著者
宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.1, pp.12-17, 2022-01-20 (Released:2022-02-01)
参考文献数
18

2017年に成人人工内耳の適応聴力が「平均 70dB 以上」に改定された. この適応基準の拡大に伴い, 通常の人工内耳と残存聴力活用型人工内耳 (EAS: electric acoustic stimulation) の適応基準聴力が重複することになり, 人工内耳手術の電極やプロセッサーの選択に迷う場面が多くなった. 患者の難聴は進行性であることが多いため, 実際には2つの適応基準の線引きは困難である. 本稿では適応は連続的であり, シームレス化の考えが必要になって来たことを患者から得られたエビデンスをもとに紹介する. 選択肢が豊富になった現在, 手術時の聴力のみで適応や電極を決定するのではなく, 進行性や将来的な聴力を予測した上でその患者にとって最適なデバイスや電極を選択するのが望ましい.
著者
片岡 祐子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.124, no.12, pp.1590-1593, 2021-12-20 (Released:2022-01-01)
参考文献数
17
被引用文献数
1

難聴児の早期発見・療育, 人工内耳装用に伴い, 聴取能や言語発達は向上している. 加えて, 障害児の共生に向けた社会的体制の変化も伴い, 近年地域の学校でインクルーシブ教育を受ける児は増加している. しかし, 難聴児の聴取は補聴器や人工内耳を装用しても正常聴力児と同等ではなく, 大勢でさまざまな方向からの聴取を要する学校生活の環境において多くの場面で支障がある. また学年が上がるとともに学習面の限界や学力低下, 友人との関係性の問題などが出現する頻度が高く, 留意や配慮を要する. 加えて, 新型コロナウイルス感染症拡大予防策のマスク着用やソーシャルディスタンスにより, さらにコミュニケーションの支障は増大している. しかしながら, 担任教師であってもそれらの問題を正確には把握しにくく, 適切な配慮や支援が施されないことが多い. われわれはこれまでに実施した難聴児・者への質問紙による調査結果をもとに, 難聴児の直面している問題と支援について教師が実際に活用しやすい形式でまとめたパンフレット「難聴をもつ小・中・高校生の学校生活で大切なこと 先生編」を作成した. 難聴児の抱える問題は成長の段階で変化するため, 乳幼児期の補聴機器のフィッティングや言語訓練を中心とした指導で完結すべきではなく, 学齢に達しても専門的支援を継続する必要がある. 本冊子が難聴児の育成の一助となることに期待するとともに, 今後学齢期以降の支援を充実させるよう努めたい.
著者
黒野 祐一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.10, pp.1247-1252, 2020-10-20 (Released:2020-11-05)
参考文献数
11

粘膜免疫は消化管において病原微生物の侵入を防ぐ一方で, 生命維持に必要な食物は積極的に体内へ取り込むなど, 抗原に応じて相反する反応を示す. 上気道においても粘膜免疫が生体防御に重要な役割を果たしており, これが破綻することで感染症やアレルギー性炎症が発症する. したがって, 上気道の粘膜免疫を賦活すること, すなわち粘膜ワクチンを用いることでこれらの疾患を予防できると考えられる. 粘膜免疫において主たる役割を担っているのが分泌型 IgA で, ウイルスや細菌の上皮への接着を阻止する. 上気道に抗原特異的分泌型 IgA を誘導するには, 抗原を経鼻投与するのが最も効率的で, 現在, 経鼻ワクチンの開発が進められている. そのワクチンの一つとしてホスホリルコリンがあり, すべてのグラム陽性および陰性菌に含まれることから広域スペクトラムを有するワクチンになり得ると考えられる. また, 結合化ホスホリルコリンは粘膜アジュバントとしての作用を有しており, これらを用いた新規の経鼻粘膜ワクチンの開発を目指して現在も研究を続けている.
著者
平賀 幸弘 黄 淳一 霜村 真一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.10, pp.1114-1119, 2013-10-20 (Released:2013-11-26)
参考文献数
12

血管免疫芽球性T細胞リンパ腫 (angioimmunoblastic T-cell lymphoma: AITL) の1症例を経験した. 患者は33歳女性で, 前頸部に単発の腫瘤を認め, 手術にて摘出された. 病期診断はStage IAで, CHOP3コースと頸部へのX線照射40Gyが施行され, 経過観察中であるが再発を認めない. AITLは, 非ホジキンリンパ腫の1.2~2.5%にみられるまれな疾患で, 耳鼻咽喉科領域での報告は認めない. 全身リンパ節腫脹, 肝脾腫, 皮疹, 貧血, 高ガンマグロブリン血症などを症状とする. 治療は多剤併用の化学療法が一般的であるが, 5年生存率20~50%と高悪性に分類されている.
著者
柴 裕子 志水 賢一郎 藤田 彰
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.124, no.10, pp.1392-1397, 2021-10-20 (Released:2021-11-01)
参考文献数
9

