著者
野田 哲平
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.126, no.12, pp.1273-1276, 2023-12-20 (Released:2024-01-01)
参考文献数
9

聴覚障害はコミュニケーションの障害を続発させ, 社会参加を阻害する因子となる. 2001年5月, 障害の医学モデルと社会モデルを統合し得る枠組みとして WHO 総会において国際生活機能分類 (International Classification of Functioning, Disability and Health: ICF) が採択された. 生活機能として心身機能・身体構造, 活動, 参加があり, 生活機能に影響を及ぼす要素として背景因子である個人因子と環境因子がある. この ICF を聴覚に当てはめると, 聴覚障害が学習やコミュニケーションなどの機能に影響を与えて活動制限を来し, さらに就学や就労に影響が出現する. これらは学業や仕事など社会活動への参加制約となる. この生活機能の問題と, その背景因子としての環境因子や個人因子それぞれに介入し, 制約や制限を軽減していくことが求められる. 社会モデルの考え方ではさまざまな角度から障壁を低減することを目指すが, 一方で聴覚障害者側も, 自分がどのように困っていてどうすれば解決・改善するのかといった建設的な意見を, 環境や社会に対して提示することが重要である. この能力や技術は「セルフアドボカシー」と呼ばれる. 一朝一夕に身に付くものではなく, 幼少期からの指導が重要である. 本稿では, ICF から見た聴覚障害と, セルフアドボカシー指導の試みについて述べる.
著者
橋爪 祐二
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.12, pp.1463-1467, 2018-12-20 (Released:2019-01-16)
参考文献数
30
被引用文献数
1

口呼吸はうつ病, 認知症, 注意欠陥多動障害などの精神疾患の誘因になるといわれている. 特に睡眠中の口呼吸はいびき症や閉塞性睡眠時無呼吸症 (OSAS) の原因となる. わが国における OSAS の治療が必要な重症患者数が300万人を超えていると推測されている. OSAS の原因は肥満がある. 肥満をもたらす原因としては, 食文化の変化もあるが, 日本人がほかの先進諸国に比べて, 睡眠時間が最も少ないことが挙げられる. また, 日本人の特有の顔貌も OSAS の原因の一つに挙げられる. OSAS は認知機能の低下をはじめとしたさまざまな精神障害を引き起こすことも知られている. 肥満を引き起こさないための睡眠時間の十分な確保が重要であると一般に周知していく必要がある.
著者
松原 篤 坂下 雅文 後藤 穣 川島 佳代子 松岡 伴和 近藤 悟 山田 武千代 竹野 幸夫 竹内 万彦 浦島 充佳 藤枝 重治 大久保 公裕
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.6, pp.485-490, 2020-06-20 (Released:2020-07-01)
参考文献数
6
被引用文献数
13 35

近年になり, スギ花粉症などのアレルギー性鼻炎の増加が指摘されている. 馬場らが中心となって1998年と2008年に全国の耳鼻咽喉科医師ならびにその家族を対象としたアンケートによる鼻アレルギー疫学調査が行われ, 有病率の推移が詳細に報告されている. 今回われわれは,前回の調査から11年後の2019年に同様の調査を行い, スギ花粉症, 通年性アレルギー性鼻炎ならびにスギ以外の花粉症の有病率を同定した. アレルギー性鼻炎全体の有病率は49.2%, スギ花粉症単独の有病率は38.8%と前回調査に比べ大きく増加していた. さらに10歳代でスギ花粉症が著明に増加していることも明らかとなった.
著者
齋藤 玲子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.7, pp.663-670, 2012 (Released:2012-09-06)
参考文献数
37
被引用文献数
1

インフルエンザは冬期に流行する急性ウイルス性疾患である. 日本では5種類の薬剤が使用可能である. M2阻害剤のアマンタジンはA型インフルエンザのみに効果を示し, 耐性が出現しやすいことで知られる. ノイラミニダーゼ阻害剤はA型, B型インフルエンザに有効である. 本邦ではオセルタミビル, ザナミビル, ペラミビル, ラニナミビルの4剤が使用可能である. ペラミビル, ラニナミビルは新規薬剤でほぼ日本のみで使われている. 数年前にオセルタミビル耐性A/H1N1 (季節性) が流行したが, 新型インフルエンザA/H1N1 pdm09の出現により駆逐され, 現在インフルエンザはNA阻害剤の4剤すべてに感受性である. 一般的に耐性インフルエンザ株が検出されても, 健常人であればそれ自体で重症化したり経過が遷延するものではなく, 通常のインフルエンザと同様に治癒していく.本稿では, 日本で使用される抗インフルエンザ剤の種類と特徴, 薬剤耐性の機序について述べる.
著者
窪田 俊憲 渡辺 知緒 横田 雅司 伊藤 吏 青柳 優
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.5, pp.540-545, 2012 (Released:2012-09-06)
参考文献数
17
被引用文献数
2 2

