著者
津田 敦 武田 重信
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.514-519, 2005-12-25 (Released:2017-05-27)
参考文献数
16

海洋では光環境が良いにもかかわらず栄養塩が高濃度で残存する海域があり、このような海域では微量栄養素である鉄が不足していることが近年提唱された。海洋における鉄欠乏仮説を検証するため、東西亜寒帯太平洋において鉄添加実験が行われた(西部:SEEDS、東部:SERIES)。鉄と水塊を標識する不活性気体、六フッ化イオウを64-80km^2の海域に加え、13-26日間の生物・化学的応答を水塊追跡しながら観測した。2001年に西部亜寒帯太平洋で行われたSEEDSにおいては鉄添加により顕著な光合成活性の増加が観察され、混合層内のクロロフィル濃度は初期値および非散布域の16倍に達した。この顕著な植物プランクトンの増加は、他の海域で行われた実験より表層混合層深度が浅く光環境が良好であったことに加え、成長速度の速い中心目珪藻が増加したことが主な要因と考えられた。藻類の増殖は栄養塩濃度と二酸化炭素分圧の顕著な低下を伴ったが、散布から13日目までの沈降粒子束は積算光合成量の12.6%にとどまった。すなわち固定された炭素の大部分は粒子態として混合層内に留まった。これらの事実は太平洋においても鉄が植物プランクトンの増殖を制限していることを明らかにしたが、固定された炭素の行方を解明するにはより期間の長い実験が必要であることを示唆した。東部亜寒帯太平洋で行ったSERIESはカナダとの共同研究であり、我々は実験の後半を観測した。実験期間は大きく2つに分けることができ、前半は低い植物生物量とプレミネシオ藻類の優占、後半は高い植物生物量と珪藻の優占で特徴づけられた。SEEDSに比べ、SERIESでは植物プランクトンの増加は遅く、最大値も低くとどまったが、鉄散布海域で非散布域に比べ有意に大きい沈降粒子束を観察した。しかし、沈降量は光合成によって表層に蓄積した有機物量の20%程度であり、多くの部分は表層で摂餌や分解を受けていることが明らかとなった。本稿では鉄散布実験のような中規模生態系操作実験の利点と問題点を議論する。
著者
関島 恒夫 森口 紗千子 向井 喜果 佐藤 一海 鎌田 泰斗 佐藤 雄大 望月 翔太 尾崎 清明 仲村 昇
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1922, (Released:2021-08-31)
参考文献数
55

オオヒシクイが集団飛来地あるいは渡りのルートとして主に利用する北海道道北地方から本州にかけての日本海沿岸域は、良好な風況が見込まれることから、現在、多数の風力発電施設の建設が進められている。大型風車の設置は、鳥が風車に衝突するだけでなく、風車群を回避することによる迂回コストの増大などにより、中継地や越冬地利用の放棄など生息地の劣化あるいは消失に繋がる可能性があり、地域個体群に対する負の影響が懸念されている。オオヒシクイなど大型水禽類の生息地を保全しつつ、再生可能エネルギーの拡大を目指して風力事業を推進するには、鳥類への影響が大きい区域を提示したセンシティビティマップに基づき、風力発電事業の計画段階で事前に衝突リスクの高いエリアを回避する手続きが有効である。本稿では、はじめに大型水禽類を対象にしたセンシティビティマップの現状と課題を説明し、続いて、オオヒシクイを対象として、全国の主要な集団飛来地における風車回転域飛行確率を考慮したセンシティビティマップと、北海道道北地方から本州日本海沿岸域にかけての主要な渡りルートにおいて渡り中の飛行高度規定要因を考慮したセンシティビティマップの 2つのマップ作成手順を紹介する。最後に、これらセンシティビティマップを用いた風力発電施設の立地に係る検討手続きを提案する。
著者
宇留間 悠香 小林 頼太 西嶋 翔太 宮下 直
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.155-164, 2012-11-30 (Released:2017-10-01)
参考文献数
19
被引用文献数
8