地域の耳鼻咽喉科診療所は, 在宅療養中の嚥下障害患者の診療を受け持っている. 耳鼻咽喉科医がその嚥下障害診療を継続していくには, 言語聴覚士等専門職による嚥下障害のリハビリテーション (嚥下リハビリ) が必要となる. 一般に在宅での嚥下リハビリには介護保険を活用するが, 介護保険要介護認定を受けていない, あるいは要介護認定を受けていても給付枠が十分でないため, 嚥下リハビリを付加することが困難な場合も少なくない. このような場合に筆者らは介護保険主治医意見書を作成し対応してきた. 介護保険主治医意見書を作成した8症例のうち要介護認定された7症例では, 嚥下リハビリのみならず生活援助や身体介護に介護保険を活用した. 課題としては, 主治医意見書を作成したものの期待した要介護度が得られない場合があること, 誤嚥性肺炎等の全身状態悪化や胃瘻造設の場合には入院や施設入所となることが多く, 診療所耳鼻咽喉科医のかかわりが難しくなることも分かった. 今後耳鼻咽喉科医による在宅嚥下障害診療を推進していくには, 自ら介護保険主治医意見書を作成し, 積極的に介護保険を活用していくことが重要と考えた.
著者
大塚 雄一郎 久満 美奈子 根本 俊光 松山 浩之 堀内 菜都子 福本 一郎 山崎 一樹 米倉 修二 花澤 豊行
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.6, pp.903-909, 2021-06-20 (Released:2021-07-01)
参考文献数
14

鼻口蓋管嚢胞は鼻口蓋管の胎生期の遺残上皮から発生する. 近年では低侵襲な内視鏡下の開窓術の報告が増えているが, 鼻口蓋神経や上歯槽神経を損傷するリスクがある. 開窓術による鼻口蓋神経の損傷が疑われた1例を経験した. 症例は55歳女性, 硬口蓋前方が膨隆し鼻中隔が前下方で左右に膨隆していた. CT・MRI で鼻腔内に進展する鼻口蓋管嚢胞を認めた. 全身麻酔下に鼻中隔粘膜を切開し嚢胞壁を切除して鼻口蓋管嚢胞を両側鼻腔内に開窓した. 術後に嚢胞は消失したが, 両側上顎の第1, 2, 3歯の違和感を訴え, 術後3年後も両側上顎第1歯の歯肉部の違和感がある. 開窓時の鼻口蓋神経の損傷が原因と考えた.
著者
鈴木 元彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.7, pp.553-556, 2020-07-20 (Released:2020-08-06)
参考文献数
8

嗅覚障害は日常生活での危険を生じさせたり, 良いにおいを感じる幸せを消失させたりして, Quality of life に強く影響する疾患である. また, 耳鼻咽喉科外来においても嗅覚障害を主訴に受診する患者は少なくなく, 臨床上重要な疾患である. しかし, 嗅覚障害のメカニズムに関してはいまだに分かっていないことも多く, 診断法や治療法についても施設によってさまざまである. そしてこういった事情を克服するといった理由も含め, 近年嗅覚障害診療ガイドラインが日本鼻科学会より発刊された. また嗅覚障害に対する発症機序の解明や新規治療法の開発といった目的にて, 嗅覚障害に関する研究も進んでいる. 以上を踏まえ, 本稿では嗅覚障害診療ガイドラインと嗅覚障害に対する最近の研究と知見について概説する.
著者
浦口 健介 小桜 謙一 前田 幸英 太田 剛史 土井 彰 假谷 伸
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.7, pp.1005-1012, 2021-07-20 (Released:2021-08-04)
参考文献数
33

