著者
若林 秀隆
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.837-842, 2014 (Released:2014-06-23)
参考文献数
33

サルコペニアの定義は、狭義では加齢による筋肉量減少、広義ではすべての原因による筋肉量減少、筋力低下、身体機能低下となる。成人低栄養の原因である飢餓、侵襲、悪液質は、すべて二次性サルコペニアの原因でもある。つまり、高齢者で低栄養を認める場合、二次性サルコペニアのことが多い。高齢者では低栄養とQOLに関連を認め、栄養改善で身体的QOLと精神的QOLを改善できる。サルコペニアとQOLの関連も示唆されるが、サルコペニアの改善によるQOL改善のエビデンスは乏しい。 サルコペニアに対する栄養補給は、高齢者の筋肉量と筋力を改善させる。ただし臨床現場では、広義のサルコペニアの原因である加齢、活動、栄養、疾患の有無をそれぞれ評価したうえで対処する。サルコペニアの原因によって、レジスタンストレーニングの可否や栄養療法の内容が異なるからである。サルコペニア対策では、リハビリテーション栄養の考え方が有用である。
著者
井上 善文
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.573-579, 2010 (Released:2010-05-20)
参考文献数
10

必要エネルギー量の算定方法として、Harris-Benedictの公式(HBE)から基礎エネルギー消費量(BEE)を求め、これに活動係数とストレス係数をかけて計算する方法が用いられている。しかし、HBEからBEEを求める方法は過剰評価になる場合が多いことが認められている、本邦で用いられている活動係数およびストレス係数の多くは根拠となる検討結果に基づいたものではない、またその数値としての選択は結果的に主観的なものとなる、などの問題がある。基本的投与量として25~30kcal/kg/日を設定し、ストレスの度合に応じて増減し、積極的なモニタリングを行いながら投与量・組成を調整する方法の方が臨床的ではないかと考える。
著者
平手 博之 笹野 寛 藤田 義人 伊藤 彰師 薊 隆文 杉浦 健之 祖父江 和哉
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.769-774, 2009 (Released:2009-06-11)
参考文献数
11

血清ナトリウム異常は単にナトリウムの過不足をあらわしているのではなく、水に対する相対的な変化をあらわしている。ナトリウムの動態は水の移動に連動している。ナトリウム濃度異常を管理するに際しては体内水分量過不足の評価、体内総ナトリウム量の評価、血漿浸透圧、尿中ナトリウム濃度などを手がかりにして動態を理解する必要がある。中枢神経症状がみられるような重篤な濃度異常は補正を必要とするが、原疾患に対する治療に加え、ナトリウムの絶対量の増減、水分増減の関係をもとに、高張塩化ナトリウム液、生理食塩水、0.45%塩化ナトリウム液、5%糖液、水制限、利尿剤などを組み合わせ、急激な補正自体も重篤な神経系合併症を発症するリスクを伴う事を念頭に置き、適度な速度と十分なモニタリング下に適切な補正管理をおこなうことが重要である。
著者
大荷 満生
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.439-445, 2007 (Released:2008-03-25)
参考文献数
15
被引用文献数
9

高齢者医療における栄養評価の重要性について、(1)高齢者の栄養障害の特徴、(2)高齢者の自立障害とsarcopenia(筋肉減少症)、(3)高齢者の栄養評価の進め方の3点を中心に概説した。高齢者の低栄養には、骨格筋と脂肪組織の消耗が著明であるが、内臓蛋白は比較的保たれるため浮腫をみないマラスムス型PEMと内臓蛋白の低下が著しく高度の浮腫をみるカシオコール型PEMが混在する。高齢者の栄養状態を内臓蛋白の指標である血清アルブミンだけで評価すればマラスムス型PEMを見落とし、これとは対照的に身体計測指標だけで評価すればカシオコール型PEMを見落とすことになる。したがって、高齢者の栄養評価では、血清アルブミンなどの血液検査所見と身体計測指標を組み合わせて評価することが重要である。また、加齢に伴う筋肉量の減少と筋力低下は、sarcopeniaと呼ばれ、高齢者の転倒や骨折、寝たきりなどの自立障害を引き起こす大きな原因になる。高齢者の筋肉量を正確に評価し適切な栄養治療をおこなうことは、高齢者の健康維持や自立障害の予防に重要である。高齢者の栄養評価法としては、在宅や施設入所の高齢者を対象とする場合は、血液検査を必要とせず、簡単な問診と身体計測によって評価が可能なMini Nutritional Assessment(MNA)が有用である。一方、高齢入院患者を対象とする場合は、血清アルブミンと理想体重比から求めるGeriatric Nutritional Risk Index(GNRI)が有用である。いずれの栄養評価法も高齢者あるいは高齢患者の臨床経過や生命予後のよい指標となる。
著者
伊藤 明美 水落 雄一朗 嘉村 由美子 太田 美穂 竹山 廣光 祖父江 和哉
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.991-995, 2011 (Released:2011-06-15)
参考文献数
15

