- 著者
-
濱 聖司
- 出版者
- 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
- 雑誌
- 高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
- 巻号頁・発行日
- vol.30, no.2, pp.285-298, 2010-06-30 (Released:2011-07-02)
- 参考文献数
- 49
- 被引用文献数
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脳卒中後の Depression (うつ病) と Apathy (意欲低下) は混乱して使われることが多く,精神科領域では,Apathy という用語が使われることは極めて少なく,むしろ Depression の一部の症状と考えられる一方,神経内科領域では,Depression と Apathy は分離して考えることが多い。そこで,この総説では,Post-stroke depression (脳卒中後うつ病 : PSD) を Depression と Apathy を大きな二つの核となる症状とみなして,これまでの研究結果をまとめてみた。まず,脳卒中の損傷部位と PSD 発症との関係を調べてみると,Depression と Apathy を分離して考えると,前者は左前頭葉損傷,後者は両側基底核損傷と関係があった。また,PSD が脳卒中後の機能障害改善に及ぼす影響について検討すると,Depression よりも Apathy のあるほうが,機能が改善しにくい,とする結果が得られた。そこで,Depression と Apathy は,PSD の中で,各々異なる神経基盤に立って存在することが示唆された。一方,PSD を考える上で,障害を受け入れていく過程は非常に重要なポイントになることから,その中で,固執に焦点を絞って調べてみた。今まで,固執は否認の症状で良くない因子と考えられてきたが,我々の検討では,適度の固執があると,かえってうつ病になりにくく,機能も改善しやすい,とする結果であった。脳卒中後の患者に接する場合,固執は必ずしも悪いばかりではないことを考慮し,機械的に障害受容を押しつけるのではなく,患者に合わせた,適切な配慮を心がける必要がある。