認めた(p<0.01)。このことから,高齢者の舌筋力と頭部前方突出姿勢は関係していることが明らかになった。舌筋力の低下は嚥下障害における原因のひとつであり,実際に嚥下障害患者に対して舌負荷運動が実施される。また,舌と姿勢の関係について頸部の屈伸や回旋が舌運動や舌圧に与える影響については報告されてきた。しかし,高齢者の頭部前方突出姿勢と舌筋力の関係については報告されていなかった。CV角は頭部前方突出の程度を表現しており,加齢とともに小さくなる。頸椎の過剰な前彎を伴う頭部前方突出姿勢では舌骨下筋群が伸張され,舌骨を下方に引くと考える。舌骨には舌筋の一つである舌骨舌筋が付着しており,舌骨の下方偏位は舌の運動を阻害するため,舌筋力とCV角の間に有意な相関を認めたと考える。したがって,舌筋力の向上には姿勢の改善が必要であると考える。
著者
星 翔哉 佐藤 成登志 北村 拓也 郷津 良太 金子 千恵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0076, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】加齢に伴い筋内脂肪は増加するとされている。高齢者における筋内脂肪は,身体機能と負の相関を示すと報告があることからも,わが国の高齢化社会において,体幹筋の筋内脂肪を把握することは重要であると考えられる。また,体幹筋の筋量低下は高齢者のADL低下の大きな要因であると報告もある。このことから,体幹筋の評価において,量と質を併せて検討することが必要であると考えられる。近年,筋内脂肪の評価方法として,超音波エコー輝度(以下,筋輝度)が用いられており,脂肪組織と筋輝度との関連性も報告されている。しかし,加齢による筋厚と筋輝度の変化に着目した報告の多くは,四肢筋を対象としており,体幹筋についての報告は少ない。本研究の目的は,健康な成人女性を対象に,若年者と高齢者における体幹筋の筋厚および筋輝度を比較し,加齢による量と質の変化を明らかにすることを目的とした。【方法】対象者は,健常若年女性(以下,若年群)10名(年齢20.6±0.7歳,身長159.9±5.4cm,体重51.4±4.8kg,BMI20.1±1.5)と,健常高齢女性(以下,高齢群)10名(年齢68.6±3.9歳,身長152.6±8.1cm,体重51.2±3.9kg,BMI22.4±1.7)とした。使用機器は超音波診断装置(東芝メディカルシステムズ株式会社)を使用した。測定肢位は腹臥位および背臥位。測定筋は,左右の外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋,多裂筋,大腰筋とした。得られた画像から各筋の筋厚を測定し,画像処理ソフト(Image J)を使用して筋輝度を算出した。なお筋厚は量,筋輝度は質の指標とした。得られたデータに統計学的解析を行い,有意水準は5%とした。また筋厚および筋輝度の信頼性は,級内相関係数(以下,ICC)を用いて,検者内信頼性を確認した。【結果】ICCの結果,筋厚と筋輝度は0.81以上の高い信頼性を得た。筋厚における若年群と高齢群の比較では,左右ともに外腹斜筋,内腹斜筋,大腰筋で高齢群が有意に小さく(p<0.05),腹横筋,多裂筋は有意な差は認めなかった。筋輝度においては,左右ともに外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋,多裂筋,大腰筋で高齢群が有意に高かった(p<0.05)。【結論】本研究の結果より,外腹斜筋,内腹斜筋,大腰筋は加齢に伴い筋厚は低下し,筋輝度が高かった。一方,腹横筋と多裂筋では,筋輝度は高くなるが,筋厚の低下は生じていなかった。すなわち体幹筋においては,加齢に伴い,筋厚が低下するだけではなく,筋内脂肪や結合組織の増加といった筋の組織的変化も生じていることが明らかになった。しかし,体幹深部に位置し,姿勢保持に関与している腹横筋と多裂筋は,加齢により筋厚の低下が起こりにくいと考えられる。以上のことから,加齢に伴い外腹斜筋,内腹斜筋,大腰筋は量と質がともに低下するが,腹横筋と多裂筋は質のみが低下し,量の変化は生じにくいことが示唆された。
著者
坂本 淳哉 真鍋 義孝 弦本 敏行 本田 祐一郎 片岡 英樹 中野 治郎 沖田 実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0517, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】股関節疾患患者では患部を起源とした関連痛が膝関節前面にみられることが多く,その発生機序の仮説の一つとして二分軸索感覚ニューロンの関与が考えられているが,この点に関する解剖学的な根拠はこれまでに十分に示されていない。一般に,股関節および膝関節前面の知覚は大腿神経ならびに閉鎖神経から分岐する関節枝が支配するとされているが,これらの関節枝の分布状況を同時に検討した報告はこれまでになく,前述したような関連痛の発生機序を明らかにするためには股関節枝と膝関節枝の分布状況を同時に検討する必要がある。そこで,本研究では日本人遺体における大腿神経ならびに閉鎖神経から分岐する股関節枝および膝関節枝の分布状況について検討した。【方法】対象は平成24年度ならびに平成26年度に所属大学の歯学部人体解剖学実習に供された日本人遺体9体9肢(男性5体,女性4体,右側1肢,左側8肢)で,各遺体における大腿神経および閉鎖神経から分岐する股関節枝と膝関節枝を剖出・観察した。なお,観察は所属大学内の定められた解剖学実習室でのみ行い,実習室の管理者の管理・指導のもと,礼意を失わないように実施した。【結果】大腿神経から分岐する股関節枝には①恥骨筋枝から分岐して前内側に達する枝(4肢,44.4%),②腸骨筋枝から分岐して前外側に達する枝(3肢,33.3%)が認められ,閉鎖神経から分岐する股関節枝には①前枝から分岐して股関節前内側に達する枝(3肢,33.3%),②後枝から分岐して股関節前内側に達する枝(2肢,22.2%)が認められた。一方,大腿神経から分岐する膝関節枝には①内転筋管内を下行した後に膝蓋骨内側に達する枝(2肢,22.2%),②内側広筋枝から分岐して膝蓋骨内側に達する枝(5肢,55.6%),③膝関節筋枝から分岐して膝蓋上包に達する枝(6肢,66.7%),④外側広筋枝から分岐して膝蓋骨外側に達する枝(1肢,11.1%)が認められた。また,閉鎖神経から分岐する膝関節枝は前枝から分岐して伏在神経と併走して膝蓋骨下内方に達する枝(1肢,11.1%)が認められた。加えて,各遺体における分布状況を検討したところ,大腿神経の恥骨筋枝から分岐して股関節前内側に達する枝と内側広筋を貫通して膝関節前内側に達する枝を同時にもつ所見が3体で認められた。【結論】以上の結果から,股関節および膝関節の前面は主に大腿神経から分岐する関節枝により支配されることが明らかになった。そして,先行研究を参考にすると,股関節および膝関節の前内側を大腿神経が同時に支配している所見は両関節を支配する二分軸索感覚ニューロンの存在を示す肉眼解剖学的所見とも考えられ,股関節を起源とした膝関節の痛みの発生に関与している可能性が推察される。
