著者
亀坂 安紀子 田村 輝之
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.54-56, 2011 (Released:2012-03-29)
参考文献数
8

東日本大震災発生以前には,景気回復の期待から上昇基調にあった株価は,震災後一旦急落し,その後数日のうちにある程度回復した.近年,日本の株式市場で大きな取引シェアを占めているのは海外の投資家であるが,震災直後も,海外の投資家は市場で活発に取引を行っていた.震災前後に日本の株式をネットで購入していたのは,海外の投資家だけであったが,この間主要な売り手となっていたのは,東証1部では証券会社(証券自己売買)であり,東証2部および東証マザーズでは,個人投資家であった.海外の投資家の内訳をみると,震災が発生した3月には,北米,アジアの投資家がネットの買い手となっていた一方,欧州の投資家はネットの売り手となっていた.震災前後における市場別(3市場1・2部等の合計,東証1部,東証2部,東証マザーズ)のVAR分析においても,3市場1・2部等,東証1部のデータを使用した場合は,証券会社や海外の投資家の売買が市場に相対的に大きな影響を与えており,東証2部,東証マザーズの場合は,個人投資家や海外の投資家の売買が大きな影響を与えていた.
著者
佐野 一雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.32-36, 2014 (Released:2015-06-02)
参考文献数
6

アリの巣の近くに同じ条件で二つの砂糖の山をおくと,アリはどのように群がるだろうか? Kirman (1993)はアリの社会的な集団現象のプロセスを簡単なモデルで説明し,興味深いシミュレーションを行った.証券市場におけるファットテイル現象はよく知られているが,その原因はまだ十分に解明されていない.Nirei and Watanabe (2014)が,やはりKirman (1993)の延長線上に,ファットテイル現象のミクロ経済学的な基礎づけを試みているものの,MLRP,リスクニュートラル,右上がりの需要曲線,自動的な供給など,モデルに不可欠な強い仮定が多く,その理論構造はきわめて複雑である.本稿では,単純な証券市場のモデルを設定し,Kirman (1993)のモデルを応用することで,価格変化に見られるファットテイルを再現する.Kirman (1993)およびNirei and Watanabe (2014)と同様に,Keynes (1936)の美人投票モデルを念頭に,経済主体の独立性と相互依存性のバランスがファットテイルの原因であることを示す.
著者
八木 匡
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.212-215, 2012 (Released:2013-05-29)
参考文献数
3

本稿では,コミュニティ活動への参加行動を,心理的コストを明示的に含んだモデルによって明らかにし,個々人の行動がコミュニティ活動の質に影響を与えるメカニズムを通じて,コミュニティ活動の価値を内生的に決定するプロセスの中で,どのような均衡が生まれるかを分析し,心理的コストが社会的非効率性をもたらすメカニズムを明らかにする.
著者
北村 智紀 中嶋 邦夫
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.50-69, 2010 (Released:2011-04-08)
参考文献数
38

本稿は,わが国の典型的な30∼40歳代の男性会社員が労働収入を得ている家計を対象に,老後の生活に備えるための長期的な株式投資(資産保有·配分)の決定要因を独自のデータを利用して実証的に分析した.株式保有の有無に関しては,株式投資に対する期待リターン,年収,金融資産額が関連していたが,これ以外にも,金融や経済に関する基礎的な知識の多寡や主観的な株式投資コストの影響が大きかった.株式保有者の株式配分に関しては,株式期待リターン,主観的な株式投資コスト,基礎知識の多寡が重要な影響を与えていた.株式非保有者が今後に株式投資を行うかについては,株式期待リターンとの関連性が大きかった.特に,株式期待リターンは株式保有の有無,株式保有者の株式配分,株式非保有者の今後の株式保有の何れの意思決定にも大きな影響があったが,株式保有·株式配分については,金融や経済に関する基礎知識及び主観的な株式投資コストといった行動経済学的な要因が,過去の実証研究で重要な決定要因とされた年収や金融資産と同様に大きな影響力があることが確認された.
著者
荒井 弘毅
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.61-64, 2008 (Released:2011-12-03)
参考文献数
11

