著者
佐伯 政男 前野 隆司
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.3, pp.146-152, 2010

幸福度を継続的に自己管理するための手法として,カレンダー·マーキング法を開発した.カレンダー·マーキング法は,一日の終わりにその一日を振り返り,主観的な評定を行う手法である.すなわち,評定の結果,その日がよい日であったら「◯」,悪い日であったら「×」,どちらでもない日であったら「△」をカレンダーの日付欄に記録する.心理学部の学部生を対象に,10週間,手法の実施を行った.実施後に測定したThe Satisfaction with life Scale (SWLS)では,手法の実施群と対照群のSWLSに統計的に有意差は見られなかった.SWLSと各被験者の各記号の総数との相関係数は,◯,△,×,それぞれ,0.506,-0.439,-0.237であった.分析の結果,よい日にも悪い日にも△を付ける傾向が見られた.◯を増やし△と×を減らすことによって幸福度を向上させうることが示唆された.また,被験者間,被験者内で各記号の報告には変動性が見られたことから,本手法で得られた結果は,主観的幸福度の測定手法として利用されうることを示した.
著者
布施 匡章
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.114-117, 2015 (Released:2016-05-07)

本研究では,内閣府が実施した,神戸,名古屋,仙台の3都市アンケートデータを用いて,地域コミュニティの代理変数としてのソーシャル・キャピタルが,防災活動における自助・共助意識に与える影響について分析した.地域別,あるいは震災経験別による分析の結果,自助の防災意識は,ソーシャル・キャピタルだけでなく,年齢,学歴,年収等によって高まることが示唆されたが,共助の防災意識は,ソーシャル・キャピタルのみが影響し,特にネットワーク,互酬性の規範と呼ばれる地域行事や地域活動が影響する可能性があるとされた.また,震災を経験した住民は経験していない住民よりも,共助意識とソーシャル・キャピタルを高める活動との相関が高いことが分かった.地域行事や地域活動への参加を促す政策が,自助のみならず共助による防災につながると考える.
著者
川越 敏司
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.12, pp.15-25, 2019

<p>実験経済学においては被験者の選好統制を行うために報酬を支払うが,これまで使用されてきた様々な報酬支払法のどれにも問題があり,これらの問題を回避するには1回限りの実験を行う必要があることを提案する.</p>
著者
石部 真人 角田 康夫 坂巻 敏史
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.5, pp.256-259, 2012

日本株式市場において,個別銘柄は1~6月は上昇し7~12月は下落という明瞭な季節性を示す.この季節性とボラティリティとの関係を調べた結果,上昇期は高リスク・高リターン,下落期は高リスク・低リターンという関係が見られた.この原因として,投資家が年前半はリスク追求的になり,年後半はリスク回避的になるという様にリスク選好が季節変化している可能性が考えられる.ボラティリティの高い銘柄は相対的に低リターンというボラティリティ効果は上昇期よりも下落期の影響が大きいため発生している.投資家のリスク選好が季節変化している理由は,効果が半年間持続していることを考慮すると,冬至から夏至,夏至から冬至に至る日の長さの変化による説明に説得力があると思われる.
著者
高阪 勇毅 Mardyla Grzegorz 竹中 慎二 筒井 義郎
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.5, pp.189-192, 2012

本論文は,気質効果の存在とその原因を経済実験によって調べた.本論文の特徴は次の3つである.第1に,現実の株式市場に似た取引環境を構築し,経済実験の環境下で現実の取引行動に近いデータを取得し,分析したことである.第2に,被験者の参照価格をアンケート調査から特定し,気質効果の存在を単独で検証していることである.第3に,損失局面と利得局面における各危険回避度を計測し,プロスペクト理論における損失回避が気質効果の原因の一つであることを検証したことである.
著者
山根 智沙子 山根 承子 筒井 義郎
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.2, pp.145-148, 2009