著者
上江田 勇介 松木 明好 澳 昴佑 森 信彦 野村 翔平 田中 宏明 奥野 浩司郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0586, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】Gaze Stabilization Exercises(GSE)は,立位で眼前のターゲットを注視しながら頭部運動を行い,眼球を頭部と逆方向,かつ同速度で動かす前庭眼反射を誘発するバランス練習である(Bhardwaj, et al., 2014)。このGSEによって,一側前庭機能障害によるバランス障害が改善する(Richard, et al., 2010)と報告されているが,前庭機能自体が改善することでバランスが改善しているのか,体性感覚や視覚の姿勢制御への貢献度が向上して改善するのかは明らかではない。そこで,GSE前後の立位重心動揺総軌跡長,および視覚,前庭覚,足底感覚の立位時感覚貢献度指数(Stephen, et al., 1994)を比較することで,GSEによって姿勢制御における前庭覚の機能に変化が生じるかを検討した。【方法】対象は健常成人12名(男性9名,女性3名,平均年齢22.5±1歳)とした。GSEは,立位にて1m先のターゲットを注視させたまま1Hzのビープ音に合わせて頭部を左右に回旋させる運動を1分3セット実施させる課題とした。頭頚部の左右回旋角度はターゲットを注視できる最大の角度とした。GSE前,直後,10分後(Pre,Post,Post10m)に,(A)開眼閉脚立位,(B)閉眼閉脚立位,(C)フォームラバー上で開眼閉脚立位,(D)フォームラバー上で閉眼閉脚立位の4条件の足圧中心移動総軌跡長を,各30秒ずつ記録した。前庭系機能の姿勢制御条件であるDの足圧中心移動総軌跡長を算出し,Pre,Post,Post10mで比較した。A,B,C,D時の足圧中心総軌跡長をそれぞれa,b,c,dとおき,X={(b-a)/b},Y={(c-a)/c},Z=a/dを算出し,視覚貢献度指数=X/(X+Y+X),足底感覚貢献度指数=Y/(X+Y+Z),前庭覚貢献度指数=Z/(X+Y+Z)を算出し,比較した。統計にはKruskal-Wallis検定,およびPre条件を対照群としてShirley-Williams検定を行った(α=0.05)。【結果】Pre,Post,Post10mにおける条件Dの足圧中心総軌跡長の中央値(第一四分位点)は130.8(114)cm,129.1(119.2)cm,120(110)cmであり,群間に有意差は認められなかった。Preに対するPost,Post10mの視覚貢献度指数は1.07(0.95),0.9(0.75),足底感覚貢献度指数は0.93(0.8),0.93(0.76),前庭覚貢献度は1.15(1.09),1.44(1.17)であった。Kruskal-Wallis検定の結果,前庭覚貢献度のみ群間に差を認め,Shirley-Williams検定によって,Preに対して,Post,Post10mが有意に高い数値であることが示された。【結論】前庭機能のバランス機能を観察するD条件の足圧中心軌跡長は群間で有意差を認めなかった。これは3分間のGSEは,前庭系の姿勢制御機能自体を有意に高めることはできないことを示す。しかし,各貢献度において,前庭覚のみが増加を示した。このことは,視覚,足底感覚,前庭覚の中で前庭覚の姿勢制御への寄与を一時的に高めることができる可能性を示唆した。この方法は,Sensory weightingの異常を有する高齢者や脳血管障害患者のバランス練習として有効かもしれない。
著者
中村 翔 小林 一希 颯田 季央 工藤 慎太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0152, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】外側広筋(VL)は膝関節の主要な伸展筋であり,さらに内側広筋と共同して膝蓋骨の安定性に寄与している。しかし,臨床で遭遇するVLの過緊張は内側広筋とのアンバランスを引き起こし,膝蓋骨の正常な運動を阻害する。そして膝蓋大腿関節症といった膝周囲の疼痛を引き起こす原因となるため,膝蓋大腿関節の機能改善のためには,VLに対する治療が重要となる。我々は先行研究において超音波画像診断装置を用いて膝関節屈曲運動時のVLの動態を観察した結果,膝屈曲運動時にVLは後内側に変位することを報告した(中村2015)。そしてEly test陽性例に対して,VLの動態を考慮した運動療法を行った結果,VLの動態の改善や筋硬度の減少といった結果が得られたことを報告した(中村2015)。しかし,我々が考案した運動療法と従来から行われているストレッチングの効果について比較をしていない。そこで今回は両介入における即時効果の比較検討をしたので報告する。【方法】対象はEly testが陽性であった成人男性20名40肢とした。対象を無作為にVLの動態を考慮した運動療法を行う群(MT群)とストレッチングを施行する群(ST群)の2群に振り分けた。MT群は膝関節自動屈曲運動に伴い,VLを徒手的に後内側に誘導する運動療法を行った。回数は10回を1セットとし,3セット行った。ST群は他動的に最終域まで膝関節を屈曲するストレッチングを行った。回数は30秒を1セットとし,3セット行った。測定項目は膝関節屈曲運動時のVL変位量(VL変位量)と筋硬度を介入前後に測定した。VL変位量は超音波画像診断装置を用いて,Bモード,リニアプローブにて,膝関節自動屈曲運動時のVLの動態を撮影した。そして,得られた動画を静止画に分割し,膝関節伸展位と屈曲90度の画像を抜き出し,VLの移動した距離をImage-Jを使用して測定した。