著者
盛本 晶子
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.1-13, 2018 (Released:2018-07-10)
参考文献数
23
被引用文献数
1

本稿の目的は,人々がオンラインゲーム内コンテンツの購入もしくはオンラインゲームをプレイすることに対して料金を支払う,いわゆる「課金」行動について時間割引の観点から検証することである.東京国際大学の有志学生に対してアンケート調査を行い入手したデータを分析した結果,(1)時間選好率は課金行動に影響を与えないこと,(2)現在バイアスの程度が強いほど課金する傾向があること,(3)ナイーブの度合いが強いほど課金する傾向があること,の3点が明らかになった.
著者
大竹 文雄 加藤 大貴 重岡 伶奈 吉内 一浩 樋田 紫子 黒澤 彩子 福田 隆浩
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.32-52, 2020-08-25 (Released:2020-08-25)
参考文献数
6

本論文では,骨髄バンク登録者のうち移植患者との適合通知を受け取った人へのアンケート調査と大阪大学の一般の人へのアンケート調査を用いて,骨髄バンク登録者,幹細胞提供者と一般の人との特性の違いの有無を検証した.主な結果は,つぎの通りである.第一に,骨髄バンクに登録する人や幹細胞を提供する人は一般の人と比べると,利他的で,時間割引率が低く,リスク許容度が高い.第二に,定期的献血者や臓器提供の意思表示者は幹細胞提供確率が高い.第三に,有給ドナー休暇や有給休暇が取りやすい環境で,幹細胞提供確率が高い.第四に,同調性が高い人は骨髄バンクに登録する可能性が高いが,幹細胞提供の依頼があった際に提供をしない傾向にある.第五に,登録者と提供者の時間割引率と現在バイアスは阪大サンプルと比較して低いが,現在バイアスを含む時間割引率が高い人が幹細胞を提供する確率が高い.
著者
久米 功一 花岡 智恵 水谷 徳子 大竹 文雄 奥山 尚子
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.50-54, 2014 (Released:2015-06-02)
参考文献数
14

本稿では,子どもの頃の家庭での過ごし方,学校生活,職種・業務のタイプとパーソナリティ特性5大因子との関係について実証的に分析した.その結果,現在のパーソナリティ特性に対して,就学前の読み聞かせや家事手伝いの経験,中学の頃の学業・課外活動が有意に影響する一方,職種や業務のタイプからの影響は比較的弱いことがわかった.
著者
竹中 慎二
出版者
Association of Behavioral Economics and Finance
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.150-154, 2011

グローバル化の進展や財政問題の深刻化により,汚職(corruption)の問題はその重要性が高まっている.しかし,実際の行動は観察困難であり,文化や経済成長との因果関係も決して明確でないため,研究対象になりにくいのが実情といえる.本論文はアジアの中でも汚職が最も深刻とされる国の1つである,フィリピンの個票データを主に分析することで,人々の汚職に対する許容度や意識を考察した.その結果によると,中等教育以上の教育を受けた人々は汚職への許容度が低く,さらに死後の世界といった神秘的な存在を信じる人(信仰心の強い人)ほど汚職の許容度が低いことが判明した.
著者
川西 諭 田村 輝之
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.87-104, 2019-04-16 (Released:2019-04-15)
参考文献数
51

本稿では,グリット(Grit)とマインドセット(Mindset)という2つの心理学概念に関する研究を紹介し,労働生産性向上をめぐる議論への含意,および行動経済学研究への応用の可能性について議論する.グリットとは,長期的な目標達成に向かって「やり抜く力」であり,本稿で紹介するマインドセット研究は「固定思考」と「成長思考」という2つの対極をなす思考を問題とする.既存のグリット研究とマインドセット研究はいずれも私たちの能力のうち,努力によって後天的に獲得される資質が常識的に考えられているよりも重要であること,そして資質の獲得が私たちの心理や思考によって強く影響を受けることを指摘している.これらの研究に照らすと,労働生産性を低水準にしている原因として,人々の考え方が,先天的資質を重視する固定思考に偏ってしまっている認知バイアスが浮かび上がる.
著者
岩澤 誠一郎 内山 朋規
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.75-80, 2011 (Released:2012-03-29)
参考文献数
12

日本の株式市場において「ボラティリティ・アノマリー」─事前に観察されたボラティリティが小さい銘柄ほど,事後のリターンが高い―が見られることは広く知られている.我々はこの現象に,海外投資家及び信用取引を行う個人投資家が関与していることを実証する.第一に,「ボラティリティ・アノマリー」は海外投資家及び信用取引を行う個人投資家から日本株への資金流入が大きい局面では消滅/減衰し,資金流出が大きい局面で強まる傾向がある.第二に,海外投資家が日本株市場に資金を投下する際には,ボラティリティのより大きい株により多くの資金を投じる傾向がある一方,資金を引き揚げる際には,ボラティリティの大きい株からより多くの資金を引き揚げる傾向が見られる.また信用取引を行う個人投資家が資金を引き揚げる際にも,ボラティリティの大きい株からより多くの資金を引き揚げる傾向が見られる.
著者
福田 操
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.10-21, 2022-08-10 (Released:2022-08-10)
参考文献数
26

