著者
藤尾 久美 井上 莉沙 荻野 枝里子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.126, no.7, pp.863-870, 2023-07-20 (Released:2023-08-01)
参考文献数
20

COVID-19 嗅覚障害は従来の感冒後嗅覚障害とは異なる臨床像を呈することが判明してきた. その一つに CT 画像上での嗅裂所見がある. われわれは, CT 画像での嗅裂所見に注目し, 臨床研究を行った. 対象96症例に対し, CT 上の嗅裂の閉塞なし, ありの2群に分けて, 年齢, 性別, COVID-19 と診断され, 嗅覚障害を自覚した日から受診までの日数 (以下, 発症から受診までの日数), 異嗅症の有無, 嗅覚障害程度について調査した. 嗅覚検査は Visual analogue scale (VAS), 日常のにおいのアンケート, 基準嗅力検査, 静脈性嗅覚検査 (アリナミンテスト), スティック型嗅覚検査 (odor stick identification test for Japanese: OSIT-J) を行った. さらに, 経過を追えた23例に対し, 嗅覚障害改善の予測因子について探索した. CT での嗅裂閉塞あり群の症例では閉塞なし群より嗅覚障害の程度は高度であった. 治癒までの経過を追えた23症例で, 発症から受診までの日数が予後の予測因子となった. 嗅裂の閉塞所見を認める症例では, 嗅覚障害の程度は閉塞なし群の症例より高度であった. 今回の調査では, 経過を追えた症例での予後因子は発症から受診までの日数となり, 治療の早期加入が必要であること, もしくは嗅覚障害が遷延する症例は難治性が多いことが推測された.
著者
鈴木 幹男
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.6, pp.862-867, 2019-06-20 (Released:2019-07-01)
参考文献数
29

ヒト乳頭腫ウイルス (HPV) 関連中咽頭癌が欧米諸国では年々増加している. 本邦でも中咽頭癌の約50%が HPV 関連癌と推定されている. HPV 関連中咽頭癌の診断にはウイルスそのものではなく, p16 免疫染色が用いられる. 中咽頭癌検体を用いた解析では p16 過剰発現例は HPV 感染を伴っている. ただし, p16 が過剰発現しているが, HPV 感染がみられない例も報告されている. これらの症例では HPV 関連中咽頭癌よりも予後が悪いことが示されており, 慎重に取り扱う必要がある. 中咽頭以外の頭頸部癌では, 中咽頭癌と同様に p16 過剰発現を HPV 関連癌の診断基準としてよいか結論がでておらずさらに検討が必要である. 同時に中咽頭癌以外の HPV 関連癌の予後や臓器温存率について今後明らかにしていく必要がある.
著者
池田 怜吉
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.2, pp.107-111, 2022-02-20 (Released:2022-03-10)
参考文献数
19

医師主導治験を経て, 難治性耳管開放症に対する耳管ピン手術が薬事承認ならびに保険適応となったので, その概要について述べる. 耳管開放症は, 耳管が常時あるいは長時間開放することにより, 自声強聴, 耳閉感, 自己呼吸音聴取などの不快な耳症状を呈する疾患である. 多くの症例では前述のように生活指導ならびに保存的治療にて症状がコントロールされるため, 第一選択となるが, 保存的治療にて改善し得ない難治性耳管開放症が存在する. 耳管ピン手術は, 最低6カ月以上の保存的治療にて症状が改善しない症例を対象としている. 2017年6月~2019年1月に薬事承認・保険医療化を目的として, 難治例を対象としたシリコン製耳管ピンの非盲検非対照多施設共同臨床試験を, 30症例を対象に医師主導治験として行った. 有効率は82.1%であり, 過去の臨床研究での報告とほぼ同等の成績であった. その後, 薬事承認を経て, 2020年12月に保険収載となった. 本手術は, 日本耳科学会「耳管ピン手術実施医」のもとで手術の施行が義務付けられている. 今回の耳管ピンの保険収載においては, 1. 長年にわたる耳管開放症に対する臨床研究の蓄積, 2. 多職種との連携・協力, 3. 全国の耳鼻咽喉頭頸部外科医の協力, 4. 全国の患者さんへ有益な治療を届けたいという思いが重要であった.
著者
松原 彩 髙木 明 木谷 芳晴 山下 勝 鳥居 紘子 倉田 馨介 音成 恵梨子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.9, pp.1183-1190, 2020-09-20 (Released:2020-10-01)
参考文献数
13