筋硬度は背臥位,膝伸展位で筋硬度計を用いて,大腿中央外側にて測定した。統計学的処理にはR2.8.1を使用し,介入前後の比較にはWilcoxonの符号付順位検定を行い,群間の比較にはMann-Whitney検定を行った。いずれも有意水準は5%未満とした。【結果】介入前の両群間の各変数に有意差は認めなかった。介入前のVL変位量は,MT群8.3mm(7.5-9.7),ST群8.7mm(8.1-10.2),介入後はMT群12.5mm(11.7-13.5),ST群11.9mm(11.1-13.4)であり,両群とも介入前後で有意差を認めた(p<0.05)。介入前の筋硬度は,MT群1.5N(1.5-1.6),ST群1.5N(1.4-1.5),介入後はMT群1.4N(1.4-1.5),ST群1.5N(1.4-1.5)であり,両群とも介入前後で有意差を認めた(p<0.05)。介入後の両群間の比較では,VL変位量,筋硬度ともに有意差を認めた(p<0.05)。【結論】筋の動態を考慮した運動療法はストレッチングと比較して,膝関節屈曲運動時の筋の動態および筋硬度が改善したことより,本法は短軸方向への筋の柔軟性改善に有効な手段であることが明らかとなった。
著者
田中 直樹 我妻 浩二 榊原 加奈 村上 純一 石渕 重充 村本 勇貴 岡田 尚之 岩本 航
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1323, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】野球は,本邦における競技人口が約810万人とされ,幅広い年代で行われている。学童期や高校野球選手に対する研究報告は多いが,中・高年期の野球傷害に関する報告はほとんどみられない。今回我々は,中・高年期以上で構成される1チームについて傷害調査を行う機会を得た。そこで本研究は中・高年期野球選手における傷害発生件数と程度を調査すること,および野球経験年数,野球ブランク年数と投球障害の関係を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,東京都還暦軟式野球連盟所属の野球選手23名(平均年齢67.4±5.6歳)とし,調査は配票による自記式アンケートとした。調査項目は,①「野球経験年数(トータル年数,野球のブランク年数)」,②「野球に起因する傷害」,③「②の野球への支障度合い(VAS)」,④「野球以外に起因する傷害・疾患」,⑤「④の野球への支障度合い(VAS)」,⑥「現在野球を行う理由に関する自由記載」の6項目とした。また,アンケート調査項目④で肩肘痛を有していると回答した13名の「野球における支障度合い」と「経験年数」,「野球のブランク」との関係をpearsonの積率相関係数を用い検討した。統計解析は統計ソフトR ver.2.13.0を用い,有意水準は5%とした。【結果】①野球経験トータル年数は平均36.1±19.5年(±標準偏差)であった。野球経験者のうち現在野球を行うまでのブランク年数は平均25.2±14.5年(±標準偏差)であった。②野球に起因する傷害は合計18/23名で,肩・肘合計13件,腰痛3件,下肢障害3件,外傷では慢性硬膜下血腫1件,手指骨折1件であった。③野球に起因する傷害による野球への支障度合いは平均14.4±12.7mm(±標準偏差)であった。④野球に起因しない傷害・疾患を有すものは合計12/23名で腰痛3件,膝痛2件,喘息2件,痛風1件,前立腺疾患2件,心房細動1件,その他3件であった。⑤野球に起因しない傷害や疾患の野球への支障度合いは平均11.0±9.6mm(±標準偏差)であった。⑥現在野球を行う理由については,生きがいが5件,ストレス発散が5件,健康のためが4件であり,その他は仲間意識,社会交流等の回答があった。「野球経験年数」および「野球のブランク年数」と「肩肘痛による野球への支障度合い」との関係はそれぞれr=0.65(p<0.05),r=0.69(p<0.05)と正の相関を認めた。【結論】野球に起因する傷害は18/23名(78%)が有し,肩肘痛においては,野球経験年数,野球ブランク年数と野球への支障度合いについて正の相関を認め,今後身体機能との関係を明らかにする必要性がある。野球に起因しない傷害・疾患は12/23名(52%)が有し,年代を考慮した参加基準の指標や疾患の重症度の把握が必要であると考えられる。
著者
柊 幸伸 加藤 宗規
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0572, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】膝関節屈曲伸展に伴う膝関節の回旋運動は終末強制回旋運動(SHM)として知られている。SHMは水平面上の小さな動きであり,先行研究には,X線,MRI,CT等を用いた詳細な計測研究もあるが,その対象は屍体下肢標本や模型モデル,動作の一部を再現した生体の静止姿勢であることが多い。動作中の膝関節の回旋運動を計測した先行研究には,3次元動作解析装置や,X線による2方向イメージマッチング法を利用したもの等がある。しかし,これら先行研究でも,下肢に荷重のかからない開放性運動連鎖(OKC)の環境での計測がほとんどであり,下肢に荷重がかかり末端が固定された閉鎖性運動連鎖(CKC)の環境で膝関節の回旋を計測したものは少ない。動作時のSHMの存在の有無とその程度は,膝関節軟骨への負荷や前十字靱帯をはじめとする膝関節周囲の靱帯への負担を考慮する上で非常に重要な要素となる。そこで本研究の目的は,OKCとCKCの異なる環境下で,膝関節屈曲伸展に伴う回旋運動を計測し,SHMの存在を確認し,その特性を明らかにすることとした。【方法】被験者は,理学療法士養成大学学生43名(男性32名,女性11名)であった。計測にはモーションセンサを2セット使用し,左下肢の腓骨小頭下部,および大腿骨外側上顆上部のそれぞれ矢状面上に固定した。OKC環境下では,足底を浮かせた端座位姿勢で,膝関節伸展および屈曲運動を計測した。CKC環境下では,端座位姿勢から立位姿勢,および立位姿勢から着座し端座位姿勢となるまでの動作を計測した。計測した角速度データを積分し,動作中の角度変化を算出した。【結果】OKC環境下での膝関節伸展時,大腿に対する下腿の相対的な回旋運動は外旋運動であり,その最終肢位の外旋角度は15.16±7.85度であった。CKC環境下では,6名の被験者を除き内旋運動を伴い,その最終肢位の内旋角度は12.15±6.54度であった。