著者
盛山 和夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.333-342, 2006-09-30 (Released:2007-08-02)
参考文献数
4

本稿は、複数の部分集団からなるときの全体ジニ係数が集団比率の変化によってどう影響されるかを考察する方法について、浜田論文(2005)のように対数正規分布という特殊な仮定をおくことなく、より一般的な条件の下で定式化し、二集団からなるとき、集団比率の関数としての全体ジニ係数のグラフが、集団間ジニ係数の相対的な位置によって3種類に分けられることを示すものである。その一般的条件とは、集団内の分布のしかた(テクニカルにいえば、分布関数ないし密度関数)が不変に保たれたままで、集団比率ないし集団規模が変化するという条件であり、対数正規分布の仮定はこの特殊ケースをなしている。
著者
佐藤 俊樹
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.2_151-2_170, 1988-10-09 (Released:2009-03-06)
参考文献数
22
被引用文献数
1

理解社会学という方法は,社会学の最も古典的な方法の一つで,かつ,現在でも多くの社会学者が意識的または無意識的に用いている方法である。にもかかわらず,この方法はこれまで,理解をめぐる哲学的議論や学説史的な視点からのみ問題にされ,具体的な社会記述の方法として反省的に定式化され理論的に検討されることは,ほとんどなかった。本論考ではまず,理解社会学の方法を,Weber固有のジャーゴンを離れ,行為論の一般的な術語を用いて,公理系として捉える。そして,この公理系の検討を通して,通常全く自然な作業と思われている「理解社会学的に理解している」ということが実際にはどういうことなのか,その射程と限界について明らかにする。
著者
池 周一郎
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.83-90, 1987-10-01 (Released:2009-03-01)
参考文献数
5

本論では、社会的距離(social distance)というものの理論的な存在の可能性が、検討されている。階層間通婚のデータからは、数学的に厳密な意味での距離というものは導くことができないことが示されている。また階層間通婚傾向というものは、種々な要因のアグリゲーション・ゲインとしてみなすべきである。比喩としての社会的距離は、ミクロの社会的行為に基づいたメトリックな社会階層の理論のための基本的変数とするにはそれほど純粋な概念ではないと思われる。
著者
廣嶋 清志
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.163-183, 2001-10-31 (Released:2016-09-30)
参考文献数
18

近年の合計出生率低下について,夫婦出生率低下が寄与していないという有力な見解が普及しているが,本研究はこの見解を生み出した年齢別有配偶出生率AMFRを用いた要因分解法を批判した。 コーホートの年齢別初婚率と結婚期間別夫婦出生率によって年齢別有配偶出生率AMRFを計算するモデルを基にして,コーホートの年齢別初婚率と結婚期間別夫婦出生率の水準と分布がそれぞれ変化する4つのシミュレーションによって,年次別合計出生率低下を年齢別有配偶率と年齢別有配偶出生率による要因分解の結果を観察した。その結果,初婚率分布の変化(晩婚化または早婚化)が生じていない場合のみ,その要因分解は適切な結果をもたらすが,初婚率分布が遅れると夫婦出生率に変化はないのにもかかわらず,年齢別有配偶率のみが低下をもたらし,年齢別有配偶出生率AMFRは上昇の効果をもつという結果となり,誤った解釈を生むことを明らかにした。 この問題はより一般的に,第1の行動を前提として第2の行動が生じる場合に,第1の行動経験者について第2の行動を年齢によって分析を行う際の注意点として一般化される。
著者
海野 道郎 長谷川 計二
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.5-19, 1989

本稿の目的は、(1)社会科学において「意図せざる結果」の概念が持つ重要性を主張するとともに、(2)「意図せざる結果」について概念的検討を加え、今後の分析のための枠組みを提供することにある。社会科学の古典において「意図せざる結果は繰り返し論じられてきた。さらに現代においても「自己組織性」や「社会運動論」などの現代社会学の最先端で「意図せざる結果」が論ぜられており、この概念の重要性が示唆された。<BR> これらの研究の中でとりわけ重要なのはマートンとブードンである。そこでまず、マートンの「潜在機能」および「予言の自己成就」の2つの概念に検討を加え、これらの概念が「意図せざる結果」の下位類型であることを示した。次に、ブードンの研究を取り上げ、「意図せざる結果」の類型化の問題点を指摘するとともに、個々の行為が集積されるプロセスに着目した類型化の必要性を示唆した。最後に、ブードンによる「意図せざる結果」に関する社会理論の4つの形式─「マルクス型」、「トックヴィル型」、「マートン型」、「ウェーバー型」─を取り上げ、これらの類型が、ブードンの「方法論的個人主義」の立場と密接に関連して設定されていることを示し、「意図せざる結果」が生ずるプロセスについて一般的な枠組みを示唆した。
著者
小林 盾 大林 真也
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.304-317, 2016