近年、草地性や湿地性の生物の代替生息地である農地の生物多様性が著しく減少しており、農地生態系の再生を目的とした環境保全型農業が普及し始めている。本研究では、新潟県佐渡市で行われているトキの個体群の復元を目的とした環境保全型農業のうち、冬期湛水および「江」の設置が、繁殖のため水田を利用することのある両生類3種(ヤマアカガエル、クロサンショウウオ、ツチガエルの一種)の個体数や出現確率に与える影響を探った。佐渡市東部の20箇所の水田群(計159枚の水田)において各種両生類の個体数を調べ、一般化線形モデル(または一般化線形混合モデル)と赤池情報量基準(AIC)を用いて、水田と水田群の2階層における個体数を説明する統計モデルを探索した。その結果、ヤマアカガエルとツチガエルの一種において、冬期湛水もしくは江の設置が強い正の影響を与えることが明らかになった。ヤマアカガエルでは、水田と水田群レベルで異なる農法が正の効果を示した。これは、個体群レベルの応答を評価するためには適切な空間スケールを定める必要があることを示唆している。景観要因としては、ヤマアカガエルとクロサンショウウオで水田周辺に適度な森林率が必要であるが、その空間スケールは大きく異なること、またツチガエルの一種では景観の影響を受けないことが明らかになった。この結果は、日本の里山のように景観の異質性が高い環境では、環境保全型農業の影響評価の際に、一律の指標種を用いるのではなく、局所的な生息地ポテンシャルにもとづいて評価対象種を選定する必要があることを示唆している。
著者
北本 尚子 本城 正憲 津村 義彦 大澤 良
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.1932, 2021-04-20 (Released:2021-07-12)
参考文献数
32

サクラソウ Primula sieboldii E. Morrenは、落葉樹林の林床や草原に生育する多年生の準絶滅危惧種である。地下芽によるクローン成長と種子繁殖を行う。地下芽により増えた株をラメット、同一の遺伝子型を持つラメットの集まりをジェネットと呼ぶ。異型花柱性の他殖性であり、柱頭が葯よりも高い位置にある長花柱花ジェネットと、低い位置にある短花柱花ジェネット間で受粉しないと種子が生産されない。長野県にある筑波大学山岳科学センター八ヶ岳演習林には、サクラソウの自生地が存在する。保全と研究を目的として、 1990年から一部の局所個体群について、断続的に個体数や花型が調査されているが、全域での調査は行われていないため、保全上重要となる個体群動態に関するデータが不足している。そこで、演習林全域におけるサクラソウの個体数を 2006年と 2018年に調査し、 1990年の調査記録と比較した。その結果、ラメット総数は 28年間で大きく変わらなかったものの、開花ラメット数は 2006年の 2833に対し、 2018年は 1518と有意に減少していた。この傾向は、開花ジェネット数においてさらに顕著であり、 2006年は 939ジェネットが開花したのに対し、 2018年は半分以下の 434ジェネットでしか開花が観察されなかった。開花ジェネット数の減少により、花型比の偏りが顕著となり、どちらかの花型が 1ジェネット以下となっている局所個体群が全体の 4割にあたる 12群で観察された。このような局所個体群では、種子繁殖の失敗や次世代の遺伝的多様性の減少が生じている可能性がある。
著者
西原 昇吾 苅部 治紀 鷲谷 いづみ
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.143-157, 2006-12-05 (Released:2018-02-09)
参考文献数
91
被引用文献数
6