外旋運動を伴った6名の外旋角度は5.74±4.20度であった。OKC環境下での膝関節屈曲時,大腿に対する下腿の相対的な回旋運動は内旋運動であり,その最終肢位の内旋角度は13.26±8.04度であった。CKC環境下では,5名の被験者を除き外旋運動を伴い,その最終肢位の外旋角度は12.54±7.34度であった。内旋運動を伴った5名の内旋角度は6.79±5.86度であった。OKCとCKCの異なる環境における膝関節屈曲・伸展に伴う外旋・内旋角度には有意な差を認めた。【結論】SHMはOKC環境のみで認められる現象であり,CKC環境下では逆の運動となることが分かった。このことは,膝の靱帯損傷後の理学療法においては,注意を要する基礎データとなると考えた。たとえば,CKC環境下での膝関節伸展は,相対的な内旋運動を伴い,前十字靱帯へのストレスが増加する可能性があることが理解できる。このように,本研究の結果は,従来のSHMの定義と異なる点や,付加すべき情報を含み,臨床への貴重なエビデンスになると考えた。
著者
相馬 正之 村田 伸 甲斐 義浩 中江 秀幸 佐藤 洋介 村田 潤 宮崎 純弥
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0706, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】足趾把持力発揮に影響を及ぼす因子として,体重,足部柔軟性と足部アーチ高率の3つの因子を明らかになっている(村田ら 2003)。近年,新たに足趾把持力発揮に関連する諸因子が報告されていることから,再度,それらの因子を含めた上で,検証が必要と考えられる。本研究では,若年者の足趾把持力発揮に影響を及ぼす因子を明らかにするため,過去に足趾把持力に関連すると報告された項目を中心に測定し,各因子と足趾把持力との関連を検討した。【方法】対象は,健常成人女性12名(平均年齢21.2±0.4歳,身長159.6±3.7cm,体重51.5±4.8kg)とした。測定項目は,足趾把持力と足趾把持力発揮時の足関節角度,大腿直筋と大腿二頭筋,前脛骨筋,腓腹筋内側頭の筋活動量,足部柔軟性,足部アーチ高率,体重とした。統計処理は,足趾把持力と他の測定値との関係について,ピアソンの相関係数を用いて検討した。さらに,足趾把持力に影響を及ぼす因子を抽出するため,従属変数を足趾把持力とした重回帰分析のステップワイズ法(変数減少法)を行った。【結果】得られた測定値は,足趾把持力が15.9±4.3kg,足部柔軟性が2.9±0.8cm,足部アーチ高率が19.9cm,足関節背屈角度が2.9±0.8°であった。また,%IEMGは,大腿四頭筋が3.1±1.6%,大腿二頭筋が31.9±20.8%,前脛骨筋が35.3±19.3%,腓腹筋内側頭が50.9±19.2%であった。足趾把持力と有意な相関を示したのは,相関係数が高い順に,足部アーチ高率(r=0.69),前脛骨筋の%IEMG(r=0.67),足部柔軟性(r=0.66),腓腹筋内側頭の%IEMG(r=0.61),足関節背屈角度(r=0.60)であった。ステップワイズ重回帰分析の結果,足趾把持力に影響を及ぼす因子として抽出された項目は,足部アーチ高率および前脛骨筋の%IEMGの2項目であり,標準偏回帰係数は順に0.54(p<0.01),0.51(p<0.01)であった。【結論】本研究における単相関分析の結果,足趾把持力と足部柔軟性,足部アーチ高率,足関節背屈角度および前脛骨筋,腓腹筋内側頭の%IEMGの5項目と有意な相関が認められた。この5項目は,先行研究においても相関が認められており,本結果では,これを追認した。重回帰分析によって,足趾把持力に独立して影響を及ぼす因子として抽出されたのは,足部アーチ高率と前脛骨筋の%IEMGの2項目であり,足部アーチ高率とが高いほど,前脛骨筋の%IEMGが大きいほどに足趾把持力が強いことが確認された。足部アーチ高率は,内側縦アーチの指標として用いられることが多く,内側縦アーチは,骨や靭帯,前脛骨筋,後脛骨筋,長母指屈筋,長指屈筋,母指外転筋の筋群より構成される。これらの筋群には,足趾把持力の主動作筋である長母指屈筋,長指屈筋,足趾把持力発揮時に重要な前脛骨筋が含まれる。これらの知見から,足部アーチと足趾把持力は,密接な関係にあり,相互的に作用していることが示された。
著者
田村 正樹 中 優希 久保 有紀 渕上 健
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1149, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】複視とは,脳血管障害などが原因で物体が二重に見える症状である。物体の見えにくさから日常生活動作(以下,ADL)に支障をきたすが,具体的なリハビリテーション介入に関する知見は少ない。今回,複視を呈した症例に対して,自動車運転の獲得を目標にレーザーポインターやミラーを用いた眼球運動課題を考案し介入したことで退院後に目標達成に至ったため,報告する。【方法】症例は59歳,男性。診断名はクモ膜下出血と右視床梗塞。発症2週後の眼科受診で右外転神経麻痺と診断された。発症4週目に当院入院となり,入院当初から運動麻痺や感覚障害は認められず,ADLは歩行で自立していた。その他の所見として,Berg Balance Scaleは56/56点,Mini Mental State Examinationは30/30点,Trail Making TestはPart-A36秒,Part-B81秒であった。職業は内装業であり,復職と自動車運転の獲得を希望されていた。発症9週目で内装業に必要な動作が獲得できたため,眼球運動課題を開始した。このときの眼球運動所見は,peripersonal spaceの物体を正中から右側に20cm以上,左側に30cm以上追視した際に複視が出現し,10分程度で眼精疲労が確認された。さらに,personal spaceからextrapersonal spaceへの切り替えを多方向に行うと,複視により3分程度で気分不良が確認された。複視は右側のextrapersonal spaceへの追視の際に著明であった。眼球運動課題はレーザーポインターを用いたポインティング課題,ミラーを用いた識別課題を方向や距離,速度,実施時間を考慮して行った。レーザーポインターを用いたポインティング課題では前方と側方の安全確認と信号の認識を想定し,頭頸部回旋運動を取り入れてレーザーの照射部位を追視するように教示して実施した。