この論文は, 分析社会学を実証研究へと応用する. そのために, 美術展や小説などの文化活動を事例とし, 人びとはオムニボア(雑食)的で多趣味なのか, ユニボア(偏食)的で偏っているのかを検討することで, 文化の階層構造(文化格差)を解明する. 分析社会学のDBO理論によれば, 人びとは「~したい」という欲求(Desire)と「自分や世界は~だろう」という信念(Belief)を持ち, 客観的条件である機会(Opportunity)に制約される. そこで, 「自分は自由に文化活動できる」という信念を持ち, さらに等価所得が高く実行機会に恵まれた人ほど, 文化的オムニボアとなると仮説を立てた. データとして2015年階層と社会意識全国調査(第1回SSP調査)を用い, 文化的オムニボアを高級文化(クラシック音楽と美術展)と中間文化(小説)の頻度の幾何平均で測定した(分析対象2,769人). その結果, (1)分布から, オムニボアが52.5%いた. (2)回帰分析における教育, 等価所得の主効果から, 高い階層的地位が文化的オムニボアを促進した. (3)信念(主観的自由)と機会(等価所得)の交互作用効果から, 信念と機会の両立が文化的オムニボアを促進した. 以上より, 日本社会における文化活動は, ブルデューの主張するような排他的なものではなかった. 分析社会学を用いたことで, 人びとの合理性を仮定する必要がなく, どうじに信念という主観的心理的要因の役割が明確になった.
著者
中澤 渉 三輪 哲
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.19-22, 2012 (Released:2013-03-18)
参考文献数
1
被引用文献数
1
著者
鈴木 努
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.1-12, 2011 (Released:2012-01-31)
参考文献数
14
被引用文献数
1

受賞論文では信頼の解き放ち理論とそれに対する批判を総合した形式的モデルを示した.本稿ではネットワークの多層性と多重性,およびカスプ・カタストロフ・モデルについて受賞論文の含意を説明するとともに,今後の数理社会学におけるマルチレベルの社会ネットワークモデルの可能性を論じる.
著者
金井 雅之
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.153-167, 2003-09-30 (Released:2009-01-20)
参考文献数
42
被引用文献数
2

社会的ジレンマをはじめとする協力の成立可能性問題を進化ゲーム理論的に分析する際、ランダム・マッチングを仮定するとうまくいかない。ランダム・マッチングでない相互作用、すなわち選択的相互作用を扱う代表的モデルとして、格子モデルと多水準淘汰モデルが挙げられる。本稿ではこのうち多水準淘汰モデルについて、理論上の基礎づけを確認し、代表的な2つの数理モデルについてその意義と課題を検討する。理論上の基礎づけに関しては、淘汰の単位をめぐる論争が焦点となる。ここではヴィークルという概念を導入することにより、自己複製子淘汰と矛盾することなく多水準淘汰が考えうることを示す。そして多水準淘汰の先行モデルは、絶滅型モデルと離合集散型モデルに大別できるが、それらは分析する対象によって使い分けることが適切であることを示す。
著者
小林 盾 七條 達弘
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.142-155, 2017 (Released:2017-07-19)
参考文献数
3
著者
三輪 哲
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.2_23-2_40, 2008-11-30 (Released:2009-01-05)
参考文献数
40

本稿では、キャリアの軌跡をとらえる成長曲線アプローチによって、世代間移動の趨勢に関する再分析を行う。男性の40歳までの早期キャリアがどのような軌跡をたどるのか記述することと、個人のキャリアと出身階層との連関で表現される移動機会格差が出生コーホート間でどのように変わってきたのか精査することが目的である。 社会階層と社会移動全国調査(SSM)データのうち、1975年から2005年までの4回分のデータをマージして使用した。個人内のキャリア軌跡をとらえるためのパーソンイヤーデータと、個人レベルのデータは、階層的な入れ子構造をなしている。そうした階層的構造データを、マルチレベルロジスティック回帰分析によって統計解析した。 その結果、ホワイトカラー上層の再生産傾向は安定的であったことや、自営業層において一貫して閉鎖化が進んできたことが明らかとなった。社会移動全体の趨勢だけでなく、局所における移動機会の趨勢についても十分に注意を払わなければならない。
著者
落合 仁司
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.151-159, 2016 (Released:2016-08-06)
参考文献数
6

落合仁司「社会と行為―コールマン・ボートとマクロ・ミクロ・リンク」『理論と方法』30(1)は,社会構造を多様体M,社会構造のシフトを双対境界作用素δ,相互行為を微分形式ω,相互行為のドリフトを微分作用素dで表現することにより,コールマン・ボートの微分幾何モデルを構成し,社会構造の圏,マクロ圏と相互行為の圏,ミクロ圏,すなわちマクロ・ミクロ・リンクが圏論的に同値であることを論証した.本論は,以上の結果を踏まえ,社会構造のシフトすなわちマクロ・シフトδと相互行為のドリフトすなわちミクロ・ドリフトdの関係が圏論的に充満忠実,言い換えれば全単射であることを論証する.このことは社会構造の圏と相互行為の圏が随伴であることを帰結する.

