著者
内野 彰
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.174-180, 2015-01

水稲作では1980年代から一発処理型除草剤が広く普及し,一発処理型除草剤に含まれるスルホニルウレア系除草剤成分(SU剤)が水田の広い範囲で使用された。これに対し1990年代半ばからSU剤に対する抵抗性(SU抵抗性)が確認され,現在は21種類の雑草で抵抗性が報告されている。水田雑草では19種類でSU抵抗性が確認されており(内野・岩上2014a),このうちの6種類(イヌホタルイ,タイワンヤマイ,へラオモダカ,オモダカ,ウリカワ,マツバイ)が多年生の水田雑草である。イヌホタルイ,タイワンヤマイおよびへラオモダカの3種類は大量の種子を生産し,多年生雑草であるが水田では主に種子によって繁殖する。オモダカ,ウリカワおよびマツバイも種子を生産するが,これらは主に栄養繁殖体(塊茎または越冬芽)によって繁殖する。6種類のうちイヌホタルイのSU抵抗性については定(2015)の解説があるため,そちらを参照ねがうこととし,本稿では,6種類の中でイヌホタルイに次いで全国的に報告の多いオモダカのSU抵抗性を中心に,他の多年生雑草のSU抵抗性について解説する。
著者
長谷川 和久 福山 厚子 伊東 志穂
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.319-323, 2013-03

生物は一度理化学的に傷つくと,修復に時間を要する。茨城県大宮町のガンマーフィールドにおける放射線による育種・品種改良のように,この線がプラスに効果を発揮すれば幸だが,マイナスでは問題となる。すなわち,福島原発事故では小出裕章氏(京都大2012)によるとヒロシマ型の原子爆弾100個相当分の放射性物質がすでに放出されたという。今後予想される被害は,全く不明と解説される。ちなみに,山陰。湯村温泉街に建てられている有名な吉永小百合さん演ずる夢千代(日記)さんの像は,昭和20年8月6日,広島で胎内被爆された永井左千子さんがモデルで,昭和50年代に建てられた。本人は胎内被爆の影響をずっと危惧して,生涯結婚されなかったという。放射性セシウムの半減期が30余年ということを考えれば,我々農業関係者も科学的事実とその持つ意味を深く考える必要がある。政策的に技術推進された結果の反省が問われている。ふと福井若狭,石川志賀および新潟柏崎の原発において同様の事故が万一発生すれば,「北陸の農業はどうなる?」との思が心をよぎる。生命と環境を大切にする地域の資源・風土を極力利用した安全な科学技術の発展が広く求められる。敬土愛農。
著者
髙倉 直
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.89, no.5, pp.551-555, 2014-05

最近,世界的に都市農業が話題になり,連日のように奇抜な温室や栽培システムの紹介が園芸の電子新聞に登場している(Hortdaily 2014)。かつて,ヒートアイランド現象が顕在化し,その対策の一つとして屋上緑化が話題となり,地方都市単位での助成がかなり幅広く行われるようになり,さらに屋上緑化だけでなく,壁面緑化もとりあげられるようになったし,我が国では補助対象にはならないものの,屋上園芸がそれなりに普及しつつあるが,海外の様子は少し異なる。その大きな理由はすでに本誌でとりあげた垂直農場(Vertical Farming)という考え方の提案があったからであろう(高倉 2013)。都市農業の重要性は言うまでもない。このまま放置すると,都市の緑はますます減少し,もともと東京都など公園面積の少ない我が国の都市域では,ヒートアイランド現象も悪化することはまちがいない。さらに都市農業として食料を生産することは多くの利点をもつ。すなわち,生産地と消費地の近さからフードマイルの短縮があり,省エネルギーや汚染ガスの減少,都市から出る大量の食物残渣の堆肥化,雨水の灌水としての利用,さらに一般的な環境問題や心理的効果など,今更言うまでもないことが多い。しかし,すでに筆者が警鐘を鳴らしていたにもかかわらず,この垂直農場という概念だけで,土地生産性の高さだけを念頭に,まったく具体的な例証もないまま,安易にとびついて,1年でハイテク垂直農場の最初の倒産として大きく報じられる事例まで出てきた。天空農場(skyfarm)はカナダのウオータロー大学建築学科の大学院生が提唱したもので,トロントの約60階のビルの中で,太陽光を取り込み,バイオガスを発生させエネルギーを自給するという構想で植物だけでなく動物も飼育する内容である。このように,垂直農場だけでなく,天空(sky)や高層ビル(skycraper)農場という,驚くような構想が乱れ飛んでいる状況である。ここでは主として海外の事例を紹介しながら,都市農業での栽培環境とくに光環境の重要性についてまとめてみたい。
著者
髙倉 直
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.40-43, 2014-01

