著者
末吉 慎太郎 進 武一郎 中島 格
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.10, pp.1120-1125, 2013-10-20 (Released:2013-11-26)
参考文献数
15
被引用文献数
1 3

症例は66歳男性. 咽頭痛を主訴に当科受診した. 診察上, 咽喉頭の左半側にアフタと不規則なびらんを多数認めた. 急性咽喉頭炎の診断で抗生剤, 抗真菌薬の内服を行うも改善なく, 徐々に咽頭痛が増悪し, 吃逆を認めた. 抗ウイルス薬を開始し, ステロイドの投与を併用したところ咽頭の炎症は改善するも, 吃逆は持続した. 加えて失神発作を繰り返すようになり, 当科入院となる. 入院後, 精査を行い, 吃逆時に洞停止が起こることが判明した. 吃逆に対してバクロフェン, 芍薬甘草湯の内服を行い, 吃逆の速やかな消失とともに失神発作も改善した. 失神は吃逆による状況失神が考えられた. 吃逆は, 咽頭炎による舌咽神経咽頭枝の刺激で誘発された可能性がある.
著者
黒野 祐一 山下 勝
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.8, pp.1298-1301, 2022-08-20 (Released:2022-09-01)
参考文献数
7

塩素消毒された水道水に殺菌作用があることはすでに知られているが, 水道水による含嗽の殺菌作用は明らかにされていない. そこで, 水道水および各種処理後の水道水の殺菌作用を観察し, それぞれの残留塩素濃度と比較した. さらに水道水含嗽後の頬粘膜上皮細胞への付着細菌数を測定した. その結果, 煮沸によって残留塩素を除去すると水道水の殺菌作用は消失し, 含嗽後あるいは唾液を添加した水道水からも残留塩素は検出されず, 水道水含嗽後の頬粘膜上皮細胞への付着細菌数も精製水と同数であった. 従って, 残留塩素を含む水道水には殺菌作用があるが, 唾液によって残留塩素の効果が失活するため, 水道水含嗽に殺菌作用はないと考えられる.
著者
吉松 誠芳 大西 弘恵 岸本 曜 大森 孝一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.8, pp.1281-1287, 2022-08-20 (Released:2022-09-01)
参考文献数
43

気管喉頭は硝子軟骨により枠組みを保持されており, 呼吸, 発声, 嚥下機能を担う重要な臓器である. しかし, 外傷や炎症性疾患・悪性腫瘍に対する手術などで軟骨が欠損した場合, 枠組みが維持できなくなり, その機能は大きく損なわれる. 硝子軟骨はそれ自体に再生能が乏しいため, 気管喉頭軟骨欠損に対して, これまで組織工学を応用したさまざまな軟骨再生方法の開発, 研究が行われてきた. 足場としては非吸収性足場素材や脱細胞組織が臨床応用されたが, 前者は枠組みの安定性は得られるものの, 大きさが不変であるため小児への適応が困難であり, 後者はドナーの確保や長期的な内腔保持困難が課題であった. 一方, 細胞移植 (+足場素材) による軟骨組織再生では, 軟骨細胞や間葉系幹細胞 (MSC) を用いた移植法が, 治験の段階ではあるが, 一部で臨床応用されている. しかし, 初代培養の軟骨細胞や MSC では培養時に生じる細胞の脱分化や増殖能の低下が課題として残っている. また, 近年, 無限増殖能・多分化能を有する iPS 細胞から軟骨細胞や MSC への分化誘導法が開発され, 特に膝関節領域においては臨床研究も実施されている. しかし, 気管喉頭領域における iPS 細胞由来細胞を用いた軟骨再生研究はいまだ少なく, 確立された方法はない. 今後, 細胞移植が確立されるためには, 必要な細胞を効率よく誘導したり, 必要な数だけ確保したりする, 細胞の動態をコントロールする技術が必要となる. 医工学分野の新しい技術を適切に応用し, 気管喉頭の安全かつ確実な軟骨再生方法が確立されることが期待される.
著者
森嶋 直人
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.7, pp.954-958, 2021-07-20 (Released:2021-08-04)
参考文献数
15

末梢性顔面神経麻痺は一般的に予後良好な疾患であるが, 全体の2割程度に Bell 麻痺の重症例や Hunt 症候群などの予後不良例が存在する. 顔面神経麻痺に対するリハビリテーションは後遺症である麻痺の改善や, 病的共同運動・拘縮の予防と軽減という点で推奨されている. 実際のリハビリテーションは, 重症度と予後予測目的にて柳原法麻痺スコア評価と発症後10日程度で Electroneurography (以下 ENoG) 検査を行い, 以後理学療法士が麻痺の改善と病的共同運動予防目的のリハビリテーション指導を行う. 3カ月以内に柳原法麻痺スコア38点以上の場合は終了し, 遷延する場合は病的共同運動評価と治療を継続する. 病的共同運動に対するリハビリテーションの手技として 1) 表情筋ストレッチ, 2) 拮抗筋活動による病的共同運動発現予防, 3) バイオフィードバック療法による病的共同運動抑制があり, 主に家庭内プログラムとして患者本人に実施を励行する. 後遺症改善には長期を要する場合がありこの場合は発症後1年以上を必要とする場合がある. 後遺症残存例にはボツリヌス毒素治療や形成外科的治療が選択される. このように長期にわたる顔面神経麻痺に対する診療チームの構成としては診断・初期治療を担当する耳鼻神経科医, リハビリテーションを担当するリハビリテーション医・リハビリテーション療法士, 心理的なサポートを行う看護師・臨床心理士, 形成外科手術による再建に携わる形成外科医がある. 本稿では顔面神経麻痺に対するリハビリテーションの進め方, そのエビデンス, 診療チームの役割, 保険診療上の注意点について概説する.
著者
川 茂幸
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.12, pp.1475-1482, 2016-12-20 (Released:2017-01-14)
参考文献数
68
被引用文献数
2 2