近年,民事訴訟における,仮の地位を定める仮処分の申し立てが頻発している.この仮処分に関しては,本案の上訴率と比べ,不服申立て率も取消率も低い.本稿は,この要因につき訴訟遂行にかかる費用の点から当事者は本案を求めることが多くないことを示し,上級審での勝訴の確率を考慮した上での訴訟当事者の意思決定の性質の点から検討した.
著者
後藤 晶
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.11, no.Special_issue, pp.S35-S38, 2018 (Released:2019-04-19)
参考文献数
15

人間は常にいつ生じるかわからない「変動」に直面しながら生きている.本研究においては突然起こる外生的な変動を「カタストロフ」と定義する.本研究においてはそれらの変動が利他行動に与える影響を検討する.そのために,パートナーマッチング繰り返し公共財ゲームと独裁者ゲームを組み合わせた新たなゲームである「公共財カタストロフ独裁者ゲーム」を考案し,クラウドソーシングを用いた大規模オンライン実験による実験的な検証を行った.その結果,①分配率は損失者が分配者,もしくは受益者であると大きくなること,②損失者による分配額に比べて,非損失者による分配額の方が大きいこと,③損失者に対する分配の頻度が多い,また非損失者による分配の頻度が多いことなどが明らかとなった.これらの結果は災害等の事象が生じた際の協力行動は利他的動機に支えられている可能性を示唆している.今後の課題として,外集団に対する行動傾向の解明,およびクラウドソーシングを用いた実験の妥当性の検討があげられる.
著者
Shinsuke Asakawa
出版者
Association of Behavioral Economics and Finance
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.26-46, 2021 (Released:2022-01-21)
参考文献数
44

Many studies suggest that the expansion of the child benefit (CB) policy increases child-rearing spending, as it offers mental accounting properties or a labeling effect. However, it remains unclear whether this increase in child-rearing expenditure is simply an income effect related to the CB expansion, or whether the preference for child-rearing expenditure changes relative to other goods at the same time as the income effect; that is, whether the slope of the indifference curve changes. This study examines the effects of Japan’s CB expansion on parental preferences for childcare and children’s education; we find that, on average, CB expansion increased parents’ priorities for childcare. A subsample analysis revealed that low-income households with children younger than 13 years preferred childcare more, while high-income households with children in elementary school (7–12 years old) preferred better child education instead of decreasing their childcare priorities. These results indicate that the impact of unexpected CB expansion on parents’ preferences for childcare and children’s education differs, depending on the child’s age and household income. The most important implication of this study is that, when expanding CB, governments should carefully choose target households in light of policy objectives and avoid widening the opportunity gap among households, considering the heterogeneous impacts of CB expansion on parents’ preferences for childcare and children’s education.
著者
岩崎 雄也
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.12, no.Special_issue, pp.S22-S24, 2019 (Released:2020-03-17)
参考文献数
6

本論文は「最低賃金を引き上げることで企業の生産性が向上する」という見解について,日本を対象に実証分析を行った結果を報告するものである.なお,対象業種は小売業および宿泊・飲食サービス業,対象期間は2003年から2017年とし,分析にあたっては企業別のパネルデータを使用した.結果として,日本では最低賃金の引き上げによって企業の労働生産性が向上する一方で,雇用は減少し,さらに付加価値額や労働時間には有意な影響はないことがわかった.これはすなわち,最低賃金を引き上げることで企業の労働生産性は向上するものの,それは雇用に対する負の影響によってもたらされた結果である可能性を示唆している.
著者
久米 功一 小林 庸平 及川 景太 曽根 哲郎
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.93-96, 2013 (Released:2014-08-12)
参考文献数
8

本稿では,仮想的な質問で得られた,法人税の増税や減税に対する企業行動の違いについて,リスクシェアリング,調整・取引コスト,法規制,赤字企業,非流動資産比率に着目して探索的に分析した.その結果,企業と従業員はリスクをシェアしており,売上高が大きく,流動資産が低く,赤字であり,労働法制を配慮している企業ほど,法人税の増減に対する対応に非対称性があることがわかった.
著者
石部 真人 角田 康夫 坂巻 敏史
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.256-259, 2012 (Released:2013-06-12)
参考文献数
11