本稿は,大阪大学21世紀COEが実施したアンケート調査を用いて,所得と幸福度による地域間格差を分析した.まず,幸福度の格差は所得の格差より小さいことを見出した.次に,個人属性に由来する部分を調整した場合,県別での幸福度の差はほとんど解消することを見出した.また時系列でみると,所得格差は拡大したが,幸福度の格差は拡大していないことを示した.
著者
筒井 義郎
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.12, pp.1-14, 2019

<p>本稿は,結婚が幸福度に及ぼす影響に関連する研究をサーベイし,以下のような結果を報告する.結婚している人はしていない人より幸福である.結婚と幸福の因果関係については,両方向の関係が確認されている.一般に幸福感にはベースラインがあり,結婚というライフイベントについても,いったん上がった幸福感は速やかに下がっていくことが確認されている.しかし,順応が完全であるかどうかについては論争があり,決着していない.なぜ人は結婚するのか,どのようなカップルが結婚し幸せになるのかについて,Becker (1973) は家庭内生産というモデルを提示して,家庭内分業が効率的であり,それでも多くの特質については似たもの夫婦が効率的であることを示した.後者は選択配偶仮説として,心理学や社会学の分野で精力的に研究されており,価値観や性格が似たものが結婚し,幸福であるという結果を報告している.</p>
著者
山村 英司
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.75-87, 2019-01-22 (Released:2019-01-19)
参考文献数
92

所得の不平等は古くから経済問題で,不平等を小さくするため所得分配政策は適切にと取られるべきであると認識されている.2010年代に入り近年では国内の所得の不平等が原因となって,反グローバル主義が台頭し貿易自由化を推進してきた米国などが閉鎖経済を志向する政策を取るようになった.このような現実を反映し,21世紀に入り経済学において不平等や所得再分配の問題を考察する研究が数多くなされている.とりわけ人々の心理面を考慮に入れた行動経済学において,先端的手法により分析が進められ重要な知見が蓄積されている.本稿では古くも新しい不平等の問題を,経済学はどのように分析してきたかを振り返る.そして,行動経済学に残された今後の課題に触れる.
著者
山田 歩
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.12, pp.S41-S44, 2019

<p>ナッジはしばしば理性ではなく直感に働きかけ意思決定を操作する.本研究は,意思決定者がナッジによる操作をどれほど自覚しているのか,また,ナッジを開示することがナッジによる操作からの離脱を可能にするのか,の2点について検討した.実験1は,デフォルトの影響力を意思決定者の多くが自覚しないことを示した.実験2は,デフォルトを開示しても,意思決定者の多くはデフォルトから受ける影響力を認めないこと,また,意思決定を修正しないことを示した.これらの知見がリバタリアン・パターナリズムにおいて持つ意味について考察した.</p>
著者
髙橋 勇太 植竹 香織 津田 広和 大山 紘平 佐々木 周作
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.12, no.Special_issue, pp.S9-S13, 2019 (Released:2020-03-17)
参考文献数
7

本稿では,日本の地方自治体へのナッジの実装を推進する横浜市行動デザインチーム(YBiT)について,体制構築及び普及戦略の観点から分析することで,地方自治体におけるナッジの展開方法への示唆を得る.まず,体制構築については,先行研究をベースに海外諸都市のナッジ・ユニットとの比較を行った上で,専門性や行政・政治からのサポートなどの必要要素について整理した.地方自治体では,専門的な人材全てを内製化することが困難であるため,外部の専門家との連携が必須であると考えられる.次に,普及戦略については,地方自治体内にナッジを普及させる上での課題とそれへの対策について,独自に検討した普及プロセスモデルに基づき整理した.今後はこれらの実践モデルが理論化され,国内地方自治体でのナッジの実装や,国内のエビデンスが蓄積され,政策効果及び効率が向上されることが期待される.
著者
池田 新介
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.12, pp.62-74, 2019

