著者
三輪 宏太郎 植田 一博
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.9, pp.76-80, 2017

<p>本研究では,時間外取引を行う投資家が少ない状況下でも,どのような取引時間延長が有効となりうるか分析を行った.特に,プレマーケットセッション,アフターマーケットセッションの導入及び,どの程度の長さのセッションの導入が有効となるか,人工市場モデルによるシミュレーション分析を行った.結果,上記の状況下では,多くの場合,取引時間延長により,価格効率性及び価格安定性が低下することがわかった.しかも,導入される時間外取引時間帯が長く,アフターマーケットセッションを導入した場合,この傾向は顕著であった.一方で,短期間のプレマーケットセッションであれば,時間外取引の参加者が少なくても,価格効率性や価格安定性を改善しうることがわかった.</p>
著者
大久保 信一
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.40-53, 2018 (Released:2018-10-16)
参考文献数
37

本論では,Webアンケート調査にて,退職給付による人材の選別の効果及び非正規雇用者への適用の可能性を検証し,次の2つの結論を得た.第1に,現在の職場での退職給付による,長い期間1つの会社で働く意志があり,時間選好率の低い人材を選別する効果は首肯された.ただし,非正規雇用者における人材の選別の効果があるとはいい切れない.第2に,退職給付は,転職を考える者の中で長い期間1つの会社で働く意志があり,時間選好率の低い人材の選別に寄与するといえる.これは非正規雇用者での選別においても効果を持つ可能性がある.
著者
岩澤 誠一郎 内山 朋規
出版者
Association of Behavioral Economics and Finance
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.75-80, 2011

日本の株式市場において「ボラティリティ・アノマリー」─事前に観察されたボラティリティが小さい銘柄ほど,事後のリターンが高い?が見られることは広く知られている.我々はこの現象に,海外投資家及び信用取引を行う個人投資家が関与していることを実証する.第一に,「ボラティリティ・アノマリー」は海外投資家及び信用取引を行う個人投資家から日本株への資金流入が大きい局面では消滅/減衰し,資金流出が大きい局面で強まる傾向がある.第二に,海外投資家が日本株市場に資金を投下する際には,ボラティリティのより大きい株により多くの資金を投じる傾向がある一方,資金を引き揚げる際には,ボラティリティの大きい株からより多くの資金を引き揚げる傾向が見られる.また信用取引を行う個人投資家が資金を引き揚げる際にも,ボラティリティの大きい株からより多くの資金を引き揚げる傾向が見られる.
著者
山崎 由香里
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.10, pp.67-80, 2018

<p>スマートフォンやSNSの普及が進む中,プライバシーやマナー等の倫理意識欠如によるトラブルが後を絶たない.頻繁に利用する若年層に対して,強制せずに倫理的利用を促すために,本研究は行動経済学で注目される「ナッジ(nudge)」を試みた.ナッジを推進する諸ツールの体系化を図り,SNSを利用する米国,中国,および日本の3か国の若者(<i>n</i>=1,220)を対象に9つのナッジツールの効果を検証した.実験の結果,「リマインダー」,「デフォルト」,および「メンタル・アカウンティング」の3種のナッジツールで有意な効果が見られ,中でも日本被験者に対する強い効果が確認された.さらに,米国被験者の倫理的配慮が日本および中国よりも有意に高い傾向も見いだされた.本研究の結果は,若者によるSNS等の倫理的利用を求める企業や機関に対する有益なツールの明示となり得る.また,中国および日本被験者の倫理配慮度の低さに警鐘を鳴らし,対策を講じる必要性を見出した.</p>
著者
Hiroko Araki
出版者
Association of Behavioral Economics and Finance
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.7-21, 2017 (Released:2017-09-01)
参考文献数
15

