著者
鈴木 雄介 種村 留美
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.38-46, 2012-03-31 (Released:2013-04-02)
参考文献数
22
被引用文献数
1

外傷性脳損傷患者の多くは神経行動学的変化を生じ, そのために家族介護者の多くが抑うつや不安などの心理学的苦痛を抱えている。本研究の目的は外傷性脳損傷患者の家族介護者の心理学的苦痛の軽減を図るための介入プログラムの効果を検証することである。16 名の参加者に週 1 回, 1 回4 時間で全 5 回の介入プログラムを実施した。内容は外傷性脳損傷の基礎知識, 高次脳機能障害への対応方法, アサーティブネストレーニングを応用したコミュニケーション技法訓練を中心に構成した。効果判定は GHQ-30, SDS, STAI, RAS を評価尺度とし, 介入前後およびフォローアップ (3 ヵ月後と 6 ヵ月後) の時点で分析した。介入前後およびフォローアップの分散分析では SDS は介入前とフォローアップ 6 ヵ月後に, STAI (状態不安) は介入前と介入後における平均値の比較で統計学的に有意な減少を認めた。
著者
藤井 正純 二村 美也子 蛭田 亮
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.321-325, 2022-09-30 (Released:2022-11-24)
参考文献数
8

覚醒下手術は, 脳内に染み込むようにして発育するグリオーマと呼ばれる脳腫瘍や, 薬でどうしても抑えられないような発作で困っているてんかんの症例に行われ, 成果をあげています。日本では世界に先駆けて覚醒下手術のガイドラインが策定され, 一定の条件を満たした施設を認定する制度が発足し, 健康保険の仕組みのなかに組み込まれるまでになり, 現在普及が進んでいます。覚醒下手術は, 脳機能のなかでも特に, 言語を含む高次脳機能を守る手術です。患者一人ひとりの社会背景や人生を考えて, 機能の温存と病変の切除の両立を目指して頑張る取り組みである一方, ここで得られる所見は, 高次脳機能に関するかけがえのない本物の情報でもあります。また, 脳神経外科医だけでなく, 評価者として脳神経内科医・言語聴覚士・作業療法士など多職種の連携が欠かせません。本稿は, そんな多職種の方々が, このやりがいのある手術に興味をもつきっかけになれば幸いです。
著者
太田 久晶
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.212-216, 2020-06-30 (Released:2021-07-01)
参考文献数
18

右大脳半球損傷は, 患者に病巣対側の空間や身体に対する認知の障害をもたらしうる。この障害にはいくつかの症状が該当し, 脳損傷の範囲が広ければ, 複数の症状が同時に出現することも少なくない。 しかしながら, 患者の日常生活場面やリハビリテーション場面などの行動観察のみでは, 各患者がどのような症状を呈しているのかを十分に把握しきれない。そこで, 本稿では, その代表的な症状として半側空間無視, 身体に対する半側無視, 片麻痺に対する病態失認, 半側身体失認・身体パラフレニアに対する検査方法と各症状の出現に関与する病巣部位について紹介する。患者の脳損傷部位を踏まえて, 上記の複数の検査を実施することは, 各症状の有無に加えて, 出現した症状の程度や特徴の把握を可能とする。さらに, 得られた結果を総合的に解釈することは, 個々の患者の呈する病巣対側の空間や身体に対する認識の障害を包括的にとらえることにつながると考える。
著者
石井 由起 春原 則子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.422-428, 2018-12-31 (Released:2020-01-03)
参考文献数
19

複数の意味属性語の想起により目標語の喚語を促すSemantic Feature Analysis (SFA) による失語症の呼称訓練では般化や維持の報告が多い。しかし本邦での検討はほとんどない。今回, 慢性期流暢性失語症 2 例に SFA 訓練を行い, 訓練および維持効果, 非訓練語への般化を検討した。訓練前の呼称では, 両症例とも迂言がみられた。訓練は, 多層ベースラインをもとに 2 週に 1 回の頻度で 2 つのリストを実施し, 訓練前後に 100 語呼称を行った。その結果, ベースライン期 (基準期) に比べ訓練語の成績は有意に改善し, 維持期にも効果が持続した。非訓練語と 100 語呼称の成績も基準期より維持期で高かった。両症例の呼称の改善と般化には, SFA の手法を症例自身が self-generated cues として用いるようになったことの影響が考えられた。意味属性に関する語を有効な cue として活用するためにSFA の手法を意図的に用いるよう指導することの有用性が示唆された。
著者
外川 佑
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.290-295, 2022-09-30 (Released:2022-11-24)
参考文献数
22