水田および周辺のため池などの一時的-永続的止水域に生息するゲンゴロウ類は、休耕田の乾燥化、ため池の管理放棄、大規模開発、採集圧や侵略的外来種の侵入などの様々な要因が重なり、現在では危機的な生息状況にある。全国各都道府県から刊行された最新のRDBを比較検討したところ、スジゲンゴロウは8府県、コガタノゲンゴロウは6府県、シャープゲンゴロウモドキは4都府県、ゲンゴロウは2県で絶滅種として掲載されていた。神奈川県では、さらにツブゲンゴロウなど4種類の小型種もRDB掲載種であった。比較的情報の多いシャープゲンゴロウモドキについて現地調査および文献収集によって現状把握を試みたところ、戦前に知られていた生息地はすべて消失していることが判明した。1984年の千葉県での再発見以降、生息地の発見が各地で相次いだが、その後、それらの生息地は急速に失われ(全国6割減)、石川県以外で生息が認められた県においても、各県に残されている生息地はそれぞれ数ヶ所以下であることも明らかになった。比較的多くの生息地が残されている石川県においても、休耕田の乾燥化、ため池の管理放棄、大規模開発、採集庄や侵略的外来種の侵入などによって一層の減少が危倶される状況であった。一方、保全条例の制定や休耕田の湛水化など、保全に向けた取り組みも進展し始めている。本稿では、ゲンゴロウ類と共存するための農村整備のあり方についても考察した。
著者
正富 宏之 正富 欣之
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.223-242, 2009
参考文献数
90

北海道に広く分布していた留鳥性タンチョウGrus japonensis個体群は、生息地開発や狩猟により19世紀末には絶滅寸前まで減少し、20世紀半ばまでその状態が継続した。しかし、1950年代に餌付けが行なわれ、冬の餌不足解消により現在は1,300羽を超すまでに回復した。他方、生息地の湿原は既に70%以上が失われているため、個体数増加に伴い繁殖番いの高密度化と越冬群の集中化が進行し、餌や営巣場所を求めて人工環境へ進出する傾向が顕著となっている。これを容易にしたのが、長年の保護活動によるヒトへの馴れであり、その結果、ヒトとのさまざまな軋轢を生んでいる。そこで、従来の個体数増加に力点を置いた保護方針の再検討を行ない、ヒトとの共存を図る新たな将来像の構築が求められる。それには、現状をふまえながら、タンチョウにややヒトと距離を置く生活習性へ向かわせることを基本姿勢とする。その上で、過剰なヒト馴れを低減する方法を模索すると共に、生息地の拡大・保全・維持を行ない、遺伝的多様性の低さに配慮した個体数の増加を図りながら、集中化によるカタストロフィの危険を避けるため、群れの分散化を目指すことである。これは、従来のように一部のツル関係者や行政担当者でなし得ることではなく、利害を持つ地域住民の主体的参加が不可欠であり、その方策として順応的管理に即した円卓会議の設置を急ぐべきである。
著者
山村 光司
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.339-350, 2016 (Released:2016-08-24)
参考文献数
26
被引用文献数
5

状態空間モデルの枠組みでは、モデル内の変数を「観測される変数」と「観測されない変数」の2種類に明示的に分けてモデル化が進められる。この枠組みによって観測値に付随する観測誤差を適切に処理することが可能となり、モデル内のパラメーターを偏りなく推定することが可能になる。さらに、状態空間モデルの枠組みは、観測値の動態を、その「主流部分」と「派生部分」に分ける効果も持っている。本稿では、2種類の水田害虫(ニカメイガとツマグロヨコバイ)の50年間の年変動解析を例として、状態空間モデルの枠組みを用いる効果と、その適用の際に生じる諸問題(トレンド除去および初期値問題、モデル評価など)について議論する。
著者
石川 尚人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.133-142, 2014-07-30 (Released:2017-05-19)
参考文献数
63