This research takes the theory of the interaction between altruistic parents and egoistic children in Becker (1974, 1991) as a starting point, and investigates the effect of parents' altruistic monetary transfers to their children enrolled in university, on their total hours of study and the priority they put on studying, by employing micro-data on the characteristics of Japanese university students and their lifestyle. Regarding study hours, a positive significant impact can only be observed for students of Humanities, Arts, and Social Sciences who live with their parents, while a significant effect could not be observed for students who are living away from home. No evidence of an effect of transfers from parents on the priority that students put on study could be observed on any group. Altogether, these findings show that information asymmetries in parent-child interactions can reduce the effectivity of monetary transfers from parents on their children's study habits.
著者
山口 勝業
出版者
Association of Behavioral Economics and Finance
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.180-184, 2012

宗教が職業倫理の形成を通じて経済行動に影響を与えるという仮説は,マックス・ウェーバー以来の問いかけである.国際比較調査によれば日本人の多くは「宗教は信じないが宗教心は大切だ」という外国人にはみられない特異性がみられる.この歴史的な背景は,我が国では古来の神道に加えて仏教・儒教・キリスト教を外来宗教として受容し,江戸時代に宗教と道徳が分離し,現世志向が強い信仰と利他主義を重視する経済倫理が生まれた.欧米の価値観では宗教・道徳が直列構造で教育を通じて経済行動を動機づけているのに対して,我が国では宗教と道徳という二つの動力源をもつハイブリッド型並列構造が教育を通じて経済行動を動機づけている.
著者
権田 直
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.133-137, 2009 (Released:2011-12-03)
参考文献数
8

本稿においては,証券市場の効率性に影響を与えていると考えられる投資家の非合理的行動として,Benartzi and Thaler (1995)(以下BT (1995))等によって指摘されてきた「近視眼的損失回避行動」を取り上げ,実際のデータを用いてその存在を数量的に明らかにするとともに,日本の金融市場の効率性を検証する.
著者
滝沢 昌平 嶋崎 善章
出版者
Association of Behavioral Economics and Finance
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.96-99, 2014

たばこは価格上昇のタイミングや幅によって需要量が大きく変化する可能性がある嗜好品で,過去の喫煙行動から需要予測をすることが困難であり,安易な増税はたばこの消費本数を大幅に減少させ,貴重な財源の1つであるたばこ税収を大幅に減少させる恐れがある.そこで本研究は仮想的なたばこ価格での喫煙者の消費行動についてアンケート調査を行い,たばこ増税が行われた場合の喫煙者の消費行動とたばこ税収の増減を推定した.推定にあたり,分析対象を年齢階級別に分けることで年齢層ごとに異なる喫煙行動を考慮した.また,過去の統計データのみを用いた推定も行い,税収の推移を比較した.推定の結果,過去の統計データによる推定ではたばこ価格を1,000円に引き上げても増収が見込めた.一方,アンケート結果を用いた推定では,現状からの小幅な価格上昇でも税収は大きく減少するが,一定の価格上昇幅を超えると税収はあまり変化しないことが明らかになった.
著者
山口 勝業
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.68-75, 2017 (Released:2017-06-01)
参考文献数
4

我が国の家計金融資産に占める有価証券投資の比率が低いのは,日本人のリスク許容度が低いためであろうか? リスク許容度はリスク選好度とリスク許容量の二つの要素で構成される.本研究では実際の我が国家計の財政状態によるリスク許容量を計測するため,「平成26年全国消費実態調査」の家計データを勤労者世帯と非勤労者世帯に分け,年齢層別・年収水準別・地域別の視点から分析した.一般に,勤労者世帯よりも非勤労者世帯が,若年層よりも高齢者が,金融資産総額が多いだけでなく株式や投資信託など有価証券(リスク性金融資産)を多く保有する傾向が見られた.これは家計のライフサイクル上で住宅ローン負債がリスク許容量への制約になっているためであると考えられる.
著者
盛本 晶子
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.49-59, 2009 (Released:2011-12-03)
参考文献数
18

