著者
嶋田 正和
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.23-27, 2023 (Released:2023-04-21)
参考文献数
6

学習指導要領が10年ぶりに改訂された。高校生物の教科書の主な改訂点は、(1)進路に関わらず広く履修する低学年用「生物基礎」(2単位)と、生物に興味のある生徒が理系学部を大学受験するとき学ぶ上級生用「生物」(4単位)の2科目構成は前期改訂(2012 ~ 2013年施行)と同様に維持されたこと、(2)「生物基礎」では能動的な学び(アクティブラーニング)を前面に出し、生徒が主体的に学ぶ工夫が施されたこと、(3)「生物」では進化の単元が冒頭に配置され、他の分野(遺伝、生理、発生、生態、系統)は進化の視点から理解させること、の3点である。しかし、(3)については、T.ドブジャンスキーの有名な「進化に照らして見ないと生物学は何も意味をなさない」の格言通りには行かず、現場の教師たちからはこの教科書だと教えづらいとの苦情も出ており、これを受けて教科書作成には各出版社によってばらつきが生じている。「生物基礎」は2022年4月からすでに施行されており、2023年4月からはこの「生物」が新しく教室で使用されることになる。
著者
佐々木 翔哉 大澤 剛士
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.275, 2022-10-25 (Released:2023-01-01)
参考文献数
40

タヌキ Nyctereutes procyonoidesは、東アジア地域に分布する食肉目イヌ科の中型哺乳類である。タヌキは人間の生活圏の近くにも生息し、農業被害や衛生上の問題等の様々な問題を引き起こすことがある。近年では、日本の様々な地域のタヌキ個体群において、疥癬症が流行している。ヒゼンダニ類が寄生することによって生じる疥癬症は、宿主の健康状態を悪化させ、活動や生態等に様々な影響を与える。疥癬症が引き起こす影響の 1つとして、夜行性の野生動物が昼間に活動するようになることが知られているが、タヌキにおけるその定量的な報告はほとんどみられない。タヌキの疥癬症を引き起こすイヌセンコウヒゼンダニはヒトやネコにほとんど寄生しないとされるが、感染したタヌキの活動が昼間に行われることで、昼に屋外に出されることが多いイヌにイヌセンコウヒゼンダニが感染する可能性が高まるほか、タヌキが持つ他の人獣共通感染症やダニ類などの寄生生物とヒトとの接触機会が増加する可能性がある。そこで本報告は、疥癬症に感染したタヌキが生息する東京都西部の 4つの都市公園において、約 1年間のカメラトラップ調査を行い、疥癬症に感染しているタヌキと健常なタヌキの活動時間を定量的に比較した。その結果、疥癬個体は健常個体よりも高率で昼間に活動していることが示された。この結果は、疥癬症が実際にタヌキの昼間の活動を引き起こしていることを示唆するものである。
著者
奥崎 穣 高見 泰興 曽田 貞滋
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.275-285, 2012-07-30 (Released:2017-04-27)
参考文献数
28
被引用文献数
3

生態的に似た複数の近縁種が共存するには、種間の資源競争あるいは繁殖干渉が緩和される必要がある。オサムシ科オオオサムシ亜属は、成虫期に多食性の捕食者であるが、幼虫期はミミズ専食である。またオスは異種のメスに対しても交尾行動を示す。彼らは分布域の大部分で2-3種が共存しており、同所的に分布する種間では体サイズが異なっている。この種間の体サイズ差は、幼虫期に捕食可能なミミズのサイズに応じた資源分割をもたらし、資源競争を緩和するかもしれない。また成虫期に異種間の交尾行動を機械的に妨げる生殖隔離として、繁殖干渉を緩和するかもしれない。この2つの仮説を、京都に分布するオオオサムシ亜属4種(山間部の大、中、小型の3種、平野部の大型1種)を用いて検証した。まず、4種の幼虫(1-3齢)に様々なサイズのミミズを与えた。その結果、すべての幼虫は、ミミズのサイズに関わらず捕食行動を示した。またミミズのサイズ増加に伴う捕食失敗は、小型種の1齢幼虫期でのみ観察された。したがって、種間の体サイズ差は資源分割に有効ではないと考えられた。次に、4種の成虫で16通りの雌雄ペアを作り、交尾行動(交尾意欲、マウント、交尾器の挿入、精包形成)を観察した。その結果、体サイズ差が大きい異種ペアでは、交尾意欲があっても交尾器が届かず、挿入ができないペアが多かった。すなわち、種間の体サイズ差による交尾前生殖隔離が成立しており、このことが体サイズ差の大きい近縁種の同所的分布を可能にしていると考えられた。一方、体サイズ差が小さい異種ペア(山間部の大、中型種と平野部の大型種のペア)では、大半のペアで交尾器の挿入が行われ、精包形成まで達成するペアも見られた。このことから、体サイズの似た種が同所的に分布しないのは、資源競争ではなく繁殖干渉のためであることが示唆された。
著者
中西 弘樹
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.169-176, 1988-08-31 (Released:2017-05-24)
被引用文献数
3