自動車運転評価を考える段階にある右半球損傷例については, 症状が軽度であるか, リハビリテーションを経て症状が改善, あるいは代償期の USN で ADL が自立している段階にあり, 自宅復帰や復職を控えた活動的な時期に至っているケースが中心になる。これらの軽度例は, 中等度・重度症例とは異なり, 机上の BIT 行動性無視検査などの静的検査では制限時間を設けるなどの方法上の工夫がない限り問題が検出されにくいことが多い。特に, 自動車運転の課題特性を踏まえた評価として, ドライビングシミュレータ上の車線追従課題や反応課題などに代表される動的評価は, 右半球損傷例の自動車運転時のリスクを予測するうえで有益な情報を提供する可能性がある。本稿では, 机上検査だけでは一見 USN の症状が見過ごされやすい右半球損傷例を対象に, 著者らが開発したドライビングシミュレータ課題の実施結果について紹介する。
著者
遠藤 邦彦 阿部 晶子 津野田 聡子 柳 治雄 井佐原 均
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.165-178, 2005 (Released:2006-07-14)
参考文献数
25

音節を認知するときに, 子音と過渡部 (子音から母音への移行部, フォルマントの遷移部) が果たす役割を検討した。認知の手がかりが子音と過渡部, 子音のみ, 過渡部のみにある音を自然言語音から作成し, 失語症31例と健常者18名に語音認知検査を実施した。認知の手がかりとして, 子音は, 過渡部より強力であった。子音を削除した刺激では, 過渡部のフォルマントが手がかりとして有効であった。言語音の中には認知の手がかりが子音にある音と, 過渡部にもある音とがあった。構音点の解読には子音と過渡部の両方の情報が, 構音方法, および鼻音・非鼻音の解読には子音の情報が, 有声・無声の解読には子音または過渡部のどちらか一方の情報が必要であった。言語音の認知にもっとも大きな障害を生じたのは, 左縁上回下部の病巣であった。音声からの特徴抽出が, はじめに子音を, 次に過渡部をもとに二段階でなされると, 精密で高速な語音認知が可能と考えられた。
著者
加藤 元一郎
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.206-213, 2008-06-30 (Released:2009-07-01)
参考文献数
20
被引用文献数
1

記憶は,まず短期記憶と長期記憶に分類され,長期記憶は,顕在記憶と潜在記憶に分けられる。さらに,顕在記憶はエピソード記憶と意味記憶に分類される。臨床上しばしば観察されるのは,この意味記憶とエピソード記憶の障害である。健忘症候群は,典型的には顕在記憶中のエピソード記憶の選択的障害である。健忘症候群は,損傷の部位と神経心理学的プロフィールとに基づき,間脳性健忘,側頭葉性健忘,前脳基底部健忘に分類される。意味記憶の障害とは,語や物に関する知識や情報が想起できない状態を指している。脳損傷後に出現する意味記憶障害には,しばしばカテゴリー特異性が随伴する。
著者
加藤 元一郎
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.311-318, 2011-09-30 (Released:2012-10-13)
参考文献数
31
被引用文献数
2

前頭前野の損傷では, 特定の記憶障害は生じるが, エピソード記憶の障害である健忘症候群は生じない。前頭前野損傷で生じる特定の記憶障害は, 一言でいうとワーキングメモリの障害であり, 短期記憶システム内にコードされた情報 (表象) の保持とその処理・操作の障害である。前頭前野の障害では健忘が生じないが, 長期記憶のコード化と検索におけるある特殊な側面の障害, すなわち, 時間的順序の記憶障害, 虚記憶の亢進, 展望記憶の障害などが認められることが示唆されている。前頭前野損傷で見られるワーキングメモリの障害に関連して, 動物で見られる前頭葉ドーパミンD1 受容体刺激とワーキングメモリ反応との間の逆転 U 型曲線が, ヒトにおいて, 前頭葉ドーパミン D1 受容体結合能とワーキングメモリ関連の遂行機能検査の成績との間でも認められることを示した研究を紹介した。
著者
草野 みゆき 春原 則子 渡辺 基 百崎 良 安保 雅博
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.601-608, 2012-12-31 (Released:2014-01-06)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