<p>本稿の目的は,セルフコントロール(自制)と意志決定の関係についての研究を展望することによって,行動経済学を含めた経済学の今後の研究の発展に資するところにある.二重処理理論の観点からセルフコントロールを定義し,意思決定や行動への含意を実証と理論の両面から総括する.実証知見については,行動上のさまざまなアウトカムへの影響やセルフコントロールによる消耗について,経済学では馴染みの薄い心理学等隣接分野の知見を含めて整理する.セルフコントロールの理論的含意については,誘惑理論に基づいた二重自己モデルを取り上げ,意志力の限界を考慮した新しい消費理論の可能性について考える.セルフコントロールコストの凸性とセルフコントロールの異時点間代替という定型的事実が,意志力を内生化することでうまく記述される.</p>
著者
竹林 正樹 吉池 信男 小山 達也 鳥谷部 牧子 阿部 久美 中村 広美 平 紅
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.11, no.Special_issue, pp.S9-S12, 2018 (Released:2019-04-10)
参考文献数
7

【目的】シンプルな肥満予防介入として体重測定促進研修会を実施し,週1回以上の体重測定習慣化について比較検証することを目的とした.【介入・解析】青森県出先機関職員向け研修会の応募者(適格条件:体重測定頻度が週1回未満)から3人単位のクラスターを作成し,乱数表で無作為にクイズ群,行動宣言群,成功回顧群の3群に割り付け,RCT(1時間の研修会および一斉メールによる介入)を行った.また,別地域の職員を参照群に設定し,6か月後の体重測定行動を並行群間比較した.【結果・考察】クイズ群20人,行動宣言群22人,成功回顧群22人,参照群44人を解析した結果,介入3群全体で6月後体重測定者は44%(参照群2%,p<.001)であった.中でも成功回顧群は59%と最も高い効果がみられた.ただし,本研究にはサンプルサイズ等に関する限界がある.
著者
岩城 康史
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.11, no.Special_issue, pp.S31-S34, 2018 (Released:2019-04-19)
参考文献数
3

特許に付与されるIPC分類より算出した“技術領域の幅”による特許の価値への影響について分析した.その結果,1990年以降において,破壊的イノベーションに見られるような幅広い技術領域をカバーする特許を有する企業の価値が高まっていることが示唆された.
著者
Nakazono Yoshiyuki
出版者
Association of Behavioral Economics and Finance
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.239-242, 2012

In this paper, we use panel data to test whether Federal Open Market Committee (FOMC) board members' forecasts are rational. Rationality is rejected in the sense that forecasts by members are heavily dependent on previous own forecasts and last consensus made in FOMC. Furthermore, we reveal the strategic behavior of FOMC board members. Forecasts by governors, who always have voting rights, agree much with the previous consensus of FOMC members' forecasts. In contrast, non-governors, who rotate voting rights, exaggerate their forecasts: they aggressively deviate their forecasts from previous consensus. The former is <i>herding</i> behavior and the latter is <i>anti-herding</i> behavior. Our results imply that individual members behave strategically; governors want to present policy-consistent forecasts to the Congress and non-governors utilize their forecasts to influence decision making in FOMC.
著者
河野 敏鑑 八木 倫秀
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.11, no.Special_issue, pp.S39-S41, 2018 (Released:2019-04-19)
参考文献数
2

顧客の囲い込みや購買履歴の入手に用いられているポイント制度を統計指標の作成に活用する試みがある.こうした試みにはポイント制度に参加している全ての人の行動を把握した全数調査を元にしているというメリットがある一方,ポイント制度を利用する消費者特有のサンプリングバイアスが存在する可能性は否定できない.そこで,本研究では大学生を対象にアンケート調査を行い,個人がポイント制度を利用するのか否かを決定する要因を分析し,どのようなバイアスがあるのかを明らかにした.その結果,利用頻度が高い人,現在志向が弱い人,出席回数が多い学生の方がよりポイント制度を利用する傾向があることがわかった.つまり,ポイント制度を利用しようとする人は,それなりの計画性や忍耐を持ち合わせている可能性が高いと考えられる.よって,ポイント制度から得たビッグデータを用いる際には,こうしたバイアスに十分に注意する必要があると思われる.
著者
中川 宏道 守口 剛
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.197-200, 2012 (Released:2013-05-29)
参考文献数
5