A total of 20 myrmecochorous plant genera and 19 seed-dispersing ant species were recorded from the warm-temperate zone of Japan. Of these plant genera, Akebia, Humulus and Lindera were newly found to be myrmecochorous. Akebia quinata, A. trifoliata and lindera citriodora, which had been regarded as mammal-or bird-dispersed species, seemed to be diplochorous, since their seeds contained in the faeces of mammals or birds were frequently observed being carried away by ants. The disseminule weight of the myrmecochorous species varied widely from 0.178mg (Corydalis racemosa) to 47.538mg (Akebia trifoliata), but was most frequently between 0.4mg and 2 mg. Unlike cool-temperate myrmecochores, which usually occur on the forest floor, warm-temperate myrmecochores were usually distributed in open or semiopen habitats such as at the forest margin, in cracks in stone walls, in grasslands and at the roadside. Seed dispersal occurred mostly from late spring to early summer, but occasionally took place even in autumn.
著者
遠藤 大斗 宇野 裕美 岸田 治 森田 健太郎
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2318, (Released:2023-09-08)
参考文献数
47

イトウは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにCRとして掲載されている国内最大級の淡水魚であり、土地開発があまり進んでいない湿原や湿地帯をその流域に含む河川に生息する。そのため、湿地帯に形成される河川の氾濫原はイトウの生息環境に重要であると考えられてきた。しかし、本種に関するこれまでの知見は成魚に関するものが多く、幼魚に関する科学的知見は乏しい。本研究では、イトウの幼魚から成魚までの生息環境特性を明らかにするとともに、同所的に生息する同科魚類との比較を行い、本種の保全対策に寄与することを目的とした。調査は北海道大学雨龍研究林を流れるブトカマベツ川で行った。本河川には氾濫原が存在し、川筋が幾本にも分かれる網状流路が発達している。調査は網状流路が形成する分流域と本流域の2つに分けて実施し、河川規模の小さい分流域ではエレクトロフィッシャーを用いた捕獲を行い、河川規模の大きい本流域ではシュノーケリングを用いた潜水目視を行った。さらに、調査地点の物理環境と捕獲された個体の胃内容物を調べた。30地点で実施した分流域調査の結果、捕獲されたイトウは尾叉長69-137mmの幼魚であった。分流域の物理環境について主成分分析を行った結果、流速が遅く濁度が高いという止水的環境においてイトウ幼魚の生息密度が高くなる傾向が認められた。イトウ幼魚の胃内容物からは、魚類や両生類といった大型動物や動物プランクトンのミジンコ目が確認され、イワナおよびヤマメと比べて陸生落下動物の割合が少なかった。21地点で行った本流域調査の結果、目視されたイトウはいずれも体長300-800 mmの若魚・成魚であった。本流域の物理環境の主成分分析の結果、倒木などのカバー割合が高く深い淵においてイトウ若魚・成魚の生息密度が高くなる傾向が認められた。以上の結果から、イトウ幼魚は氾濫原に形成される流速が極めて遅い場所を選択的に利用するのに対し、イトウ若魚・成魚は流れのある本流で深くカバーのある環境を選択的に利用し生息していることが明らかになった。また、イトウ幼魚は成魚と同様に魚食性を示すことに加え、他のサケ科魚類が選好する陸生落下昆虫以外の餌資源を多く利用することが分かり、イトウは幼魚のときから他のサケ科魚類とは異なる摂餌行動をもつと考えられた。今後、イトウの野生個体群を保全していくためには、氾濫原環境の保全が極めて重要であると考えられた。
著者
一條 信明
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2121, (Released:2023-04-30)
参考文献数
38