この研究の目的は,量子コンピュータなどの基盤理論である量子情報理論の構成原理である観測理論の観点から,経済モデルの構築が可能かどうかを探求することである.そこで,顧客の評価に主観性が入り込むことに起因する不確定性が課題となっている,無形財に対する顧客満足度の数値化に関するモデルを提案した.この経済モデルから求めたエントロピーより,非線形非対称な価値関数が導出された.そして,これを包含する一般的な価値関数である主観的幸福度の価値関数は,顧客の無形財の体験をヒルベルト空間上の回転として扱うことで,位相の干渉により古典的確率論では記述できない独立性公理の破れが起こることがわかり,行動経済学の結果に当てはめて説明することができた.これにより,無形財の体験に対する主観的な評価の構造について新たな知見が得られ,量子情報理論に基づく経済モデルの構築可能性と顧客体験の数理設計の実現可能性が高まった.
著者
黒川 博文 佐々木 周作
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.14, no.Special_issue, pp.S1-S4, 2021 (Released:2022-03-18)
参考文献数
5

本研究では,健康管理アプリ上で,ウォーキングによる身体的活動の促進を目的にしたフィールド実験を行った(N=498).歩数に応じた金銭的インセンティブの提供を受けるが,受取りの辞退可能なオプトアウト群,提供を受けるには自己申請が必要なオプトイン群,インセンティブの無いコントロール群の3群に参加者を割り当てた.オプトアウト群のインセンティブ加入率は100%であったのに対して,オプトイン群の加入率は約30%であった.この違いは,参加者が受取り方法に関する初期設定に強く影響を受けていることを示唆している.オプトアウト群では,歩数の有意な増加は観察されなかった.オプトイン群全体では,インセンティブの提供を受けられる期間の前半で,1日当たり約710歩増加した.実際にインセンティブを受け入れた人たちの間では,その期間の歩数は約2,280歩増加した.自己申請の上でインセンティブを受け取るオプトイン形式の方が,運動促進効果は高い.
著者
松村 尚彦
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-17, 2010 (Released:2010-09-10)
参考文献数
22
被引用文献数
1

本論文では,日本の株式市場を対象として決算発表後の株価ドリフト(Post Earnings Announcement Drift, 以後PEADと表す)と呼ばれるアノマリーを検出するともに,決算情報に対する投資家およびアナリストの期待形成が合理的であるかという点について分析を行った.その結果,日本市場においてもPEADが存在すること,それはCAPMやFama and Frenchの3ファクター・モデルでは説明できないアノマリーであること,さらにMishkin検定による実証分析によって,投資家は直近の決算情報を過小評価していることと,そしてこの過小評価を時間と共に少しずつ修正していることなどが明らかとなった.こうした検証結果は,投資家とアナリストは将来の企業業績に関する期待形成のプロセスにおいて,アンカリングと調整という行動バイアスの影響を受けており,それがPEADと関連しているという仮説と整合的なものである.
著者
後藤 晶
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.86-89, 2015

プレミアム商品券とは一定分のプレミアム率に応じた金額を上乗せした商品券である.本研究においては2014年度の緊急経済対策による地方交付金の活用方法として採用されたプレミアム商品券政策に関連して,インターネット調査を実施し,社会経済的属性に着目して,プレミアム商品券政策に関する経済行動の特徴について検討した.その結果,低収入世帯ほど,プレミアム商品券を購入していないこと,高収入世帯ほどプレミアム商品券に期待する「最低希望プレミアム率」が低いことなどが明らかとなった.特に,購入者に比べて,非購入者および購入未定者の最低希望プレミアム率が高いことが示されており,非購入者は販売されたプレミアム商品券のプレミアム率が自身の望むプレミアム率を満たさなかったためにプレミアム商品券を購入しなかった可能性が示唆される.
著者
佐々木 周作 明坂 弥香 黒川 博文 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.100-105, 2015

社会的地位の上昇は長寿や健康を促進するだろうか.両者の相関関係はよく知られているが,前者から後者への因果効果を検証することは難しい.本研究では,日本で最も権威ある文学賞として知られる芥川賞と直木賞のデータを使用して,因果効果の有無・方向性・程度を分析した.具体的には,受賞者と非受賞候補者の同質性が高いと考え,受賞による社会的地位の上昇が余命にどのような影響を及ぼすかを検証した.純文学の新人賞である芥川賞では,初回候補時点から30年を経過するまでの受賞者の死亡確率は,候補者よりも67.5%程低い.予測値から算出した受賞者の平均余命は,候補者よりも3.3年程長い.一方,大衆小説作品の賞で中堅作家を主な対象とする直木賞では受賞者の死亡確率は35.4%程高く,平均余命も3.3年程短い.これらの結果は,受賞には平均余命の延命効果と短縮効果の両方が存在すること,社会経済的基盤の不安定な時には延命効果が相対的に大きいが,安定後には短縮効果の方が大きくなるという可能性を示唆している.
著者
山崎 由香里
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.67-80, 2018 (Released:2018-04-07)
参考文献数
37