ミラーを用いた識別課題ではバックミラーとサイドミラーに映った自動車の認識を想定し,各3方向のミラーに映った対象の詳細や距離について正答を尋ねた。【結果】発症11週後には,peripersonal spaceにある物体の追視では正中から左右ともに35cmまで複視が出現せず可能となった。peripersonal spaceでの眼球運動は40分程度,personal spaceからextrapersonal spaceへの切り替えを多方向に行う眼球運動では30分程度問題なく行えるようになった。発症12週目に自宅退院となり,最終的には自動車運転の獲得に至った。【結論】本症例は右外転神経麻痺による両眼球の共同運動障害により複視が生じていた。personal spaceからextrapersonal spaceへの切り替えを多方向に行うレーザーポインターやミラーを用いた眼球運動課題を組み合わせることにより,複視の改善に至ったと考える。
著者
笠野 由布子 三上 章允
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0079, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに】変形性膝関節症の発症と進行には,肥満や年齢,職業や栄養の他,下肢のアライメントや筋力等の要因も関与していると考えられている。特に足部や足関節のアライメントは膝関節や股関節に運動学的な代償の連鎖を引き起こし,関節症発症に関与する可能性がある。我々は第49,50回大会において内側縦アーチ高率,外反母趾角と歩行時下肢関節モーメントの相関関係等を解析し,外反母趾角が大きい人ほど歩行時の下肢関節モーメントは低下する歩行様式をとることを報告した。本研究の目的は,横アーチの低下いわゆる開帳足が歩行時の下肢関節モーメントに与える影響を検討することである。【方法】対象は若年健常女性23名(平均年齢21.1±1.6歳)とした。開帳足の指標として足長(mm)に対する足幅(mm)の占める割合によって横アーチ長率(%)を算出した。足幅は荷重立位時の第1趾側中足点と第5趾中足点間の距離,足長は荷重立位時の最も長い足趾先端から踵先端までの距離とし,人体測定器を用いて計測した。歩行解析は,三次元動作解析装置(ANIMA,WA-3000)と床反力計(ANIMA,MG-1090)を用い,被験者任意の歩行速度による裸足歩行を計測した。貼付する反射マーカーは,左右の上前腸骨棘,大転子,大腿骨外側顆,外果,第5中足骨指節間関節の10点とした。得られた床反力垂直成分のデータから,立脚期の2つのピークを第1ピーク,第2ピークと規定し,解析区間を1)全立脚期:踵接地~足趾離地,2)第1期:踵接地~第1ピーク,3)第2期:第1ピーク~第2ピーク,4)第3期:第2ピーク~足趾離地の周期に分類し各区間における平均関節モーメントを算出した。関節モーメントは,三次元解析システムから得られた三平面(矢状面,前額面,水平面)におけるモーメントと総合モーメントを用いた。解析は横アーチ長率と各関節モーメントの相関関係についてPearsonの相関係数を用いて検討した(p<0.05)。【結果】全立脚期および全ての区間で股関節屈曲伸展モーメントは横アーチ長率と負の相関関係をみとめた。また,全立脚期,第1,2期において横アーチ長率が高値であるほど膝関節外反モーメントと総合モーメントが高い値を示した。また,横アーチ長率が高値であるほど,全立脚期,第1,3期の股関節外転モーメントと,全立脚期,第3期の股関節総合モーメントが高い値を示した。その他足関節および膝関節矢状面,水平面,股関節水平面のモーメントに有意な相関関係をみとめなかった。なお,関節モーメントは内部モーメントとして表記している。【結論】横アーチの低い人,つまり開帳足の傾向のある人では,外反母趾における研究と同様に立脚期の矢状面における股関節モーメントを減少させる歩行戦略が用いられていた。しかし,開帳足による影響はそれだけでなく,立脚初期から中期にかけての膝関節内反ストレスと立脚初期と終期の股関節内転ストレスの増大を引き起こしていた。
著者
水上 優 建内 宏重 近藤 勇太 坪山 直生 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0088, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腸腰筋は股関節屈曲の主動作筋であり,股関節疾患をもつ患者においてその機能改善は重要である。従来,腸腰筋は侵襲的な方法でしか測定できないとされ,その作用に関する報告は限られていたが,近年,表面筋電図での測定が可能であるとの報告がされた。本研究の目的は,股関節の運動方向が腸腰筋を含む股関節屈筋の筋活動に与える影響を筋電図学的に分析し,腸腰筋の筋作用と他の股関節屈筋と比べ選択的に活動する運動方向を明らかにすることである。【方法】対象者は健常男性20名(年齢22.7±2.6歳)とした。課題は背臥位での等尺性股関節屈曲運動とし,基本肢位は両膝より遠位をベッドから下垂した背臥位で,股関節以遠を10°傾斜させ股関節伸展10°とした。測定筋は利き足の腸腰筋(IL),大腿直筋(RF),大腿筋膜張筋(TFL),縫工筋(SA),長内転筋(AL)の5筋とした。ILの電極貼付部位は鼠径靭帯の遠位3cmとし,超音波画像診断装置(フクダ電子製)で筋腹の位置を確認し電極を貼付した(電極間距離12mm)。筋活動の測定は筋電図計測装置(Noraxon社製)を用いた。各筋の最大筋活動を測定した後,各課題での測定を無作為な順序で行った。課題は,股関節屈曲0°,内外転・内外旋中間位での保持(屈曲),同肢位で大腿遠位に内側または外側から負荷を加えた状態での保持(各屈曲・外転,屈曲・内転),同肢位で下腿遠位に内側または外側から負荷を加えた状態での保持(各屈曲・外旋,屈曲・内旋)の計5種類とした。負荷には伸長量を予め規定した(3kg)セラバンドを用いた。各筋とも各課題中の3秒間の筋活動を記録した。ILの3試行の平均筋活動を最大筋活動で正規化した値(%MVC)と,ILの%MVCを5筋の%MVCの総和で除した筋活動比にILの%MVCを乗じた値を選択的筋活動指数と定義し,解析に用いた。統計解析には,一元配置分散分析およびBonferroni法を用い,ILの5種類の運動時の筋活動と選択的筋活動指数を比較した(有意確率5%)。【結果】ILの筋活動は,屈曲・外転(21.6:%MVC)が他のどの運動よりも有意に大きく,屈曲(18.6)は屈曲・内転(14.9)よりも有意に大きかった。屈曲・内転,屈曲・外旋(15.9),屈曲・内旋(16.1)の間には有意差が無かった。選択的筋活動指数は,屈曲・外転(7.9)が,屈曲(6.5)を除く全ての運動で有意に高かった。屈曲は屈曲・内転(4.3),屈曲・内旋(3.8)よりも有意に高かった。屈曲・内転,屈曲・外旋(4.8),屈曲・内旋の間には有意差は無かった。【結論】本研究の結果,ILは屈曲・外転で他の運動方向よりも有意に筋活動が大きくなり,また屈曲・外転や屈曲が他の運動方向よりも選択的に筋力発揮しやすい傾向を示した。本研究結果は,腸腰筋の選択的な運動を行う際に有用な知見であると考えられる。