釧路市の820 m2 の小さな池に、2013 年から2015 年まで毎年春から秋にかけてアナゴ籠20 個を設置し、継続的にウチダザリガニの捕獲を行い、小型(< 30 mm 頭胸甲長)850 個体、中型(30-40 mm 頭胸甲長)471 個体、大型(>= 40 mm 頭胸甲長)80 個体を駆除した。捕獲個体数は、2013 年1205 個体、2014 年162 個体、2015 年34 個体と、年を経るごとに急激に減少した。2016 年から2020 年まで6 月から9 月にかけて20 個のアナゴ籠で毎年8 回以上ウチダザリガニの捕獲作業を行ったが、2016 年1 個体、2017 年2 個体、2018 年4 個体、2019 年7 個体と、捕獲個体数は極めて少なかった。2020 年には16 回捕獲作業を行ったが、捕獲個体数は0 だった。2013 年の捕獲結果について各月雌雄ごとのサイズグループ解析を行ったところ、7 月には年齢順にグループI、II、II、IV が判別できた。各グループの平均頭胸甲長から、I は小型個体、II は小型~中型個体、III は中型~大型個体、IV は大型個体に相当した。その後グループII、III、IV は消失し、9 月以降に池に残っていたのは若齢のグループI だけだった。2014 年と2015 年には、小型個体と中型個体は雌雄とも少数が捕獲され、大型個体は2014 年に雄2 個体2015 年に雄1 個体しか捕獲されなかった。その後、小型個体は2018 年以降、中型個体と大型個体は2020 年には捕獲されなくなった。本研究により、孤立した小水域において、アナゴ籠を多数使用し長期間駆除活動を行うことで、ウチダザリガニを根絶できる可能性が示された。
著者
横川 太一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.301-308, 2016 (Released:2016-08-24)
参考文献数
43
被引用文献数
2

細菌群集は生態系を構成する3機能群(生産者、消費者、分解者)のひとつである分解者の役割をおもに果たしている。細菌群集は地球上において生物量として優占し、その代謝を介して有機物を無機物へ変換する能力が、生態系における物質循環過程の大きな枠組みの1つを構成している。また近年の16S rRNA遺伝子を基にした系統解析からは、この生物群が系統的に非常に多様であることも明らかになりつつある。しかし細菌群集の生物地球化学的な重要性が理解される一方で、その多様性の時空間分布および変動要因に関する普遍的な知見は少ない。そのため生態系の保全という観点において、細菌群集多様性の機能とその重要性についての議論はほとんどされていない。 現時点における「生物多様性の保全」を目指した規定(例えば生物多様性条約)の作成は、生産者および消費者として存在するマクロ生物(肉眼で観察することのできる生物)の多様性を対象にした生態系将来予測と、そこから導かれる生態リスク評価に基づいている。つまり現在の「生物多様性の保全」という観点には分解者である細菌群集の多様性は含まれていない。そこで本論文では、まず生態系の分解者としての機能を担う細菌群集の特徴とその重要性について紹介する。つぎに多様性の評価方法を中心に、細菌群集多様性の研究のこれまでの歩みと現状を整理する。そして最後に、本特集号の企画趣旨(松井・横川 2016)において示された、「生物多様性を対象とした生態学研究の成果を基にした生態リスク評価」の一環として、細菌群集多様性の動態を定量的に観測することの重要性を示し、定量的観測値を基にした細菌群集多様性の把握が生態リスク評価の指標の一つとして重要な要素になることを説明する。
著者
上野 真由美
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.1911, 2020 (Released:2020-12-31)
参考文献数
16
被引用文献数
3