食物網研究は生態学の中心的課題の1つである。陸域と水域の資源が混合する複雑な河川生態系において、捕食・被食関係を介した物質やエネルギーの流れを明らかにするために、各種生元素の同位体比は強力なツールとなる。本稿では、近年研究が進んでいる生物の放射性炭素14天然存在比(Δ14C)を測定する手法を中心とした、同位体手法の応用事例を紹介する。14Cは半減期5,730年の放射性核種であり、年代測定や生態系の炭素滞留時間を推定するツールとして注目されている。一方、河川食物網に対する陸域・水域由来資源の相対的な貢献度を推定するためにも、14Cは有効なツールとなりうることが近年明らかになってきた。なぜなら河川を含む流域内には、大気CO2から地圏へと隔離された14C年代の古い炭素リザーバーが、複数存在するからである。このような炭素リザーバーの多くは、現世の大気CO2とは異なるΔ14C値をもち、たとえば食物網のソース推定などに応用することができる。また、既に大きく研究の進んでいる炭素安定同位体比(δ13C)や他の生元素の安定同位体比、あるいは近年開発が進んでいる化合物レベルの同位体分析と14C測定とを組み合わせることで、従来分けることのできなかったソースを分けられるようになり、物質やエネルギーの詳細な流れの解明につながることが期待される。このことは、本特集号のテーマである「流域における境界研究」に対しても、大きなブレイクスルーをもたらす可能性をもっている。
著者
渡部 晃平 日鷹 一雅
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.101-105, 2013-05-30 (Released:2017-08-01)

マダラコガシラミズムシは、環境省レッドリストで絶滅危惧II類(VU)とされる止水性水生昆虫であるが、その発生動態に関する詳細な報告はない。本研究では四国南西部の水田において、本種成虫の発生動態について定量的な調査を行った。春先から盛夏にかけての調査期間を通して994個体の成虫が採集され、本種は生息環境の一つとして水田を利用していることが確認された。特に、調査水田内に設営された"いで"と地域で呼ばれる明渠から高密度で生息が確認されたことから、水田環境のうち明渠が本種の生息環境として重要であると考えられた。また、今回施用した水稲用箱施用殺虫剤(殺菌剤プロベナゾール10%、殺虫剤ベンフラカルブ8%)の本種成虫への影響は特に認められなかった。
著者
平田 貞雄
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.125-128, 1963-08-01 (Released:2017-04-08)

The larvae of Mamestra (Barathra) brassicae (L.) were reared from hatching to pupation under solitary and crowded (10 individuals in a vial) conditions at a constant temperature of 25℃ in darkness on young leaves of the rape, Brassica napus L. Observations were made on the amount of food consumed by the larvae, the body weight of larvae and resulted pupae, and the dry weight of excreta of the 4th, 5th and 6th (final) instar larvae. The results of the observations are summarized in Table 1. Comparing with the solitary larvae, the crowded larvae consumed a larger amount of food in the 1st and 2nd instars, but less in the 4th and 5th instars. In the 3rd and 6th instars, no remarkable differences in the food consumption were observed between the solitary and crowded larvae. The total amount of food consumed in the larval stage was about equal in both densities of rearing. The crowded insects were heavier in body weight in the 1st and 2nd instars than the solitary ones, but the reversed trends were observed in the remaining instars and also in the pupal stage. The smaller ratio of the body weight to the amount of food consumed was obtained in the crowded culture in all, but the 4th instar. The dry weight of the excreta was about equal in both the solitary and crowded larvae. However, the ratio of that to the amount of food consumed was slightly smaller in the crowded larvae than in the solitary ones.
著者
河村 功一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.239-242, 2013-11-30 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
2

Rhodeus atremius, an endemic bitterling fish from Japan, comprises two endangered subspecies: R. a. atremius and R. a. suigensis. The latter subspecies, designated as a Nationally Endangered Species of Wild Fauna and Flora by the Ministry of Environment of Japan, is noted for drastic declines and the extinction of local populations through habitat deterioration. Despite their strong phenotypic resemblance, these two subspecies are much diverged in DNA, each forming a distinct evolutionary lineage. Nevertheless, these two subspecies were clumped into a single subspecies, R. smithii smithii, in a newly published fish encyclopedia, which will lead to R. a. suigensis being dropped from the list of Nationally Endangered Species. This paper critically reviews the validity of this new taxonomic arrangement of R. atremius, including R. a. suigensis, based on phylogenetic systematics. Its potential risk against the conservation management of R. a. suigensis is specifically discussed.
著者
森井 悠太
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.79-84, 2021 (Released:2021-08-17)
参考文献数
31