著者
小林 憲人 清家 庸佑
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1530, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腰痛は,看護・介護職員の業務上疾病の最大の発生率として問題視されている。業種別での統計では保健衛生業における割合として78.5%と最も高率であると報告されている。職業性腰痛に関する報告は多く,発生要因として身体的要因のみでなく心理社会的要因の関与が指摘され多面的な解析が行われている。慢性腰痛に対するエビデンスレベルが高く推奨されている治療の1つに認知行動療法(Cognitive behavioral therapy:CBT)が挙げられている。今回,CBTの中でも,体験に対してある特定の方法で注意を向けることで現れる気づきに特徴を持つマインドフルネス認知療法(Mindfulness-Based Cognitive Therapy:MBCT)は,痛みに対してのエビデンスも証明されており,他方面で注目されている。そこで本研究では,職業性腰痛のある職員に対しMBCTが痛みを軽減できるのか。痛みの効果量について検討した。また,職業性腰痛に対する心理社会的要因についての検討を通して今後の理学療法への還元について検討する。【方法】対象は,A病院に勤務する職員98名中,痛みの主観的評価において痛みの自覚を認めた者で研究に同意しMBCTに参加した20代から60代の職員40名(全体の約40%)。MBCTは,所要時間60分,定員を10名とし,MBCTプログラムは臨床心理士と作成し実施した。評価項目は,痛み(Numeric rating Scale:NRS),腰痛歴,心理社会評価として不安・抑うつ尺度(hospital anxiety and depression scale:HADS)を調査した。MBCT実施前後の痛みの比較,痛みと心理社会的要因との関係について調査した。統計学的処理は,MBCT実施前後の痛みの比較にウィルコクソン符号付順序和検定を,不安・抑うつにおいて実施前後の比較にt検定を行った。いずれも危険率5%未満を有意水準とした。また,MBCT実施前後の痛みと不安・抑うつの効果量を算出した。【結果】MBCT実施前後では,NRS(2.91±1.83)→(1.76±1.64),HADSの不安(7.4±3.9)→(4.6±2.8),抑うつ(7.8±3.3)→(7.1±3.5)と有意に改善を認めた。(p<0.05)。また,効果量においてはNRS(r値:0.69)とHADS(r値:0.68)。【結論】本研究の結果より,職業性腰痛者においてMBCTが痛みの軽減・不安と抑うつに対しても有効であることが示唆された。また,その効果量についても大きな効果を認めた。一方で,今回の研究からは即時効果のみの検証となっており今後,痛みの軽減が持続するのかを検討する必要がある。本研究より理学療法士による職業性腰痛者に対しての理学療法評価は,身体的評価および心理社会的要因を含めた包括的評価を含める必要性が考えられる。また,介入においても心理社会的要因の必要性が示唆された。
著者
田中 直美 牛膓 昌利 牛膓 真美 坂本 あづさ 稲田 美帆 河原 俊 長谷川 拓馬 持田 美香
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0836, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】車いす座位姿勢の評価・シーティングを行う際,骨盤を起こし,水平,前後傾中間位とし,その上に胸郭・頸部・頭部が位置すると考えられている。しかし超高齢者は座位保持能力の低下により,骨盤を起こした姿勢では重力に抗することができず,頭部にかかる重力ストレスにより頭部が前下方へ落ちこみ,臀部が前方へ滑りだす姿勢を取ることが多い。骨盤を起こした姿勢が本当に安定した座位姿勢となっているのか疑問に感じる。そこで,シーティングの新しい考え方である,骨盤の後傾をゆるしもたれることで身体の物体的な安定を図る,脳性麻痺児・者を中心とした理論及び技法のキャスパー・アプローチ(以下,CASPER)に基づき,車いすシーティングを実施し,超高齢者への有効性を検討した一症例について報告する。【方法】普通型車いすでの一般的な座位姿勢(以下,非介入)と三角クッションを使用しCASPERを実施した座位姿勢(以下,介入)の二者間で開始座位姿勢,座位保持可能時間(バイタル変動をアンダーソンの基準に基づき終了),姿勢変化の3項目を比較した。対象は98歳認知症女性。コミュニケーション困難。介入当初BIは0点。【結果】開始座位姿勢:非介入;胸郭と仙骨が背もたれと接触し,頭頸部は右前下方へ傾く。介入;胸郭下部,坐骨がクッションと接し胸郭,頭部は一直線上に位置する。座位保持可能時間:非介入;平均3分53秒。介入;平均13分41秒。姿勢変化:非介入;頭頸部は右前下方へ倒れるまたは左情報へ伸展。右回旋は可能だが,左回旋は正中を超えなかった。約3分経過後から頭頸部の右屈曲が強まる。声かけに対して発声により反応するが,検者と視線を合わすことはなかった。介入;頭頸部が自由に全方向へ可動し,正中に戻ることも可能。全方向からの声かけに対して検者と視線を合わせ,言葉で返答することが可能。【結論】非介入で垂直に設定された骨盤は後方へ倒れようと不安定で,背もたれが上部胸郭と仙骨の倒れを固定する。上方の頭頸部は重力により前下方へ落ち込む。そのため臀部を前方へずらすことで頭頸部の落ち込みを回避していると考えられる。この座位姿勢では頭頸部の落ち込み回避のために筋力が必要であり,頸部回旋の自由度を減少させると考える。介入では,骨盤を後傾位に設定するが,坐骨を座面に設置した三角クッションに乗せることで臀部の前方への滑りを固定した。また,後方へ倒れる胸郭の重みを背もたれに設置した三角クッションで受けることで胸郭から下方が安定し,上方の頭頸部の支持性が向上したと考えられる。そのため,座位保持に必要な筋力が減少し,楽に座ることができた。また,声かけなどの刺激に対して,多様な反応を示すことができたと考える。今後,対象者数を増大,評価項目を検討し,高齢者に対する座位保持理論を系統化していきたい。
