著者
阿部 晋吾 高木 修
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.65-73, 2011-02

In this study, we examined the relationship between the level of narcissism and helping behavior. Participants, 108 students, were asked to rate the Narcissistic Personality Inventory-Short Version (NPI-S), the normative attitude toward helping, helping ability, and daily helping behaviors. Results indicated that the higher the sense of superiority and competence, which was an aspect of the narcissistic personality, the higher they rated their helping ability. On the other hand, the higher the need for attention and praise, another aspect of the narcissistic personality, the more they rated positively on their normative attitude. Moreover, helping ability and the normative attitude were positively related to the daily helping behaviors. These results suggested that there would be two processes in the influences of narcissism on helping behavior.本研究では、対象者(108名の学生)に自己愛人格目録短縮版(NPI-S)と、援助規範意識、援助能力評価、援助行動について回答してもらい、自己愛傾向の程度によって援助行動に差異が見られるかどうかを検討した。その結果,自己愛傾向のうち、優越感・有能感が高いほど、援助能力評価が高いことが明らかとなった。また、注目・賞賛欲求が高いほど、肯定的な援助規範意識を持ちやすいことも明らかとなった。さらに、援助規範意識、援助能力評価は、援助行動に対して正の影響を及ぼしていた。これらの結果は、自己愛傾向は2つのプロセスを通じて援助行動に影響を及ぼしていることを示唆している。
著者
村田 麻里子
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.93-117, 2020-10-31

本稿では、オークランド戦争記念博物館の取り組みを通して、ニュージーランドのミュージアムにおける多文化主義の実現について考察する。具体的には、2日間に亘る視察と20人の館スタッフとのインタビューの様子を詳細に報告することで、館がいかにして先住民族マオリの文化を軸に、太平洋の多文化を扱っているのか、またそれによっていかにミュージアムを開こうとしているのかを分析する。
著者
妹尾 剛光
出版者
関西大学
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.129-135, 2006-10

小論は、ルソーにおけるコミュニケーションの主体の形成とそこにある基本的問題点、即ち、母の愛を知らずに育ったルソーの直接的コミュニケーション、「心の底からの親しい交わり」への強い欲求は、この欲求を核とする人間の本心を善、社会あるいは大人の悪を子どもの悪の原因とする人間観、及び、これと結びついた、汚れを知らない孤独の中の人間は、技術の発展とともに依存、服従関係でしかない社会に入らざるをえないという社会観をルソーに持たせ、人間がコミュニケーションの主体に成熟して作る社会を、『エミール』以前にはルソーに考えさせなかったということを、更には、それにもかかわらず、『社会契約論』、『エミール』においてルソーはロックやスミスと基本的なところでは同じ人間論、社会論に辿り着いたということを、彼の主要著作の検討を通して明らかにする。
著者
高木 修 戸口 愛泰
出版者
関西大学
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.3-28, 2006-03-25

本研究では,近年増加する社会問題(e.g.,未成年による犯罪,いじめ,虐待)の原因究明と解決への手がかりを得るために,人と人との「絆」に着目した。まず,「絆」現象を深く理解するために,「絆」についてのイメージや態度に関するステートメントを自由記述法で収集し,それらの内容分析を通じて,5つのカテゴリーを確認した。つぎに,それらのカテゴリーに基づいて母子間の絆尺度を作成し,194名の母子(ペア)を対象に「絆」意識を測定し,その回答を因子分析にかけた結果,4つの「絆」因子が抽出された。これらの意識と関係満足度との関係から,肯定的な情緒的先行要因と自然発生的な安定性認識が母子関係の満足度を向上させることが明らかになった。
著者
辻 大介
出版者
関西大学
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.43-52, 2006-03-25

本稿では、中村[2003]の先行研究によって明らかになった携帯メールと孤独不安の関連について、さらなる検討・考察を加える。2004年の予備調査および2005年の大学生調査の分析結果からは、携帯メールの利用頻度と孤独不安とが正の相関を示すことが確認され、また、携帯メール利用と孤独不安が互いに互いを高めるような螺旋状の増幅過程の存する可能性が示唆された。宮台[2005]はこうした「悪循環」の過程の背後には対人不信が潜んでいると論じているが、2003年の全国調査のデータを再分析した結果からは、孤独不安と一般的信頼尺度はむしろ正の相関関係にあることが認められた。山岸[1998]の信頼に関する議論にしたがえば、この結果は、関係性の流動化による社会的不確実状況への適応として、関係性への敏感さが求められつつ、そのことがまた関係性の不安の感じやすさにつながっているものと解釈できる。
著者
橋本 敬造
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.73-86, 1981-11-30

神先秀雄・薄田桂・友松芳郎三教授古稀記念特輯
著者
高増 明
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.1-20, 2015-10-31

