著者
藤井 義久
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.375-385, 2010-12-20

本研究の目的は,小学校の防犯教育において活用できる「犯罪不安尺度」及び「防犯意識尺度」を開発し,小学生の犯罪不安と防犯意識の発達的変化について明らかにすることであった。調査対象者は,岩手県内の小学校4校と東京都内の小学校3校の4年生から6年生の児童,計1292名(男子662名,女子630名)であった。項目分析及び因子分析の結果,「不審者不安」,「外出不安」,「犯罪発生状況不安」という3つの下位尺度からなる「小学生版犯罪不安尺度」(30項目)と,「危険回避能力」,「外での防犯対策」,「家での防犯対策」,「コミュニュケーション」,「油断」,「注意」という6つの下位尺度からなる「小学生版防犯意識尺度」(30項目)を開発した。そして,それらの尺度を用いて,次のようなことがわかった。第1に,犯罪不安水準,防犯意識水準とも,女子の方が高く,学年が上がるにつれて有意に下がる傾向が見られた。第2に,犯罪不安水準と防犯意識水準とにはある程度の関連性がある。そして,パス解析の結果,男子においては犯罪不安水準を全体的に高めることによって周りに注意を払うといった防犯意識を高めることにつながり,女子においては,外出時における犯罪不安を高めるだけで防犯意識水準が全体的に高まる可能性の高いことが示唆された。
著者
高濱 裕子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.51-59, 1993

幼児の"プラン共有"に, 保育者がどのような影響を与えているのかを検討した。幼稚園期2年間におけるごっこ遊びの発達は, 保育者と幼児との相互交渉を通して検討された。その際, 保育者と幼児とのコミュニケーションプロセスに, Bmnef (1983/1988) の"フオーマット"の概念を援用して, 分析的に捉えた。2名の幼児の遊びとそこに関わる1名の保育者の行動とは, 幼稚園において毎週1回, 2年間に渡って縦断的に親無された。プランの共有面から分析した結果, 幼稚園期のごっこ遊びには, 4段階の発達段階が見出された。また, 幼児の遊びの質的変化に対応させて, 保育者も段階的にフオーマットを変容させていることが明らかになった。これら5段階のフオーマットは, f1:仮想一オープン, f2:依頼一援助, f3:折衝一意味付与, f4:要請一協同解決, f5:表明一承認と命名された。フオーマットの概念は保育分析の枠組みとして十分に有効であることが示された。
著者
北村 琴美 無藤 隆
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.46-57, 2001-04-20
被引用文献数
4

本研究では,母娘関係が成人の娘の適応状態を規定する度合いを検証するとともに,娘の結婚や出産といったライフイベントによって母娘関係がどのような発達的移行を経るのかを探索的に調べるために,成人女性415名を対象とした横断的データに基づいて,独身女性,既婚で子どもがいない女性,既婚で子どもがいる女性間での比較検討を行った。その結果,母親との親密性は独身の娘の心理的適応と関連していると同時に,既婚で無職の娘の心理的適応に対してもある程度の効果を持つという結果が得られた。一方,母親への過剰な依存・接触は,職業の有無に関わらず,既婚で子どもがいない女性の心理的適応と負の関連を示していた。また,ライフイベントによる成人期の母娘関係の発達的移行に関しては,独身あるいは有職の娘と比較して,既婚で無職の娘は,母親との親密性が高く,サポートを求める気持ちが強いことが見出された。
著者
富田 昌平
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.230-240, 2004-08-20

本研究の目的は,空想と現実に対する区別認識の違いによって,箱の中に想像した生き物に対する幼児の現実性判断はどのように異なるのかについて検討することであった。幼稚園年中児48名に対して空想/現実の区別課題と空箱課題を行った。まず,空想/現実の区別課題の成績をもとに,幼児を統合型,混同型,否定型,肯定型の4つに分類し,次に,空箱課題における行動や主張を類型ごとに比較した。統合型は空想と現実を適切に区別できた者,混同型は空想と現実を正反対に区別した者,否定型は空想と現実の両方を否定した者,肯定型は空想と現実の両方を肯定した者である。主な結果は次の通りである。第1に,否定型の幼児は他の類型の幼児よりも,空箱課題において箱への探索行動を示すことが多く,加えて,彼らの多くは後の質問において「空っぽだ」と主張することが多かった。第2に,肯定型の幼児は,箱への探索行動をほとんど示さなかったが,その一方で「いるかもしれない」と主張することが他の類型の幼児よりも多かった。第3に,統合型の幼児は他の類型の幼児よりも,願いごとや魔法によって想像が現実になる可能性について判断するときに,単純に"可能か不可能か"で答えるのではなく,条件つきで回答したり,判断を保留したりすることが多かった。以上の結果は,幼児における主張面と行動面での心の揺らぎやすさという点から議論された。
著者
小泉 智恵 菅原 ますみ 前川 暁子 北村 俊則
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.272-283, 2003-12-05
被引用文献数
4