突発性難聴に対してステロイド大量・PGE1併用療法を早期に開始することによる治療効果への影響を検討するために, 発症から7日以内に同治療を開始した174例の突発性難聴症例を解析した. 「治癒」「著明回復」「回復」を合わせて「改善」,「不変」を「非改善」として, 改善の有無と治療開始までの期間, 年齢, 初診時聴力レベル, めまいの訴えの有無の4因子との関連を多重ロジスティック回帰分析で検討した. その結果, 治療開始までの期間および年齢と改善の有無との間に有意な関連が認められた. すなわち, 治療開始までの期間が短いほど, 年齢が若いほど治療効果が高くなるという結果であった. 治療開始までの期間による治療効果の検討では, 発症3日以内に治療を開始した症例の治療効果が, 発症4~7日に治療を開始した症例よりも高かった (p<0.01). 50歳未満の症例では, 発症3日以内に治療を開始した症例の治療効果は, 発症4~7日に治療を開始した症例と比較して有意な差を認めなかった. これに対して, 50歳以上の症例では, 発症3日以内に治療を開始した症例の治療効果が, 発症4~7日に治療を開始した症例と比較して高かった (p<0.01). 突発性難聴に対するステロイド大量・PGE1併用療法では, 発症7日以内よりも早期に, 特に, 50歳以上の症例では発症3日以内に治療を開始することで, より高い治療効果が得られるものと考えた.
著者
澤津橋 基広
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.1, pp.14-20, 2021-01-20 (Released:2021-02-01)
参考文献数
20

1999年に世界アンチ・ドーピング機構 (WADA) が設立され, 五輪では2004年アテネ開催からこのWADA規程によって行われるようになった. 毎年改訂される WADA 規程の禁止表国際基準で, 現役アスリートには使用できない薬物が示されているが, アレルギー疾患の有病率が約50%の現在, トップアスリートの治療にかかわる機会は極めて低いものの, ドーピングコントロール下にある国体選手など, 一般のアマチュア選手を治療する機会は, どの医師でもその可能性はある. 誤った知識で, アスリートに対するアレルギー性鼻炎の治療が制限され, 競技パフォーマンスを下げることがないように, どのような薬剤が禁止薬物で, どのような医療行為が禁止なのか, 医療関係者は, ある程度知識を持つ必要はある. 特に, アレルギー性鼻炎患者は, 気管支喘息やアトピー性皮膚炎の合併も少なくなく, フェキソフェナジン・プソイソエフェドリン配合薬や糖質コルチコイド, 交感神経 β 2 受容体作動薬などの正しい知識が求められる.
著者
沼倉 茜 吉川 沙耶花 上條 篤 松田 帆 新藤 晋 池園 哲郎 加瀬 康弘 神山 信也 伊藤 彰紀 大澤 威一郎
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.2, pp.134-138, 2018-02-20 (Released:2018-03-07)
参考文献数
15

拍動性耳鳴に対しては, 器質的疾患の存在を疑う必要がある. 今回われわれは, 拍動性耳鳴を主訴に来院し, 横- S 状静脈洞部硬膜動静脈瘻と診断された1例を経験した. 拍動性耳鳴の診断には頸部血管の圧迫による変化と聴診が重要である. 硬膜動静脈瘻のスクリーニングには脳 MRA が優れている. しかし, 脳疾患の MRA 診断においては脳主幹動脈領域のみを関心領域とした MIP 画像が用いられることが多く, 外頸動脈系や静脈洞が関与する硬膜動静脈瘻は見落とされる可能性がある. したがって, 見落としを避けるには, MIP 画像のみならず MRA の元画像を確認することが重要である. 硬膜動静脈瘻は根治が期待できるため見落とさないことが重要である.
著者
森下 大樹 佐野 大佑 荒井 康裕 磯野 泰大 田辺 輝彦 稲毛 まな 折舘 伸彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.3, pp.251-256, 2019-03-20 (Released:2020-04-08)
参考文献数
14
被引用文献数
1 2

Stress Velopharyngeal Insufficiency/Incompetence (SVPI; 吹奏楽器の演奏時のみ呼気が鼻腔より抜けることで演奏に支障を来す病態) の1例を経験したので報告する. 症例は19歳, 男性. クラリネット演奏時のみ鼻から空気が漏れ, 吹き続けられないため, 当科を受診した. ファイバースコピーでは, 頬ふくらまし時にアデノイドの小隆起の左側より呼気の漏出を認めた. 全身麻酔下, 上咽頭脂肪注入を施行したところ, 呼気の漏出と症状は消失し, 術後1年再発を認めていない. 本邦において耳鼻咽喉科医師の中でも認知度が低いと思われる SVPI について文献的考察を加え,症例提示する.
著者
岡野 高之 大森 孝一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.5, pp.715-723, 2021-05-20 (Released:2021-06-02)
参考文献数
59