双曲線型割引関数を持つ個人は,過剰消費の誘惑という自己統制の問題を抱えている.賢明な個人は,この誘惑に打ち勝つためにコミットメント手段を利用する.流動性の低い資産での貯蓄は過剰消費を防ぐために有効なコミットメント手段だが,このコミットメント手段を利用することは,流動性の高い資産からの限界消費性向の上昇·流動性の低い資産からの限界消費性向の下落に繋がる.それゆえ双曲線型割引関数を持つ個人の限界消費性向は資産の流動性に依存して異なる.本稿では,2005年から2007年の間に日本国内において大阪大学が実施した「暮らしの好みと満足度に関するアンケート」を用いて,家計の割引構造と限界消費性向との関係を検証した結果,双曲線型割引関数を持つ家計はそれ以外の家計に比べて,所得の変化が消費量に与える影響は大きい一方で,固定資産残高の変化が消費量に与える影響は小さいということがわかった.
著者
影山 純二
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.110-113, 2015 (Released:2016-05-07)
参考文献数
12

主観的ウェルビーイング (SWB) に関して近年研究されてきた事柄の1つに,幸福度や生活満足度の年齢変化がある.しかし,その変化を理論的に説明する研究はない.そこで本研究は,満足の裏返しである不満が行動インセンティブになっていることに着目して,その年齢変化を進化生物学のフレームワークの中で考察し,そこで得られた仮説を検証した.進化生物学の中でも生活史理論を用いて得られた仮説は,所得不足と配偶者/生殖パートナーがいないことのそれぞれの不満へのインパクトは生殖年齡期に最も大きく,他の要因をコントロールした上での生活満足度(ベースライン)は生殖年齡期に最も低くなるというものである.ブリティッシュ・ハウスホールド・パネル・サーベイ (BHPS) を用いた回帰分析では,すべての仮説と整合的な結果が得られた.所得不足や配偶者/生殖パートナーがいないことの生活満足度への効果は30歳前後で最も大きく,生活満足度のベースラインはU字型で中年期に最も低くなった.本研究の結果は,生活満足度のベースラインが進化上適切な行動を促すインセンティブの強さを表し,グロスで見た際の生活満足度や人間行動の年齡変化を考察する上で重要な情報になることを示唆している.
著者
佐々木 周作 奥山 尚子 大垣 昌夫 大竹 文雄
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.126-130, 2015 (Released:2016-05-07)
参考文献数
15

人は思いやりの気持ちを持つ.一方,誰にでも等しく思いやるわけではないことも知られている.本研究では,米国・ドイツ・シンガポール・韓国・日本の5ヶ国で実施した相互比較可能な全国規模調査のデータを用いて,社会的関係性の異なる複数の他人をどのくらい等しく思いやるか,という思いやりの傾向の国際差を検証した.具体的には,「あなたの家族」および「同じ地域(市町村や集落)に住む人」「同じ都道府県や州に住む人」「同じ国の人」「外国の人」の5者に対する思いやりの水準を計測し,その水準を5ヶ国で比較した.主要結果は二つある.一つは,思いやりの水準を各国内で比較すると,どの国においても,対象が家族から外国の人に向けて移行するにつれ,思いやりの水準が下落する傾向があることがわかった.次に,5ヶ国間で比較すると,思いやりの水準は国によって異なることがわかった.特に,家族以外の4者に対する日本・韓国の思いやりの水準が,他の3ヶ国よりも低かった.
著者
比佐 優子 比佐 章一
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.2, pp.138-140, 2009

本論文では,新規上場(IPO)におけるアンダー&middot;プライシングの決定要因について分析を行った.アンダー&middot;プライシングは,投資家と経営者の間に情報の非対称性が存在するときや,投資家の横並び行動が存在することに起こりやすいことが知られている.分析の結果,ベンチャーキャピタル(VC)が,情報の非対称性を解消する役割を果たしていない可能性があることがわかった.
著者
久米 功一
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.185-188, 2012 (Released:2013-05-29)
参考文献数
9

本稿では,各種アンケート調査の結果を分析して,想起,順応,合理化の視点から,幸福度指標を経済政策に応用する際の三つの留意点を提示した.第一に,幸福から連想する言葉や内容は人によって異なり,それが主観的幸福度の違いをもたらす.第二に,幸福度の尺度には限界があり,人々の幸福度の推移を統計的に把握することは容易ではない.第三に,ある種の世界観は幸福度や所得に有意に影響する.また,人々は合目的的に幸福度を高めているとは必ずしもいえない.これらの結果は,幸福度の分配原理,計測の精緻化,世俗的合理主義との折り合い等,幸福主義的な政策を立案する上での諸課題を示唆している.
著者
保原 伸弘
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.3, pp.160-161, 2010