働く母親における仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが母親自身の抑うつ傾向にどのような過程を経て影響を及ぼすのか,そのメカニズムを検討することを目的とした。仮説として仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーの抑うつ傾向に対する直接的影響と,仕事ストレツサー,労働時間,子どもの教育・育児役割負担によって生起した仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが子育てストレス,夫婦関係を介して抑うつ傾向に及ぼすという間接的影響が提出された。方法は,小学校高学年の子どもをもつ有職の母親で配偶者のある者(246名)と同学年の子どもをもつ無職の母親で配偶者のある者(131名)を対象として質問紙調査をおこなった。有職母親群の分析結果で,分散分析により仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが多くなると抑うつ傾向が高くなるという直接的影響がみとめられた。パス解析により仕事ストレツサー,労働時間の増加によって生起した仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが多くなると,夫婦間の意見の一致を減少させ,子育てストレスを高めることを介して抑うつ傾向を上昇させるという間接的影響がみとめられた。考察では仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが抑うつ傾向に影響しないようにするには,夫婦関係と子育てに関して介入,支援をおこなうこと,仕事ストレツサーの低減と労働時間の短縮が有効である可能性が論じられた。
著者
小林 雅子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.79-87, 1997-07-30

在日外国人幼児・児童はフラストレーション状況の場面を見ると, 様々な言語反応を示す。本研究の目的は, 特に発達と在日期間の観点から, 在日外国人幼児・児童と日本人幼児・児童のフラストレーション場面に対する言語反応の特徴を見つけ出すことである。被験者は, 国際学校の幼児22名と小学生24名, 朝鮮学校の幼児30名と小学生27名, 日本の幼児29名と小学生30名であった。調査にはフラストレーション状況を華いたP-F子タディ型の課題が12枚用いられた。言語反応のカテゴリーは因子分析にかけられ, 「自己主張」「注意・不服」「自己抑制」「謝罪・感謝」の4因子が得られた。結果を以下に示す。友達との間で生じるフラストレーション状況場面で, 日本及び朝鮮学校の幼児は自己抑制反応を多く示し, 国際学校の幼児は自己主張反応を多く示すことがわかった。小学生の場合, 在日外国人と日本人の反応にはほとんど違いが見られなかった。国際学校の小学生の在日年数に基づいて反応を比較した結果, 友達との場面で違いが見られた。また, 在目朝鮮人幼児・児童の反応は, 日本人幼児・児童の反応とほとんど変わらないことがわかった。
著者
山名 裕子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.135-144, 2005-08-10

本研究での目的は, 均等配分方略の選択が皿1枚あたりのチップの数によって変化するかどうかを検討することである。配分するチップが4個から20個, 配分先の皿の枚数が2, 3, 4枚の組み合わせによって9課題が設定され, 就学前の幼児160名がチップをお皿に分けるという配分課題に参加した。その結果, 配分するチップの数が少ない課題では, 3歳の幼児でも8割が正しく配分ができること, また3, 4歳では配分するチップの個数が多くなるほど正答者数が少なくなるが, 6歳ではどのような課題でも8割の幼児が正しく配分できるようになることが示された。選択された方略の分析から, 高度なユニット(unit)方略が5, 6歳で多く選択されるような課題があることも示された。このユニット方略とは, 配分する前に, 皿1枚あたりの数を何らかのレベルで把握し, 一巡(1回通り)でチップを配分する皿に分けていく方略と定義される(山名, 2002)。ユニット方略のように皿1枚あたりのチップを配分前に把握できていなくても, 一巡目に配分していくチップの数がバラバラではなく, 1個, あるいは2個以上のまとまりを形成しながら配分していくことが示唆された。このような皿1枚あたりの数を検討づけるような, 見積もりという点がわり算につながるようなインフォーマル算数の知識の視点として, 重要なことが示唆された。
著者
小原 倫子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.92-102, 2005-04-20
被引用文献数
3