Japanese popular music (J-Pop) is currently facing a critical situation. After having reached a peak of JPY 600 billion in 1998, sales have dropped steadily throught the present day. The crisis exists in a quantitative as well as a qualitative aspect. The same types of songs are ranked in the hit-charts and J-Pop songs are produced to be salable only in the Japnese market. They deviate from global trends in popular music. In this article, we analyze how this music industry crisis developed and how it can be solved. We consider factors that drove the crisis by focusing on the economic stagnation and changes in the economic characteristics of music goods. As the policies that can rescue J-Pop from the crisis, we propose the possibility of indie records companies that the artists can establish by themselves as well as suggest government intervention in the music industries through taxes and subsideies. In the final section, we summarize the implications of this article and refer to the current state of the music markets in the US, China, and South Korea. 日本のポピュラー音楽は危機的な状況にある。音楽コンテンツの売上は1998年に約6,000億円に達したが、その後は傾向的に減少している。危機は、量的側面だけではなく質的側面についても存在する。最近は、同じタイプの音楽がヒットチャートの上位を独占し、日本のポピュラー音楽は、世界の動向からは乖離して、日本のマーケットだけを目指すようになっている。この論文では、危機がどのようにして生じ、それをどのように解決するのかを考えていく。危機を起こした原因としては、経済の停滞と音楽の財としての特性の変化に注目する。危機を救う方法としては、アーティスト自らがすべての役割をこなすインディーズと政府が音楽市場に介入し、音響機器に課税するとともに、補助金を交付する方法を提案する。最終節では、論文の内容を要約するとともに、日本の状況をアメリカ、中国、韓国と比較する。
著者
木村 洋二 渡邊 太
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.119-164, 2005-03-25

最終戦争による世界の破滅を生き延ぴた修行者が、理想社会を建設する。そのような救済のヴィジョンを抱いていたオウム真理教は、1995年に地下鉄サリン事件を起こした。救済を目指すはずの修行者たちは、なぜ無差別のテロリズムを遂行したのか。この問題を、感情論理のネットワーク分析の視点から渡邊が考察する。宗教的に意味付与されたテロリズムは、献身の感情論理にもとづく。ソシオン理論によると、献身の感情論理は、否定の否定が肯定になる、という弁証法的なネットワーク動作として説明できる。真摯な自己否定は、他者への隷従を帰結する。このとき、献身の対象であるグルに対する不信や指示に従うことの迷いは、必ずしも献身のネットワークからの解放につながらない。オウムの修行者の感情論理においては、葛藤し、迷った挙げ旬に、結局指示に従ってしまうという構造があった。この構造は、現在自分が置かれている状況に対する疑問を抱いたときに、その状況から離脱することを不可能にする。不自由に気づくことが、さらなる不自由へと人を巻き込むようなネットワーク構造がある。閉ざされた環境において、批判的視点を確保する可能性について考察することが本稿の課題である。
著者
妹尾 剛光
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.185-211, 2007-03

『記憶と和解』は、カトリック教会が教会構成員の過去及び現在の行ないのあるもの(代表的な例は、「キリスト者の分裂」、「真理に仕える時の強制力の使用」、「ユダヤ人に対する敵意や不信」)の過ちを認めて、それに対する神の赦しを求め、傷つけられた人々の赦し、その人々との和解を求める文書である。その根底には、聖書に啓示された、心から認めた罪に対する神の赦しと神の掟「兄弟愛、アガペを生きよ」がある。基本的な問題は、観念としては誰彼を問わずどの人間に対しても与えられるべき愛であったアガペが、特に中世や近代の実践においては、信仰を同じくする人々の間での愛であり、異教、異端の人々に対しては、教会分裂、十字軍、異端審問、不正な権力との協同などが真の信仰に基づく業として行なわれてきたということにある。この文書は従って、カトリック以外のさまざまな信仰、信念を、それが当然の社会秩序、即ち、人間の権利、万人に共通の善を傷つけない限り、それぞれに独自な価値を持つものとして尊重し、寛容すること(第二ヴァティカン公会議教令)を基にしている。
著者
村田 麻里子
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.141-167, 2021-09-30

本稿では、ミュージアムと呼ばれる施設の脱植民地化(decolonisation 英/decolonization 米)について、展示を通して考える。具体的には、植民地主義と密接に関係しているミュージアムのいくつかの展示に着目し、それらがどのような手法を用いてミュージアムのコロニアリティを脱構築しようと試みているのかについて検討する。とりわけ、グローバリゼーションのなかで自らの組織・コレクション・展示を脱植民地化しようとする西洋(主にイギリス)、そして先住民との対話の中で関係を徐々に変化させている北米やオセアニア諸国(アメリカ・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド)のミュージアムの展示手法を取り上げる。そのうえで、日本国内の事例として、2019年に北海道白老町に開館したウポポイ(民族共生象徴空間)の国立アイヌ民族博物館の展示について検討する。最後に、これらの事例の意義と課題を包括的に振り返る。
著者
片桐 新自
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.23-46, 2012-10-31

本稿は、社会学の現状に危機感を持ち、社会学はどのような学問であるべきかについて私見を述べたものである。多面的な切り口から自由に述べさせてもらっているので、一見すると一貫性に欠けたものと思われるかもしれないが、社会学という学問は、マクロな視野をもった実証的な学問であるべきだという考え方がその根本にある。
著者
久本 博行
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.133-146, 2008-03-30