本邦において入手できる微量元素製剤にはセレンが含まれていないため、在宅中心静脈栄養 (Home Parenteral Nutrition;以下HPNと略) 管理中にセレン欠乏症を起こす危険性は少なくない。今回、HPN管理開始3年でセレン欠乏症を発症し、これまでに報告のない毛髪形態変化 (巻き毛) をはじめ多様な臨床症状を呈し、院内セレン製剤の投与により一定の症状改善をみた症例を経験した。セレン欠乏症による臨床症状は、重症化すると不可逆となる可能性があり、その予防には臨床症状の慎重な観察とセレン値の定期的なモニタリングが必要である。
著者
田中 弥生
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.1143-1149, 2014 (Released:2014-10-20)
参考文献数
4

2025年開始を目指した地域包括ケアシステムは、地域住民のニーズに応じた住宅が提供されることを基本とし、「生活上の安全・安心・健康を確保するために医療や介護のみならず、福祉サービスも含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場(日常生活圏域)で適切に提供できるような地域での体制」と定義されている。この定義の中には、「食生活及び栄養障害の改善、疾病の再発予防や疾病の予防ができ、地域住民が住み慣れたところでその人らしい生活を送ることができる」ということも含まれており、そのためには要介護高齢者は病院から施設、在宅に移り変わっても一連で適切な栄養管理が必要である。栄養ケアに関する情報の提供、ケアマネジャーを中心とした多職種の協力、地域社会に密接した全高齢者への主観的栄養アセスメントの徹底、地域家族も含めて多職種全てのスタッフが共通の概念をもつことが重要であり、科学的根拠に基づく栄養管理を地域包括ケアシステムで共有することが必務である。
著者
東口 高志
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.965-976, 2011 (Released:2011-06-15)
参考文献数
20
被引用文献数
5

【目的】酵素分解法を用い一般の食事と全く変わらない自然な外観と風味を保ちながら、口腔内で容易に溶解し咀嚼困難や嚥下障害患者の経口摂取に適した形状を有する新しい食品“あいーと®”を開発した。その形状機能を評価する目的で、物性測定と組織成分を分析するとともに人工消化液への浸漬試験による崩壊性と消化性を検討した。【対象と方法】保形軟化食品“あいーと®”の物性と組成、ならびに人工消化液中での崩壊性と消化性について解析し、咀嚼および嚥下機能障害症例に対する有用性について通常調理の“常食”を対照として検討した。物性値はクリープメータを、蛋白分析はSDS電気泳動法を、食物繊維分析は酵素-重量とHPLC法を用いた。消化実験は、人工唾液、胃液および腸液中に浸漬し37℃で60分間反応させ、その残渣率や蛋白溶出量などを検索した。【結果】“あいーと®”の硬さは、いずれの食材でも2×104 N/m2以下の“常食”に比べて著しく低い値を示した。その変化は酵素処理によって食物の骨格を形成する蛋白や食物繊維が容易に消化され、低分子化されることによってもたらされることが判明した。人工唾液、胃液や腸液を用いた人工消化液浸漬実験では、“あいーと®”は常食に比べ速やかに崩壊し、わずかに残渣を残すまでに消化されることが示された。また、“あいーと®”の成分である蛋白は消化液中へ速やかに溶出しており、その濃度は常食に比べ明らかに高値を示した。【結論】酵素分解法を用いた保形軟化食品“あいーと®”は、外観は全く常食と変わらないが、口腔内でその形状が変化し咀嚼および嚥下がしやすい軟らかさと物性を有することが判明した。したがって“あいーと®”は咀嚼、嚥下機能や消化管機能が低下した高齢者や消化管術後早期の患者の経口栄養に適した全く新しい栄養製品であることが示唆された。
著者
松原 肇 矢後 和夫
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.1169-1174, 2009 (Released:2009-12-21)
参考文献数
10
被引用文献数
1