最近ハウスの環境制御で,相対湿度でなく飽差(Vapor Pressure Deficit; VPD: 直訳は水蒸気圧差)が話題になることが多い。なぜなのか,その理由ははっきりしないが,相対湿度よりハウスの乾燥や湿潤の様子がわかりやすいと感じるためであろうか。ただ,一般的には相対湿度よりなじみのない専門語であり,これらの気象用語の関係もあまり理解されずに,ブームのようになっている感じもあり,ここで,これらの関係を明確にするとともに,すでに約40年も前にオランダにおいて,まだコンピュータ制御もなかった頃,飽差制御器が開発されていたことは我が国にも詳しく紹介されているので(高倉 1974a,b,c),その内容にも触れながら,飽差制御の意味と重要性を検討したい。
著者
松田 友義
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.88, no.7, pp.720-730, 2013-07

東日本大震災直後の原発事故によって,放射性物質による食品汚染が危惧され,いわゆる「風評被害」が発生,その影響が未だに残っている。残念ながら,今のところこれを避けるための有効な手立ても見つかっていない。「風評被害」のやっかいなところは,往々にして過剰反応に繋がるというところである。一人の生産者が誤って残留基準値以上の農薬に汚染された農産物を出荷すると,殆どの場合,その生産者が所属する産地の農産物が忌避されてしまう。ときにはまるで別の産地の同じ農産物まで避けられたりする。中国産冷凍餃子事件の際に,冷凍餃子ばかりか生餃子までもが忌避され,挙げ句に冷凍食品全体の需要が冷え込んだのが良い例である。「風評被害」の対象となる産地が,県を超える地方にまで拡がったり,似たような食品にまで拡がったりするのである。放射性物質による食品汚染の「風評被害」が被災県以外に,汚染の実態に関わらず広く東北・北関東全域にまで拡大したのも,そうした消費者行動の結果といえる。通常,「風評被害」は根拠のない情報,不確かな情報に踊らされた消費者,もしくは流通関連業者が悪い,と言うようにして語られる。しかし本当に消費者が悪いのだろうか?消費者には自分が購入する商品を選択する権利がある。言葉を換えると,何を買おうと非難される筋合いではないということもできる。原子力損害賠償紛争審査会が2011年8月に公表した「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」では「風評被害」は以下のように定義されている。「いわゆる風評被害については確立した定義はないものの,この中間指針で風評被害とは,報道等により広く知らされた事実によって,商品又はサービスに関する放射性物質による汚染の危険性を懸念した消費者又は取引先により当該商品又はサービスの買い控え,取引停止等をされたために生じた被害を意味するものとする」。
著者
石坂 宏
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.624-629, 2009-06

サクラソウ科の中にはシクラメン属というグループがあり、その中に22種が存在する。シクラメン属のすべての種は塊茎を作るが、自然分球による栄養繁殖は行わず、種子繁殖を行う。市販されているシクラメンの園芸品種は、22種あるシクラメン属の中のCyclamen persicumという野生種の改良により作出された。C. persicumの野生種は播種後2〜3年で開花個体に成長し、開花できるようになった個体は、2月に開花し、5月に結実して、その後9月まで休眠する。休眠が終了した個体は葉を展開し、翌年の2月に再び開花する。この生育サイクルをくり返し、10年くらい生存する。 C. persicum の野生種は、花弁の長さが約2cm、花色は白、ピンクおよび純白である。主な原産地はトルコ、キプロス、ギリシア、イスラエル、チュニジアであり、1700年頃に原産地から西ヨーロッパに導入され、主にイギリス、オランダ、ドイツ、フランスで栽培と育種が行われた。
著者
古在 豊樹
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.89, no.10, pp.994-1006, 2014-10

