- 著者
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松原 聰
宮脇 律郎
横山 一己
清水 正明
今井 裕之
- 出版者
- Japan Association of Mineralogical Sciences
- 雑誌
- 日本鉱物学会年会講演要旨集
- 巻号頁・発行日
- pp.124, 2003 (Released:2004-07-26)
東京都奥多摩町にあった白丸鉱山跡は,マンガン鉱物を含む露頭の一部が残存している.この露頭からは,過去にもいろいろな種類の鉱物,特にバリウムやストロンチウムを主成分とするケイ酸塩,炭酸塩鉱物が産出した.また,ガノフィル石のカルシウム置換体,多摩石(Matsubara et al., 2000)は前回の放流の際(1998年)に発見された.露頭は,黒色のブラウン鉱が縞状ないしパッチ状に入った全体的には赤褐色の壁で,周囲は砂岩である.通常このようなマンガン鉱体は石英に富む母岩(チャート)に伴われるが,現在見られる部分には,石英は存在しない.ケイ質放散虫もすべて曹長石化している.今回は,ブラウン鉱がパッチ状に入った部分を重点的に調査した.このような部分にも白色~淡黄褐色脈が無数に貫いている.白色脈は主に,ハイアロフェン,曹長石,方解石からできている.その他には,重晶石もふつうに見られる.やや少ないが,重土長石の場合もあり,稀にはストロンチアン石やキュムリ石の微細結晶集合も含まれる.淡黄褐色脈は,マースチュー石,多摩石,ネオトス石などからできている.やや濃い赤色の細脈や小さなパッチ状の部分はストロンチウム紅簾石である.ブラウン鉱は,ひじょうに細かい結晶の集合体で,結晶粒間には,ハイアロフェン,曹長石,マースチュー石,多摩石,ネオトス石などの極めて微細な鉱物が埋めている.薄片で観察すると,ブラウン鉱密集部の小さな空間を,屈折率が高く,多色性の明瞭な濃赤褐色の粒が満たしていることがわかる.これは,似たような色のストロンチウム紅簾石や赤鉄鉱とは明らかに異なる.薄片から一部を切り出し,ガンドルフィーカメラによってX線粉末回折値をとったところ,既知のガマガラ石(gamagarite)によく類似したパターンであることがわかった.そこで,EDSおよびWDSで化学分析をおこない,その結果からガマガラ石のFeをMnで置換したものに相当することが明らかになった.ガマガラ石は,南アフリカのGamagara Ridgeから1943年に記載されたひじょうに稀な鉱物で,理想化学組成式はBa2 (Fe3+,Mn3+)(VO4)2 (OH),単斜晶系の鉱物である.1987年にイタリアのMolinello mineから二番目の産地が発見されている.いずれもマンガン鉱床から発見されているのだが,MnよりFeの方が卓越している.白丸鉱山産のものは,実験式が(Ba1.92Na0.02Sr0.01Ca0.01)Σ1.96(Mn3+0.81Fe3+0.17Al0.01)Σ0.99[(V1.99Si0.01)O7.92](OH) 1.00(6ヶ所の平均値,水分は計算,V + Si = 2)で,明らかにMnが卓越している.格子定数は,a = 9.10(4) Å, b = 6.13(2) Å, c = 7.89(5) Å, β = 112.2(5)℃である.なお,今のところ見つかっている結晶粒は最大でも15μmであるので,単結晶解析は行っていない.このような組成のものは未知である.