TPN施行時の輸液フィルター使用は, 感染防止, 塞栓防止の観点から有用である. しかし, 薬剤によっては, 輸液フィルターに吸着され, 場合によっては, 治療に影響を及ぼす場合がある. 本稿では, 輸液フィルターへの薬剤吸着の機序, 考え方などについて述べる.
著者
静間 徹 石渡 一夫 盛 英三 福山 直人
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.649-652, 2008 (Released:2009-04-30)
参考文献数
11

症例は17歳女性。摂食障害にて嘔吐を繰り返しており、るいそうが著明なため、入院となった。投薬後に嘔吐量は減少し、食事負荷が増大したことによる全身浮腫(refeeding edema)が発現したが、食事・塩分摂取量を制限したところ、浮腫は消退した。血中インスリン値(μU/mL)は、浮腫発現時には低値(1.4)、発現1週間後には正常範囲(4.3)であったが、浮腫消退時には軽度の高値(17.4)を示していた。血中グルカゴン値(pg/mL)は、浮腫発現時(131)・消退時(101)とも正常範囲であった。refeeding edemaの発現には、refeeding後のインスリン分泌の亢進やグルカゴン分泌の低下が主要な機序と推測されているが、自験例では、浮腫発現期の血中インスリン値の上昇、血中グルカゴン値の低下は認めていなかった。
著者
合田 文則
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.235-241, 2008 (Released:2008-11-26)
参考文献数
11
被引用文献数
7

胃瘻からの半固形化栄養材短時間摂取法(以下、半固形化法と略)は、健常人が1回で食べる量を、健常人が口の中で噛み砕いてできる半固形状の食塊にして、健常人が食べる短時間で胃瘻から摂取する方法であり、消化管機能の保たれた胃瘻患者にとって最も生理的な消化管運動や消化管ホルモン分泌、消化吸収が得られる胃瘻からの栄養摂取法である。重要なポイントは、胃内でスベリを起こさず胃を十分に伸展させる適切な粘度(20,000cP程度)のある半固形化栄養材を、適切な量(400~600mL)だけ短時間(15分程度)で注入することである。この生理的な摂取法により従来の液体栄養剤による緩徐な注入法と比べ、(1)胃食道逆流や瘻孔からの逆流が防止により誤嚥性肺炎やスキントラブルを防止、(2)注入の短時間化により臥床の時間が短縮され褥瘡の予防、リハビリテーションやADLの時間確保でき患者のQOLの改善、家族や介護者の労働力の軽減、(3)ダンピング症状や下痢の解消、などの多くのメリットがあり急速に普及してきた。反面、半固形化栄養材に関する研究や開発はまだまだ途上であり安易な半固形化法の導入には多くの問題点も存在する。本稿では現状での半固形化法の問題点とその解決法について概説した。
著者
谷口 知慎 谷村 学
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.465-469, 2007 (Released:2008-03-25)
参考文献数
13

高齢者は様々な要因から容易に低栄養状態に陥る。加齢に伴う基礎代謝量や身体活動量の低下、消化吸収に関連する生理機能の低下もみられ、合併する疾患や病態により一層拍車をかける場合がある。人における老化にはかなり個人差があり、かつ高齢者は種々の疾患を持つことより多くの薬物を服用していること、また薬に対する感受性の高まっていることなどにより副作用の発現が多い。薬物治療における副作用が低栄養状態を招き、治療を妨げていることが報告されている。栄養状態に影響を及ぼす各副作用症状から薬物をとりあげ、その薬物の副作用の発生メカニズムについて概説する。
著者
濱田 康弘 上野 公彦 河野 圭志 門口 啓 宇佐美 眞
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.1045-1051, 2009 (Released:2009-10-20)
参考文献数
23
被引用文献数
1