めまいは救急受診の原因で頻度の高い主訴であるが, めまいの中には致死的な疾患や重篤な後遺症を残す疾患が存在し初期対応には注意を要する. 今回, 当院で救急救命科へ搬送され入院した急性期めまい症例について検討した. また, その集計結果を用いて初期研修医に急性期めまい診療についてのフィードバックを行い, 急性期めまい診療について質問紙調査を行った. 救急搬送された急性期めまい症例224例を対象とした. 入院症例については患者背景・随伴症状・診断名について検討した. これらの集計結果を初期研修医に提示するとともに, 初期研修医への急性期めまい診療講義を行い, その前後に質問紙調査を行った. めまい搬送症例は224例であり, 93例 (41.5%) が入院を要した. 入院症例のうち末梢性めまいが38例, 中枢性めまいが29例, 15例がそのほかの全身疾患, 原因不明が11例だった. 中枢性めまいのうち脳血管障害は18例あり, 15例が椎骨脳底動脈系血管障害 (小脳梗塞8例, 脳幹梗塞4例, 小脳出血3例) であった. 42人の初期研修医への質問紙調査では, 急性期めまい診療に興味はあるが十分な理解ができていないことが示された. めまい診療においては鑑別疾患や診断方法などが重要と考え, 本検討内容を救急救命医や初期研修医へフィードバックをすることで, 今後の急性期めまい診療についての情報共有を行うことができた.
著者
岡 美貴子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.586-609, 1973-05-20 (Released:2008-12-16)
参考文献数
69
被引用文献数
1 1

目的:耳鼻咽喉科領域にいて,言語機能と聴覚とを結びつけた研究はほとんど行なわれていなかつた.著者はKey-tappingによる大脳半球優位性テストによつて,言語機能と聴覚機能との関連性について研究を進めた.言語機能の局在側は和田法によって確認し,聴覚検査結果とWada法との結果を対比し,聴覚による大脳半球優位性テストの臨床的意義について検討を加えた.検査対象:手術,精査の目的で東女医大脳外科に入院した患者44名について,次の検査を行こなつた.(1) 純音オージオメトリー,(2) 語音明瞭度検査,(3) Key-tappingによる大脳半球優位性テスト,(4) 数字加算による大脳半球優位性テスト,(5) 歪語音検査,(6) 和田法による言語位側の決定.結果:(1) 和田法によつて,言語優位側は44例中38例(86.4%)が左脳優位,5例(11.4%)が右脳優位1例(2.3%)は左右差がなかつた.(2) 脳外科で左脳損傷と診断された24例のうち,障害側が優位のものは22例,右脳優位のものは2例であつた.右脳損傷,脳幹部損傷,開頭精査で脳損傷を認めなかつた20例のうち右脳優位のものは3例,左脳優位のものは17例であつた.(3) 和田法とtappingによる優位性テストの対応を求めると,44例中母音"あ,,に対して右耳(左半球)1KHZ純音に対しては左耳(右半球)優位のnormal patternを示した17例では,和田法による言語優位側は全例左脳であつた.normal-contra型の2例は和田法でも右脳優位の成績が得られ,normal-pattemを示す例では両者の成績は一致していた.no-difference型のもの11例では全例左脳優位を示した.左側または右側への病的Shiftを示した13例(左脳へのShift 3例,右脳へのShift 10例)では偏位側と言語の局在とは無関係であつた.(4) 脳外科診断による脳の障害半球側とtapping法による障害半球側との対応関係は左脳への病的Shiftを示した3例うち,2例は右脳損傷.1例は多発硬化症であつた.右脳への病的Shiftを示めした10例では全例左脳障害であり,優位性の病的Shiftは片側脳の障害を見い出す根拠となり得ることがわかつた.(5) 数字加算法による大脳半球優位性テストの結果は,左脳優位23例,右脳優位2例,左右差のないもの13例,テスト不能6例であつた.左脳損傷例24例のうち,和田法で左脳優位は21例であつたが,このうち19例は数学加算法で左脳優位の成績を示し,tapping法によるよりもより言語機能と関連が深いことが知られた.
著者
梅澤 明弘 宮本 義孝
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.7, pp.593-601, 2011 (Released:2011-09-10)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