慢性期失語症患者に対し短期間の集中的な言語訓練を実施し, その手法および効果について検討した。訓練は毎日40分×2回, 10日間個別に実施した。内容は 1) テーマを指定したスピーチ, 2) 症例ごとに設定した機能訓練, 3) PACE であった。また, 病棟スタッフとのコミュニケーション課題も設定した。介入前後に, SLTA, SLTA-ST (呼称) , Token Test, 失語症構文検査および日常生活上のコミュニケーション活動の状態に関する家族へのアンケート調査を行った。介入後, SLTA「聴く」以外で有意な改善を認め, 3 ヵ月後の評価でも6 項目中5 項目で成績は維持または改善がみられた。慢性期の失語症患者に対しても, その時点の言語機能の評価に基づいた集中的な介入を行うことによって, 言語機能や日常コミュニケーション能力に改善が得られることが示唆された。
著者
横山 絵里子 中野 明子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.184-191, 2008-06-30 (Released:2009-07-01)
参考文献数
37
被引用文献数
2

頭頂葉病変に関連する,伝導失語,半側空間無視,着衣障害の脳画像研究について概説した。脳循環代謝の解析からは,伝導失語でBroca 野とWernicke 野が保たれ弓状束が限局性に障害されるという解剖学的離断所見は得られず,左シルビウス溝周辺の前頭葉,側頭葉,頭頂葉の広い病巣で伝導失語を認めた。右病変による左半側空間無視では,BIT の成績は右上頭頂小葉,右楔前部や右上後頭回の脳血流低下を反映すると考えられた。左病変による右半側空間無視では広範な左大脳半球皮質域や右頭頂葉の脳血流低下を認め,左半球のみならず右頭頂葉も右半側空間無視の発現に関与する可能性が示された。左病変による着衣障害では,右前頭葉内側(右帯状回前部)の脳血流低下との関連が推察された。着衣障害の改善には,左病変では両側前頭葉,右側頭頭頂葉,両側後頭葉が,右病変では左前頭葉外側,両側前頭葉内側,両側頭頂葉,左後頭葉など,両側大脳半球が関わる可能性があった。
著者
村井 俊哉
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.18-25, 2009-03-31 (Released:2010-06-02)
参考文献数
13
被引用文献数
3 1

脳損傷後には,依存性,感情コントロール低下,対人技能拙劣,固執性,引きこもり,など,社会的場面・対人場面での行動にさまざまな問題が生じてくる。これらの問題は,脳損傷に伴う身体障害や社会的困難に対する心理的反応などとして理解できる場合もあるが,脳損傷の直接の結果として理解するほうが妥当と考えられる場合もある。前頭葉は社会的行動と関連する重要な脳領域であるが,その損傷によって生じる行動障害は,アパシー,脱抑制,遂行機能障害という3 つの軸で大別することも可能である。この 3 症候群が内側前頭前皮質,眼窩前頭皮質,背外側前頭前皮質の損傷とそれぞれ特異的に関連しているとの主張もみられるが,病変と症候の対応関係はそれほど明解ではない。社会的行動障害の基盤となる情報処理の障害が何であるのかは十分には明らかにされていないが,たとえばアパシーについては,目標へと方向づけられた行動(goal-directed behavior)の量的減少として理解できるのではないかとの考えが提案されている。
著者
森山 梅千代 浜 雄一郎
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.212-221, 2011-06-30 (Released:2012-07-01)
参考文献数
23

発症から 8 ヵ月を経過している発語失行および口腔顔面失行を伴う重度運動失語例 (46 歳男性) に,失語症訓練と構音訓練を 4 年経過時まで (実質 3 年間) 実施した。訓練内容および経過を示し,標準失語症検査 (以下 SLTA) および〈発語失行症〉話しことばの評価票,単音節 (109 音節) 検査によって言語機能および構音能力の推移を評価し検討した。その結果,初診時と4 年経過時とを比較すると,SLTA の「話す」「書く」項目と,会話明瞭度の得点が上がり,随意的に構音可能な音が増加した。意思伝達手段はゼスチャーと描画から発話と書字に改変した。SLTA の成績等の経過から,表出面の回復は 1 年を経過した頃から始まり,4 年経過時にも継続しており,回復は長期にわたることが示された。このことから,40 歳以上の重度運動失語例であっても,訓練効果は発症後短期間にのみ見られるのではなく,長期にわたることが示唆された。
著者
海野 聡子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.260-266, 2017-09-30 (Released:2018-10-01)
参考文献数
29