日本株式市場において,個別銘柄は1~6月は上昇し7~12月は下落という明瞭な季節性を示す.この季節性とボラティリティとの関係を調べた結果,上昇期は高リスク・高リターン,下落期は高リスク・低リターンという関係が見られた.この原因として,投資家が年前半はリスク追求的になり,年後半はリスク回避的になるという様にリスク選好が季節変化している可能性が考えられる.ボラティリティの高い銘柄は相対的に低リターンというボラティリティ効果は上昇期よりも下落期の影響が大きいため発生している.投資家のリスク選好が季節変化している理由は,効果が半年間持続していることを考慮すると,冬至から夏至,夏至から冬至に至る日の長さの変化による説明に説得力があると思われる.
著者
俊野 雅司
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.14, no.Special_issue, pp.S5-S8, 2021 (Released:2022-03-18)
参考文献数
13

新規株式公開(IPO)に関しては,アンダープライシングとアンダーパフォーマンスという2種類のアノマリーの存在が指摘されている.わが国のIPO市場に関しても数多くの先行研究が行われており,わが国特有のブックビルディング(BB)方式の仕組みや引受会社の仮条件の設定方法に原因があるのではないかという指摘が見られる.本稿では,2022年4月から東京証券取引所において大幅な市場改革が行われることに先立ち,先行研究のサーベイを行うとともに,1992年以降わが国でIPOを実施した2,950銘柄を対象にIPO前後の価格形成に関する追検証を試みた.その結果,公開価格の決定方法がBB方式へ変更されて以降,新興企業向け市場を中心に初値収益率の大幅な上昇傾向が再確認できた.ところが,BB方式への変更後は,本則市場への上場銘柄では中長期的にオーバーパフォーマンスが発生しているなど,わが国特有の価格形成が見られる.
著者
山本 竜市 平田 英明
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.51-53, 2011 (Released:2012-03-29)
参考文献数
9

本研究では第一に,日本の投資家が期待を形成する際,ファンダメンタル戦略・トレンドフォロイング戦略を用いていることを示す.第二に,それら戦略を時間を通じて使い分けているという意味で「戦略の切り替え」を行なっていることを実証する.第三に,この「戦略の切替え」が実証的に見て日本の株価のファンダメンタル価格からの乖離を説明する上で重要であることを示す.本研究ではデータをバイサイドとセルサイドに分けて両者の「戦略の切替え」を検証し,戦略の切替の株価への影響の大きさを分析し,その影響の度合は投資家の属性により異なることを示す.
著者
髙橋 秀徳
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.88-95, 2019-01-22 (Released:2019-01-19)
参考文献数
36

本稿は新規株式公開(IPO)の価格形成に関する理論及び実証研究のレビューを行う.IPOパズルについては長い研究の歴史があるが,絶えず新たな研究が発表されている.近年の研究では,テクノロジーの発展に伴い新しい種類のデータや分析手法を利用することで,IPOパズルの解明が進んでいる.本稿では,この分野で特に行動ファイナンスが果たした役割に焦点を当て,IPO研究の過去と未来を俯瞰する.
著者
加藤 大貴 佐々木 周作 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.15, no.Special_issue, pp.S22-S25, 2022 (Released:2023-03-20)
参考文献数
6

本研究は,日本の風しん追加定期接種において2019年度から実施されたクーポン券送付施策の効果を,地方自治体の行政データと全国規模のオンライン調査データを用いて検証する.追加定期接種は,日本が風しんに対する集団免疫を獲得するために,抗体保有率の低い40~57歳の男性を対象に実施されるものである.クーポン券は自治体を通じて段階的に送付され,初年度の2019年度には,40~46歳の男性に限定して送付された.47~57歳の男性がこの年度中にクーポン券を受け取るには,居住地域の自治体に自分から申請する必要があった.分析では,年齢によって2019年度にクーポン券が自動的に送付されるかどうかが決まることを利用した回帰不連続デザインで,クーポン券の送付の効果を推定した.その結果,クーポン券の送付は,申請の取引費用の抑制と追加定期接種の認知度の向上を通じて,抗体検査の受検率とワクチン接種率を高めることが明らかになった.
著者
田村 輝之 江口 尚孝
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.97-100, 2011 (Released:2012-03-29)
参考文献数
9