オージオグラムで感音難聴の像を呈する6耳の耳小骨固着病変 (アブミ骨底を除く) に対して固着解除術を行い, 良好な気骨導改善を認めたので報告する. 6耳の術前気骨導差は平均で 7.8dB と小さく聴力検査上, 感音難聴と診断される症例だったが, 気密耳鏡で耳小骨固着が示唆され, 耳小骨筋反射, 高分解能側頭骨 CT で耳小骨固着症と診断, 固着解除術を施行した. 固着はツチ骨頭固着4耳と, キヌタ骨体部固着2耳だった. これらの術後の聴力改善は, 6症例平均で気導 18.6dB, 骨導 15.3dB だった. 耳小骨固着症例の中には, 見かけ上感音難聴の聴力像を呈する症例があり, 固着解除により大幅な聴力改善を示す症例があることを報告する.
著者
若岡 敬紀 水田 啓介 柴田 博史 林 寿光 西堀 丈純 久世 文也 青木 光広 安藤 健一 大西 将美 棚橋 重聡 白戸 弘道 伊藤 八次
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.3, pp.202-208, 2017-03-20 (Released:2017-04-19)
参考文献数
23
被引用文献数
6 6

頭頸部領域に発生する神経内分泌小細胞癌は比較的まれであるが, 悪性度が高く早期にリンパ行性・血行性に転移を来し予後不良といわれている. またその発生頻度の低さから標準的な治療法は確立されていない. 今回われわれは2006年から2014年までに当科および関連病院で経験した頭頸部原発の神経内分泌小細胞癌8症例の治療法と経過について検討したので報告する. 平均年齢は60.9歳 (38~84歳), 男性3例, 女性5例であった. 原発部位の内訳は, 鼻副鼻腔3例, 耳下腺2例, 中咽頭2例, 下咽頭1例であった. 下咽頭の1例は, 扁平上皮癌が混在した混合型小細胞癌であった. 治療法は小細胞肺癌に準じた化学療法や放射線治療が主体であった. 1次治療の化学療法の内容は4例で白金製剤と VP-16 を使用していたが, 最近では症例を選んで3例で白金製剤と CPT-11 を使用していた. 1次治療終了後完全奏功と判断したのは5例あったがいずれも平均8.4カ月で再発した. 2次・3次治療で手術もしくは放射線治療を行うことができた2例は現在まで非担癌生存中である. 原病死した6例のうち, 所属リンパ節再発が制御できなかったのは1例, 遠隔転移が制御できなかったのは5例であり, 生存期間中央値は16.0カ月, 5年生存率は25%であった. 遠隔転移を制御することが予後の改善につながる可能性があり, そのための治療法の確立が望まれる.
著者
中丸 裕爾
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.5, pp.702-703, 2014-05-20 (Released:2014-06-20)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1
著者
湯田 厚司
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.7, pp.968-973, 2021-07-20 (Released:2021-08-04)
参考文献数
24
被引用文献数
6

スギ花粉とダニの舌下免疫療法は, アレルギー性鼻炎治療の重要な治療として定着しつつある. 筆者は1,800例を超える SLIT の治療実績があり, 自験例に基づく治療方針や工夫を紹介する. 小児のスギ花粉症は急増しており, 最近の疫学調査から10歳未満の3人に約1人が10年以内にスギ花粉症を発症すると推測される. 2018年にスギ花粉とダニの舌下免疫療法が低年齢児にも治療できるようになった. 小児は成人と同じ用法用量で治療すればよく, 成人と同等の高い有効性があり, 安全性も成人と変わらない. SLIT 治療年数とともに効果の上乗せがあり, 治療終了後の効果持続を期待し, 4年間程度の継続治療を勧めている. 副反応は, 投与アレルゲンが増えると増え, 副反応で一時的減量が必要な例もあるが, 適切な時期に再増量を計画する. スギ花粉は全例が最大維持量にでき, ダニも適切な対処で最大維持量にできる. アドヒアランスが重要であるが, 患者の治療意欲を保つ工夫も必要である. 多重アレルゲン感作の例が多いが, 感作が多くても同じ効果を期待できる. 特にスギ花粉とダニの重複感作が多いので, 両方のアレルゲンで治療する Dual SLIT も安全にでき, 今後の治療例も増えるだろう. COVID-19 による患者受診抑制の中, 舌下免疫療法患者は影響を受けにくいので, 経営面も含めた大きな治療戦略となるだろう.