日本の都市における農業の現状(農地・農業就業者・生産額の動態など),多面的機能(生産,環境保全,防災,レクリエーション,市民農園,コミュニティー,教育など),法律(都市計画法,農業振興地域整備法など)・税制などに関しては,数多くの識者により報告され,また都市の農地・農業・緑地のあり方や解決すべき課題が論じられている(たとえば,進士 2003,蔦屋 2005,樋口 2008,東 2011)。本稿では,都市の住民が消費する生鮮食料を都市で生産することの意義を,(1) 都市への有用資源流入と都市からの劣化資源排出,(2) 都市での植物生産による資源内部循環,(3) 輸送に伴うCO2排出(すなわち,石油資源消費),(4) 都市に適した植物生産方式,(5) 都市住民の生活の質の向上,および(6) 都市における農業以外の諸活動との関係などに留意しつつ考察する(古在 2014)。
著者
並河 良一
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.84, no.8, pp.794-802, 2009-08
被引用文献数
1

農産物・食品の輸出促進が日本の重要な政策となっている。そのターゲットとして、イスラム市場が注目を浴びつつある。国際金融都市化するドバイに代表される中東産油国などのイスラム諸国の経済成長は著しく、その購買力が急上昇し、高級食品・食材への二一ズが高まっているからである。イスラム市場開拓の最大のハードルは「ハラル(Halal)制度」である。ハラル制度はイスラム教を基礎とする制度であり、宗教の素養がないと理解できないと考えられているからである。現実に、日本・欧米諸国の企業や団体が、ハラル制度に関するトラブルを経験しており、同制度を非関税障壁のように感じてきた。しかし近年、貿易や投資の促進のため、ハラル制度を非イスラム世界にもわかりやすい技術制度として構築する国が現われてきた。その一つがマレーシアである。同国のハラル制度については、これを利用すればイスラム市場の開拓が容易になるため、日本・欧米諸国の企業は関心を示している。本稿では、ハラル制度の概要、その問題点を示し、日本企業はハラル制度にいかに対応すべきかを、マレーシアのハラル政策に焦点を当てて検討する。
著者
熊谷 成子 佐川 了 星野 次汪
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.84, no.11, pp.1068-1072, 2009-11
被引用文献数
1

雑穀の定義にもよるが、雑穀は世界中で20種類ほどが栽培されている。雑穀の栽培の歴史は古く、世界中の人々にとって、食料、油料、アルコール用、行事食用などとして雑穀は生活の中で重要な役割を果たしてきた。戦前までの日本では、雑穀が畑作や輪作体系の中で重要な位置を占め、地域によっては主食として、あるいは地域固有の食文化資源作物として利用され、現在でも伝統祭事などと強く結びついている。しかし、戦後の日本では、雑穀はコメやムギと異なり主要食料ではないため、研究対象となることは希で、最近まで雑穀に陽が当たることは少なかった。そのため、現在栽培される多くの雑穀は在来系統で、長稈種が多く、脱粒しやすく、多肥栽培や機械化には不向きで、収量が低い。しかし、雑穀は、世界規模での主穀の大量生産、大量消費とは対極にあることから、地域に根ざした高付加価値作物ともいえる。最近では食の多様化や雑穀のもつ有用成分に注目が集まり、雑穀ブームを迎えている。現在の雑穀に対する国民の信頼に応え、健康食への追い風を定着させるためにも、研究から生産、流通、加工、販売、調理までの一連の態勢確立が早急に求められる。そこで、本稿では雑穀などの用語に注目し、その生産の現状を考察し、問題点を整理してみたい。
著者
山下 泉
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.560-563, 2008-05

IPM防除体型による施設栽培での新害虫コナカイガラムシの発生とその対策。高知県の促成栽培ナスや促成栽培ピーマンでは、主要害虫のミナミキイロアザミウマやアブラムシ類などに対して、タイリクヒメハナカメムシ、コレマンアブラバチなどの天敵類や防虫ネット、黄色蛍光灯などを利用した総合的な害虫防除対策が普及しつつある。このような防除体系を導入している栽培圃場において、これまでの化学合成殺虫剤を中心とした防除体系による栽培圃場では発生の見られなかったコナカイガラムシ類が1990年代後半から発生するようになり、排泄物に発生するすす病による果実や植物体の汚れ、落葉や吸汁による生育抑制などの被害が顕在化し問題となってきた。そこで、発生種および防除対策などについて検討を行った。本稿では、天敵類を利用した総合的害虫防除体系による栽培を行っている圃場で発生しているコナカイガラムシ類の発生種、促成栽培ピーマンでの発生状況と防除対策などについて述べる。
著者
加藤 修
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.83, no.11, pp.1189-1197, 2008-11