多数の市民の目による監視が外来生物の早期発見につながることから、外来種問題は市民科学が最も威力を発揮する分野のひとつであると考えられ、市民科学の貢献が期待されている。研究者や行政による外来種への対応が予算や時間など高いコストを要求するのに対して、研究者以外の市民による対応は多くの方々の力を借りられることから生物の分布域の把握や外来種の初期の検出に対して効力を発揮する手法として注目されている。筆者はこれまで、北海道を拠点に活動する市民や博物館関係者、国内の研究者らと共に、「外来ナメクジをめぐる市民と学者の会」という非営利団体を立ち上げ、代表の一人として外来生物をめぐる市民参加型の研究プロジェクトを推進してきた。具体的には、近年日本に侵入したばかりの外来種であるマダラコウラナメクジを対象に扱っており、1)市民や研究者、メディアをも巻き込んだ外来ナメクジの継続的な観測と駆除、2)市民と研究者の連名による専門的な学術雑誌や一般向けの科学雑誌などへの発表、3)博物館やボランティア団体と連携した市民向け観察会や講演会の実施とそれらを通した自然保護や科学リテラシーの普及と教育、の 3つを軸に活動を続けている。本稿ではまず、筆者の参画する市民科学のプロジェクトによる成果を紹介する。その上で、市民参加型のプロジェクトを企画・運営するにあたり筆者自身が心掛けている経営論について意見を述べる。未来の市民科学を成功に導く道標となることを期待したい。
著者
佐々木 顕 東樹 宏和 井磧 直行
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.174-182, 2007-07-31 (Released:2016-09-15)
参考文献数
41

日本のヤブツバキCamellia japonicaの種特異的な種子食害者であるツバキシギゾウムシCurculio camelliaeの雌成虫は、頭部の先に伸びた極端に長い口吻を用いてツバキの果実を穿孔し、果実内部の種子に産卵を行う。このゾウムシ雌成虫の攻撃に対し、ツバキ側も極端に厚い果皮という防衛機構を発達させている。日本の高緯度地方ではヤブツバキの果皮は比較的薄く、ツバキシギゾウムシの口吻も比較的短いが、低緯度地方では果皮厚と口吻長の両者が増大するという地理的なクラインが見られ、気候条件に応じて両者の軍拡共進化が異なる平衡状態に達したと考えられる。日本15集団の調査により口吻長と果皮厚には直線関係が見られ、また、両形質が増大した集団ほどゾウムシの穿孔確率が低いツバキ優位の状態にあることが東樹と曽田の研究により知られている。ここではツバキとゾウムシの個体群動態に、口吻長と果皮厚という量的形質の共進化動態を結合したモデルにより、共進化的に安定な平衡状態における口吻長と果皮厚との関係、穿孔成功確率、それらのツバキ生産力パラメータや果皮厚と口吻長にかかるコストのパラメータとの関係を探った。理論の解析により、(1)ツバキ果皮厚と、ゾウムシの進化的な安定な口吻長との間には、口吻長にかかるコストが線形であるときには直線関係があること、(2)コストが非線形であるときにも両者には近似的な直線関係があること、(3)南方の集団ほどツバキの生産力が高いとすると、緯度が低下するほど果皮厚と口吻長がより増大した状態で進化的な安定平衡に達すること、(4)ゾウムシの口吻長にかかるコストが非線形である場合、ゾウムシの平均口吻長が長い集団ほどゾウムシによる穿孔成功率が低くなることを見いだした。これは東樹と曽田が日本のヤブツバキとツバキシギゾウムシとの間に見いだした逆説的関係であり、ツバキシギゾウムシ口吻長には非線形コストがかかると示唆された。平均穿孔失敗率と口吻長との間に期待されるベキ乗則の指数から、ゾウムシの死亡率はその口吻長の2.6乗に比例して増加すると推定された。
著者
小泉 武栄
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.78-91, 1974
被引用文献数
11

