- 著者
-
山下 拓
- 出版者
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
- 雑誌
- 日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
- 巻号頁・発行日
- vol.121, no.1, pp.22-30, 2018-01-20 (Released:2018-02-07)
- 参考文献数
- 53
わが国独自の進化を遂げた漢方薬について, 近年, 基礎的・臨床的に高いレベルのエビデンスが次々と報告されている. 腹部手術の術後における大建中湯の適用など, 消化器がん領域ではがん支持療法に漢方薬を用いることは, もはや常識となりつつある. さらに平成27年に策定された「がん対策加速化プラン」でも,「がんとの共生」において “漢方薬を用いた支持療法” の推進が明記されるに至った. 頭頸部がん領域においても, その支持療法において有用な漢方薬は数多く存在する. 頭頸部がんの放射線治療に伴う口腔咽頭粘膜炎 (口内炎) は, 治療完遂にも影響する重大な副反応であり, 化学療法や EGFR 抗体薬などの同時併用でさらに悪化する. これに対する西洋薬の効果はまだ限定的で不十分である. 漢方治療としては半夏瀉心湯が期待されている. われわれの検討では, ハムスターの放射線性口内炎モデルで, 半夏瀉心湯の投与により口内炎の Grade が抑制され, Grade 3 以上の口内炎の出現率も有意な低下を示すこと, 口内炎局所への好中球遊走および COX-2 発現を抑制することが明らかとなった. ほかにもさまざまな施設での基礎研究によって抗酸化, 抗炎症, 抗菌, 鎮痛作用などが報告されている. 臨床効果の検討として, われわれは (化学) 放射線治療の開始と同時に半夏瀉心湯投与を行った頭頸部がん患者40例の遡及的検討を行った. その結果, 半夏瀉心湯治療は Grade 3 以上の口内炎を予防し, シスプラチン併用放射線治療の完遂率も有意に改善することが判明した. ほかに頭頸部がん支持療法に用いられる漢方薬として, 全身状態や免疫機能の改善を目的とした補中益気湯, 十全大補湯, 人参養栄湯などの補剤, 食思不振に対する六君子湯, 便秘に対する大建中湯, 下痢に対する半夏瀉心湯, 末梢神経障害に対する牛車腎気丸, せん妄に対する抑肝散, 放射線性皮膚炎に対する紫雲膏などが挙げられる. これらの代表的漢方薬についてもその基礎的および臨床的なエビデンスを中心に概説した.