「100人に1人がタダ」のような確率型プロモーションと「全員に1%値引き」のような確定型プロモーションとでは,どちらが消費者にとって魅力的なのであろうか.本研究では,確率型プロモーションについての実証研究をおこなう.Kahneman and Tversky (1979)のプロスペクト理論によれば,利得の領域では凹関数でリスク回避的,損失の領域では凸関数でリスク志向的となる.したがって,値引きのようなネガティブ・フレームにおいては確率型プロモーションの方が確定型プロモーションよりも選好され,ポイントプレゼントのようなポジティブ・フレームにおいては,確定型プロモーションの方が確率型プロモーションよりも選好されることが予想される.本研究において確率型プロモーションにおけるフレーミング効果について検証を行ったところ,ポジティブ・フレームでは確定型プロモーションが選択され,ネガティブ・フレームでは確率型プロモーションが選択される傾向が見られ,フレーミング効果が確認された.
著者
Kurasawa Motonari Mardyla Grzegorz
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.1, pp.41-48, 2008

Investor confidence affects financial markets. Information, noise, market frictions cause investor confidence to influence security prices, leading to a price different from the rational expectations value. This paper presents a simple theoretical model of asset prices where investor confidence is allowed to differ across traders, and across time -depending on observed outcomes. The presence of short-sales constraints causes asset prices to behave asymmetrically: short-run returns display reversal after good news, but momentum after bad news. This can change somewhat if investor confidence varies because of biased self-attribution: good news causes returns to exhibit short-run momentum and long-run reversal. We also investigate the extent to which asset supply affects the price paths. In case of zero net supply the equilibrium prices are set unilaterally by either of two investor groups. Yet if we allow for positive asset supply we find an intermediate range of information signals and resulting prices consistent with both trader types being active in the market -this happens if news events are moderate. We further identify the <I>shrinkage effect</I>: the range of signals where both groups of traders have positive asset demands may shrink in subsequent trading due to biased self-attribution.
著者
松葉 敬文 佐藤 淳 蔵 研也 加藤 大輔 村上 弘
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.81-84, 2011 (Released:2012-03-29)
参考文献数
10

健康な右利きの歯科医師21名に対し,リスク(risk)状況および不確実(ambiguity,またはuncertainty)状況において不快画像刺激と中立的画像刺激を呈示し,3TのfMRI装置を用いて脳機能画像解析を行った.fMRI装置内で被験者が行う課題にはBalloon Analogue Risk Task(BART)課題を利用した.被験者が直面している課題の確率を事前に告知している状況をリスク状況,確率を全く告知していない状況を不確実状況とした.結果,不快画像刺激により不確実な状況では扁桃体と線条体(被殻)が有意に賦活し,リスク状況では前帯状皮質の活動が有意であったが扁桃体の賦活は確認されなかった.この結果は,リスク状況では不確実状況と異なり,扁桃体の活動を抑制するような機能が働いている可能性を示唆するものである.
著者
黒川 博文 佐々木 周作 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.10, pp.50-66, 2017

<p>本研究では,A社の協力のもと,社員を対象に,様々な行動経済学的特性に関する質問を含んだ独自調査を行い,その個票とA社より提供を受けた残業時間に関するデータと組み合わせて,長時間労働者の特性を明らかにする.また,A社で導入された,残業時間上限目標を月45時間とし,働く時間と場所を自由に選べるという新たな人事制度の政策評価も行う.分析の結果,いくつかの行動経済学的特性と残業時間は統計的に有意な関係が観察された.例えば,時間選好の特性では,後回し傾向がある人の深夜残業時間が長い.社会的選好の特性では,平等主義者の総残業時間が長い.ビッグ5の性格特性では,誠実性が高い人の深夜残業時間は短いが,総残業時間は長い.一方,新人事制度の導入は残業時間を有意に削減した.特に,導入以前において月45時間以上働いていた人への残業削減効果が大きかった.</p>