スマートフォンやSNSの普及が進む中,プライバシーやマナー等の倫理意識欠如によるトラブルが後を絶たない.頻繁に利用する若年層に対して,強制せずに倫理的利用を促すために,本研究は行動経済学で注目される「ナッジ(nudge)」を試みた.ナッジを推進する諸ツールの体系化を図り,SNSを利用する米国,中国,および日本の3か国の若者(n=1,220)を対象に9つのナッジツールの効果を検証した.実験の結果,「リマインダー」,「デフォルト」,および「メンタル・アカウンティング」の3種のナッジツールで有意な効果が見られ,中でも日本被験者に対する強い効果が確認された.さらに,米国被験者の倫理的配慮が日本および中国よりも有意に高い傾向も見いだされた.本研究の結果は,若者によるSNS等の倫理的利用を求める企業や機関に対する有益なツールの明示となり得る.また,中国および日本被験者の倫理配慮度の低さに警鐘を鳴らし,対策を講じる必要性を見出した.
著者
湯川 志保
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.118-121, 2017 (Released:2017-06-01)
参考文献数
8

本研究は,公益財団法人家計経済研究所が実施する「消費生活に関するパネル調査」を用いて,子どもの誕生が男性の労働時間に影響を与えるのかについて分析し,仮に影響を与えるのであれば,それは家庭内分業によるものなのかについて検証を行った.家庭内分業によるものなのかを検証する際,比較優位の指標として夫婦間の学歴差を用いた.分析の結果,子どもの誕生は男性の労働時間を増加させることが確認された.さらに,自分の学歴が妻の学歴よりも高い男性の方がその他の男性に比べて子どもの誕生による労働時間の増加が大きいことが示されたことから,子どもの誕生により家庭内分業が発生していることが示唆される.最後に,家庭内分業が男性の生産性の代理変数である賃金に影響を与えるかについて分析したが,賃金に関しては有意な影響は観察されなかった.
著者
大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.49-52, 2008 (Released:2011-12-03)
参考文献数
2

本稿では,日本の所得格差の実態を様々な観点から議論する.所得格差の推移を複数の所得データから明らかにし,所得格差の変化の原因を明らかにする.その結果,1980年頃から日本の所得格差が拡大してきたのは事実であるが,長期的な拡大は人口の高齢化が主要原因であったこと,2000年代に入ってからの拡大は年齢グループ内での格差が若年層を中心に観察されることが示される.また,日本の格差拡大は,低所得層の所得低下が原因であることも示される.次に,所得格差に関する意識調査をもとに,格差拡大感が日本で非常に強い理由について分析する.その結果,日本人が所得の決定要因として望ましいと考えてきたものと,実態との間にかい離が生じてきたことが格差感の原因であることが示される.
著者
川西 諭 田村 輝之 孫 明超
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.10, no.Special_issue, pp.S29-S32, 2017 (Released:2018-04-12)
参考文献数
9

本研究は,信頼関係やネットワークを包含する「ソーシャル・キャピタル」の概念を用いながら,小さい組織や団体におけるコミュニティの状態を測定する方法の開発を試みる.日本国内の1600以上のNPO団体に所属するメンバーを対象に,社会心理学における質問紙調査法によって,所属団体に対する意識を調査した.回答結果を因子分析した結果,コミュニティの状態を測るうえで重要な意識として3つの因子,「理念共感と貢献意欲」,「自己有用感」,「居心地の良さ」が抽出された.これら3つの因子を説明変数とした回帰分析によって,これらの因子は「コミュニティへの愛着」,「主観的幸福感」,「主観的健康感」に,統計学的に有意なプラスの影響を与えることが確認された.この研究を応用することで,目には見えないNPO団体内の課題を可視化することが可能になり,より効果的なNPO団体のマネジメントが可能になるものと期待される.
著者
Yoshiro Tsutsui Shoko Yamane Fumio Ohtake
出版者
Association of Behavioral Economics and Finance
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.1-6, 2017 (Released:2017-04-21)
参考文献数
20

Using a monthly survey, this paper finds that supporters of the governing cabinet are significantly happier than non-supporters throughout our sample period. We investigate the reason and examine two hypotheses: 1) happy persons support the ruling Liberal Democratic Party, and 2) supporters of any governing party tend to be happy. Oaxaca decomposition analysis reveals that the difference in happiness is not attributable to the difference of attributes and personalities, rejecting hypothesis 1). On the other hand, the happiness of cabinet and anti-cabinet supporters was not significantly different after an election in which the governing party was replaced, supporting hypothesis 2).