IgG4 関連疾患とは IgG4 が関連する全身性疾患であり, 最近確立された疾患概念である. 臨床的特徴は, ① 病変が全身に分布し, これらの多くは従来その臓器独自の病名で診断治療されてきた, ② 画像所見として腫大, 結節, 壁肥厚を呈する, ③ 血中 IgG4 値が通常 135mg/dl 以上である, ④ 病変局所にリンパ球形質細胞浸潤, IgG4 陽性形質細胞浸潤を認める, ⑤ ステロイド治療に良好に反応する, ⑥ 他の IgG4 関連疾患を同時性, 異時性に合併することが多い, に集約される. 本疾患概念成立には, 自己免疫性膵炎で血中 IgG4 値が高率, 特異的に上昇し, 病変組織に IgG4 陽性形質細胞が特異的に浸潤すること, が明らかになったことが大きく貢献している. IgG4 関連疾患はほぼ全身諸臓器に分布しているが, 代表的構成疾患は IgG4 関連涙腺・唾液腺炎 (ミクリッツ病), IgG4 関連呼吸器病変, 自己免疫性膵炎, IgG4 関連硬化性胆管炎, IgG4 関連後腹膜線維症, IgG4 関連腎病変などがある. 耳鼻咽喉科領域の IgG4 関連疾患として IgG4 関連ミクリッツ病と IgG4 関連キュットナー腫瘍が知られているが, 新しい疾患概念の可能性として IgG4 関連鼻副鼻腔炎が提唱されている. IgG4 関連疾患の診断は「IgG4 関連疾患包括診断基準2011」によるが, 悪性疾患との鑑別が肝要である. IgG4 関連疾患は長期経過で, 機能障害を呈する慢性期の病態への移行, 悪性腫瘍の合併などが想定され, 今後の検討課題である.
著者
都築 建三
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.2, pp.112-120, 2022-02-20 (Released:2022-03-10)
参考文献数
100
被引用文献数
1

超高齢社会の日本において, 加齢に伴う五感の低下は身体的および精神的に悪影響を及ぼすため, その対策は耳鼻咽喉科医に求められる大きな課題である. 五感の一つである嗅覚も加齢や基礎疾患の影響を受けて低下するが, それに気づかずに過ごしている高齢者は多い. 嗅覚障害のリスクファクターとして, 加齢, 男性, 鼻副鼻腔疾患, 動脈硬化, 飲酒, 喫煙などが挙げられる. 嗅覚系組織の基礎研究からも, 嗅上皮の再生能低下, 嗅上皮の面積の減少, 嗅覚中枢路組織の体積減少, 一次嗅覚野のにおいに対する活動性の低下など, 加齢に伴い嗅覚機能が低下することが示唆される. 2017年, 嗅覚障害診療ガイドラインが発刊され, 嗅覚障害患者の増加とともに, その診療の重要性は高まってきている. 嗅覚障害の診断は重症度と原因疾患が重要で, 詳細な問診, 鼻内視鏡を用いた嗅裂部の視診, 画像検査 (CT・MRI), 嗅覚検査から総合的に行う. 加齢性嗅覚障害は, 原因疾患を除外して十分な臨床経過を観察した上で診断する. この時, 嗅覚障害がアルツハイマー病, パーキンソン病, レビー小体型認知症に代表される神経変性疾患の前駆症状である可能性に留意する. いずれも嗅覚中枢路に神経病変が先行するために早期に嗅覚障害を呈する. 嗅覚機能評価は, 神経変性疾患の早期診断, パーキンソニズムの鑑別, 認知症発症の予知に高いエビデンスがある. 高齢者の嗅覚障害への対策には, 病態の把握, 危険の察知, 予防が重要である. 嗅覚障害のリスクファクターの回避と原因疾患の治療を行う. 適度な運動や生活習慣の改善は, 嗅覚低下への予防効果が期待できる. 現在, 加齢性嗅覚障害や中枢性嗅覚障害に奏功する治療法はないが, 意識してにおいを嗅ぐ行為である嗅覚刺激療法の効果が期待できる.
著者
片岡 祐子 菅谷 明子 前田 幸英 假谷 伸 大道 亮太郎 福島 邦博 西﨑 和則
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.2, pp.131-136, 2017-02-20 (Released:2017-03-23)
参考文献数
13

2012年4月難聴遺伝子検査は保険収載され, 現在19遺伝子154変異の検索が行われている. 難聴遺伝子検査は, 聴力型や聴力予後, 随伴症状の予測, 難聴の進行予防といった情報が得られる可能性があるため, 診断や介入, フォローアップを行う上での有用性は高い. 今回遺伝子検査で複数の難聴遺伝子ヴァリアントが検出された症例を経験した. 検索可能な遺伝子数が増加することにより, 診断率の向上が見込める一方で, 複数の遺伝子ヴァリアントが検出され, 結果の解釈に難渋する例も増えることが推測される. 臨床情報との照らし合わせや家族の遺伝子検査も検討し, 患者, 家族が理解, 受容できるように遺伝カウンセリングを行う必要がある.