本研究の目的は, 母親の情動共感性と情緒応答性が, 育児困難感にどのように関連するのかについて検討することである。0歳児を持つ母親78名と1歳児を持つ母親40名を対象に, 育児困難感と情動共感性について質問紙調査を行った。また, 情緒応答性の把握について, 日本版IFEEL Picturesを実施した。日本版IFEEL Picturesとは, 30枚の乳児の表情写真を母親に呈示し, その写真を通して, 母親が乳児の感情をどう読み取るかという反応特徴から, 母親の情緒応答性を把握するツールである。その結果, 母親の情動共感性及び情緒応答性と, 育児困難感との関連は, 子どもの年齢により異なることが示された。0歳児を持つ母親の育児困難感には, 母親の情動共感性が関連しており, 1歳児を持つ母親の育児困難感には, 母親の情緒応答性が関連していることが示された。母親の育児困難感は, 母親としての経験を重ねるにつれて, 母親要因である情動共感性よりも, 母子相互作用から生じる情緒応答性が関連要因となる可能性が考えられた。
著者
園田 菜摘
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.177-188, 1999-12-31

3歳児が示す他者の欲求, 感情, 信念理解の個人差について, その特徴と母子相互作用との関連を検討した。51組の母子の相互作用を家庭で観察し, ごっこ遊び場面と本読み場面における内的状態への言及頻度をカウントした。その後, 子どもに欲求, 感情, 信念理解を調べる課題を行った。その結果, 3歳児の他者理解の特徴として, 全体的には感情理解の成績が高く, 信念理解の成績が低いが, どの課題においてもそれぞれ大きな個人差が存在していることが示された。このような他者理解の個人差と関連する柏互作用要因について, 欲求理解では母親の本読み場面での思考状態への言及とごっこ遊び場面での応答的な内的状態への言及との問で, 信念理解については母親の両場面での思考状態への言及, ごっこ遊び場面での応答的な言及, 本読み場面での繰り返し的な言及との問で, それぞれ関連があることが示された。さらに, 子どもの月齢や性別, きょうだい数といった柏互作用以外の要因と他者理解との問にはほとんど関連が見られなかった。このことから, 3歳児の他者理解を促す要因として, 家庭での相互作用, 特に場面に応じた内的状態への言及の重要性が示唆された。
著者
石井 京子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.186-194, 1997-10-30

高齢者の老人病院への入院により, 家族がその後の高齢者介護に対しどのような意識を持つのかを明らかにすることを目的に, 家族に郵送質問紙調査と医療者による患者実態調査を行った。さらに, 同対象の2年後の追跡調査を行い, 実際の退院に関与した要因の分析を行った。分析は老人病院に入院中の高齢者の家族のうち, 家族調査と医療者側の患者実態調査が揃っている561名について行った。結果は次のとおりである。高齢者の平均年齢は79.0歳で, 75歳以上では女性が多い。入院中の家族は37.8%が高齢者の退院後の生活場所として家庭を考えているが, 医師・看護婦の在宅可能者の判断と一致しなかった。家族の家庭意向に影響する要因は今回以前の入院経験と入院期間, 住居に段差問題がない, 福祉サービスの利用経験, 今回の入院期間の長さ, 現在の痴果度, 家族の面会頻度などである。2年後の追跡調査の結果, 自宅への退院は5.7%であった。退院に関与する要因は入院期問が6ケ月以内である, 現在の痴呆が軽度, 入院時の家族の意向が在宅介護, 医師・看護婦が在宅可能の判断などであった。このように入院中の在宅介護意向と実際の退院へ影響する要因は類似している。今後は在宅介護の意向を持っている家族が, 入院期間が長期になるとその意欲を失っていくことを防ぐために, 家族への頻繁な面接や退院に向けての家屋の改造などの専門的援助が, 入院時から継続して行われることの必要性が明らかになった。
著者
井上 (中村)徳子 外岡 利佳子 松沢 哲郎
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.148-158, 1996-12-20
被引用文献数
1