1953 年, 長年てんかん発作に苦しんでいた27 歳の男性に, 両側の側頭葉内側部を切除する実験的な手術が行われた。手術は成功し, 発作は軽減したが, 重篤な記憶障害となった。1957 年, この症例が発表された当時, 記憶は脳に局在を持つとは考えられていなかった。この結果は, 記憶が脳の機能の 1 つであり, 側頭葉内側部が記憶に重要であることを示した。本症例の今日的意味は, たった 1 人の患者が, 当時の常識を覆し, 記憶システムの解明をもたらしただけでなく, さらなる探求の端緒となったことである。症例H. M. として, この男性は神経心理学史に永遠にその名を刻まれることとなる。
著者
濱 聖司
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.285-298, 2010-06-30 (Released:2011-07-02)
参考文献数
49
被引用文献数
4 4

脳卒中後の Depression (うつ病) と Apathy (意欲低下) は混乱して使われることが多く,精神科領域では,Apathy という用語が使われることは極めて少なく,むしろ Depression の一部の症状と考えられる一方,神経内科領域では,Depression と Apathy は分離して考えることが多い。そこで,この総説では,Post-stroke depression (脳卒中後うつ病 : PSD) を Depression と Apathy を大きな二つの核となる症状とみなして,これまでの研究結果をまとめてみた。まず,脳卒中の損傷部位と PSD 発症との関係を調べてみると,Depression と Apathy を分離して考えると,前者は左前頭葉損傷,後者は両側基底核損傷と関係があった。また,PSD が脳卒中後の機能障害改善に及ぼす影響について検討すると,Depression よりも Apathy のあるほうが,機能が改善しにくい,とする結果が得られた。そこで,Depression と Apathy は,PSD の中で,各々異なる神経基盤に立って存在することが示唆された。一方,PSD を考える上で,障害を受け入れていく過程は非常に重要なポイントになることから,その中で,固執に焦点を絞って調べてみた。今まで,固執は否認の症状で良くない因子と考えられてきたが,我々の検討では,適度の固執があると,かえってうつ病になりにくく,機能も改善しやすい,とする結果であった。脳卒中後の患者に接する場合,固執は必ずしも悪いばかりではないことを考慮し,機械的に障害受容を押しつけるのではなく,患者に合わせた,適切な配慮を心がける必要がある。
著者
浜田 智哉 田中 果南 今井 友城 東山 雄一 田中 章景
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.228-235, 2017-06-30 (Released:2018-07-02)
参考文献数
23

失語症臨床において保続を観察する機会は多いが, 保続は失語症評価訓練の阻害要因の 1 つとしても知られている。今回, 発症から 6 ヵ月経過し, 保続が主症状の 1 つであった失語症者に対して TAP (Treatment of Aphasic Perseveration) を参考に保続の減少を目的とした訓練を約 1 ヵ月間施行した。訓練手続きは TAP のエラーコントロールメソッドを取り入れ, さらに訓練中に表出された保続の種類の質的な分析を行うことで, 保続に対する TAP の作用機序を明らかにしようと試みた。結果として, TAP による保続の減少は訓練語以外へも汎化し, さらに実生活での言語表出能力をも向上させたことがわかった。 一方, 保続の質的分析の結果からは, TAP は主に直後型保続の減少に寄与していることが明らかとなった。
著者
小林 祥泰
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-8, 2014-03-31 (Released:2015-04-01)
参考文献数
26
被引用文献数
2

脳卒中後アパシーは,長い間脳卒中の一つの精神症状すなわち「自発性低下」としてのみ注目され,かつて脳卒中に汎用された脳循環代謝改善薬の多くは自発性低下を治療の標的としていた。その後 Robinson らにより post-stroke depression(脳卒中後うつ状態)が報告され注目された。血管性うつ状態の定義も発表されたがうつ病の中核症状を欠くものであったこと,抗うつ薬の効果が認められなかったことから最近では関心が遠のいていた。今から思えばこれがまさに脳卒中後アパシーであったといえる。脳卒中後アパシーは脳卒中後にもっとも多い神経心理学的症状とされているが,血管性認知症の一症状とみなすのではなく,アパシーが先行して廃用症候群を介して血管性認知症自体を引き起こす重要な因子であることを認識すべきである。
著者
原田 浩美 能登谷 晶子 中西 雅夫 藤原 奈佳子 井上 克己
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.16-24, 2006 (Released:2007-04-01)
参考文献数
23
被引用文献数
8 9 2