著者
船引 啓祐
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1572, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】看護師・介護士の腰痛発生率は高率であり大きな問題となっている。腰痛治療において推奨される治療の1つに認知行動療法が挙げられる。また,集団的に行う認知行動療法は,集団の作用を活用しながら認知・行動に関する知識・方法を獲得し,集団に対して治療的に働くという相乗効果が期待でき,セルフコントロール力を高めることができるとされている(岡田,2008)。そこで,当院の病棟勤務看護師・介護士98名(有効回答率84%)に腰痛の有無を質問紙による調査を実施した所,57%に腰痛の訴えがあった。本研究は当院病棟勤務看護師・介護士に対し腰痛教室を開催し,集団認知行動療法を実施することで,腰痛が軽減できるのか,また,痛み・腰痛関連QOL・不安・抑うつについても検討した。【方法】腰痛教室は第1回「腰痛基礎知識,認知行動療法」,第2回「腰痛予防対策(姿勢工夫,介助動作工夫,腰痛体操),ディスカッション」とし,1回の講義時間は40分,参加者15名程度と設定し,同内容の資料も配布した。また,腰痛教室第1回を計4回,第2回を計4回開催した。対象者は,第1・2回ともに参加した各評価において有効回答を得た非特異的腰痛者の看護師31名,介護士16名,計47名とした。評価時期は腰痛教室実施前,実施3ヶ月後とし,各評価項目における実施前後の分析を行った。評価として,痛み評価Numerical Rating Scale(以下NRS)と腰痛関連QOL評価Roland-Morris Disability Questionnaire(以下RDQ),不安・抑うつ測定尺度Hospital Anxiety and Depression Scale(以下HADS)を行い,NRS,RDQ,HADSの変化を対応のあるt-検定を用いて比較した。(p<0.05)また,Spearmanの順位相関係数を求め,相関分析を行った。集団認知行動療法実施前後のNRS,RDQ,HADSの効果量についても検討した。【結果】実施前と実施後を比較した結果,NRS(4.6±1.9→2.7±1.8),RDQ(2.5±2.5→1.2±1.7)であり,HADS不安(7.7±4.2→5.2±3.4),抑うつ(6.9±2.6→6.8±3.3),合計(14.6±5.5→12.1±5.8)であり,NRS,RDQ,HADS不安,HADS合計において有意な改善を認めた。NRSとRDQは優位に相関関係にあったが,NRSとHADS,RDQとHADSには相関が認められなかった。また,効果量については,NRS(r値:0.81),RDQ(r値:0.88),HADS(r値:0.71)であった。【結論】本研究の結果より,非特異的腰痛者において集団認知行動療法がNRS,RDQ,HADSの改善に有効であることが示唆された。またそれらの効果量においても効果を認めた。しかし,NRS・RDQとHADSに相関が認められなかった。看護師・介護士の職業性腰痛には身体的負荷以外にも精神的ストレスをはじめとする心理社会的要因が関与しているためであると考えられた。本研究より,非特異的腰痛者の看護師・介護士に対して,産業保健としての理学療法が,身体機能面だけでなく,心理・社会面のアプローチにより痛みが軽減できることが示唆された。
著者
矢野 秀典 柚原 一太 浅沼 哲治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1400, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】我が国の高齢者人口は増え続け,平成26年10月現在で高齢化率も26.0%と過去最高となった。同時に虚弱高齢者も増え続け,要介護認定者は600万人を超えている。これら多くの虚弱高齢者に対して豊かな生活を支えるサービスを提供することは,医療・保健・福祉に携わる我々の使命でもある。高齢者の余暇活動に関しては,今までにも多くの調査が行われてきているが,それらの対象は,ほとんどが地域在住の健常高齢者である。虚弱高齢者を対象とした調査は非常に少なく,その詳細は明らかにされていない。本研究の目的は,要介護認定を受けているデイサービス利用者の余暇活動および旅行活動の詳細を明らかにすることである。【方法】東京都区内の5つのデイサービスを利用し,日常生活自立度判定基準ランクがIもしくはIIの92名(男性36名,女性56名)を対象とした。平均年齢は84.7(標準偏差6.5)歳,要介護度は,要支援7名,要介護1・2が61名,要介護3~5が24名であった。これらに対して,質問紙調査を実施した。調査項目は,体が丈夫な頃および現在に行っていた,または行っている余暇活動および現在の旅行活動とした。そして,男女別の余暇活動および要介護度別の旅行活動状況を集計,分析した。分析にはカイ二乗検定を用いた。統計ソフトは,SPSS Statistics 17.0を使用し,統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】体が丈夫な頃に余暇活動を行っていたものは男性36名(100%),女性54名(96.4%)であった。男性では,旅行35名,読書28名,ドライブ22名の順に多く,女性は,旅行50名,読書28名,裁縫・編み物38名の順であった。一方,現在の余暇活動では,男性が読書23名,旅行19名,園芸・庭いじり10名,女性が読書24名,旅行21名,裁縫・編み物および園芸・庭いじりがそれぞれ14名となっていた。また,現在旅行に出かけているものは,要支援4名(57.1%),要介護1・2:22名(36.1%),要介護3~5:13名(54.2%)と3群に差はなかった。旅行日程は日帰り,同伴者は家族,交通手段は自家用車がすべての群で最も多かった。旅行先は,近郊が,要支援4名(100.0%),要介護1・2:12名(54.5%),要介護3~5:5名(38.5%)と有意ではない(P=0.097)ものの要支援者に多い傾向が認められた。【結論】体が丈夫な頃には,男女ともにほとんどのものが余暇活動を行っていた。一方,要介護となった現在でも,多くのものが余暇活動を楽しんでいる実態が明らかになった。やはり,多くは屋内の静的活動が多かったものの,男女ともに屋外活動を主とする旅行が2番目に多く,旅行の特殊性が認められた。旅行活動に関して,対象者の運動機能低下が日程,同伴者,交通手段に影響を与えているものと考えられた。その一方で,旅行先を近郊としたものが要支援で極端に多かったことは,自分自身である程度移動可能なことが影響していたためと推察された。