西アフリカ, ギニアのボッソウにおいて継続研究されている野生チンパンジーの道具使用行動の形成過程について検討した。1990年から設置されている野外実験場では, おもにチンパンジーのヤシの種子割り行動に関する直接観察およびピデオカメラによる録画がおこなわれてきた。本稿では, 1992年度と1993年度におこなった2回の調査で録画したピデオテープ資料をもとに, とくにチンパンジー乳幼児6個体(0歳以上3歳未満)におけるヤシの種子割り行動の発達過程を分析した。逐次記録法により, 各個体にみられるヤシの種子割りに関連する行動すべてをリストアップし, 全部で計310の行動事例からなる行動目録を作成した。この行動目録を(1)種を扱う行動, (2)石を扱う行動, (3)種と石の両方を扱う行動, (4)他個体に関わりつつ種や石を扱う行動, (5)ヤシの種子割りをする他個体に関わる行動, という5つの行動カテゴリーに分類した。さらに各行動カテゴリー内の行動事例を, 操作の方向・段階・複雑性などに着目して, 2〜4つのサブカテゴリーに分類した。こうした行動カテゴリーないしサブカテゴリーに属する行動事例の相対頻度を年齢群ごとに比較したところ, 加齢とともに, (1) 種と石の両方を扱う行動が増加する, (2)種や石に関する2種類以上の操作を連鎖する行動が増加する, (3) 種や石を同時並行に操作する行動が増加する, (4) 他個体の扱う種や石に対して働きかける行動が増加する, (5)他個体に接触しないで観察する行動が増加する, ことなどが明らかになった。チンパンジー乳幼児がヤシの種子割り行動を形成するには, エミュレーションによって自らの試行錯誤を繰り返しながら, これらの柔件を満たすことが必要であると示唆された。
著者
武田-六角 洋子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-11, 2000-06-30

本研究では, 児童期抑うつの特徴をより明確にするため, 成人の抑うつに比し特異的とされる"攻撃性"に注目し, 児童 (小学3〜6年生) とその保護者をペアにして調査した。具体的には, 子どもには自己報告形式の抑うつ尺度と, 攻撃性の特徴を見るP-Fスタディを, 保護者には (予どもの) 気質尺度を実施した。次に, 抑うつ尺度をもとに子どもを2群 (高抑うつ傾向群と低抑うつ傾向群) に分け, 各々に保護者報告により得られた気質 (内向気質か外向気質か) を付与した後, P-Fスタディで得られた各評点因子につき分散分析を行った。気質と攻撃性については, 有意な結果は得られなかったが, 抑うつと攻撃性については興味ある結果が得られた。すなわち, 抑うつ傾向の高い児童の方が他者に対する攻撃性が高く, 自己に対する攻撃性が低かったのである。この時期の子どもにとって, 抑うつの低さは内省力を促し, 攻撃性も他者より自己に向かう傾向に結びつくが, 抑うつ傾向の高い子どもでは, 攻撃性が未熟な形で他者に向かい, 自分自身に目が向きにくくなるという特徴が見られた。成人の抑うつが過度の内省や罪悪感を特徴とするのに対し, 児童期の抑うつは, 目常場面での他者への高い攻撃性を特徴としていることが明らかになった。
著者
藤崎 春代
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.221-231, 1998-12-15

本研究では, 1日および1週間単位での日課が異なる2園(幼稚園と保育園)に所属する4・5歳クラス児に対して, 園生活の流れについて個別面接調査を行い, 多様な出来事についてどのような一般的出来事表象(GER)を形成しているのかについて検討した。すべての子どもに, 「いつも園では何をするか?」と園生活全体の流れを聞く質問を行うとともに, 幼稚園の一部の子どもには「今日は何をしたのか?」, 残りの子どもには「*曜日は何をするか?」という質問を行った。分析の結果, まず, 行為を述べる際に主語無しで現在形表現をしており, 時間的順序も一定であるなど, 幼児が園生活GERを形成していろことが確認された。しかしながら, 幼椎園児の特徴として, 子どもが共通に述べる行為数は少なく, これは幼稚園生活において生活習憤的活動が少ないことによると思われた。多様性の表象の仕方については, GERとしてではなくエピソード的に記憶する, 多様性を園生活GERの変化項としてとらえる, 条件により園生活GERを形成し分ける, の3タイプが検討された。
著者
小野寺 敦子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.180-190, 2003-08-15
被引用文献数
7

妊娠7-8ヵ月から親になって3年間の間にどのように自己概念が変化するかに焦点をあてて検討した。自己概念は,「活動性」「怒り・イライラ」「情緒不安定」「養護性」「神経質」「未成熟」の6尺度,さらには可能自己,自尊感情の視点から縦断研究を行って検討した。その結果,女性は母親になると「怒り・イライラ」が徐々に強くなってきたと自己をとらえていたが,他の5尺度では有意な変化はみられなかった。これは男女ともに気質的な側面を示す自己概念は親になっても比較的安定していることを示している。また親になる前後にみられた自己概念全体のズレの要因を検討した。女性の場合は妊娠期における身体的・精神的戸惑いが,男性の場合は,育児の否定的側面のイメージが希薄であることと,学歴が低いことが自己概念全体のズレと関連していた。また女性は母親になると自尊感情が低くなる傾向がみられた。次に,親としての役割意識の変化を"3つの自分"という観点から検討した。その結果,男女で大きな相違が見られた。女性は母親になると「社会にかかわる自分」が小さくなり「母親としての自分」が大きくなっていた。しかし男性は父親になってからも「父親としての自分」の大きさは変化せず「社会にかかわる自分」の割合が大きくなっていた。
著者
藤田 文
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.227-235, 2007-12-20