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出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.202-211, 2017 (Released:2017-07-19)
著者
尾張 豊
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.59-74, 1998

従来、公立学校の教育成果の低下の原因に関する研究が数多くなされてきた。その多くは原因を画一化教育や過度な受験教育などの教育内容の欠陥に求めている。一方で、その原因を学校組織に内在する欠陥に求める議論はほとんどなされてこなかった。<BR> そこで、本稿ではTirole(1986)の提起した3階層組織モデルを学校組織に適用し、多段階ゲームを用いてその原因の追求と教育成果の向上のための改善案について考察した。<BR> 主な結論は以下のとおりである。&alpha;プリンシパルがエージェントにその努力、あるいは教育成果に関係なく一定の報酬を提示すれば、エージェントは低い努力を実行する。&beta;エージェントの努力水準が観察できる場合、プリンシパルはエージェントの努力水準に応じた報酬を提示すればよい。&gamma;生徒の能力が観察できない場合、プリンシパルはエージェントに教育成果に応じた報酬を提示すればよい。&delta;スーパーバイザーがエージェントと共謀してプリンシパルに嘘の報告をする場合には、プリンシパルは共謀を防止するための報酬を支払わなければならない。
著者
稲葉 昭英
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.51-64, 1999

人が生涯にわたって経験するストレスには大きな性差が見られる。本研究は平成7年度国民生活基礎調査の集計結果を用いて女性に一貫してストレス経験率が高いことを示し、このパターンを説明するいくつかの仮説を検討する。最終的には、自分、家族、家族以外の他者、いずれに成立する出来事に対しても、女性の方がほぼ一貫してストレス経験が高いことが示される。これは女性が他者に対するケアのみではなく、自分に対するケアもより多く行うというケアの性別非対称的構造を想定することで説明が可能となる。最後に、女性によるケアの提供という視点から性別役割分業を捉える可能性が議論される。
著者
岡太 彬訓 古谷野 亘
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.169-182, 1993-10-10 (Released:2009-03-31)
参考文献数
27
被引用文献数
1

パーソナルコンピューターと統計パッケージの普及に伴って、多変量解析法は、それ以前に比べると非常に利用し易くなった。その結果、社会・行動科学においても、これらの方法が手軽に利用できるようになり、多変量解析法を利用する機会は飛躍的に増加し、さまざまな研究の進歩をもたらした。しかし、これは、別の問題すなわち多変量解析法の不適切な利用をも同時にもたらした。多変量解析法の不適切な利用は、分析過程での誤りと分析以前の誤りに大別できる。分析過程での誤りが、パーソナルコンピューターと統計パッケージの普及によって、表面化したことは、否めないであろう。しかし、これらの不適切な利用には、パーソナルコンピューターと統計パッケージそのものとは無関係に、利用者に問題がある場合も少なくない。本稿では、パーソナルコンピューターと統計パッケージそのものとは無関係に生じる、分析過程での問題に焦点を合わせる。そして、多変量解析法(重回帰分析法、因子分析法、多次元尺度構成法、および、クラスター分析法)について、それらの不適切な利用の典型的な例を挙げる。最後に、統計的手法を含む計量的手法の不適切な利用の原因を論じ、これらの原因の根本にある問題点を考察し、その解決のための方策を提案する。
著者
近藤 博之
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.313-332, 2006-09-30 (Released:2007-08-02)
参考文献数
29
被引用文献数
1

この論文では,複数の職業的地位尺度をとりあげ,それぞれの尺度の性格と移動構造を記述する際に現れる固有の特徴について比較検討した。移動研究に用いられる職業的地位尺度は,大きくはデータ分析に先立ってスコアを与えるものと,データそのものからもっとも適合的なスコアを引き出してくるものとが区別されるが,本論文ではとくに後者のタイプの職業的地位尺度を取り上げ,その社会学的および統計学的な意味を考察している。実際に,職業中分類から作成された81×81の移動表に対応分析を適用し,そうした方法が今日の社会移動の状況を記述するのに有効であることを論じた。分析の結果,オーディネーション系の技法がもっともらしい職業的地位スコアを与えてくれること,パス解析にそのスコアを利用すると地位達成過程について従来とはまったく異なる理解がもたらされることが確認された。
著者
樋口 耕一
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.161-176, 2004-09-30 (Released:2008-12-22)
参考文献数
27
被引用文献数
4

社会調査において内容分析(content analysis)という方法が用いられるようになった当初から、新聞記事は重要な分析対象として取り上げられ、様々な分析が行われてきた。コンピュータの発達やデータベースの整備が進む現在、この新聞記事の分析にあたってコンピュータを用いることが容易になりつつある。それに加えて、新聞記事のようなテキスト型データを、コンピュータを用いて計量的に分析する方法も提案されている。そこで本稿では、1991年以降の『毎日新聞』から「サラリーマン」に言及した記事を取り出し、コンピュータを利用した分析を試験的に行うことで、以下の2点についての確認・検討を行った。第一に、コンピュータを用いても、伝統的な手作業による分析と同じ結果が得られるかどうかを確認することを試みた。第二に、テキスト型データ一般を分析するための半ば汎用的な方法として提案されている方法を、各種のテキスト型データの中でもとりわけ新聞記事の分析に用いた場合、いかなる長所短所が生じるのかを検討した。