Behavior therapy of the first generation was designed to influence maladjusted behavior. Cognitive therapy as the second generation of behavior therapy was designed to improve emotions/moods by influencing thoughts away from the necessity of treating unpleasant emotions like depression. Behavior therapy of the third generation is mindfulness therapy that is designed to control emotions/moods by operating on attension. It introduces mindfulness-based stress reduction and mindfulness-based cognitive therapy as examples of mindfulness therapy.
著者
山本 雄二
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.149-167, 2007-03-30

学部共同研究費 20040401-20050331Kansai University Grant-in-Aid for the Faculty Joint Research Program 20040401-20050331〈成熟〉概念の社会学的研究(分担執筆)
著者
村田 麻里子 パスキエ オレリアン 山中 千恵 伊藤 遊
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.57-81, 2014-10-31

This paper reports on the special exhibition of Korean comics ‘Flowers that Never Wilt’ at the 2014 Angouleme International Comics Festival. It also analyzes the ‘politics’ involved in the festival site and the exhibition display. The exhibition, which dealt with the issues of ‘comfort women’, raised disputes among the three involved countries: Korea, Japan and France. This paper tries to carefully examine the cause of these disputes, and to clarify the differences or the gaps in their perspectives towards exhibiting such political issues.本稿は、フランス・アングレーム市で毎年開催されるアングレーム国際BDフェスティバルに出展された韓国漫画の展覧会「枯れない花」展を、現場のレポートを交えて概観するとともに、そこにおいて顕在化した場と展示の〈政治性〉についての考察を行うものである。これによって、日韓仏三国には、〈政治性〉をめぐる解釈に齟齬があること、またここには日韓間の問題だけではなく、ヨーロッパからみた「オリエント」としてのアジアという問題も、影を落としていることが明らかになった。
著者
黒田 勇
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-29, 2019-10-31

This essay aims to reveal the history of the sports business and suburban development operated by Hanshin railway and two newspaper companies, The Osaka Asahi and The Osaka Mainichi, in the early 20th century. These two sectors of the new industries developed rapidly as cultural industry by stimulating people's desire on the suburban life and leisure activity.
著者
溝口 佑爾
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.33-48, 2019-03-31

A index "Live close to/away from home" made by the distance gives us a framework for dividing academic achievement into two types. The paper examines effects of two types of academic achievements on residential mobility.
著者
久本 博行
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.133-146, 2008-03

第1世代の行動療法は、不適応行動を改善するために行動を操作しようするものであった。さらにうつのような不快な気分や感情を治療する必要から、思考を操作することによって気分や感情を改善しようとする第2世代の認知療法が生まれた。そして、第3世代の行動療法として注意を操作し、気分や感情をコントロールするマインドフルネスな治療法が生まれてきた。マインドフルネスな治療の具体例として、マインドフルネス・ストレス低減法とマインドフルネス認知療法を紹介した。<特集>感情心理学の応用
著者
守 如子
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.137-158, 2017-10-31

There are two significant genres of pornographic manga for young female readers in contemporary Japan. One is called “Teens’ Love” (or “Ladies’ Comics”), and the other is called “Boys’ Love”. The purpose of this study is to clarify the characteristic traits of female consumers of pornographic manga, focusing on the Seventh National Survey of Sexuality among Young People (2011). These surveys are conducted every six years by the Japanese Association for Sex Education (JASE). The study compares the girls aged 12 to 22 whose source of information about sex was manga with those who cited other sources. The former had a positive image of sex and sexual open-mindedness, and demonstrated more knowledge of sex. Extrapolating from this data, I argue that pornography for young female readers can have a positive effect.
著者
雨宮 俊彦 光田 愛 宮原 朋子
出版者
関西大学
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.167-200, 2008-03
被引用文献数
1

Williams (1976)は、英語における異種感覚モダリティー間の修飾表現の歴史的変化を分析し、触覚や味覚、嗅覚などの低次の感覚モダリティーの形容詞は、初めは同じ感覚モダリティーの名詞を修飾するが、後の時代になるとしばしば色や音などのような高次の感覚モダリティーの名詞を形容するようになることを示した。これは、異種感覚モダリティー間の修飾表現における方向性仮説とよばれる。Williamsの研究をうけて、日本語の用例のより詳しい調査や理解可能性の調査が行われた。全体として、方向性仮説は支持されている。しかし、高次、低次といった考えは粗いもので、研究者の間には用いるデータの種類や結果の解釈の食い違いが存在する。我々は、日本語における異種感覚モダリティー間修飾表現の方向性仮説の妥当性を、心理学的な理解可能性評定とグーグルを用いた検索による頻度調査により検討した。5つの名詞(色、音、匂い、味覚、触覚)と55の感覚形容詞からなる220の異種感覚モダリティー間の修飾表現が用いられた。全体として理解可能性と使用頻度は良い対応を示した(r=0.64, p<0.01)。データをより詳しく調べると次の二つの傾向が顕著だった。(1)触覚から他の感覚への一方向的な転移。(2)感覚のグループ化(味覚-嗅覚、視覚-触覚)。一方向性仮説との関連でこれらの二つの傾向の含意が議論された。