著者
香山 不二雄
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, 2005-07-20

カドミウムは急性毒性で主な標的臓器は肝臓で, 肝細胞壊死を伴う肝障害を起こす. この時, エンドトキシンを同時に投与すると炎症反応が強くなり, 肝臓から産生される炎症性サイトカインの誘導も多くなる. そのメカニズムは肝細胞壊死により, その周りに炎症細胞浸潤が起こり, 肝臓自身が炎症への反応性が昂進した状態になっていることが, 肝臓薄切切片培養法を用いて明らかとした. その過剰な反応性は抗TNF-alpha抗体で抑制することが出来たことから, 以上のことを証明することができた. 腎臓障害は, 長期間にわたりカドミウムを投与して惹起される. 長期投与していると腎重量が大きくなることが複数の研究者から報告されていた. 病理組織学的には特に正常細胞や異形性のある細胞増殖像が見られることはない. 腎臓組織から産生される炎症性サイトカインを測定するとIL-6が非常の多くなっていることが明らかとなった. このサイトカインがカドミウムで障害を受けた腎臓尿細管細胞の増殖因子として働いていることが明らかにした. 以上のように, カドミウムの毒性発現に炎症性サイトカインの関連を調べたが, 方法論としてはエンドトキシンを併用しており, 活性化された反応を見ることを解析すること研究してきた. 今後は, カドミウムによる免疫毒性の研究で残されているのは抑制系の反応を証明する方法を明らかにしていくことである.
著者
吉川 徹 川上 憲人 小木 和孝 堤 明純 島津 美由紀 長見 まき子 島津 明人
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.127-142, 2007-07-20
参考文献数
29
被引用文献数
6

職場のメンタルヘルス向上を目的とした職場環境等の改善のためのアクションチェックリスト(Mental Health Action Check List, 以下MHACL)を開発した.ストレス対策一次予防における職場環境改善等の進め方と意義について検討した.3つのステップによりMHACLを開発した.(1)文献レビューと改善事例の収集と分類,改善フレーズの作成とMHACLのひな型作成,(2)産業現場への適用と産業保健スタッフ等を含むワークショップによる試用,(3)改善フレーズの見直しと改善領域の再構成を行って,広く職場で使える改善アクション選定チェックリストとして提案した.文献レビューにより職場環境等の改善を支援する8つの改善技術領域が整理された.全国の84事業場から延べ201件の事例の職場のストレス対策に役立った改善事例が収集できたので,これら事例から代表的な改善フレーズを抽出し,40項目からなるMHACL原案が作成された.現業職場の職員105名を対象としたMHACL利用の参加型研修会により,MHACLを用いて多様な改善提案を引き出せることが確認された.産業保健スタッフを対象としたMHACL利用のワークショップでは,MHACLの使用者とその受け手の明確化,使用手順と職域でのリスクアセスメント方法のマニュアル化,使用言語の平易化,などが必要と指摘された.これらの経験から,最終的に30項目で構成されるMHACLが作成された.それらの項目は,技術領域としてA)作業計画への参加と情報の共有,B)勤務時間と作業編成,C)円滑な作業手順,D)作業場環境,E)職場内の相互支援,F)安心できる職場の仕組みの6つの領域にまとめられた.現場ですぐ取り組めるメンタルヘルス改善アクション項目からなる職場環境改善用のチェックリストを作成した.今後チェック項目を利用した職場介入経験者との意見交換を行って,使いやすいチェックリストと利用方法を検討していく予定である.MHACLの利用によるストレス対策一次予防の推進による成果が期待される.
著者
鄭 真己 山崎 喜比古
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.20-30, 2003-01-20
被引用文献数
8

「健康職場モデル」の概念を用い,組織特性を含めた労働職場環境特性が,ストレッサーとして労働者の心身の健康,職務不満足及び離職意向に及ぼす影響を検証することを目的とし,国内の情報サービス産業某社の従業員612名を対象に,2001年7-8月に自記式質問紙調査を実施した(有効回答率96.2%).うち,コンピュータ・テクニカルサポートスタツフ488名を最終的な分析対象とした.フォーカスグループを用いて労働職場環境特性の項目を新たに作成し,因子分析の結果から29項目7因子を得,「評価制度の未熟性」「管理方式の未整備」「キャリア・見通しの曖昧さ」を「組織特性」の尺度,「同僚のサポートの低さ」「上司のサポートのまずさ」「作業環境の低い快適性」「仕事の量・質の要求度」を「作業・職場特性」の尺度とした.重回帰分析の結果,「組織特性」と労働者の健康及び離職意向との有意な関連性が認められ,「組織特性」が重要であるという「健康職場モデル」の概念を支持する結果であった.
著者
寺田 勇人 曽根 智史
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.49-60, 2000-03-20
被引用文献数
3