ニホンジカの管理に関する問題の一つは、管理にかかわる計画と実行が、二つの法と行政の系列にまたがって支配されていることである。環境省の管理下にある「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」は、主に都道府県によるニホンジカ管理計画の策定に関与しながらも対策に係る予算は限定的である一方、農林水産省の下での「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律」においては、市町村等が行う総合的対策(捕獲、侵入防止策、担い手の育成、調査等)を対象とする財政措置がひかれている。両法の究極的目標は、鳥獣と社会の軋轢を軽減するという点で一致しており、縦断的(県と市町村)および部局間(農林業と環境)の連携が必要である。北海道のエゾシカ管理のように鳥獣管理の主管を環境部局が担う場合には、これら 2つの法律が異なる部局(環境部局・農業部局)の管轄に分かれ、農業部局から財政措置が施される市町村のエゾシカ対策に環境部局が直接関与することは簡単ではない。さらに本州と違う点として、北海道が本州以南の 15都府県に相当する大きさであることから、(総合)振興局が本州以南の県に相当し、市町村と北海道を結ぶ縦断的階層の中間的役割を担う点が挙げられる。このような点に関する学問的な論文は存在するが行政的な解決策は示されておらず、縦割りへの具体的な対応方法の経験とアイデアの共有は現場にとって重要である。本事例では鳥獣管理の統括的な体制を築くために、実験的に振興局単位での会議を企画し、関連部門(農林業と環境)の複数階層(県から市町村)の担当者を参集した。行政に限定した会議構成員であったことから、予算執行における自治体の悩みなど、行政的な課題をより深く意見交換することができた。このように環境が主管である都道府県の場合には、計画と実行のずれを自覚し、縦断的かつ横断的連携を築いていく仕組みが必要だと考える。
著者
中本 敦 佐藤 亜希子 金城 和三 伊澤 雅子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.45-53, 2011-05-30 (Released:2018-01-01)
参考文献数
28
被引用文献数
2

沖縄島におけるオリイオオコウモリPteropus dasymallus inopinatusの個体数の長期モニタリング(2000年から実施)において、近年個体数の増加傾向が見られた。調査はルートセンサス法を用いて、沖縄島の都市部と森林部の2ヶ所で行った。都市部では2001年9月から2009年8月に、森林部では2004年と2008年の2年間調査を行った。両調査地ともにここ4〜8年間の間で個体数がおよそ3倍に増えていた。またこの目撃個体数の増加は全ての季節で見られた。これらの結果は、オリイオオコウモリの目撃数の増加が空間的な偏りの変化ではなく、沖縄島個体群自体の増大を意味するものであることを示す。沖縄島に接近した台風の数は2005年以降減少しているが、これは個体群の成長率の上昇のタイミングと一致していた。以上のことから沖縄島のオリイオオコウモリの個体群サイズは台風による攪乱頻度によって調節されている可能性があることが示唆された。今後、地球温暖化により台風の攪乱が不規則になると、本亜種の個体数変動が不安定になり、個体数増加による農業被害の拡大とともに地域個体群の絶滅が起こる可能性が高まることに注意する必要がある。
著者
坂田 ゆず
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.41, 2022 (Released:2022-04-11)
参考文献数
70
被引用文献数
2

外来植物は、瞬く間に分布域を広げ在来植物を駆逐する場合がある一方で、定着してから気づいたら姿を消していたという場合もある。こうした外来植物の在来生態系でのふるまいの違いを理解・予測する上で、外来植物の自身の形質に加えて、外来植物と在来植物の間の相互作用のメカニズムの理解が欠かせない。本稿では、外来植物が植食者を介して在来植物に与える負の影響(見かけの競争)に注目し、これまで研究されてきた事例を幅広く紹介し、後半ではこの3者間の相互作用が環境要因によってどのように変化しうるかについて議論する。さらに見かけの競争によって、意図的・非意図的な外来植食者の侵入が逆に在来植物の食害を増加させる事例についてまとめた。また、筆者が外来植物のセイタカアワダチソウを材料に、原産地と侵入地で見かけの競争の地理的な変異に注目して行っている事例研究を少し紹介する。最後に、外来植物を取り巻く環境の変化を取り上げて、変動する環境下において、変化していく外来植物のふるまいへの理解を深める今後の研究の展望を探りたい。
著者
柴田 昌三
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.51-62, 2010-03-31 (Released:2017-04-20)
参考文献数
55
被引用文献数
1

タケ類の開花は開花周期が長いため、周期性があるとされながらも、それを予測することは困難である。しかし、今回、バングラデシュから北東インド、ミャンマーに至る地域に自生するMelocanna bacciferaに関して、精度が異なる過去の開花情報を詳細に検討し、少なくとも現地で情報収集を行ったインド・ミゾラム州において、本種が48年周期で大面積に一斉開花枯死を繰り返している可能性が高いことを突き止めた。予測に基づいて調査地を設定し、調査を開始したところ、2006〜2007年に、予測どおりの開花が認められた。調査地では、一斉開花の前後年に、少数の走り咲き稈と咲き遅れ稈の開花があり、通算3年にわたる開花が認められた。また、広域の調査によってほぼ5年間にわたって大面積一斉開花地が移動していくことも確認された。過去の記録では、さまざまな規模でみられる開花がすべて同等に扱われているが、このような記載が種の正確な開花周期の推定を困難にしている可能性が示唆され、タケ類の開花周期の特定においては可能な限り予測に基づいた生態学的調査を行う必要性が示された。
著者
朝日 稔
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.39-42, 1957-05-31 (Released:2017-04-08)