短果枝を主体とした栽培の是非。側枝更新の功罪。今日、千葉県では、'幸水'は最も心血が注がれて栽培が行われている品種と切言できる。生産農家はすべてこの品種を中心に生産体制を整え、すべて最優先で管理を遂行している。せん定では花芽を樹冠内にまんべんなく配置するために側枝更新を頻繁に行ない、同時に翌年度に備えて新たな予備枝の設置に余念がない。大果生産が強く求められているので、開花前には花芽摘除(休眠期に開花数の制限を目的として花芽を基部を残して手でかいて除去する方法、一方で、短果枝群の短果枝などに対してせん定鋏を用いて基部ごと除去するのを花芽整理と呼び、両者を区別した)や摘らいが行われている。開花後は摘果を真っ先に行って果実肥大を促すとともに樹勢の低下を防ぐ管理がなされている。同時に、予備枝育成にも力を入れる。さらに、黒星病などの病害虫の発生に常に気を使う。裏を返せば、'幸水'はこうした生産農家の努力により生産が支えられている。見方を変えれば、果実が小さく収量が低いわりには栽培管理に最も注意が払われ、かつ多くの人員と労働力が投下されていると言える。
著者
岩間 和人
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.83, no.7, pp.743-753, 2008-07

バレイショの乾燥抵抗性品種「根優」誕生秘話。1975年春、大学卒業後、ヒッピーとしてネパールを訪れた。首都カトマンズでの偶然の出会いから、西部カリガンダキ地域に駐在している農業改良普及員を訪ねて1カ月間を過ごした。地域の入り口であるダナでは折しも田植えの真っ最中であった。縦も横もバラバラで、日本の整然とした植え方とは異なったが、その理由は自分で田んぼに入って田植えをしたらすぐに納得がいった。土の中にはこぶし大の石がゴロゴロしていて、その隙間に苗を差し込んでいくのであった。バレイショは収穫期で、こぶしよりも大きなイモが収穫されていた。一泊2食付きで1ルピー(約23円)の宿の夕食にはイモの入ったカレー汁がご飯とともに供された。ご飯はパサパサのインディカ米で、筆者は当時若くおなかがすいていたので何でもおいしかったが、しばらくすると日本のお米がなつかしくなった。しかし、バレイショは日本のものと同じ味わいで、鶏の卵とともに、世界中で変わらぬ味であると感じた最初の体験であった。ダナ近くのタトパニに1週間ほど滞在する間に日本の氷河調査隊の人と一緒になり、その人たちについて谷の上部を旅した。タトパニは標高800mほどの亜熱帯であったが、3日歩いて到着したツクチェ村は標高3,000m近くの亜寒帯であった。大麦が収穫された直後で、村のあちこちで棒の先に板をつけた農具を用いた脱穀作業が行われていた。バレイショは培土直後で草丈20cmほどであった。タトパニからツクチェまでの道々にバレイショが栽培されていたが、その草丈の変化に興味をそそられた。谷にそって標高が増すに従いバレイショの草丈が小さくなっていった。植え付け時期の差異もあったが、どうもそれだけではないように思えた。地上部は目で見てわかるが、地下部がどうなっているのかと興味を引かれた。今から思うと、バレイショの根系を一生の研究テーマとして選んだきっかけがこのカリガンダキでのバレイショとの出会いにあった。
著者
久保寺 秀夫
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.83, no.10, pp.1091-1096, 2008-10