地域産業保健センター事業(以下「地域センター」という.)は, 常勤50人未満の小規模な事業場(以下「小規模事業場」という.)の身近なところで, 無料で産業保健サービスを提供する事業として誕生したが, 利用実績は全国的に低調である報告が多く, 新宿地域センターについても同様である.本研究では, 新宿地域センターを対象に, 1996年10月〜1999年3月に利用のあった78事業場の利用状況の分析とともに, 1998年度1年間に1回以上利用のあった50事業場を対象に, 利用に至った経緯, 利用前に抱いていたイメージ, 利用後の感想などについて質問紙調査を実施することにより, 多くの地域センターの利用状況が低調である要因及び小規模事業場の産業保健ニーズを質的に検討し, 地域センターの効果的な運用について考察した.地域センターの利用状況が低調である要因として, まず, 地域センターの存在とその機能が十分に知られていないことが明らかになった.また, 相談日時・回数などのサービス体制, マンパワー, 予算措置などが小規模事業場数及びニーズに見合っていないといったサービス基盤が不十分であること, サービスエリアが, 市・区役所及び町村役場(以下「基礎的自治体」という.)の保健サービスと一致していない地域があることなど, 多くの課題が浮き彫りになった.その解決策として, 地域センター機能の普及啓発の推進, マンパワーの充実, 初回アクセスへの迅速かつ的確な対応, 規定のサービス内容の充実, 健診などの規定外サービスとの組み合わせること, 事業者団体及び個々の小規模事業場とのパイプを太くすること, 関係機関(医療機関及び関連医師会, 基礎的自治体, 都道府県型保健所及び政令型保健所(以下「保健所」という.), 市区町村保健センター(以下「保健センター」という.), 健康保険組合, 地域の労働衛生機関, 民間健康増進施設等)との連携協力や他の地域センターとの交流が重要である.また, 1997年度から開始された「産業医共同選任事業」の活用, 1998年度から開始された機能を強化する地域センター(以下「拡充センター」という.)や「母性健康管理相談事業」としての指定を積極的に受けることなどが考えられた.さらに, 産業保健推進センター事業(以下「推進センター」という.), 専門労働衛生機関, 労働衛生行政等からの支援も必要である.その他, 早急な解決は難しいと思われるが, さらなる予算措置の拡大とその柔軟な運用, 基礎的自治体とサービスエリアを一致させることなども有効であると思われる.
著者
小宮 康裕 中尾 裕之 黒田 嘉紀 有薗 克晋 中原 愛 加藤 貴彦
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.204-209, 2005-09-20
被引用文献数
1

禁煙や節酒支援への応用の可能性を検討する目的で, GSTM1およびALDH2遺伝子多型の遺伝子診断に対する意識調査を行った.対象は製造業の従業員1,654名(男性1,225名, 女性429名)で1,434名(86.7%)が回答した.GSTM1およびALDH2の遺伝子診断結果を知りたいと回答したのは, それぞれ52.2%と56.6%だった.一方, 知りたくないと回答したのは, それぞれ9.9%と7.2%だった.結果を知りたい理由は, 自分への喫煙の影響を知りたい, 将来の病気予防, 副流煙の影響を知りたい, 自分のアルコール許容範囲を知りたい, など個人の感受性を意識した理由が多かった.また, 知りたくない理由では, 結果を知っても止められない, 止める意志がないが多かった.多変量解析では, 現在喫煙している人(男性: OR=1.66 95%CI 1.29-2.14, 女性: OR=2.33 95%CI 1.37-3.98), 喫煙と肺がんの関連を知っている人(男性: OR=1.81 95%CI 1.25-2.63, 女性: OR=2.77 95%CI 1.42-5.40), CAGE TESTの点数の高い人(男性: OR=1.96 95%CI 1.42-2.68, 女性: OR=2.52 95%CI 1.07-5.94)で双方の遺伝子診断結果を知りたいと回答した人が有意に多かった.今回の調査より, GSTM1およびALDH2の遺伝子診断の禁煙支援や節酒支援への応用の可能性が示唆された.
著者
平田 衛 熊谷 信二 田渕 武夫 田井中 秀嗣 安藤 剛 織田 肇
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.190-201, 1999-11-20
被引用文献数
11

小規模事業所における産業保健サービスの実態を明らかにするために,大阪市に隣接する市の一部地域765の小規模事業所から回収された質問紙(回収率69.3%)を解析した.1∼4人事業所は358(46.8%),5∼9人事業所は203(26.5%),10∼29人事業所は163(21.3%),30∼49人事業所は41(5.4%)であり,主な業種は,製造業(374, 48.9%),卸小売飲食業(153, 20.0%),サービス業(132, 17.3%),建設業(72, 9.4%)であった.健康診断は47.7%でおこなわれ,それを実施しない理由は「時間がない」(不実施事業所の33.3%),「従業員が受診を望まない」(28.1%)であった.健康増進活動は29.2%の事業所でおこなわれていた.小規模事業所が望む産業保健活動として,健康診断(59.0%),健康増進(36.5%),メンタルヘルス対策(25.9%),労使への情報提供(25.5%)が挙げられた.財政的支援および経済的誘導策が各々46.4%,28.8%の小規模事業所から希望があった.地域産業保健センターはあまり知られていない(8.2%)が,健康診断(48.4%),情報サービス(37.5%),作業方法の評価および改善の助言(19.8%),環境測定(12.4%)の希望があった.
著者
藤野 善久 堀江 正知 寶珠山 務 筒井 隆夫 田中 弥生
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.87-97, 2006-07-20
被引用文献数
8 34 19