超高齢社会を迎えた日本では介護予防プログラムとして認知症予防が挙げられており, 介入方法の探索や有効性の検証が社会的急務となっている. 難聴と認知症の関連は以前から調査が行われており, Livingston らによるメタアナリシスでは, 中年期の難聴をほかの8つの因子とともに認知症のリスク因子として挙げている. 今後難聴に対する早期介入による認知症の予防効果の評価が待望されている. 本稿では補聴器装用による認知機能への影響を検討した従来の報告の概要をまとめるとともに, 臨床研究を行う上で特に臨床試験デザイン, 難聴や介入する対象の定義,用いる認知機能評価尺度の問題点について示した. また難聴の存在が認知機能評価の結果に与える影響を現在頻用される評価尺度の特徴とともに解説し, 今後行われるべき補聴器装用等の介入による認知症予防効果の検証の際に想定される留意点を述べた. さらに認知症に伴う聴覚や音声の変化についても記載した. 最後に聴覚や音声に依存しない認知機能評価について従来の報告と著者らの開発した ReaCT Kyoto について紹介した. 今後 ReaCT Kyoto を検者の技量や習熟度に依存しない認知機能の評価方法として活用し, 難聴者を含めた簡便な認知症患者のスクリーニング方法の一つになることが期待される.
著者
渡嘉敷 亮二
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.2, pp.185-190, 2022-02-20 (Released:2022-03-10)
参考文献数
6

音声障害は耳鼻咽喉科の中でも極めてなじみの薄い分野であり, 音声障害に関する十分な知識を持ち合わせている医師は少ない. しかしながら音声言語障害はコミュニケーションの障害であり, 潜在患者数や治療の需要は極めて多い. 例えば吃音の有病率は幼少期で8%, 成人でも1%であるが耳鼻咽喉科医はその治療にほとんど関与していない. 言語聴覚士と協働し音声障害の治療に積極的に参加することはコロナ後の耳鼻咽喉科の在り方としても極めて意味のあることと思われる. 一方でこれを推進していくためにはいくつかの問題がある. 一つは医師・言語聴覚士ともにこの領域に関する知識が浅いこと. もう一つは言語聴覚士の雇用に伴う支出に見合うだけの収益が得られるかということで, これが成り立たなければ言語聴覚士の雇用促進も患者の需要に応えることもできない. 前者に関しては, 声帯結節や加齢性の声の機能低下に対するリハビリテーションは診療所レベルでも容易に行える. 吃音や構音障害については病態や治療法に対する理解と学習が必要だが, 上述のように極めて多くの患者が存在するため治療の需要が多い. 本来耳鼻咽喉科医と言語聴覚士が協働して治療や研究に当たるべき疾患であり, 今後積極的に取り組むべき分野である. 後者に関しては同じリハビリテーションを行っても施設基準により診療報酬が倍以上違う, あるいは, 非常に時間のかかる言語機能に関する諸検査に対して診療報酬が設定されていないなどの問題があり, 学会レベルで改善に取り組む必要がある.

5 0 0 0 OA IgG4 関連疾患

著者
高野 賢一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.10, pp.1299-1303, 2019-10-20 (Released:2019-11-06)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

IgG4 関連疾患の疾患概念が提唱されてから15年以上が経過し, われわれ耳鼻咽喉科の日常診療においても比較的よく遭遇する疾患のひとつとなっている. IgG4 関連疾患の好発部位は, 涙腺・唾液腺と膵・胆管病変であり, 頸部や縦隔リンパ節腫脹を認めることも多く, 耳鼻咽喉科領域では IgG4 関連涙腺・唾液腺炎を診断する機会が多いと思われる. 疫学的にみると, 性差は涙腺・唾液腺炎症例ではおおむね等しいが, 自己免疫性膵炎症例では女性が多い. 年齢は60歳代を中心に比較的高齢者に多くみられる疾患ではある. 乾燥症状がほぼ必発であるシェーグレン症候群と異なり, IgG4 涙腺・唾液腺炎では眼および口腔乾燥症状を訴える患者は多くはなく, 乾燥症状そのものに対する治療を要することは少ない. しかし, 自覚症状に乏しくとも唾液腺分泌機能低下を来している症例は少なくなく, 60%に涙腺分泌機能低下, 68%に唾液腺分泌機能低下が認められる. シルマーテストは 5.42 ± 7.36 (± SD) mm/5分, サクソンテストは 2.57 ± 2.01g/2分と, 機能低下は軽度ではあるものの, ステロイドによる治療後には有意に改善を認める点が特徴的であり, シェーグレン症候群とは異なる点でもある. IgG4 関連涙腺・唾液腺炎は, 腺腫大と血清学的所見,病理組織学的所見によって診断されるが, 確定診断および悪性疾患や類似疾患除外のためにも, 組織生検が望ましい. 生検部位としては腫脹している罹患臓器が原則であり, 大唾液腺から採取するのが推奨される. また, IgG4 関連疾患は全身性疾患であり, 他臓器病変を常に念頭に置く必要がある. IgG4関連涙腺・唾液腺炎における腺外病変の合併頻度は約60%であり, 膵臓 (自己免疫性膵炎) が最も多く, 次いで後腹膜腔 (後腹膜線維症), 腎臓と続く. IgG4 関連涙腺・唾液腺炎を診断した際は, 他臓器病変にも注意を払う必要があり, 経過中に腺外病変が出現することもあるため気を付けたい.
著者
永井 知代子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.5, pp.321-327, 2020-05-20 (Released:2020-06-05)
参考文献数
18