マージ土壌は南西諸島に分布する土壌で、堆積岩や礫層を母材とする酸性の赤色土や黄色土の国頭マージと、石灰岩上で生成する弱酸性〜アルカリ性の暗赤色土の島尻マージからなる。マージ土壌は沖縄本島では全農耕地の72%を占める重要な土壌だが、全般的に物理性が不良で、保水性の低さや下層土の緻密性(島尻マージ)、排水不良や受食性(国頭マージ)などが営農上問題となる。その問題の一つに、土壌が乾燥した際に強く硬化して砕けにくい土塊となり、耕耘砕土の障害となることがあげられる。このように物理性が不良な土壌の改良方法として、一般に、堆肥など有機物資材の施用が有効な方法とされる。有機物資材の施用は土壌の団粒化を促進し、膨軟化、通気性・保水性・排水性の向上を促す作用があり、その効果は多くの試験により実証されてきた。一方、有機物の施用により、土壌の過乾、過湿、排水不良など物理性の悪化が生じる例も報告されている。物理性がもともと良くないマージ土壌に有機物を施用する場合、物理性のさらなる悪化が生じないよう、施用が土壌の物理性に及ぼす影響を詳細に把握し、適正な施用を行うべきである。本稿では、有機物資材の施用がマージ土壌の乾燥時の硬化に及ぼす影響について、久保寺(2007)を元に紹介する。
著者
菅野 洋光
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.241-249, 2008-02
被引用文献数
1

東北地方では、梅雨季から夏にかけて「やませ」と呼ばれる低温の東よりの風が吹く。やませは、日本の北にオホーツク海高気圧が出現し、本州南岸付近に低気圧や前線が停滞するような気圧配置で発生する。また、やませは平年でも15〜30日程度は吹走して、主に東北地方太平洋側に低温をもたらすが、夏の太平洋高気圧の勢力が十分に強ければ、盛夏期にはほとんど吹かず、東北地方も関東地方並みに暑くなる。ところが、太平洋高気圧が弱く、梅雨前線を十分に北まで押し上げられない夏もある。そのような場合、オホーツク海高気圧の勢力が強く、やませが10日以上も吹き続ける。そして、8月になっても梅雨が明けず、冷夏が決定的になる。さて、このような不安定な気象条件下では、的確な気象予測に基づいた早期の被害軽減策を施すことが有効であると考えられる。そこで、2003年冷害を受けて発足した、先端技術を活用した農林水産研究高度化事業プロジェクト「やませ気象下の水稲生育・被害予測モデルと冷害回避技術の開発(2004〜2006年)」で、気象予測データを基にした農作物被害軽減情報のウェブサイトを作成し、冷害などの異常気象による被害軽減の支援を開始した。
著者
高橋 肇
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.247-255, 2009-02

パンの原料は、小麦である。小麦を栽培したことのある人は、少ないながらもいるであろうが、さらにそのなかで「自分で栽培した小麦を使ってパンを焼いた」という人はどれくらいいるだろうか?今、都会に暮らしていても、農家の出身であるという人はたくさんいる。農家でなくとも、「田舎のおじいちゃんが作ったお米を食べている」という人も大勢いるはずである。しかしながら、「田舎のおじいちゃんが作った小麦粉でパンを焼いている」という人はいるだろうか?地産地消のパンは、おいしいことも大切であるが、「安全で安心できること」も求められる。安全で安心できることは、ふつうのパンでも小麦の栽培や貯蔵、小麦粉の製粉工程、製パン工程において、それぞれの製造・管理のなかですでに実現されてきたことではあるが、「地産地消」であるからには、「有機」や「減農薬」、「顔の見える製品」であることまでもが求められるであろう。さらに、地産地消のパンは、その土地で生産されたものをその土地で消費するというこだわりから生まれるストーリーのなかに「おもしろく楽しいこと」が求められる。本稿では、地産地消のパンづくりをめざす前提として、まず、「味覚としてのおいしさ」とは何かを、小麦栽培からパンづくりまでの工程別に検証する。次に、これに対して「安全で安心できるおいしさ」を加えていくうえでの問題点を考察する。最後に、地産地消のパンづくりに「おもしろく楽しいおいしさ」を加えるための方策を「難しいからこそおもしろい」という観点で考えてみたい。
著者
笠島 一郎 平林 孝之 川合 真紀
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.85, no.6, pp.633-636, 2010-06

ワサビは日本料理(サシミ、すし、そば、漬物等)に独特の香辛料として用いられ、その歴史も古い。ワサビは我が国が原種と考えられる数少ない植物種である。すでに7世紀の飛鳥時代に登場し、江戸時代には静岡地方で栽培が推奨された。これまでいくつかの代表的栽培種が育成されているが、それらの遺伝学的類縁関係に関する知見は少ない。本研究ではRAPD法と呼ばれるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)多型解析により、栽培ワサビ品種及び野生種の類縁関係の解析を試みた。