われわれは,健常高齢者における神経心理学検査の測定値を求めるために,65 ~ 85 歳の 92 名の対象に神経心理学検査を実施し,成績と年齢,教育年数との関連を調べた。年齢および教育年数によって階層化した各群別成績を求め,群間比較を行うことにより測定値の有用性を示した。 かなひろいテスト (無意味綴り,物語) とTrail Making Test (part A,part B) の成績は年齢,教育年数の双方ともと有意に関連した。300 語呼称検査の成績は年齢と有意に関連した。 Mini-Mental State Examination,N 式精神機能検査—物語再生項目 (直後再生,遅延再生) ,Rey-Osterrieth 複雑図形検査 (模写,直後再生) は,年齢と教育年数の双方に影響されなかった。本研究で検討した神経心理学検査成績の解釈をするとき,年齢と教育年数の影響を考慮に入れる必要があることがわかった。
著者
梅崎 俊郎
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.215-221, 2007-09-30 (Released:2008-10-01)
参考文献数
21
被引用文献数
4 3

嚥下は口腔期,咽頭期,食道期よりなるが,とくに気道と食塊通路の共通路で惹起される咽頭期嚥下は,咽頭および喉頭を取りまく多数の筋群による高い再現性をもったもっとも精緻な運動の一つである。このようなステレオタイプの運動様式を示す咽頭期嚥下は,延髄に存在する嚥下のパターン形成器 (CPG) によってプログラムされた運動であると考えられている。随意的に開始される口腔期の嚥下からパターン出力である咽頭期嚥下への移行は,上位の中枢神経系の働きにより円滑に行われている。また,大脳基底核は嚥下の随意期の運動の制御のみならずサブスタンスP を介して嚥下の惹起性をコントロールしている可能性も示唆されている。
著者
松田 実
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.312-324, 2015-09-30 (Released:2016-10-01)
参考文献数
30
被引用文献数
5 5

通常のアルツハイマー型認知症 (AD) の言語症状は, AD の神経病理の分布を反映して健忘失語から超皮質性感覚失語に移行していくのが一般的である。言語障害を主症状とする AD の亜型があり, 原発性進行性失語 (PPA) の一型とされている logopenic progressive aphasia (LPA) 以外に (1) 喚語困難/ 漢字の健忘失書型, (2) 超皮質性感覚失語型, (3) 左側頭葉型 (意味性認知症様の AD) なども存在する。LPA を構成する各徴候の軽重も症例により多様であり, 一症候群を形成するといえるのかどうか疑問であるが, 変性疾患としての特異性は著明な言語性短期記憶障害にあるのではないかと考えられた。
著者
大槻 美佳
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.231-243, 2007-09-30 (Released:2008-10-01)
参考文献数
39
被引用文献数
8 9

要素的症状と責任病巣の関係は以下に集約される。(1)アナルトリー:左中心前回中下部およびその皮質下,(2)(アナルトリーを伴わない)音韻性錯語:左上側頭回~縁上回~中心後回およびそれらの皮質下,(3)単語理解障害:左中前頭回,左上·中側頭回後部,およびそれらの皮質下,(4)喚語困難:左下前頭回,左角回,左側頭葉後下部およびそれらの皮質下。責任病巣が複数ある(3)や(4)は,同じ要素的症状でも,前頭葉損傷と後方領域損傷で,その障害内容が異なり,検査の工夫で相違を明らかにできた。その結果,前頭葉は理解や喚語に関して,おおまかなカテゴリーなどを指南する役割をもち,後方領域はその指南を受け,さらに厳密な情報へアクセスする役割を持つことが推測された。また,左側頭葉前方部損傷患者の特異な語想起障害のパターンから,左側頭葉前方部は意味を手がかりにした語想起に関与することが示唆された。側頭葉の損傷では,さらに,カテゴリー特異性のある障害が認められた。また,機能画像における知見は,タスク施行時のストラテジーを統制することで,臨床知見と整合することが示唆された。