肝臓は三大栄養素のみならず、各種ビタミンなどの代謝における中心臓器である。また、腎臓は生体の恒常性保持に必須の臓器である。すなわち、それぞれの機能が障害されるとさまざまな代謝異常が生じてくる。肝障害においては、安静時エネルギーの亢進、脂肪の燃焼亢進、糖質の燃焼低下がみられる。さらに、分岐鎖アミノ酸の減少といった特徴もみられる。腎障害においては、エネルギー消費量が増大し異化亢進状態となり、体蛋白の崩壊をきたす。さらに肝不全と同様、分岐鎖アミノ酸の減少がみられる。治療面においては、肝不全における蛋白不耐症のため、また、保存期腎不全における腎機能保護のために蛋白制限が必要といった特殊な栄養学的治療が必要となる場合もある。
著者
巽 博臣 升田 好樹 今泉 均 吉田 真一郎 坂脇 英志 後藤 京子 原田 敬介 信岡 隆幸 平田 公一
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.1245-1250, 2013 (Released:2013-12-25)
参考文献数
17
被引用文献数
2

【目的】重症患者における早期経腸栄養開始後は便秘・下痢が問題となる。排便量から緩下剤の継続・休止や必要な処置・検査などを決定する排便コントロール基準 (以下、本基準) の効果について検討した。【対象および方法】ICUで経腸栄養を7日以上継続した53症例 (導入前群24例、導入後群29例) を対象とした。「一日排便量≥300g」を下痢、「48時間以上排便がない状態」を便秘と定義し、経腸栄養開始後1週間の排便状況を両群間でレトロスペクティブに比較検討した。【結果】一日排便量の1週間における推移は導入前後で交互作用がみられた。7日間における下痢の頻度は導入前群2.5±0.3日、導入後群2.0±0.3日と有意差はなかったが、便秘の頻度は1.5±0.3日から0.7±0.2日に、便秘または下痢の頻度は4.0±0.3日から2.6±0.3日に有意に減少した。【結語】排便量に従って薬剤投与や浣腸処置の追加を判断できる本基準の導入により、排便量および下痢・便秘の頻度が減少した。本基準の導入により適切な排便コントロールが可能となり、経腸栄養管理を有効かつ安全に実施できると考えられた。
著者
白尾 一定 秦 洋一 立野 太郎 出先 亮介
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.937-940, 2012 (Released:2012-06-15)
参考文献数
5

当院における術前経口補水療法と術後早期経口摂取への試みについて報告する。術前経口補水療法は2009年12月から2011年1月までの52例に適応し、手術前2時間前まで経口補水液 (OS-1) を摂取した。OS-1は平均815mL飲料され、胃内溶液は平均21mLであった。80歳以上の高齢者においても平均871mLの服用が可能であった。アンケート調査の結果では、82%が飲みやすいと回答した。2010年3月から2011年1月まで胃切除6例、胃全摘9例、結腸切除5例に早期補水療法を行なった。早期補水、食事開始に伴う合併症は認められなかった。胃全摘について従来法と比較した。輸液終了日は、早期補水群で有意に短かった。術前OS-1による経口補水療法は、口渇感や移動、着替えなどの日常生活などの制限もなく、高齢者にも安全に服用できた。小規模なsample数で疾患を限定した消化器疾患に対する早期補水、経口摂取は施行可能であった。
著者
東海林 徹
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.1077-1083, 2011 (Released:2011-08-25)
参考文献数
35
被引用文献数
3

TPN輸液製剤の開発に伴い、格段に簡便性が上がった。その反面、新たな問題が提示されることになった。今回、微量元素製剤を組み込んだTPN製剤が発売されたが、はたして貧血予防に日常的な鉄の投与が必要かという疑問が生じてきた。そこで、体内での鉄の代謝を知るべくまとめた。体内での鉄は閉鎖系回路であり、排泄は1mg/dayとわずかである。静脈鉄製剤の投与は長期になると、鉄過剰症が引き起こることが報告されている。この原因にはコロイドの様式が問題ではあるが、いずれのコロイドでも起こる可能性がある。貧血のない患者への微量元素製剤は慎重に投与すべきである。コロイド鉄は水溶液で安定であるが多量の電解質あるいは総合ビタミン剤によって沈殿してくる。したがって、微量元素製剤の投与時にはフィルターの装着を推奨する。
著者
早田 邦康
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.1211-1220, 2011 (Released:2011-10-25)
参考文献数
46
被引用文献数
1

食物中に含まれる食成分であるポリアミン、脂肪酸、ポリフェノールについて、これまでに報告されている検討結果を概説した。近年の研究において、これらの食成分が多くの生理活性を有することがわかってきた。しかし、とくにヒトにおけるがん病態への影響や健康への効果に関しては不明なことが多い。食成分における一般的な問題としては、疫学調査や試験管内および動物実験によって得られた食成分に関する検討結果を拡大解釈する傾向があることである。これまでに得られた食成分の生理活性を応用してがん患者の病態治療の一助にするために、慎重に検討する必要がある。
著者
倉本 敬二
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.1183-1190, 2009 (Released:2009-12-21)
参考文献数
29
被引用文献数
3