In der alpinen Stufe der japanischen Hochgebirge kommen die alpinen Vegetation, Strukturboden, Blockfelder und Schneeboden zusammen vor, trotzdem sie eigentlich in differenzierten Hohenstufen entstehen muβten. Dadurch wird das Bild der Naturlandschaft in seiner Deutung kompliziert. Der Verfasser untersuchte die Koexistenz der einzelnen Vegetationsgesellschaften mit den Strukturboden. Diese Koexistenz-Wettbewerb-Verhaltnisse wurden mit den klimatischen und lokaiklimatischen Bedingungen verglichen. Der Untersuchungsbereich liegt in der alpinen Stufe des Kisokomagatake (2,956m u.d.M.) in den Japanischen Zentralalpen.
著者
鈴木 英治 沼田 真
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.129-142, 1982
被引用文献数
4

Elymus mollis, an introduced species, was planted on the seaward slope of sand banks constructed along the coast of Kuju-Kuri Hama (sand beach), central Japan, some 15 years ago. Since that time, the zone of Elymus has advanced seaward at a speed of about 5 m/yr, which was 2.5 times as fast as that of land accretion. Since E. mollis produced few seeds at Kuju-Kuri, the advancement was solely caused by the elongation of new rhizomes, whose mean length amounted to 4.8 m. Certain native species such as Carex kobomugi established themselves behind the Elymus zone and was replacing E. mollis. Saccharum spontaneum var. arenicola, which was planted on the opposite (landward) slope of the banks, remained on the slope without further spreading, being gradually replaced by Imperata cylindrica var. koenigii. The mechanism of these changes and local differences in the semi-natural vegetation of the coast were discussed.
著者
沼田 真 山井 広
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.166-171, 1955
被引用文献数
6

1. A permanent quadrat of 1 sq. m. was laid in the abandoned farmland in the grounds of the Chiba University where a field experiment concerning the competition between crops and weeds was perfomed. The surface soil was cultivated, mixed, and weeded in January, 1953. There, the developmental process of a weed community was examined. 2. There, at first, appeared a herbaceous community dominated by Ambrosia artemisiaefolia which is often a pioneer plant in the bare area. After the death of the hog weed, the rosettes of Erigeron were found in abundance (Table 1). The hog weed was stratified into the upper and lower layers because of the divergence of the germinating period. It will be a kind of social adaptation (Fig. 1). 3. The combination of dominated life-form and migrule type according to the number of species Is Th-D_4-R_5,which is a usual type of weed communities in the farmland (Table 2). That according to the density is Th-D_1-R_5,which coincides with the first rank of the actual combinations (Table 3). In the growth form spectra (Table 4). the erect form and tufted growth exceed the rosette and prostrate form where the habitat is spatially segregated and especially the rosette plants are to dominate in the following year. 4. Concerning the organizing process of the weed community, the law of geometrical progression can be applied in August when the Ambrosia community of the aestival type arrived at the maximum development (Fig. 2). Such a linear relationship was not recognized before and after August. This is a balance of power relations among species in the form of seasonal aspection or early development. Then it is shown that there is an undulatory process of establishment and breaking in the organisation of a community. 5. The mean area of the commonnest species (M) is related closely with P (dominant ratio)=(number of individuals of the commonnest species)/(total number of individuals) and the gradient of a straight line showing the number of individuals-rank relationship (Table 8,9). The suitability of 2M as a sampling unit should be, in general, determined by the individual structure of a community, which is indicated partly by P and the gradient. The distribution type of the weed community was considered as the POLYA-EGGENEERGER type (Table 10).