本研究の目的は,魚釣りゲーム場面における幼児の交互交代行動の発達を検討することであった。4歳児(年中児)から5歳児(年長児)の同年齢のペア52組に魚釣りゲームで遊んでもらった。年中児の平均年齢は5歳0ヶ月で,年長児の平均年齢は5歳11ヶ月だった。この状況では1本の釣り竿しかゲームに使用することはできなかった。10分間のゲームの過程がビデオ録画された。ビデオ分析の結果,年中児よりも年長児の方が明確な規準で交代しており,特に年長女児でその割合が高いことが示された。また,年長女児では,釣り竿をもって実行している子どもが主導する交代が多いことも示された。これらの知見から,年長児は年中児よりもゲームの中で他者の行為を考慮していること,特に女児で男児よりもその傾向が早く発達することが示唆された。
著者
礪波 朋子 三好 史 麻生 武
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.158-167, 2002-08

本研究の目的は,幼児同士の共同意思決定場面で子ども達が実際に行った相互作用を詳細に分析し,そこで生じる対話の構造を検討することであった。幼稚園年中児28名(平均年齢5歳3カ月),年長児58名(平均年齢6歳0カ月)が同性2人組でロケット模型の中に入り,退出するという共同意思決定をするか,15分経過し実験者が迎えに来る時まで乗り続けた。ロケットから降りるか乗り続けるかを巡る子ども達の発話及び行動を分析した。その結果,両者の意見が一致しても必ずしも最終的な共同意思になるとは限らないことが明らかになった。実際の退出を巡るやりとりの中で,約60%の子ども達が1回以上意見変容していた。どちらも3回以上意見変容するペアも全体で16%存在した。また,自己の直前の意見を変えたり他者を裏切るような変容が全意見変容の24%を占めていた。以上の結果より,幼児の意思は変わり易く,他者とのやりとりの「場」の中で揺らぎながら生成されていくことが明らかになった。本研究では,幼児期の顕著な意思の揺らぎを,精神内機能がまだ十分に発達していないときに意思決定を精神間交渉に委ねていることを示すものとして捉えた。最後に,この時期に自己と他者の異なる意見を折裏したダブルボイス発話が少し見られたことは内的対話が可能になり精神内機能が発達してきた萌芽と考えられることを指摘した。
著者
長屋 佐和子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.156-164, 2005-08-10
被引用文献数
2

0〜24ヶ月児の母親(120名)を対象として, 自身の子どもの性別・数・年齢が乳幼児表情写真(IFEEL Pictures)に対する情緒読み取り傾向に与える影響について検討した。その結果, (1)情緒読み取りには子どもの性差の影響が認められ, 息子をもつ母親に比べて娘をもつ母親のほうが受動的な情緒(「恥」・「注意」)の読み取りが多い, (2)子どもが1人の場合は息子をもつ母親のほうが「不満」に注意を払う傾向があり, 子どもが複数の場合は娘をもつ母親のほうが受動的情緒(「恥」・「注意」)の読み取りが多い, (3)子どもの数にかかわらず, 息子をもつ母親は子どもの年齢が高くなるほど「自己主張」および肯定的情緒を多く読み取る傾向があるが, 娘の場合にはそのような関係が見られない, (4)子どもが複数の場合, 息子との関係では, 子どもの年齢が高くなると「対象希求」が増加, 「我慢」が減少する傾向がある, などの所見が得られた。従来の観察研究によれば, 母親は息子との間に肯定的な関係性を維持する傾向があるのに対し, 娘との間では多様な情緒による相互作用が行われる, とされてきた。本研究の所見から, 母子の行動上の特徴だけでなく, 母親側の認知側面においても同様の傾向が確認された。このように母親の認知面に注目することによって, 今後さらに母子相互作用の様相が明らかになると同時に, その所見の臨床場面への応用が可能になると思われる。