細胞医療を支える幹細胞には, さまざまなレベルが存在する. たとえば, 受精卵に近い全能性を有する胚性幹細胞やiPS細胞がある一方, 部分全能性を示す組織幹細胞では, 骨髄に由来する間葉系幹細胞が知られている. 骨髄由来の間葉系幹細胞は, 生体マイクロデバイスとしての地位を築いてきたが, 現在は骨髄のみならず胎盤, 脂肪, 月経血から単離されてきている. 予想を超える体性細胞の可塑性が次々と明らかになってきている中で, 発生学, 工学によって培われた幹細胞技術が要素技術として, 多くの疾患に対する再生医療・細胞医療システムとして完成させることが可能となっている. 幹細胞に関する基盤技術を組み合わせることにより再生医療がシステム化されることは間違いないが, すばらしいレベルの高い基盤技術が実際の再生医療と中にはうまくフィットしない場合がある. 特定の疾病に対して有効な基盤技術を開発しようとするのは困難が伴うことが多いと個人的に感じている一方, 幹細胞基盤技術から出発すれば, そのレベルが高い場合, その有用性がどの疾患に対する再生医療に最も有効かという出口を見つけることは成功の確率を上げられるのではないかということがある. それには, 医療の知識, 経験がある人に真剣にコミットしてもらうことが好ましいとしており, これは経験に基づいた「土地勘」の有無と考えている. 耳鼻咽喉科領域における再生医療・細胞医療も当然その土地勘が重要であり, 実際の最前線の医療に携わる耳鼻咽喉科の医師達に判断されることが最も大事である.
著者
宮崎 総一郎 北村 拓朗
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.9, pp.830-835, 2012 (Released:2012-11-23)
参考文献数
18

睡眠は, 大脳の進化とともに発達してきた. 睡眠は疲れたから眠るといった消極的な生理機能でなく, 「脳を創り, 育て, より良く活動させる」積極的な機能がある. さらに, 記憶や運動技能を向上させる能動的な生理活動がなされる時間でもある.睡眠呼吸障害では, 睡眠中の呼吸努力により覚醒反応が生じ, 睡眠の分断化が起こり, 睡眠が障害される. 小児睡眠呼吸障害では, 睡眠が障害されるために成長ホルモン分泌が障害され, 成長障害が生じる. さらに, 知能低下, 学業成績不良, 夜尿, 注意欠陥, 多動, 攻撃性, などの多くの問題を生じる. 知能低下の説明として, 最近では成長ホルモンに関連してIGF-1の関与が注目されている.小児睡眠呼吸障害の原因として多数を占めるのは, アデノイド・口蓋扁桃肥大であるが, 最近ステロイド点鼻を軽症から中等症の睡眠時無呼吸例で鼻閉の改善とアデノイド縮小効果を期待して, 適用する治療法の有効性が多く報告されている.
著者
北原 糺
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.8, pp.1097-1101, 2019-08-20 (Released:2019-09-05)
参考文献数
17

一側内耳の前庭障害により生じた前庭系の左右不均衡は, 中枢前庭系の神経可塑性, すなわち前庭代償によって是正される. 前庭代償は, 静的前庭代償と動的前庭代償に分けられる. 静的前庭代償の初期過程では, 前庭神経核間の交連線維や前庭小脳により, 健側前庭神経核ニューロンの自発発火が抑制され, 左右の前庭神経核ニューロンの活動性の不均衡が是正される. さらに後期過程では, 低下していた障害側前庭神経核ニューロンの自発発火が回復する. 動的前庭代償では, 健側の前庭神経核ニューロンからの交連線維を介した入力により, 障害側前庭神経核ニューロンの回転刺激に対する反応性が回復する. 静的代償は速やかに達成されるが, 動的代償が不十分な場合は平衡障害が残存する. 動的前庭代償には健側からの前庭入力が重要であるため, 一側前庭障害患者はめまいの急性期を過ぎれば早期に離床することがすすめられる. 不十分な動的前庭代償による慢性の平衡障害には, 前庭リハビリテーションが有効である.
著者
齋藤 善光 宮本 康裕 望月 文博 阿久津 征利 加藤 雄仁 藤川 あつ子 栗原 宜子 谷口 雄一郎 肥塚 泉
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.6, pp.799-804, 2018-06-20 (Released:2018-07-05)
参考文献数
15

Silent sinus syndrome(SSS) は上顎洞自然孔が閉塞し, 低換気により洞内が陰圧化し, 上顎洞内陥や骨菲薄化に伴って無症候性の眼球陥凹, 眼球低位を認める疾患である. われわれは, 鼻副鼻腔乳頭腫の影響で, 上顎洞自然孔閉塞により発生したと思われた, SSS 様の所見を呈する1例を経験した. 治療は, 内視鏡下で腫瘍摘出し, 上顎洞を開放した. 術後, 上顎洞内陥は改善し, 翼口蓋窩陰影が縮小した. 上顎洞自然孔が閉塞し, 上顎洞内陥に伴う翼口蓋窩の拡大を認めた場合は, SSS を念頭に置く必要がある. また, SSS であれば上顎洞を開放することで症状, 所見共に改善するため, 診断的治療として手術は有効な手段と考える.