1. The cage used in the present study is a rectangular parallelopiped from, about 250cm×90cm at the base, and 850cm in height. 11 perches of tree branches are set in the cage, and the cage is divided into 9 sections (Fig.1). The names and numbers of the birds are shown in Table 1. Observations were made from Sept.27 to Oct.27,1956,in two periods separated by the transpositions of perches on Oct.10. 2. Interspecific antagonism is found in peckings and avnidances. Their frequencies are shown in Tables 2 and 3,which suggest the existence of the linear dominance-order among species. 3. The vertical distribution of each species observed in the cage is summarized in Fig.2. Apparently the individuals of Psittaciformes are found in the upper region of the cage (Sect.5-Sect.9), the individuals of Columbiformes in the lower (Sect.1), and the individuals of Passerlfomes in the middle. This segregation is probably derived from the differences of the life-forms of each Order. In the same Order, there are two types of interspecific distributions : the separating type, for example, Psittacus eyanocephala and Melopsittacus undulatus observed in the latter period, and the overlapping type, for example, Agapornis roseicollis and A. lilianae. Further observations reveal that the individuais of each species make species-flocks even in the overlapping type and they often exchange the perches (see Fig.3.) The principle of "habitat-segregation", proposed by K.IMANISHI (1941), is thus realized at all times. Only Taeniopygia castanotis and Uroloncha striata often make hetero-specific flocks together.
著者
花井 隆晃 中西 彬 伴 邦教 服部 翔吾 田頭 直樹 谷口 義則
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2210, (Released:2023-07-05)
参考文献数
19

愛知県の谷津田の 2地点に生息するホトケドジョウの消化管内容物を四季にわたって調べた。全体では個体数および湿重量はいずれもユスリカ科が最大であった。また、個体数ではカイアシ亜綱、カクツツトビケラ科が多く、湿重量ではイシビル科、ガガンボ科が大きかった。餌料重要度百分率( %IRI)の解析結果では、いずれの地区でもホトケドジョウの体長が 50 mm未満の階級においてユスリカ科が最大であった。 50 mm以上 60 mm未満の階級では、それ未満の体長階級よりもユスリカ科の %IRIが低く、イシビル科やカクツツトビケラ科、ガガンボ科などの比較的湿重量の大きいものが高かった。また、ホトケドジョウの標準体長と餌生物の最大湿重量の間には弱い正の相関が認められた。季節ごとの餌生物の %IRIは、地区 Bの 6月を除いて、両地区のいずれの季節においても、ユスリカ科が最大であり、冬季のユスリカ科の %IRIが他の季節よりも高かった。本研究では餌となる底生無脊椎動物等の現存量を定量化しなかったものの、ホトケドジョウが四季を通じてユスリカ類を利用すること、特に冬季には本分類群に強く依存する傾向が示唆された。本研究の結果、ホトケドジョウの保全を図る上で仔魚・稚魚期および冬季の主な餌資源であるユスリカ類が多く生息し、イシビル科やガガンボ科等の比較的大型の水生無脊椎動物を含む多様な底生生物が生息可能な環境の保全が重要であることが示された。
著者
武田 博清
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.41-53, 1986-04-30 (Released:2017-05-24)

The balance of nature has been a background concept in community ecology. In contrast to the concept, the variability of biological populations has been appreciated in mature, such as in outbreak and extinction of species. The two concepts have been transformed into density dependent and density independant regulation in population dynamics and then into equilibrium and non-equilibrium community theories. The competition-equilibrium community theory has been advanced in the empirical and theoretical studies of community and has explained the community organization by the niche theory. The non-equilibrium community theory has argued the importance of non-equilibrium conditions of populations in nature and the reconsideration of community organization from the individualistic or auto-ecological studies of populations constituting communities. The two theroies represent the opposite ends in the continuum of the community patterns in the nature. In the recent 20 years, community ecology has advanced in the diversity studies, competitive-equiliblium and non-equilibrium community theories and now is entering a new stage over these past community studies.