発話障害の責任病巣は, 大脳, 神経伝導路および小脳・大脳基底核, 構音器官の3つのレベルに分けられる. 高次脳機能障害による発話障害は, このうち大脳レベルの障害により生じる. 高次脳機能とは, 脳機能のうち, 単純な運動・感覚以外の機能を指す. 言語や記憶, 遂行機能などに区分されるが, 失語は言語の障害であり, 特に内言語 (思考に用いられる言語) の障害である. したがって, 音声言語だけが障害されるということはなく, 読み書き障害も伴う. 失語は, 非流暢な発話を特徴とする運動失語と, 流暢だが言語理解障害が主体の感覚失語に分けられる. 発語失行には2つの解釈がある. ひとつは, 運動失語の非流暢な発話の特徴のことであり, 広義の発語失行である. もうひとつは, 失語ではないが発話特徴は運動失語と同等であるものをいい, 純粋発語失行という. 狭義の発語失行といえば後者を指す. 日本では, 失構音・純粋語啞も純粋発語失行と同じ意味で用いるが, 欧米の専門書では, 失構音は重度の構音障害, 純粋語啞は重度の発語失行を指すと記載されており, 注意が必要である. 発語失行の特徴は, ① 途切れ途切れの発話, ② 一貫性のない構音の歪み, ③構音運動の探索と自己修正, ④ 発話開始困難・努力性発話, ⑤ プロソディ障害とまとめられる. 特に①②は構音障害との鑑別において重要である. 発語失行は発話運動のプログラミング障害と定義され, 発語における3過程, 音韻符号化・音声符号化・運動実行のうち, 2番目の音声符号化過程の障害と説明される. これは音素レベルの発話運動プランの障害であり, 主に声道の状態変化などの体性感覚情報を用いたフィードバック制御の障害と考えれば, 中心前回のほか, 運動前野・島・中心後回など複数の領域の機能低下で生じると考えられる. 近年話題の関連疾患として, 小児発語失行, 進行性発語失行がある. 耳鼻咽喉科を受診する場合があり, 注意が必要である.
著者
深浦 順一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.3, pp.252-257, 2022-03-20 (Released:2022-04-06)
参考文献数
10

近年の医療・介護・福祉の領域では, 患者・利用者中心のサービス提供が求められ, その実現のために多職種連携が重要視されている. 現在, 言語聴覚療法は医療機関中心から介護保険事業所での提供へ, 入院から地域での提供へと拡大している. このような変化の中における多職種連携の現状と課題について述べる. 言語聴覚士は, 言語聴覚障害と摂食嚥下障害に対して評価, 訓練・指導等を実施している. 医療施設においては,医師, 歯科医師との緊密な連携のもと, 障害によって連携する職種は多岐にわたる. 院外の関係職種との連携も必要となることが多く, 聴覚障害では補聴器・人工内耳関係者, 小児の言語聴覚障害では保育・教育関係者との連携も重要となる. 近年の超高齢社会においては, 言語聴覚療法の提供は地域で介護保険によって提供されることが多くなった. この際には介護支援専門員, 介護福祉士, 訪問介護員との連携が必須である. この地域における多職種連携において, 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会で進められている診療所における言語聴覚士の雇用促進の取り組みは重要である. この取り組みは, 急性期・回復期病棟の言語聴覚士との連携で病院から地域への流れを支えるだけでなく, 教育や福祉を含む多職種連携という横の繋がりを進め, 地域包括ケアシステムを支える大きな力になると考えている. 新型コロナ感染症の拡大は, 外来患者と摂食嚥下障害患者に対する言語聴覚療法の提供に大きな影響を与えた. 本協会では, 多職種連携の質を高めるためには言語聴覚士としての専門性の向上が必要であると考え, 生涯学習事業の推進・充実に努めている. 関連する医学会, 団体の協力も得て, 今後も事業を進めていきたい.