労働環境をとりまく厳しい状況のなか,労働者のストレスやうつ・抑うつなどメンタルヘルス不全が増加していると指摘されている.これに伴い,精神障害等の労災補償に関する請求件数,認定件数ともに著しい増加傾向にある.労働時間,対人関係,職場における支援,報酬などは労働者のメンタルヘルスに影響を与える要因と考えられている.平成16年には厚生労働省が「過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会」報告書を発表し,長時間の時間外労働を行ったことを一つの基準として対象者を選定し,メンタルヘルス面でのチェックを行う仕組みをつくることを推奨した.しかしながら,上で示されたメンタルヘルス対策としての長時間労働の基準は,企業・産業保健現場での実践性を考慮したものであり,労働時間と精神的負担との関連についての科学的な確証は十分に得られていない.一方で,労働時間が様々な労働環境要因,職業ストレス要因と関連して労働者の精神的負担やメンタルヘルスに影響を与えることは,過去の研究からも合理的に解釈できる.そこで本調査では,労働時間とうつ・抑うつなどの精神的負担との関連を検討した文献の体系的レビューを行い,労働時間と精神的負担の関連についての疫学的エビデンスを整理することを目的とした.PubMedを用いて131編の論文について検討を実施した.労働時間と精神的負担に関して検討した原著論文が131編のうち17編確認された(縦断研究10編,断面研究7編).それらのレビューの結果,精神的負担の指標との関連を報告した文献が7編であった.また,労働時間の評価に様々な定義が用いられており,研究間の比較を困難にしていた.今回のレビューの結果,労働時間とうつ・抑うつなどの精神的負担との関連について,一致した結果は認められなかった.
著者
永田 頌史
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.215-220, 2000-11-20
被引用文献数
12

経済のグローバライゼーションと近年の不況は企業のダウンサイジングやリストラクチャリングに拍車をかけて伝統的な年功制給与に代わって成果給制の導入や終身雇用制の崩壊, 過重労働や失業の増加などを招くことになった. これらの急速な労働環境の変化は, 職業性ストレスを増している. 1997年に行われた労働省の調査では, 16,000人の労働者のうちの62.8%が自分の職業生活に関して強い不安, 悩み, ストレスを持っていることが報告されている. このような状況で, 有効な職場のストレス・マネージメントの必要性は高まっているが, 先に述べた調査では12,000事業場の26.5%がメンタルヘルス対策を行っていると回答したにすぎなかった. 日本におけるストレス・マネージメントの特徴は次のようにまとめられる. 1)最もよく行われているアプローチは, 労働者個人を対象とした教育や相談である. 2)作業管理, 作業環境管理, 健康管理システムに関する組織改革や組織的, 継続的な管理職研修プログラムなどはまだ不充分である. 3)これらの介入的アプローチの効果に対する評価システムも不充分である. 職業性ストレスの増加と職場のメンタルヘルス増進に関するニーズが高まっている現状を考え, 職場におけるストレス・マネージメントに関するミニレビューを企画し, その構成について述べる.
著者
鶴ヶ野 しのぶ 井上 まり子 中坪 直樹 大井 洋 矢野 栄二
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.15-18, 2009 (Released:2009-04-10)
参考文献数
15
被引用文献数
1 3

年越し派遣村村民の健康:鶴ヶ野しのぶほか.帝京大学医学部衛生学公衆衛生学―わが国では雇用の流動化が進行している.2008年からの世界的不況により,2009年には派遣労働者をはじめとする非正規雇用者の大量解雇が予測されている.海外の先行研究では,不安定な雇用形態そのものが健康に影響する可能性が示唆されている.2008年の年末,職と住まいを失った労働者の緊急の避難所として「年越し派遣村」が東京に設営された.我々は2009年1月8~10日に東京都福祉保健局が行った健康相談及び健康診断に参加したが,そこでみられた村民の健康状況について報告する.健康相談に訪れた村民は89名であった(平均年齢48歳).身体症状としては多い順に,呼吸器症状(咳43%,痰36%),微熱(16.9%),筋骨格系症状(13.5%),皮膚症状(5.6%),消化器症状(3.4%),神経症状(3.4%)その他で,不安や不眠などの精神症状(10.1%)もみられた.個別の相談では,自覚症状があっても医療機関の受診が困難であったり治療が中断されているケースが多かった.また,1年以内に健康診断を受診した村民は23.8%(84名中)にとどまっていた.非正規雇用者の健康問題については十分認識されていないが,注目していく必要がある. (産衛誌2009; 51: 15-18)