輸液フィルターの必要の是非が論じられてから久しい。不溶性異物による生体への有害反応が証明されているにもかかわらず、本邦臨床においてはコストとの関連を理由に輸液フィルターを使用しないで輸液療法 (栄養・薬物療法) が行われている場合も未だ見受けられる。本稿では不溶性微粒子による注射剤汚染の現実を通して日本薬局方の矛盾点並びに調製された輸液の不溶性微粒子汚染とそれらが静脈内投与された場合の体内分布についての検討結果を踏まえて輸液療法時のリスクマネジメントとしての輸液フィルターの必要性について述べる。
著者
河野 えみ子 泉 伯枝 安永 浩子 中村 奈緒美 松本 絵麻 奥山 悦子 新崎 孝夫 三箇山 宏樹 岡村 昇
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.739-745, 2012 (Released:2012-05-10)
参考文献数
6

【目的】既報で, 輸液にインスリンを配合した際, pHが高くなるにしたがいブドウ糖やアミノ酸がインスリンの含量低下を起こすことを報告した. 今回, 末梢静脈栄養 (PPN) 輸液や糖加維持液に配合したインスリンの経時的な含量変化を調べ, 含量低下の要因について検討した.【方法】各種のPPN輸液, 糖加維持液にインスリンを配合し, HPLC法にてインスリン含量を経時的に測定した.【結果】PPN輸液中のインスリンの安定性は, 濃度が低いと容器への吸着が, 高いと分解が, それぞれ含量低下の主な要因であった. PPN輸液や糖加維持液でのインスリン含量の低下に製剤間の差は認められなかった. また, 糖加維持液においては輸液のpHが高くなるとインスリンの含量低下はより大きくなった.【結論】PPN輸液や糖加維持液にインスリンを配合した場合, 経時的な含量低下が起きるため, これらに直接配合しない投与方法を選択するべきである.
著者
岩坂 日出男
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.867-874, 2012 (Released:2012-06-15)
参考文献数
37

急性期重症患者の栄養管理の目的は除脂肪体重量の維持にある。この目的に栄養アセスメントは重要な位置を占めてくる。しかし急性炎症反応による血管透過性の亢進、輸液負荷などにより伝統的な栄養アセスメント法である身体計測、アルブミン値、Rapid turnover proteinの有効性は消失してしまう。また基本的な病歴聴取も不可能な場合が多くなる。このような状態での栄養アセスメントのためには疾患の重症度、全身炎症反応の程度、これらによってもたらされるストレス誘導性高血糖などの病態を理解し、早期経腸栄養など適切な栄養療法を選択する必要がある。また栄養療法に伴って生じるRefeeding症候群などを理解し、常に栄養療法の効果、合併症についてアセスメントを繰り返すことが重要と考えられる。

2 0 0 0 OA 褥瘡

著者
田中 芳明 石井 信二 浅桐 公男
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.703-710, 2012 (Released:2012-05-10)
参考文献数
47
被引用文献数
5

褥瘡の治癒過程には多くの栄養素が関与している。炎症期でのタンパク質欠乏は、炎症を遷延化させる。増殖期でのタンパク質や亜鉛欠乏は線維芽細胞の機能を低下させる。また、銅やビタミンA、Cの欠乏によりコラーゲン合成機能の低下が起こる。褥瘡の治療では、炎症期から増殖期に速やかに移行させることが肝要である。このため、特に褥瘡の背景にある炎症を早期に改善させることが治癒促進を加速させる。すなわち、エネルギーやタンパクの投与量のみでなく、タンパク合成能の改善や創傷治癒に必須となる栄養素や抗炎症効果を促す栄養素の投与組成を考慮した栄養管理が重要である。また炎症を助長するアルギニンや鉄の摂取 (投与) に関しては、十分に配慮するべきである。適切な栄養管理の結果として、タンパク合成能および脂質代謝が改善され、早期に褥瘡の治癒が得られる。タンパク質、アミノ酸や脂質、微量元素、ビタミンなど主要な栄養素についての知見を示し、病態に応じた栄養剤の使用について概説する。