著者
宮地 諒 藤井 亮介 西 祐生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0565, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】しゃがみ動作は日常生活や理学療法で頻回に行われ,股関節運動との関連が深い。中でも股関節屈曲運動の主動作筋である腸腰筋は骨盤の前後傾の肢位により活動が変化することが知られている。しゃがみ動作における下肢筋の活動を分析した報告は散見されるにも関わらず,腸腰筋の活動を測定したものはみられない。近年,超音波画像診断装置(以下,US)を使用し鼠径部で測定した腸腰筋厚と磁気共鳴画像診断装置で測定した筋横断面積に差がないことや,USで測定した腸腰筋厚と股関節屈曲筋力とが関連するといった報告があり,USが腸腰筋の活動を評価する方法として有用であるとされている。そこで本研究はUSによってしゃがみ動作での骨盤前後傾による腸腰筋厚への影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は下肢や脊柱に関節障害などの既往がなく,日常生活に影響する疼痛がない健常成人男性9名(28.6±5.0歳)とした。課題動作は立位から膝関節屈曲60°までのしゃがみ動作とした。しゃがみ動作は骨盤前傾位と後傾位の両肢位で行った。骨盤前傾位と後傾位は被験者の最大努力下での骨盤前傾位及び後傾位とした。腸腰筋の筋厚の測定にはUS(LOGIQ e,GEヘルスケアジャパン社製)を使用した。測定するプローブ位置を一定にするために鼡径部中央にあらかじめマーキングを施行し,その上にプローブを接触して測定した。測定はBモードにて実施し,プローブはリニアプローブ(10MHz)を使用した。取得したUSの画像から画像解析プログラムImage Jによって腸腰筋厚を計測した。統計処理はWilcoxonの符号順位和検定を行った。【結果】しゃがみ動作終了時の腸腰筋厚は骨盤前傾位と後傾位のどちらも開始時よりも有意に増加した(P<0.01)。また,骨盤前傾位でのしゃがみ動作における腸腰筋厚は,開始時と終了時ともに後傾位よりも有意に高値を示した(P<0.01)。さらに骨盤前傾位でのしゃがみ動作では,開始時と終了時の腸腰筋厚の変化率が骨盤後傾位でのしゃがみ動作と比較して有意に大きかった(P<0.01)。【結論】骨盤前傾位と後傾位のどちらにおいてもしゃがみ動作により腸腰筋厚が増加し,その変化は骨盤前傾位で行う方が後傾位よりも大きい。そのため,骨盤前傾位でのしゃがみ動作は後傾位で行うよりも腸腰筋の活動が増加し,より効率的な腸腰筋のエクササイズと成り得ることが示唆された。
著者
岩崎 和樹 浅川 大地 中川 和昌 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0078, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】重量物持ち上げ動作(以下,リフティング動作)は,腰痛受傷率が最も高い動作であるとされており,腰痛の一因とされる体幹表層筋の過剰な筋活動を伴いやすい。また,体幹深層筋の機能低下は代償的戦略として体幹表層筋の筋活動を増加させることが推測されている。本研究では,体幹深層筋に対する継続的な運動が体幹表層筋の筋活動量に及ぼす影響を検証することを目的とした。【方法】対象は腰痛の既往のない健常男性10名(年齢20.7±0.7歳,身長171.2±4.2cm,体重62.4±5.2kg)とし,継続的な運動の実施が可能であった7名を分析対象とした。介入内容は体幹深層筋に対して3種類の運動を4週間にわたり可能な限り毎日実施してもらい,その前後で腹横筋機能評価とリフティング動作時の筋活動量を測定した。腹横筋機能評価には,圧バイオフィードバックユニット(CHATTANOOGA社製)を使用し,腹臥位でのDraw-inによる腹圧の変化を計測した。リフティング動作時の筋活動量の測定には表面筋電図計(酒井医療社製マイオリサーチXPテレマイオG2 EM-601 EM-602)を使用し,両側腹直筋,外腹斜筋,広背筋,胸部および腰部脊柱起立筋の筋活動量を測定した。動作課題は体重の30%の重量物のリフティング動作とした。開始肢位は足底が全面接地した膝関節最大屈曲位の時点とし,終了肢位はリフティング動作後,体幹と下肢が完全伸展位をとった時点とした。筋電図計測は,計測開始2秒後に検者の合図で動作を開始し,終了肢位から2秒経過した時点で計測終了とした。動作は3回試行し,全3回の筋活動量の平均値を代表値とした。運動方法は①腹臥位・背臥位でのDraw-in保持,②四つ這い姿勢から対側上下肢の挙上,③背臥位で臀部を挙上し体幹と大腿を一直線に保持する運動の3種類とした。統計学的解析は,エクセル統計Statcel Ver.3を使用し,介入前後の各代表値をWilcoxonの符号付順位和検定にて比較検討した。尚,有意水準は5%とした。【結果】腹横筋機能評価は,介入前-5.0±9.0mmHg,介入後-7.1±3.4mmHgであり,介入後に圧の減少傾向を認めた。リフティング動作時の筋活動量は,右広背筋では30.4±10.3μVから24.1±9.1μV,左広背筋では34.4±10.3μVから22.7±8.5μVと両広背筋で介入後有意な減少(p=0.018)を認め,有意差はないものの右外腹斜筋以外の全筋で減少傾向がみられた。【結論】体幹深層筋に対する4週間の運動介入により,体幹表層筋の活動量は抑制されることが示唆された。体幹深層筋機能向上により,リフティング動作時に動員されていた体幹表層筋の筋活動が減少したことが推測される。これらより,今回実施した運動はリフティング動作時の腰痛予防プログラムの一助になる可能性が示された。