本稿では,日本の労働市場におけるオイルショック以前,オイルショック期,バブル期,就職氷河期における職務満足度に対する特有の効果(コーホート効果)が存在しているか否かについて統計的に検証を行う.学卒時点における労働市場の需給状況が,その後の賃金や離職に長期的な影響を及ぼすことは,「世代効果」として多くの研究の蓄積が行われている.本稿では,これらの先行研究を踏まえた上で,初職の参入時期が調査時点における職務満足度にどのような影響を及ぼすかについて検討する.
著者
Takuya Ishino Akiko Kamesaka Toshiya Murai Masao Ogaki
出版者
Association of Behavioral Economics and Finance
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.269-272, 2012 (Released:2013-06-12)
参考文献数
1

Using large panel data which consist of responses from over 4000 households in all over Japan, we analyze changes in people's worldviews and subjective well-being (happiness) before and after the Great East Japan Earthquake. As a result we find that 1) there were more people—more than six times as many—who replied that their happiness improved after the earthquake than those who said it worsened, and also that 2) many more Japanese people have become more altruistic since the earthquake, even in the most affected areas. One possible interpretation of these results is that many Japanese became more altruistic as a result of the Great East Japan Earthquake, made donation, and donating improved people's happiness. Our regression analysis that allows for reverse causality yields results that are consistent with this interpretation.
著者
佐々木 周作 河村 悠太 渡邉 文隆 岡田 彩
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.14, no.Special_issue, pp.S9-S12, 2021 (Released:2022-03-18)
参考文献数
5

個人寄付の促進施策は,寄付金控除やマッチング寄付などの金銭的インセンティブを用いる施策から,過去の寄付者や有名企業・著名人の寄付情報といった提供情報の内容や表現を工夫する施策まで多岐に渡る.行動経済学研究を含む学術研究によって施策の有効性が実験で確認されているものも多いが,非営利組織の実務で活用されるかどうかは資金調達業務を担当するファンドレイザーが施策を効果的と評価しているかどうかに依存すると考えられる.本研究では,282名の現役ファンドレイザーにアンケート調査を独自実施して,12種類の施策の,寄付を促進する効果と寄付者満足度を高める効果に対する主観的評価を測定した.ファンドレイザーの回答傾向を相対化する目的で,497名の寄付者にも同様の調査を実施した.結果として,いくつかの施策に対する評価が二者間で大きく異なることが分かった.例えば,ファンドレイザーは「間接経費無し・振込み手数料の負担無し」の施策を12種類の施策の中で相対的に寄付を促進せず,寄付者満足度を高めないと評価したのに対して,寄付者は,寄付を促進し寄付者満足度も高めると真逆の評価をしていた.
著者
山口 勝業
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.12, no.Special_issue, pp.S1-S4, 2019 (Released:2020-03-17)
参考文献数
11

「日本人の金融リテラシーは米国人よりも低い」という通説があるが,じつは金融リテラシー調査の質問票の文面や回答者のバイアスによって米国のスコアが日本よりも高めに出ている疑いがある.これらの点を考慮すれば,金融リテラシーの客観的知識では日本人と米国人の違いはほとんどなく,主観的知識では米国人の自信過剰バイアスがスコアを高めていると思われる.
著者
平井 啓 佐々木 周作 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.10, no.Special_issue, pp.S20-S25, 2017 (Released:2018-04-12)
参考文献数
11

本研究では,乳がん検診の受診行動と乳がん罹患や乳がん治療に関するヘルス・リテラシーとの関連性について検討を行った.40歳台・50歳台の女性を対象として,横断的デザインによるオンライン・アンケート調査を実施し,1,628名を対象とした解析を行った結果,乳がん検診の受診経験および計画意図と,乳がんの罹患リスク認知の高さ,乳がん検診と乳がん治療の効果に関する利得の認識の高さ,乳がん治療に対する知識の豊富さ,すなわちヘルス・リテラシーの高さが関連することが明らかになった.この結果は,乳がん検診の受診により,実際よりもかなり大きめの罹患リスクの認識を形成し,それが検診受診の目標意図を形成すると解釈することが可能である.一方,乳がん罹患のリスク認知を大きく高めることが受診意図の形成に貢献する可能性も考えられる.これらの因果関係の識別には,ランダム化比較試験等を採用した介入研究による検証が今後必要である.