ヒット曲(流行歌)は周囲の経済状況との関連が強い商品(財)と考えられる.去年のヒット曲の調性やテンポと経済状況に関する分析に引き続き,日本の昭和期および平成期に流行ったヒット曲(流行歌)がもつ音域や音程に注目し,それらと経済状況との間の相関について考察する.
著者
岡野 武志
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.4, pp.145-149, 2011

生活者は,身近な事例に強い影響を受けて不安を感じ,将来を悲観的に予想しやすい.業績や財務基盤に不安を抱える企業にも,悲観的な傾向がみられる.業況を相対的に強気に見てきた大企業にも,金融危機以降の判断に変化がみられる.大企業の判断にも,身近な事例に基づく不安が投影されれば,人件費の削減や投資の抑制につながりやすい.収入が減少すれば生活者は支出を抑え,需要の減少がさらに企業業績を悪化させて,スパイラル的な経済規模の縮小が進みかねない.政府支出の増加分が,企業や家計に蓄積されれば,主体間・世代間に資金の偏在を生む結果につながる.偏在の是正には,生産と支出の増加による経済活性化が必要であり,国民の努力も重要になる.経済合理性のみを追求する社会の危うさは周知されつつあり,「貢献」という効用を得る機会の増加が望まれる.人を対象とする行動経済学は,さらに活躍の場を広げていくべきであろう.
著者
顧 そうえい 竹下 俊一
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.149-153, 2009 (Released:2011-12-03)
参考文献数
21

本研究では,情報の有無による条件下で,人が債務を果たす上で,財務能力の違いによって預託金の償還請求の交渉(意思決定過程),当事者の行動(意思決定)の違いを明らかにすることを目的とした.ゴルフ会員権の償還問題に想定し,情報開示と情報非開示グループを比較した預け金についての修正最終提案ゲームについて実験研究を行った.
著者
大塚 一路 西成 活裕
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.218-221, 2010 (Released:2011-06-27)
参考文献数
7

本研究はファイナンス理論の枠組みを用いて「人混みに値段をつける」ことを目標としている.そこで我々は混雑における人の満足度が顧客一人あたりに与えられるパーソナルスペースと同等であると仮定してサービス価値の変化を正味現在価値(NPV)法と呼ばれる資産価値評価理論によって評価した.また,新たな試みとしてサービスの価値(顧客の効用)が待ち時間の増加に伴って割引かれるという概念を導入し,空港の入国管理場で測定したデータに対する実証分析も行った.実証分析の結果から,今回導入した指標は待ち時間の増加やスペースの減少と連動して効用が小さくなる指標であることが確認された.
著者
Shunichiro Sasaki Shiyu Xie Shinsuke Ikeda Jie Qin Yoshiro Tsutsui
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.15-25, 2012 (Released:2012-06-01)
参考文献数
16
被引用文献数
2

This paper pursues two aims by conducting economic experiments in Shanghai. One aim of this paper is to investigate the following three anomalies on time discounting: the delay, interval, and magnitude effects. We confirmed all the three anomalies. Particularly, by separating the delay effect from the interval effect, the delay effect is found when the delay is relatively short, which has seldom been reported in former studies. Another feature of our experiment is that it is immune to the criticism that the subjects recruited for the experiment did not have sufficient incentives to report their true preferences because the highest reward that was offered to the subjects was approximately equivalent to their monthly household incomes. The second aim of this paper is its explanation of the subjects’ procrastinating behaviors by their time discount rates and the degrees of the delay effect. Our analysis suggested that higher time discounting always promotes procrastination; however, the delay effect is negatively associated with procrastination. An interpretation of the latter result can be that our subjects, i.e., the students of Fudan University, are sophisticates rather than naïfs.